デジタル大辞泉
「米」の意味・読み・例文・類語
メ ー ト ル ︻ 米 ︼
1 国 際 単 位 系 ︵ SI ︶ の 基 本 単 位 の 一 で 、 長 さ の 単 位 。 1 メ ー ト ル の 定 義 は 、 初 め 地 球 の 子 午 線 の 4 0 0 0 万 分 の 1 と さ れ 、 国 際 メ ー ト ル 原 器 が 作 ら れ た が 、 1 9 6 0 年 に は ク リ プ ト ン 86 の 原 子 が 真 空 中 で 発 す る 色 の 波 長 の 1 6 5 万 7 6 3 . 7 3 倍 と さ れ 、 1 9 8 3 年 か ら は 光 が 真 空 中 を 2 億 9 9 7 9 万 2 4 5 8 分 の 1 秒 間 に 進 む 長 さ と さ れ る 。 記 号 m メ ー タ ー 。
2 ﹁ メ ー タ ー 2 ﹂ に 同 じ 。
よ ね ︻ ▽ 米 ︼
2 ︽ 米 の 字 を 分 解 す る と 八 十 八 に な る と こ ろ か ら ︾ 88 歳 。 米 ( べ い ) 寿 ( じ ゅ ) 。
め‐め【▽ 米】
こめ。 「只今の引出物、―五十石、おあし百貫」〈虎明狂・比丘貞 〉
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メートル【米・米突】
〘 名詞 〙 ( [フランス語 ] mètre )① メートル法による長さの基本単位。もとは地球子午線の円周の四千万分の一と規定され、それにもとづいて作られたメートル原器によっていたが、一九六〇年クリプトン八六の原子から出る光の波長によって定義された。さらに八三年、光が真空中を二億九九七九万二四五八分の一秒間に進む長さと定義が改められた。約三尺三寸。記号 m メーター。→メートル法 。[初出の実例]「仏蘭西の一『メートル』は我三尺三寸弱に当る」(出典:西洋事情(1866‐70)〈福沢諭吉〉初) ② =メーター(米) ② [初出の実例]「其刀の長いほど大馬鹿であるから武家の刀は之を名けて馬鹿メートルと云ふが宜からう」(出典:福翁自伝(1899)〈福沢諭吉〉雑記) ③ =メーター ③ [初出の実例]「同じメートルで光は三倍強」(出典:日本橋(1914)〈泉鏡花〉三四) ④ =メートルせい(━制) ① ⑤ =メートルせい(━制) ② [初出の実例]「メエトルだから、電気を無駄づかひしちゃ悪いわ」(出典:雪国(1935‐47)〈川端康成〉) 米の語誌
( 1 ) 中 央 気 象 台 は 、 明 治 一 五 年 ︵ 一 八 八 二 ︶ に メ ー ト ル 法 を 採 用 し 、 ﹁ 仏 尺 ﹂ な ど と 訳 し て い た 。 そ の 後 メ ー ト ル 法 が 尺 貫 法 と と も に 法 定 の 度 量 衡 と な っ た た め に 、 新 た に ﹁ メ ー ト ル ﹂ を ﹁ 米 ﹂ と 表 記 す る よ う に 定 め 、 ﹁ ミ リ メ ー ト ル ﹂ ﹁ セ ン チ メ ー ト ル ﹂ ﹁ キ ロ メ ー ト ル ﹂ な ど も ﹁ 粍 ﹂ ﹁ 糎 ﹂ ﹁ 粁 ﹂ と い う 国 字 で 表 わ し た 。
( 2 ) ﹁ 珊 米 突 ﹂ ﹁ 仙 迷 ( セ ン チ メ ー ト ル ) ﹂ 、 ﹁ 米 突 ( メ ー ト ル ) ﹂ な ど の 表 記 も 併 用 さ れ た が 、 法 令 や 国 定 教 科 書 な ど に 片 仮 名 表 記 や ロ ー マ 字 表 記 と と も に 使 わ れ る よ う に な っ て 漢 字 表 記 の ﹁ 米 ﹂ ﹁ 粍 ﹂ ﹁ 糎 ﹂ ﹁ 粁 ﹂ が 定 着 し た 。
( 3 ) 昭 和 二 一 年 ︵ 一 九 四 六 ︶ に 当 用 漢 字 が 制 定 さ れ て か ら は 、 片 仮 名 や c m , m な ど の 記 号 に よ る 表 記 が 一 般 的 と な る 。
こ め ︻ 米 ︼
(一) 〘 名 詞 〙
(二) ① も み が ら を 取 り 去 っ た 稲 の 種 子 。 そ の ま ま の も の を 玄 米 、 搗 ( つ ) い た も の を 白 米 ま た は 精 米 と い う 。 よ ね 。 は ち ぼ く 。
(一) [ 初 出 の 実 例 ] ﹁ 岩 の 上 に 小 猿 渠 梅 ( コ メ ) 焼 く 渠 梅 ( コ メ ) だ に も 食 ( た ) げ て 通 ら せ か ま し し の を ぢ ﹂ ( 出 典 ‥ 日 本 書 紀 ︵ 7 2 0 ︶ 皇 極 二 年 一 〇 月 ・ 歌 謡 )
(二) ﹁ 百 疋 百 両 に 米 ( コ メ ) ︿ 高 良 本 ル ビ ﹀ を つ む で ぞ 送 ( お く ら ) れ け る ﹂ ( 出 典 ‥ 平 家 物 語 ︵ 13 C 前 ︶ 三 )
(三) ② 稲 。
(一) [ 初 出 の 実 例 ] ﹁ 日 の ち り ち り に 野 に 米 を 刈 ︿ 正 平 ﹀ わ が い ほ は 鷺 に や ど か す あ た り に て ︿ 野 水 ﹀ ﹂ ( 出 典 ‥ 俳 諧 ・ 冬 の 日 ︵ 1 6 8 5 ︶ )
(四) ③ 取 引 関 係 で 米 相 場 を い う 。
米 の 語 誌
( 1 ) コ メ と 類 語 ヨ ネ と の 違 い に つ い て 契 沖 は 、 脱 穀 し た も の が コ メ 、 さ ら に 精 白 し た も の が ヨ ネ で は な い か と し て い る ︹ 随 ・ 円 珠 庵 雑 記 ︺ 。 し か し 、 中 古 ・ 中 世 の 文 献 に よ る と 、 漢 文 訓 読 お よ び 和 文 的 な 作 品 で ヨ ネ が 多 い の に 対 し て 、 説 話 や 故 実 書 、 キ リ シ タ ン 文 献 な ど で コ メ を 用 い て お り 、 こ れ は ヨ ネ が 雅 語 的 ・ 文 章 語 的 性 格 を 有 し た の に 対 し て 、 コ メ が 実 用 語 的 ・ 口 頭 語 的 な 性 格 が 強 か っ た か ら で は な い か と 解 釈 さ れ る 。
( 2 ) こ の ほ か 、 類 義 語 と し て は 、 ﹁ 米 ﹂ の 字 を 分 解 し た ハ チ ボ ク ︵ 八 木 ︶ が あ り 、 主 に 記 録 体 の 文 章 に 用 い ら れ た 。 ま た 、 コ メ の メ を 繰 り 返 し た と 思 わ れ る メ メ や 、 魔 除 け の た め に 米 を ま き ち ら す こ と か ら き た ウ チ マ キ と い う 語 が 、 中 世 か ら 近 世 に 女 性 語 と し て 用 い ら れ た 。
メ ー タ ー ︻ 米 ︼
(一) 〘 名 詞 〙 ( [ 英 語 ] m e t e r , m e t r e )
(二) ① = メ ー ト ル ︵ 米 ︶ ①
(一) [ 初 出 の 実 例 ] ﹁ 五 十 七 メ ー タ ー ほ ど の 通 路 の 両 側 を ﹂ ( 出 典 ‥ 風 ︵ 1 9 5 4 ︶ ︿ 壺 井 栄 ﹀ 歌 )
(三) ② も の の 量 や 度 合 を は か る 器 械 。 電 流 計 、 電 圧 計 、 速 度 計 な ど 。 計 器 。 メ ー ト ル 。
(一) [ 初 出 の 実 例 ] ﹁ ら せ ん 状 に 二 千 二 三 百 メ ー ト ル 程 に 上 昇 し 、 そ れ か ら 箱 根 の 山 を 目 当 に 方 向 を 決 め る 。 メ ー タ ー は 段 々 昇 っ て く る ﹂ ( 出 典 ‥ 漫 談 集 ︵ 1 9 2 9 ︶ 飛 行 機 の 話 ︿ 大 辻 司 郎 ﹀ )
(四) ③ ガ ス 、 電 気 、 水 道 な ど の 消 費 量 や 使 用 量 を 自 動 的 に 表 示 す る 機 器 。 計 器 。 ま た 、 表 示 さ れ た 量 。 メ ー ト ル 。
(一) [ 初 出 の 実 例 ] ﹁ 彼 女 は し ゃ が ん で 計 量 器 の メ ー タ ー を よ ん だ が 、 針 は 間 違 ひ な く 、 今 零 の と こ ろ を 指 し 示 し て ゐ る の だ ﹂ ( 出 典 ‥ 龍 源 寺 ︵ 1 9 3 4 ︶ ︿ 渋 川 驍 ﹀ 三 )
(五) ④ ハ イ ヤ ー 、 タ ク シ ー な ど の 乗 用 旅 客 自 動 車 に 付 設 さ れ て い る 運 賃 料 金 表 示 器 。 距 離 、 時 間 に よ り 金 額 が 表 示 さ れ る も の 。
(一) [ 初 出 の 実 例 ] ﹁ 円 タ ク を 拾 ひ 、 メ ー タ ー の 一 円 増 し で 帰 宅 ﹂ ( 出 典 ‥ 古 川 ロ ッ パ 日 記 ‐ 昭 和 一 四 年 ︵ 1 9 3 9 ︶ 九 月 二 一 日 )
(六) ⑤ = メ ー ト ル せ い ︵ ━ 制 ︶ ②
べ い ︻ 米 ︼
(一) 〘 名 詞 〙
(二) ① こ め 。 よ ね 。
(一) [ 初 出 の 実 例 ] ﹁ 纔 に 米 ( ヘ イ ) を 給 せ 令 め た り ﹂ ( 出 典 ‥ 大 慈 恩 寺 三 蔵 法 師 伝 承 徳 三 年 点 ︵ 1 0 9 9 ︶ 九 )
(三) ② 長 さ の 単 位 ﹁ メ ー ト ル ﹂ に 当 て て 用 い る 語 。 土 地 の 面 積 な ど を い う ﹁ ━ 平 米 ( へ い べ い ) ﹂ な ど 。
(四) ③ ﹁ ア メ リ カ ﹂ の あ て 字 ﹁ 亜 米 利 加 ﹂ の 略 。
(一) [ 初 出 の 実 例 ] ﹁ 一 躍 し て 、 欧 ( を う ) の 上 に 、 米 ( ベ イ ) の 上 に 、 位 す る 様 に な る に は 、 茲 に 一 大 決 心 を 要 す る ﹂ ( 出 典 ‥ 海 底 軍 艦 ︵ 1 9 0 0 ︶ ︿ 押 川 春 浪 ﹀ 一 四 )
(五) ④ = べ い じ ゅ ︵ 米 寿 ︶
よ ね ︻ 米 ︼
(一) 〘 名 詞 〙
(二) ① も み が ら を 取 り 除 い た 稲 の 種 子 。 こ め 。 ︹ 十 巻 本 和 名 抄 ︵ 9 3 4 頃 ︶ ︺
(一) [ 初 出 の 実 例 ] ﹁ た だ 栗 を の み 食 て 、 更 に よ ね の た ぐ ひ を く は ざ り け れ ば ﹂ ( 出 典 ‥ 徒 然 草 ︵ 1 3 3 1 頃 ︶ 四 〇 )
(三) ② ( ﹁ 米 ﹂ の 字 を 分 解 す る と 八 十 八 に な る と こ ろ か ら ) 八 八 歳 。 米 寿 。 ま た 、 そ の 祝 。 よ ね の 祝 。
(一) [ 初 出 の 実 例 ] ﹁ か ほ の し は は さ ざ 波 や し が の 山 ご へ あ た ま は 雪 、 そ れ で も 八 十 八 じ ゃ と て わ が で に よ ね と や ら れ ま す ﹂ ( 出 典 ‥ 浄 瑠 璃 ・ 雪 女 五 枚 羽 子 板 ︵ 1 7 0 8 ︶ 中 )
め ‐ め ︻ 米 ︼
(一) 〘 名 詞 〙 こ め 。 な ま ご め 。
(一) [ 初 出 の 実 例 ] ﹁ 米 を め め と な づ く 、 心 、 如 何 。 答 、 米 を ば な べ て 、 め と い へ り ﹂ ( 出 典 ‥ 名 語 記 ︵ 1 2 7 5 ︶ 六 )
よ な ︻ 米 ︼
(一) 〘 造 語 要 素 〙 名 詞 ﹁ よ ね ︵ 米 ︶ ﹂ が 他 の 語 に つ づ く 時 に み ら れ る 形 。 主 と し て 名 詞 の 上 に 付 け て 用 い る 。 ﹁ よ な ぐ ら ︵ 米 蔵 ︶ ﹂ ﹁ よ な む し ︵ 米 虫 ︶ ﹂ な ど 。
出典 精選版 日本国語大辞典 精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
米 こめ
イ ネ 科 ︵ A P G 分 類 ‥ イ ネ 科 ︶ イ ネ 属 の 植 物 の 種 実 ︹ 穎 果 ( え い か ) ︺ を い う 。 世 界 に お け る 米 の 総 生 産 は 籾 ( も み ) 米 と し て 年 間 6 億 ト ン を 超 え 、 コ ム ギ 、 ト ウ モ ロ コ シ と と も に 世 界 の 三 大 穀 物 と い わ れ る 。 米 の 90 % 近 く は ア ジ ア の 諸 国 で 生 産 さ れ 、 そ の 大 部 分 は ア ジ ア で 消 費 さ れ る 。 日 本 人 の 主 食 と し て 重 要 な こ と は い う ま で も な く 、 イ ン ド 、 中 国 、 東 南 ア ジ ア 諸 国 と 極 東 諸 国 を 含 む 地 球 人 口 の 半 分 以 上 に と っ て 重 要 な 食 品 で あ る 。
﹇ 不 破 英 次 ﹈
籾 ︵ 籾 米 ︶ か ら 籾 殻 を 除 い た も の が 玄 米 ( げ ん ま い ) で あ り 、 玄 米 は 胚 芽 ( は い が ) 、 胚 乳 、 果 皮 か ら で き て い る 。 玄 米 全 粒 に 対 し 重 量 比 で 糠 ( ぬ か ) 層 ︵ 主 と し て 果 皮 と 糊 粉 層 ︶ 5 ~ 6 % 、 胚 芽 2 ~ 3 % 、 胚 乳 90 ~ 92 % で あ る 。 し た が っ て 搗 精 ( と う せ い ) ︵ 精 白 ︶ に よ り 玄 米 か ら 胚 芽 と 糠 層 を 除 い た 白 米 ︵ 精 白 米 ︶ は 主 と し て 胚 乳 部 分 を 集 め た も の で あ る 。 七 分 搗 ( づ ) き 米 は 、 十 分 搗 き 精 白 で 除 か れ る 量 の 70 % を 除 い た も の で 、 精 白 歩 留 ( ぶ ど ま ) り は 93 ~ 94 % で あ る 。 ま た 胚 芽 保 有 率 80 % 以 上 に 精 白 し た も の を ﹁ は い が 精 米 ﹂ と い う 。
胚 乳 の 主 成 分 、 し た が っ て 白 米 の 主 成 分 は デ ン プ ン で 、 乾 物 重 量 の 約 90 % を 占 め る 。 白 米 は 乾 物 重 量 で 約 6 . 8 % の タ ン パ ク 質 を 含 む 。 そ の ほ か 脂 質 、 無 機 質 、 ビ タ ミ ン あ る い は 食 物 繊 維 の 含 量 は 少 な い 。 こ れ は 、 デ ン プ ン 以 外 の 成 分 の 大 部 分 は 胚 芽 と 糠 層 に 含 ま れ て い る た め 、 精 白 の 段 階 で 除 か れ る か ら で あ る 。
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イ ネ 科 植 物 に は イ ネ の ほ か コ ム ギ 、 オ オ ム ギ 、 ト ウ モ ロ コ シ な ど 、 人 類 に と っ て 重 要 な 食 用 作 物 が 多 く 含 ま れ て い る 。 現 在 イ ネ 属 植 物 は 22 種 に 整 理 さ れ て お り 、 こ の う ち 2 種 が 栽 培 種 で あ る 。 す な わ ち サ テ ィ バ 種 O r y z a s a t i v a L . は 、 東 南 ア ジ ア の ア ッ サ ム 、 雲 南 地 方 に わ た る ヒ マ ラ ヤ 山 麓 ( さ ん ろ く ) に 紀 元 前 7 0 0 0 ~ 前 6 0 0 0 年 に 起 源 し た と い わ れ 、 現 在 世 界 中 の 稲 作 地 帯 の ほ と ん ど 全 部 で 栽 培 さ れ て い る 。 こ れ に 対 し ア フ リ カ イ ネ と い わ れ る グ ラ ベ リ マ 種 O r y z a g l a b e r r i m a S t e u d . は ア フ リ カ の 原 産 で 、 西 ア フ リ カ の ご く 一 部 で 栽 培 さ れ て い る に す ぎ な い 。 し か し こ れ ら 両 種 の 祖 先 は ど こ か で 連 な っ て い る と も 推 定 さ れ る 。
サ テ ィ バ 種 は 野 生 稲 の ペ レ ニ ス 種 か ら 栽 培 化 さ れ た こ と は ほ ぼ 確 実 で 、 こ の 野 生 稲 は 日 本 に 存 在 し な い か ら 、 サ テ ィ バ 種 は 日 本 で 栽 培 化 さ れ た と は 考 え ら れ ず 、 国 外 か ら 渡 来 し た も の で あ る 。 日 本 へ の イ ネ の 渡 来 経 路 は 少 な く と も 三 つ あ る 。 す な わ ち 朝 鮮 半 島 経 由 、 揚 子 江 ( よ う す こ う ) 南 か ら 、 お よ び ﹁ 海 上 の 道 ﹂ ︵ 南 方 か ら ︶ で 、 い ず れ も 北 、 西 あ る い は 南 か ら 九 州 に 最 初 に 上 陸 し 、 や が て 東 進 し た 。 渡 来 の 時 期 は 弥 生 ( や よ い ) 時 代 初 期 あ る い は 縄 文 時 代 晩 期 と い わ れ 、 そ れ 以 前 に ア ジ ア 大 陸 の 各 地 で は す で に 数 千 年 近 い 稲 作 の 歴 史 が 存 在 し て い た 。 し た が っ て 、 イ ネ の 種 子 と と も に 、 畦 畔 ( け い は ん ) を つ く り 水 利 を 行 う 水 田 稲 作 技 術 と 、 水 田 農 作 文 化 が 伴 っ て 渡 来 し た と 考 え ら れ る 。
﹇ 不 破 英 次 ﹈
世 界 の サ テ ィ バ 種 、 し た が っ て 世 界 の 米 は 、 大 き く 日 本 型 ︵ ジ ャ ポ ニ カ ︶ と イ ン ド 型 ︵ イ ン デ ィ カ ︶ に 分 け ら れ る 。 こ の 二 つ の イ ネ は 形 態 、 生 態 、 遺 伝 、 生 理 な ど の 性 質 に 多 く の 違 い が あ る 。 両 群 を は っ き り 分 類 す る の に 役 だ つ 単 独 の 形 質 は な い が 、 籾 の フ ェ ノ ー ル 反 応 、 幼 植 物 の 塩 素 酸 カ リ や 低 温 に 対 す る 抵 抗 性 、 種 子 の 毛 の 長 さ な ど を 組 み 合 わ せ て 判 別 関 数 を つ く り そ の 値 を 用 い る と 、 比 較 的 間 違 い な く 両 群 を 区 別 で き る 。 一 般 に 、 日 本 型 の 米 の 長 さ と 幅 の 比 は 1 . 7 ~ 1 . 8 で 、 イ ン ド 型 の 米 は 2 . 5 ぐ ら い の も の が 多 い 。 こ の 比 が 2 以 下 の も の は 見 た 目 に 丸 く 感 ず る 。 い わ ゆ る 内 地 米 と 外 米 は そ れ ぞ れ 日 本 型 と イ ン ド 型 に 相 当 す る も の が 多 い 。 日 本 型 米 で 炊 い た 飯 は 粘 り が あ る が 、 同 様 の 条 件 で 炊 飯 し た 外 米 は 粘 り が 少 な く ぱ さ ぱ さ し て い る 。 こ の 原 因 は 、 両 者 の デ ン プ ン の 性 質 の 差 と 米 粒 の 組 織 ・ 構 造 の 差 に 基 づ く と 考 え ら れ る 。 世 界 的 に は イ ン ド 型 が 広 く 食 用 と さ れ て お り 、 日 本 型 を 好 む の は 日 本 人 と あ と 少 数 で あ る 。
﹇ 不 破 英 次 ﹈
水田で栽培するイネを水稲(すいとう)、畑で栽培するものを陸稲(りくとう)という。日本で栽培されている水稲と陸稲はいろいろの性質に差があり、別の種のようであるが、これら二つのイネの種類はむしろ連続的な変異と考えられている。一定面積当りの収量は水稲のほうが大で、日本における陸稲の作付面積は水稲に比べはるかに少ない。
[不破英次]
米 に は 普 通 の 飯 米 に 用 い る 粳 米 と 、 餅 ( も ち ) あ る い は 赤 飯 に す る 糯 米 と が あ る 。 両 者 の 大 き な 差 は 主 成 分 の デ ン プ ン の 違 い で あ る 。 す な わ ち 、 粳 米 の デ ン プ ン は 直 鎖 成 分 の ア ミ ロ ー ス 約 20 % と 、 分 枝 鎖 成 分 ア ミ ロ ペ ク チ ン 約 80 % か ら な る の に 対 し 、 糯 米 の デ ン プ ン は ア ミ ロ ー ス を ほ と ん ど 含 ま ず 、 ア ミ ロ ペ ク チ ン が 大 部 分 で あ る 。 し た が っ て 、 粳 米 と 糯 米 は 胚 乳 部 分 の ヨ ウ 素 デ ン プ ン 呈 色 反 応 で 容 易 に 区 別 で き る 。 す な わ ち 、 粳 米 は ヨ ウ 素 ・ ヨ ウ 素 カ リ 水 溶 液 で 青 色 に 染 ま る の に 対 し 、 糯 米 は 赤 ~ 赤 褐 色 を 呈 す る 。 糯 米 を は じ め 、 糯 き び 、 糯 あ わ な ど 糯 種 の 穀 物 の ね ば ね ば し た 食 感 は 、 照 葉 樹 林 文 化 地 帯 の 人 々 に 好 ま れ る 特 徴 で あ る 。
﹇ 不 破 英 次 ﹈
日 本 の イ ネ は 改 良 に 改 良 が 重 ね ら れ て 今 日 に 至 っ て い る 。 し た が っ て 多 く の 品 種 ︵ あ る い は 栽 培 品 種 ︶ が 存 在 す る 。 米 の 需 給 が 不 足 か ら 緩 和 に 向 か う に つ れ て 、 消 費 者 の 嗜 好 ( し こ う ) は 、 良 質 で 食 味 が よ い も の を 求 め る 傾 向 が 強 く な り 、 多 収 型 の 品 種 に か わ っ て コ シ ヒ カ リ な ど 食 味 の 優 れ た 品 種 の 作 付 面 積 が 伸 び る よ う に な っ た 。 し か し 食 味 が 抜 群 に 好 評 な コ シ ヒ カ リ や サ サ ニ シ キ は 、 い ず れ も い も ち 病 に 弱 く 、 稈 ( か ん ) も 弱 く て 多 肥 条 件 で 倒 伏 し や す い 欠 点 が あ る 。 サ サ ニ シ キ は 1 9 9 0 年 ︵ 平 成 2 ︶ を ピ ー ク に 、 以 後 作 付 面 積 を 減 ら し て い き 、 2 0 1 7 年 産 米 で は 、 水 稲 粳 米 全 体 の 作 付 面 積 の う ち 、 5 3 . 9 % が コ シ ヒ カ リ 、 ひ と め ぼ れ 、 ヒ ノ ヒ カ リ の 上 位 3 品 種 で 占 め ら れ 、 以 下 、 あ き た こ ま ち 、 な な つ ぼ し 、 は え ぬ き 、 キ ヌ ヒ カ リ が 続 い て い る 。
﹇ 不 破 英 次 ﹈
水 分 が 少 な く 、 砕 け に く い 硬 い 米 を 硬 質 米 と い い 、 こ れ に 対 し 、 水 分 含 量 が 多 く 、 砕 け や す い 米 を 軟 質 米 と い う 。 同 じ 品 種 で も 土 壌 な ど 栽 培 条 件 の 違 い で 硬 質 米 に な っ た り 、 軟 質 米 に な っ た り す る こ と が あ る 。 西 日 本 で は 一 般 に 食 味 の う え で 軟 質 米 系 の コ シ ヒ カ リ な ど を と く に 好 み 、 東 日 本 で は 硬 質 米 が 好 ま れ る こ と が 多 い 。
﹇ 不 破 英 次 ﹈
登 熟 が 完 全 で 、 そ の 品 種 の 特 性 で あ る 粒 形 を 十 分 に 発 揮 し て い る 米 粒 を 完 全 米 と い う 。 こ れ に 対 し 、 完 全 米 以 外 の 、 粒 の 形 、 大 き さ 、 色 な ど に ど こ か 異 常 欠 陥 の あ る 米 粒 を 不 完 全 米 と い う 。 不 完 全 米 と し て は 、 青 米 ( あ お ま い ) 、 胴 割 米 、 腹 切 ( は ら ぎ れ ) 米 、 胴 切 米 、 ね じ れ 米 、 先 細 ( さ き ほ そ ) 米 、 茶 ( ち ゃ ) 米 ︵ 焼 ( や け ) 米 ︶ 、 乳 白 ( に ゅ う は く ) 米 、 死 ( し に ) 米 、 半 死 ( は ん し に ) 米 、 し い な 、 無 胚 米 、 双 ( そ う ) 胚 米 、 双 子 ( ふ た ご ) 米 な ど が 知 ら れ て い る 。 腹 白 ( は ら じ ろ ) 米 や 心 白 ( し ん ぱ く ) 米 は 完 全 米 と し て 扱 わ れ て い る 。
﹇ 不 破 英 次 ﹈
第 二 次 世 界 大 戦 中 、 1 9 4 2 年 ︵ 昭 和 17 ︶ 食 糧 管 理 法 に よ り 米 の 配 給 制 が と ら れ 、 ま た 物 価 統 制 令 ︵ 1 9 4 6 ︶ に よ り 1 9 6 9 年 ︵ 昭 和 44 ︶ ま で は 配 給 米 の 価 格 を 規 制 し て い た 。 し か し 米 の 需 給 の 緩 和 と 消 費 者 の 良 質 米 嗜 好 の ニ ー ズ に こ た え 、 1 9 6 9 年 度 産 米 か ら 政 府 は 配 給 米 ︵ 政 府 米 ︶ 以 外 に 自 主 流 通 米 制 度 を 発 足 さ せ た 。 自 主 流 通 米 は 価 格 を 自 由 に す る と と も に 、 米 卸 売 業 者 が 指 定 集 荷 業 者 か ら 自 由 に 買 い 上 げ る た め 、 価 格 形 成 の 原 理 に 従 い 、 良 質 米 は 相 当 高 価 格 に な る こ と も や む を え な い 。
1 9 9 5 年 ︵ 平 成 7 ︶ 、 食 糧 管 理 法 に か わ り ﹁ 主 要 食 糧 の 需 給 及 び 価 格 の 安 定 に 関 す る 法 律 ﹂ ︵ 通 称 食 糧 法 ︶ が 施 行 さ れ た 。 生 産 者 の 政 府 へ の 米 売 渡 義 務 が な く な り 、 非 合 法 だ っ た 自 由 米 が 計 画 外 流 通 米 と し て 公 認 さ れ 、 自 主 流 通 米 は 政 府 米 と と も に 計 画 流 通 米 と さ れ た 。 こ れ に よ り 、 政 府 米 の 価 格 も 需 給 を 反 映 し た も の と な っ た 。
さ ら に 2 0 0 4 年 に は 、 食 糧 法 の 改 正 に よ り 、 制 度 上 は 計 画 流 通 米 と 計 画 外 流 通 米 と い う 区 別 が な く な り 、 民 間 流 通 米 と 政 府 米 の 区 別 の み と な っ た 。
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か つ て は 配 給 米 、 自 主 流 通 米 と も に 、 農 産 物 検 査 法 に 基 づ い て 政 府 指 定 の 検 査 を 受 け る こ と が 義 務 づ け ら れ て い た 。 1 9 9 5 年 ︵ 平 成 7 ︶ の 計 画 流 通 制 度 導 入 以 降 も 計 画 流 通 米 に つ い て は 受 検 義 務 が あ っ た が 、 2 0 0 4 年 の 計 画 流 通 制 度 廃 止 に 伴 い 、 す べ て の 米 穀 に つ い て 任 意 検 査 と な っ た 。 検 査 実 施 主 体 は 、 か つ て は 国 で あ っ た が 、 2 0 0 0 年 の 農 産 物 検 査 法 の 改 正 に よ り 、 民 間 の 登 録 検 査 機 関 に 移 行 す る こ と と な っ た 。 玄 米 は 、 容 積 重 ︵ 米 1 リ ッ ト ル の 重 量 グ ラ ム ︶ 、 整 粒 % ︵ 被 害 粒 、 死 米 、 未 熟 粒 な ど を 除 い た 正 常 な 米 粒 % ︶ 、 水 分 % 、 形 質 ︵ 米 粒 の 糠 層 の 厚 薄 、 米 質 の 硬 軟 、 粒 ぞ ろ い 、 粒 形 、 光 沢 、 肌 ず れ 、 腹 白 の 程 度 な ど を 対 象 と す る が 、 こ れ ら は 簡 単 に 計 測 で き な い の で 、 標 準 品 、 す な わ ち 実 物 見 本 と 比 較 し て 等 級 別 の 程 度 を 示 す ︶ 、 被 害 粒 % ︵ 損 害 や 病 害 を 受 け た 米 粒 % ︶ 、 死 米 % ︵ 充 実 し て い な い 粉 状 質 の 米 粒 % ︶ 、 異 物 穀 粒 % ︵ 玄 米 以 外 の 穀 粒 % ︶ 、 異 物 % ︵ 石 や 砂 な ど ︶ の 検 査 規 格 に 基 づ き 、 一 ~ 三 等 お よ び 等 外 の 各 等 級 に 格 づ け さ れ る 。 こ の 玄 米 規 格 は 形 態 的 、 物 理 的 品 質 を 主 と し て 示 す も の で 、 容 積 重 ・ 整 粒 ・ 被 害 粒 の 項 目 は 精 白 ︵ 搗 精 ( と う せ い ) ︶ 歩 留 ( ぶ ど ま ) り の 指 標 と な り 、 水 分 は 貯 蔵 性 の 指 標 と な る が 、 食 味 と 直 接 関 連 す る 項 目 は 入 っ て い な い 。
ま た 2 0 0 1 年 4 月 か ら 、 J A S 法 ︵ 農 林 物 資 の 規 格 化 及 び 品 質 表 示 の 適 正 化 に 関 す る 法 律 ︶ に よ り 、 容 器 に 入 れ ら れ る か 包 装 さ れ た 販 売 米 に 対 し て 品 質 表 示 が 義 務 づ け ら れ た 。 表 示 の 内 容 は 、 一 括 表 示 と し て 、 ( 1 ) 名 称 ︵ 玄 米 、 も ち 精 米 、 う る ち 精 米 ま た は 精 米 、 胚 芽 精 米 ︶ 、 ( 2 ) 原 料 玄 米 ︵ 産 地 、 品 種 、 産 年 、 使 用 割 合 ︶ 、 ( 3 ) 内 容 量 、 ( 4 ) 精 米 年 月 日 、 ( 5 ) 販 売 者 ︵ 名 称 、 住 所 、 電 話 番 号 ︶ の 5 項 目 で あ る 。
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1995年(平成7)の食糧管理法廃止以前は、政府の検査を通さない自家米を売った場合、原則的に非合法の闇米(不正規米)となった。第二次世界大戦中および戦後、食糧不足で厳しかったときは、消費者(都市生活者)が農家へ闇米を買い出しに行った。1967年(昭和42)ごろから米の豊作が続き、米の需給は不足から緩和に向かい、消費者の嗜好は、配給米の食味に満足せず、良質で食味のよい米を求める傾向が強くなった。これに応じて、今度は農村から都会へ担ぎ屋が品質銘柄のよいおいしい白米の闇米を売り歩くことになった。やがて物価統制令適用の廃止、自主流通米の創設などによって闇米は姿を消したかにみえた。しかし、闇米が、巨額の資金をもつ組織的な商人によって操作されていることは周知のところであった。当時の闇米の農家庭先価格は銘柄米の自主流通米より低いくらいであったが、農家にとっては庭先で売れること、現金払い、税金と無関係という魅力があった。
1987年からは農家と消費者とが直接取引する特別栽培米制度が例外的な措置として設けられた。さらに1995年(平成7)11月に施行された食糧法では、食管法時代に自由米と称された闇米に対して、それを含めた正規の流通ルートからはずれる米を「計画外流通米」とし、販売数量を国に届ければ流通が許可されることになった。2004年からの改正食糧法では、計画外流通米は自主流通米とあわせて「民間流通米」と称されるようになった。
[不破英次]
1 年 以 上 た っ た 米 が 古 米 で 、 新 米 が 出 る と 、 そ れ 以 前 の 米 は 古 米 と な る 。 2 年 以 上 古 い も の は 古 々 米 と い う 。 米 の 貯 蔵 の 方 法 、 温 度 や 湿 度 の 違 い 、 さ ら に 貯 蔵 の 期 間 な ど に よ っ て 、 古 米 化 す る 程 度 が 異 な り 、 し た が っ て 味 の 低 下 の 程 度 が 異 な る 。 日 本 で は カ ン ト リ ー エ レ ベ ー タ ー の サ イ ロ ビ ン に 籾 を ば ら 貯 蔵 す る 以 外 は 、 大 部 分 の 米 は 玄 米 で 貯 蔵 さ れ 、 低 温 貯 蔵 ︵ 15 ℃ 以 下 、 相 対 湿 度 70 ~ 80 % ︶ や 準 低 温 倉 庫 ︵ 常 時 20 ℃ 以 下 ︶ で の 貯 蔵 以 外 の 普 通 の 貯 蔵 条 件 で は 、 玄 米 は 翌 年 の 梅 雨 を 越 し て 夏 に 入 る と 急 に 味 が 落 ち る の が 一 般 で あ る 。 高 温 ・ 多 湿 で は 早 く 古 米 化 し 、 味 が 落 ち る の は 当 然 で あ る が 、 こ う い う 条 件 下 で は 米 に カ ビ や 虫 が つ き 、 い っ そ う 味 を 悪 く す る 。 ま た 虫 や カ ビ を 防 ぐ た め に 薬 品 で 燻 蒸 ( く ん じ ょ う ) 、 消 毒 す る と 、 さ ら に 味 を 悪 く す る 原 因 に も な る 。 籾 で 貯 蔵 し た ほ う が 、 玄 米 で 貯 蔵 し た 場 合 よ り 、 カ ビ や 虫 が つ き に く い し 、 米 の 呼 吸 、 米 が 空 気 に 触 れ る 程 度 も 少 な い か ら 味 の 変 質 も 少 な い 。 ま た 白 米 貯 蔵 は 玄 米 貯 蔵 よ り 早 く 味 が 悪 く な る こ と が 知 ら れ て い る 。
﹇ 不 破 英 次 ﹈
清 酒 醸 造 の 原 料 米 に は 原 理 的 に は ど ん な 米 で も 使 用 可 能 で あ る 。 し か し 酒 造 り に 用 い る 米 、 と く に 米 麹 ( こ め こ う じ ) の 製 造 に 用 い る も と 米 ( ま い ) は 、 普 通 の 食 用 粳 白 米 ︵ 精 白 度 90 ~ 92 % ︶ よ り さ ら に 精 白 の 進 ん だ も の ︵ 80 % 以 下 、 と き に は 60 ~ 50 % ︶ を 用 い る 。 し た が っ て 、 精 白 し て も 砕 け に く く 、 ま た 麹 菌 の は ぜ 込 み の よ い も の が 酒 造 好 適 米 ︵ 醸 造 用 も と 米 ︶ と し て 特 定 さ れ て い る 。 こ れ ら は 一 般 に 大 粒 で 、 米 粒 の 腹 部 に あ る 腹 白 あ る い は 心 白 の 多 い 品 種 群 で あ る 。 す な わ ち 山 田 錦 ( に し き ) ︵ 兵 庫 県 、 岡 山 県 ︶ 、 雄 町 ( お ま ち ) ︵ 岡 山 県 ︶ と 五 百 万 石 ︵ 新 潟 県 ︶ が 酒 造 米 品 種 と し て 有 名 で あ る 。 し か し 酒 造 り の 機 械 化 が 進 む に つ れ て 、 機 械 製 麹 ( せ い き く ) に 適 し た 品 種 の 育 成 が 行 わ れ て い る 。
﹇ 不 破 英 次 ﹈
玄 米 の 表 面 の 種 皮 に 赤 色 系 色 素 を 含 ん で い る 米 を 赤 米 と い う 。 粒 色 は 淡 褐 色 か ら ほ と ん ど 黒 紫 色 の も の ま で あ る 。 普 通 、 飯 米 の 透 明 か や や 白 色 の 白 米 は 赤 米 の 突 然 変 異 で 生 ず る こ と が あ る 。 赤 米 が 混 入 す る と 米 の 品 質 を 下 げ る の で 生 産 農 家 は 赤 米 を 嫌 う 。 現 在 日 本 で み ら れ る 赤 米 に は 日 本 型 と イ ン ド 型 の 両 種 が あ る 。 日 本 型 赤 米 は 白 米 粒 と ほ ぼ 同 時 に 古 代 九 州 に 渡 来 し た も の と 考 え ら れ て お り 、 糯 性 と 粳 性 の も の が あ る 。 一 方 イ ン ド 型 赤 米 は 日 本 型 赤 米 よ り ず っ と 遅 く 、 11 世 紀 後 半 か ら 14 世 紀 に か け て 華 中 か ら 入 っ た 占 城 ( チ ャ ン パ ) 稲 ︵ ベ ト ナ ム 占 城 か ら 華 南 に 伝 わ っ た イ ン ド 型 イ ネ ︶ に 源 を 発 し て お り 、 大 唐 米 ( だ い と う ま い ) 、 て い と う 、 唐 法 師 ( と う ぼ し ) と も い う 。 粳 米 が 主 で あ る が 糯 種 も 存 在 す る 。 対 馬 ( つ し ま ) 、 壱 岐 ( い き ) 、 五 島 ( ご と う ) な ど で は 、 い ま で も 神 事 と し て 日 本 型 赤 米 種 を 用 い た 田 植 を 行 い 、 そ の あ と に 赤 米 の 飯 が 供 さ れ て い る 。 現 在 の 赤 飯 は こ の 赤 米 の 飯 か ら 由 来 し て い る と の 説 が あ る 。
﹇ 不 破 英 次 ﹈
米 に 種 々 の 微 生 物 が 繁 殖 し 、 変 質 米 ︵ 病 変 米 ︶ を 生 ず る こ と が あ る 。 ペ ニ シ リ ウ ム 属 の カ ビ が 米 に 生 育 す る と 黄 色 あ る い は 赤 紅 色 の 物 質 を 生 産 し 、 穀 粒 が 着 色 す る の で 、 こ の 変 質 米 を 黄 変 米 と い う 。 日 本 で 昔 か ら ご く わ ず か で あ る が こ の 現 象 は 知 ら れ て い た 。 と く に 第 二 次 世 界 大 戦 後 の 食 糧 難 の 時 代 に 輸 入 さ れ た 米 の い く つ か か ら 、 肝 臓 毒 を 生 ず る 有 害 ペ ニ シ リ ウ ム 菌 が 分 離 さ れ 、 1 9 5 4 ~ 1 9 5 5 年 を 中 心 に 大 き な 話 題 と な っ た 。
﹇ 不 破 英 次 ﹈
玄米の香りがとくに強いイネの品種を香米(かおり米(まい))とよんでいる。そのにおいはけっしてよいものではないが、普通の米にごく少量(米1升に対し杯(さかずき)1杯程度)を混ぜて炊飯すると、おいしい新米の香りが漂うという。全国各地でごく一部の農家が栽培し、すし米などにブレンドされる。また日本のみでなく東南アジア、アメリカなどでも栽培されている。
[不破英次]
米 の 一 代 雑 種 品 種 ︵ F 1 品 種 ︶ を 意 味 し 、 雑 種 強 勢 を 利 用 し て 収 率 を 向 上 さ せ る こ と を 目 的 と し て い る 。 ト ウ モ ロ コ シ の よ う に 他 家 受 精 す る 他 殖 性 作 物 は 、 人 工 的 に 自 殖 を 続 け る と 草 丈 が 小 さ く な り 、 収 量 も 著 し く 低 下 す る な ど 生 活 力 が 減 退 す る 。 こ の 現 象 を 自 殖 弱 勢 と い う 。 こ の 自 殖 系 統 間 の 雑 種 F 1 は 自 殖 以 前 の も の よ り 生 活 力 が 旺 盛 ( お う せ い ) と な る 。 こ の 現 象 が 雑 種 強 勢 ︵ ヘ テ ロ ー シ ス ︶ と よ ば れ る 。 雑 種 強 勢 は 固 定 さ れ ず 、 自 殖 す る と ふ た た び 弱 勢 化 す る 。 し た が っ て 、 F 1 に の み 現 れ 第 2 代 目 ︵ F 2 ︶ 以 降 は 退 化 す る 。 F 1 品 種 は ト ウ モ ロ コ シ で 歴 史 が 長 く 、 著 し い 成 果 を あ げ て い る 。 し か し も と も と 、 自 殖 性 の イ ネ や コ ム ギ で の F 1 品 種 の 実 用 化 に は い ろ い ろ と 困 難 な 点 が あ り 、 ハ イ ブ リ ッ ド ・ ラ イ ス は 中 華 人 民 共 和 国 が 1 9 7 4 年 世 界 で 初 め て 実 用 品 種 を 育 成 し て 以 来 、 多 数 の 品 種 を 育 成 し 、 実 用 化 段 階 に 入 っ て い る が 、 中 国 以 外 の 国 で は ま だ 実 用 化 に 成 功 し て い な い 。 日 本 で は 細 胞 質 雄 性 不 稔 ( ふ ね ん ) 系 と 稔 性 回 復 系 統 を 用 い て の ハ イ ブ リ ッ ド ・ ラ イ ス の 実 用 化 が 待 望 さ れ て い る 。 1 9 8 4 年 ︵ 昭 和 59 ︶ 農 林 水 産 省 北 陸 農 事 試 験 場 で 、 藤 坂 5 号 系 の 稲 を 母 親 に 、 レ イ メ イ と 外 国 稲 を か け 合 わ せ た も の を 父 親 に し た ﹁ 北 陸 交 1 号 ﹂ が 開 発 さ れ 、 種 苗 法 に 基 づ く 新 品 種 と し て 登 録 出 願 さ れ て い る 。 収 量 は 1 ヘ ク タ ー ル 当 り 7 . 9 ト ン と 多 く 、 従 来 の 最 多 収 品 種 で あ る ア キ ヒ カ リ よ り も 10 % 以 上 多 い 。 し か し 茎 が 長 く 穂 も 重 い の で 倒 伏 し や す く 、 実 用 化 は ま だ 不 明 で あ る 。
﹇ 不 破 英 次 ﹈
精 白 米 1 0 0 グ ラ ム ︹ こ れ は 茶 碗 ( ち ゃ わ ん ) 2 杯 分 の 飯 に ほ ぼ 相 当 す る ︺ の 総 エ ネ ル ギ ー 量 は 3 5 6 キ ロ カ ロ リ ー で 、 た と え ば 1 日 2 食 に 飯 4 杯 を 食 べ る と 1 日 摂 取 量 2 5 0 0 キ ロ カ ロ リ ー の 約 30 % が 米 か ら と れ る こ と と な る 。 こ の エ ネ ル ギ ー の 主 要 部 分 ︵ 80 % 以 上 ︶ は 糖 質 か ら 供 給 さ れ 、 そ の 主 体 は 消 化 の よ い デ ン プ ン で あ る 。 タ ン パ ク 質 は 約 7 グ ラ ム 含 ま れ て お り 、 茶 碗 4 杯 で 1 日 の タ ン パ ク 質 必 要 量 約 70 グ ラ ム の 5 分 の 1 が 米 で と れ る 。 米 の タ ン パ ク 質 は 、 植 物 性 の な か で は も っ と も 良 質 な も の の 一 つ で あ る 。 伝 統 的 な 日 本 の 食 事 で の 取 り 合 わ せ で あ る 米 と 大 豆 と 魚 は 、 タ ン パ ク 質 の 面 で 互 い に 相 補 い 、 摂 取 の 仕 方 と し て 理 想 的 に 近 い 。 ビ タ ミ ン B 1 ・ B 2 、 ナ イ ア シ ン な ど の B 群 ビ タ ミ ン と 食 物 繊 維 は 玄 米 に か な り 含 ま れ て い る が 、 胚 芽 や 糠 層 に そ の 大 部 分 が 存 在 す る た め 、 白 米 に は 多 く を 期 待 す る こ と は で き な い 。
﹇ 不 破 英 次 ﹈
世 界 の 米 生 産 量 ︵ 籾 ( も み ) ︶ は 1 9 9 0 年 代 に 入 っ て 5 億 ト ン 強 で あ っ た が 、 2 0 0 0 年 代 に な る と 6 億 ト ン を 超 え る よ う に な っ た 。 主 要 な 生 産 国 は 生 産 量 の 多 い 順 に 、 中 国 、 イ ン ド 、 イ ン ド ネ シ ア 、 バ ン グ ラ デ シ ュ 、 ベ ト ナ ム 、 ミ ャ ン マ ー 、 タ イ 、 フ ィ リ ピ ン 、 ブ ラ ジ ル 、 パ キ ス タ ン 、 ア メ リ カ 、 カ ン ボ ジ ア 、 日 本 で あ る 。 貿 易 量 は 全 生 産 量 の 5 % 程 度 で あ り 、 お も な 輸 出 国 は イ ン ド 、 ベ ト ナ ム 、 タ イ 、 ミ ャ ン マ ー な ど で あ り 、 お も な 輸 入 国 は 中 国 、 イ ン ド ネ シ ア 、 フ ィ リ ピ ン な ど で あ る 。 世 界 で 生 産 さ れ る 米 の 大 部 分 は イ ン ド 型 で 、 日 本 型 の 生 産 は 日 本 、 韓 国 、 中 国 の 一 部 と ミ ャ ン マ ー の 一 部 な ど ご く わ ず か で あ る 。
米 の 国 際 価 格 は 、 タ イ 国 貿 易 取 引 委 員 会 ︵ B O T ︶ が 発 表 す る 輸 出 公 表 価 格 ︵ B O T 公 表 価 格 ︶ を 基 準 と し て 値 決 め が 行 わ れ 、 年 々 変 動 す る 。 1 9 8 0 年 に は B O T 公 表 価 格 は 粳 精 米 ト ン 当 り 4 0 0 米 ド ル を 上 回 る 水 準 だ っ た も の が 、 そ の 後 低 迷 し 、 2 0 0 4 ~ 2 0 0 6 年 で は 3 0 0 米 ド ル 前 後 の 水 準 と な っ た 。 こ れ は キ ロ グ ラ ム 当 り 、 高 く と も 30 円 で あ り 、 日 本 の 米 価 ︵ 60 キ ロ グ ラ ム 当 り 約 1 万 6 0 0 0 円 と し て ︶ の 約 9 分 の 1 で あ る 。 し か し 、 2 0 0 7 年 10 月 以 降 、 ベ ト ナ ム 、 イ ン ド 、 中 国 な ど の 輸 出 規 制 の 影 響 も あ り 、 国 際 米 価 は 高 騰 し た 。 2 0 0 8 年 5 月 21 日 に ト ン 当 り 1 0 3 8 米 ド ル の 史 上 最 高 値 を 更 新 し た の ち は 下 落 し 、 同 年 11 月 以 降 は 、 ト ン 当 り 6 0 0 米 ド ル 前 後 の 水 準 と な っ た 。 そ の 後 も 下 落 し 、 2 0 1 6 年 か ら 2 0 1 7 年 に か け て は 3 8 0 米 ド ル 前 後 に な っ て い る 。
地 球 上 に お け る 人 類 の 栄 養 素 摂 取 の あ り 方 を い く つ か の 類 型 に 分 類 す る と 、 麦 類 、 米 卓 越 ︵ 米 食 ︶ 、 雑 穀 、 根 菜 作 物 卓 越 の 四 つ の 類 型 が 主 で 、 と く に 前 二 者 が 重 要 で あ る 。 こ れ ら の う ち 、 米 食 類 型 に 属 す る 人 口 は 世 界 最 大 の 集 団 を つ く っ て お り 、 イ ン ド 南 部 、 イ ン ド シ ナ 半 島 、 東 南 ア ジ ア 諸 国 、 中 国 南 部 、 北 朝 鮮 、 韓 国 、 日 本 が こ れ に 属 す る 。 一 方 、 麦 類 食 は 南 北 ア メ リ カ 、 ヨ ー ロ ッ パ 、 ロ シ ア な ど に 広 が っ て い る 。 す な わ ち 、 こ れ ら は そ れ ぞ れ の 植 物 の 生 育 適 性 で 決 ま っ て い る と い え る 。 た だ し イ ネ は 他 の 雑 穀 に 比 べ 水 田 で 栽 培 で き る た め 収 量 が 多 く 、 安 定 し て お り 、 味 が よ く 、 穀 粒 が 大 き く て 精 穀 お よ び 調 理 し や す い な ど 有 利 な 点 が 多 い 。 さ ら に 水 稲 は 連 作 が 可 能 で 、 ト ウ モ ロ コ シ や 麦 類 の よ う な 畑 作 物 と 異 な り 、 水 田 で は 表 土 流 出 が 少 な い 利 点 も 加 わ っ て 、 今 後 イ ネ の 生 産 は 世 界 的 に 増 加 す る 可 能 性 が 大 き い 。 事 実 、 コ ム ギ を お も な 食 物 と し て い た 所 で も 、 水 稲 栽 培 が 可 能 な 所 で は 米 作 に 転 向 し 、 米 を 食 べ る よ う に な る 例 が 多 い 。 日 本 の よ う に 米 作 に 適 し 、 従 来 米 を 主 食 と し て き た の に 、 コ ム ギ の ほ う へ 嗜 好 が 移 っ た と い う 例 は き わ め て ま れ な 例 外 と い え る 。
﹇ 不 破 英 次 ・ 横 尾 政 雄 ﹈
米 は 植 物 学 的 に 2 種 あ る 。 一 つ は 中 国 南 部 の 山 地 で 栽 培 の 始 ま っ た 普 通 の 稲 の も の で あ る 。 他 は 西 ア フ リ カ の ニ ジ ェ ー ル 川 中 流 域 で 栽 培 化 さ れ た グ ラ ベ リ マ 種 で 、 ア フ リ カ 中 部 の か な り の 地 域 に 栽 培 が あ る 。 し か し 、 グ ラ ベ リ マ 種 は そ の 地 域 の 雑 穀 農 耕 文 化 の 一 要 素 と し て と ど ま り 、 独 自 の 米 食 文 化 に ま で は 展 開 し な か っ た 。
東 ア ジ ア 原 産 の 普 通 の 稲 は 、 東 ア ジ ア で 、 西 ア ジ ア 起 源 の 麦 作 文 化 に 対 応 す る 特 色 の あ る 稲 作 文 化 を 生 み 出 し 、 独 自 性 の 強 い 米 食 文 化 を つ く り あ げ た 。 そ の 文 化 は 日 本 、 朝 鮮 、 中 国 の 中 南 部 、 東 南 ア ジ ア ︵ 東 端 は ス ラ ウ ェ シ ︶ 、 西 は ミ ャ ン マ ー と イ ン ド の ア ッ サ ム 地 方 、 ヒ マ ラ ヤ の ブ ー タ ン 、 シ ッ キ ム 、 ネ パ ー ル に 及 ん で い る 。 イ ン ド の 広 大 な 稲 作 地 帯 、 バ ン グ ラ デ シ ュ は 稲 作 を し て い る が 、 稲 作 文 化 と し て は や や 異 な っ た も の で 、 そ の 米 食 も や や 異 な っ た も の と 考 え ら れ る 。
米 を 食 用 と す る こ と は 、 稲 の 栽 培 化 よ り も 当 然 古 く か ら 行 わ れ て い た と 考 え ら れ る 。 そ れ は 野 生 稲 の 採 集 に よ っ て 食 用 に し て い た 。 野 生 稲 は ア ジ ア 、 ア フ リ カ 、 中 米 の 熱 帯 水 湿 地 に 各 種 が 分 布 し て い る が 、 そ れ ら の な か で ア ジ ア の 普 通 稲 、 ア フ リ カ の グ ラ ベ リ マ 種 が 栽 培 化 さ れ 、 中 米 の 野 生 稲 は 利 用 さ れ な か っ た 。 考 古 学 的 に は タ イ 国 の 北 東 部 の ノ ン ノ ク タ ー の 遺 跡 か ら 稲 の 出 土 が 確 か め ら れ て い る が 、 そ れ が 野 生 採 集 か 栽 培 か は 明 ら か で な い 。 そ の 年 代 は 紀 元 前 3 5 0 0 年 こ ろ と さ れ て い る 。 中 国 の 長 江 ( ち ょ う こ う ) ︵ 揚 子 江 ( よ う す こ う ) ︶ 地 域 で も 最 近 に な っ て 非 常 に 古 い 稲 作 文 化 が 発 掘 さ れ て い る が 、 い ま だ 稲 作 文 化 の 年 代 的 編 年 は で き て い な い 。 い ま ま で の 資 料 か ら み る と 、 稲 を 食 用 と し た 歴 史 は だ い た い 6 0 0 0 年 く ら い さ か の ぼ る と い っ た と こ ろ で あ ろ う 。
﹇ 中 尾 佐 助 ﹈
日 本 の 古 墳 時 代 か ら は 土 器 の 蒸 し 器 が 多 く 出 土 し 、 糯 米 ( も ち ご め ) を お こ わ と し て い た と み ら れ て い る 。 奈 良 ・ 平 安 時 代 で は 糯 米 の 蒸 し た お こ わ が 強 飯 ( こ わ い い ) と よ ば れ 正 式 の 食 事 と さ れ て い た が 、 ほ か に 粳 米 ( う る ち ま い ) の 固 粥 ( か た か ゆ ) 、 汁 粥 ( し る か ゆ ) が あ り 、 現 在 日 本 の 米 飯 は 固 粥 か ら 由 来 し て い る 。 中 国 で は 春 秋 戦 国 時 代 か ら 漢 代 に か け て は 黄 河 地 帯 で は 糯 米 の お こ わ が 米 の 標 準 的 料 理 法 で あ っ た 。 現 在 で も タ イ 人 の な か で は 糯 米 が 好 ま れ 、 中 国 南 部 の タ イ の 人 々 の 一 部 、 ラ オ ス お よ び 近 傍 の タ イ の 人 々 で は 糯 米 の お こ わ が 常 食 に な っ て い る 。
粳 米 の 飯 を つ く る こ と は 、 金 属 鍋 ( な べ ) の な い 土 器 だ け の 時 代 で は 困 難 で あ っ た 。 粥 を つ く る に は 土 器 で も よ い が 、 飯 を 炊 く と 土 器 に お こ げ が で き や す く 、 破 損 す る こ と が 多 い 。 そ の た め 飯 の 炊 き 方 は い ろ い ろ な く ふ う が 各 地 で な さ れ た 。 イ ン ド ネ シ ア の よ う に 土 器 の 中 に 竹 笊 ( ざ る ) を 入 れ て 煮 た り 、 大 量 の 水 で 半 煮 え の と き に 水 を 取 り 去 り 、 そ の 後 に 弱 火 で 蒸 し た り し た 。 こ の 方 法 は 湯 ど り 法 と よ ば れ る も の で 、 朝 鮮 、 中 国 、 東 南 ア ジ ア 、 イ ン ド な ど で 慣 行 と な っ た 方 法 で あ る 。 日 本 の 現 在 普 通 の 飯 の 炊 き 方 は 、 一 定 量 の 水 で 終 わ り ま で 炊 き 上 げ る 方 法 で 、 炊 き 干 し 法 と よ ば れ て い る 。 東 南 ア ジ ア 、 イ ン ド に も 炊 き 干 し 法 は 都 市 な ど に あ っ て 、 現 在 農 村 部 に も そ の 方 法 が 広 が り つ つ あ る 。
米 の 粉 食 法 は 米 食 文 化 地 帯 の 全 部 に わ た り 、 従 属 的 に み ら れ る 。 そ れ は 湿 式 製 粉 法 に よ る も の で 、 白 米 を 一 晩 水 に つ け て 吸 水 さ せ 、 石 臼 ( い し う す ) な ど で 製 粉 す る と 、 ぬ れ た か た ま り に な る 。 こ れ が 粢 ( し と ぎ ) で 、 日 本 、 朝 鮮 、 中 国 、 フ ィ リ ピ ン 、 ス リ ラ ン カ そ の 他 の 地 域 に み ら れ る 。 粢 は 日 本 で は そ の ま ま 神 事 に 供 さ れ 、 そ の 他 の 国 で は さ ら に 加 熱 加 工 し て 食 用 に し て い る 。 フ ィ リ ピ ン で は 粢 か ら 蒸 し パ ン を つ く り 、 ス リ ラ ン カ で は 麺 ( め ん ) 状 製 品 、 チ ャ パ テ ィ 状 食 品 を つ く っ て い る 。 東 南 ア ジ ア で は 粢 か ら 菓 子 を つ く る こ と が 多 い 。
﹇ 中 尾 佐 助 ﹈
東 ア ジ ア の 米 食 地 帯 で は 米 の 飯 を 主 食 と し て お り 、 そ れ に 副 食 を あ わ せ て と る と い う 食 事 体 系 が 確 立 し て い る 。 こ の 場 合 に は 米 の 飯 は 純 白 、 淡 味 の も の が 選 ば れ て い る が 、 米 質 に つ い て は 細 か な 微 妙 な 嗜 好 ( し こ う ) が で き て い る 。
イ ン ド の 中 西 部 、 パ キ ス タ ン か ら 始 ま り 、 そ の 以 西 の イ ラ ン 、 西 ア ジ ア 、 ヨ ー ロ ッ パ で は 米 は 麦 の 次 に 位 す る 重 要 性 を も っ て い る が 、 そ の 料 理 法 の 基 本 は 異 な っ て い る 。 洗 っ た 米 を 油 で 炒 ( い た ) め 、 塩 味 を 加 え て 炊 く プ ラ オ が 原 型 と な っ て い る 。 プ ラ オ に は 香 辛 料 、 乾 果 物 、 肉 な ど 加 え た 上 等 品 も あ る 。 プ ラ オ の 名 は ヨ ー ロ ッ パ に 伝 わ り ピ ラ フ と な っ て い る 。 イ ベ リ ア 半 島 の パ エ リ ャ は 、 こ の 系 統 の も の で あ る 。 ま た イ タ リ ア に は リ ゾ ッ ト と よ ば れ る お じ や 状 の 米 の ス ー プ が あ る 。 ヨ ー ロ ッ パ で は 最 近 に な っ て 、 プ レ ー ン ・ ラ イ ス や 米 料 理 が 皿 の 上 に 盛 合 せ と し て 利 用 さ れ る よ う に な っ て き た が 、 そ れ は 食 事 の 主 役 と い う も の に は な っ て い な い 。
現 在 の 米 食 人 口 は 世 界 人 口 の 51 % と さ れ て い る が 、 そ の 大 部 分 は ア ジ ア に 住 ん で い る 。
﹇ 中 尾 佐 助 ﹈
日本列島は温帯でモンスーン地帯の北部に位置し、年間の雨量1000ミリメートル以上、イネの生育期間90日の気温20℃以上、1日の気温落差10℃内外、年間温度差25℃以上と、夏季に水と温度に恵まれ水田稲作にもっとも適した地といえる。したがって古代稲の渡来以来、数千年に及ぶ歴史は稲作とともに歩んできたといっても過言ではない。まず日本の国家自体が「豊葦原(とよあしはら)の千五百秋(ちいおあき)の瑞穂の地(みずほのくに)」といわれたように、稲作の定着とその生産力の拡大につれて形成され、原始国家の成立後6世紀なかばには大和(やまと)に統一国家が形成された。その後、国家運営の基礎に田とイネと米が置かれ、701年(大宝1)に完成した律令(りつりょう)制度のなかで土地制と税制が整えられ、国家の基礎が固められた。米は貢租の中心に位置づけられ、これは近世まで続いた。次に荘園(しょうえん)がつくられたが、9世紀には公営田(くえいでん)や勅旨田が広がった。中世に入り武士が力をつけ、公家(くげ)や寺社の支配下にあった荘園をめぐる争いが激化した。武士団は武力を背景に土地を守りさらに拡充するために結束し、結局は、鎌倉幕府樹立による強固な封建的主従関係が成立した。さらに近世に入り、幕府、諸藩の所領は米の生産高で表され(石高制)、米遣いの経済とよばれるほど米は重要な商品となった。諸産業の発達のなかで、交通運輸が発達し、とくに水上大量輸送が可能となることにより、貨幣経済の浸透していく過程で、江戸時代諸藩の年貢米の集散と換金の中心地大坂が経済活動の中心となった(堂島米市場)。また明治維新後の近代国家の成立過程で行われた地租改正では、全国の土地について官・公・民の区分が明らかにされ、民有地については所有権を認めるとともに、地主には地租を負担させた。すなわち、この土地の大もとは田であり、地租の大部分は米を換金して納められた。
[不破英次]
水 稲 農 耕 は 、 小 区 画 の 隣 接 し あ っ た 水 田 に お い て 気 象 条 件 の 変 化 や 病 虫 害 に 抵 抗 し な が ら 、 田 植 、 雑 草 除 去 、 収 穫 な ど の 適 期 に お け る 膨 大 な 作 業 と 、 相 互 の 水 田 を 結 ぶ 水 の 管 理 を 伴 っ て 進 め ら れ る 。 し た が っ て 、 一 定 地 域 の 水 田 を 対 象 と し て 強 固 な 横 組 み の 共 同 社 会 、 す な わ ち 農 村 共 同 体 が 形 成 さ れ た 。 昨 今 、 都 市 型 、 工 業 型 地 域 社 会 が 優 勢 を 占 め る と い わ れ る が 、 今 日 で も 人 口 の 3 分 の 1 以 上 は 農 村 に 定 住 し て お り 、 ま た 都 市 生 活 者 も か な り の 部 分 が 農 村 出 身 者 で あ る こ と を 考 え る と 、 農 村 型 共 同 社 会 が 日 本 社 会 に 及 ぼ し て い る 影 響 は 大 き い 。 ま た 、 水 田 稲 作 に お け る 収 穫 へ の 期 待 、 労 働 の 厳 し さ 、 気 象 や 病 虫 害 に よ る 災 害 の 恐 ろ し さ な ど が 、 結 果 と し て 日 本 人 の 信 仰 を 生 み 、 祭 り や 芸 能 を 育 て た 部 分 が 大 き い 。
日 本 人 の 食 生 活 に お い て 米 は 昔 か ら 主 食 で あ っ た と い わ れ る が 、 一 部 支 配 者 を 除 き 、 一 般 の 人 々 は 、 米 は 生 産 し て も 年 貢 に 納 め 、 実 際 に 口 に す る こ と は ま れ で あ り 、 む し ろ 米 を 主 食 に し た い と 願 望 し て き た と い う の が 正 し い 。 た と え ば 、 江 戸 時 代 は 農 業 生 産 力 が 著 し く 向 上 し た 時 代 で あ っ た が 、 米 は も っ ぱ ら 年 貢 米 と し て 納 め 、 農 民 が 主 と し て 食 べ て い た の は ア ワ 、 ヒ エ な ど の 雑 穀 、 あ る い は そ れ ら と い も 類 や 大 根 を 煮 込 ん だ 雑 炊 ( ぞ う す い ) で あ っ た 。 し た が っ て 、 米 か ら つ く っ た 酒 を 飲 み 、 糯 米 を 搗 い た 餅 を 食 べ る の は 、 冠 婚 葬 祭 な ど 特 別 の 催 し の あ る 場 合 に 限 ら れ て い た 。 明 治 時 代 に 入 り 米 の 生 産 力 は 飛 躍 的 に 伸 び た が 、 一 方 人 口 も 急 激 に 増 え 、 ま た 所 得 の 伸 び に し た が っ て 1 人 当 り の 米 の 消 費 も 大 幅 に 増 加 し た 。 明 治 末 か ら 大 正 を 通 じ 、 1 人 1 年 約 1 石 ( こ く ) ︵ 1 5 0 キ ロ グ ラ ム ︶ を 消 費 す る 時 代 が 続 き 、 米 の 国 内 生 産 は 不 足 で 、 外 国 か ら の 輸 入 で 補 っ た 。 昭 和 に 入 り 、 戦 時 体 制 下 に つ ね に 不 足 し が ち の 米 は し だ い に 国 家 管 理 の 色 彩 を 強 め 、 1 9 4 2 年 ︵ 昭 和 17 ︶ に は 主 要 食 糧 の 全 量 を 国 家 が 直 接 管 理 す る 食 糧 管 理 制 度 が 発 足 し 、 米 に つ い て は 政 府 の 直 接 管 理 を 基 本 と し て き た が 、 1 9 9 5 年 ︵ 平 成 7 ︶ 、 食 糧 法 の 施 行 に よ り 制 度 は 大 幅 に 変 更 さ れ た 。
﹇ 不 破 英 次 ﹈
﹃ 古 事 記 ﹄ や ﹃ 日 本 書 紀 ﹄ に は 、 高 天 原 ( た か ま が は ら ) に 天 照 大 神 ( あ ま て ら す お お み か み ) の 水 田 が あ り 、 弟 の 須 佐 之 男 命 ( す さ の お の み こ と ) ︵ 素 戔 嗚 尊 ︶ が 暴 力 的 で そ の 水 田 の 畦 ( あ ぜ ) を 壊 し た こ と や 、 天 照 大 神 が 水 稲 と 思 わ れ る 種 子 を 、 天 上 の 支 配 者 の 食 物 と し て 天 孫 降 臨 の 際 に 瓊 瓊 杵 尊 ( に に ぎ の み こ と ) に 持 た せ た 記 載 が あ る 。 す な わ ち 、 天 上 ︵ 高 天 原 ︶ で す で に 行 わ れ て い た 水 田 耕 作 ︵ 稲 作 ︶ が 、 地 上 に 伝 え ら れ た と 考 え ら れ て い る 。
ま た 、 ﹃ 古 事 記 ﹄ で は 、 須 佐 之 男 命 に 殺 さ れ た 大 気 都 比 売 神 ( お お げ つ ひ め の か み ) の 死 体 か ら 稲 を は じ め と す る さ ま ざ ま な も の が 化 生 ( け し ょ う ) し た と し て い る が 、 類 型 の 話 は ﹃ 日 本 書 紀 ﹄ に も あ る 。 月 読 命 ( つ き よ み の み こ と ) が 葦 原 中 国 ( あ し は ら の な か つ く に ) ︵ 地 上 ︶ の 保 食 神 ( う け も ち の か み ) に 食 物 を 乞 ( こ ) う た お り 、 保 食 神 は 口 か ら 食 物 を 出 し て 御 馳 走 ( ご ち そ う ) し よ う と し た の で 、 怒 っ た 月 読 命 は 保 食 神 を 殺 し 、 そ の 死 体 の 頭 か ら 牛 馬 、 額 か ら 粟 ( あ わ ) 、 眉 ( ま ゆ ) か ら 蚕 ( か い こ ) 、 目 か ら 稗 ( ひ え ) 、 腹 か ら 稲 、 陰 部 か ら は 麦 、 大 豆 、 小 豆 ( あ ず き ) が 生 じ た と い う 。
米 は 神 聖 な も の で あ り 、 作 神 ( さ く が み ) ︵ 農 神 ( の う が み ) ︶ や 弘 法 大 師 ( こ う ぼ う だ い し ) か ら の 授 か り 物 と い う 伝 承 も あ る 。 神 聖 な 米 を つ く る 水 田 に 屎 尿 ( し に ょ う ) な ど の 肥 料 を 避 け る 例 は か な り 遅 く ま で 残 っ た 。 病 人 の 枕 元 ( ま く ら も と ) で 竹 筒 に 入 れ た 白 米 を 振 っ て み せ る と 病 気 が 治 る と い う 振 り 米 、 神 仏 に 詣 ( も う ) で る と き や 祓 ( は ら い ) の と き な ど に 米 を ま い て 魔 物 を は ら う 散 米 ( さ ん ま い ) ︵ ウ チ マ キ 、 オ サ ン ゴ ︶ な ど は 、 米 の も つ 霊 力 を 借 り よ う と す る も の で あ っ た 。 食 物 を 強 い る 祭 り と し て 知 ら れ る 強 飯 ( ご う は ん ) 式 、 大 飯 ( お お い い ) の 神 事 に も 同 じ よ う な 意 味 が 込 め ら れ て い る 。 出 産 直 後 に 炊 く 産 飯 ( う ぶ め し ) ︵ ウ ブ タ テ 飯 ︶ 、 婚 礼 の と き に 供 さ れ る 高 盛 の 飯 、 死 者 の 枕 辺 に 供 え る 枕 飯 は 、 人 生 三 度 の 高 盛 飯 と い わ れ る が 、 こ れ も 誕 生 ・ 再 生 の 儀 式 に 米 の 霊 力 を 期 待 し た も の と 考 え ら れ る 。
こ の ほ か 、 鶴 ( つ る ) が 稲 穂 ︵ 稲 種 ︶ を 運 ん で き た と す る 穂 落 と し 神 型 の 伝 承 や 、 狐 ( き つ ね ) が 中 国 で 稲 穂 を 一 つ 盗 み 、 そ れ を 竹 棒 の 中 に 隠 し て 日 本 に も た ら し た と す る 伝 承 、 姑 ( し ゅ う と め ) か ら 1 日 で 広 い 田 の 田 植 を 済 ま せ る よ う に 命 ぜ ら れ た 1 人 の 女 が 、 完 成 で き ず に 自 殺 し た と い う 伝 え ︵ 嫁 殺 し 田 型 ︶ な ど も あ る 。
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古 く か ら 稲 作 を 中 心 と し て き た 日 本 人 の 祖 先 た ち に と っ て 、 毎 年 秋 の 稔 ( み の ) り が 豊 作 で あ る か 、 凶 作 で あ る か は 生 活 に か か わ る 重 大 問 題 で あ っ た 。 す な わ ち 、 ま ず 稲 作 の 開 始 に 先 だ っ て 秋 の 稔 り の 成 就 ( じ ょ う じ ゅ ) を 祝 福 祈 願 す る 予 祝 行 事 が あ る 。 こ れ に は 、 1 月 15 日 の 小 正 月 ( こ し ょ う が つ ) の と き に 行 わ れ る モ ノ ツ ク リ 、 す な わ ち 餅 花 な ど い ろ い ろ の 飾 り 物 を つ く り 農 作 物 の 豊 か な 稔 り を 模 し て 飾 る 行 事 と 、 サ ツ キ と い っ て 田 植 の ま ね を す る 行 事 の 二 つ が あ る が 、 さ ら に 農 作 物 に 害 の あ る 動 物 を 追 う 行 事 ︵ 鳥 追 い な ど ︶ が 加 わ る 。 次 に 、 4 月 、 5 月 、 6 月 は 田 植 を 中 心 と し た 重 要 な 時 期 で あ り 、 こ の 時 期 の 雨 量 が 田 植 に と っ て 不 可 欠 の も の で あ り 、 天 候 が 大 き く 左 右 す る の で 、 嵐 除 ( あ ら し よ ) け 、 雨 乞 ( あ ま ご ) い 、 天 道 念 仏 な ど 天 気 に か か わ る 祭 り と 害 虫 除 去 の 祭 り が こ の 間 に 行 わ れ る 。
イ ネ の 生 産 過 程 に 沿 っ た 最 後 の 儀 礼 が 収 穫 祭 で あ り 、 刈 り 入 れ 前 の 穂 掛 け 祭 と 実 収 穫 後 の 刈 上 げ 祭 の 二 つ が 重 要 で あ る 。 穂 掛 け 祭 は 実 際 の 収 穫 の 前 に 、 神 に 初 穂 を 捧 ( さ さ ) げ て イ ネ の 成 長 へ の 感 謝 と 収 穫 の 無 事 を 祈 る 意 味 が あ り 、 初 穂 の で き ぐ あ い を み て そ の 年 の 豊 凶 を 占 う 所 も あ る 。 稲 刈 り 終 了 後 に 行 わ れ る の が 刈 上 げ 祭 で あ り 、 収 穫 祭 の 中 心 を な す 。 形 式 だ け を み る と 、 宮 廷 行 事 の う ち 、 イ ネ の 初 穂 を 伊 勢 ( い せ ) 神 宮 に 捧 げ る 神 嘗 祭 ( か ん な め さ い ) と 、 イ ネ の 収 穫 祭 で あ る 新 嘗 祭 ( に い な め さ い ) と が 上 記 二 つ に 対 応 す る 。 し か し 収 穫 祭 の 個 々 の 儀 礼 は か な ら ず し も イ ネ に 特 有 の も の で は な く 、 む し ろ ム ギ 、 ア ワ 、 ヒ エ や ダ イ ズ 、 ア ズ キ 、 い も 、 ダ イ コ ン の 儀 礼 を 基 礎 に 稲 作 儀 礼 化 し た も の が 多 い よ う で あ る 。
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農 作 物 、 日 本 で は と く に 米 の で き が 悪 く 食 物 が 極 端 に 欠 乏 し 死 人 が 出 る こ と を 飢 饉 ( き き ん ) ︵ 饑 饉 ︶ と い う 。 日 本 は 過 去 に 大 小 取 り 混 ぜ 約 5 0 0 回 の 飢 饉 の 記 録 が あ り 、 そ の お も な 原 因 は 干 害 、 冷 害 、 風 水 害 と い う 気 象 異 変 が あ げ ら れ 、 そ の ほ か 戦 乱 、 疫 病 、 虫 害 、 火 山 爆 発 も 見 逃 せ な い 。 江 戸 時 代 最 大 の 天 明 ( て ん め い ) の 飢 饉 ︵ 1 7 8 3 ~ 1 7 8 7 ︶ は 、 全 国 的 な 冷 夏 と 長 雨 、 東 日 本 の 虫 害 、 さ ら に 浅 間 山 の 大 爆 発 と い く つ か の 原 因 が 重 な っ て い る 。 一 般 に 東 日 本 と く に 北 部 ︵ 奥 羽 ︶ で は 冷 害 が 多 く 、 西 日 本 は 干 魃 ( か ん ば つ ) に よ る も の が 多 い 。 北 日 本 で 近 世 の 四 大 飢 饉 と い わ れ る 1 7 0 2 ~ 1 7 0 3 年 ︵ 元 禄 15 ~ 16 ︶ 、 1 7 5 5 ~ 1 7 5 6 年 ︵ 宝 暦 5 ~ 6 ︶ 、 天 明 ︵ 前 述 ︶ 、 1 8 3 3 ~ 1 8 3 7 年 ︵ 天 保 4 ~ 8 ︶ の 飢 饉 は い ず れ も 冷 害 に よ る 。 1 1 8 0 ~ 1 1 8 1 年 ︵ 治 承 4 ~ 養 和 1 ︶ に は 西 日 本 で 大 干 魃 に よ る 飢 饉 が あ り 、 1 7 3 2 ~ 1 7 3 3 年 ︵ 享 保 17 ~ 18 ︶ に は 西 日 本 に ウ ン カ に よ る 大 虫 害 の た め 起 こ っ た 飢 饉 が 記 録 さ れ て い る 。 当 然 の こ と な が ら 、 大 凶 作 の あ っ た 翌 年 の 端 境 ( は ざ か い ) 期 に も っ と も 餓 死 者 が 多 く 出 る 。 ま た ﹁ 飢 饉 は 二 年 続 く ﹂ と い う 諺 ( こ と わ ざ ) が あ る が 、 大 凶 作 の 年 に は 農 民 の 栄 養 状 態 が 悪 化 し 、 流 行 病 が は や り 、 飢 え の た め 種 籾 ( た ね も み ) さ え も 食 い 尽 く す こ と か ら 、 翌 年 は 労 働 力 の 投 下 が 著 し く 不 足 し て 農 作 物 の 作 柄 ( さ く が ら ) が 悪 く な る の が 原 因 で あ る 。
飢 饉 で 食 糧 が 不 足 し 餓 死 す る 人 が 出 る よ う な と き に は 、 世 情 が 不 安 定 に な り 、 一 揆 ( い っ き ) が 起 こ る 。 一 揆 は 、 形 態 ・ 規 模 は さ ま ざ ま で あ る が 、 形 態 か ら 不 穏 ( ふ お ん ) 、 逃 散 ( ち ょ う さ ん ) 、 愁 訴 ( し ゅ う そ ) 、 越 訴 ( お っ そ ) 、 打 毀 ( う ち こ わ し ) ︵ 米 騒 動 ︶ 、 強 訴 ( ご う そ ) 、 蜂 起 ( ほ う き ) ︵ 叛 乱 ( は ん ら ん ) を 含 む ︶ の 七 つ に 分 類 さ れ る 。 江 戸 時 代 、 と く に 天 明 年 間 ︵ 1 7 8 1 ~ 1 7 8 9 ︶ 、 天 保 ( て ん ぽ う ) 年 間 ︵ 1 8 3 0 ~ 1 8 4 4 ︶ 、 慶 応 ( け い お う ) 年 間 ︵ 1 8 6 5 ~ 1 8 6 8 ︶ に 一 揆 の 発 生 回 数 が 多 い 。 1 8 6 6 年 ︵ 慶 応 2 ︶ の 一 揆 は 、 東 日 本 の 冷 害 に よ る 大 凶 作 で 米 価 が 全 国 的 に 大 暴 騰 し た た め で あ り 、 結 局 江 戸 幕 府 を 倒 し 明 治 維 新 に つ な が る 革 命 的 エ ネ ル ギ ー を も っ て い た 。 ま た 1 9 1 8 年 ︵ 大 正 7 ︶ の 米 騒 動 は 、 富 山 県 の 港 町 で 主 婦 た ち が 先 頭 に た っ て 米 屋 に 押 し か け 、 米 の 積 み 出 し を 実 力 で 阻 止 し 、 安 売 り を 行 わ せ よ う と し た こ と ︵ ﹁ 越 中 ( え っ ち ゅ う ) 女 房 一 揆 ﹂ ︶ に 端 を 発 し 、 そ の 後 、 名 古 屋 、 京 都 、 大 阪 、 神 戸 に 広 が り 、 各 地 で 米 の 安 売 り の 強 要 や 米 屋 打 毀 の 暴 動 が 起 こ っ た 。 こ れ は 、 第 一 次 世 界 大 戦 に よ る 都 市 人 口 の 急 増 に 米 の 供 給 が 間 に 合 わ な か っ た こ と 、 地 主 、 商 人 の 投 機 的 動 機 に よ る 買 占 め 、 売 り 惜 し み や 、 寺 内 正 毅 ( ま さ た け ) 内 閣 が 外 米 輸 入 に 必 要 な 措 置 を と ら な か っ た こ と 、 加 え て シ ベ リ ア 出 兵 決 定 に よ り 買 占 め が い っ そ う 進 行 し た こ と に よ り 、 米 価 が 高 騰 し た こ と が 原 因 で あ っ た 。
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食糧管理法は、戦時経済下において主要食糧の国家統制を強化するというねらいで1942年(昭和17)に戦時立法として制定された。その目的は「国民食糧の確保及び国民経済の安定を図る」ため「食糧を管理しその需給及び価格の調整並びに配給の統制を行う」ことである。また対象とする主要食糧の範囲は米麦とされており、米穀粉など8品目が指定されていた。この法律は成立以来、米の需給事情その他の経済、社会状況が大きく変貌(へんぼう)するなかで、国民食糧の確保と国民経済の安定に大きな役割を果たしてきた。しかし昭和40年代に入り、食生活が豊かになり、米に対する需要が多様化してくるとともに、需給基調が過剰傾向に転ずるようになると、不足下に制定された制度では十分対応できない事態が生じてきた。このため、自主流通米の創設、政府売渡価格への品種格差の導入、末端価格の物価統制令適用廃止など、運用面における各種改善措置が講ぜられたが、制度のたてまえと運用の実態との間の食い違いが問題とされていた。
この制度の下での米の流通は、指定集荷業者、政府、卸売販売業者、小売販売業者という原則として一元的流通ルートで多数の供給と需要を結び付け、国および地方公共団体が配給制度という枠組みのなかで直接的に監督にあたるところが特色である。その結果、流通の秩序が維持され、たとえばオイル・ショックによる狂乱物価のときにも米の供給および価格は安定に保たれた。今後も国内外の食糧情勢はけっして楽観を許さないので、食糧資源の乏しい日本で国民に食糧の安定的な供給を保障していくためには、国内で十分な供給能力をもつ主要食糧である米の需給の均衡を図るとともに、その確実な流通を確保していく必要があろう。
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自 主 流 通 米 が 主 食 用 粳 米 の 流 通 に 占 め る 割 合 は 、 1 9 7 0 年 ︵ 昭 和 45 ︶ 以 降 年 ご と に 増 え 、 1 9 9 1 年 で は 主 食 用 米 の 70 % 近 く に な っ た 。 こ の 自 主 流 通 米 で は 市 場 原 理 を 生 か し 、 産 地 品 種 銘 柄 ご と の 需 給 動 向 や 品 質 評 価 を 反 映 し た 価 格 形 成 を 図 る た め 、 1 9 9 0 年 か ら 入 札 取 引 制 度 の 自 主 米 取 引 場 が 開 設 さ れ た 。 さ ら に 1 9 9 5 年 11 月 に は 食 糧 管 理 法 が 廃 止 さ れ 、 そ れ に か わ り ﹁ 主 要 食 糧 の 需 給 及 び 価 格 の 安 定 に 関 す る 法 律 ﹂ ︵ 通 称 食 糧 法 ︶ が 施 行 さ れ 、 米 の 流 通 は 、 政 府 米 と 自 主 流 通 米 か ら な る 計 画 流 通 米 と 、 そ れ 以 外 の 計 画 外 流 通 米 と の 二 本 立 て と さ れ 、 市 場 原 理 が 大 幅 に 導 入 さ れ た 。
一 方 、 有 機 栽 培 米 や 無 農 薬 米 な ど を 求 め る 消 費 者 の 要 望 に 応 え る た め 、 1 9 8 7 年 か ら 特 別 栽 培 米 制 度 が 導 入 さ れ た 。 こ の 制 度 は 化 学 肥 料 や 農 薬 を 使 わ な い な ど 、 普 通 の 栽 培 方 法 と 著 し く 異 な る 方 法 に よ っ て 生 産 し た 米 を 、 生 産 者 と 消 費 者 が 一 定 条 件 の 下 で 直 接 取 引 で き る よ う に し た も の で あ る 。
そ の 後 、 2 0 0 4 年 施 行 の 改 正 食 糧 法 に よ っ て 計 画 流 通 制 度 は 廃 止 さ れ た 。 計 画 流 通 米 と 計 画 外 流 通 米 と い う 区 別 は な く な り 、 米 の 流 通 ル ー ト は 原 則 自 由 化 さ れ た 。
﹇ 横 尾 政 雄 ﹈
日 本 で は 、 1 9 5 0 年 代 か ら 水 田 面 積 が 増 え 、 か つ 、 単 位 面 積 当 り の 収 量 が 飛 躍 的 に 向 上 し た こ と に よ っ て 、 1 9 6 0 年 代 後 半 に は 米 の 生 産 量 が 1 4 0 0 万 ト ン を 超 え て 需 要 量 を 上 回 り 、 自 給 が 達 成 さ れ た 。 し か し 、 こ の た め 生 産 過 剰 問 題 が 起 こ り 、 1 9 7 0 年 代 初 め か ら は 需 要 に 見 合 う 量 を 生 産 す る よ う に 調 整 し 、 生 産 量 は 1 0 0 0 万 ト ン 前 後 を 推 移 す る よ う に な っ た 。 し か し 1 9 9 2 年 ︵ 平 成 4 ︶ は 2 8 0 万 ヘ ク タ ー ル の 水 田 の う ち 80 万 ヘ ク タ ー ル に イ ネ を 植 え な い よ う に し た と こ ろ 、 1 9 9 3 年 、 戦 後 最 大 と い う 冷 害 に よ り 国 内 の 生 産 が 大 幅 に 減 少 し 、 米 不 足 が 発 生 し た 。 そ の た め 米 の 供 給 は 緊 急 輸 入 に 頼 ら ざ る を え な い 状 態 に 陥 り 、 生 産 調 整 見 直 し の 論 議 が お き た 。 そ の 後 数 年 は 1 0 0 0 万 ト ン 以 上 の 生 産 が 続 い た が 、 以 後 漸 減 し 、 2 0 0 4 年 以 降 は 8 0 0 万 ト ン 台 に な っ て い る 。 2 0 1 6 年 の 国 内 生 産 量 は 8 5 5 万 ト ン で あ る 。
国 民 1 人 当 り の 米 の 年 間 消 費 量 は 1 9 6 0 年 ︵ 昭 和 35 ︶ に は 約 1 1 5 キ ロ グ ラ ム で あ っ た の が 、 そ の 後 急 速 に 減 り 、 1 9 9 0 年 代 に 入 る と つ い に 70 キ ロ グ ラ ム を 割 っ た 。 し か し 、 各 種 団 体 に よ る 米 消 費 促 進 運 動 の 成 果 に よ り 、 減 少 の 度 合 い は 緩 や か で 、 2 0 0 7 年 で は 約 61 キ ロ グ ラ ム だ っ た 。 し か し 2 0 0 8 年 に は 60 キ ロ グ ラ ム を 割 り 、 2 0 1 6 年 は 5 4 . 4 キ ロ グ ラ ム で あ る 。 消 費 量 が 減 っ て 消 費 者 の 需 要 が 量 よ り 質 に 移 り 、 う ま い 米 品 種 の コ シ ヒ カ リ な ど が 多 く つ く ら れ る よ う に な り 、 そ れ ら を 系 譜 に も つ 新 品 種 の 作 付 面 積 が 急 速 に 増 え て い る 。 従 来 、 食 味 で は 不 評 で あ っ た 北 海 道 や 九 州 で も 、 う ま い 米 の 品 種 栽 培 が で き る よ う に な り 作 付 面 積 が 増 え 、 そ の ほ か の 地 域 で も 銘 柄 米 を つ く る 運 動 が 盛 ん で 、 全 国 的 な 産 地 間 競 争 の 時 代 に な っ て い る 。
家 庭 食 に お け る 米 の 消 費 量 が 減 少 す る 一 方 、 外 食 に お け る 消 費 量 は 年 々 増 加 し て 2 0 0 万 ト ン 前 後 と 推 定 さ れ て い る 。 外 食 産 業 の 業 務 用 や 、 家 庭 の 調 理 済 み 食 品 に 対 す る 需 要 の 増 加 を 背 景 に 、 冷 凍 米 飯 や レ ト ル ト 米 飯 な ど の 加 工 米 飯 の 生 産 量 が 増 え 、 米 の 使 用 量 も 増 加 す る 傾 向 に あ る 。 ま た 、 外 国 の 米 料 理 に 対 す る 関 心 が 高 ま り 、 普 通 の 米 と は 性 質 の 異 な る 米 を 求 め る 声 が 強 く な っ て い る 。 そ の た め 、 粒 の 形 の 大 き な 米 や 細 長 い 米 、 香 米 ( か お り ま い ) 、 普 通 の 粳 米 よ り も さ ら に 飯 が 粘 ら な い 高 ア ミ ロ ー ス 米 、 粳 米 と 糯 米 の 中 間 の 性 質 を も ち 、 飯 が よ く 粘 る 低 ア ミ ロ ー ス 米 な ど の 品 種 が す で に 育 成 さ れ 、 い ろ い ろ な 米 が 少 し ず つ で は あ る が 生 産 さ れ て い る 。 今 後 、 粒 の 形 の 小 さ な 米 、 赤 米 ( あ か ま い ) ・ 紫 黒 米 ( し こ く ま い ) 、 低 タ ン パ ク 米 や そ れ ぞ れ の 性 質 を さ ま ざ ま に 組 み 合 わ せ た 品 種 も 育 成 さ れ る だ ろ う 。
﹇ 横 尾 政 雄 ﹈
日 本 で は 米 の 大 部 分 は 玄 米 で 貯 蔵 さ れ 、 精 白 ︵ 搗 精 ︶ の 過 程 を 経 て 、 大 部 分 が 白 米 ︵ 精 白 米 ︶ の 形 で 飯 米 と し て 用 い ら れ る 。 ご く 一 部 は 玄 米 、 ﹁ は い が 精 米 ﹂ 、 半 搗 き 米 、 七 分 搗 き 米 も 飯 米 と し て 食 用 に 供 さ れ る 。 近 年 、 食 物 中 の 繊 維 な ど 不 消 化 性 成 分 の 生 理 的 意 義 が 世 界 的 に 見 直 さ れ て き て お り 、 日 本 で も ﹁ は い が 精 米 ﹂ や 玄 米 は 無 機 質 や ビ タ ミ ン な ど の 供 給 と と も に 食 物 繊 維 の 供 給 の 面 か ら 新 し い 関 心 を 集 め て い る 。 ﹁ は い が 精 米 ﹂ は 白 米 よ り い く ぶ ん 多 い 水 加 減 を す れ ば 白 米 と 同 様 常 圧 で 炊 飯 で き る が 、 玄 米 の 炊 飯 は 常 圧 で は 二 度 炊 き し て も な か な か お い し い 飯 に な り に く く 、 圧 力 釜 ( が ま ) な ど の 特 殊 な 器 具 を 用 い た ほ う が 上 手 に 炊 け る 。
米 は 主 食 と し て 飯 で 食 べ る 一 方 、 古 く か ら 餅 、 米 菓 、 米 み そ 、 清 酒 な ど の 加 工 品 と し て 利 用 さ れ て き た 。 さ ら に 最 近 で は 、 食 生 活 の 多 様 化 、 簡 便 化 に 対 応 し て 、 米 の 特 性 を 生 か し た 新 し い 加 工 食 品 の 開 発 も 積 極 的 に 進 め ら れ 、 種 々 の 製 品 が 市 場 に 出 回 る よ う に な っ た 。 代 表 的 な も の と し て 、 レ ト ル ト 米 飯 、 包 装 餅 、 ラ イ ス ス ナ ッ ク な ど が あ げ ら れ る 。 次 に 市 販 さ れ て い る 米 利 用 加 工 食 品 を 列 挙 す る 。
( 1 ) 米 飯 類 ︵ レ ト ル ト 米 飯 、 米 飯 缶 詰 、 ア ル フ ァ 化 米 な ど ︶
( 2 ) 米 粉 麺 ( め ん ) 類 ︵ 米 粉 生 麺 、 ビ ー フ ン な ど ︶
( 3 ) 米 を 原 料 と す る パ ン 類
( 4 ) 米 菓 お よ び ス ナ ッ ク 食 品 ︵ ラ イ ス ス ナ ッ ク 、 ラ イ ス フ レ ー ク な ど 各 種 ス ナ ッ ク 食 品 ︶
( 5 ) 加 工 米 穀 類 ︵ 簡 単 に 炊 け る 玄 米 、 新 ビ タ ミ ン 強 化 米 な ど ︶
( 6 ) 調 味 料 類 ︵ み り ん 、 米 酢 、 米 み そ な ど ︶
( 7 ) 穀 粉 類 ︵ 上 新 粉 ( じ ょ う し ん こ ) 、 白 玉 粉 ( し ら た ま こ ) 、 ア ル フ ァ 化 米 粉 な ど ︶
( 8 ) 包 装 餅 類 ︵ 包 装 餅 、 白 玉 餅 、 冷 凍 団 子 な ど ︶
( 9 ) 即 席 粥 ( が ゆ ) 類 ︵ 玄 米 ミ ー ル 、 離 乳 食 、 圧 扁 ( あ っ ぺ ん ) 玄 米 な ど ︶
( 10 ) 酒 類 お よ び 飲 料 類 ︵ 清 酒 、 焼 酎 ( し ょ う ち ゅ う ) 乙 類 、 ワ イ ン タ イ プ の 酒 、 玄 米 茶 な ど ︶
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玄 米 は 古 く か ら 俵 ( た わ ら ) に 詰 め ら れ た が 、 近 年 は 麻 袋 、 紙 袋 、 叺 ( か ま す ) 、 樹 脂 袋 の い ず れ か に 包 装 さ れ て 保 蔵 あ る い は 流 通 す る 。 す な わ ち 、 稲 藁 ( い ね わ ら ) で つ く っ た 米 俵 は 近 年 ほ と ん ど み る こ と は で き な い が 、 い ま も 1 俵 ( い っ ぴ ょ う ) ︵ 約 60 キ ロ グ ラ ム ︶ と い う 米 の 量 を 計 る 単 位 は 慣 習 と し て 残 っ て い る 。 玄 米 を 精 白 し た 白 米 は 、 10 キ ロ グ ラ ム 、 5 キ ロ グ ラ ム 、 2 キ ロ グ ラ ム 入 り の プ ラ ス チ ッ ク あ る い は 紙 袋 に 包 装 さ れ 、 消 費 者 に 小 売 り さ れ る 。 農 林 水 産 省 が 消 費 者 の 多 様 な 需 要 に 対 応 す る た め 、 米 の 品 質 表 示 を 包 装 上 に 明 確 化 す る よ う 指 導 監 視 し て お り 、 精 白 し た 期 日 が 消 費 者 に す ぐ わ か る よ う 表 示 さ れ て い る 。 小 売 り の 玄 米 や ﹁ は い が 精 米 ﹂ で は 、 ナ イ ロ ン と ポ リ エ チ レ ン の 多 層 構 造 の フ ィ ル ム で つ く っ た 袋 に 入 れ て 密 閉 し 、 米 の 呼 吸 に よ っ て 酸 素 を 消 費 し 、 炭 酸 ガ ス が た ま る よ う に し た ﹁ ガ ス パ ッ ク ﹂ ︵ 冬 眠 密 着 包 装 ︶ で 保 存 性 を よ く し た も の も あ る 。
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日 本 で は 1 9 6 0 年 代 後 半 に 自 給 が 達 成 さ れ て か ら は 、 特 殊 な 場 合 を 除 い て 政 府 に よ る 実 質 的 な 輸 入 は な か っ た 。 し か し 外 国 か ら 日 本 の 米 輸 入 を 求 め る 動 き が 活 発 に な り 、 日 本 の 米 輸 入 制 限 は ガ ッ ト ︵ G A T T 。 世 界 貿 易 機 関 = W T O の 前 身 ︶ 違 反 で あ る と 、 全 米 精 米 業 者 協 会 ︵ R M A ︶ は 1 9 8 8 年 に ア メ リ カ 政 府 に 提 訴 。 ア メ リ カ 政 府 は こ れ を ウ ル グ ア イ ・ ラ ウ ン ド の 農 業 交 渉 の 場 で 扱 う こ と と し た 。 こ れ に 対 し 日 本 は 、 米 は 日 本 の 基 礎 的 食 糧 で あ り 、 食 糧 安 全 保 障 の 対 象 で あ る と 主 張 し 続 け た 。 し か し 1 9 9 3 年 ︵ 平 成 5 ︶ 12 月 、 日 本 政 府 は ウ ル グ ア イ ・ ラ ウ ン ド 成 功 の た め 、 6 年 間 の 猶 予 期 間 を 設 け て 米 の 輸 入 の 関 税 化 を 受 け 入 れ る 決 定 を 行 っ た 。 猶 予 期 間 中 は 最 低 輸 入 枠 ︵ ミ ニ マ ム ・ ア ク セ ス ︶ を 設 定 し て 輸 入 し 、 1 9 9 9 年 に は 関 税 化 に よ る 日 本 の 米 市 場 開 放 が 行 わ れ た が 、 ミ ニ マ ム ・ ア ク セ ス 米 の 輸 入 は 継 続 さ れ て い る 。
﹇ 横 尾 政 雄 ﹈
﹃ 中 尾 佐 助 著 ﹃ 料 理 の 起 源 ﹄ ︵ 1 9 7 2 ・ N H K ブ ッ ク ス ︶ ﹄ ▽ ﹃ 松 尾 孝 嶺 著 ﹃ お 米 と と も に ﹄ ︵ 1 9 7 6 ・ 玉 川 大 学 出 版 部 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 星 川 清 親 著 ﹃ 米 ﹄ ︵ 1 9 7 9 ・ 柴 田 書 店 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 米 問 題 研 究 会 編 ﹃ こ め ﹄ ︵ 1 9 8 1 ・ 創 造 書 房 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 家 永 泰 光 著 ﹃ 穀 物 文 化 の 起 源 ﹄ ︵ 1 9 8 2 ・ 古 今 書 院 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 佐 佐 木 高 明 編 ﹃ 日 本 農 耕 文 化 の 源 流 ﹄ ︵ 1 9 8 3 ・ 日 本 放 送 出 版 協 会 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 渡 辺 忠 世 著 ﹃ ア ジ ア 稲 作 の 系 譜 ﹄ ︵ 1 9 8 3 ・ 法 政 大 学 出 版 局 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 石 毛 直 道 著 ﹃ 世 界 の 米 料 理 ﹄ ︵ ﹃ 朝 日 百 科 世 界 の 食 べ も の 1 2 1 ﹄ 所 収 ・ 1 9 8 3 ・ 朝 日 新 聞 社 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 藤 巻 正 生 ・ 井 上 五 郎 ・ 田 中 武 彦 編 ﹃ 米 ・ 大 豆 と 魚 ﹄ ︵ 1 9 8 4 ・ 光 生 館 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 田 中 勉 監 修 ﹃ 米 穀 の 流 通 と 管 理 ﹄ ︵ 1 9 8 5 ・ 地 球 社 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 石 谷 孝 佑 ・ 藤 木 正 一 編 ﹃ 米 飯 食 品 事 典 ﹄ ︵ 1 9 9 4 ・ サ イ エ ン ス フ ォ ー ラ ム ︶ ﹄ ▽ ﹃ 石 谷 孝 佑 ・ 大 坪 研 一 編 ﹃ 米 の 科 学 ﹄ ︵ 1 9 9 5 ・ 朝 倉 書 店 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 土 門 剛 著 ﹃ 新 食 糧 法 で 日 本 の お 米 は こ う 変 わ る ﹄ ︵ 1 9 9 5 ・ 東 洋 経 済 新 報 社 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 大 内 力 ・ 佐 伯 尚 美 編 ﹃ 日 本 の 米 を 考 え る ﹄ 1 ~ 3 ︵ 1 9 9 5 ・ 家 の 光 協 会 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 黒 柳 俊 雄 ・ 嘉 田 良 平 編 ﹃ 米 自 由 化 の 計 量 分 析 ﹄ ︵ 1 9 9 6 ・ 大 明 堂 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 川 原 泉 著 ﹃ ﹁ 米 ﹂ 流 通 大 革 新 ﹄ ︵ 1 9 9 6 ・ 経 営 情 報 出 版 社 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 日 本 農 業 市 場 学 会 編 ﹃ 激 変 す る 食 糧 法 下 の 米 市 場 ﹄ ︵ 1 9 9 7 ・ 筑 波 書 房 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 食 生 活 消 費 情 報 研 究 会 著 、 大 蔵 省 印 刷 局 編 ﹃ お 米 な ぜ な ぜ 質 問 箱 88 ﹄ ︵ 1 9 9 7 ・ 大 蔵 省 印 刷 局 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 農 政 ジ ャ ー ナ リ ス ト の 会 編 ﹃ 日 本 農 業 の 動 き ﹁ 新 た な 米 政 策 ﹂ は 何 を 目 指 す か ﹄ ︵ 1 9 9 8 ・ 農 林 統 計 協 会 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 伊 藤 喜 雄 編 著 ﹃ 米 産 業 の 競 争 構 造 ﹄ ︵ 1 9 9 8 ・ 農 山 漁 村 文 化 協 会 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 小 田 紘 一 郎 著 ﹃ 新 デ ー タ ブ ッ ク 世 界 の 米 ﹄ ︵ 1 9 9 9 ・ 農 山 漁 村 文 化 協 会 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 板 倉 聖 宣 監 修 ﹃ 調 べ て み よ う わ た し た ち の 食 べ も の 1 米 ﹄ ︵ 1 9 9 9 ・ 小 峰 書 店 ︶ ﹄ ▽ ﹃ A ・ J ・ H ・ レ イ サ ム 著 、 丸 山 利 夫 訳 ﹃ 米 こ の 貴 重 な る 食 糧 ― ― 世 界 の 米 生 産 と 米 貿 易 ﹄ ︵ 1 9 9 9 ・ 農 林 統 計 協 会 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 遠 藤 保 雄 著 ﹃ 米 ・ 欧 農 業 交 渉 ― ― 関 税 削 減 交 渉 か ら 農 政 改 革 交 渉 へ ﹄ ︵ 1 9 9 9 ・ 農 林 統 計 協 会 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 日 本 フ ー ド 学 会 編 ﹃ 新 食 糧 法 下 に お け る 米 の 加 工 ・ 流 通 問 題 ﹄ ︵ 1 9 9 9 ・ 農 林 統 計 協 会 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 農 山 漁 村 文 化 協 会 編 ・ 刊 ﹃ 米 ヌ カ を 使 い こ な す ― ― 雑 草 防 除 ・ 食 味 向 上 の し く み と 実 際 ﹄ ︵ 2 0 0 0 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 井 上 ひ さ し ・ 島 田 彰 夫 ほ か 著 、 学 校 給 食 と 子 ど も の 健 康 を 考 え る 会 編 ﹃ 完 全 米 飯 給 食 が 日 本 を 救 う ﹄ ︵ 2 0 0 0 ・ 東 洋 経 済 新 報 社 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 網 野 善 彦 ・ 石 井 進 著 ﹃ 米 ・ 百 姓 ・ 天 皇 ― ― 日 本 史 の 虚 像 の ゆ く え ﹄ ︵ 2 0 0 0 ・ 大 和 書 房 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 桜 井 由 躬 雄 著 、 大 村 次 郷 写 真 ﹃ ア ジ ア を ゆ く 米 に 生 き る 人 々 ― ― 太 陽 の は げ ま し 、 森 と 水 の や さ し さ ﹄ ︵ 2 0 0 0 ・ 集 英 社 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 鶴 田 敦 子 ・ 高 木 直 ほ か 編 著 ﹃ 教 科 を 基 礎 に し た 米 ︵ 食 と 農 ︶ か ら は じ め る 総 合 的 学 習 ﹄ ︵ 2 0 0 0 ・ か も が わ 出 版 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 諏 訪 春 雄 編 ﹃ 日 本 人 と 米 ﹄ ︵ 2 0 0 0 ・ 勉 誠 出 版 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 土 肥 鑑 高 著 ﹃ 米 の 日 本 史 ﹄ ︵ 2 0 0 1 ・ 雄 山 閣 出 版 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 中 沢 弁 次 郎 著 ﹃ 日 本 米 価 変 動 史 ﹄ ︵ 2 0 0 1 ・ 柏 書 房 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 石 谷 孝 佑 編 ﹃ 米 の 事 典 ― ― 稲 作 か ら ゲ ノ ム ま で ﹄ ︵ 2 0 0 2 ・ 幸 書 房 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 青 柳 健 二 写 真 ・ 文 ﹃ 日 本 の 棚 田 百 選 ― ― 米 も 風 景 も お い し い 私 た ち の ﹁ 文 化 遺 産 ﹂ ﹄ ︵ 2 0 0 2 ・ 小 学 館 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 保 岡 孝 之 監 修 ﹃ お 米 な ん で も 大 百 科 ﹄ 全 5 巻 ︵ 2 0 0 2 ・ ポ プ ラ 社 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 井 上 ひ さ し 著 ﹃ 新 潮 オ ン デ マ ン ド ブ ッ ク ス コ メ の 話 ﹄ ︵ 2 0 0 2 ・ 新 潮 社 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 井 上 ひ さ し 選 、 日 本 ペ ン ク ラ ブ 編 ﹃ お 米 を 考 え る 本 ﹄ ︵ 光 文 社 文 庫 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 大 島 清 著 ﹃ 食 糧 と 農 業 を 考 え る ﹄ ︵ 岩 波 新 書 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 山 口 彦 之 著 ﹃ 作 物 改 良 に 挑 む ﹄ ︵ 岩 波 新 書 ︶ ﹄
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ) 日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
米 (こめ) rice
目次 種類 性状 食味 成分 食用 世界の米生産と輸出動向 日本の米生産 単位面積当り収量の増加 日本人と米 古代,中世 近世 食糧としての米 米の流通 特殊米と農民の改良の意欲 明治以後の米 民俗
イ ネ の 種 実 を い う 。 収 穫 さ れ た 米 は も み 殻 を か ぶ っ て お り , こ れ を ︿ も み ︵ 籾 ︶ ﹀ と い う 。 日 本 で は , も み 殻 を は ず し た 玄 米 の 形 で 包 装 , 集 荷 , 貯 蔵 す る の が 多 い が , 最 近 一 部 で は も み の ば ら 集 荷 , 貯 蔵 が 行 わ れ て い る 。 外 国 で は 米 は す べ て も み の 形 で 集 荷 , 貯 蔵 さ れ る 。 玄 米 を 精 米 機 に か け て , ぬ か 層 や 胚 芽 を 取 り 除 い た も の が 精 米 ︵ 白 米 ︶ で あ る 。 米 は 小 麦 と と も に 人 類 の 最 も 重 要 な 食 糧 だ が , 小 麦 が ロ シ ア や ア メ リ カ な ど 冷 涼 で 比 較 的 乾 燥 し た 地 域 で 生 産 さ れ る の に 対 し , 米 は 日 本 を は じ め ア ジ ア 南 部 な ど 高 温 で 水 の 豊 富 な 地 域 で 生 産 さ れ る 。 そ れ ら の 地 域 で は 永 年 の 間 , 主 食 と し て 膨 大 な 人 口 を 養 っ て き た 。
種 類
︵ 1 ︶ 日 本 型 と イ ン ド 型 世 界 の 米 は 日 本 型 と イ ン ド 型 に 大 別 さ れ る 。 こ の 区 別 は イ ネ の 分 類 か ら き た も の で , 日 本 型 は 日 本 お よ び そ の 周 辺 か ら 中 国 北 ・ 中 部 に 多 く , エ ジ プ ト , イ タ リ ア , ス ペ イ ン , あ る い は 北 ・ 中 ・ 南 米 に も あ る 。 イ ン ド 型 は 東 南 ア ジ ア か ら 中 国 南 部 に お も に 分 布 し , イ ン ド や ア メ リ カ 南 部 で も 作 ら れ て い る 。 イ ン ド 型 の 米 は 日 本 型 に く ら べ て 粒 形 が 細 長 く , 飯 に 粘 り が な い の が 特 徴 で , 日 本 人 の 嗜 好 ︵ し こ う ︶ に は あ わ な い 。
︵ 2 ︶ う る ち ︵ 粳 ︶ 米 と も ち ︵ 糯 ︶ 米 日 本 型 , イ ン ド 型 の ど ち ら の 米 に も , う る ち 米 と も ち 米 が あ る 。 飯 に 炊 い て 普 通 に 食 べ る の が う る ち 米 で , 精 米 は 半 透 明 な も の が 多 く , 光 沢 が あ る 。 そ れ に 対 し て 餅 や 赤 飯 に す る も ち 米 は , 精 米 が 白 く て 不 透 明 で あ る 。 米 の デ ン プ ン は ブ ド ウ 糖 が 鎖 状 に 1 列 に 並 ん で い る ア ミ ロ ー ス と , ブ ド ウ 糖 が 樹 枝 状 に 分 か れ た 形 を つ く っ て い る ア ミ ロ ペ ク チ ン か ら で き て お り , う る ち 米 デ ン プ ン で は ア ミ ロ ー ス 約 2 0 % , ア ミ ロ ペ ク チ ン が 約 8 0 % の 割 合 で あ る が , も ち 米 デ ン プ ン で は ほ と ん ど ア ミ ロ ペ ク チ ン だ け で あ り , こ れ が 両 者 の 大 き な 違 い で あ る 。 も ち 米 の な か に は 精 米 に し た と き 半 透 明 で , う る ち 米 と 見 分 け に く い も の が あ る が , ヨ ー ド ・ ヨ ー ド カ リ 溶 液 で 染 色 す る と , う る ち 米 は 青 藍 色 に , も ち 米 は 赤 褐 色 に 染 ま る の で , 簡 単 に 区 別 で き る 。
︵ 3 ︶ 水 稲 と 陸 稲 う る ち 米 , も ち 米 と も に 水 田 に つ く る 水 稲 と 畑 に つ く る 陸 稲 ︵ お か ぼ ︶ が あ る 。 陸 稲 は 日 本 で は 畑 の 多 い 関 東 や 南 九 州 に お も に 栽 培 さ れ て い る 。 米 の 栄 養 価 値 の う え で は 両 者 に 大 き な 差 は な い が , 陸 稲 の 飯 は 粘 り が な い の で , 食 味 は 水 稲 に 劣 る と い わ れ て い る 。
︵ 4 ︶ 硬 質 米 と 軟 質 米 米 の 乾 燥 を 太 陽 熱 に よ る 自 然 乾 燥 に た よ っ て い た 1 9 4 5 年 こ ろ ま で は , 太 平 洋 側 や 四 国 , 九 州 で 生 産 さ れ る 米 は 概 し て 乾 燥 が よ く , 北 陸 , 山 陰 , 東 北 , 北 海 道 で 生 産 さ れ る 米 は 収 穫 時 期 の 天 候 な ど の 関 係 で 多 水 分 の も の が 多 く , 前 者 を 硬 質 米 , 後 者 を 軟 質 米 と 呼 ん で い た 。 火 力 を 利 用 す る 人 工 乾 燥 が 普 及 し た 今 日 で も こ の 習 慣 は 続 い て い る が , こ れ は 商 習 慣 の う え か ら き た 区 分 で あ り , 必 ず し も 米 粒 の 質 の 硬 軟 を 意 味 し て い な い 。 現 在 市 場 に 流 通 し て い る 玄 米 の 水 分 は , 検 査 で 一 般 に は そ の 最 高 限 度 を 1 5 . 0 % と し て い る が , 北 陸 , 山 陰 の 米 に つ い て は 0 . 5 % , 東 北 , 北 海 道 の 米 で は 1 . 0 % , 最 高 限 度 を あ げ て お り , 軟 質 米 に つ い て は そ れ だ け 水 分 の 多 い も の が 流 通 し て い る こ と に な る 。 ま た 軟 質 米 と い う 言 葉 は 清 酒 の 原 料 に な る 酒 造 米 で も 使 わ れ て い る が , こ れ は 飯 用 の 米 と は 違 っ て , 吸 水 が 速 く , こ う じ 菌 の く い 込 み が よ く , も ろ み で 溶 け や す い 米 を 指 し て お り , 酒 造 米 と し て は 軟 質 で あ る こ と が よ い 米 の 条 件 に な っ て い る 。
︵ 5 ︶ 早 期 栽 培 米 東 海 地 方 以 西 の 西 南 暖 地 , と く に 中 国 , 四 国 , 九 州 地 方 に お い て , 東 北 , 北 陸 地 方 の 早 生 の 稲 を 植 え 付 け て , 8 月 中 に 収 穫 す る 栽 培 法 が 1 9 5 5 年 こ ろ か ら 普 及 し た 。 こ れ が 早 期 栽 培 米 で , そ の お も な ね ら い は , 台 風 に よ る 災 害 や 秋 落 ち 現 象 を 防 い で , 米 の 生 産 の 安 定 を は か る こ と に あ っ た 。 早 期 栽 培 米 は 当 初 , 搗 精 ︵ と う せ い ︶ 歩 留 り ︵ 精 白 歩 留 り と も い う ︶ が 低 い , 食 味 が 悪 い な ど と 評 判 が よ く な か っ た が , そ の 後 , 搗 精 歩 留 り や 食 味 の よ い 品 種 を 普 及 さ せ る こ と に よ っ て 改 善 さ れ て い る 。 な お , 一 般 に 9 月 中 に 市 場 に 出 回 る 米 は 早 場 米 ︵ は や ば ま い ︶ と 呼 ば れ る 。
性 状
も み 殻 を と っ た 玄 米 の 構 造 は , 外 側 か ら 果 皮 , 種 皮 , 糊 粉 ︵ こ ふ ん ︶ 層 な ど の ぬ か 層 と 呼 ば れ る 部 分 と , 米 粒 の 基 部 に 小 部 分 を 占 め る 胚 芽 と , 残 り の 大 部 分 の 胚 乳 か ら で き て い る ︵ 図 1 ︶ 。 果 皮 の 表 面 に は 蠟 様 物 質 が あ っ て , 害 虫 や 病 菌 を 防 ぐ と い わ れ て い る 。 種 皮 の 隔 膜 は 酸 , ア ル カ リ に か な り 強 く , 半 透 過 性 隔 膜 の 生 理 作 用 を も っ て お り , 米 粒 の 内 部 を 保 護 す る 役 目 を し て い る 。 糊 粉 層 の 細 胞 に は タ ン パ ク 質 と 脂 質 が 多 量 に 集 積 し て い る 。 ま た 胚 芽 は 発 育 し て イ ネ に な る 部 分 で , タ ン パ ク 質 , 脂 質 , ビ タ ミ ン B 1 に 富 む 。 胚 乳 は 主 と し て デ ン プ ン 粒 で み た さ れ , 精 米 ︵ 白 米 ︶ と し て 食 用 に す る 。 以 上 の 各 部 分 の 全 粒 に 対 す る 重 量 比 は , ぬ か 層 が ほ ぼ 5 ~ 6 % , 胚 芽 2 ~ 3 % , 胚 乳 が 9 2 % の 割 合 に な る 。 食 用 に す る の は 胚 乳 の 部 分 で あ る の で , 玄 米 を 精 米 機 に か け て 白 米 を つ く る と , そ の 搗 精 歩 留 り は 理 論 的 に は 9 2 % に な る が , 一 般 に 市 販 さ れ て い る も の は も う 少 し つ い て あ り , 9 1 % 前 後 と 考 え ら れ る 。 玄 米 の 性 状 に つ い て は , 米 の 検 査 規 格 を み れ ば , ど の よ う な も の が 流 通 し て い る か , ま た 精 米 の 原 料 と し て ど う い う 項 目 が 重 視 さ れ て い る か , お よ そ 見 当 が つ く 。 原 料 米 と し て は 搗 精 歩 留 り の 高 い , 貯 蔵 性 の す ぐ れ た , 食 味 の よ い 米 が 望 ま れ る が , 搗 精 歩 留 り の 指 標 と な る の は 容 積 重 , 整 粒 , 被 害 粒 な ど で あ り , 貯 蔵 性 は お も に 水 分 で 示 さ れ て い る 。 し か し 食 味 に 関 す る 項 目 は 盛 り 込 ま れ て い な い 。
食 味
米 が 栽 培 さ れ て か ら 消 費 さ れ る ま で に は 数 多 く の 過 程 が あ り , 多 か れ 少 な か れ 味 に 影 響 す る 要 因 と し て は , 品 種 , 産 地 , 気 象 条 件 , 栽 培 方 法 , 収 穫 , 乾 燥 , 貯 蔵 , 精 米 加 工 , 炊 飯 な ど が あ げ ら れ る 。 そ し て そ れ ら の な か で は 品 種 , 産 地 ︵ 気 象 条 件 を 含 む ︶ , 栽 培 方 法 の 三 つ が お も な 要 因 で あ り , 米 の 味 は こ れ ら に よ っ て 形 成 さ れ る 米 自 体 の 特 質 と み る こ と が で き る 。 し た が っ て , 米 の 味 に と っ て 品 種 と 産 地 は き わ め て 重 要 で あ る 。 ま た 収 穫 以 後 の 炊 飯 に 至 る ま で の 諸 操 作 に お い て は , 米 の 味 を 損 な わ な い よ う に す る こ と が 必 要 で あ る 。 例 え ば も み の 火 力 乾 燥 で は 急 速 な 乾 燥 を 避 け , 穀 温 を 40 ℃ 以 上 に 上 げ な い よ う に す る 。 玄 米 の 貯 蔵 で は 夏 季 で も 低 温 貯 蔵 を 行 う 。 精 米 加 工 で は 調 質 , 色 彩 選 別 , ブ レ ン ド ︵ 混 米 ︶ な ど の 技 術 を 十 分 活 用 す る 。 炊 飯 に お い て は , 水 漬 ︵ す い し ︶ 時 間 , 水 加 減 , 蒸 ら し な ど に 注 意 を 払 う こ と な ど で あ る 。
1 9 7 9 年 産 米 よ り 生 産 者 か ら 政 府 が 買 い 入 れ る 価 格 に , 1 ~ 5 類 に 区 分 し た 品 質 格 差 が 導 入 さ れ た が , 1 ・ 2 類 に 該 当 す る の は 品 種 と 産 地 が 指 定 さ れ た 銘 柄 米 で , 検 査 等 級 が 1 ・ 2 等 の も の で , こ れ ら が 食 味 の よ い 米 と し て 選 ば れ て い る ︵ 表 1 ︶ 。 な お , 4 類 は 青 森 県 の 中 津 軽 郡 な ど の 一 部 を 除 く 区 域 で 生 産 さ れ た 米 と , 東 海 地 方 以 西 で 9 月 30 日 ま で に 政 府 に 売 り 渡 さ れ た 米 で , 5 類 は 巴 ︵ と も え ︶ ま さ り , ユ ー カ ラ と い う 品 種 を 除 く 北 海 道 産 米 で あ る 。 3 類 は 以 上 の い ず れ の 類 に も 属 さ な い 米 で あ る 。
成 分
米 の 主 成 分 は デ ン プ ン で , 精 米 で は 7 6 % で あ る 。 米 の も つ 栄 養 的 意 義 は エ ネ ル ギ ー 源 と し て で あ る が , そ の 主 要 源 を な す の が こ の デ ン プ ン で あ る 。 タ ン パ ク 質 は 精 米 で 約 7 % 含 ま れ て い る が , 日 本 人 は タ ン パ ク 質 の 必 要 摂 取 量 の 約 5 分 の 1 を 米 か ら と っ て お り , こ れ も 栄 養 源 と し て 重 要 で あ る 。 タ ン パ ク 質 の 栄 養 価 を 比 較 す る の に は , プ ロ テ イ ン ス コ ア ︵ タ ン パ ク 価 ︶ が 用 い ら れ て お り , 理 想 状 態 の プ ロ テ イ ン ス コ ア を 1 0 0 と す る と , 精 米 は 77 で , 牛 乳 と 同 じ よ う な 良 質 の タ ン パ ク 質 が 含 ま れ て い る こ と に な る 。
脂 質 は 1 . 3 % で あ る 。 脂 質 は 品 質 劣 化 の 原 因 に な る こ と が 多 い の で , 食 味 の 点 か ら い え ば , 脂 質 の 少 な い こ と は 米 の 利 点 と い う こ と が で き る 。 米 は 無 機 質 に 乏 し く , 精 米 で は 0 . 6 % で あ る 。 無 機 質 の な か で は リ ン が 多 く , カ ル シ ウ ム や ナ ト リ ウ ム は 少 な い と い え る 。 ビ タ ミ ン の お も な も の は B 1 , B 2 で , A , C , D は ま っ た く な い 。 し か し B 1 や B 2 は 胚 芽 や ぬ か 層 に 多 く 分 布 し , 胚 乳 で は 少 な い の で , 玄 米 と 精 米 で は 含 量 が 著 し く 違 う 。
→ イ ネ
執 筆 者 ‥ 竹 生 新 治 郎
食 用
白 米 の 精 白 歩 留 り が 90 ~ 9 2 % で あ る の に 対 し て , 歩 留 り が 95 ~ 9 6 % の も の を 半 搗 米 ま た は 5 分 搗 米 , 93 ~ 9 4 % の も の を 7 分 搗 米 と 呼 ん で い る 。 ま た , 胚 芽 を 残 し て ぬ か 層 の み を 除 い た も の を 胚 芽 米 と 呼 ん で い る 。 一 般 に 米 を 玄 米 の ま ま 炊 飯 利 用 せ ず , 白 米 と し て 炊 飯 利 用 す る の は , 玄 米 は 不 味 で あ り 消 化 率 も 低 い た め で あ る 。 半 搗 米 , 7 分 搗 米 , 胚 芽 米 は , 玄 米 の ぬ か 層 を 部 分 的 に あ る い は 胚 芽 を 残 す こ と に よ り , こ の 部 分 に 多 く 含 ま れ て い る ビ タ ミ ン B 1 な ど B 群 ビ タ ミ ン の 米 粒 中 へ の 残 存 を 高 め る こ と を 目 的 と し て い る 。 軟 質 米 は 食 味 が よ い が , 炊 き 増 え が 少 な く 貯 蔵 性 に 劣 り , 夏 期 に な る と か え っ て 硬 質 米 よ り 食 味 が 劣 る よ う に な る 。 日 本 で は 米 は 主 食 で あ る た め 周 年 利 用 さ れ る が , 本 年 度 産 米 は 翌 年 秋 に 新 米 が 出 回 る と 古 米 と 呼 ば れ る 。 一 般 に 新 米 は 食 味 が よ く 古 米 は 食 味 が 落 ち , と き と し て に お い も 悪 く な る 。 こ の 変 化 を 古 米 化 と 呼 び , こ の 状 態 の 好 ま し く な い に お い を 古 米 臭 と 呼 ん で い る 。 古 米 化 は 米 粒 中 の 一 部 の 脂 質 が 分 解 , 酸 化 す る こ と や 酸 素 活 性 の 低 下 に み ら れ る 生 命 力 の 弱 化 な ど が お も な 原 因 と な っ て 起 こ る 。 古 米 化 を 防 ぐ に は , 温 度 , 湿 度 が 高 く な る 時 期 に , 米 を 13 ℃ 以 下 , 相 対 湿 度 7 0 % 以 下 に 保 つ こ と が 可 能 な 低 温 倉 庫 で 貯 蔵 す る と , 比 較 的 長 期 間 品 質 を 損 な う こ と な く 貯 蔵 で き る 。 日 本 人 に と っ て , 米 は 主 食 で あ り 摂 取 量 も 多 い の で , 重 要 な エ ネ ル ギ ー 源 で あ り , ま た タ ン パ ク 質 の 供 給 源 と し て も 無 視 で き な い 。 し か し カ ル シ ウ ム , ビ タ ミ ン 類 の よ う に 含 量 の 少 な い も の は 他 の 副 食 品 で 補 わ ね ば な ら な い 。 米 の 粉 は お も に 和 菓 子 の 材 料 と し て 使 わ れ て い る 。 う る ち 米 を 水 洗 し 臼 び き し て 得 ら れ る 糝 粉 ︵ し ん こ ︶ , も ち 米 を 水 洗 し 臼 び き し 多 量 の 水 で 洗 っ た 後 乾 燥 し た 白 玉 粉 , 餅 ま た は も ち 米 を 蒸 し て か ら 乾 燥 し 石 臼 で 粗 び き し た 道 明 寺 粉 な ど が そ れ で あ る 。 こ の ほ か う る ち 米 の 粉 を 原 料 と し た め ん の 一 種 で あ る ビ ー フ ン , う る ち 米 を 蒸 し て 乾 燥 し た α 米 , 同 じ よ う に も ち 米 か ら 作 る 即 席 餅 な ど の 製 品 も あ る 。 ま た , 清 酒 は も と よ り , 焼 酎 , み り ん , 米 酢 , み そ な ど の 醸 造 加 工 に も 米 は 重 要 な 原 料 と な っ て い る 。
→ 飯
執 筆 者 ‥ 菅 原 龍 幸
世 界 の 米 生 産 と 輸 出 動 向
米 は , 小 麦 , ト ウ モ ロ コ シ と な ら ぶ 世 界 で も っ と も 重 要 な 穀 物 だ が , 世 界 の 米 の 生 産 の ほ と ん ど は , 第 2 次 大 戦 前 も 今 も , 米 を 主 食 に し て い る ア ジ ア の 国 々 で 生 産 さ れ て い る 。 世 界 の 米 総 生 産 量 は 戦 前 ︵ 1 9 3 4 - 3 8 平 均 ︶ 約 1 億 5 0 0 0 万 t で , そ の 9 5 % が 日 本 を 含 む ア ジ ア の 国 々 に よ っ て 生 産 さ れ て い た し , 5 億 5 0 0 0 万 t と 大 幅 に 増 加 し た 今 日 ︵ 1 9 9 5 ︶ も , そ の 9 0 % は 依 然 と し て ア ジ ア の 諸 国 が 生 産 し て い る ︵ 数 字 は も み 重 量 , 以 下 も 同 じ ︶ 。 な か で も 最 大 の 生 産 国 は 中 国 で , 第 2 次 大 戦 前 は 2 0 0 0 万 ha の 作 付 面 積 で 5 0 0 0 万 t 余 を 生 産 し て い た し , 今 日 で は 3 1 0 0 万 ha の 面 積 で 1 億 8 7 0 0 万 t を 生 産 し て い る 。 第 1 次 大 戦 前 も そ し て 今 も , 世 界 の 米 の 3 分 の 1 は 中 国 大 陸 で 生 産 さ れ て い る わ け で あ る 。 1 9 9 5 年 の お も な 米 生 産 国 は 中 国 に つ い で イ ン ド , イ ン ド ネ シ ア , バ ン グ ラ デ シ ュ , ベ ト ナ ム , タ イ , ミ ャ ン マ ー , 日 本 の 順 に な り ︵ 表 2 ︶ , 以 上 の 8 ヵ 国 が 世 界 の 米 の 8 4 % を 生 産 す る 主 要 米 産 国 で あ る 。 ま た 世 界 全 体 で は 単 位 面 積 当 り 収 量 の 増 加 も な っ た が , そ れ 以 上 に 収 穫 面 積 拡 大 が 生 産 量 の 増 大 に 大 き く 寄 与 し た こ と に 留 意 す べ き で あ る 。 表 2 の な か で は , 収 穫 面 積 を 大 き く 減 ら し な が ら も , も っ ぱ ら 単 位 面 積 当 り 収 量 増 で 生 産 量 を 増 加 さ せ た の は 日 本 だ け で あ る こ と が 注 目 さ れ る 。
と こ ろ で , 米 の 世 界 総 生 産 量 は 戦 前 の 1 億 5 0 0 0 万 t が 5 億 5 0 0 0 万 t へ と 3 . 6 倍 に ふ え た が , 世 界 の 輸 出 量 は 9 6 5 万 t が 2 3 3 0 万 t に な っ た に す ぎ な い 。 こ れ は 三 大 穀 物 の な か で , 米 が 小 麦 や ト ウ モ ロ コ シ と 決 定 的 に ち が う 点 で あ る 。 小 麦 は 戦 前 1 億 6 7 5 0 万 t の 生 産 で 1 7 3 0 万 t の 輸 出 量 だ っ た が , 今 ︵ 1 9 9 5 ︶ は 5 億 4 4 0 0 万 t の 生 産 で 1 億 1 2 0 0 万 t の 輸 出 量 に な っ て い る 。 ト ウ モ ロ コ シ は 1 億 1 5 0 0 万 t の 生 産 , 1 0 2 0 万 t の 輸 出 だ っ た の が , 5 億 1 5 0 0 万 t の 生 産 , 7 8 0 0 万 t の 輸 出 量 に な っ て い る 。 い ず れ も 総 生 産 増 加 率 よ り 輸 出 増 加 率 の ほ う が は る か に 高 い 。 小 麦 や ト ウ モ ロ コ シ の 生 産 増 大 が , 輸 出 の た め の 増 産 と し て 行 わ れ た の に 対 し , 米 の 増 産 は 基 本 的 に い っ て 米 食 国 で の 自 給 の た め の 増 産 と い う 性 格 が 強 い の で あ る 。
輸 出 総 量 と し て は ほ と ん ど 変 わ ら な い が , し か し 主 要 輸 出 国 は 戦 前 と 今 で は か な り 異 な る 。 戦 前 の 輸 出 国 は 第 1 に ビ ル マ ︵ 現 , ミ ャ ン マ ー ︶ , そ し て 旧 フ ラ ン ス 領 イ ン ド シ ナ , タ イ で あ り ︵ 韓 国 , 台 湾 の そ れ は 植 民 地 か ら 本 国 日 本 へ の 移 出 で , 国 際 市 場 へ の 輸 出 で は な か っ た ︶ , こ の 東 南 ア ジ ア 3 国 が 国 際 市 場 へ の 大 手 供 給 国 だ っ た 。 そ れ が , 今 も 輸 出 国 な の は タ イ だ け で あ り , ミ ャ ン マ ー は 輸 出 量 急 減 , 旧 フ ラ ン ス 領 イ ン ド シ ナ の ラ オ ス , カ ン ボ ジ ア , ベ ト ナ ム か ら の 輸 出 は な く な っ た 。 第 2 次 大 戦 後 も こ の 地 で 続 い た 戦 乱 に よ る こ と は い う ま で も な い 。 か わ っ て 輸 出 国 に な っ た の が , ア メ リ カ で あ り 中 国 で あ る 。 中 国 は 高 価 格 の 米 を 輸 出 し て , 安 い 小 麦 を 輸 入 す る 政 策 を と っ て い る の で , 輸 出 国 と し て は や や 特 殊 だ が , 注 目 す べ き は ア メ リ カ で あ る 。 か つ て は タ イ , ビ ル マ , イ ン ド シ ナ な ど の 低 単 収 が 示 す よ う に , 米 は 原 生 的 生 産 力 に 依 存 し た 後 進 国 の 輸 出 品 だ っ た 。 今 も タ イ の 米 輸 出 に そ の 性 格 が 見 ら れ る が , ア メ リ カ の 米 は 高 単 収 が 象 徴 し て い る よ う に , 高 度 の 農 業 技 術 の 所 産 で あ る 。 オ ー ス ト ラ リ ア , イ タ リ ア , エ ジ プ ト の 米 生 産 も 同 じ で あ り , 米 の 輸 出 国 は 先 進 国 に 移 り つ つ あ る 。
な お , ウ ル グ ア イ ・ ラ ウ ン ド の 農 業 合 意 ︵ 1 9 9 3 ︶ に も と づ き , 日 本 は 米 を ミ ニ マ ム ・ ア ク セ ス ︵ 最 低 輸 入 量 ︶ の か た ち で 恒 常 的 に 輸 入 す る こ と と な っ た ︵ 95 年 に は 国 内 消 費 量 の 3 % , 6 年 後 の 2 0 0 0 年 に は 8 % ︶ 。
日 本 の 米 生 産
20 世 紀 に 入 っ て か ら の 日 本 は , つ ね に 米 不 足 だ っ た ︵ 図 2 ︶ 。 1 8 7 8 - 8 0 年 の 年 平 均 1 人 当 り 消 費 量 ︵ 酒 米 な ど 主 食 用 以 外 の 消 費 も ふ く む ︶ は 1 1 5 k g で , 国 内 生 産 量 は 国 民 の 総 消 費 量 を 十 分 ま か な い , わ ず か だ が 輸 出 も し て い た ︵ 3 年 間 の 輸 出 総 量 14 万 t , 輸 入 総 量 2 万 t , 輸 出 超 過 量 年 平 均 4 万 t 。 輸 入 し て い た の は 安 い 南 京 米 ︶ 。 農 村 で は ア ワ , ヒ エ を 常 食 に し て い る と こ ろ も あ っ た し , 都 市 で も 中 小 工 場 職 工 の 主 食 は ︿ 挽 割 一 升 ノ 中 ニ 米 二 合 位 ﹀ ︿ 南 京 米 ト 挽 麦 ト 半 分 交 ゼ タ ル モ ノ ﹀ ︵ ︽ 職 工 事 情 ︾ 付 録 ︶ と い う 状 況 だ っ た 。 米 と く に 国 産 米 は , 当 時 優 等 財 だ っ た の で あ る 。 国 民 所 得 の 上 昇 は 当 然 な が ら 劣 等 財 の ア ワ , ヒ エ , 麦 か ら 正 常 財 の 米 に 主 食 を 集 中 さ せ , 消 費 量 を 増 大 さ せ る ︵ 図 2 ︶ 。 明 治 ・ 大 正 を 通 じ て の 1 人 当 り 米 消 費 量 の 顕 著 な 増 加 に 注 目 さ れ た い 。 1 人 当 り 米 消 費 量 が 1 4 8 . 5 k g に 達 し た 1 8 9 1 - 9 5 年 期 以 降 , 今 日 の 米 過 剰 時 代 の 開 幕 を 告 げ る 1 9 6 5 - 7 0 年 期 ま で , 日 本 は 米 輸 入 国 に な る が , 輸 入 国 に な っ て か ら も 1 人 当 り 消 費 量 は 増 え つ づ け , 1 9 2 1 - 2 5 年 期 に 1 7 0 k g の ピ ー ク に 達 す る 。 片 山 潜 が ︿ あ き ら か に 日 本 に お け る 民 衆 運 動 の 全 般 的 覚 醒 の 最 初 の 力 強 い 端 緒 で あ っ て , 現 代 革 命 運 動 の 火 蓋 を き っ た も の ﹀ と 評 価 し た 米 騒 動 が 起 き た の が 1 9 1 8 年 で あ る 。 そ れ は 1 人 当 り 米 消 費 が ピ ー ク に く る 時 期 で あ り , そ し て 国 内 産 米 の 供 給 不 足 量 が さ ら に 大 き く な っ て い く 時 期 で あ っ た 。 シ ベ リ ア 出 兵 に と も な う 軍 買 上 げ , 米 商 人 の 投 機 に よ る 米 価 高 騰 が 引 金 に な っ た こ と は 確 か だ が , 1 人 当 り 消 費 量 の 増 大 , 国 内 供 給 の 不 足 が 基 調 に あ っ た の で あ る 。
1 人 当 り 米 消 費 量 は 1 9 2 1 - 2 5 年 期 を ピ ー ク に 減 少 す る 。 第 2 次 大 戦 直 後 の 食 糧 危 機 期 に あ た る 4 6 - 5 0 年 期 の 急 激 な 落 込 み を 別 に す れ ば , 1 9 2 1 - 2 5 年 期 以 降 今 日 ま で , ほ ぼ 同 じ ペ ー ス で 1 人 当 り 消 費 量 は 減 少 し て い る ︵ 図 2 ︶ 。 昭 和 元 年 が 1 9 2 6 年 だ が , 昭 和 改 元 は 今 日 に つ な が る 食 生 活 の 近 代 化 - - 米 飯 と み そ 汁 か ら の 脱 却 - - の 開 始 で も あ っ た の で あ る 。 し か し 1 人 当 り 消 費 量 は 減 っ て も 人 口 増 大 が あ っ た の で , 総 消 費 量 は 1 9 2 1 - 2 5 年 期 以 降 も 増 加 し 続 け た 。 こ れ も 第 2 次 大 戦 期 と そ の 直 後 の 食 糧 危 機 時 代 の 4 1 - 5 0 年 の 急 減 を 異 常 な 時 期 の 現 象 と し て 除 い て 考 え れ ば , 6 1 - 6 5 年 期 ま で 総 消 費 量 は 明 治 に な っ て 以 降 ほ ぼ 同 じ ペ ー ス で 増 加 し 続 け た ︵ 図 2 ︶ 。 増 大 す る 米 需 要 に 対 し , 国 内 産 米 は 20 世 紀 に 入 っ て 需 要 を 完 全 に は 満 た せ な く な っ た も の の , 1 人 当 り 消 費 量 が ピ ー ク に な る ま で は 需 給 ギ ャ ッ プ を 大 き く 拡 大 さ せ な い 程 度 に は 供 給 を 増 加 さ せ て き た 。 だ が 1 人 当 り 消 費 量 が 減 少 に 向 か い 始 め る こ ろ か ら , 需 給 ギ ャ ッ プ は む し ろ 拡 大 す る 。 総 消 費 量 は 前 と 同 じ ペ ー ス で 増 え る の に , 国 内 産 米 の 生 産 増 加 率 が 鈍 化 し た か ら で あ る 。 1 8 7 8 - 8 0 年 期 の 4 1 8 万 t か ら 1 9 1 6 - 2 0 年 期 の 8 5 5 万 t ま で の 39 年 間 の 生 産 増 加 を 年 率 に す る と , 1 . 8 % の 増 加 率 に な る 。 と こ ろ が 1 6 - 2 0 年 の 8 5 5 万 t か ら 3 6 - 4 0 年 期 の 9 8 0 万 t へ の 増 加 年 率 は 0 . 7 % で し か な い 。 か な り の 鈍 化 と い う べ き で あ る 。
拡 大 し た 需 給 ギ ャ ッ プ を 埋 め た の は , 朝 鮮 , 台 湾 か ら の 移 入 だ っ た 。 移 入 の ピ ー ク は 1 9 3 8 米 穀 年 度 ︵ 1 9 3 7 年 11 月 ~ 38 年 10 月 ︶ だ が , そ の 年 は 9 9 5 万 t の 国 内 生 産 の 2 3 % に も な る 2 2 7 万 t と い う 大 量 の 米 が 移 入 さ れ て い る 。 こ の 米 移 入 激 増 は , 米 騒 動 に 深 刻 な 危 機 を 感 じ と っ た 日 本 政 府 の 植 民 地 産 米 増 殖 政 策 が 作 り 出 し た も の だ が , 朝 鮮 , 台 湾 か ら 入 っ て く る 米 の 価 格 は 国 内 産 米 よ り も 2 ~ 3 割 安 く , 移 入 米 の 増 大 は 国 内 産 米 に 対 し 生 産 抑 制 的 に 作 用 す る こ と に な っ た 。 1 . 8 % か ら 0 . 7 % へ と い う 生 産 増 加 率 ダ ウ ン の 一 つ の 要 因 が そ こ に あ っ た 。 ま た こ の 移 入 で バ ラ ン ス を と る 米 需 給 政 策 は , 戦 時 経 済 下 に 崩 壊 す る 。 き っ か け は 1 9 3 9 年 の 朝 鮮 の 干 ば つ に よ る 大 減 収 だ が , そ れ ば か り で は な か っ た 。 朝 鮮 や 台 湾 の 農 民 は 安 い 雑 穀 ︵ 満 州 か ら 輸 入 も し た ︶ を 主 食 と し , 生 産 し た 米 を 移 出 す る と い う 一 種 の 飢 餓 移 出 を し て い た の だ が , 戦 時 経 済 下 で 植 民 地 に も 戦 争 景 気 と イ ン フ レ が 浸 透 し て い く に つ れ 飢 餓 移 出 ま で は し な く て よ く な り , 米 を み ず か ら 消 費 す る よ う に な っ た の だ っ た 。 朝 鮮 , 台 湾 で の 米 消 費 増 大 は 当 然 に 移 出 を 激 減 さ せ る 。 そ の た め 政 府 は 南 方 米 の 輸 入 に 手 を つ け , 42 年 に は 食 糧 管 理 法 を 制 定 , 米 麦 な ど の 主 要 食 糧 に つ い て 乏 し き を 分 か つ ︿ 配 給 ノ 統 制 ﹀ ︵ 1 条 ︶ を 行 う よ う に な っ た ︵ こ の 食 糧 管 理 制 度 は 内 容 は 変 わ っ て も 今 日 な お 続 け ら れ て い る ︶ 。 し か し 戦 争 の 拡 大 で 輸 送 難 に な り , 44 年 に は 南 方 米 輸 入 も ゼ ロ に な っ て 敗 戦 を 迎 え る 。 敗 戦 直 後 は ︿ 配 給 ﹀ 食 糧 だ け で は 生 き て い け ず , 都 市 住 民 は 食 糧 確 保 に 四 苦 八 苦 し な け れ ば な ら な か っ た 。 米 消 費 が 底 に な っ た 1 9 4 6 米 穀 年 度 の 1 人 当 り 消 費 量 は 8 1 k g で , 数 量 と し て は 今 日 と 同 じ レ ベ ル だ が , 当 時 は カ ロ リ ー の 約 6 割 ︵ 今 は 約 2 割 ︶ を 米 か ら と っ て い た と い う 状 況 の 違 い が あ る 。 8 1 k g は 今 は 飽 食 を 意 味 す る が , 当 時 は 飢 餓 を 意 味 し た の で あ っ て , も つ 意 味 は ま っ た く 異 な る の で あ る 。
敗 戦 の 年 の 産 米 は 5 8 7 万 t し か な か っ た 。 明 治 30 年 代 ︵ 1 8 9 7 - 1 9 0 6 ︶ の レ ベ ル で あ る 。 冷 夏 そ し て 秋 の 風 水 害 と 天 候 も こ の 年 は 悪 か っ た 。 肥 料 を は じ め と す る 資 材 も む ろ ん な か っ た 。 “ 1 千 万 人 餓 死 説 ” が さ さ や か れ , ︿ 米 よ こ せ デ モ ﹀ ︵ 1 9 4 6 年 5 月 12 日 ︶ , ︿ 食 糧 メ ー デ ー ﹀ ︵ 同 年 5 月 19 日 ︶ が 発 生 , デ モ 隊 が 皇 居 に 入 っ た 。 米 の 増 産 は 何 よ り も 急 務 で あ り , 農 地 改 革 を は じ め と す る 施 策 が 集 中 的 に と ら れ る が , そ の 効 果 は 1 9 4 6 - 5 0 年 期 の 8 6 5 万 t が 5 1 - 5 5 年 期 に は 9 1 9 万 t に , 5 6 - 6 0 年 期 に は 1 1 8 5 万 t に な る と い う 形 で 現 れ る 。 1 0 0 0 万 t 以 上 の 記 録 は 戦 前 で は 1 9 3 3 年 の 1 0 6 2 万 t だ け で あ る が , 戦 後 は 55 年 に 1 1 8 5 万 t と 上 回 り , 59 年 1 2 5 0 万 t , 62 年 1 3 0 0 万 t , 67 年 1 4 4 5 万 t と つ ぎ つ ぎ に 記 録 を 更 新 す る 。 第 2 次 大 戦 後 の 米 生 産 の 発 展 は き わ め て 急 速 だ っ た と し て よ い で あ ろ う 。
単 位 面 積 当 り 収 量 の 増 加
日 本 の 米 生 産 の 特 徴 は , 生 産 量 増 大 を , ほ か の 国 の よ う に 収 穫 面 積 増 に か な り 依 存 す る と い う の で は な く , も っ ぱ ら と い っ て い い ほ ど 単 位 面 積 当 り 収 量 増 加 で 実 現 し て き て い る と こ ろ に あ る 。 そ の 特 徴 は 明 治 以 来 の も の で あ る ︵ 図 3 ︶ 。 た し か に 収 穫 面 積 も 明 治 10 年 代 ︵ 1 8 7 7 - 1 8 8 6 ︶ 2 5 0 万 ha , 1 9 1 0 年 代 3 0 0 万 ha と 増 え て い る ︵ 戦 前 の 最 高 は 1 9 3 2 年 の 3 2 5 万 ha , 戦 後 の 最 高 は 60 年 の 3 3 3 万 6 0 0 0 h a ︶ 。 し か し 2 5 0 万 ha を 起 点 に し て 最 高 面 積 を と っ て も , 面 積 増 は 3 3 % に と ど ま る 。 こ れ に 対 し 総 生 産 量 は 1 8 7 8 - 7 9 年 期 の 4 2 7 万 t か ら 1 9 6 5 - 6 9 年 期 の 1 2 7 4 万 t へ 3 倍 近 く に ふ え て お り , 日 本 で は 単 位 面 積 当 り 収 量 増 こ そ が 総 生 産 量 増 大 に と っ て 決 定 的 だ っ た 。 単 位 面 積 当 り 収 量 の 引 上 げ は , 明 治 以 降 三 つ の 画 期 を も っ て 進 展 し た 。 ︵ 1 ︶ ha 当 り 1 7 0 0 k g の レ ベ ル ︵ 今 日 の イ ン ド や タ イ の レ ベ ル と 考 え て よ い 。 表 2 は も み 重 量 , 表 2 以 外 の 数 値 は 玄 米 重 量 , 換 算 率 8 0 % で 比 較 さ れ た い ︶ か ら ha 当 り 2 7 7 2 k g に な る 1 9 1 5 - 1 9 年 期 ま で の 年 率 1 . 2 6 % で 伸 び た 上 昇 期 , ︵ 2 ︶ そ れ か ら 戦 時 経 済 を は さ ん で 5 0 - 5 4 年 期 に 至 る 3 0 1 8 k g に な っ た 年 率 0 . 2 4 % 増 の 停 滞 期 , ︵ 3 ︶ 以 降 今 日 ま で の 4 5 6 0 k g に な る 年 率 1 . 7 % 増 の 急 上 昇 期 で あ る 。
︵ 1 ︶ は 明 治 農 法 の 確 立 普 及 期 で あ る 。 乾 田 馬 耕 , 塩 水 選 , 短 冊 苗 代 , 正 条 植 , 多 肥 多 収 品 種 ︵ 神 力 , 愛 国 , 雄 町 ︶ の 普 及 , そ し て 金 肥 ︵ 魚 か す , 豆 か す ︶ 施 用 の 一 般 化 が そ の 内 容 だ が , そ れ は ひ と 口 に い っ て 労 働 集 約 的 土 地 生 産 性 追 求 の 農 法 で あ り , 1 9 6 0 年 こ ろ ま で は こ の 農 法 が 日 本 の 米 作 技 術 の 骨 格 を 形 づ く っ て い た 。 ︵ 2 ︶ の 停 滞 に つ い て は , 魚 か す , 豆 か す と い っ た 有 機 質 肥 料 が 硫 安 な ど の 無 機 質 肥 料 に か わ り , 地 力 低 下 が 不 安 定 性 を 増 し た と い う こ と も あ る が , よ り 決 定 的 に は 第 1 次 大 戦 後 の 戦 後 恐 慌 , そ し て 昭 和 恐 慌 と 続 い た 経 済 変 動 が 長 期 の 農 村 不 況 を も た ら し た こ と ︵ 低 価 格 植 民 地 米 の 移 入 増 大 も あ っ た ︶ , そ れ に 地 主 制 の 重 圧 を あ げ て お く べ き で あ ろ う 。 そ し て 戦 時 経 済 は も っ と も 重 要 な 生 産 力 構 成 要 素 で あ る 農 業 労 働 力 を 奪 い , ま た 肥 料 な ど の 生 産 資 材 も 入 手 困 難 に し た 。 停 滞 は 必 然 だ っ た 。 ︵ 3 ︶ 1 9 5 0 年 以 降 の 急 上 昇 は , 停 滞 期 を 規 定 し た 要 因 が す べ て 逆 に な っ た こ と に よ っ て も た ら さ れ た と い っ て よ い 。 農 地 改 革 は 所 有 の 魔 力 を 農 民 に 与 え , 生 産 意 欲 を 高 め た 。 国 家 投 資 に よ る 土 地 改 良 の 生 産 安 定 効 果 , 食 管 制 度 の も つ 価 格 安 定 機 能 が , 農 民 に 対 し 増 産 努 力 が 所 得 向 上 に 直 結 す る こ と を 保 証 し , そ の 上 で , そ れ ぞ れ の 地 域 条 件 に あ っ た 短 稈 ︵ た ん か ん ︶ 穂 数 型 耐 肥 性 増 収 品 種 ︵ ホ ウ ヨ ク , 藤 坂 5 号 , レ イ メ イ な ど ︶ が 開 発 さ れ , 分 施 施 肥 法 , 間 断 灌 漑 , 病 虫 害 防 除 技 術 な ど , 品 種 に 適 し た 肥 培 管 理 技 術 が 体 系 的 に 普 及 し た 。 そ の 効 果 は 全 国 的 に 単 収 レ ベ ル を 引 き 上 げ は し た が , 単 収 増 を ふ く め て の 増 産 効 果 に は 大 き な 地 域 差 が あ り , 北 海 道 , 東 北 , 北 陸 で も っ と も 増 産 効 果 が 高 く , 近 畿 , 中 国 , 四 国 な ど で 低 く , 米 産 県 序 列 を 大 き く 変 え た 。 戦 前 の も っ と も 生 産 量 が 多 か っ た こ ろ , 単 位 面 積 当 り の 収 量 序 列 は 高 い 順 で 佐 賀 ︵ ha 当 り 3 8 9 0 k g ︶ , 奈 良 ︵ 3 7 9 0 k g ︶ , 大 阪 ︵ 3 6 0 0 k g ︶ , 香 川 ︵ 3 5 2 0 k g ︶ と 西 日 本 各 府 県 で 占 め ら れ て い た ︵ 数 値 は 1 9 3 4 - 3 8 年 平 均 ︶ 。 東 日 本 で は 5 位 に 山 梨 ︵ 3 4 7 0 k g ︶ , 8 位 に 石 川 ︵ 3 3 2 0 k g ︶ が 入 っ て い た に す ぎ な い 。 し か し 戦 後 最 高 の 1 4 4 5 万 t を あ げ た 68 年 の 順 位 を み る と , 山 形 ︵ 5 6 9 0 k g ︶ , 秋 田 ︵ 5 4 3 0 k g ︶ , 長 野 ︵ 5 3 5 0 k g ︶ , 青 森 ︵ 5 2 0 0 k g ︶ , 新 潟 ︵ 5 1 8 0 k g ︶ と な っ て お り , 上 位 県 は 東 北 , 北 陸 諸 県 が 占 め て い る 。 西 日 本 諸 県 は 10 位 以 内 に は 9 位 に 佐 賀 ︵ 4 9 8 0 k g ︶ が あ る だ け で あ る 。 戦 前 は 最 下 位 の 北 海 道 ︵ 2 0 7 0 k g ︶ も 68 年 に は 11 位 に 上 が り , 稲 作 の 中 心 が 西 日 本 か ら 東 日 本 に 移 っ た こ と を 象 徴 的 に 示 し て い る 。
米 の 生 産 が 史 上 最 高 を 記 録 す る 時 期 が , 総 消 費 量 の 逆 に 減 少 す る 時 期 だ っ た こ と は 歴 史 の 皮 肉 で あ る 。 20 世 紀 に 入 っ て 以 来 の 恒 常 的 米 輸 入 国 の 状 況 を よ う や く 脱 却 で き る よ う に な っ た そ の 時 点 か ら , 過 剰 生 産 を ど う す る か が 最 大 の 農 政 問 題 に な り , 今 日 に 至 っ て い る 。 1 9 7 0 年 か ら 減 産 政 策 が 行 わ れ て お り ︵ ︿ 生 産 調 整 ﹀ の 項 目 を 参 照 ︶ , 米 生 産 は 現 在 き び し い 作 付 制 限 下 に あ る 。 過 剰 時 代 に 入 っ て ︿ 配 給 ノ 統 制 ﹀ を し て い た 食 糧 管 理 制 度 も 改 正 さ れ , 自 主 流 通 米 が 認 め ら れ る よ う に な っ た 。 自 主 流 通 米 制 度 は , コ シ ヒ カ リ , サ サ ニ シ キ な ど の 良 質 米 作 付 け を 条 件 の あ わ な い と こ ろ に ま で 拡 大 し , 気 象 変 動 を 受 け や す く し て い る 。 8 0 - 8 3 年 の 4 年 続 き の 冷 害 の 一 因 は こ こ に あ る 。
→ 米 価
執 筆 者 ‥ 梶 井 功
日 本 人 と 米
古 代 , 中 世
縄 文 時 代 の 晩 期 か ら 農 耕 が は じ ま り , 九 州 地 方 で は 米 も 作 ら れ た と い う が , 弥 生 時 代 に 入 る と 広 く 各 地 に 稲 作 が 行 わ れ る 。 大 和 朝 廷 の 時 代 に 入 る と , 朝 廷 に 納 め る 租 は 稲 の 種 実 を 主 体 と す る よ う に な る 。 ︽ 正 倉 院 文 書 ︾ の な か の 幾 つ か の 国 の 正 税 帳 を み る と , 納 め ら れ る 形 に は 穀 , 穎 稲 ︵ え い と う ︶ , 糒 ︵ ほ し い い ︶ の 三 つ が あ り , さ ら に 薩 摩 , 駿 河 , 豊 後 , 紀 伊 そ の 他 で は , 稲 穀 の ほ か に ア ワ が 租 と し て 納 め ら れ て い る 。 ア ワ 納 の 場 合 も 穀 と 穎 粟 ︵ え い ぞ く ︶ が あ る が , ア ワ 納 の 多 い 薩 摩 の 2 郡 の 場 合 で も , 米 納 分 の 2 5 % く ら い で あ る 。 正 租 は 稲 穀 主 体 と い っ て よ い 。 穎 は つ い て 殻 を 除 い た 玄 米 で あ り , 穎 稲 は 穂 首 刈 り を し た 穂 つ き の も み で , 束 , 把 の 単 位 で 数 え ら れ る 。 穎 稲 20 束 は 扱 ︵ こ ︶ き , つ い て 米 1 石 と な る と さ れ る 。 糒 は 乾 飯 で , 長 期 の 保 存 に 耐 え る 。 ︽ 延 暦 交 替 式 ︾ に の せ る 7 9 9 年 ︵ 延 暦 18 ︶ の 太 政 官 符 に は , 正 税 を 旧 来 の よ う に 穎 納 に せ よ と い い , そ の 理 由 と し て , 土 地 に よ っ て 稲 に は 早 晩 種 が あ る が , 租 全 部 を 穀 に す る と 早 晩 の 区 別 が つ か な い の で , 穎 納 に 返 す の だ と し て い る 。 正 租 中 の 穎 稲 を 20 束 1 石 で 換 算 し て 穀 納 分 に 対 す る 比 率 を み る と , 数 % か ら 十 数 % の 間 に あ る 。 国 衙 ︵ こ く が ︶ が 保 存 し て 種 子 と し て 用 い る た め の 穎 納 な の で あ ろ う 。
租 の 用 途 は 祭 祀 用 , 官 途 に あ る も の へ の 給 米 の ほ か , 役 民 使 役 の た め に も 用 い ら れ る 。 朝 廷 や 官 に 仕 え る 人 々 の 食 事 は 米 を 主 食 と す る よ う に な っ て い る こ と が わ か る 。 諸 史 料 に よ れ ば , 米 に は 黒 米 , 白 米 , 赤 米 な ど の 名 が あ り , こ れ は 搗 白 の 程 度 に よ る も の で あ る 。 黒 米 は 玄 米 で , 白 米 は 舂 白 ︵ し よ う は く ︶ 米 で あ る 。 黒 米 は 大 嘗 会 , 新 嘗 会 な ど の 神 事 に 用 い ら れ る ほ か , 臨 時 の 雑 役 や 下 級 の 職 に あ る 人 々 へ の 給 与 に 用 い ら れ る 。 ︽ 延 喜 式 ︾ の 各 所 に そ の こ と が 記 さ れ , 例 え ば ︿ 駈 使 雇 夫 単 五 十 人 食 料 , 黒 米 人 別 日 二 升 , 塩 二 勺 ﹀ な ど と あ る 。 織 部 司 に 働 く 織 手 の う ち 薄 機 の 織 手 に は 白 米 1 日 1 升 6 合 が 与 え ら れ る が , 普 通 の 織 手 や 手 伝 人 , 機 工 に は 1 日 に 黒 米 2 升 を 与 え る 定 め と な っ て い る 。 つ き 減 り の 歩 合 を 考 え る と , こ の 二 つ の 量 は 同 じ で あ る 。 こ の こ と が 直 ち に 玄 米 食 だ っ た こ と を 示 す と は い え な い が , 朝 廷 で 雇 用 す る 人 々 で も , 不 熟 練 労 働 に 従 事 す る 人 々 の な か に は , 玄 米 食 を す る 可 能 性 は あ っ た と い え よ う 。
米 の 種 類 に は こ の ほ か に う る ち ︵ 粳 ︶ , も ち ︵ 糯 ︶ の 区 別 が あ る 。 今 日 で は 米 飯 用 と 餅 用 の 差 で あ る が , 古 代 史 料 に 現 れ た 給 与 ま た は 消 費 の 量 に 現 れ た と こ ろ で は , 截 然 と そ の よ う に 区 別 す る こ と は む ず か し い 。 ︽ 延 喜 式 ︾ 大 膳 上 に 現 れ る 諸 神 社 の 祭 事 の さ い の 雑 給 料 に は , 多 少 の 差 は あ る が 白 米 と あ る も の と も ち 米 の 量 が ほ ぼ 同 量 で あ り , 内 膳 司 の 部 の 正 月 , 5 月 , 7 月 , 9 月 の 節 の 料 も う る ち , も ち の 量 は 同 様 で あ り , 供 御 月 料 で も 米 3 斗 6 升 4 合 に 対 し て も ち 米 2 斗 4 升 7 合 5 勺 の ほ か , も ち 糒 1 斗 2 升 7 合 5 勺 な ど と あ る か ら で あ る 。 餅 料 と 記 さ れ る も の に も う る ち , も ち 同 量 が 記 さ れ る 。 こ れ は 当 時 の 飯 が 甑 ︵ こ し き ︶ を 使 っ て 蒸 す 強 飯 を 常 態 と し た か ら か も 知 れ な い 。 水 を 加 え て 炊 く 今 日 の 飯 は 粥 ︵ か ゆ ︶ の う ち の 堅 粥 で あ っ た 。
中 世 荘 園 制 下 に あ っ て も , 広 く 各 層 の 食 料 の 実 態 を 伝 え る 史 料 は 乏 し い 。 一 荘 園 領 主 が 毎 年 手 に す る 年 貢 の 種 類 別 総 量 に 対 す る 検 討 も 少 な い 。 し か し 例 え ば 皇 室 領 の 一 つ で , 長 く 持 明 院 統 の 御 領 で あ っ た 長 講 堂 領 諸 荘 園 の 1 4 0 7 年 ︵ 応 永 14 ︶ の 年 貢 は , 米 4 1 4 0 石 余 に 対 し て ほ か に 雑 穀 な ど は な く , 油 , 絹 , 糸 , 綿 , 白 布 , 炭 , 紙 , 材 木 薪 , 香 , 小 莚 ︵ こ む し ろ ︶ , 漆 が あ げ ら れ て い る 。 ま た 1 2 6 6 年 ︵ 文 永 3 ︶ の 東 寺 領 丹 波 大 山 荘 の 領 家 得 分 は 米 2 0 0 石 を 主 体 と し て 麦 10 石 , 麦 6 斗 , 餅 1 2 0 枚 の ほ か , 少 量 ず つ の 苧 ︵ か ら む し ︶ , 紙 , 布 , 菓 子 , 搗 栗 ︵ か ち ぐ り ︶ , 甘 栗 , 生 栗 , 漆 , 栃 ︵ と ち ︶ , 串 柿 ︵ く し が き ︶ , 薯 蕷 ︵ し よ よ ︶ , 野 老 , 牛 房 ︵ ご ぼ う ︶ , 苟 若 ︵ こ ん に や く ︶ , 土 筆 ︵ つ く し ︶ , 干 蕨 ︵ ほ し わ ら び ︶ , 胡 桃 ︵ く る み ︶ , 平 茸 ︵ ひ ら た け ︶ , 梨 , 熟 柿 , 山 牛 房 , 糸 , 油 が あ り , さ ら に 桶 類 , 薦 ︵ す ご も ︶ , 続 松 ︵ た い ま つ ︶ な ど が 見 ら れ る 。 荘 園 領 主 層 の 食 料 が , 米 を 中 心 と す る こ と は 明 ら か で あ る 。
米 食 が 広 く 国 民 の 各 層 に 及 ん で い た か ど う か を 史 料 的 に 確 か め る こ と は で き な い 。 し か し 稲 穀 に 代 わ っ て ア ワ を 租 と し て 納 め る こ と を 認 め た 7 1 5 年 ︵ 霊 亀 1 ︶ の 詔 は , ア ワ は ︿ 支 ふ る こ と 久 う し て 敗 れ ず ﹀ と い う 特 色 を 述 べ て お り , 麦 作 の 奨 励 を す る 7 2 3 年 ︵ 養 老 7 ︶ の 太 政 官 符 で は , 麦 は も っ と も た い せ つ で 窮 乏 の と き の 救 い と し て こ れ 以 上 の も の は な い と 述 べ て い る 。 小 麦 , 大 豆 , ア ズ キ , ヒ エ な ど は 奈 良 朝 ・ 平 安 朝 期 の 諸 史 料 に 現 れ て い る 。 安 房 国 の 義 倉 に ア ワ の 納 め ら れ て い る こ と も 知 ら れ て お り , 庶 民 の な か に は 地 方 に よ り 畑 の 雑 穀 類 を 常 食 す る も の の あ っ た こ と は 推 測 し う る と こ ろ で あ る 。
米 は 主 食 の 材 料 で あ る だ け で な く , 酒 , 甘 酒 の 原 料 と な り , さ ら に 調 味 料 と し て の ひ し お な ど の 製 造 に も 用 い ら れ , 酒 の か す 類 は 野 菜 類 の 漬 物 の 原 料 と し て 用 い ら れ て い る こ と が 知 ら れ る 。 米 は 古 代 か ら わ が 国 食 文 化 の 中 枢 を 占 め て い た 。
近 世
食 糧 と し て の 米
米 は 古 来 日 本 人 の 食 糧 の 代 表 の よ う に い わ れ て き た が , 昭 和 戦 前 期 の よ う に 広 く 各 層 が 米 食 を 普 通 と す る よ う に な っ た の は , そ れ ほ ど 古 く は な い 。 近 世 に つ い て は 全 国 的 な 生 産 統 計 の 類 は な い の で , 個 別 事 例 に よ っ て 知 る 以 外 に は 方 法 が な い 。 そ こ で 幕 末 期 の 状 態 に 近 い と い う 意 味 で 1 8 7 8 - 8 2 年 ︵ 明 治 1 1 - 1 5 ︶ 平 均 の 米 収 量 ︵ 陸 稲 , も ち 米 を 含 む ︶ を み る と 2 9 7 4 万 石 余 , 同 期 間 の 米 輸 出 入 額 を 加 除 す る と , そ の 期 間 の 平 均 総 人 口 3 6 3 5 万 人 余 に 対 す る 米 の 国 内 供 給 量 は 2 9 5 3 万 石 余 と な る 。 1 人 当 り 年 間 8 斗 1 升 2 合 と い う 数 字 と な り , 通 常 昭 和 戦 前 期 の 年 間 1 人 当 り 消 費 量 を 1 石 1 斗 と み る の に 対 し て , 低 く な っ て い る 。 こ の 1 人 当 り 年 米 供 給 量 を 同 様 の 方 法 で 計 算 す る と , 1 8 7 8 年 の ︿ 農 産 表 ﹀ で は 7 斗 7 升 2 合 , 1 8 7 5 年 の ︿ 府 県 物 産 表 ﹀ で は 7 斗 2 升 と な る 。 幕 末 期 を 想 定 し て も , こ の 数 量 よ り さ ら に 少 額 と な る こ と が 考 え ら れ る 。 江 戸 時 代 の 米 の 生 産 量 総 額 は 知 る こ と が で き な い が , 耕 地 に つ け ら れ た 石 高 の 4 0 % く ら い は , 本 年 貢 と し て 領 主 層 の 手 に 納 め ら れ る 。 こ の ほ か に も 米 で 納 め ら れ る 年 貢 , 諸 役 が あ る 。 こ の こ と か ら 武 士 層 と 農 民 層 と で の 米 消 費 量 に は 大 き な 差 の 生 じ る こ と が 推 定 さ れ る 。 こ の 分 割 比 率 も 知 る こ と が で き な い が , 都 市 居 住 者 , 旧 武 士 層 は 年 間 米 1 石 を 消 費 す る も の と 仮 定 し , そ の 人 口 を 4 0 0 万 人 と 推 定 す る と , 残 さ れ た 3 1 0 0 万 人 の 人 々 の 1 人 当 り 年 消 費 量 は , 1 8 7 8 年 の 米 供 給 量 基 準 で 7 斗 2 升 5 合 と な る 。 明 治 前 期 に つ い て こ の よ う な 推 計 を し た う え で , 江 戸 時 代 の 農 民 の 米 消 費 の 状 態 を 示 す 幾 つ か の 資 料 を 見 て み よ う 。
元 禄 ︵ 1 6 8 8 - 1 7 0 4 ︶ 前 後 に い た る ま で は , 農 民 の 食 糧 の 実 態 を 知 り う る 資 料 は な い 。 そ の こ ろ の 紀 州 紀 ノ 川 沿 い の 人 の 著 書 ︽ 地 方 の 聞 書 ︵ 才 蔵 記 ︶ ︾ の 記 述 は 象 徴 的 で あ る 。 ︿ 正 月 五 節 句 盆 神 事 , 年 中 二 十 六 日 米 給 ︵ た べ ︶ 申 候 ﹀ と 記 し て い る 。 こ の 書 中 に は 田 2 町 , 畑 5 段 , 石 高 31 石 に 及 ぶ , 当 時 の 大 経 営 の 収 支 計 算 を の せ て い る 。 そ こ で は 年 貢 26 石 余 を 納 め た あ と , 手 も と に 米 13 石 5 斗 , 麦 40 石 , そ の 他 雑 穀 を 残 す が , こ れ ら の 多 く は 売 ら れ , 大 麦 17 石 7 斗 5 升 と キ ビ 5 石 6 斗 8 升 が , 10 人 の 日 常 の 食 事 に あ て ら れ て い る 。 先 の 26 日 分 の 米 の 量 は 1 人 1 日 3 合 米 を 食 べ る と し て も 7 升 8 合 に す ぎ な い 。 こ こ で 年 貢 米 と し た の は 玄 米 で の 量 で あ る 。 江 戸 時 代 の 年 貢 米 は も み 殻 を 除 い た 玄 米 が 通 例 の 形 で あ り , ︽ 民 間 省 要 ︾ な ど に よ れ ば 精 選 し た も の を 納 め る と し て い る 。 地 方 に よ る と 山 間 部 な ど で も み 納 の 所 も あ る が , そ の 分 布 は 正 確 に は 確 か め ら れ て は い な い 。 米 を 作 る 農 民 は , 自 分 た ち は 麦 ・ 雑 穀 主 体 の 食 事 を す る の で あ る 。 1 7 0 7 年 ︵ 宝 永 4 ︶ の 加 賀 石 川 郡 の ︽ 耕 稼 春 秋 ︾ は , 石 高 50 石 の 収 支 計 算 を の せ る 。 収 穫 物 は 米 57 石 7 斗 , 菜 種 20 俵 , 大 小 麦 15 ~ 20 俵 と し , 米 は 年 貢 25 石 , 村 掛 り 2 石 , 種 も み 米 1 石 3 斗 , 1 年 の 諸 入 用 を 満 た す た め の 販 売 米 25 石 4 斗 で あ り , 残 米 3 石 8 斗 6 升 と 大 小 麦 で 1 年 の 食 事 を 支 え る こ と と な る 。 も み を 選 別 す る さ い に 出 る し い な ︵ 粃 ︶ や 砕 米 を 粉 に し た ゆ る 粉 で 作 っ た だ ん ご も 食 糧 の 補 充 物 で あ り , 加 賀 田 所 の 大 百 姓 も ︿ 麦 は 百 姓 給 物 ︵ た べ も の ︶ ﹀ と い う 生 活 を し て い る の で あ る 。 こ の よ う な 雑 穀 中 心 の 食 事 に , 里 芋 , カ ン シ ョ , 大 根 な ど も 雑 炊 の 材 料 と し て 用 い て お り , 米 は 領 主 へ の 年 貢 , 町 場 へ の 販 売 物 に す ぎ な い 。
幕 末 に な る と 農 民 の 生 活 に も 少 し ず つ 米 が 加 わ っ て く る 。 そ の 例 を 天 保 ︵ 1 8 3 0 - 4 4 ︶ 後 年 以 後 編 纂 ︵ へ ん さ ん ︶ さ れ た 長 州 藩 の ︽ 防 長 風 土 注 進 案 ︾ か ら 二 , 三 あ げ て み よ う 。 同 書 で は 1 人 当 り 年 間 食 糧 を 米 , 雑 穀 計 1 石 4 斗 4 升 ︵ 1 日 当 り 約 4 合 ︶ と す る 地 帯 と , 同 1 石 余 ︵ 1 日 当 り 3 合 ︶ と す る 地 帯 に 分 け て , 1 村 ご と に 米 , 雑 穀 の 収 量 , 年 貢 諸 役 , 生 計 費 な ど を い か に 満 た す か を 記 し て い る 。 そ れ に よ る と 桜 畠 村 ︵ 現 , 山 口 市 ︶ で は , 田 89 町 3 反 余 , 畑 23 町 7 反 余 か ら の 米 の 収 量 は 1 5 1 8 石 4 斗 9 升 で あ る 。 う ち 年 貢 諸 役 8 3 5 石 余 , 販 売 1 9 9 石 8 斗 余 , 借 銀 利 米 な ど 1 3 8 石 5 斗 弱 で , 自 家 食 糧 に あ て う る 米 は 3 4 5 石 1 斗 5 升 と な る 。 総 生 産 の 2 3 % に あ た る 。 総 人 口 1 人 当 り で 5 斗 8 升 5 合 と な る 。 米 所 で は 米 を 農 民 も 食 べ る よ う に な っ て い る 。 そ の 他 は 1 人 当 り 麦 5 斗 8 升 5 合 , 雑 穀 2 斗 7 升 を 自 給 し て , 藩 役 人 の 考 え る 標 準 年 間 1 人 1 石 4 斗 4 升 を 満 た す こ と に な る 。 こ れ に 対 し て 海 岸 村 の 久 賀 村 ︵ 現 , 山 口 県 大 島 郡 周 防 大 島 町 ︶ で は 1 人 1 年 の 食 糧 は 米 2 斗 8 升 9 合 , 麦 2 斗 4 升 , 雑 穀 5 升 2 合 , カ ラ 芋 雑 穀 換 算 2 斗 5 升 5 合 , 大 根 雑 穀 換 算 1 斗 4 升 , 計 9 斗 7 升 8 合 が 村 内 自 給 で 賄 わ れ る 。 御 用 紙 漉 立 ︵ す き だ て ︶ に 対 し て 米 の 支 給 を う け る 広 瀬 村 ︵ 現 , 玖 珂 郡 錦 町 ︶ の 例 で は , 1 人 年 間 2 斗 5 ~ 6 升 の 米 を 食 う が , こ れ は 1 日 当 り 0 . 6 ~ 0 . 8 合 に あ た り , 他 に 麦 , 雑 穀 , 芋 , 大 根 を 食 べ て , 標 準 の 3 合 を 満 た す こ と に な る 。 天 保 後 年 以 後 に な っ て , 農 民 も 一 定 量 の 米 を 食 う も の と 藩 役 人 も 考 え る よ う に な っ て い る が , 農 民 は 生 産 す る 米 の う ち 多 く の 部 分 は 藩 へ 年 貢 と し て 納 め , 町 場 の 人 々 に 供 給 す る 存 在 だ っ た の で あ る 。
江 戸 時 代 の 領 主 お よ び 家 臣 団 の 人 口 は 正 確 に 知 る こ と が で き な い 。 そ の 層 の 後 身 は 明 治 期 に は 華 族 と 士 族 と し て と ら え ら れ る 。 そ の 数 は 1 9 0 万 前 後 で あ る 。 こ れ に 家 内 使 用 人 な ど 同 一 家 計 で 生 活 す る も の を 加 え て も 3 0 0 万 人 足 ら ず で あ ろ う 。 そ の 人 た ち の 生 活 は 年 貢 収 入 に よ っ て 支 え ら れ る 。 大 名 , 旗 本 , 地 方 知 行 ︵ じ か た ち ぎ よ う ︶ の 家 臣 団 は , 各 々 そ の 知 行 地 か ら の 年 貢 が 生 活 の 基 盤 と な り , 扶 持 米 給 与 の 家 臣 団 は 給 与 さ れ る 禄 米 で 暮 ら す 。 初 期 の 年 貢 に は 米 主 体 の 本 年 貢 の ほ か に , 多 様 な 農 民 の 生 産 物 が 小 物 成 そ の 他 の 名 目 で 納 め ら れ る 。 塩 田 に 課 さ れ る 塩 , 長 州 藩 の 紙 な ど 領 主 の 販 売 す る 蔵 物 と な る も の も あ り , そ の 多 く は 領 主 層 の 生 活 の 資 と な っ た が , 早 期 に 代 金 納 さ れ る 。 直 営 鉱 山 や 長 崎 貿 易 , 株 仲 間 か ら の 納 金 な ど を も つ 幕 府 で も , 幕 末 期 に は そ の 歳 入 の 9 5 % は 本 年 貢 と 計 算 さ れ る 。 そ の 収 入 の 実 体 か ら み て , 領 主 ・ 家 臣 団 の 食 事 の 中 心 は 米 で あ っ た と 考 え ら れ る 。 こ れ と と も に 人 口 2 0 0 万 前 後 と 考 え ら れ る 三 都 , 城 下 町 , 人 口 の 多 い 宿 駅 , 港 町 に 住 む 商 人 ・ 職 人 な ど で は 主 食 に 占 め る 米 の 割 合 は , 農 民 よ り 多 か っ た と 考 え ら れ る 。
米 の 流 通
幕 末 期 長 州 藩 領 の 農 村 で は 米 所 の 場 合 , 農 民 上 層 の 米 販 売 も あ っ た し , 同 様 の 例 は 各 地 で 確 認 さ れ て い る 。 秋 田 藩 で は 藩 米 の ほ か に 商 人 米 が 大 坂 に 回 漕 さ れ た こ と が 知 ら れ て い る が , 一 般 的 に は 農 民 販 売 米 の 流 通 は , そ の 藩 の 城 下 町 や 宿 場 , 港 町 な ど 狭 い 範 囲 で あ っ た と 考 え ら れ る 。 遠 距 離 の 流 通 は 領 主 の 収 納 し た 年 貢 米 の 一 部 で あ り , 大 坂 , 江 戸 に 海 路 輸 送 ︵ 廻 米 ︶ さ れ , 蔵 屋 敷 な ど を へ て 大 都 市 市 場 に 出 る 。 そ の こ と と 関 係 し て 市 場 で の 米 の 銘 柄 は , 各 領 主 の 所 領 の 国 名 で 呼 ば れ る こ と が 多 い 。 江 戸 に お け る 米 品 質 の 評 価 に お い て 特 異 な 点 は , 明 治 以 後 良 質 米 と さ れ る 東 北 日 本 海 岸 の 軟 質 米 が 劣 等 品 と さ れ た こ と で あ ろ う 。 こ れ は 西 廻 海 運 に よ っ て 大 坂 に 集 ま り , さ ら に 海 路 江 戸 に 送 ら れ る 輸 送 事 情 か ら , 昨 年 の 収 穫 米 が 江 戸 市 場 に 出 る 時 期 が , 梅 雨 期 以 後 に な る こ と か ら 生 じ る こ と で あ る 。
特 殊 米 と 農 民 の 改 良 の 意 欲
以 上 米 と し て 扱 っ て き た の は , 日 本 人 の 食 用 に 供 し て き た 米 一 般 で あ る 。 こ れ ら の 米 の 大 部 分 は 短 粒 白 色 の 日 本 型 稲 の 種 実 で あ る が , 本 草 学 者 , 民 俗 学 者 の 興 味 を よ せ る 特 殊 の 稲 米 に , 大 唐 米 , 赤 米 , 香 稲 な ど が あ る 。 こ れ ら は 早 く ︽ 清 良 記 ︾ ︵ 寛 永 年 間 ︵ 1 6 2 4 - 4 4 ︶ ま た は 延 宝 年 間 ︵ 1 6 7 3 - 8 1 ︶ 成 立 と い わ れ る ︶ に そ の 名 を 現 す 。 早 中 晩 の う る ち , 畑 稲 の 品 種 名 に な ら ん で , 餅 稲 , 太 米 の 品 種 名 を あ げ る が , 餅 稲 の な か に 香 餅 , 赤 餅 が あ り , 太 稲 中 に は 大 唐 を 名 と す る も の が あ る 。 本 草 書 の な か で は 小 野 必 大 の ︽ 本 朝 食 鑑 ︾ が も っ と も 簡 明 に 大 唐 米 の 特 質 を 示 し て い る 。 そ の 米 は 小 粒 , 赤 白 2 色 あ っ て き わ め て 早 生 , 雨 に 腐 り や す く , 実 は 落 ち や す い な ど と 記 し , 中 華 の 種 を 移 し 植 え た も の で 唐 乾 ︵ と う ぼ し ︶ と も い う と し て , 秈 ︵ せ ん ︶ で あ ろ う と す る 。 イ ン ド 型 の 稲 米 で あ る 。 こ の 種 中 に 赤 米 や 鼠 米 ︵ ね ず み ご め ︶ が 入 る よ う に も 記 し , 鼠 米 は 香 稲 と も と れ る 記 述 を す る 。 赤 米 は 対 馬 な ど で 神 事 に 用 い ら れ る こ と か ら 民 俗 学 者 の 注 意 を 呼 ぶ 。 大 唐 米 に 関 し て 注 意 す べ き 記 述 は , 越 中 の 農 書 ︽ 私 稼 農 業 談 ︾ ︵ 正 保 年 中 ︵ 1 6 4 4 - 4 8 ︶ ︶ に 中 国 よ り 取 り よ せ た 仏 像 の 荷 造 用 の わ ら に 残 る も み か ら 生 じ た と す る こ と で あ る 。 必 ず し も 古 来 の 伝 来 で は な く , 各 種 の 交 易 物 の 包 装 に よ っ て , 江 戸 時 代 に も 伝 来 す る 可 能 性 の あ る こ と を 示 す か ら で あ る 。 大 唐 米 に つ い て の 本 草 書 の 評 価 は 多 収 で あ り , 炊 き 増 え す る こ と か ら 農 民 食 糧 と し て 好 適 で あ る と す る が , 先 に 例 示 し た 周 防 桜 畠 村 の 例 で 米 の 実 収 量 の 5 6 % , 田 畑 石 高 1 8 2 3 石 余 に 対 し て 4 6 % の 年 貢 諸 役 を 米 で 納 め , さ ら に 販 売 分 も あ っ て , 収 量 の 2 3 % だ け が 自 家 食 糧 と な る 事 情 の 下 で は , 稲 作 は 年 貢 な ら び に 販 売 用 と し て 日 本 米 を 作 ら な け れ ば な ら な い 。 在 来 種 の 田 植 後 , そ の そ と 回 り に 1 列 2 列 植 え た り , 広 い 株 間 に 植 え る も の で あ る と も さ れ る 。
江 戸 時 代 後 期 に い た っ て , 農 民 の 米 食 量 も 増 加 す る が , そ れ に は 多 数 の 農 書 が 農 民 の 手 で 著 さ れ た こ と に も 示 さ れ た 農 民 の 技 術 改 良 の 努 力 が 前 提 と な っ て い る 。 改 良 は 種 子 の 選 択 , 苗 作 り , 耕 作 法 , 施 肥 の 改 良 , 乾 田 化 な ど 稲 作 の 全 過 程 に 及 ん で い る が , 多 収 稲 や 土 地 に 合 っ た 種 類 の 選 択 は , 多 く の 農 民 の 帳 簿 か ら も う か が わ れ る 。 多 収 品 種 の 発 見 は , ふ つ う 選 穂 ︵ え り ほ ︶ と い っ て , 同 じ 田 の 稲 穂 中 の 生 育 の よ い も の を 選 び , そ の 種 の 試 作 を 通 じ て 新 品 種 を 選 び 出 す 方 法 に よ っ て い る 。 そ の 努 力 が 各 地 域 に 多 数 の 優 良 品 種 を 成 立 さ せ て い る 。
明 治 以 後 の 米
明 治 以 後 の 米 に つ い て 影 響 を 与 え る 条 件 は , 外 国 貿 易 , 地 租 の 金 納 化 , 工 場 労 働 者 ・ 都 市 人 口 の 増 加 , 近 代 農 学 に よ る 品 種 改 良 な ど で あ る 。 貿 易 統 計 に よ っ て 米 の 輸 出 入 の あ と を 知 る こ と が で き る が , 明 治 1 - 5 年 ︵ 1 8 6 8 - 7 2 ︶ に は 米 の 輸 入 超 過 が 続 く 。 輸 入 超 過 量 は 5 ヵ 年 平 均 51 万 石 余 , う ち 明 治 3 年 に は 2 1 5 万 石 に 及 ん で い る 。 明 治 7 年 収 穫 量 に 対 し て , 同 3 年 の 2 1 5 万 石 は 8 . 3 % で あ る 。 以 後 25 年 ま で 5 ヵ 年 平 均 で は 輸 出 超 過 で あ る が , 以 後 輸 入 超 過 と な る 。 30 年 代 以 後 輸 入 超 過 量 は 著 増 し , 同 じ 年 度 の 平 均 収 量 に 対 し て 3 6 - 4 0 年 平 均 で は 8 . 3 % , 実 量 で 3 8 5 万 石 と な る 。 こ の 期 の 米 収 穫 量 は 明 治 1 1 - 1 5 年 平 均 に 対 し て 5 6 % を 増 し て い る の で , こ の 輸 入 増 加 は 1 人 当 り 消 費 量 の 増 加 の 結 果 で も あ る 。 3 6 - 4 0 年 平 均 で は そ の 量 は 1 人 1 年 当 り 1 石 5 升 と な っ て い る 。 そ の 輸 入 先 を み る と イ ン ド , フ ラ ン ス 領 イ ン ド シ ナ , タ イ の 地 位 が 高 く な っ て い る 。 い わ ゆ る 南 京 米 が , 増 加 す る 工 場 労 働 者 の 重 要 食 糧 と な っ て い る の で あ る 。 こ の 国 民 の 米 消 費 量 は 大 正 ・ 昭 和 と 漸 増 し , 大 正 7 年 ︵ 1 9 1 8 ︶ に は 前 2 年 度 の 減 収 に よ る 米 価 高 騰 で 米 騒 動 が 起 こ っ て い る 。 国 内 で の 稲 作 面 積 の 著 増 は 望 め な い の で , 台 湾 , 朝 鮮 で の 産 米 増 殖 改 良 が 計 画 さ れ , 日 本 米 と の 交 配 に よ る 蓬 萊 ︵ ほ う ら い ︶ 米 や 新 品 種 に 改 良 さ れ た 朝 鮮 米 の 移 入 が 不 可 欠 の も の と な る 。 国 内 総 生 産 量 は 第 2 次 大 戦 前 期 に あ っ て は 昭 和 1 1 - 1 5 年 ︵ 1 9 3 6 - 4 0 ︶ の 平 均 が 最 も 多 く 6 5 8 7 万 石 余 で , 明 治 1 1 - 1 5 年 平 均 を 1 0 0 と し て 2 2 1 . 5 と 2 . 2 倍 と な っ て い る 。
江 戸 時 代 ・ 明 治 期 を 通 じ て , 農 民 の 手 で 選 出 さ れ た 優 良 品 種 が 各 地 に 普 及 し , 商 品 米 の 銘 柄 が 問 わ れ る よ う に な る が , 明 治 40 年 代 に 国 立 農 事 試 験 場 が , 純 系 分 離 ・ 交 配 に よ る 育 種 を 始 め て 以 後 , 府 県 の 奨 励 品 種 の 決 定 に 伴 っ て 農 事 試 験 場 育 成 の 品 種 中 心 と な っ て い く 。 こ の 品 種 改 良 は 多 量 の 肥 料 に も 倒 伏 し な い こ と , 寒 冷 気 象 , 病 虫 害 に 強 い 性 質 を 備 え る こ と な ど を 目 的 と し , 北 方 地 域 へ の 稲 作 拡 大 と , 平 均 収 量 の 上 昇 を 結 果 し た 。
地 租 の 金 納 化 は 米 作 農 民 ・ 地 主 を も 完 全 な 米 の 販 売 者 と し た 。 そ こ か ら 新 し い 米 流 通 機 構 が 生 ま れ , さ ら に 最 多 量 の 農 民 的 商 品 で あ る 米 の 輸 送 を め ぐ っ て , 旧 来 の 河 海 舟 運 に 替 わ る 陸 上 輸 送 の 方 法 が 開 け た 。 明 治 期 に お け る 荷 車 , 荷 馬 車 , 鉄 道 の 発 展 の 要 因 と な っ た 。
執 筆 者 ‥ 古 島 敏 雄
民 俗
第 2 次 大 戦 後 ま で の 日 本 人 , ま し て 農 民 の 多 く の 願 い は , 毎 日 の 3 度 の 食 事 に 米 の 飯 が 登 場 す る こ と , あ る い は 国 民 に 十 分 な 米 を 供 給 す る こ と で あ っ た 。 豊 葦 原 瑞 穂 国 ︵ と よ あ し は ら み ず ほ の く に ︶ 思 想 は 記 紀 神 話 に も と づ く 日 本 国 家 の 理 念 で あ っ た と し て も , 長 い 歴 史 を 通 し て 日 本 人 が 稲 作 民 族 で あ る と い う 前 提 を つ く り あ げ る の に 役 だ っ た 。 そ の た め に , 日 本 の 社 会 も 文 化 も 稲 作 を ぬ き に し て は 考 え ら れ な い 。 そ れ ほ ど 強 い 影 響 を 与 え た の は な ぜ か 。 米 の 特 色 と し て , 計 画 的 に 栽 培 で き , 貯 蔵 や 運 搬 と 同 時 に 計 量 と 分 配 も 容 易 で あ る 点 に 加 え て , 調 理 が し や す く , 食 べ て う ま い こ と な ど が 挙 げ ら れ る 。 し か し そ れ だ け で な く , 国 の 政 治 , 経 済 , 宗 教 の す べ て が 米 を 絶 対 的 基 準 と し て し く ま れ て い た た め に , 米 を 作 る こ と は 国 民 と し て の 義 務 で あ っ た し , 国 の 基 礎 は そ の う え に 成 り 立 つ と 考 え ら れ て き た 。 宮 廷 に お い て 天 皇 の 行 う 最 重 要 の 祭 政 は , 高 天 原 か ら 中 津 国 に も た ら さ れ た 稲 の 種 子 を 奉 じ て , そ れ を あ や ま り な く 栽 培 す る こ と で あ り , 祈 年 祭 は 米 の 豊 作 の 祈 願 で あ り , 新 嘗 祭 は 収 穫 の よ ろ こ び の 奉 告 で あ っ た 。 ま た 天 皇 の 代 替 り に 行 わ れ る 大 嘗 祭 は , 米 の 霊 的 力 に よ っ て 皇 太 子 が 天 皇 と し て の 霊 魂 を 聖 体 に 鎮 ま せ る 儀 式 で あ っ た 。
米 が 天 皇 を は じ め と す る 人 々 の 霊 魂 を 再 生 復 活 さ せ る 力 を も つ 食 べ 物 で あ る と い う 信 仰 は , 民 俗 と し て は さ ま ざ ま な 形 で 伝 え ら れ て い る 。 ま ず 日 本 人 に と っ て 米 は 常 食 で も 主 食 で も な か っ た 。 稲 を 作 る た め の 祭 り や 年 中 行 事 な ど の 祝 い 事 の と き に , 米 を 調 理 し て 神 や 先 祖 に 供 え , 人 も 食 べ る こ と に よ り 新 し く 強 い 力 を 補 充 す る こ と が で き る と 考 え た 。 各 地 の 祭 り に , 飯 を 強 い た り , 酒 を ふ る ま っ た り し て 多 量 の 米 を 消 費 す る 強 飯 祭 や 甘 酒 祭 , 餅 を つ い て 分 配 す る 祭 り の 多 い の は そ の た め で あ る 。 と く に 氏 神 や 旧 社 , 大 社 に 属 す る 神 田 で 栽 培 し た 米 で 調 理 し た 食 べ 物 は , 神 聖 な 力 が 強 く 働 き か け て く る も の と 考 え ら れ て き た 。 熱 帯 の 植 物 で あ る 稲 は , 日 本 列 島 以 外 か ら 渡 来 し て き た た め に , 天 孫 降 臨 神 話 と は 別 に , 弘 法 大 師 の よ う な 貴 い 僧 が 持 ち 帰 っ た と か , ツ ル が 運 ん で き た と か の 伝 説 が 各 地 に 伝 え ら れ て い る の も , 米 の 神 聖 性 と と も に 外 来 の 作 物 で あ る こ と を 反 映 し て い る 。 打 蒔 ︵ う ち ま き ︶ , 散 米 ︵ さ ん ま い ︶ と か 散 供 ︵ さ ん ぐ ︶ と い っ て , 神 や 仏 の 前 な ど で 米 を ま く 習 俗 が あ る が , こ れ は 米 の 霊 的 な 力 に よ っ て 邪 悪 な 霊 を 追 い 払 い , そ こ を 聖 域 に し よ う と す る 意 図 を も っ て い る 。
米 が 霊 的 な 力 を も つ と い う 観 念 は , 人 間 の 一 生 の 儀 式 に も 見 ら れ る 。 出 産 に あ た っ て 産 室 に 米 を ま く と か , 米 俵 を 持 ち こ ん で 妊 婦 に す が り つ か せ る の も , 米 の 力 に よ っ て 妊 婦 を 勇 気 づ け る と と も に , 米 の 神 が 出 産 を 助 け た こ と を 意 味 し て い る 。 結 婚 の 儀 式 に , 椀 に 高 く 盛 っ た 飯 を 嫁 に 食 べ さ せ る の も , こ れ ま で 生 家 で 育 っ て き た 嫁 が , 婿 方 の 人 間 と し て 新 し く 生 ま れ か わ る た め の 儀 式 と 考 え ら れ る 。 死 者 の ま く ら も と に 高 盛 り に し た 飯 を 供 え る 習 俗 ︵ 枕 飯 ︶ も 全 国 的 で あ る が , こ の 世 か ら あ の 世 へ 生 ま れ か わ っ て い く た め の 再 生 の 儀 式 と 考 え る こ と が で き る 。 こ の よ う な 人 生 上 の 通 過 儀 礼 ば か り で な く , 凶 事 と し て の 火 災 , 洪 水 , 台 風 , 津 波 な ど 予 期 せ ぬ 災 害 に あ っ て , 人 々 が 疲 労 し 精 神 的 不 安 に 立 っ た と き も 多 量 の 米 が 消 費 さ れ て い る が , そ れ は 消 耗 し た エ ネ ル ギ ー を 米 に よ っ て 補 う と と も に , 人 の 精 神 を 立 ち 直 ら せ る た め で あ っ た 。 戦 争 と い う 事 態 に 米 が も っ と も 必 要 と さ れ た の は , 戦 争 が 集 団 全 体 の 運 命 に 関 係 す る か ら で あ っ た 。 そ の ほ か , 開 拓 工 事 , 道 普 請 , 新 築 , 田 植 や 稲 刈 り , 山 仕 事 な ど , 短 い 時 間 に 多 く の 人 の 共 同 の 力 を 必 要 と し , 危 険 な し ご と の と き に 米 は 必 要 で あ っ た 。 こ の よ う に , 米 は 日 常 の 生 活 に 必 要 な の で は な く , め で た い と き や 不 幸 の と き , 大 き な し ご と を 成 功 さ せ よ う と す る と き の よ う に , 非 日 常 の 状 態 に お か れ た と き に 食 べ る も の で あ っ た 。
日 常 の 生 活 で 米 を 食 べ て き た 者 は , 近 世 で も 貴 族 や 武 士 そ の 他 の 上 層 階 級 の 人 々 で あ り , 都 市 民 そ の 他 の 非 生 産 者 で あ っ た 。 庶 民 に と っ て 米 は 非 日 常 的 な 食 べ 物 で あ っ た た め に , な ん と か し て 日 常 も 3 度 ご と に 米 を 食 べ る こ と が 生 活 の 理 想 と な っ て く る 。 米 を 作 る た め の 苗 代 祭 , 田 植 祝 , 虫 送 り , 雨 乞 い , 風 祭 な ど は , 少 し で も 多 く の 米 を 収 穫 し て 生 活 の 理 想 を 達 成 さ せ , 幸 福 を 得 た い と 考 え た か ら で あ る 。 米 を 生 産 で き な い 地 方 が 後 進 的 な 文 化 の 低 い 所 と す る 考 え 方 や , 米 作 農 民 が 一 人 前 の 農 民 で あ る と い う 優 越 性 が 生 み 出 さ れ て , 日 本 人 の 間 に 米 作 志 向 が 極 度 に 進 行 し た の で あ り , 非 農 民 で あ っ て も 3 度 の 食 事 に 飯 が 食 え な い と い う こ と が 恥 ず か し い こ と と さ れ る よ う に な っ た 。 稲 作 の 栽 培 過 程 や 非 日 常 に お け る 生 活 の 中 か ら , 米 の 民 俗 は し だ い に 姿 を 消 し て い る が , そ れ は 米 の 生 産 量 が 過 剰 と な っ て き た 最 近 の 現 象 と い っ て よ い 。 日 本 の 庶 民 に と っ て , も と も と 米 を 常 食 化 し て い な か っ た と こ ろ へ , 現 実 に 米 が 豊 富 に 供 給 さ れ る よ う に な る と , そ こ か ら 米 離 れ を 起 こ し , 本 来 の 雑 食 化 が 形 を 変 え て 復 活 し て き た と も い え よ う 。 す る と 米 を 基 盤 と し た 日 本 の 文 化 は 終 わ っ た の か と い う こ と に な る が , 決 し て そ う は い え な い 。 長 い 歴 史 を 通 し て , 今 日 の 日 本 的 同 質 性 は 米 に よ っ て 形 成 さ れ た も の で あ り , そ の 米 の 文 化 が 日 本 人 の 社 会 行 動 や 思 考 の 様 式 を 育 て て き た の で あ る 。 し た が っ て 今 , 工 業 化 社 会 に 転 換 し た 日 本 に と っ て , 米 の 文 化 と は 異 質 な 文 化 と 接 触 し た こ と に な る 。 異 質 な 文 化 と の 接 触 に よ っ て , 日 本 人 は そ れ と ど の よ う に 対 応 し た ら よ い か , そ の 選 択 に 迷 っ て い る と み て よ か ろ う 。 日 本 人 が 形 成 し て き た 米 を 基 盤 と す る 行 動 や 思 考 の 様 式 と は 何 で あ っ た の か を , 過 去 の 米 作 文 化 の 中 か ら 探 り 出 さ ね ば , 新 し い 状 況 を 正 確 に 判 断 し , 対 応 の 方 向 を 見 つ け る こ と は で き な い と い え る 。 そ の 点 で 米 の 文 化 の 研 究 は , 日 本 人 の 未 来 を 発 見 し て い く た め の 重 要 な 鍵 と な っ て く る 。
→ 赤 米 → 稲 作 文 化
執 筆 者 ‥ 坪 井 洋 文
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」 改訂新版 世界大百科事典について 情報
米【こめ】
イ ネ の 籾 ( も み ) か ら 籾 殻 を 除 い た 果 実 で あ る 玄 米 , お よ び 各 種 精 白 米 , 強 化 米 の 総 称 。 精 白 米 に は 玄 米 か ら 果 皮 , 種 皮 等 の ぬ か 層 を 精 米 機 な ど で 一 部 除 去 し た 3 分 づ き ・ 5 分 づ き ・ 7 分 づ き 米 や , ぬ か 層 の 大 部 分 , 胚 芽 の 一 部 を 取 り 除 い た 白 米 , さ ら に デ ン プ ン 層 だ け に 精 米 し た 酒 米 等 が あ る 。 強 化 米 は 白 米 に ビ タ ミ ン B 1 , B 2 等 を 添 加 し て 栄 養 価 を 高 め た も の 。 日 本 産 う る ち ︵ 粳 ︶ 米 の 各 種 成 分 の 含 量 は , ふ つ う 玄 米 ︵ 括 弧 内 は 白 米 ︶ 1 0 0 g 中 , 水 分 1 5 . 5 ︵ 1 5 . 5 ︶ g , 糖 質 7 1 . 8 ︵ 7 5 . 5 ︶ g , タ ン パ ク 質 7 . 4 ︵ 6 . 8 ︶ g , 脂 質 3 . 0 ︵ 1 . 3 ︶ g , リ ン 0 . 3 ︵ 0 . 1 4 ︶ g , カ ル シ ウ ム 1 0 . 0 ︵ 6 . 0 ︶ mg , 鉄 1 . 1 ︵ 0 . 5 ︶ mg , ビ タ ミ ン B 1 0 . 5 4 ︵ 0 . 1 2 ︶ mg , B 2 0 . 0 6 ︵ 0 . 0 3 ︶ mg , ナ イ ア シ ン ︵ ニ コ チ ン 酸 ︶ 4 . 5 ︵ 1 . 4 ︶ mg 等 。 精 白 度 が 高 く な る に つ れ て 糖 質 以 外 の 栄 養 素 は 少 な く な る 。 も ち ︵ 糯 ︶ 米 は う る ち 米 と 比 べ て 各 栄 養 素 の 含 有 率 は ほ ぼ 同 じ だ が , 形 態 上 は 一 般 に も ち 米 の ほ う が 透 明 度 が 低 い 。 ︹ 生 産 ・ 流 通 ︺ 米 は 麦 と と も に 世 界 の 主 要 食 糧 で 大 部 分 ア ジ ア で 生 産 , 消 費 さ れ る が , 米 国 ・ ブ ラ ジ ル ・ イ タ リ ア ・ メ キ シ コ ・ ス ペ イ ン そ の 他 ア ジ ア 以 外 で も 生 産 さ れ る 。 日 本 で は 主 食 と し て 重 要 な 農 産 物 で 古 く か ら 年 貢 ( ね ん ぐ ) や 小 作 料 も お も に 米 で 納 め ら れ た 。 日 本 の 米 作 は ほ と ん ど 水 田 で 営 ま れ , 細 分 化 し た 耕 地 に 多 量 の 労 働 力 と 肥 料 を 要 し た が , 第 2 次 大 戦 後 は 土 地 改 良 , 品 種 改 良 , 農 薬 の 普 及 , 技 術 改 善 , 機 械 の 導 入 な ど で 米 作 投 下 労 働 量 は 減 少 傾 向 に あ る 。 米 市 場 ︵ 米 穀 取 引 所 ︶ は , 江 戸 時 代 に 大 坂 , 江 戸 に 形 成 さ れ , 明 治 以 後 , 全 国 的 に 市 場 の 成 立 を み た が 深 川 ︵ 東 京 ︶ , 堂 島 ︵ 大 阪 ︶ が 中 心 だ っ た 。 米 騒 動 を 契 機 に 成 立 し た 米 穀 法 ︵ 1 9 2 1 年 ︶ を は じ め 米 穀 統 制 法 ︵ 1 9 3 3 年 ︶ , 米 穀 配 給 統 制 法 ︵ 1 9 3 9 年 ︶ な ど に よ り , 米 の 需 給 に 対 す る 統 制 が し だ い に 強 化 さ れ , 食 糧 管 理 法 ︵ 1 9 4 2 年 ︶ 以 来 , 米 は 全 面 的 に 政 府 の 統 制 下 に 置 か れ た 。 戦 後 の 食 糧 危 機 を 経 て , 需 給 の 緩 和 に 伴 い 1 9 5 5 年 以 後 は 従 来 の 供 出 制 度 か ら 予 約 売 渡 申 込 制 度 に 移 行 し , 1 9 6 9 年 か ら は 自 主 流 通 米 も 認 め ら れ , 1 9 7 2 年 に は 小 売 価 格 に 対 す る 物 価 統 制 令 の 適 用 が 廃 止 さ れ た 。 1 9 7 0 年 代 後 半 に 入 る と , 消 費 量 の 減 少 と 面 積 当 り 生 産 量 の 増 加 に よ る 生 産 過 剰 と , そ の 対 策 と し て の 生 産 調 整 の 強 化 が 問 題 と な っ た 。 今 日 の 米 価 問 題 は , 生 産 者 に 対 す る 高 価 格 の 保 証 と 消 費 者 に 対 す る 低 価 格 の 維 持 と い う 政 策 上 の 矛 盾 を か か え て い る 。 1 9 8 6 年 米 国 の 全 米 精 米 業 者 協 会 が 日 本 の 米 輸 入 制 限 に 対 し 市 場 開 放 を 求 め , 日 米 間 で 米 自 由 化 を め ぐ る 新 た な 問 題 が 生 じ た 。 1 9 9 3 年 末 に 日 本 は 米 市 場 の 部 分 開 放 を 決 定 し , 1 9 9 5 年 か ら 食 糧 管 理 法 に 代 わ っ て , 新 食 糧 法 が 施 行 さ れ た 。 同 法 に よ り 政 府 管 理 か ら 生 産 者 の 判 断 に 基 づ く 制 度 運 営 , 大 幅 な 流 通 ル ー ト の 規 制 緩 和 な ど が 行 わ れ る よ う に な り , 1 9 9 9 年 4 月 か ら 米 の 輸 入 が 関 税 化 さ れ た 。 米 は , 古 く は ︿ 晴 ﹀ の 日 の 食 物 に 用 い ら れ , 主 食 と し て 普 遍 化 し た の は 比 較 的 新 し い 。 明 治 以 後 , 主 食 品 中 に 占 め る 割 合 は 高 く な り , 近 年 の パ ン 食 な ど の 増 加 傾 向 の な か で も な お 主 食 の 地 位 を 保 っ て い る 。 主 食 と し て の ほ か , 酒 , み そ , 醤 油 , み り ん , 米 酢 な ど の 原 料 と し て も 重 要 で あ る 。 1 9 9 7 年 の 世 界 総 生 産 量 は 5 億 7 3 2 6 万 3 0 0 0 t で , 中 国 ︵ 1 億 9 8 4 7 万 t ︶ , イ ン ド , イ ン ド ネ シ ア , バ ン グ ラ デ シ ュ , ベ ト ナ ム , タ イ , ミ ャ ン マ ー , 日 本 ︵ 1 2 5 3 万 t ︶ の 順 , 大 輸 出 国 は タ イ , 米 国 , イ ン ド , パ キ ス タ ン , ベ ト ナ ム , イ タ リ ア , ウ ル グ ア イ な ど 。 な お 1 9 9 3 年 に は 天 候 不 順 に よ る 不 作 で 供 給 不 足 と な っ た た め , 米 の 緊 急 輸 入 を 行 っ た 。 日 本 に お け る 主 食 用 消 費 量 は 年 1 人 当 り 6 6 . 7 k g ︵ 1 9 9 7 年 ︶ 。 品 種 で は コ シ ヒ カ リ が 特 に 好 ま れ , 作 付 で も 他 品 種 を 圧 倒 し つ つ あ る 。 → ウ ル グ ア イ ・ ラ ウ ン ド / 減 反 政 策 / 農 業
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米 こめ rice
イ ネ の 種 実 。 籾 殻 ︵ → 籾 ︶ を 除 い た だ け の 玄 米 と , さ ら に 糠 ︵ ぬ か ︶ を 除 い た 白 米 と に 大 別 さ れ る 。 ま た イ ネ の 種 類 か ら , お も に 日 本 , エ ジ プ ト , ア メ リ カ 合 衆 国 な ど で 生 産 さ れ る 短 粒 で 丸 み を 帯 び た 日 本 型 米 ︵ → ジ ャ ポ ニ カ 米 ︶ と , お も に ミ ャ ン マ ー , タ イ な ど イ ン ド シ ナ 半 島 で 生 産 さ れ る 長 粒 で 粘 り が 少 な い イ ン ド 型 米 ︵ → イ ン デ ィ カ 米 ︶ が あ る 。 生 育 上 の 水 分 要 求 度 の 観 点 か ら 区 別 す る と 水 稲 と 陸 稲 ︵ お か ぼ ︶ と が あ り , 日 本 国 内 の 生 産 に お い て は 水 稲 が 9 割 を 占 め て い る 。 ま た デ ン プ ン 成 分 の 違 い か ら , 粳 米 ︵ う る ち ま い ︶ と も ち 米 が あ る 。 実 質 的 に は 東 ア ジ ア お よ び 南 東 ア ジ ア 全 域 を 中 心 に , 世 界 人 口 の 約 半 数 が 主 食 を 米 に 依 存 し , 世 界 の 米 の 9 5 % ま で が 人 間 の 食 用 と な る 。 米 文 化 の 起 源 は 諸 説 あ る が , 前 7 0 0 0 ~ 前 5 0 0 0 年 頃 の 中 国 で す で に 稲 作 が 行 な わ れ て い た と み ら れ る 。 そ の 後 徐 々 に 東 西 へ 広 ま り , 中 世 に は 南 ヨ ー ロ ッ パ に 紹 介 さ れ る に い た っ た と さ れ る 。 日 本 へ は 前 5 ~ 前 4 世 紀 頃 に , 中 国 か ら 朝 鮮 を 経 て 日 本 型 イ ネ が 伝 え ら れ た よ う で あ る 。
お も に 熱 帯 , 亜 熱 帯 , ま た は 温 和 な 地 域 の 沿 岸 平 野 部 や 干 満 の あ る デ ル タ 地 , ま た は 川 の 流 域 で 栽 培 さ れ る 。 イ ネ は 変 異 性 に 富 み , 世 界 に 広 く 分 布 し て い る の で , 栽 培 方 法 や 栽 培 時 期 は さ ま ざ ま で あ る 。 水 稲 は 一 般 に 苗 床 に 種 が ま か れ , 25 ~ 50 日 た っ た と こ ろ で 水 田 に 移 植 さ れ る 。 水 流 の あ る 5 ~ 1 0 c m の 水 に つ か り , 成 長 す る ま で そ の 状 態 を 保 つ こ と が 必 要 と な る 。 収 穫 さ れ た 種 実 は , 籾 殻 に 覆 わ れ て い る 。 通 常 は 脱 穀 し て 籾 殻 と 糠 を 除 き , つ や 出 し の た め 仕 上 げ に グ ル コ ー ス と タ ル ク ︵ → 滑 石 ︶ を か ぶ せ る こ と も あ る 。 籾 殻 だ け を 除 い た 玄 米 は 約 8 % の 蛋 白 質 と 若 干 の 脂 肪 を 含 み , ビ タ ミ ン B 1 , ビ タ ミ ン B 2 , ニ コ チ ン 酸 , 鉄 分 , カ ル シ ウ ム の 源 に な る 。 精 米 過 程 で 糠 ま で 除 去 さ れ た 白 米 は 栄 養 価 が 大 幅 に 低 下 す る た め , 白 米 に 頼 り す ぎ る 食 生 活 は , ビ タ ミ ン B 1 と 無 機 物 の 不 足 か ら 起 こ る 病 気 で あ る 脚 気 の 原 因 と も な る 。 白 米 の 栄 養 的 欠 陥 を 補 う た め の 米 製 品 に は , 鉄 分 と ビ タ ミ ン B 1 , ビ タ ミ ン B 2 な ど を 添 加 し た 強 化 米 の ほ か , 保 存 性 や 即 席 性 を 高 め た α 米 な ど が あ る 。
調 理 法 は , 東 洋 お よ び 中 東 で は 主 食 と し て 粒 の ま ま 炊 い て 食 べ る が , そ の ほ か に も ス ー プ 類 に 入 れ た り 副 食 に し た り と , さ ま ざ ま で あ る 。 ま た 醸 造 蒸 留 さ れ , 酒 や 酢 に も 加 工 さ れ る 。 精 米 過 程 の 副 産 物 で あ る 粉 状 の 糠 と , つ や 出 し 過 程 で 出 る デ ン プ ン は 家 畜 の 飼 料 に な り , 糠 か ら と れ る ぬ か 油 は 食 用 に も 工 業 用 に も 利 用 さ れ る 。 砕 米 は デ ン プ ン や ビ ー フ ン ︵ 米 粉 ︶ に な る 。 籾 殻 は 燃 料 や 填 材 , 工 業 研 磨 剤 , 肥 料 原 料 , 化 学 工 業 の 合 成 樹 脂 製 造 用 の フ ル フ ラ ー ル な ど に な る 。 わ ら は 飼 料 や 家 畜 の 敷 き わ ら , マ ッ ト , 衣 類 な ど に 利 用 さ れ る 。
1 9 6 0 年 代 , い わ ゆ る 緑 の 革 命 が 起 こ り , 世 界 を 飢 餓 の 脅 威 か ら 救 う べ く 先 進 国 が 科 学 力 を 出 し 合 い , 多 数 の 農 作 物 の 改 良 種 ・ 変 形 種 が 生 み 出 さ れ た 。 高 収 品 種 の 短 稈 イ ネ I R 8 は , 短 く 丈 夫 な 茎 を も ち 倒 れ に く い の が 特 徴 で あ っ た が , 洪 水 や 病 害 虫 に 弱 く , 農 薬 や 肥 料 を 必 要 と す る う え , 食 味 が 悪 い な ど も ろ も ろ の 要 素 が 相 ま っ て , 期 待 さ れ た ほ ど の 成 果 は 得 ら れ な か っ た 。 米 の 主 要 生 産 国 と し て は , 中 国 , イ ン ド , イ ン ド ネ シ ア , バ ン グ ラ デ シ ュ , ベ ト ナ ム , タ イ , ミ ャ ン マ ー , 日 本 , フ ィ リ ピ ン , ブ ラ ジ ル , 大 韓 民 国 ︵ 韓 国 ︶ , ア メ リ カ , パ キ ス タ ン が あ げ ら れ る 。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
知恵蔵
「米」の解説
米
ササニシキやコシヒカリなど銘柄米の流通量が生産量を上回り、無洗米(研ぐ必要のない米)、新形質米(ミルキークイーンなどの新品種)など登場する一方で、白くない米も注目されている。その1つが、籾(米殻)を取り除いただけの玄米。糠や胚芽が残っている分、たんぱく質、食物繊維、ビタミンB群、ミネラル類が豊富で、精白米と比べて栄養価は格段に高く、米国ではブラウンライスの名でマクロビオティックや菜食主義を通して普及。また、赤米、黒米などの古代米も復活している。雑穀(米以外の穀物=アワ、キビ、ヒエ、ハトムギ、ライムギ、ソバなど)も、高い栄養価と、生活習慣病やアレルギー予防効果により人気。産地では地域振興も兼ねて増産を奨励、飲食業界では五穀米(米に雑穀や豆をミックス)や加工食品などが開発され、雑穀ソムリエといった専門家も登場している。
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」 知恵蔵について 情報
米 こめ
五穀の一つで,日本人の代表的な主食 日本には中国大陸を経て伝えられたと思われるが,伝播経路については定説がない。わが国で稲作の始まったのは縄文晩期で,弥生時代には北九州から東日本まで広まった。初期の稲作は湧水や谷水を利用しやすい低湿地で行われ,灌漑技術の進歩に伴って,溜池や大河川の用水路が開発され,平野部の水田が開かれた。やがて苗代・田植えの技術が開発され,近隣の共同労働である結 (ゆい) などが始められた。しかし長い間農民は雑穀を主食としてきており,日本人の大多数が米を主食にするようになったのは昭和時代に入ってからである。
出典 旺文社日本史事典 三訂版 旺文社日本史事典 三訂版について 情報
米
1 9 5 7 年 公 開 の 日 本 映 画 。 監 督 ‥ 今 井 正 、 原 作 ・ 脚 色 ‥ 八 木 保 太 郎 、 撮 影 ‥ 中 尾 駿 一 郎 、 録 音 ‥ 岩 田 広 一 。 出 演 ‥ 江 原 真 二 郎 、 中 村 雅 子 、 木 村 功 、 望 月 優 子 、 南 原 伸 二 、 中 原 ひ と み 、 東 野 英 治 郎 ほ か 。 第 31 回 キ ネ マ 旬 報 ベ ス ト ・ テ ン の 日 本 映 画 ベ ス ト ・ ワ ン 作 品 。 第 12 回 毎 日 映 画 コ ン ク ー ル 日 本 映 画 大 賞 、 監 督 賞 、 録 音 賞 受 賞 。 第 8 回 ブ ル ー リ ボ ン 賞 作 品 賞 監 督 賞 、 主 演 女 優 賞 ︵ 望 月 優 子 ︶ 受 賞 。
出典 小学館 デジタル大辞泉プラスについて 情報
米
日本人の主食となる穀物で、イネの種子から籾殻〔もみがら〕を取り去ったものです。日本のみならず世界各国で食されており、小麦に次いで二番目に多く消費されている穀物です。籾殻を取り去ったままのものを玄米、精白したものを白米または精米といいます。 また日本では主食として食べられる他に、酒や餅、味噌、醤油、などの原料としても用いられています。
出典 シナジーマーティング(株) 日本文化いろは事典について 情報
米 よね
寛 政 3 年 生 ま れ 。 周 防 ( す お う ) ( 山 口 県 ) の 人 。 6 歳 の と き 母 を う し な い , 1 2 歳 で 父 が 病 気 で た お れ る 。 昼 は 米 を つ き , 夜 は 糸 を つ む い で は た ら い た 。 結 婚 を す す め ら れ た が 応 じ ず , 孝 行 を つ く し , 徳 山 藩 主 よ り 賞 さ れ た 。 嘉 永 ( か え い ) 5 年 3 月 4 日 死 去 。 62 歳 。
出典 講談社 デジタル版 日本人名大辞典+Plusについて 情報 | 凡例
米 (コメ)
米 (コメ・ヨネ)
出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」 動植物名よみかた辞典 普及版について 情報
世界大百科事典(旧版)内の 米の言及
【イネ(稲)】より
…コムギ,トウモロコシとならんで世界の三大穀物の一つに数えられるイネ科の一年草で,その穀粒である米は,世界人口の半数におよぶ人間の主食をまかなっている。日本では古来,農業の中心に位置づけられてきた重要な作物である。…
【廻米(回米)】より
…江戸時代,多量の米をある地点から他地点に輸送すること,またはその輸送米をいう。年貢米を徴収した幕藩領主は,一部を地払いすることもあったが,大部分を海路で大坂や江戸に回送し販売した([払米](はらいまい))。…
【石高制】より
… 年 貢 量 は こ れ に 一 定 の 割 合 ( 免 率 ) を 乗 じ て 算 出 さ れ る 。 す べ て の 土 地 は , 田 は も ち ろ ん , 実 際 に は 米 を 生 産 し な い 畠 ・ 屋 敷 地 も 米 の 収 穫 高 に 換 算 さ れ て 石 高 が つ け ら れ , い っ さ い が 石 高 に 結 ば れ る 。 こ の 結 果 , 石 高 が 社 会 関 係 の 統 一 的 基 準 と な り , 武 士 階 級 の 身 分 も , た と え ば 10 万 石 の 大 名 , 2 0 0 0 石 の 旗 本 , 30 石 の 切 米 取 と い う 形 で 序 列 化 さ れ , 百 姓 が 所 持 す る 土 地 も 面 積 で は な く 石 高 で 示 さ れ , 高 持 百 姓 と 水 呑 百 姓 ( 無 高 ) に 区 別 さ れ る 。 …
【問屋】より
…酒や醬油の醸造業者が同様の性格を備えた場合もあった。[商品の流通経路] 近世経済は米納年貢の流通を基本にして組み立てられていたから,蔵物(くらもの)の流通をまず見ると,幕府や諸藩は年貢米の一部を領内で販売し,多くを大坂,江戸,京都などの大都市で販売した。米は大坂などの[蔵屋敷]に搬入し,それに所属した問屋または売捌人より米仲買に売却した。…
【農産物価格政策】より
… 今 日 , 主 要 資 本 主 義 国 で 農 産 物 価 格 政 策 を 展 開 し て い な い 国 は な い 。 日 本 で も , 米 価 調 節 政 策 が 昭 和 に 入 る と 展 開 さ れ た よ う に , 農 産 物 価 格 政 策 は か な り 長 い 歴 史 を も っ て い る が , 対 象 農 産 物 と し て 主 要 農 産 物 の ほ と ん ど を カ バ ー す る ま で に 制 度 的 に 整 備 さ れ る の は 1 9 6 0 年 以 降 で あ る 。 今 日 で は 農 産 物 価 格 政 策 の 対 象 に な っ て い る 農 産 物 の 総 価 額 は , 農 業 粗 生 産 額 の 80 % を 超 え る ま で に な っ て い る 。 …
【飯】より
… ︿ 召 し あ が る も の ﹀ の 意 で , 穀 類 , と く に 米 を 煮 た り 蒸 し た り し た も の の 総 称 。 穀 類 を 煮 た り 蒸 し た り す る こ と を 古 く は ︿ 炊 ︵ か し ︶ ぐ ﹀ と い い , の ち ︿ 炊 ︵ た ︶ く ﹀ と い う よ う に な っ た 。 …
【弥生文化】より
…弥生文化は,基本的に食料採集(食用植物・貝の採取,狩猟,漁労)に依存する縄文文化と根本的に性格を異にする一方,後続する古墳文化以降の社会とは経済的基盤を等しくする。つまり水稲耕作を主として食用家畜を欠く農業,米を主食とする食生活は弥生文化に始まり,現代に至る日本文化を基本的に特色づけることになったのである。弥生文化の領域は,南は薩南諸島から北は東北地方までに及び,縄文文化の領域であった屋久島以南から沖縄諸島にかけてと北海道においては,弥生時代以降も食料採集に基礎を置く生活が続いた。…
【輸送】より
…都市まで輸送するものもあるが,舟運のある河川の上流部の[河岸](かし)まで運び,以後を舟運にゆだねるものもあった。 江戸時代初期に長距離輸送されたものの中心は,年貢として領主の手に納められた米その他蔵物(くらもの)と呼ばれる諸物資である。米を中心に年貢の輸送の方法を述べると,幕府直轄領では納入のための輸送は5里内農民負担で,各地の御蔵へ納入される。…
※「米」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」