エレクトロニック・ハラスメント
エレクトロニック・ハラスメント︵英語: electronic harassment、エレハラ︶とは、電磁波を媒体とする指向装置や非致死性兵器を使用し対象者の脳に異常を引き起こし、意図的に身体と精神に影響を与えるというもの[1][2]。電磁波、特にマイクロ波の人体への照射は誘電加熱を引き起こすため、マイクロ波兵器[3]や医療機器[4]にも使用されている。
心理学者のロレイン・シェリダンは、法医学精神医学と心理学の機関誌に集団ストーカー︵英語: gang-stalking︶の研究を共著した。シェリダンは、﹁TI︵標的にされた個人︶の現象は何が起こっているのかという説明として、集団ストーカーを思いついた妄想症状を持つ人々の観点から考える必要がある﹂と述べている[5]。アメリカの大衆向け心理学誌・﹃Psychology Today﹄誌では、エレクトロニック・ハラスメントの被害者については、被害を受けたという主張はあるものの、実際には被害を引き起こす事態は確認できず、妄想性障害として対応すべきとの専門家の意見を紹介している[6]。数名の精神科医は統合失調症である可能性が非常に高いと述べている[7][8]。
概要[編集]
高度な科学技術使用によるエレクトロニック・ハラスメントを受けていると主張する被害者は﹁標的にされた個人﹂︵英語: Targeted Individuals, 略語はTI︶と呼ばれる。被害者は、正常な心理状態で普通の生活を送っている一般市民である。精神と身体に悪影響を及ぼす様々な被害を受けていると述べる[2][9]。科学技術の開発のために人間のあらゆる機能を操作しているとの主張を立証しようと、ニュース記事、軍事雑誌、機密解除された国家安全保障文書を引用する[1]。 2014年と2015年には、アメリカ・中央情報局(CIA)のコンサルタントや医学、法学、神経科学の専門家などが参加し、国際会議﹁COVERT HARASSMENT CONFERENCE﹂が開催された[10][11]。 元英国軍情報部第5課 (MI5) 所属のマイクロ波の専門家であるバリー・トゥロワー博士や元CIAの諜報部員カール・クラークは、マイクロ波兵器使用により対象者の脳に幻覚を引き起こすことが可能で精神疾患や癌などの病気を誘発できる、マイクロ波兵器による市民への人体実験が行われていたと証言している[2][12][13][14]。元アメリカ国家安全保障局テクニカルディレクターのウィリアム・ビニーも、マイクロ波兵器による一般市民に対するエレクトロニック・ハラスメントの存在を認めている[15]。各国の対応[編集]
1999年1月28日、ロシア下院および欧州議会は人間の操作が可能な兵器を禁止する国際協定を要請[16][17]。 2008年、ユネスコは電磁波がテロ兵器として使用される可能性を議題とした会議を開催[18]。 2016年、ポーランドの防衛大臣アントニ・マチェレヴィチは、電磁波兵器による国民への違法な実験に関する情報の把握を認める[19]。啓発活動[編集]
2018年から毎年8月29日には、世界中の被害者団体による大規模な抗議集会﹁TI-DAY﹂が世界各都市で行われている[20]。報道[編集]
米国内の裁判[編集]
2008年、アメリカ合衆国カンザス州のジェームズ・ウォルバートは、以前に取引をめぐり不和となった仕事仲間から﹁放射線の衝撃を与える﹂と脅しを受け、その後、電気ショックのような感覚症状や電子的に生成された発信音、奇妙な音を感じるようになったと主張。カンザス州セジウィック郡地方裁判所に訴訟を起こした。ミズーリ州議会議員︵共和党︶ジム・ゲストがウォルバートの訴訟を支援した。同年12月30日、裁判所はウォルバートへの﹁電子的手段﹂による嫌がらせを禁止する命令を出した[21][22][23][24]。 2014年8月、カリフォルニア州の住民が、近隣住人による電磁波技術と装置使用の加害容疑に対し訴訟を起こした民事裁判で、上級裁判所は原告の訴えを認め、エレクトロニック・ハラスメント関連の裁判では米国初の勝訴となった。判決の朗報を享け、ターゲット・インディビジュアル情報支援媒体である"LIBERTASINTEL MEDIALIBERTASINTEL MEDIA"は﹁この勝利は、遠隔拷問とマインドコントロールに使用される機密マイクロ波兵器による攻撃に苦しむ何百人もの罪のない対象者︵TI︶に強い感情と希望をかき立てた﹂とウェブサイトで報告した[25]。事件[編集]
1951年2月18日、刑務所に投獄されていたペドロ・アルビズ・カンポス[注 1]は放射線実験の対象とされ、実験は1956年3月27日まで継続された[26][27]。 1960年代から1970年代、旧ソ連在モスクワのアメリカ大使館にマイクロ波照射攻撃が行われていたことが発覚した。この事件の大部分は機密扱いとなっている。政府はマイクロ波に健康への悪影響はないと結論付けているが、大使館員と﹁オペレーション・パンドラ﹂の調査結果は非公開である[28]。1953年のモスクワ・シグナル事件後、アメリカはマイクロ波照射の生物学的および行動的影響を調査している[29][30]。 2016年後半以降、在キューバ米国及びカナダ大使館職員、中国在広州アメリカ領事館職員に対する音響攻撃疑惑件が連続発生、原因不明の異常音︵ノイズ︶による頭痛・めまい・難聴・脳の損傷など健康被害を訴えた職員とその家族には緊急帰国の処断がされた[31]。これら音響攻撃疑惑からの発症を﹁ハバナ症候群﹂と特称、2018年6月、マイク・ポンペオ米国国務長官は対策チームの結成を発表した[32][33]。当初は超音波兵器による攻撃、マイクロ波聴覚効果などが疑われたが[34][35]、2020年3月 カナダの研究では、殺虫スプレーに含まれる神経毒が原因である可能性も示唆された[36]。同年12月、米国政府は大使館職員の原因不明の体調不良について、マイクロ波攻撃の可能性が高いと科学アカデミーの報告書で明らかにした[37][38]。2021年5月、ニューヨーク・タイムズ紙はヨーロッパやアジア(中国以外)で新たに被害者が確認され、被害者の総数は130人以上に上ると報じた。中央情報局や国防総省の職員も被害者である[39]。同年7月にはオーストリア当局が調査を行っていることを明らかにし[40]、11月にはアメリカ国務省が本格的な調査をすると表明した[41]。10月8日、アメリカのジョー・バイデン大統領は、ハバナ症候群の被害者を支援する法案に署名した[42]。2023年3月1日、アメリカ合衆国国家情報長官室は﹁外国の敵対勢力による攻撃の可能性は低い﹂との見解を公表した[43]。2024年4月1日、ロシアの調査報道メディア﹁ザ・インサイダー﹂は、アメリカCBSの﹁60ミニッツ﹂およびドイツの﹁デア・シュピーゲル﹂チームとの共同調査結果として、ロシア軍参謀本部情報総局29155部隊で開発された﹁非致死性音響兵器﹂が使用された可能性を報じたが、ロシアのペスコフ大統領報道官は﹁根拠がない﹂と報道内容を否定した[44][45][46]。 2020年11月、静岡県立大学グローバル地域センター特任助教の西恭之は﹁ハバナ症候群の原因はマイクロ波攻撃である可能性が高い﹂と指摘、理由として、音響を体内に発生させ作用するマイクロ波兵器が試作されていること、旧ソ連当局が米大使館にマイクロ波を照射したことのあるモスクワ[28]でもCIA︵米中央情報局︶局員が同様の被害を訴えている、マイクロ波兵器は対象者に異音を認識させ脳組織がマイクロ波のエネルギーを吸収して熱膨張する、発生した音響衝撃波は聴覚で認識されている、また﹁米国科学アカデミーは国務省に提出したキューバの報告書を公開していない﹂﹁国務省はキューバにおけるハバナ症候群は直ちに調査し大使館員に有給休職を認めたが、中国での同様件については調査せず 罹患した公館員の有給休職も速やかに認めていない﹂﹁隠蔽と格差の原因はトランプ大統領が米キューバ国交回復に反対する一方、中国とは貿易交渉のため習近平国家主席︵総書記︶の顔を立てロシアとも関係改善を意図した﹂ことの論を寄稿した[47]。精神工学兵器[編集]
1987年、陸軍研究所から委託されたアメリカ国立科学アカデミーの報告書は、精神工学について、1980年代の事例解説や新聞および書籍でのサイキック戦争という主張の﹁多岐にわたる例﹂の1つである指摘している。この報告は﹁超空間核爆弾﹂などの精神工学兵器の主張と、ロシアの精神工学兵器がレジオネア病とアメリカ海軍の潜水艦沈没の原因であるとの信念を引用している。委員会は、軍事的意思決定者による報告や経緯、そしてそのような兵器の潜在的な用途が存在するにもかかわらず、﹁科学技術文献には精神工学兵器の主張を裏付けるものは何もない﹂と述べている[48]。1990年代にはロシアで精神工学兵器が研究されていたとされる。1998年、軍事アナリストのティモシー・L・トーマス中佐は、アメリカ陸軍士官学校の季刊誌﹁パラメーター﹂で論文を発表し、新兵器の目的は人間の精神と身体を操作することであると述べている[49][50]。遠隔操作が可能な技術や兵器[編集]
●ボイス・トゥ・スカル︵V2K) - マイクロ波聴覚効果[51][52]その他[編集]
エレクトロニック・ハラスメントと解釈される技術や実験 1965年当時、スティモシーバーを発明した脳科学者のホセ・デルガード博士による実験﹁電波で大人しくなる闘牛と闘牛士﹂‐ニューヨーク・タイムズの報道から﹁脳を電波で制御し性格や行動を操作する行為は虐待に相当する﹂解釈と批判に対し、﹁電波はラジコンの技術であり、牛の脳の表面に付けられた受信機で電気信号に変換され、脳に埋め込んだ電極を刺激する生体実験である﹂と説明している[53]。脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
(一)^ abWeinberger, Sharon (2007年1月14日). “Mind Games”. Washington Post 2014年1月12日閲覧。
(二)^ abc﹁音響兵器・マイクロ波兵器攻撃?の報道を受けて﹂﹃世論時報﹄世論時報社、2019年3月1日。p. 6-8.
(三)^ “米軍の最新非殺傷兵器﹁ADS﹂、わき上がる耐え難い﹁熱﹂”. AFP通信 (2012年3月15日). 2021年4月25日閲覧。
(四)^ “温熱療法とは”. 日本電子治療器学会. 2023年10月20日閲覧。
(五)^ “United States of Paranoia: They See Gangs of Stalkers”. New York Times. 2016年7月20日閲覧。
(六)^ Joe Pierre. “Gang Stalking: Real-Life Harassment or Textbook Paranoia?”. Psychology Today. Sussex Publishers, LLC, HealthProfs.com. 2020年12月1日閲覧。
(七)^ “Psychotic Websites. Does the Internet encourage psychotic thinking?”. Psychology Today. Sussex Publishers, LLC, HealthProfs.com. 2016年3月19日閲覧。
(八)^ “Electronic Harassment: Voices in My Mind”. KMIR News. 2017年12月7日閲覧。
(九)^ “﹁targeted community︵標的にされた地域社会︶﹂と﹁危機管理としての人文学﹂”. 広島修道大学 (2023年3月). 2023年11月28日閲覧。
(十)^ “COVERT HARASSMENT CONFERENCE 2014”. COVERT HARASSMENT CONFERENCE. 2020年5月29日閲覧。
(11)^ “VERT HARASSMENT CONFERENCE 2015”. COVERT HARASSMENT CONFERENCE. 2020年5月29日閲覧。
(12)^ Dr. Barrie Trower - L’utilisation des micro-ondes dans le contrôle des populations ICAACT
(13)^ ﹁Heimliche Uberwachung und Strahlenfolter durch Geheimdienste﹂﹃roum&zeit﹄2009年。p. 47-50.
(14)^ “Heimliche Uberwachung und Strahlenfolter durch Geheimdienste”. roum&zeit (2009年). 2023年4月12日閲覧。
(15)^ “NSA Whistleblower Reveals Covert Torture Program”. TRANSCEND MEDIA SERVICE (2020年6月15日). 2020年7月10日閲覧。
(16)^ “The Threat of Information, Electromagnetic and Psychtronic Warfare”. Global Research News (2005年9月29日). 2020年4月25日閲覧。
(17)^ ベギーチ 2011, p. 92-95.
(18)^ “U.N. Investigates Electromagnetic Terrorism”. wired.com (2008年12月2日). 2020年4月18日閲覧。
(19)^ “Poseł PO pyta ministra obrony o testy broni elektromagnetycznej na Polakach”. Polsatnews (2016年3月17日). 2020年7月10日閲覧。
(20)^ “First Annual Global T.I.Day on Aug.29.2018”. FFTI:Freedom For Targeted Individuals (2019年). 2019年時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年4月11日閲覧。
(21)^ “That little voice inside your head Our view • Missouri lawmaker explores the farthest frontiers of science.” (英語). St. Louis Post-Dispatch. (2009年7月7日)
(22)^ “エレクトロニック・ハラスメント(電磁波犯罪)の裁判で、アメリカのカンザス州セジウィック郡地方裁判所で...”. レファレンス協同データベース. 2016年5月12日閲覧。
(23)^ “Court to Defendant: Stop Blasting That Man’s Mind! Wired magazine BY DAVID HAMBLING” (英語). (2009年7月1日)
(24)^ “﹁脳への電磁的攻撃﹂‥禁止判決と対策サービスも | WIRED.jp”. WIRED.jp. (2009年7月6日) 2021年3月15日閲覧。
(25)^ Targeted Individual Kathleen Watterson Wins Electronic Harassment Court Case/August 2, 2014
(26)^ “King of the Towels: The Torture and Murder of Pedro Albizu Campos” (英語). LATINO REBELS. (2015年3月10日)
(27)^ Federico Ribes Tovar, Albizu Campos: Puerto Rican Revolutionary, p. 136-139; Plus Ultra Publishers, 1971
(28)^ abベギーチ 2011, p. 60-61.
(29)^ “Moments in U.S. Diplomatic History Microwaving Embassy Moscow” (英語). Association for Diplomatic Studies and Training. ADST. 2016年5月12日閲覧。
(30)^ “Microwaves in the cold war: the Moscow embassy study and its interpretation. Review of a retrospective cohort study”. Environmental Health 11: 85. (November 2012). doi:10.1186/1476-069X-11-85. PMC 3509929. PMID 23151144.
(31)^ 音が殺人兵器と化す日. ニューズウィーク日本語版. (2017年12月26日号). p. 29.
(32)^ “ポンペオ米国務長官﹁音響攻撃﹂対策チームの結成を発表”. CNN. (2018年6月6日)
(33)^ キューバ音響事件﹁ハバナ症候群﹂患者の脳をMRI検査 Neuroimaging Findings in US Government Personnel With Possible Exposure to Directional Phenomena in Havana, Cuba
(34)^ 石田雅彦 (2018年7月6日). “在キューバ米国大使館員は﹁音響兵器﹂で攻撃されたのか”
(35)^ “Microwave Weapons Are Prime Suspect in Ills of U.S. Embassy Workers” (英語). New York Times. (2018年9月1日)
(36)^ “﹁ハバナ症候群﹂ 殺虫剤との関連性めぐる研究進む”. APFBB News. (2020年3月4日)
(37)^ “米外交官らがキューバで体調不良、マイクロ波攻撃の可能性=米報告書”. BBC news (2020年12月7日). 2020年12月9日閲覧。
(38)^ “外交官の聴覚障害は﹁高周波による攻撃﹂示唆 米報告書”. 朝日新聞 (2020年12月6日). 2020年12月14日閲覧。
(39)^ “謎の脳損傷、米外交官ら130人以上 欧州、アジアでも確認―NYタイムズ”. 時事通信 (2021年5月13日). 2021年5月24日閲覧。
(40)^ “オーストリア、米外交官の﹁ハバナ症候群﹂を調査”. CNN.co.jp. (2021年7月20日) 2021年11月9日閲覧。
(41)^ “米、﹁ハバナ症候群﹂を本格調査 外交官ら被害200例”. 産経新聞. (2021年11月8日) 2021年11月9日閲覧。
(42)^ “コロンビアの米大使館職員、ハバナ症候群の症状を訴え”. CNN.co.jp. (2021年10月13日) 2021年11月9日閲覧。
(43)^ “ハバナ症候群、敵対外国勢力による可能性は﹁非常に低い﹂ 米情報当局が報告”. BBC NEWS JAPAN. (2023年3月2日) 2023年4月25日閲覧。
(44)^ “ハバナ症候群をロシアと関連付けた報道、﹁根拠ない﹂と報道官”. Reuters. (2024年4月1日) 2024年4月5日閲覧。
(45)^ “米外交官ら謎の健康被害﹁ハバナ症候群﹂、ロシア音響兵器の攻撃か…露独立系メディア﹁現場に工作員﹂”. 読売新聞. (2024年4月3日) 2024年4月5日閲覧。
(46)^ “Unraveling Havana Syndrome: New evidence links the GRU's assassination Unit 29155 to mysterious attacks on U.S. officials and their families”. The Insider (2024年4月1日). 2024年4月5日閲覧。
(47)^ “CIA工作員や米外交官も被害。中国が印に使用﹁マイクロ波攻撃﹂の恐怖”. MAG2NEWS. (2020年11月20日)
(48)^ Kendrick Frazier (1991). The Hundredth Monkey: And Other Paradigms of the Paranormal. Prometheus Books, Publishers. pp. 153-. ISBN 978-1-61592-401-1 2013年5月4日閲覧。
(49)^ “The Mind Has No Firewall”. 2020年4月21日閲覧。 Parameters, Spring 1998, pp. 84-92
(50)^ ベギーチ 2011, p. 39-43.
(51)^ “脳内を読み取りことばに変換 米研究グループが成功”. サイカルジャーナル(NHKオンライン) (2019年4月25日). 2020年4月19日閲覧。
(52)^ ベギーチ 2011, p. 71-72,130-132.
(53)^ Matador’ With a Radio Stops Wired Bull New York Times(1965年5月17日)