AH-64D アパッチ・ロングボウ
陸上自衛隊のAH-64D
- 用途:攻撃ヘリコプター
- 分類:ヘリコプター
- 製造者:マクドネル・ダグラス(現ボーイング)社
- 運用者
- 初飛行:1991年3月11日
- 生産数:496機
- 運用開始:1996年
- 運用状況:現役
- ユニットコスト:
1,800万ドル(2001年)
約53億円(2021年)[1]
- 原型機:AH-64A アパッチ
- 派生型:WAH-64 アパッチ
開発経緯[編集]
第2世代アパッチ開発計画[編集]
1986年7月に初期作戦能力を獲得したAH-64A アパッチは、アメリカ軍の数々の作戦に投入されてその威力を発揮し、世界最強の攻撃ヘリコプターであることを知らしめた。ただ、進化が予想される将来の戦場シナリオに対応するための改良・発達が不可欠とされ、マクドネル・ダグラス社は1990年の湾岸危機直後に第2世代アパッチ開発計画に着手した。この計画はAH-64Aに全地球測位システム︵GPS︶、地上・空中単一チャンネル無線システム︵SINCGARS︶、自動火器管制システムと目標引き渡し機能などを備え、新しいローター・ブレードの装備を含めた信頼性の向上を行うもので、AH-64Bの名称が与えられ、254機のAH-64AをAH-64Bに改修する計画が立てられた。しかし、1990年8月にアメリカ国防調達委員会はもう一つの改修計画である、AH-64C/D計画を承認。これにより、AH-64B計画は実現しなかった。 このAH-64C/D計画は、AN/APG-78ロングボウ火器管制レーダー︵FCR︶システムを装備し、AH-64B計画での改修点に加え、無線周波︵RF︶ヘルファイア 対戦車ミサイルの携行能力、ドップラー航法装置の装備、アビオニクスの小型化、コックピットの改善を行うもので、ミリ波レーダー搭載型をAH-64D、ミリ波レーダー非搭載型をAH-64Cと呼称した。1990年12月からAH-64C/Dへの改修作業が開始され、ヘルファイア対戦車ミサイルの開発に間に合わせるために当初の51ヶ月から延長して70ヶ月の全規模開発プログラムがスタートした。1993年末にはAH-64Cの呼称が廃止され、ミリ波レーダー搭載の如何に関わらず、改修機全機をAH-64D アパッチ・ロングボウと呼称することが決定された。AH-64Dの開発[編集]
開発元のマクドネル・ダグラス社はAH-64Dの特徴を以下のように説明している。 ●状況把握能力と戦場管理能力の向上 ●悪天候時や障害物のある戦場環境において精密攻撃能力を有しつつ威力を発揮する ●戦闘力、生存性の向上 ●信頼性、入手性、整備性の強化 ●予算内、スケジュール通りの納入 アメリカ陸軍が装備するAH-64Dは全機、既存のAH-64Aからの改修機とし、全規模開発プログラムに基づいてまず、AH-64Aの量産2号機がAH-64D空力試作改造初号機となり、ダミーのロングボウ・レドームを装備して1991年3月11日に初飛行した。これに続いて試作改造機4機と先行量産改造機2機が製造されている。試作改造初号機は1992年4月15日、2号機は1992年11月13日に初飛行し、空力試験の後、1993年中頃にロングボウ・レーダーが装備されて1993年8月20日に進空した。3号機は1993年6月30日、4号機は1993年10月4日にそれぞれ初飛行しており、5号機はAH-64Cの改造初号機となる予定であったが、AH-64Cの呼称が廃止されたのに伴い、ロングボウ火器管制レーダーを装備しないAH-64Dとして1994年1月19日に初飛行しており、ハミルトン製の新型軽量飛行管理コンピューターを搭載した最初の機体となった。6号機は1994年3月4日に初飛行している。 1995年1月30日から2月9日にかけてカリフォルニア州チャイナレイクで実施された模擬戦形式の評価試験では、AH-64Aと比較して生存性で7倍、目標の破壊数で4倍もの記録を達成し[注 1]、﹁AH-64DはAH-64Aの28倍の能力を持つ﹂と謳われるようになった。 AH-64Dへの量産改修については、1995年12月に先行調達段階の契約が結ばれ、1996年8月16日にアメリカ陸軍とマクドネル・ダグラス社が今後5年間で232機を改造する多年度再生産契約を結んでいる。この契約ではまず、初年度に24機の再生産機を納入し、232機全機を2001年第1四半期までに完納することとされた。アメリカ陸軍では、保有する758機の全AH-64AをAH-64Dに改修し、ロングボウ・レーダー搭載機は227機にする計画を立てた。しかし、その後の試験評価などからAH-64Dへの改修機数を501機に削減し、ほぼ全機にロングボウ・レーダーを搭載する方針に変更している。 AH-64Dのアメリカ陸軍向けは、ブロック方式でのアップグレードが採用されており、さらに年度毎のロットによるスパイラル・アップデート方式での段階的な能力向上が行われている。初期引き渡し機はブロックIと呼ばれ、最初の284機がこの仕様である。続く313機がブロックIIと呼ばれるもので、2002年2月25日に初号機がアメリカ陸軍へ引き渡された。ブロックIIは、アメリカ陸軍の戦術級C4IシステムであるFBCB2に対応する通信機能を備えたもので、AN/TSQ-158強化型位置評定報告システム︵EPLRS︶との接続を可能にしている。機体構成[編集]
機体[編集]
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/02/Paris_Air_Show_2015_150618-F-RN211-226_%2818766092629%29.jpg/250px-Paris_Air_Show_2015_150618-F-RN211-226_%2818766092629%29.jpg)
AN/APG-78 ロングボウ・レーダー[編集]
アローヘッド[編集]
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/a/a4/Apachefarnborough2006frontv.jpg/250px-Apachefarnborough2006frontv.jpg)
また、従来装備機の前席操縦席(副操縦士兼射撃手)には、中央にハンドクリップ、光学中継管(ORT)、目標指示電子表示および制御(TEDAC)の基本ユニットが入った小型のヘッド・ダウン表示ユニット(HDU)が一体化した表示/操作装置があり、ORTの表示を見るためには、頭を付けて覗き込む方式であったため、機体の周囲の状況を瞬時に把握することが困難になる欠点があったが、アローヘッド装備機には、ORTとHDUの代わりとして単色の大画面液晶表示装置が装備されており、画像の読み取りが一層高まると共に覗き込む必要もなくなるため、機体の周囲の状況に注意することが可能になっている。
このアローヘッドを最初に装備したAH-64Dは陸上自衛隊向けの機体であり、その後はアメリカ陸軍やイギリス陸軍の機体にも換装作業が進められている。
搭載兵装[編集]
搭載兵装は、基本的には従来のAH-64Aと変わらないが、搭載するヘルファイア対戦車ミサイルは、最新型のAGM-114K/LヘルファイアIIを搭載している。
AGM-114Kは従来のAGM-114A/C/Dと同じくセミ・アクティブ・レーザー誘導であるが、対電子光学対抗手段能力を有しており、先端にあるセミアクティブ・レーザー・シーカーをヘルファイア最適化ミサイル・システム(HOMS)とヘルファイア強化型レーザー・シーカー(HELS)を新規生産および既存のミサイルへ改修することにより、複数目標の補足が可能となっており、優先射撃ゾーン(PFZ)内での優先順位により割り当てられた目標が他のミサイルなどで破壊されてしまった場合には、別の目標に向かわせる機能を新しいデジタル式自動操縦装置/誘導電子機器を装備することで可能としている。その他に射程の延長(8kmから9km)、飛行時間の短縮(超音速飛翔)、100mmの装甲を貫通する能力を持つタンデム弾頭による破壊力の強化を有している。
AGM-114Lはアクティブ・レーダー誘導でミサイルに指示を送る無線周波(RF)ヘルファイアと呼ばれるもので、先端にミリメートル波レーダー・シーカーを持つAH-64Dの専用兵器である。
空対空ミサイルはFIM-92 スティンガー携行式地対空ミサイルの空対空派生型のAIM-92を搭載可能で、主にアメリカほど絶対的な航空優勢を確保できない海外の軍隊で使用されている。
運用国によっては独自の兵装を搭載することもあり、イスラエル空軍ではスパイク対戦車ミサイルの運用能力が付加されている他、イギリス陸軍ではブリムストーン対戦車ミサイルの運用能力を付加する予定。
エンジン[編集]
AH-64Dは、GEが開発したT700-GE-701C ターボシャフトエンジンを二基搭載している。一基のエンジンは標準で1,660shp、一基のエンジンがトラブルを起こし片発で飛行する場合は、1,800shpで30分間、1,890shpで10分間持続可能など非常に高性能で、通常飛行時は出力に余裕があるため高い機動性を生かした飛行が可能である。
陸上自衛隊が導入したAH-64Dは、GEのエンジンをIHIがライセンス生産をしているため名称がT700-IHI-701Cに変更されている。
アメリカ陸軍で運用されているAH-64Dの中には、2000年代後半頃よりエンジンの排気口が上方向になるよう改修を受けた機体も見られる。
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従来のアパッチのエンジン排気口。後方を向いている。
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排気口の向きが上方向になるよう改修された機体。
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横方向から見たエンジン改修機。2013年、アフガニスタン。
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上方向から見たエンジン改修機。排気口が確認出来る。2007年、バグダッド上空。
AH-64Eへの発展[編集]
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/5/54/2H8A9576_copy_%2814468158414%29.jpg/250px-2H8A9576_copy_%2814468158414%29.jpg)
名称がAH-64E アパッチ・ガーディアンと変更された。
採用国[編集]
![アメリカ合衆国の旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/a/a4/Flag_of_the_United_States.svg/25px-Flag_of_the_United_States.svg.png)
![アラブ首長国連邦の旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/c/cb/Flag_of_the_United_Arab_Emirates.svg/25px-Flag_of_the_United_Arab_Emirates.svg.png)
![イギリスの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/8/83/Flag_of_the_United_Kingdom_%283-5%29.svg/25px-Flag_of_the_United_Kingdom_%283-5%29.svg.png)
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/5/5b/WAH-64D_at_Middle_Wallop.jpg/250px-WAH-64D_at_Middle_Wallop.jpg)
![イスラエルの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d4/Flag_of_Israel.svg/25px-Flag_of_Israel.svg.png)
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/fe/Ah-64d.jpg/250px-Ah-64d.jpg)
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/b6/Apache_at_Air_Force_Day_Parade%2C_at_Air_Force_Station_Hindan%2C_in_Ghaziabad_%28cropped%29.jpg/250px-Apache_at_Air_Force_Day_Parade%2C_at_Air_Force_Station_Hindan%2C_in_Ghaziabad_%28cropped%29.jpg)
![インドの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/41/Flag_of_India.svg/25px-Flag_of_India.svg.png)
![インドネシアの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/9/9f/Flag_of_Indonesia.svg/25px-Flag_of_Indonesia.svg.png)
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/fe/Flag_of_Egypt.svg/25px-Flag_of_Egypt.svg.png)
![オーストラリアの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/b9/Flag_of_Australia.svg/25px-Flag_of_Australia.svg.png)
![オランダの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/2/20/Flag_of_the_Netherlands.svg/25px-Flag_of_the_Netherlands.svg.png)
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d8/Luchtmachtdagen_2011_Royal_Netherlands_Air_Force_%286188225481%29.jpg/250px-Luchtmachtdagen_2011_Royal_Netherlands_Air_Force_%286188225481%29.jpg)
![カタールの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/6/65/Flag_of_Qatar.svg/25px-Flag_of_Qatar.svg.png)
![大韓民国の旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/09/Flag_of_South_Korea.svg/25px-Flag_of_South_Korea.svg.png)
![ギリシャの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/5/5c/Flag_of_Greece.svg/25px-Flag_of_Greece.svg.png)
![クウェートの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/a/aa/Flag_of_Kuwait.svg/25px-Flag_of_Kuwait.svg.png)
![サウジアラビアの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/0d/Flag_of_Saudi_Arabia.svg/25px-Flag_of_Saudi_Arabia.svg.png)
![シンガポールの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/48/Flag_of_Singapore.svg/25px-Flag_of_Singapore.svg.png)
![中華民国の旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/72/Flag_of_the_Republic_of_China.svg/25px-Flag_of_the_Republic_of_China.svg.png)
![モロッコの旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/2/2c/Flag_of_Morocco.svg/25px-Flag_of_Morocco.svg.png)
![日本の旗](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/9/9e/Flag_of_Japan.svg/25px-Flag_of_Japan.svg.png)
陸上自衛隊[編集]
陸上自衛隊では、90機を導入したAH-1Sの減勢が2000年代に始まることを受けて、AH-1Sの調達終了後に後継機の選定︵AH-X︶を開始した。選定では、日商岩井︵現・双日︶と富士重工業︵現・SUBARU︶が提案するボーイングAH-64Dと、三井物産エアロスペースと三菱重工業が提案するAH-1Zの2機種が候補となり、両者の性能やコストなどの比較が行われた結果、2001年︵平成13年︶8月27日にAH-64Dの採用が決定した。 採用決定の翌年である2002年︵平成14年︶度予算には2機分の予算が計上され、2006年︵平成18年︶度には陸上自衛隊への納入が開始されるなど配備は進んだが、非常に高価な戦闘ヘリを毎年1、2機しか調達できず単価が高騰したことや、アメリカでAH-64DブロックIIの生産が終了したことなどを理由に陸上自衛隊は2008年︵平成20年︶度予算で調達を打ち切り、調達数を62機から13機に縮小することを決定した。 しかし、2008年度予算の概算要求に計上された3機の調達費には、残りの52機の調達費に分割するはずだったライセンス生産料金や設備投資費などを上乗せしたため、単価が216億円にまで高騰してしまった。その結果3機分の予算計上は見送られ、わずか10機で調達を終了することになった。富士重工はボーイング側に支払ったライセンス料や設備投資費など約350億円を回収できなくなったため、国を提訴し[15]、地裁では請求棄却となったが[16]高裁で請求の全部が認容された[17]。 結局、見送られていた3機分の予算は中期防衛力整備計画︵平成23年度~平成27年度︶で再び盛り込まれ、2011年度から2013年度までに1機ずつ予算計上されて、13機の調達を終了した。調達再開後は1機あたり52億円で取得しているが、最終的な1機当たりの平均単価は、本来含まれる筈のライセンス料と設備投資費(賠償金である350億)が含まれるため約95億円となっている。 2017年4月26日ロッキード・マーティンは、防衛省から陸上自衛隊のAH-64Dアパッチ・ロングボゥ攻撃ヘリコプターの目標捕捉・指示照準装置/パイロット暗視センサー︵M-TADS/PNVS︶ システムアップグレード契約と、3年間の長期維持契約︵PBL︶契約を受注したと発表した。同社はM-DSAは﹁レーザーの信頼性を高め、目標を指定して正確な目標範囲を設定するApacheの能力を向上させる﹂との声明を発表した[18][19]。 2022年12月16日に政府が閣議決定した防衛力整備計画で、将来的にAH-64D、AH-1S、OH-1を廃止、任務を無人航空機に移行することが明記された[20]。仕様[編集]
ボーイング社は、AH-64シリーズでは初めてAIM-92 ATAS︵Air To Air Stinger︶を装備可能にするなどの改修をおこなった日本向けのAH-64DブロックIIをAH-64DJPと命名しているが[19][21]、陸上自衛隊でも略称をAH-64D、愛称をアパッチ・ロングボウとしており、DJPという名称は使用していない[22]。また、AH-1Sは対戦車ヘリコプターに分類されているが、AH-64Dは戦闘ヘリコプターに分類されている。 AH-1Sとの間で情報を共有する﹁空空間情報共有システム﹂と、地上の隊員との間で情報を共有する﹁個人データ共有システム﹂の実験が行われている[23]。また、OH-1との間で情報を共有する﹁観測ヘリコプター用戦術支援システム﹂の実験も行われている。調達実績[編集]
予算計上年度 | 調達数 | 予算額 |
---|---|---|
平成14年度(2002年) | 2機 | 120億円 |
平成15年度(2003年) | 2機 | 148億円 |
平成16年度(2004年) | 2機 | 137億円 |
平成17年度(2005年) | 2機 | 146億円 |
平成18年度(2006年) | 1機 | 105億円 |
平成19年度(2007年) | 1機 | 75億円 |
平成23年度(2011年) | 1機 | 53億円 |
平成24年度(2012年) | 1機 | 52億円 |
平成25年度(2013年) | 1機 | 53億円 |
合計 | 13機 | 889億円 |
配備部隊・機関[編集]
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/05/JGSDF_Western_Army.svg/26px-JGSDF_Western_Army.svg.png)
事故[編集]
2018年2月5日16時43分頃、陸上自衛隊目達原駐屯地第3対戦車ヘリコプター隊︵当時、現第1戦闘ヘリコプター隊︶所属の機体が、佐賀県神埼市の住宅に墜落した。機体が墜落した住宅は全焼して隣家1棟も一部が焼けた他、機体の乗員2人が死亡し、全焼した住宅に住んでいた女子小学生が避難の際に[27]膝を打撲した[28]。 事故機は50時間の飛行時間ごとに実施される定期整備後の試験飛行中で、16時35分に離陸許可を受け、36分に離陸し、駐屯地上空を飛び、機体に異常がないことを確認してから福岡県久留米市方面に飛行を始めた。管制官との最後の交信は38分で、事故機側から異常を伝える内容はなかった。現場では、業務上過失致死及び航空危険行為処罰法違反の疑いで現場検証が行われた[27]。 ヘリが墜落する様子を、佐賀城北自動車学校の送迎車のドライブレコーダーが捉えていた。映像には、水平飛行していたヘリが突然機首を下に向け、部品を散乱させながらきりもみ落下する様子が映っている[29]。 現場から東に数百m離れた農地の10ヶ所以上で機体の部品が見つかっており、メインローターが上空でバラバラになった結果急激に墜落したと見られる。AH-64Dのメインローターヘッドは、1750時間の飛行時間ごとに交換する消耗品であり、事故機はすでに1回目のメインローターヘッドを交換をしていたため、陸自は整備不良の可能性もあるとみている[30][31]。これに関しては15日、墜落した機には飛行の中枢部品に不具合の修理履歴がある中古品が使われていたことが新たに報じられており、専門家は﹁中古品の再利用は航空業界では常識﹂としながらも、メーカーの修理や検査に加え、陸自側のチェック、管理が適切だったのかが調査の焦点になると指摘している[32]。 事故を受け、小野寺防衛相は陸自が保有する残り12機︵目達原、霞ヶ浦、明野の各駐屯地︶のAH-64Dの飛行停止とあわせ、陸海空自衛隊のすべてのヘリコプターについて点検や整備を徹底するよう指示した[33][34]。また同型機を運用する台湾も保有機を飛行停止した[35]。6日、防衛省で記者団に対し、機体からフライトレコーダー︵飛行記録装置︶を回収したと明らかにした[36]。 2018年5月28日、陸上自衛隊は事故調査の中間報告を行った。中間報告では墜落の原因として﹃主回転翼の羽根︵ブレード︶と回転軸をつなぐ﹁メインローターヘッド﹂内部の金属製ボルトが破損したことで、羽根が分離した﹄とし、操縦ミスや整備不良は否定している[37]。 2018年3月にアメリカ陸軍はAH-64Eについて、メインブレードをローターヘッドに固定するボルトの耐久性に深刻な問題が生じたため、問題が解決されない限りボーイングからの調達を中止すると発表したが、陸自の事故との関連は不明とされる[38]。派生型[編集]
- AH-64D アパッチ・ロングボウ
- ロングボウ・レーダー搭載型。
- AH-64DN アパッチ
- オランダ空軍向け生産型。ロングボウ・レーダー非装備で、スタブウイングに独自のミサイル防御システムを備える。
- WAH-64 アパッチ
- イギリス陸軍向け生産型(イギリス陸軍内での呼称はアパッチAH.1)。
- 詳細は「WAH-64 アパッチ」を参照AH-64E アパッチ・ガーディアン 旧称AH-64D ブロックIII。 AH-64F 構想中の派生型。新型タービン・エンジン開発計画AATE(en)で開発されたエンジンが搭載され、格納式のランディング・ギア、さらに前進する推力を稼ぐためにテイル・ローターを90度回転させる機構などが盛り込まれる予定である[39]。
性能諸元[編集]
●メインローター直径‥14.63m ●全長‥17.76m ●全高‥4.95m︵FCR頂部まで︶ ●回転円盤面積‥168.1m2 ●空虚重量‥5,353kg ●設計ミッション総重量‥8,000kg ●最大離陸重量‥10,101kg ●GE製 T700-GE-701C ターボシャフト×2 ●エンジン推力‥1,301kW ●超過禁止速度‥197kt/364.8km/h=M0.30 ●水平速度‥149kt/276km/h=M0.23 ●上昇率‥541m/min ●ホバリング高度限界‥4,171m︵地面効果内︵IGE)︶/2,888m︵地面効果外(OGE)︶ ●航続距離‥490km︵機内燃料のみ︶/1,896km︵フェリー時︶ ●乗員‥2名︵前席‥射撃手兼副操縦士/後席‥操縦士︶ ●固定武装‥M230A1 30mm機関砲×1 ●通常武装 ●AGM-114ヘルファイア 対戦車ミサイル ●AIM-92スティンガー 空対空ミサイル ●ハイドラ70ロケット弾登場作品[編集]
詳細は「AH-64に関連する作品の一覧」を参照脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
(一)^ 平成24年度概算要求の概要︵防衛省公式サイト︶ (二)^ “北朝鮮艇を波と識別…韓国軍アパッチヘリのレーダー”. 中央日報 - 韓国の最新ニュースを日本語でサービスします. 2020年12月19日閲覧。 (三)^ ﹁行くぞ!NEWSマン 海外軍関係NEWS﹂﹃Jwing﹄第244号、イカロス出版、2018年12月、88-93頁。 (四)^ “Boeing to Start Delivering Military Helicopters to India in 2018”. Wall Street Journal. (2015年10月3日) 2015年10月3日閲覧。 (五)^ 井上孝司﹁航空最新ニュース・海外軍事航空 インド向けAH-64E第一陣が到着﹂﹃航空ファン﹄第802号、文林堂、2019年10月、115頁。 (六)^ 井上孝司﹁航空最新ニュース・海外軍事航空 インド向けのAH-64E22機を完納﹂﹃航空ファン﹄第814号、文林堂、2020年10月、114頁。 (七)^ ﹃J-Wings﹄2021年4月、88頁。 (八)^ 井上孝司﹁航空最新ニュース・海外軍事航空 オーストラリアがAH-64E導入へ﹂﹃航空ファン﹄第824号、文林堂、2021年8月、114頁。 (九)^ ﹁航空最新ニュース﹂﹃航空ファン﹄第798号、文林堂、2019年6月、111-121頁。 (十)^ “韓国陸軍、AH-64Eアパッチ・ガーディアン36機を導入決定”. FlyTeam. (2013年4月22日) (11)^ “最新型戦闘ヘリ﹁アパッチ﹂ 初めて韓国軍に実戦配備”. 聯合ニュース. (2016年5月26日) (12)^ 井上孝司﹁航空最新ニュース・海外軍事航空 クウェートのAH-64E新造と改修で24機﹂﹃航空ファン﹄第819号、文林堂、2021年3月、115頁。 (13)^ “アパッチ攻撃ヘリの調達、なぜ頓挫?”. 東洋経済新聞社. (2014年11月3日) 2014年11月3日閲覧。 (14)^ “ボーイング、モロッコからAH-64Eを24機受注”. FlyTeam. (2020年6月29日) (15)^ “戦闘ヘリ発注中止で国を提訴 富士重、350億円請求”. 47NEWS. (2010年1月15日). オリジナルの2012年7月18日時点におけるアーカイブ。 (16)^ “防衛省ヘリ発注訴訟、富士重工が敗訴 東京地裁”. 朝日新聞. (2014年3月1日). オリジナルの2014年12月9日時点におけるアーカイブ。 (17)^ “防衛省ヘリ調達:購入中止でも初期投資は国に支払い命令”. 毎日新聞. (2015年1月30日). オリジナルの2015年1月29日時点におけるアーカイブ。 (18)^ “Japan’s Apache helicopters to get improved vision” (英語) (19)^ ab“Lockheed Martin to Upgrade and Support Sensors for Japan's Apache Fleet” (英語). Media - Lockheed Martin. 2022年12月9日閲覧。 (20)^ “AH-64DアパッチにU-125Aも…陸自戦闘ヘリや空自捜索機など廃止決定、無人機の時代へ”. FlyTeam. (2022年12月21日) 2022年12月27日閲覧。 (21)^ “HOME: ボーイング AH-64DJP アパッチ ロングボー 富士重工業が防衛庁に初号機をデリバリー”. web.archive.org (2007年10月30日). 2022年12月9日閲覧。 (22)^ 陸上自衛隊のAH-64D紹介ページのアーカイブ (23)^ “2師団・研本 野外ネット実験演習 最新装備の有効性確認 全部隊が情報共有”. 朝雲新聞. (2011年1月20日). オリジナルの2011年6月10日時点におけるアーカイブ。 (24)^ 防衛白書の検索 (25)^ “防衛省・自衛隊‥予算の概要”. www.mod.go.jp. 2022年4月12日閲覧。 (26)^ “令和5年度防衛白書 P.107 資料11主要航空機の保有数・性能諸元”. 防衛省. 2023年7月29日閲覧。 (27)^ ab朝日新聞 2018年2月6日夕刊1面 (28)^ “自衛隊ヘリ墜落 佐賀 神埼”. NHKニュース (日本放送協会). (2018年2月5日) 2018年2月6日閲覧。 (29)^ “陸自ヘリ落下の様子、自動車学校のドラレコに”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞社). (2018年2月6日) 2018年2月6日閲覧。 (30)^ “部品散乱、主回転翼が分離か 陸自ヘリ、整備不良の可能性も”. 共同通信 (共同通信社). (2018年2月6日) 2018年2月7日閲覧。 (31)^ “空中分解で制御不能か=専門家﹁整備ミス可能性﹂-陸自ヘリ事故” (32)^ “<陸自ヘリ墜落>修理、点検の検証が鍵に 事故究明で専門家﹁中古品再利用 業界では常識﹂”. 佐賀新聞. (2018年2月15日) (33)^ “陸自ヘリが住宅に墜落 隊員1人死亡1人捜索中 佐賀” (34)^ “陸自ヘリが民家に墜落…女児けが、隊員1人死亡” (35)^ “陸軍の﹁アパッチ﹂が飛行停止に 陸自ヘリ墜落事故受け”. 台湾: 中央社フォーカス台湾. (2018年2月6日) (36)^ “﹁フライトレコーダーを回収﹂と防衛相” (37)^ “陸自ヘリ墜落 ボルト破損が原因”. 東京新聞. (2018年5月29日) (38)^ “米陸軍、最新型アパッチ攻撃ヘリの調達中止 ローターヘッド部品に﹁深刻な問題﹂”. 産経ニュース (39)^ “ボーイング社、新型のアパッチとチヌークの開発を検討”参考資料[編集]
- 『軍用ヘリのすべて』イカロス出版・ミリタリー選書12(航空ジャーナリスト坪田敦史[1]著)
- 『JWings』イカロス出版 2007年10月号 アパッチ部隊取材レポート(航空ジャーナリスト坪田敦史[2]執筆)
- 青木 謙知編、2007、「Jwings戦闘機年鑑 2007-2008」、イカロス出版 ISBN 4-87149-939-1
- 『戦闘機年鑑2013-2014』イカロス出版、2014年 ISBN 978-4-86320-703-5
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
- AH-64Dアパッチ・ロングボウ戦闘ヘリコプター - ボーイング・ジャパン
- 戦闘ヘリコプター - 陸上自衛隊