カスタマーハラスメント
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カスタマーハラスメント︵英: Customer abuse︶とは、暴行・脅迫・暴言・不当などの要求といった、顧客による理不尽で著しい迷惑行為のことである[1][2]。略してカスハラともいう。
顧客︵カスタマー︶+嫌がらせ︵ハラスメント︶を組み合わせた用語であるが、英語では﹁customer harassment﹂という用語は一般的ではなく、和製英語の一種である[注 1]。日本では2010年代前半頃から、悪質なクレーマーに対して﹁カスタマーハラスメント﹂の名称を用いる動きが見られるようになった[3]。
概要[編集]
定義[編集]
厚生労働省は2022年にカスハラ対策マニュアルを作成しており、企業が従業員を守るために対応するべき課題の1つとしている[1]。そのマニュアルの中で、厚生労働省はカスタマーハラスメントを以下のように定義している。その解釈や判断基準、具体例などの詳細もマニュアルに記載されている。 顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・様態が社会通念上不相当なものであって、当該手段・様態により、労働者の就業関係が害されるもの—厚生労働省、『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』
法律・条例[編集]
店で大声をあげたり、業務を妨げたり、無理に居座ったりする行為は、威力業務妨害罪や不退去罪に問われる可能性がある。そのほかに関連する条文としては、傷害罪、暴行罪、脅迫罪、恐喝罪、暴力行為処罰法、強要罪、侮辱罪、名誉棄損罪、暴力団対策法、職務強要罪、民法上の人格権やプライバシー侵害が挙げられる。ただし、内容によっては民事不介入を理由に警察が介入できない場合がある[1]。
2024年2月20日、小池百合子東京都知事は都議会の施政方針演説で、カスタマーハラスメント防止に関する条例策定の検討を表明した。もし実現すれば、全国初となる[4]。
研究[編集]
学術観点からカスタマーハラスメントを捉えた書籍として桐生正幸著﹃カスハラの犯罪心理学﹄がある[5]。東洋大学社会学部教授である桐生は、UAゼンセンのデータや科学研究費による調査で加害者と被害者との関係性を分析しており、﹁接客対応者におけるカスタマーハラスメント被害経験の分析﹂などいくつかのカスタマーハラスメントに関する学術論文を執筆している[6]。分類[編集]
カスタマーハラスメントは、次の8パターンに分類されることもある[7]。 (一)長期間拘束型 - 客が従業員に対し、長時間クレーム対応を強いる (二)リピート型 - 電話などで同じ内容や無意味な質問を繰り返し問い合わせをする (三)暴言型 - 怒鳴り声をあげたり、馬鹿︵阿呆︶、死ね、あんた、お前などの侮辱的発言をしたりする (四)暴力型 - 蹴る、殴る、胸倉を掴むなどの身体への接触だけでなく、水をかけたり、物を投げつけたり、椅子や棒を振り回す危険行為や土下座強要も含む (五)威嚇脅迫型 - 従業員に危害を加えることを予告して怖がらせる (六)権威型 - やたらと威張って要求を通そうとする (七)店舗外拘束型 - 客や患者の自宅や特定の喫茶店、ファミレスなどに呼びつけてクレームを言ったり、謝罪を要求し、長時間拘束させる (八)ネット中傷型 - 会話を無断で録音ないし盗撮し、写真や音声、動画をSNSなどにアップロードして従業員の名誉やプライバシーを侵害する事例[編集]
●商品としての機能に問題ない程度の不具合をことさらに指摘する[8]。 ●介護施設において、介護者に暴言を吐いたり、暴力を振るったりする[9]。 ●タクシーにおいて、運転中の様子をスマートフォンで撮影し、中傷の言葉をそえてインターネット上で公開する[10]。対応[編集]
行政[編集]
2019年6月、国際労働機関は総会で、カスタマーハラスメントを含む暴力やハラスメントの廃絶を目指すハラスメント禁止条約を採択した。日本も賛成したが、批准は見送っている。 2022年2月25日、厚生労働省はカスハラ防止対策の一環として﹁カスタマーハラスメント対策企業マニュアル﹂やそのリーフレット・ポスターを作成した[11]。企業[編集]
2022年頃から、カスハラへの対応を取る企業や病院も増えてきている[12]。例えば、任天堂は2022年10月、製品の修理サービス・保証規定にカスハラの項目を追加し、交換や修理を断る可能性を明記した。この他にも、髙島屋やリーガロイヤルホテル、ホテルグランヴィア大阪、JR西日本など、カスハラが発生しやすい業種の企業はマニュアル作成などの対応を取り始めている。 また、一部の精神科病院では、悪質なカスタマーハラスメントを行う患者の診療契約の解除や強制退院、患者対応の打ち切り、警察への通報などの対応を行い、以後の診療や入院を拒否するところもある。 また、一部の鉄道事業者では、悪質なカスタマーハラスメントを関しては旅客対応を打ち切り、場合によっては警察に通報するなどの対応を行うところもある。 2023年には秋田県の第一観光バスが、地方紙﹃北羽新報﹄に﹁その苦情、行き過ぎじゃありませんか?︵カスタマーハラスメントについて︶﹂と題した意見広告を掲載し、これがTwitterで取り上げられたことから大きな話題を呼び、全国紙などでも広く報道された[13][14][15]。詳細は「第一観光バス (秋田県)#カスタマーハラスメントへの意見広告」を参照
統計[編集]
加害[編集]
2020年のUAゼンセンの調査によると、カスハラの加害者は以下の通りであり、中高年男性の割合が高かった[16]。
●男性が74.8%
●50代が30.8%、60代が28.0%、70代以上が11.5%
被害[編集]
2020年の厚生労働省の調査によると、過去3年間にカスハラの相談を受けた企業の割合は19.5%だった[1]。また、カスハラを経験したと回答した労働者の割合は15.0%だった。 この他の調査で判明したカスハラの経験率は、2021年の国公労連の調査によると中央官庁職員で60.3%[17]、2020年のUAゼンセンの調査によるとサービス業従業者で56.7%[16]などが判明している。また、エス・ピー・ネットワークも2019年と2021年に実態調査を行っている[18]。関西大学社会学部の教授である池内裕美の調査によると、百貨店や家電関連の現場でのカスタマーハラスメント遭遇率が高い[19]。脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
(一)^ abcd“カスタマーハラスメント対策企業マニュアル” (PDF). 厚生労働省. 2022年9月12日閲覧。
(二)^ “クレーム電話、AIで﹁怖くない声﹂に ソフトバンクがカスハラ対策”. 朝日新聞DIGITAL. (2024年6月9日) 2024年6月9日閲覧。
(三)^ お客様は神様?カスタマーハラスメント産業保険新聞 2014年7月4日
(四)^ “小池百合子都知事、全国初の﹁カスハラ条例検討﹂ 都議会で施政方針 [東京都‥朝日新聞デジタル]”. 朝日新聞. 2024年2月21日閲覧。
(五)^ 桐生正幸﹃カスハラの犯罪心理学﹄集英社インターナショナル, 集英社 (発売)︿インターナショナル新書﹀、2023年。ISBN 9784797681239。
(六)^ 桐生正幸, 島田恭子﹁接客対応者におけるカスタマーハラスメント被害経験の分析﹂﹃現代社会研究﹄第2021巻第19号、東洋大学現代社会総合研究所、2021年、47-53頁、doi:10.34375/gensoken.2021.19_47、2024年1月13日閲覧。
古屋健, 桐生正幸, 阿部光弘, 近藤修, 安藤賢太, 島田恭子, 宮中大介, 上市秀雄, 小嶋理江﹁カスタマーハラスメント―心理学的アプローチの可能性を探る―﹂﹃応用心理学研究﹄第48巻第1号、日本応用心理学会、2022年7月、38-65頁、CRID 1390575418093610368、doi:10.24651/oushinken.48.1_38、ISSN 0387-4605。
“桐生 正幸 (Masayuki Kiriu) - マイポータル - researchmap”. researchmap.jp. 2023年12月9日閲覧。
(七)^ “カスタマーハラスメントって何?マスク不足でトラブルも‥朝日新聞デジタル”. 朝日新聞. 2024年2月21日閲覧。
(八)^ NHK﹁クローズアップ現代+﹂取材班﹃カスハラ モンスター化する﹁お客様﹂たち﹄文藝春秋、2019年8月30日、20-21頁。ISBN 9784163910819。
(九)^ ﹃カスハラ モンスター化する﹁お客様﹂たち﹄NHK﹃Kurōzu Appu Gendai +﹄Shuzaihan, NHK﹁クローズアップ現代 +﹂取材班.Tōkyō、2019年、36-42頁。ISBN 978-4-16-391081-9。OCLC 1115104526。
(十)^ ﹃カスハラ モンスター化する﹁お客様﹂たち﹄NHK﹃Kurōzu Appu Gendai +﹄Shuzaihan, NHK﹁クローズアップ現代 +﹂取材班.Tōkyō、2019年、60-65頁。ISBN 978-4-16-391081-9。OCLC 1115104526。
(11)^ “﹁カスタマーハラスメント対策企業マニュアル﹂等を作成しました!”. 厚生労働省 (2022年2月25日). 2022年9月12日閲覧。
(12)^ “﹁カスハラ﹂対応、各社急ぐ 任天堂は規定に明記”. 産経新聞. 産業経済新聞社 (2022年10月18日). 2022年10月18日閲覧。
(13)^ “﹁お客様と社員は対等﹂広告話題 理不尽な﹁カスハラ﹂に悲痛な叫び”. 朝日新聞デジタル. 朝日新聞社 (2023年4月5日). 2023年4月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年4月9日閲覧。
(14)^ “﹁お客様は神様ではない﹂ 反発覚悟の広告、社長が守りたかったもの”. 朝日新聞デジタル. 朝日新聞社 (2023年4月5日). 2023年4月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年4月9日閲覧。
(15)^ “﹁お客様は神様ではない﹂ 反発覚悟の広告、社長が守りたかったもの - 写真・図版‥秋田県能代市の地元紙﹁北羽新報﹂に載った広告。許可を得て紹介”. 朝日新聞デジタル. 朝日新聞社 (2023年4月5日). 2023年4月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年4月9日閲覧。
(16)^ ab“カスハラの7割以上が男性、年代は中高年が大半 コロナ禍で急増した原因は?”. 新潮社. 2022年9月14日閲覧。
(17)^ “カスタマーハラスメント実態調査 2021 の分析結果”. 日本国家公務員労働組合連合会. 2022年9月14日閲覧。
(18)^ “カスタマーハラスメント実態調査(2021年)”. エス・ピー・ネットワーク. 2022年9月14日閲覧。
(19)^ ﹃カスハラ モンスター化する﹁お客様﹂たち﹄NHK﹃Kurōzu Appu Gendai +﹄Shuzaihan, NHK﹁クローズアップ現代 +﹂取材班.Tōkyō、2019年、70頁。ISBN 978-4-16-391081-9。OCLC 1115104526。
関連項目[編集]
- ハラスメント
- コールセンター - 電話によるクレームやカスタマーハラスメントに遭遇しやすい。
- 放送倫理・番組向上機構(BPO) - 番組内容が気に入らないとして電話によるクレームが多発。[要出典]
- クレーム
- 長谷川岳
- 企業コンプライアンス
- 名札 – 小学校などと同様に従業員や行政機関職員の名札の着用を廃止にしているところがある。
- 行政対象暴力
- 民事介入暴力
- 土下座
- ふじみ野市散弾銃男立てこもり事件
- スシロー迷惑動画事件
- 外食テロ