国産み
あらすじ[編集]
古事記[編集]
﹃古事記﹄によれば、大八島は次のように生まれた。 伊邪那岐︵イザナギ︶、伊邪那美︵イザナミ︶の二神は、漂っていた大地を完成させるよう、別天津神︵ことあまつがみ︶たちに命じられる。別天津神たちは天沼矛︵あめのぬぼこ︶を二神に与えた。伊邪那岐、伊邪那美は天浮橋︵あめのうきはし︶に立ち、天沼矛で渾沌とした地上を掻き混ぜる[注 1]。このとき、矛から滴り落ちたものが積もって淤能碁呂島︵おのごろじま︶となった[11]。 二神は淤能碁呂島に降り、結婚する[12]。まず淤能碁呂島に﹁天の御柱︵みはしら︶﹂と﹁八尋殿︵やひろどの、広大な殿舎︶﹂を建てた。﹃古事記﹄から引用すると、以下のようになる。 ︽ 原 文 ︾ ※字は旧字体。約物は現代の補足。 ︵...略...︶於其嶋天降坐而、見立天之御柱、見立八尋殿。於是、問其妹伊邪那美命曰﹁汝身者、如何成。﹂ 答曰﹁吾身者、成成不成合處一處在。﹂ 爾伊邪那岐命詔﹁我身者、成成而成餘處一處在。故以此吾身成餘處、刺塞汝身不成合處而、以爲生成國土、生奈何。﹂ 伊邪那美命答曰﹁然善。﹂ 爾伊邪那岐命詔﹁然者、吾與汝行廻逢是天之御柱而、爲美斗能麻具波比。﹂︵...略...︶ ──﹃古事記﹄上かみ卷つまき︵上巻-二︶島生み[編集]
日本書紀[編集]
﹃日本書紀﹄の記述は、基本的に、伊奘諾︵イザナギ︶、伊奘冉︵イザナミ︶が自発的に国生みを進める︵巻一第四段︶。本文では、﹁底下︵そこつした︶に豈国無けむや﹂といって国生みを始めている。また、伊奘諾、伊奘冉のことをそれぞれ﹁陽神﹂﹁陰神﹂と呼ぶなど、陰陽思想の強い影響がみられる。﹃古事記﹄と同様、天降った伊奘諾、伊奘冉は天浮橋︵あめのうきはし︶に立ち、天之瓊矛︵あめのぬぼこ。﹃古事記﹄でいう天沼矛︶で渾沌とした地上[注 1]を掻き混ぜる。このとき、﹁滄溟﹂︵あをうなはら︶を得た矛から滴り落ちた潮が積もって島︵オノゴロシマ︶となった。ただし、このとき、他の天つ神は登場しない。一書第一は特に﹃古事記﹄に類似し、天神が産み損じの理由を占い、時日を定めて二神を再び降したとする。ただし、どのように時日を定めたかは記述が無い。比較表[編集]
ここでは﹃古事記﹄と﹃日本書紀﹄を国生みの順に沿って比較する。漢字表記は当時の表記、あるいは、その代表的一例︵※現状では編集が徹底しておらず、表記揺れがある︶。振り仮名は、平仮名が現代仮名遣い、片仮名は歴史的仮名遣で、前者と差異がある場合にのみ表記する。古事記 | 日本書紀 | |||||
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本文 | 一書第1 | 一書第2 | 一書第3 | 一書第4 | 一書第5 | |
淡路洲、 |
淡路洲 | 淡路洲 | 淡路洲 | |||
大日本豐秋津洲 | 淡路洲 | 大日本豐秋津洲 | 大日本豐秋津洲 | 大日本豐秋津洲 | 大日本豐秋津洲 | |
伊豫二名洲 | 伊豫二名洲 | 伊豫二名洲 | 淡洲 | |||
筑紫洲 | 筑紫洲 | 筑紫洲 | 伊豫二名洲 | |||
億岐洲、 |
億岐洲、佐度洲 | 佐度洲 | 億岐三子洲 | |||
佐度洲 | 越洲 | 筑紫洲 | 億岐洲、佐度洲 | 佐度洲 | ||
越洲 | 大洲 | 越洲 | 筑紫洲 | |||
吉備子洲 | 吉備子洲 | 吉備子洲 | ||||
大洲 | ||||||
類似の説話[編集]
中国の国産み神話の神には、伏羲と女媧の男女神がいる。淮南子・風俗通義・楚辞などに現われるが、淮南子は前漢の武帝の頃、淮南王劉安︵紀元前179年 - 紀元前122年︶が学者を集めて編纂させた思想書で、﹃日本書紀﹄冒頭の﹁古︵いにしえ︶に天地未だ剖︵わか︶れず、陰陽分れざりしとき……﹂の節の典拠となっている[26]。
またこの島生みは、中国南部、沖縄から東南アジアに広く分布する﹁洪水説話﹂に似た点も多いとされる。大洪水の後で兄妹だけが生き残って陸地にたどり着く[27]。山や樹木のような高い物の周りを巡ったのちに性交するが、やり方が正しくなかったために最初は肉塊や動物が生まれてしまう[27]。その後に神々から適切な交わり方を教えられ、ようやく男児や女児が生まれるというものである[27]。
呉︵222年 - 280年︶の時代の中国神話の天地開闢では、元始天尊のうちの盤古が崩御したとき、頭が五つの山に、左目は太陽に、右目は月に、血液は海に、毛髪は草木に、涙が川に、呼気が風に、声が雷になったという話がある。
脚注[編集]
注釈[編集]
(一)^ abc天地創造の神話︵cf. 創造神話︶でいう﹁混沌/渾沌︵こんとん︶﹂とは、天と地がまだ分かれておらず、混じり合っている状態。ギリシア神話でいう﹁カオス﹂も類義。[2]
(二)^ 仮名交じりの現代表記としては﹁国生み﹂と﹁国産み﹂の2種類がある。﹃古事記﹄は﹁以爲生成國土生奈何﹂と記しているので、同書に準拠した表記は﹁国生み﹂ということになる。神社本庁[4]を始め、"当事者"たる二神を祀る伊弉諾神宮[5]と多賀大社[6]も、﹁国生み﹂と表記している︵※碑文などで旧字体であったりはする︶。研究者では岡本雅享︵社会学者︶[7]なども例に挙げておく。
(三)^ ﹁天降る︵あもる︶﹂は﹁天降る︵あまおる︶﹂の転訛形で[13]、﹁天上から下界へ降りる﹂の意[13]。
(四)^ ここでの﹁見立てる︵みたてる︶﹂は、﹁しっかり見定めて立てる﹂の意[14]。
(五)^ ab﹃古事記﹄だけを取っても上代日本語の﹁妹︵いも︶﹂には複数の語義があるが、ここ︵国生み︶では、男性から﹁結婚の対象となる女性﹂または﹁結婚相手の女性﹂を指す語であって、﹁妹︵いもうと︶﹂や﹁同腹の姉妹﹂のことではないとされる[15]。したがって、これを現代語に訳すに当たって﹁妹︵いもうと︶﹂とするのは正しくなく、控えめに言っても言葉が全然足りない。本項では単に﹁二神のうちの女の神のほう﹂という意味しかもたないよう﹁女神﹂と訳した。国生みに際して妻となった伊耶那美命は妹であったかもしれないが、そうでなかったかも知れず、それについて神話は何も語っていない。
(六)^ ﹁みと﹂の﹁み﹂は敬意の接頭語、﹁と﹂は男性、女性の﹁陰部﹂。﹁まぐはひ﹂は男女の﹁目合︵まぐわい︶﹂、すなわち﹁男女の関係を結ぶこと﹂﹁性交﹂を意味する。[18]
(七)^ 歴史的仮名遣では﹁アハシマ﹂、現代仮名遣いでは﹁アワシマ﹂
出典[編集]
(一)^ abcd“Izanami and Izanagi Creating the Japanese Islands”. official website. Museum of Fine Arts, Boston. 2019年10月17日閲覧。
(二)^ “混沌・渾沌”. コトバンク. 2019年10月21日閲覧。
(三)^ ab﹁伊弉諾神宮で日本遺産記念の石碑除幕式 淡路島﹂﹃産経デジタル﹄産業経済新聞社、2017年9月24日。2019年10月17日閲覧。
(四)^ 神社本庁
(五)^ 伊弉諾神宮 由緒
(六)^ 多賀大社 由緒
(七)^ 岡本 2010.
(八)^ 平凡社﹃世界大百科事典﹄第2版. “国生み神話”. コトバンク. 2019年10月22日閲覧。
(九)^ “国生み”. 2020年6月26日閲覧。
(十)^ 小学館﹃精選版 日本国語大辞典﹄. “大八島・大八洲”. コトバンク. 2019年10月22日閲覧。
(11)^ 戸部 2003, p. 16.
(12)^ ab戸部 2003, pp. 17–18.
(13)^ ab“天降る”. コトバンク. 2019年10月22日閲覧。
(14)^ 小学館﹃精選版 日本国語大辞典﹄. “見立”. コトバンク. 2019年10月22日閲覧。
(15)^ 小学館﹃精選版 日本国語大辞典﹄. “いも︻妹︼ - 妹”. コトバンク. 2019年10月22日閲覧。
(16)^ 小学館﹃精選版 日本国語大辞典﹄. “天の御柱”. コトバンク. 2019年10月22日閲覧。
(17)^ 小学館﹃精選版 日本国語大辞典﹄. “八尋殿”. コトバンク. 2019年10月22日閲覧。
(18)^ 小学館﹃精選版 日本国語大辞典﹄、ほか. “みとのまぐわい”. コトバンク. 2019年10月22日閲覧。
(19)^ “あなにやし”. コトバンク. 2019年10月22日閲覧。
(20)^ “愛男”. コトバンク. 2019年10月22日閲覧。
(21)^ 小学館﹃精選版 日本国語大辞典﹄、ほか. “天の磐樟船”. コトバンク. 2019年10月22日閲覧。
(22)^ 戸部 2003, pp. 18–20.
(23)^ 戸部 2003, pp. 20–21.
(24)^ 戸部 2003, pp. 21–22.
(25)^ “大日本豊秋津洲”. コトバンク. 2019年10月22日閲覧。
(26)^ ﹃日本書紀﹄坂本太郎ほか、岩波書店︿日本古典文学大系67﹀、1967年3月31日、543頁。ISBN 4-00-060067-2。。
(27)^ abc吉田 2007, pp. 113–117.