御座楽
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御座楽︵うざがく、おざがく︶とは、琉球王国の室内楽である。冊封使歓待を目的として発展した明清系の音楽である。その起源は16世紀頃まで遡るが、琉球王国の滅亡とともに伝承が絶え、幻の音楽となった。
楽童子︵昔の絵図から復元した衣装。本来は男児だが、女性が扮してい る︶
江戸時代の琉球王国は、名目的には中国︵明、および次の清︶に服属したものの、実質的には日本の薩摩藩の支配を受けていた。琉球の使節団の江戸立のとき、薩摩藩は琉球の音楽を演奏させた。薩摩藩は、江戸までの街道ぞいの人々に﹁路次楽﹂を聴かせ、将軍以下の江戸幕府の要人たちに﹁御座楽﹂の演奏を聴かせることで、自藩の支配力を顕示した。
東アジアの漢字文化圏の諸国では、日本も朝鮮もベトナムも、それぞれ中国伝来の宮廷音楽を﹁雅楽﹂としていた。琉球の御座楽もその一つであり、その品格と優美さは、日本本土の雅楽に勝るとも劣らぬものであった。
その後、明治の廃藩置県などがあり、琉球王国は消滅した。明治政府は琉球を﹁沖縄県﹂として併合したが、琉球王国の名目的な宗主国だった中国︵当時は清︶はこれに不満を表明した。このような微妙な国際関係も一因となって、沖縄における中国系音楽の伝統、特に﹁御座楽﹂は、明治時代に伝承が絶えた。﹁御座楽﹂の最後の上演記録は、1887年、伊藤博文の前で演奏したのが最後である。
歴史[編集]
琉球王国では、中国︵明や清︶から冊封使が来たとき、あるいは徳川将軍に謝恩使や慶賀使を送る﹁江戸立(江戸上り)﹂のとき、中国系の音楽を演奏した。このうち、室内で座って合奏する音楽を﹁御座楽﹂と呼び、屋外で行列しつつ歩きながら合奏する音楽を﹁路次楽﹂︵るじがく︶と呼んだ。御座楽は荘重で優雅な雅楽であり、路次楽もチャルメラや太鼓などによる荘厳な鼓吹楽︵こすいがく︶であった。 琉球王国には中国から帰化した人々の子孫が集住する地域があり、彼らは﹁久米三十六姓﹂と呼ばれた。久米三十六姓の人々は、琉球国王の命令を受けて、中国本土︵主に福建︶に渡って留学し、中国語や、音楽などの中国文化を学習した。琉球の御座楽を伝承した楽師も、久米三十六姓の者が多かった。 ﹁江戸立﹂では、元服前の男児が、楽師から楽曲を仕込まれて、﹁楽童子﹂︵がくどうじ︶として御座楽を演奏した。みな三司官など良家の子弟で、将来を期待されたエリートであった。1653年の江戸立から1850年の江戸立まで、約200年の間に、70曲ぐらい演奏された。最大で6人のアンサンブルで、1回の演奏会で10曲ぐらい弾くことが多かった。器楽曲のほか、﹁明曲﹂﹁清曲﹂と記される唱曲も演奏された。現状[編集]
御座楽に関する現存資料は少ない。 ●楽器‥﹁江戸立(江戸上り)﹂のとき献上された現物が、幸い、尾張徳川家︵名古屋市・徳川美術館︶と水戸徳川家︵茨城県水戸市︶に現存。また復元楽器が、首里城公園で展示。 ●絵図‥沖縄県立博物館蔵﹁琉球人座楽并躍之図﹂。1832年の尚育王の謝恩使の一行が、江戸の芝白金の島津邸で行った奏楽と舞踊、演劇の様子を描いた絵巻。 ●曲目‥﹃通航一覧﹄ほかの﹁江戸上り﹂の文献記録の中に、楽隊の編成や曲目名などが記載されている。 ●楽譜‥山内盛彬︵やまうち せいひん 1890-1986︶が、1912年に古老が口で歌った旋律を聞き取って採譜した楽譜(五線譜)の中に、御座楽の曲が3種類ほどあり、山内の﹃琉球王朝古謡秘曲の研究﹄︵1964年︶に収録されている。古老のおぼろげな記憶によるもので、しかもいずれも曲の途中で切れてしまっている。しかしながら、現在残っている御座楽の楽譜は、これだけである。 ●歌詞‥戦争で焼ける前の首里城で鎌倉芳太郎︵かまくら よしたろう 1898-1983︶がノートに筆写した歌詞が残っている︵沖縄県立芸術大学附属図書館蔵﹁鎌倉芳太郎ノート54﹃唐歌唐踊集﹄﹂︶。 中国本土には、御座楽で演奏されたのと同じ楽曲が現存しているはずであるが、御座楽のどの曲が中国本土のどの曲にあたるかについては、目下、学者たちが研究中である。 近年の沖縄県では、首里城復元などを機に、琉球王国の宮廷文化を再評価する機運が高まっている。首里城という﹁ハコ﹂が先にできたものの、ハコの中身である儀礼や音楽は空っぽであった。また、沖縄独自のアイデンティティーと国際交流の象徴として、﹁御座楽﹂を見直す風潮も出てきた。こうした時代の変化を受けて、現在、御座楽を復元する事業が行われている。CD[編集]
- CD「幻の琉球王府宮廷楽 御座楽」(財団法人 日本伝統文化振興財団 VZCG-681)
編曲・演奏:御座楽復元演奏研究会
録音日時:2007年3月31日
監修・解説:比嘉悦子(日本語/英文解説つき)- 収録曲目
- 賀聖朝(唱なし/8ピース)
- 鬧元宵(唱なし/フル)
- 太平歌(唱なし/7ピース)
- 太平歌(唱あり/フル)
- 蓮花落(唱なし/3ピース)
- 蓮花落(唱なし/フル)
- 一更里(唱あり/フル)
- 紗窓外(唱なし/5ピース)
- 紗窓外(唱あり/フル)
- 天初暁/清江引(唱なし/6ピース)
- 天初暁/清江引(唱あり/フル)
- 四大景(唱なし/フル)
- 鬧元宵(唱なし/7ピース)
- 収録曲目
参考文献[編集]
- 『沖縄と中国芸能』(喜名盛昭・岡崎郁子著、ひるぎ社「おきなわ文庫13」、1984年)
- 『御座楽』御座楽復元研究会調査研究報告書(沖縄県商工労働部観光文化局、1997年3月)
- 『御座楽』御座楽復元研究会調査研究報告書II(沖縄県文化環境部文化国際局、2001年3月)
- 『御座楽の復元に向けて─調査と研究─』(御座楽復元演奏研究会編、2007年12月)
- 『山内盛彬著作集』全3巻(沖縄タイムス社)
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
- 御座楽復元研究会会長・比嘉悦子氏へのインタビュー 再現演奏の音声が聴ける(MP3)
- 琉球古典音楽 再現演奏の音声が聴ける(Windows Media Player / Real Player)