「性 (文法)」の版間の差分
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'''性'''({{lang-en|gender}})、または'''文法的性'''({{en|grammatical gender}})とは、関連する語のふるまいに文法的に反映する[[名詞]]の分類体系のこと<ref>[[チャールズ・ホケット|Hockett, Charles F.]] ''A Course in Modern Linguistics''. New York: Macmillan. 1958: 231</ref><ref name="C19911">Corbett 1991: 1</ref>で、名詞の[[文法範疇]]の一つ<ref>「性」『言語学大辞典:第6巻 述語編』三省堂 1996</ref>である。[[バントゥー語群]]や[[コーカサス諸語]]の記述では'''名詞類'''または'''名詞クラス'''とも呼ばれるが、実質的な差はほとんどない<ref>Corbett 1991: 10, 146</ref>。この名詞の分類が実際の[[性 (生物学)|性]]と一致する場合もあるが、そうでないことも多い<ref name=C19911 />。[[類別詞]]とは区別すべきとされる<ref>Dixon 1982</ref><ref>Corbett 1991: 136-137</ref>。 |
'''性'''({{lang-en|gender}})、または'''文法的性'''({{en|grammatical gender}})とは、関連する語のふるまいに文法的に反映する[[名詞]]の分類体系のこと<ref>[[チャールズ・ホケット|Hockett, Charles F.]] ''A Course in Modern Linguistics''. New York: Macmillan. 1958: 231</ref><ref name="C19911">Corbett 1991: 1</ref>で、名詞の[[文法範疇]]の一つ<ref>「性」『言語学大辞典:第6巻 述語編』三省堂 1996</ref>である。 |
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[[バントゥー語群]]や[[コーカサス諸語]]の記述では'''名詞類'''または'''名詞クラス'''とも呼ばれるが、実質的な差はほとんどない<ref>Corbett 1991: 10, 146</ref>。この名詞の分類が実際の[[性 (生物学)|性]]と一致する場合もあるが、そうでないことも多い<ref name=C19911 />。[[類別詞]]とは区別すべきとされる<ref>Dixon 1982</ref><ref>Corbett 1991: 136-137</ref>。 |
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==性の一致== |
==性の一致== |
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== モンゴル語 == |
== モンゴル語 == |
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[[モンゴル語]]の単語にも、男性語・女性語の分類があるが、これは[[母音調和]]に関する分類であり、文法的性とは異なり[[一致]]を生じない。モンゴル語では、母音を男性母音・女性母音・中性母音に分類し、男性母音の伴う語を男性語、女性母音の伴う語または中性母音のみ伴う語を女性語と呼ぶ。
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[[モンゴル語]]の単語にも、男性語・女性語の分類があるが、これは[[母音調和]]に関する分類であり、文法的性とは異なり[[一致]]を生じない。モンゴル語では、母音を男性母音・女性母音・中性母音に分類し、男性母音の伴う語を男性語、女性母音の伴う語または中性母音のみ伴う語を女性語と呼ぶ。
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== 関連項目 == |
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*[[有生性]] |
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* [[:en:List of languages by type of grammatical genders|List of languages by type of grammatical genders]] |
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== 参考文献 == |
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*Corbett, Greville G. 2011. “Number of Genders”. Dryer, Matthew S. & Haspelmath, Martin (eds.) ''The World Atlas of Language Structures Online''. Munich: Max Planck Digital Library, [http://wals.info/chapter/30 chapter 30.] 2011-09-04閲覧 |
*Corbett, Greville G. 2011. “Number of Genders”. Dryer, Matthew S. & Haspelmath, Martin (eds.) ''The World Atlas of Language Structures Online''. Munich: Max Planck Digital Library, [http://wals.info/chapter/30 chapter 30.] 2011-09-04閲覧 |
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* Dixon, R. M. W. 1982. ''‘Where Have All the Adjectives Gone?’ and Other Essays in Semantics and Syntax''. Berlin: Mouton de Gruyter |
* Dixon, R. M. W. 1982. ''‘Where Have All the Adjectives Gone?’ and Other Essays in Semantics and Syntax''. Berlin: Mouton de Gruyter |
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2023年10月6日 (金) 13:27時点における版
文法範疇 |
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典型的には形態統語的な範疇 |
典型的には形態意味的な範疇 |
形態意味的な範疇 |
性の一致
名詞の性によって、その名詞と文法的に関連する語のかたちが変わる現象を﹁性の一致﹂という。例えばロシア語では主語の名詞の種類によって、動詞の過去形が男性・女性・中性の3通りにかたちを変える。これは、動詞の過去形が主語の名詞と性の一致をしているのである。Журнал | лежал | на | столе. |
雑誌(男性) | あった(男性) | の上に | テーブル |
Книга | лежала | на | столе. |
本(女性) | あった(女性) | の上に | テーブル |
Письмо | лежало | на | столе. |
手紙(中性) | あった(中性) | の上に | テーブル |
動詞のほかに、形容詞・限定詞・数詞・焦点標識などが性の一致をする言語がある[7]。
性の分け方
意味による分類
性を持つ言語には、名詞の意味によって性を付与する言語がある。例えばタミル語では、男性と男神を指す名詞は男性名詞、女性と女神を意味する名詞は女性名詞、それ以外は中性名詞に分類される。意味による性の付与の例(タミル語) | |||
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意味 | 性 | 例 | 和訳 |
男性と男神 | 男性名詞 | ஆண் (āṇ) | 「男」 |
சிவன் (civaṉ) | 「シヴァ」 | ||
女性と女神 | 女性名詞 | பெண் (peṇ) | 「女」 |
காளி (kāḷi) | 「カーリー」 | ||
その他 | 中性名詞 | வீடு (vīṭu) | 「家」 |
மரம் (maram) | 「木」 |
意味による性の付与の例(ザンデ語) | |||
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意味 | 性 | 例 | 和訳 |
男性 | 男性名詞 | kumba | 「男」 |
女性 | 女性名詞 | dia | 「妻」 |
その他の有生物 | 動物名詞 | nya | 「獣」 |
その他 | 中性名詞 | bambu | 「家」 |
形式による分類
形式的な特徴によって性を付与する言語も存在する。しかし、そのような言語でも性の分類の中核には意味的な基準があり、形式的な基準は意味の基準が適用できない場合に用いられる。形式的基準には、形態論的なものと、音韻論的なものがある。形態論による分類
意味的な基準が適用できない場合に、その名詞の屈折のしかたによって性を付与する言語がある。 例えばロシア語では、男性・女性・中性の3つの性があるが、男性と女性の付与には意味的な基準がある。男性や高等動物の雄を指す名詞は男性名詞に、女性や高等動物の雌を意味する名詞は女性名詞に分類される。 ●男性や雄→男性名詞‥отец ﹁父﹂、дядя﹁おじ﹂、лев ﹁雄ライオン﹂ ●女性や雌→女性名詞‥мать ﹁母﹂、тётя﹁おば﹂、львица﹁雌ライオン﹂ しかし、性別を持っていないものを表す名詞は、男性のこともあれば女性や中性のこともある。男性 | 女性 | 中性 |
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このように、性別を持たないものを指すロシア語の名詞は意味的には似ていても違う性が付与される。性別を持たないものを意味する名詞を分類する基準は曲用のタイプという形態論的なものである。
I | II | III | IV | |
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主格 | закон | школ-а | кость | вин-o |
対格 | закон | школ-у | кость | вин-o |
生格 | закон-а | школ-y | кост-и | вин-а |
与格 | закон-у | школ-е | кост-и | вин-у |
造格 | закон-ом | школ-ой | кость-ю | вин-ом |
前置格 | закон-е | школ-е | кост-и | вин-е |
закон「法律」 | школa「学校」 | кость「骨」 | вино「ワイン」 |
音韻論による分類
意味的な基準が適用できない場合に、音韻的な基準によって性を付与する言語もある。 例えばアファル語では、人間の男性と動物の雄を表す名詞は男性名詞、人間の女性と動物の雌を表す名詞は女性名詞に分類される。 ●男性や雄→男性名詞‥bàxa﹁息子﹂、toobokòyta﹁兄弟﹂、barisèyna﹁男の先生﹂、kùta﹁雄犬﹂、abbà﹁父﹂ ●女性や雌→女性名詞‥baxà﹁娘﹂、toobokoytà﹁姉妹﹂、bariseynà﹁女の先生﹂、kutà﹁雌犬﹂、gabbixeèra﹁腰の細い女性﹂ それ以外の名詞は音韻的に性が決まる。強勢のある母音で終わる名詞は女性名詞であり、その他は男性名詞である。- 強勢のある母音で終わる→女性名詞:catò「助け」、karmà「秋」
- そのほか→男性名詞:cedèr「夕食時」、gilàl「冬」、tàmu「味」、baànta「トランペット」
性の数
印欧語族の性
セム諸語
ヘブライ語やアラビア語などセム諸語は原則として男性・女性の2種類の性があり中性はない。以下は代表的なアラビア語を例にして説明する。名詞は語尾で男性か女性か判別できるものが多い。大抵の女性名詞はة︵ター・マルブータ︶で終わり、男性名詞にةをつけて女性名詞にしたものも多い。双数や複数、動詞の人称変化でも男女の区別がある。形容詞は叙述用法、限定用法にかかわらず修飾する名詞によって形を変え、ほとんどの場合にはةをつけることで女性形となる。但し定冠詞は性によらず常に ال (al)を用いる。また名詞や形容詞の格変化も性によらない。ヘブライ語もアラビア語と同様に冠詞は性によらずהを用い、複数形や動詞の人称変化でも性の区別があり、形容詞は修飾する名詞によって語尾などが変化する。 アラビア語では体の対を成す部分や地名は女性名詞であるが、例外的にアラブ圏の7カ国の国名︵レバノン、ヨルダン、イラク、スーダン、モロッコ、イエメン、ソマリア︶は男性名詞である。また、集合名詞を女性名詞化することで個別の名詞を作ることが出来る。例えばشجر︵shajar: 樹木︶に対するشجرة︵shajara: 木︶などである。さらに、طريق︵tarīq‥道︶やسكين︵sikkīn‥ナイフ︶のような、男性名詞としても女性名詞としても使われる名詞もある。コーカサス諸語
コーカサス諸語には、男性・女性・活動体やある種の物体・その他、という4類を持つ言語が最も多いが、ジョージア語のような名詞クラスがない言語、2クラスだけある言語、8クラスをもつバツ語もある。アンディ語には虫のクラスというものがある。コーカサス諸語ではクラスは名詞そのものには明示されないが、動詞、形容詞、代名詞によって示される。アルゴンキン語族
北米のアルゴンキン語族では活動体・不活動体の2クラスを区別するが、この区別はむしろ力のある・なしの区別だとする人もいる。すべての生物、また神聖なものや大地につながりのあるものは力のあるものと考えられ﹁活動体﹂に分類される。しかし分類は極めて恣意的で、たとえば﹁キイチゴ﹂が活動体、﹁イチゴ﹂が不活動体となる。バントゥー諸語
バントゥー諸語にはのべ22種の名詞クラスがある。1言語でそのすべてを持っているものはないが、少なくとも10種は持っている。たとえばスワヒリ語には15種、ソト語には18種ある。人間に関して数種ある場合が多い。モンゴル語
モンゴル語の単語にも、男性語・女性語の分類があるが、これは母音調和に関する分類であり、文法的性とは異なり一致を生じない。モンゴル語では、母音を男性母音・女性母音・中性母音に分類し、男性母音の伴う語を男性語、女性母音の伴う語または中性母音のみ伴う語を女性語と呼ぶ。脚注
関連項目
参考文献
- Corbett, Greville G. 1991. Gender. Cambridge: Cambridge University Press.
- Corbett, Greville G. 2011. “Number of Genders”. Dryer, Matthew S. & Haspelmath, Martin (eds.) The World Atlas of Language Structures Online. Munich: Max Planck Digital Library, chapter 30. 2011-09-04閲覧
- Dixon, R. M. W. 1982. ‘Where Have All the Adjectives Gone?’ and Other Essays in Semantics and Syntax. Berlin: Mouton de Gruyter