「琉球祖語」の版間の差分
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'''琉球祖語'''︵りゅうきゅうそご、 |
'''琉球祖語'''︵りゅうきゅうそご、{{Lang-en|Proto-Ryūkyūan}}︶とは、[[琉球語]]︵琉球諸語︶の諸方言︵諸言語︶の共通祖先にあたる言語︵[[祖語]]︶。[[日本祖語|日琉祖語]]を祖語とする[[日本語族]]は日本語派と琉球語派に分岐する。後に琉球語の諸方言に分岐した。
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北琉球諸語の終止形・連体形は古い時代の未完了表現の単動詞化であり、*-i + *wor-﹁居︵を︶り﹂に由来すると[[服部四郎]],[[レオン・セラフィム|レオン・A・セラフィム]],[[内間直仁]]などによって説明されてきた。これは日本語における終止形・連体形が﹁居︵う︶﹂に由来するとする大野晋 |
北琉球諸語の終止形・連体形は古い時代の未完了表現の単動詞化であり、*-i + *wor-﹁居︵を︶り﹂に由来すると[[服部四郎]],[[レオン・セラフィム|レオン・A・セラフィム]],[[内間直仁]]などによって説明されてきた。これは日本語における終止形・連体形が﹁居︵う︶﹂に由来するとする大野晋の説と相同である。
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しかし、古沖縄語には例えば以下のように現代語の連体形などに対応する形も見える一方で、古い活用形も在証されるため、この改新は最近のものであると考えられる。<blockquote>又 けお、'''ふきよる'''、まにしや、
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しかし、古沖縄語には例えば以下のように現代語の連体形などに対応する形も見える一方で、古い活用形も在証されるため、この改新は比較的最近のものであると考えられる。<blockquote>又 けお、'''ふきよる'''、まにしや、
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﹃おもろさうし﹄11巻618</blockquote>北琉球諸語の一部の変種には、一部の構文に |
﹃おもろさうし﹄11巻618</blockquote>北琉球諸語の一部の変種には、一部の構文に﹃おもろさうし﹄にも見られる古い連体形を保存しているものがあり、琉球祖語の *-o に遡ることが示唆される。これは明らかに[[上代東国方言|上代東国諸語]]や[[八丈語]]などにおける四段動詞のオ段連体形に対応する。<ref>Pellard (2018: 16)</ref>
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=== 形容詞 === |
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== 語彙 == |
== 語彙 == |
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琉球祖語の語彙の一部には、九州地方の諸言語と類似した語彙が含まれていることが知られており、「九州琉球同源語」と呼ばれている<ref>五十嵐(2018: 13-15)</ref>。 |
琉球祖語の語彙の一部には、九州地方の諸言語と類似した語彙が含まれていることが知られており、「九州琉球同源語」と呼ばれている<ref>五十嵐(2018: 13-15)</ref>。 |
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== 参考文献 == |
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Bentley, John R. (2015). “Proto-Ryukyuan”, ''Handbook of the Ryukyuan languages: History, Culture and Use'', pp. 39-60. |
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Pellard, Thomas (2018). "[https://www.academia.edu/35301776/Ryukyuan_and_the_reconstruction_of_proto-Japanese-Ryukyuan Ryukyuan and the Reconstruction of proto-Japanese-Ryukyuan]", ''Handbook of Japanese Historical Linguistics''. |
Pellard, Thomas (2018). "[https://www.academia.edu/35301776/Ryukyuan_and_the_reconstruction_of_proto-Japanese-Ryukyuan Ryukyuan and the Reconstruction of proto-Japanese-Ryukyuan]", ''Handbook of Japanese Historical Linguistics''. |
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2020年11月15日 (日) 18:25時点における版
分岐年代
琉球祖語は、日琉祖語から奈良時代以前に分岐したとの説が有力である。 トマ・ペラールは、琉球語派と日本語派の相違点がさほどないことや、琉球祖語の保存された音素から3世紀の弥生時代末期から4世紀 - 7世紀の古墳時代に分岐したのではないかとしている[1]。ただし琉球祖語が琉球地方に入ったのはグスク時代としており、日本語と7・8世紀以前に別れ、9~11世紀まで九州に在地しながら日本語と接触し強い影響を受けた後、琉球列島へグスク文化の一要素として移民によって伝播した、としている。 アレキサンダー・ボビンは、日琉祖語が弥生時代に日本に入ったという定説には問題点が残っているという立場から、琉球語派と日本語派の分岐を古墳時代ではないかとしている。その根拠として語彙統計学の見地と考古学のデータを挙げ、日琉祖語が弥生時代に日本列島に入ったと仮定すれば、分岐を2257年前より以前に遡ると推測すべきだが、語彙統計学の立場から大城(1972)が琉球諸語と日本語の分岐を1557年前とみていること、仮定が正しければ弥生文化の遺跡が沖縄にないことは不審だということを述べている[2]。 ※詳しくはこの項目ではなく﹁日琉祖語﹂を参照。音韻対応
一般的に、日琉祖語及び上代日本語とは以下のような音韻対応が見られる。母音
イ列乙類との対応
日琉祖語の *{u, o}i, *əi はどちらも上代日本語のイ列乙類として合流したが、琉球祖語では前者が *i, 後者が *e に対応している。[3][4]したがって、奈良時代よりも前に分岐したと考えることができる。グロス | 上代日本語 | 日琉祖語 | 琉球祖語 |
---|---|---|---|
月 | tuki₂ ~ tuku- | *tukui (*tukoi) | *tuki |
木 | ki₂ ~ ko₂- | *kəi | *ke |
口 | kuti ~ kutu- | *kutui | *kuti |
落ちる | oti- ~ oto₂s- | *ətəi | *{u, o}te- |
火 | pi₂ ~ po(₁)- | *poi | *pi |
黄色 | KI₂ ~ ku- | *koi | *ki |
オ列乙類との対応
一部の研究者は奄美大島・加計呂麻島の一部の方言で上代日本語のオ列甲乙の対立に相当するものが保存されているとかつて主張したが、対応は顕著に複雑であり、琉球祖語に *ə(> o₂)と *o(> o₁)の対立を再構することはできないと考えられている。[5]
上代日本語 | 日琉祖語 | 琉球祖語 | 奄美語 |
---|---|---|---|
o₂ | *ə | *o | /u/ |
o₁ | *o, *ua, *au, etc. | *o | /o/ |
中段母音の再構
琉球祖語 :: 上代日本語に *e :: i₁, *o :: u という音韻対応が見られる単語は、日琉祖語に *e, *o が再建されている[6]。
現代日本語 | 日琉祖語 | 琉球祖語 | 上代日本語 |
---|---|---|---|
ヒル(ニンニク) | *peru | *peru | pi₁ru |
水 | *meNtu | *mezu | mi₁Ntu |
昼 | *piru | *piru | pi₁ru |
薬 | *kusori | *kusori | kusuri |
臼 | *{u, o}su | *{u, o}su | usu |
馬 | *uma | *uma | uma |
海 | *omi | *omi | umi₁ |
母音対応表
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規則上は以下が予想される。琉球諸語の内部での対応はおおまかなものであり、個別の言語内部でも方言差がある。
日琉祖語 | 上代日本語 | 琉球祖語 | 北琉球語群 | 南琉球語群 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
奄美語 | 沖縄語 | 宮古語 | 八重山語 | 与那国語 | |||
*a | a | *a | a | a | a | a | a |
*e | i₁ ~ e₁ | *e[8] | ʰɨ, i | ʰi, i | i | i | i |
*ai | e₂ | ||||||
*əi | i₂ ~ e₂ | ||||||
*i | i₁ | *i | ʔi, N | ʔi, ʲi, N | ɿ, ɯ, s, N, ∅ | ɿ, N, ∅ | i, N, ∅ |
*oi | i₂ | ||||||
*ui | |||||||
*o | u ~ o₁ | *o[9] | ʰu | u | u | u | u |
*au | o₁ | ||||||
*ua | |||||||
*uə | |||||||
*ə | o₂ | ||||||
*u | u | *u | ʔu, N | u, N | u, N, ∅ | u, N, ∅ | u, N, ∅ |
子音
接近音
子音対応表
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日琉祖語 | 上代日本語 | 琉球祖語 | 北琉球語群 | 南琉球語群 | 備考 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
奄美語 | 沖縄語 | 宮古語 | 八重山語 | 与那国語 | |||||
語頭 | *p | p | *p- | ||||||
語中 | *p ~ *∅ ~ *w | ||||||||
語頭 | *w | w | *w- | w- | w- | b- | b- | b- | 北琉球諸語では一部の /b-/ や /g-/ になるいくつかの方言を除いて /w-/ が一般的である。[10] |
語中 | *w ~ *∅ |
音韻論
母音
前舌 | 後舌 | |
---|---|---|
高 | *i | *u |
中 | *e | *o |
低 | *a |
中段母音[12]
子音
Thorpe (1983) 以来,以下の13子音が再建されている。*b, *d, *g, *z はそれぞれ日琉祖語の *{n, m}p, *{n, m}t, *{n, m}k, *{n, m}s から生じた[13]。両唇 | 歯茎 | 硬口蓋 | 軟口蓋 | |
---|---|---|---|---|
破裂音 | *p, *b | *t, *d | *k, *g | |
摩擦音 | *s, *z | |||
鼻音 | *m | *n | ||
その他 | *w | *r | *j |
原音素(archiphoneme)
Thorpe (1983) 以来 *Q(促音)、*N(撥音)が再建されている。これらは母音の消失などによって二次的に出現したものである。[13]
アクセント
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統語論
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形態統語論
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動詞
琉球諸語の動詞活用表の一部は日本語のものとしばしば厳密に音韻対応しない。
北琉球諸語の終止形・連体形
上代日本語 | 奄美語 | 沖縄語 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
大和浜方言 | 与論 東区方言 | 今帰仁 与那嶺方言 | 首里方言 | 久高方言 | ||
終止形 | kaku | kʰakuɴ | kakjuɴ | hatɕuɴ | katɕuɴ | hakiɴ |
連体形 | kaku | kʰakuɾu | kajuɾu | hatɕuːɾu | katɕuɾu | hakiɾu |
形容詞
動詞と同様、一部は日本語のものとしばしば厳密に音韻対応しない。語彙
琉球祖語の語彙の一部には、九州地方の諸言語と類似した語彙が含まれていることが知られており、﹁九州琉球同源語﹂と呼ばれている[15]。娘言語での変化
NCの変化
日琉祖語の単語には、語中に*-Nk-, *-Np-, *Nt-, *-Ns-を含むものがある(NC)。15世紀の中国語と朝鮮語の当時の資料ではそれぞれŋg, mb, nd, nzとして音写されているが、若干の例外が存在するため、 -NC[+voiced]- > -C[+voiced]- という変化は15世紀の段階ですでに始まっていたものと考えられている[16]。北琉球祖語
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南琉球祖語
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九州=琉球祖語
参考文献
Bentley, John R. (2015). “Proto-Ryukyuan”, Handbook of the Ryukyuan languages: History, Culture and Use, pp. 39-60. Pellard, Thomas (2018). "Ryukyuan and the Reconstruction of proto-Japanese-Ryukyuan", Handbook of Japanese Historical Linguistics. Pellard, Thomas (2013). "Ryukyuan Perspectives on the proto-Japonic Vowel System", Japanese/Korean Linguistics 20, CSLI Publications, pp.81–96. Pellard, Thomas (2012). "日琉祖語の分岐年代", ﹁琉球諸語と古代日本語に関する比較言語学的研究﹂ワークショップ, 京都大学. Pellard, Thomas (2018). "日琉諸語の系統分類と分岐について", シンポジウム﹁フィールドと文献から見る日琉諸語の系統と歴史﹂, NINJAL. Thorpe, Maner Lawton (1983) Ryūkyūan language history. Doctoral dissertation, University of Southern California. 五十嵐, 陽介(2018). "九州語と琉球語からなる﹁南日本語派﹂は成立するか?‥ 共通改新としての九州・琉球同源語に焦点を置いた系統樹構築", 平成30年度琉球大学学長PIプロジェクト﹁琉球諸語における﹃動的﹄言語系統樹システムの構築をめざして﹂―鹿児島大学公 開共同シンポジウム﹁九州-沖縄におけるコトバとヒト・モノの移動﹂, 鹿児島大学. 狩俣, 繁久(2018). "琉球語研究における系統樹研究の可能性", シンポジウム﹁フィールドと文献から見る日琉諸語の系統と歴史﹂1琉球語研究における系統樹研究の可能性, NINJAL.脚注
- ^ トマ・ペラール. “日琉祖語の分岐年代”. 2018年8月19日閲覧。
- ^ Vovin, Alexander (英語). 縄文時代から上代までの日本列島:言語は何語? .
- ^ Pellard(2013: 90)
- ^ Pellard (2018: 4)
- ^ Pellard (2018: 6)
- ^ Pellard(2013: 84-5)
- ^ Pellard(2018)
- ^ Pellard(2013: 84)
- ^ Pellard(2013: 85)
- ^ a b Pellard (2018: 7-8)
- ^ Pellard(2018: 2)
- ^ Pellard(2018: 3)
- ^ a b Pellard(2018: 7)
- ^ Pellard (2018: 16)
- ^ 五十嵐(2018: 13-15)
- ^ アレクサンダー・ヴォヴィン (2012年8月7日). 琉球祖語の語中における有声子音の再建について
- ^ 五十嵐(2018: 3)
- ^ Pellard(2018: 3)
- ^ 狩俣(2018: 2)