放射線
放射線︵ほうしゃせん、英: Ionizing radiation/ionising radiation ︶とは、高い運動エネルギーをもって流れる物質粒子︵アルファ線、ベータ線、中性子線、陽子線、重イオン線、中間子線など[1]の粒子放射線︶と高エネルギーの電磁波︵ガンマ線とX線のような電磁放射線︶の総称をいう[2][注釈 1]。﹁放射線﹂に全ての電磁波を含め、電離を起こすエネルギーの高いものを電離放射線、そうでないものを非電離放射線と分けることもあるが、一般に﹁放射線﹂とだけいうと、高エネルギーの電離放射線の方を指していることが多い
[注釈 2][注釈 3]。
なお、広辞苑には﹁放射性元素の放射性崩壊に伴い放出される粒子放射線と電磁放射線︵主にアルファ線、ベータ線、ガンマ線︶を指す﹂[3]、とあるが、これは放射性物質の放射能を問題とする文脈ではそれを指す、というくらいの意味である[注釈 4]。
概要[編集]
放射性物質は放射性崩壊を起こすことで不安定な原子核の構造から安定した原子核の構造に変化しようとするが、その際に粒子または電磁波の形で放出されるのが放射線である[注釈 5][注釈 6]。放射線は、直接的あるいは間接的に、物質中の原子や分子を電離または励起させる︵物質にエネルギーを与える︶[注釈 7]。 放射線は生物にとって有害であり[4]、強度によっては死に至らせるため、放射線防護のために各国で法律が制定されている。ただし、どの程度︵線量︶でどのような害があるかについては様々な見解があり、その基準も国際統一されていない。詳細は「放射線#放射線障害とその防護」を参照
また、放射線は人間の五感では感じることができないため、必然的に放射線測定のための測定器を用いて検出や測定を行なう。生活環境にある放射線は﹁環境放射線﹂と呼ばれるが、誰しも世界平均合計で2.4[mSv]前後の自然放射線による被曝を受けていると言われる。
放射線は応用範囲が広く、工業・農業・医療その他の分野で有効利用されている。ただし、放射線の取り扱いには注意を要するため、取り扱いに関する資格がいくつか存在する[注釈 8]。
放射線の透過能力‥上からそれぞれアルファ線、ベータ線、ガンマ線、中性子線の透過能力の図。アルファ線は 紙1枚程度で遮蔽できる。ベータ線は厚さ数mmのアルミニウム板で防ぐことができる。ガンマ線は透過力が強く、コンクリートであれば50cm、鉛であっても10cmの厚みが必要になる。中性子線は挙動がほかの放射線と著しく異なり、鉛などの金属(原子番号の大きな元素)によって遮蔽することはできず、水やコンクリートの厚い壁に含まれる水素原子によって遮断できる。
放射線にはその発生機構や物理的性質によってさまざまなものが存在する。放射線は、その物理的性質から大まかに電磁放射線と粒子放射線に分けることができる。
電離放射線と物質との相互作用を表した図 (記号の意味は、―;粒子線、~;電磁波、○;電離作用)。上からアルファ線、 ベータ線、ガンマ線、中性子線と物質との相互作用を表している。 荷電粒子線(ここではアルファ線、ベータ線)が物質に衝突すると電離が起こるが貫通力は小さい。アルファ線は放出したほうの核も運動エネルギーを持ち、反跳・リコイルなどと呼ばれる。ベータ線が電離させた電子もまた電離作用を有するがこれをデルタ線 (放射線)という。更にベータ線は減速に伴って制動放射が起こる。一方、X線・ガンマ線や中性子線は電荷を持たないため、直接は電離作用をせず、間接的な電離作用も荷電粒子線に比べ小さいが、貫通力は大きい。中性子は水素などの軽元素と衝突すると反跳陽子(図中の赤丸)を生じ、この陽子が電離作用を持つ。非弾性散乱では衝突しただけでガンマ線を発生させる。また中性子捕獲が起きた場合にもガンマ線が放出される。
放射線は物質にエネルギーを与えるが、放射線の種類によってエネルギーを与える相互作用の仕組みは異なる。電磁放射線か粒子放射線か、粒子放射線の場合、電荷の有無や質量の大きさによってもエネルギーを与える機構は異なる。
放射線の検出には主に電離・励起現象が利用されるが、その他の放射線を原因として発生する二次的な現象を利用しているものもある。
放射線の種類[編集]
電磁放射線 (electromagnetic radiation)[編集]
主な電磁放射線‥ガンマ線︵γ線︶、X線 電磁放射線は波長が非常に短い電磁波である[注釈 9]。 公衆被曝で問題となるのは、この波長が極めて短いことで高い透過性をもった電磁放射線である[注釈 10][注釈 11]。粒子放射線 (particle radiation)[編集]
主な粒子放射線‥アルファ線︵α線︶、ベータ線︵β線︶、電子線[注釈 12]、陽子線、中性子線、重粒子線など 粒子放射線は質量を持った粒子の運動によって生じるものである。その物理的実体としては、原子を構成している素粒子や原子核そのものであったりする[注釈 13][注釈 14]。各放射線と物質との相互作用[編集]
放射線検出に用いられる反応については「#放射線検出器に用いられる反応」を参照
電磁放射線と物質との相互作用[編集]
粒子放射線と物質との相互作用[編集]
物質との相互作用を考える上で粒子放射線は電子からなる放射線[注釈 15]、中性子線及び重荷電粒子放射線[注釈 16]の3つに分類される[6]。 電子からなる放射線と物質との相互作用 電子からなる放射線が物質を通過中に起こす相互作用としては、電離・励起、制動放射、散乱がある[注釈 17]なお、一定の条件の下に、電磁放射線や電子が大きい原子番号の物質に放射線が入射するとカスケードシャワー[注釈 18]と呼ばれる現象が発生する[8]。 中性子と物質との相互作用 中性子は電荷を持っていないということが最大の特徴である。 中性子線と物質との相互作用はただ原子核との衝突のみである[注釈 19][注釈 20]。さらに、衝突は散乱︵弾性散乱、非弾性散乱︶と吸収反応︵中性子捕獲、核分裂反応、中性子放出反応、荷電粒子放出反応など︶に分類される[10]。
重荷電粒子放射線と物質との相互作用
重荷電粒子放射線と物質との相互作用は主に電離・励起である[注釈 21]。ほか重荷電粒子が低速であるとき原子核との弾性衝突、および相当高いエネルギーを持つとき制動放射が発生する[注釈 22][注釈 23]。
放射線の線量概念[編集]
放射線の線量概念はその測定したいものに応じて様々存在している。詳細は各線量概念の項目参照。放射能の強度については、放射能#放射性崩壊の速さとしての放射能 (activity) とその単位を参照。用語 | 意味 | 単位 |
---|---|---|
吸収線量[注釈 24] | 放射線によって物質が得たエネルギーを表す尺度 | |
等価線量 | 人体の各臓器に対して定義される、放射線の影響を表す尺度 | |
実効線量 | 個人の体全体に対して定義される、放射線の影響を表す尺度 | |
照射線量 | 照射された放射線の総量を表す尺度 |
放射線の検出・測定[編集]
「粒子検出器」も参照
放射線は肉眼にも見えず熱くもないので、検知するために特別な測定器具を用いる。測定したい線種と目的に応じて適切な器具を選ばなければならない[11]。
放射線検出器に用いられる反応[編集]
放射線は物質と相互作用するが、そのうちの一部及びそれらから誘発される二次的な現象は放射線検出器の原理として利用されている[12][注釈 29]。 電離 (ionize) 放射線と物質との相互作用によって原子は電離される。このとき放出された電子と陽イオンとでイオン対が生成されることになるが、これらを電気的に集めて入射した放射線︵電離をもたらした放射線︶を検出することができる。電離反応を利用した検出器としては、比例計数管、ガイガー=ミュラー計数管、半導体検出器、電離箱、霧箱、泡箱、放電箱などがある。 励起 (electrical excitation) 放射線によって励起された原子や分子が、その後に発光することがある。発光する物質をシンチレータ (scintillator) と呼ぶ。この発光現象を利用して放射線を検出器の原理とするものをシンチレーション検出器と呼ぶ。 その他の現象を利用したもの (一)化学反応‥放射線により誘発された化学反応や写真作用を検出器の原理としているものもある。フィルムバッジなど (二)放射線損傷 ‥放射線によって、物質の結晶に格子欠陥が生じたり、物質の材料科学的な物性値が変化したりすることを放射線損傷を受けたという。放射線損傷を利用した検出器としては固体飛跡検出器と呼ばれるものがある。 (三)チェレンコフ放射‥チェレンコフ検出器用途に応じた測定方法[編集]
環境にある放射線の測定 ●数日から数ヶ月の積算線量の測定‥写真乳剤、ガラス線量計、熱ルミネッセンス線量計 ●原子力施設や放射線利用施設の中の作業環境における線量測定‥サーベイメーター 個人線量の測定 ●個人の外部被曝線量を計測する‥フィルムバッジ、熱ルミネッセンス線量計 ●個人の内部被曝線量を計測する‥ホールボディカウンター放射線障害とその防護[編集]
人体が放射線にさらされることを被曝と言う。被曝は、放射線を身体に外部から浴びる外部被曝と、体内に放射性物質を取り込んだことによる被曝である内部被曝に分類される。詳細は「被曝」を参照
放射線は生物にとって有害であり[4]、浴びた放射線の線量に応じて何らかの障害、放射線障害が現れる。放射線障害は大まかに線量に応じて確率的影響 (stochastic effects) と確定的影響 (deterministic effects) に分類される[注釈 30]。
詳細は「放射線障害」を参照
放射線障害の歴史は概ねレントゲンによる X線の発見(1895年(明治28年 ))から始まるが、放射線の防護については1940年(昭和15年)ごろの原爆開発から保健物理という名称で調査・研究されている。
詳細は「保健物理学」を参照
国際放射線防護委員会︵ICRP︶の勧告では、﹁事故などによる一般公衆の被曝量[注釈 31]は、年間 1 mSv︵ミリシーベルト︶を超えないように﹂とされた︵1990年︵平成2年︶勧告による︶[14]。︵なお、放射線を扱う作業者については諸事情を考慮して︶、5年間で 100 mSv を超えてはならないとされた[14]。2007年︵平成19年︶の勧告では、これに追加する形で、個人が直接利益を受ける状況では1から20 mSv 以下とし、事故発生時等の被曝低減対策が崩壊している状況下では20から 100 mSv 以下とした[15]。
内部被曝防止は気密性の高い衣服、空気中の微粒子を取り除くフィルター、放射能汚染された水・食品の飲食を避けることによって防護される。
詳細は「放射線防護服」を参照
外部被曝は中性子線の場合水やパラフィンなど水素を含むもの︵重水素はより有効︶、ガンマ線やX線など高エネルギーの光子は鉛など原子番号の大きい元素で防ぐのが有効である。
原子番号の大きさが重要であり重ければいい訳ではない[16]。100keVのX線の場合、鉛は鉄の14倍も質量減衰係数が高い。ただ1MeV以上の高エネルギーガンマ線では原子番号が大きくても大して遮蔽能力は変わらない[17]。
背後二次放射線にも気をつけなければならない。反射した二次放射線が再度患者や同席する人間の身体を貫くこともある。背後二次線についてはむしろ鉄の方が抑制できる[16]。
このため鉛を鉄でサンドイッチする、表面を塗装するなどの工夫をすると鉛単体で用いるより良い。
詳細は「質量減衰係数#X線とガンマ線」を参照
α線やβ線は放射線は紙やアルミ板など薄い、軽い物質でも容易に遮蔽できる。ただしガンマ線などの二次放射線が生じることもある事に注意。
放射線の利用[編集]
農業や工業の領域においては、放射線の性質︵1.透過する性質、2.生物学的作用、3.化学的作用、4.電離・励起作用など︶を上手に利用した様々な技術や製品などがある。以下、各性質ごとに利用例を示す[注釈 32]。 1. 透過する性質 X線撮影、非破壊検査 放射線の一種であるX線を用いた撮影は医療分野、工業分野 等においても非破壊検査の一つの手法として利用されている [注釈 33] [注釈 34] [注釈 35]。 2. 生物学的作用 放射線滅菌、輸血用血液への放射線照射 放射線の生物作用は、医療衛生器具の殺菌・滅菌処理の一つの手法として利用されている[注釈 36]。特にプラスチック製品に対してコバルト60からのガンマ線照射が用いられている[注釈 37][注釈 38][注釈 39][注釈 40]。 発芽防止、品種改良、不妊虫法 動植物の品種改良の手法として放射線障害の遺伝的影響が利用されていることもある。食品分野においては植物の品種改良に放射線照射が利用されており[19]、また農業分野においては不妊虫放飼法を使った農業害虫駆除に利用されている[注釈 41]。 3. 化学的作用 電子線架橋技術 高分子のプラスチックやゴムなど有機材料にガンマ線や電子線を照射すると、分子鎖の間で結合する反応︵架橋[注釈 42]︶や分子鎖が切れて小さな分子になる反応︵切断︶が起こる[注釈 43][注釈 44]。 4. 電離・励起作用 火災報知設備の煙感知器の中には、アメリシウム241のアルファ線を用いている製品もある。医療利用[編集]
放射線医学 放射線は、放射線療法として脳腫瘍、皮膚がんなどの悪性腫瘍︵まれに良性腫瘍も︶を治療するためにも用いられる[注釈 45][注釈 46]。さらに、放射性物質を利用した治療法として、放射線のでる釘︵管︶を病巣に挿入してがん細胞を死滅させる小線源治療法などがある。日本における法的規制[編集]
被曝による放射線障害を避けることを目的に、日本においては次のような様々な法律を成立し、規制されている。
電離放射線からの労働者の保護に関する条約 (第115号)
1960年︵昭和35年︶6月に採択された国際労働機関による電離放射線を被曝しうる全ての労働者保護のための条約。16歳以下の者の雇用禁止、被曝量の限度の基準の設置、雇用者による事前と事後の健康診断や正当な医師の助言に反した作業の禁止が定められる。日本は1973年7月31日に批准している[21]。
原子力基本法
条文‥法
原子力の研究・開発及び利用推進によって将来におけるエネルギー資源を確保することを目的とする[注釈 47]。
核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律︵炉規制法︶
条文‥法 - 令
放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律︵障害防止法︶
条文‥法 - 令 - 規則
一般公衆を含めて放射線障害の防止を図るため、放射性同位元素︵除く核燃料物質・核原料物質︶などの使用・販売・賃貸・廃棄の規制を目的とする[注釈 48]。
電離放射線障害防止規則︵電離則︶
条文‥規則
厚生労働省令。放射線を扱う事業所で働く人の安全確保を目的とする[注釈 49]。
人事院規則一〇—五
条文‥規則
電離放射線障害防止規則の国立機関版
船員電離放射線障害防止規則
電離放射線障害防止規則の船員版
医療法の施行規則︵医療法︶
条文‥規則︵第四章︶
厚生労働省令。 放射線療法という利益がある医療分野における放射線利用の規制を目的とする。
放射性同位元素等車両運搬規則
国土交通省令。 運搬時の安全と運転者の安全確保を目的とする[注釈 50]。
福島復興再生特別措置法
条文‥法︵第四章︶
東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律
条文‥法︵第十三条︶
脚注[編集]
注釈[編集]
(一)^ 通常、電離放射線の名で定義され[要出典]、物質を通過する際に直接、あるいは間接にその物質の原子を電離する能力を持つ。
(二)^ *電離放射線にはα線、β線、γ線、X線、中性子線、陽子線、陽電子線、重粒子線などが含まれる。
●非電離放射線には、電子レンジで使われている極超短波、携帯電話やPHSで用いられている電波、赤外線、可視光などがある。 なお、紫外線は電離放射線と非電離放射線の境界に位置すると考えられることがある。周波数の高い紫外線は電離作用があり、生体破壊作用はある︵日焼け︶[1]。
(三)^ 電磁波工学では、放射する電磁界のことを﹁放射界﹂または﹁放射電磁界﹂と呼ぶことがあるが、空気を電離する能力を持たない電磁波のことを﹁放射線﹂とは呼ばない。
(四)^ なお、日本の法律﹁原子力基本法﹂の放射線の定義は﹁電磁波又は粒子線のうち、直接又は間接に空気を電離する能力をもつもので、政令で定めるもの﹂︵出典‥原子力基本法第3条第5号︶をいい、2012年現在政令で定められているものは﹁一.アルファ線、重陽子線、陽子線その他の重荷電粒子線およびベータ線 二.中性子線 三.ガンマ線及び特性エックス線︵軌道電子捕獲に伴って発生する特性エックス線に限る。︶ 四.1メガ電子ボルト以上のエネルギ一を有する電子線及びエックス線﹂︵核燃料物質、核原料物質、原子炉及び放射線の定義に関する政令第4条︶である。
(五)^ ﹁放射能﹂という言葉が﹁放射性物質﹂の意味で使われることがあるが、本来﹁放射能﹂の意味は﹁放射線を出す能力﹂であり、放射能を持つ物質である放射性物質とは異なる。また、﹁放射能漏れ﹂と︵あまり詳しくないような︶マスコミ関係者が言っている場合、﹁放射性物質﹂が漏れていることを言おうとしている場合と﹁放射線﹂が漏れていることを指そうとしている場合がある。﹁放射能﹂という言葉が実質上﹁放射性物質﹂と同義語で用いられてしまっている。それを認めても、放射性物質と放射線は全くの別物である。放射性物質を﹁放射能物質﹂﹁放射線物質﹂などと表記したりするのは誤解を助長する可能性があり、科学的、または社会的文章では適切ではない。
(六)^ なお、放射線は一般的に高エネルギーであることが条件とされるが、中性子線に限っては低エネルギーであっても放射線扱いされることが多い。
(七)^ 電離作用:原子の軌道電子をはじき飛ばすことによって、原子を陽イオンと電子に分離する作用
(八)^ 日本における関連資格として、診療放射線技師、診療エックス線技師、放射線取扱主任者、エックス線作業主任者、ガンマ線透過写真撮影作業主任者などがある。
(九)^ 電磁波には、電波︵ラジオに使われている中波、短波、テレビの超短波、通信のマイクロ波など︶、遠赤外線、赤外線、可視光線、紫外線が相当し、それぞれ波長が異なるに過ぎない。なお、波長によって名前をつけて区別しているのは、発生の方法やものに当たったときの反応に大きな違いがあるためである。ちなみに、紫外線は電離作用を有するが放射線に含めないことが多い。
(十)^ なぜレントゲン写真が撮れるのかと言えば、X線が人体を透過するためである。
(11)^ なお、電磁波は電磁気学的な波動現象であるが、光電効果やコンプトン散乱など量子力学的効果を扱う際は粒子︵光子、光量子︶であるとも考えることができる。
(12)^ 原子核崩壊によらず加速器で電子を加速するものを指す。
(13)^ α線、β線はその発見の歴史の中で物理的な正体が不明な時代に名前がつけられたために、他の粒子放射線とは異なって実体とは関係の無い名前になっている。
(14)^ アルファ線やベータ線などの荷電粒子放射線は霧箱を用いることでその飛跡を可視化することができる。
詳細は「霧箱」を参照
・^ ベータ線と電子線は区別されることからこのような表現とした。なお、陽電子︵positron︶も含む。
・^ アルファ線、陽子線など
・^ 陽電子については対消滅による光子放出もあるとされる[7]。
・^ 英: cascade shower
・^ 電荷が無い。また電気的に中性であることから、ほか荷電粒子に比べて原子の原子核と直接反応することが容易であるためである。
・^ 弾性衝突、非弾性衝突を繰り返すことで、中性子の速度は周りの衝突する原子や分子の速度と熱・統計力学的に等しくなる。このように熱・統計力学的気体分子のように扱える速度を持つ中性子を熱中性子 (thermal neutron) と呼び、核分裂反応などにおいて重要な役割を果たす[9]。
・^ 電荷を持っているという点では電子と同じであるが、電子は陽子の1800分の1の質量しか持たず、重荷電粒子放射線と物質との相互作用は電子のものとかなり異なったものとなる。
・^ 電子と異なり制動放射はほとんどの場合無視してよい。
・^ 重荷電粒子放射線は物質との相互作用のバリエーションは少ないが、その相互作用によって物質に与えるエネルギー量は大きい。
・^ 吸収線量の定義において物質の指定は無い。
・^ Gy = J/kg として定義される。1989年4月以前は吸収線量の単位として rad︵ 100rad。
・^ 日本では1989年4月以前はrem︵ v = 100rem。
・^ 1レントゲンは0°C、1気圧の空気中で、2.58 × 10−4クーロン/kgの電離を発生させる照射線量を意味する。
・^ この単位は国際単位系 (SI) に採用されず、日本では1989年4月の国際単位系への切り替え以降使われなくなった。
・^ 詳細な分け方については次を参照[13]。
・^ 放射線は生物だけでなくコンピューターにとっても有害であり、コンピューターは放射線を浴びることによってソフトウェアがエラーを起こしたり、半導体としての機能が失われたりする。人工衛星は宇宙空間で被曝することを前提として高い放射線耐性のあるシステムで作られている。ロボットが放射能漏れを起こしている原子炉内部で作業する場合にはコンピューターが放射線で破壊される危険があり、特殊な放射線耐性を持った電子機器でなければ正常に動作できない。
・^ 自然放射線や医療行為による被曝は含めないもの
・^ 性質の分類については次を参照した[18]。
・^ 医療分野では、主に放射線診断としてX線撮影やX線CT検査が用いられている。
・^ 工業分野では、例えば自動車の最終検査においては人間用の100倍程度の強いX線を使った断層撮影によって、車体全体を一度に検査することが可能になっている。航空機の溶接状態や、半導体チップの破損検査にも使用する。
・^ 他には例えば、アメリカ合衆国をはじめとする多くの国の出入国管理の現場では、テロ対策の一環として手荷物検査に厳重なX線を使った透視画像検査が行われている。
・^ ガンマ線照射によって、内部を透過する放射線が生み出すフリーラジカルが内部の微生物の DNA や RNA を傷つけ生理活性を失わせることで滅菌を行う。大腸菌であれば、60グレイ も受ければ完全に死ぬ︵死滅する︶。ただし、一部の耐放射線菌は強力なDNA修復能により遥かに強い放射線にも耐えうる。例えば、テルモコックス・ガンマトレランスは、セシウム137を線源とする30,000グレイ の非常に強力なガンマ線にも耐えることができる。
・^ 従来から医療衛生器具の殺菌・滅菌処理は﹁高圧蒸気処理﹂と﹁酸化エチレンガス処理﹂が行われているが、近年使用が増えるプラスチック製の使い捨て医療衛生用品は高温処理には適さず、また、金属製品でも、高圧蒸気釜での﹁ベイク処理﹂には時間・手間・費用が掛かる。酸化エチレンガスを使うには個々の器具を包装する前に行わねばならず、処理後に酸化エチレンガスが抜けた状態では再汚染の可能性があり、酸化エチレンガスが残留したまま包装すると医療従事者への健康被害が懸念される。
・^ 専用の処理工程がある建物まで対象製品を運ぶ手間を除けば、出荷前のダンボール箱に詰められた形態でも使用可能でベルトコンベアでコバルト60の周囲を一周させるだけの処理は簡便であり、残留物も残らない。特にプラスチック製のチューブでは真空引き処理などの工夫を行わない限りガスが容易には内部に行き渡らないため、ガンマ線照射の利便性が生かされている。
・^ 他にも例えば医療分野であれば、日本では2000年以降、移植片対宿主病(GVHD)の予防のために全ての他人血の輸血用血液へ放射線を照射して、これを引き起こす細胞障害性Tリンパ球を含む血中のリンパ球を壊してから輸血している。この処理によって、この病気の実質的な根絶を達成している。
・^ テロ対策として炭疽菌の殺菌に用いられることもある。例えば、アメリカ合衆国でのアメリカ炭疽菌事件以降、50州の全ての郵便局で放射線照射装置によって郵便物の炭疽菌に対する殺菌処理を行っている。
・^
根絶
●ベネズエラ、キュラソー島のラセンウジバエ
●日本、沖縄と奄美群島のウリミバエ
●日本、小笠原諸島のミカンコミバエ
●タンザニア、ザンジバル島のツェツェバエ
駆除進行中
●日本、沖縄と鹿児島のアリモドキゾウムシとイモゾウムシ
●エチオピアのツェツェバエ
●アメリカ合衆国のチチュウカイミバエ
他多数
タンザニアとエチオピアでの不妊虫放飼法を使ったツェツェバエの駆除はIAEAが主導して行われている。
・^ 例えば、タイヤの製造工程の途中でタイヤの形に成形された合成ゴムに電子線を照射して、ゴム分子間に架橋を作り強度を増すのに利用される。従来、架橋には硫黄が用いられたが、電子線照射導入後の廃タイヤは︵他の問題は残るが︶焼却後も硫黄酸化物 (SOx) を生じなくなった[20]。
・^ この架橋型の分子構造をもつ高分子用いて放射線を利用して力学的特性や耐熱性を向上させるため、電子線加速器を用いて自動車のプラスチック製やゴム製部品にも放射線が当てられて、エンジンルームなどの高温環境にも耐えられる製品が作られている。
また、自動車のプラスチック製内装部品の多くには、その製造過程で放射線が当てられている。ドアやシートに使われる緩衝材や断熱材などは、型に入れられたプラスチック基材の外側から放射線が当てられて外形が固められ、その後の加熱処理で内部に発泡を作ることで表面と内部を張り合わせなどを必要とせずに異なった性状で作ることが可能となっている。
・^ これら高分子が架橋型か崩壊型かはその高分子︵プラスチック、天然ゴムなど︶の分子構造に依存する︵最初から性質として決まっている︶。
・^ 患部に照射しがん細胞のDNAやRNAを破壊して細胞分裂を抑止したりアポトーシス︵細胞の自死︶をより強力にすすめてがん細胞を減らすことに利用されることもある。一般的な照射の方法は、正常細胞の許容線量の限界︵50-60Gy︶までを分割︵1日2Gy程度︶して組織に照射し、正常細胞は遺伝子の破壊を修復して生き残るが、自己修復作用が正常細胞より遅いがん細胞は破壊された遺伝子を修復する以前に再度照射を受けて遺伝子を修復できないために死んでゆくことを利用して、がんを小さくするというものである。
・^ 放射線療法として、その他に重粒子線︵炭素イオン線︶、陽子線︵水素イオン線︶など、陽子を加速したものを利用する最新の治療法などが開発されている。粒子線治療器は粒子線の細胞に与える強い細胞破壊力とブラッグ・ピークの特性を利用してがんの治療にあたるものである。
独立行政法人 国立がん研究センター東病院 ホームページ﹁陽子線治療について﹂2012-05-11更新版より
ただし、粒子線治療器はサイクロトロン を必要とするため、施設が巨大で設備費用も膨大なものとなる欠点がある。
・^ なお、核燃料物質には臨界量が存在し、低比放射能で扱う量が桁違いに多く、他の放射性同位元素と一律の規制になじまないことから、障害防止法の適用から除外されている核燃料物質はこの法律で規制される。
・^ なお、薬事法に規定する医薬品としての放射性同位元素は、医療法及び薬事法により規制され、障害防止法の施行令では適用除外である︵ただし、同じ医薬品でも臨床研究に用いた場合は薬事法が適用されず、障害防止法が適用される︶。
・^ 障害防止法では規制されない1MeV以下のX線発生装置は、この省令で規制される。
・^ 障害防止法と異なり、規制対象に広く核燃料物質も含む。
出典[編集]
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- ^ 電離放射線からの労働者の保護に関する条約(第115号)
参考文献[編集]
●東嶋和子﹃放射線利用の基礎知識:半導体、強化タイヤから品種改良、食品照射まで﹄講談社、2006年 ●放射線科学センター (2013), 放射線の豆知識 暮らしの中の放射線 ●日本アイソトープ協会(編) 編﹃放射線・アイソトープ 講義と実習﹄丸善、1992年。 ●草間 朋子、甲斐 倫明、伴 信彦﹃放射線健康科学﹄杏林書院、1995年。 ●草間 朋子(編) 編﹃看護実践に役立つ放射線の基礎知識―患者と自分をまもる15章﹄医学書院、2007年。 ●Raymond L.Murray 著、杉本 朝雄(訳) 編﹃原子核工学﹄丸善、1955年。 ●D.J.マルコム-ローズ 著、瀧 幸、松浦 辰男、泉水 義大︵訳︶ 編﹃化学・生化学のための放射化学入門﹄学会出版センター、1981年。 ●福士 政広、齋藤 秀敏、三枝 健二、入船 寅二、中谷 儀一郎﹃放射線基礎計測学﹄︵改訂版︶医療科学社、2008年。 ●宮武 修、中山 隆﹃モンテカルロ法﹄日刊工業新聞社、1960年。 ● 国際放射線防護委員会の2007年勧告 ICRP Publication 103. 国際放射線防護委員会. (2007) 日本語版PDFあり ●S. A. H. Mohammed; Walker (1986). “Application of Electron Beam Radiation Technology in Tire Manufacturing”. Rubber Chemistry and Technology. doi:10.5254/1.3538211.関連項目[編集]
●放射能 ●放射線障害 ●被曝 ●放射線医学 ●放射線取扱主任者 ●放射線管理手帳 ●ヴァン・アレン帯 ●デイノコッカス・ラディオデュランス - 放射線に対しても高い耐性を持つ生物。 ●放電#その他の放電 - 空気中でRF放電やマイクロ波放電があると空気を電離することになる。 ●放射 - ﹁radiation﹂という語を和訳するときに紛らわしい。 ●ヴィルヘルム・レントゲン - X線の発見を通して放射線の存在を確信した。符号位置[編集]
記号 | Unicode | JIS X 0213 | 文字参照 | 名称 |
---|---|---|---|---|
☢ | U+2622 |
- |
☢ ☢ |
radioactive |