土人
変遷[編集]
古代[編集]
語源は律令制度の京以外の﹁本貫地に居住している人︵土人︶[1]﹂︵京貫は京戸︶、土民。律令制度下、公民は本貫地の戸籍・計帳へ登録され、浮浪・逃亡を五保、関、過所で規制され拘束され納税していた[9]。 もとは、その地域の土地の人。渤海使・遣渤海使で日本との交流も盛んであった渤海国では、靺鞨族の邑の有力な土人の酋長を都督・刺史・首領を任命して地方支配を維持したと考えられている︵羈縻政策︶[10]。 ﹃魏書﹄﹃後漢書﹄や713年︵和銅6年︶の﹃風土記﹄﹃続日本紀﹄にも用例がある。 隋開皇初、相率遣使貢獻。文帝詔其使曰‥﹁朕聞彼土人勇、今來實副朕懷。視爾等如子、爾宜敬朕如父。﹂猩猩在山谷中,行無常路,百數爲羣。土人以酒若糟設於路
—『後漢書』、[11]
又河内國諸家荘園.往往而在.土人數少.京戸過多.伏望不論京戸土人.營田一町者.出擧正税卅束.許之.
—_、『続日本紀』
近世[編集]
金禧寺といふ。土人口稱して芭蕉菴と呼。
近現代[編集]
戦前の用例[編集]
大和民族に対して使用する例 土人の説に此より北国道へ少し入りて松間なりといふ。﹃四神地名録﹄多摩郡喜多見村条下に﹁この村に蛇除よけ伊右衛門とて、毒蛇に食われし時に呪いをする百姓あり、この辺土人のいえるには、蛇多き草中に入るには伊右衛門伊右衛門と唱えて入らば毒蛇に食われずという、守りも出す。
私が昔知っていた土人に、柿本人麻呂と云う詩人があります。
今も時としてその姿を幽谷の間に見る者があって、土人は一様にこれを山男と名づけているが、
角落山は頗る急峻な山で、頂上には角落権現が祭ってある、所謂いわゆる天狗様だ。土人は之を尊崇して
鈍重にして威儀ある、純然たる仙台弁を用うることを貴しとしているが、もちろん、軽快なる江戸弁は、用いようとしても用いられないにきまっているが、その模倣の軽薄を避けることが土人の品格となっている。
海外の「現地の人びと」「土着の人」を意味する用例(ネガティブなもの含む)
亜非利加アフリカの土人に智識少なし、ゆえに未だ文明の域に至らず。
「又「ポリネシヤ」群島土人の間にては、日月を天の両眼とも双児とも云い、東「ポリネシヤ」に於ては、最高神ヴテアの両眼は、同時に之を見得ること甚だ罕に、其一は上界に輝きて、人間界にては之を太陽と呼び、其一は下界に輝きて、之を太陰と称すと云い、或は此神の右眼は日にして、其左眼は月なりとも云う。
土人と言へば野蛮人、人喰い人種、人間か獣か見分けのつかぬやうな蕃人かのやうに、日本人は想像して居るが、これは大変な感違ひである。之は土人と云ふ文字の錯覚から生じてゐるのである。種々の間違ひや誤解は此幻覺から發生して居るものが尠くない。畢竟日本人の海外知識が餘りに浅薄過ぎるからである。土人と云ふは、其の土地の先住民、土着民と言ふだけのことで、決して野蛮人とか、人喰人種とかの義ではない。
これがまた逆にヨーロッパに影響して、二十世紀の初めまで、相当に教養の高い人すらも、アフリカの土人は半獣的な野蛮人である、奴隷種族である、呪物崇拝のほか何も産出することのできなかった未開民族である、などと考えていたのであった。
オーストラリヤ東半部土人の原始社会のトーテム生活に於ける宗教的社会的必要が、経験的に生活の一定のノルムを決定し、それがその社会のロジックの要素としての諸範疇を構成するというのである。
このほか、「天竺国民と成りし各蕃土人の種族と宗教習慣の根本[23]」「亜米利加の土人インデヤン[24]」 「阿剌伯(アラブ)土人の一揆[25]」等がみられる。
比喩的に使用する例
恰もアイオー洲のスウ土人が......斯の意味に於て今日の文明人は恰もチェラデルヒーゴの土人が......徳にして、移住の際にブラジル土人が......土偶を恐怖するは南洋の土人部落にして東洋の土人部落中亦之を爭奪して......即ち、今日の憲法國の大日本天皇陛下に非らずして、國家の本質及び法理に對する無智と、神道的迷信と、奴隷道徳と、顛倒せる虚妄の歴史解釋とを以て捏造せる土人部落の土偶なるなればなり。......彼の文科大學長文學博士井上哲次郎氏の如きこの土人の酋長なりとす。......國家社會黨の領袖山路愛山氏の如き其の土人的歴史家
戦後の用例[編集]
東京人は、故郷がないなどといわれますが、ほんとうの東京人は、言葉だって昔の人は立派に訛りもありましたから、 私は﹁東京土人﹂とか﹁東京原人﹂とか呼んでいたものです。
昨年の九月このかた、連日ニュースで皇居前で土下座する連中を見せられて、自分はなんという「土人」の国にいるんだろうと思ってゾッとするばかりです。
﹁わからんさ。沖縄人でないのかね﹂﹁内地人か?﹂……﹁ならば、土人か﹂……土人というのはチャモロ人とカナカ人のことです。もともとこのあたりの島に住んでいて、このマリアナ群島の土着がチャモロ、もっと遠いカロリン諸島の原住民がカナカ。
柄谷: でも、あの﹁土人﹂というのは北一輝の言葉なんだよ︵笑︶。 中上: まあ、土人というのは悪い言葉じゃないですよ。一見、文脈で言うと悪い言葉に見えるけれど、土人というのは悪くないんですよ。いい言葉だと思います。
去年の(東日本大)地震を見たあとくらいから、なんだかすっかり「ああ、土人なんだな」という言葉がふっと頭に浮かんだわけです。「土人」という言葉の中にいろんな意味を込めたんだけれども。
批判と規制[編集]
関連作品[編集]
●パラオの夜祭を唄いあげた童謡﹃土人のお祭り﹄ ●中田喜直作曲の﹁土人のおどり﹂というピアノ曲。 ●南の島 (トムとジェリー) ●人喰い土人のサムサム:谷川俊太郎作詞の童謡参考文献[編集]
●池澤夏樹﹃カデナ﹄新潮社、2009年10月30日、嘉手苅朝栄。 NCID BB0002710X。OCLC 675711431。ISBN 4-10-375307-2、ISBN 978-4-10-375307-0。国立国会図書館書誌ID:000010604813。 ●梅棹忠夫、金田一春彦、阪倉篤義 著、日野原重明 編﹃日本語大辞典﹄講談社︿講談社カラー版﹀、1990年11月1日。OCLC 683076286。ISBN 4-06-123273-8、ISBN 978-4-06-123273-0。国立国会図書館書誌ID:000002080897。 ●金沢庄三郎 編﹃広辞林﹄︵新訂1150版︶三省堂、1950年。 ●柄谷行人、中上健次﹃柄谷行人中上健次全対話﹄講談社︿講談社文芸文庫 かB9﹀、2011年4月11日、路地の消失と流亡。OCLC 752014704。ISBN 4-06-290120-X、ISBN 978-4-06-290120-8。 ●姜成山﹁渤海王国の社会と国家-在地社会有力者層の検討を中心に-﹂2014年。 ●金田一京助、佐伯梅友、大石初太郎 著、逸村裕 編﹃新選国語辞典﹄︵常用新版︶小学館︿新選国語辞典﹀、1985年1月1日。 NCID BN12855861。OCLC 673039101。ISBN 4-09-501403-2、ISBN 978-4-09-501403-6。国立国会図書館書誌ID:000001718269。 ●郡山暢﹁ことばのタブーとその言い換え﹂﹃國文學﹄第97号、関西大学国文学会、2013年3月、156-136(29-49),参照はp.148、ISSN 0389-8628、NAID 120005688372。 ●榊原悟﹃日本絵画の見方﹄角川書店、角川学芸出版︿角川選書 371﹀、2004年12月13日。 NCID BA69984272。OCLC 675567957。ISBN 4-04-703371-5、ISBN 978-4-04-703371-9。国立国会図書館書誌ID:000007599405。 ●曽野綾子﹃﹁いい人﹂をやめると楽になる─敬友録﹄祥伝社︿祥伝社黄金文庫 そ 2-4﹀、2002年8月31日。 NCID BA59305738。OCLC 166699886。ISBN 4-396-31300-4、ISBN 978-4-396-31300-5。国立国会図書館書誌ID:000003675186。 ●竹井十郎﹃日本人の新発展地南洋﹄海外社、1929年、(3) 土人とは野蠻人の謂ひではない 表南洋と裏南洋。国立国会図書館書誌ID:0000007676151。 ●西尾実、岩淵悦太郎、水谷静夫 著、安江良介ほか 編﹃岩波国語辞典﹄︵1994年第5版、1997年第5版第3刷︶岩波書店、1994年11月10日。OCLC 1074713285。ISBN 4-00-080040-X、ISBN 978-4-00-080040-2。 ●西別府元日[注 2] 西別府元日﹁日本古代における地方吏僚集団の形成とその限界 (シンポジウム 人的結合と支配の論理)﹂﹃史学研究﹄第212号、広島史学研究会、1996年6月、1-24頁、ISSN 03869342、NAID 120000872387。。 ●西別府元日﹃律令国家の展開と地域支配﹄思文閣出版︿思文閣史学叢書﹀、2002年8月1日。 NCID BA58379193。OCLC 51581267。ISBN 4-7842-1111-X、ISBN 978-4-7842-1111-1。国立国会図書館書誌ID:000003675001。 ●早川聞多﹁蕪村筆﹁夜色楼台図﹂覚書--﹁魅力﹂の語リ方を求めて﹂﹃日本研究﹄第6号、国際日本文化研究センター、1992年3月、115-136頁、doi:10.15055/00000904、ISSN 09150900、NAID 120005681859。 ●松原弘宣﹁古代の民衆交通-古代国家の交通規制と民衆の交通権について﹂﹃四国遍路と世界の巡礼―人的移動・交流とその社会史的アプローチ―﹄、愛媛大学法文学部附属 四国遍路・世界の巡礼研究センター、2005年3月1日。cf. KAKEN。脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- 青空文庫