アベノミクス
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アベノミクスとは、自由民主党の政治家・安倍晋三が第2次安倍内閣において掲げた、一連の経済政策に対して与えられた通称[1]。﹁アベノミックス[2]﹂﹁安倍ノミクス[3]﹂とも言う。安倍とエコノミクス︵英: economics[† 1][† 2][4]︶を合わせた造語[5]。英語、フランス語、ドイツ語ではAbenomics[6][7][8][9]、ロシア語ではАбэномика︵アベノミカ︶と表記される。なお、国際的にはAbeconomics︵アベコノミクス︶と呼ばれることも多い[10]。
﹁近いうち解散﹂と呼ばれた2012年︵平成24年︶11月の衆議院解散頃から朝日新聞が使用したことをきっかけ[11]に多用され始めた言葉であるが、﹁アベノミクス﹂﹁三本の矢﹂という呼称自体は2006年︵平成18年︶時点で第1次安倍内閣自由民主党幹事長の中川秀直が使用した例が確認されている[1][12][13]。
概要
アベノミクスは第1次安倍内閣にて安倍政権の経済政策の総称として命名され、その後の第2次安倍内閣の経済政策とは基本的なスタンスが違っていた。当初の﹁アベノミクス﹂とは財政支出を削減し公共投資を縮小させ、規制緩和によって成長力が高まることを狙った﹁小泉構造改革﹂路線の継承を意味するものであった。この言葉は中川秀直などがメディアに売り込んでいた痕跡があるとされる[14][15]。 第2次安倍内閣では デフレ経済を克服するためにインフレターゲットを設定し、これが達成されるまで日本銀行法改正も視野に、大胆な金融緩和措置を講ずるという金融政策[16][17]。ロナルド・レーガンの経済政策であるレーガノミクスにちなんで、アベノミクスと呼ばれるようになった[18][出典無効]。ちなみに安倍首相自身は2013年9月26日にニューヨーク証券取引所での講演で﹁Buy my Abenomics︵アベノミクスは﹃買い﹄だ︶﹂と述べている[19][20]。また、同年12月30日の東京証券取引所の大納会の場でも、﹁来年もアベノミクスは買い﹂と述べた[21]。内容
アベノミクスの﹁三本の矢﹂
アベノミクスは、下記の3つを基本方針としており、安倍首相はそれを﹁三本の矢﹂と表現している[22]。 ●大胆な金融政策 ●機動的な財政政策 ●民間投資を喚起する成長戦略[† 3] 個別の政策としては、それぞれの矢として下記などが提示、あるいは指摘されている。 ●大胆な金融政策 ●2%のインフレ目標[16][17][23] ●無制限の量的緩和[17][23] ●円高の是正[17][† 4] ●日本銀行法改正[17][† 5] ●政策金利のマイナス化︵マイナス金利︶[24] ●機動的な財政政策 ●大規模な公共投資︵国土強靱化︶[17] ●日本銀行の買いオペレーションを通じた建設国債の買い入れ・長期保有[25] ●民間投資を喚起する成長戦略 ●﹁健康長寿社会﹂から創造される成長産業[26] ●﹁日本版NIH‥国立衛生研究所﹂ ●全員参加の成長戦略[26] ●世界に勝てる若者[26] ●女性が輝く日本[26]論文
2014年6月30日、安倍はフィナンシャル・タイムズ誌に、﹁私の﹃第3の矢﹄は日本経済の悪魔を倒す﹂と題した論文を寄稿し、経済再建なしに財政健全化はあり得ないと述べ、日本経済の構造改革を断行する考えを表明している[27]。 改革の例として ●法人税の引き下げ。2014年に2.4%引き下げ、数年で20%台に引き下げ。 ●規制の撤廃、エネルギー・農業・医療分野の外資への開放。 ●働く母親のために家事を担う外国人労働者の雇用。 を挙げている[27]。また、2014年4月の消費税増税については﹁影響は限定的である﹂と述べている[27]。 同年8月9日、安倍は月刊誌﹁文芸春秋﹂9月号に﹁アベノミクス第二章起動宣言﹂と題した論文を寄稿し、﹁経済成長こそが安倍政権の最優先課題﹂としてデフレ脱却に向けた決意を表明、地方振興・人口減少対策に全力を挙げる考えを示している[28]。推進体制
経済政策を進めるために、経済財政政策担当相甘利明の下に日本経済再生本部を設け、さらにその下に経済財政諮問会議、産業競争力会議を設置している。背景
1990年代初頭のバブル崩壊を直接の発端とし、1997年の消費税増税で顕著になったデフレーションにより停滞が続いていた日本経済は失われた10年、そして失われた20年を経験した。20世紀以降の先進国で、20年以上もの長い間、年率1%以下の低成長が続いたことは、世界的に見ても極めて珍しいといわれる。しばしば1960年代からのイギリス病が引き合いに出されることもある[要出典]が、イギリスの場合、GDP成長率は1960年代に3.2%、1970年代に2.4%であった。 それまで日本のマーケットは、米国の株価に左右される動きではあるが、米国の大企業が好決算を出していたものの、日本のGDPが上がらず、主力株である銀行や鉄鋼などが低迷したままの状態であった。特に輸出関連のメーカーなどは30年前の株価まで下落する状況であった。民主党政権において数回、円売りドル買い介入をしたものの円高や株安は改善されなかった。 アベノミクスは、このような推移を背景として、長期にわたる経済停滞を打破しようとして生まれた。 議員連盟﹁アベノミクスを成功させる会﹂の前身は、﹁デフレ・円高解消を確実にする会﹂である[29]。詳細は「失われた20年」を参照
政府の動向
政府政策・方針等の公式表明
- 2013年2月28日 第183回国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説[30]
- 2013年4月19日 安倍総理「成長戦略スピーチ」@日本プレスクラブ[31]
- 2013年5月17日 安倍総理「成長戦略第2弾スピーチ」@日本アカデメイア[32]
- 2013年6月5日 安倍総理「成長戦略第3弾スピーチ」@内外情勢調査会全国懇談会[33]
- 2013年6月14日 「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」を閣議決定[34]
- 2013年10月1日 安倍総理「安倍内閣総理大臣記者会見」[35]
2013年12月24日、政府は12月の月例経済報告を公表し、物価について﹁底堅く推移している﹂として、4年2カ月ぶりに﹁デフレ﹂の文言をなくした[36]。ただし、﹁デフレ脱却宣言﹂は見送った[37]。
2014年4月17日、政府は4月の月例経済報告で、景気の基調判断を1年5カ月ぶりに下方修正した[38]。
国務大臣
2013年1月22日、閣議後の会見で、財務大臣麻生太郎は﹁円高がだいぶ修正されつつある﹂との認識を示した[39][40]。 同年1月28日の臨時閣議後の記者会見で、甘利明経済財政・再生相は、円安誘導との批判がある安倍政権の経済政策について﹁︵ダボス会議で︶説明後に、この政策に対して危惧を持っているという発言は無かった﹂と述べ、世界経済フォーラム年次総会︵ダボス会議︶ではおおむね理解を得られたとの認識を示した[41][42]。甘利経済財政・再生相はIMF、OECDなど国際機関の責任者や民間の識者から日本の政策を支持する声が﹁相次いだ﹂と説明している[42][43]。また、円安誘導との批判については﹁ごく一部の国からだ﹂と指摘し、ドイツや韓国、中国を挙げた[41][42]。 同年2月9日、財務大臣の麻生は円安について、進みすぎだと発言している[44]。また円安のペースは速すぎるとの認識を示している[45]。 同年2月22日、安倍首相はバラク・オバマ米大統領との首脳会談後の記者会見で、﹁アベノミクス﹂について、オバマ大統領が﹁歓迎した﹂と明らかにし、﹁日本経済の再生が日米両国、さらに世界に有意義であるとの認識を共有した﹂との認識を示した[46]。安倍首相はオバマ大統領が﹁安倍政権がとった大胆な政策が日本国民に評価されていると認識している﹂と応じたと述べている[47]。 同年10月1日午後、安倍首相は、官邸で開かれた政府与党政策懇談会で、2014年4月に消費税を8%に引き上げると表明し﹁経済政策パッケージの実行により、消費税率を引き上げたとしても、その影響を緩和することができ、日本経済が再び成長軌道に、早期に回復することが可能と考えている﹂と述べた[48]。同日、安倍首相は、首相官邸で記者会見し、2014年4月から消費税率を8%に引き上げる決定を発表し﹁社会保障を安定させ、厳しい財政を再建するために財源の確保は待ったなし﹂と述べ、増税に理解を求めた[49]。﹁経済再生と財政健全化は両立し得る﹂と強調し、5兆円規模の経済対策を実施する方針を示した[49]。 同年10月11日、麻生財務相は、アメリカのワシントンで開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議後の者会見で、2014年4月の消費税率の8%への引き上げについて﹁日本が国際的にコミット︵約束︶してきた財政健全化目標の達成に向けた大きな一歩。各国の評価を得られた﹂と述べた[50]。 2014年1月24日、甘利経済財政・再生相は、衆参両院本会議での経済演説で﹁もはやデフレ状況ではない﹂と述べた[51]。 同年4月1日、消費税率の3%引き上げ︵8%︶を実施。安倍首相は首相官邸で記者団に﹁やっと手に入れたデフレ脱却のチャンスを手放すわけにはいかない﹂と述べた[52]。 同年4月8日、甘利経済財政担当相は閣議後の記者会見で、税率引き上げから1週間が経過した消費税増税の影響について﹁大きく消費が落ち込むという状況にはなっていない。想定内に収まっているのではないか﹂との認識を示した[53]。また、茂木敏充経済産業相も閣議後会見で、駆け込み需要の反動減に関して﹁想定を超える反動減は生じていない﹂と述べた[53]。 同年4月16日、副総理・財務相の麻生は午前の衆院財務金融委員会で、約130兆円の公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人︵GPIF︶ について﹁6月以降に動きが出てくる﹂とし、株式市場で﹁そうした動きがはっきりすれば、外国人投資家が動く可能性が高くなる﹂と述べた[54]。 同年7月11日、麻生財務相は閣議後の会見で、2015年度の予算編成に関連し、﹁何が何でもプライマリーバランスの赤字半減達成が優先順位の一丁目一番地﹂と述べ、財政健全化目標の実現が最優先課題との認識を示した[55]。 同年8月18日、谷垣禎一法相は、自民党有隣会の研修会での講演で、2015年10月に消費税率10%の引き上げを予定通りすべきとの考えを示し﹁10%にもっていけない状況が生まれれば、﹃アベノミクス﹄が成功しなかったとみられる可能性がある﹂と述べた[56]。内閣参与
2013年11月15日、浜田宏一内閣官房参与は講演で2014年4月からの消費税率の引き上げについて﹁私を含めて慎重派の説得力が財務省の説得力に打ち勝てなかった﹂と説明し﹁日銀の黒田東彦総裁は︵追加の︶金融政策を発動すると期待しており、心配していない﹂﹁黒田総裁が積極的に消費税を上げろと言ったのだから、責任とって金融政策はちゃんとやってもらわなければ困る﹂と述べている[57]。また、アベノミクスの三本の矢を大学の通知表にならって採点すると﹁金融緩和はAプラス、財政政策はB、成長戦略の第三の矢はE︵ABE︶﹂としている[58]。 2014年9月1日、本田悦朗内閣官房参与は﹁消費増税は消費や投資に冷や水をかけ︵成長︶縮小効果がある政策﹂とし﹁消費増税とアベノミクスは逆を向いている。今はアベノミクスに集中すべきである﹂と指摘している[59]。本田は、消費税の再増税の判断は﹁アベノミクスの成功に対して、非常に大きな影響を与える﹂と述べ、政策を失敗すれば景気腰折れにつながりかねないとしている[59]。 2014年11月3日、浜田宏一は都内の会見で2014年10月の消費税率10%への引き上げについて﹁1年半延ばす意見に同調する﹂との考えを示し、2014年4月の消費増税について﹁打撃が大きく、日本経済はふらついている﹂﹁増税を決定するには状況は非常に悪い﹂と述べた[60]。 2014年11月17日、本田悦朗はロイターのインタビューで、内閣府が発表した7-9月期のGDP速報値について﹁ショッキングであり、もはや消費税増税を議論している場合ではない。日本経済を支えるため、経済対策に議論を集中すべきである﹂と述べた[61]。経済の動向
2012年︵平成24年︶11月14日、2日後の11月16日に衆議院解散︵近いうち解散︶をして12月に総選挙を行うことが決まったため、自民党の政権復帰が視野に入ると共に円安・株高現象が起こった[62][63][64]。安倍首相が11月15日、デフレ脱却・無制限の量的緩和策を打ち出したことで、日経平均株価と円安の動きが連動した[65]。そして選挙戦に事実上突入して以降は株高・円安がさらに加速したことで﹁アベノミックス﹂﹁安倍トレード[66][67][68]﹂﹁安倍バブル[69]﹂﹁安倍相場[70]﹂﹁アベ景気[71]﹂﹁アベノミクス景気﹂という言葉をマスメディア等が使い始めた。 円安になると円換算の売上が増えて輸出競争力が付き、為替差益が生ずるため、実際に増収増益となる。そのため、マーケットは思惑買いから先取りした相場展開となり、第2次安倍内閣の発足以前から市場が動いて経済的にプラス効果が出た[72]。 2013年3月8日には日経平均株価がリーマン・ショック前の水準に戻った[73]。 アベノミクスの﹁第1の矢﹂とされる大胆な金融緩和政策により速いスピードで円安が進み、同年5月10日︵日本時間、未明︶には4年1ヶ月ぶり1ドル100円を記録、大胆な金融緩和の実施を明言していた安倍政権の誕生が濃厚となった野田首相︵当時︶の衆議院解散の意向表明から、5ヶ月で20円円安が進んだことになる[74]。 このように急激な速度で円安・株高の展開で進んできた日本経済であったが、同年5月23日場中につけた日経平均株価の最高値を境に、2週間で3000円近くも下がり、二ヶ月分の上昇を打ち消した。安倍首相が発表したアベノミクスの﹁第3の矢﹂とされる﹁成長戦略﹂が事前に報道された内容に留まった上、実現への具体策も乏しいと市場に受け止められ、失望売りが膨らんだとみられた他[75][76][77]、アメリカの金融緩和が縮小されるとの観測が広がったこともこの流れを後押しした。また、これと同時に円相場が円高に進み、1ドル103円だった円は6月7日には94円に上昇した。 2013年5月第4週の投資部門別売買状況は外国人の売り越しは44億円で、最も大きく売り越したのは、信託銀行︵年金基金︶で4,659億円だった[78]。野党の反応
アベノミクスをめぐる論戦で野党は二極化し、競争原理を重視する小さな政府を目指すみんなの党と日本維新の会は方向性には同調しつつ、規制改革の踏み込みが足りないと主張している[79]。
一方で、経済・社会保障政策で公的保護を重視する大きな政府を志向する民主党、生活の党、日本共産党、社会民主党は格差拡大を助長するとの見方から、アベノミクスの方向性を批判している[79]。
民主党は﹁賃上げ無き物価上昇、格差の拡大、国債の金利の乱高下などの副作用が生じている﹂と副作用を指摘している[80]。みんなの党は規制改革が不十分なことについて﹁古い自民党体質の政治が露呈していることの表れであり、アベノミクスの欠点﹂と主張したが、総論としての批判はしていない[80]。日本共産党は﹁国民の所得を直接増やす﹃矢﹄がない。国民の所得を減らして奪うものばかり﹂と富裕層が豊かになれば国民も豊かになるとする、いわゆる﹁トリクルダウン理論﹂を批判している[80]。
日本維新の会
2013年︵平成25年︶2月12日、日本維新の会の石原慎太郎共同代表は衆議院予算委員会において﹁何としてもアベノミクスを成功させて欲しい﹂と応援を行い[81][82][83]、﹁日本の国家の会計制度に懸念を持っている。これを合理化して企業並みにしないと、アベノミクスのバリアになる。この国には健全なバランスシート、財務諸表がない。国は何で外部監査を入れないのか。アベノミクスを成功させるためにも会計制度を一新させる必要がある。会計制度を変えると税金の使途がハッキリ分かる﹂と提言を行った[84][85]。みんなの党
2013年︵平成25年︶2月5日、山内康一みんなの党国対委員長は、衆議院本会議において、安倍首相が掲げる公共事業について﹁特定の産業を育成するのは社会主義計画経済的な発想だ。経済政策は保守主義の王道から外れるのではないか﹂と述べた[86][87]。民主党
2012年︵平成24年︶12月24日、民主党代表の海江田万里は安倍首相が掲げる金融緩和について﹁学者の中にもいろんな考え方がある。国民生活を学説の実験台にしてはいけない﹂と述べ、対決姿勢を示した[88]。同年12月25日、民主党新代表に選出された海江田はアベノミクスに潜む危険性を予算委員会で指摘した[89]。記者会見では﹁公共事業の大盤振る舞いは古い考え方﹂と批判し、金融政策について﹁日銀の独立性が損なわれるような政策は中銀や円の信任にかかわり、様々な副作用が予想される﹂と語った[90]。 野田佳彦元首相は﹁何でも日銀に責任をかぶせるやり方だ。国際社会では通用しない﹂と述べアベノミクスを批判した[91]。首相時代に野田は安倍総裁の金融政策に関する発言について﹁安倍さんのおっしゃっていることは極めて危険です。インフレで喜ぶのは株・土地を持っている人。一般庶民には関係ありません。借金を作ってそんなことをやってはいけない﹂﹁金融政策の具体的な方法まで言うのは、中央銀行の独立性を損なう﹂と批判していた[92][93][94]。 2013年︵平成25年︶1月30日、衆院本会議で海江田万里は、財政政策について﹁公共事業に偏重した旧来型経済政策は効果に乏しく、財政赤字を膨らませてきた﹂と批判。物価上昇2%を目標とする金融緩和策に関しても﹁国民生活への副作用も無視できない﹂と懸念を示し、﹁景気回復が一過性なら、雇用や給与はほとんど増えない可能性がある﹂と指摘し、実質賃金の引き下げなどにつながりかねないと疑問を呈した[95][96][97][98]。 2013年︵平成25年︶2月7日、民主党の前原誠司は衆院予算委員会において、デフレの背景として、日本の人口減少が影響していると指摘、これに対し安倍首相は﹁人口減少とデフレを結びつける考え方を私はとらない。デフレは貨幣現象であり、金融政策で変えられる。人口が減少している国は他にもあるが、デフレに陥った国ない﹂と答えた[99][100]。これに対して前原誠司はさらに﹁日本を他の国と比べることは出来ない。他の国との大きな違いとして、日本には莫大な財政赤字ある。人口が減っていくという事は国民一人当たりの負担が増えていくという事ではないか﹂と応じた[101]。 2013年︵平成25年︶2月12日、民主党の後藤祐一は衆院予算委員会において﹁三本の矢は我々民主党が言い出し、三本を一体でやっていこうと主張しているが、安倍首相は﹃一本目の矢の金融緩和は勝手に日銀がやってくれ。我々政府は知らない﹄と言っている。三本の矢で行こうというのが日銀と民主党の考え方、一本の矢で行こうというのが安倍首相の考え方であり、食い違いがある﹂、﹁人口減少と、デフレギャップおよびデフレは密接に関係している﹂、﹁2%の物価安定目標の達成に向けて安倍首相は政府は全く責任を取らないと主張している。本音は︵2013年7月の︶参院選が気になっているだけだ。安倍首相のマクロ経済に対する考え方は私は大変疑問だ﹂と発言した[81][102]。これに対し、安倍首相は﹁そもそも三本の矢と言い始めたのはあなた︵後藤祐一︶でも日銀でもなく私であり、総裁選を通じて申し上げてきたもの。単に金融緩和をやるのではなく、それと共に有効需要を作っていき実質経済を成長させ、そして地域が活性化し雇用や賃金に反映させる時差を短くし、景気回復の実感を持って頂く。そのために二本目の矢の財政政策が必要であると主張している。しかしこれは何度も打てないので三本目の矢の成長戦略をしっかり打つ。これを同時に打ち込み、以前から言ってきた経済三団体への賃上げ協力要請[103]も本日行う。私が全く言っていない事について、言った事として批判されても本当に困る﹂、﹁山本幸三議員が先程のヤジで指摘した通り、アメリカは日本より遥かにデフレギャップが大きいのにデフレに陥っていない。人口が減少している国の中でデフレ脱却していない国は日本だけ﹂と反論した[81][102]。 2013年︵平成25年︶4月7日、野田佳彦は千葉県佐倉市のパーティーでアベノミクスについて﹁海外投資家と食事する機会があり、その1人が﹃ABE﹄と言った。Aはアセット。Bはバブル。Eはエコノミー。資産バブル経済、という意味だ﹂と述べ、バブルを生み出していると批判した[104]。 2013年︵平成25年︶4月17日、国会の党首討論で海江田万里は、安倍政権の金融緩和策について﹁大変な劇薬を日本は飲んだ。副作用、あるいは落とし穴がある﹂と指摘し、物価上昇など負の側面があると強調した[105]。それに対し安倍首相は株価上昇で5兆円の年金運用益の数字を並べて反論し﹁何もしなければリスクがないと思ったら大間違いだ。閉塞感の中で悩んでいた状況を変えることができた﹂と反論した[105]。 2013年︵平成25年︶5月29日、海江田万里は、日本外国特派員協会での記者会見で﹁円安によって輸入品の価格が上がり、人々の生活は苦しくなっている。中小企業などにも影響が出て、漁業従事者も大変厳しい状況だ﹂﹁長期金利がほぼ1%に上昇した。国債が暴落して金利が上昇するのが、アベノミクスの一番のリスクだ﹂と述べ、安倍政権の経済運営を批判した[106]。 2013年︵平成25年︶6月25日、民主党は参院選公約を発表し、安倍政権の経済政策について物価上昇や国債金利の乱高下など﹁強い副作用がある﹂と批判した[107]。 2013年︵平成25年︶7月3日午後、日本記者クラブ主催の党首討論会で海江田万里は﹁︵安倍︶首相の経済政策は国民の期待を膨らませるのには成功したが、副作用として物価が上がっている﹂と懸念を示した[108]。 海江田万里は、広島市の街頭演説で﹁アベノミクスは3年たてば必ず破綻する﹂と述べている[109]。 2014年︵平成26年︶9月28日、民主党幹事長の枝野幸男は、2015年10月の消費税率の10%への引き上げを先送りすれば、アベノミクスが失敗したことを自ら認めることになるという認識を示した[110]。 2014年︵平成26年︶10月22日、枝野幹事長は消費税率10%への引き上げについて、﹁アベノミクスによって経済が好循環に入っていれば、︵消費税率を︶上げられるはずである。日本のためには、約束通り進めることがベストである﹂と述べた[111]。 2014年︵平成26年︶10月28日、枝野幹事長は﹁アベノミクスが成功だとして続けながら、消費税を上げないのは最悪である。消費税を上げられないような経済環境をもたらしている経済政策を維持しながら、景気が良くないからとして消費税を上げないと、結果的に財政はますます悪化する。財政も経済も両方悪化する最悪の選択である﹂と指摘した[112]。 2014年︵平成26年︶11月1日、海江田代表は、日銀の追加金融緩和について﹁日本売りを加速する。国民生活にとって禁じ手を使った﹂﹁大変リスクを持った判断である。日銀は円の価値を損なうことをすべきではない﹂と述べた[113]。 2014年︵平成26年︶11月17日、枝野幹事長は7-9月期のGDPの速報値について﹁想像を大きく超える悪い数字であり、アベノミクスの限界が消費税の駆け込み需要と反動減をはさんで改めて証明された﹂﹁この2年間で実体経済、特に家計に大きな打撃を与えた。アベノミクスのカンフル剤と痛み止めに頼った施策では限界がある﹂と述べた[114]。日本共産党
2013年︵平成25年︶2月5日、日本共産党の佐々木憲昭は衆院本会議で2012年度補正予算案に関し﹁庶民の懐を温める政策に転換すべきだ。家計消費が増えれば、内需が拡大しデフレ克服への道が開かれる﹂と代表質問を行なった。これに対し安倍首相は﹁成長期待の低下やデフレ予想の固定化﹂が不況の原因であると答えた[115]。佐々木は﹁いま必要なのは、消費税増税の中止など国民の所得を奪う政策をただちにとりやめること﹂と述べている[115]。社会民主党
2013年︵平成25年︶4月21日、社会民主党の福島瑞穂党首(当時)は金沢市内で講演でアベノミクスについて﹁﹃アベノミクス﹄は﹃安倍のリスク﹄。ハイパーインフレで人々の生活が壊れるのではないか心配だ﹂と述べている[116]。各界の反応
元大蔵官僚でアジア開発銀行︵ADB︶の黒田東彦総裁はアベノミクスについて﹁適切だ﹂と評価し、支持する姿勢を示している[117]。黒田は﹁デフレを克服する一方、中期的な財政再建を堅持し、成長力を高めていくのは適切な政策だ。日本経済の問題にたいして適切に対応するものだ﹂﹁日本経済にとって最大の課題はデフレからの脱却だ。15年もデフレが続いているのは異常である。日本経済にマイナスの影響を与え、その結果として世界経済にもマイナスの影響与えている。それを直そうということは日本にとって正しいだけでなく、世界経済にとっても正しい﹂と評価している[118][119]。また﹁日本がデフレから脱却することがアジアにも世界経済にもプラスになる﹂とし、アジア各国も支持するとの認識を示している[120]。また、政府と日銀が2%の物価上昇率目標を設定する共同声明を結んだことについて﹁画期的なことであって、非常に正しいことだ﹂と高く評価する考えを示している[121]。 トヨタ自動車で社長や会長を務めた奥田碩経団連名誉会長は、1ドル90円から100円が適正な為替レートで、そうなれば自動車や電機の輸出も増え、貿易赤字が解消されるだろうとの見解を示した[122]。 日本自動車工業会の豊田章男会長は﹁﹃失われた20年﹄の間に、日本企業の時価総額は360兆円を失った﹂と分析し﹁﹃アベノミクス﹄でこの内の約半分が取り返せた﹂と安倍政権を評価した[123]。 元大蔵官僚で国際通貨研究所理事長の行天豊雄はアベノミクスを小手先の金融政策や景気刺激策に終始するようであれば市場に足をすくわれるのがオチと批判。アベノミクスにより財政悪化が進めば最終的に日本は悪性インフレに陥るとまとめた[124]。 コーポレートガバナンス協会理事の八幡和郎は﹁とりあえず、やってみるという真珠湾攻撃と同じ﹂﹁世界の常識に反した一か八かのかけ﹂と批判している[125]。 オリエンタル・エコノミスト・アラート代表リチャード・カッツはアベノミクスによってドルに対して円の価値が25%下落したことは、アベノミクスが日本の活力を取り戻せることを確信させる有効な要素の一つであるとした。しかし、メリットがデメリットを上回る場合のみ、円安は経済成長に寄与すると述べた。デメリットとして2012年9月以降、価格調整後の実質輸入量は5%減少したが名目輸入金額は12%上昇し、日本は5%少ない輸入量を確保するのに、日本円を12%多く支払ったと指摘。日本企業の主要輸出事業者の価格戦略が意味しているところは、経済全体の成長をもたらす乗数効果が存在しないことである。この効果は2012年末までには表れるが、円安メリットの大きさは不透明であると結んだ[126]。 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構総務企画部主幹の中野剛志は、文藝春秋2013年六月号に、﹃竹中平蔵﹁成長戦略﹂と言う毒の矢﹄と言う記事を寄稿している。ノーベル経済学賞受賞者であるジョセフ・E・スティグリッツの意見を引用しつつ︵#条件付の肯定、失われた20年#雇用の流動化に対しての批判参照︶、﹁スティグリッツ的なケインズ主義に向けさえすれば﹂と条件付で肯定しているのと同時に、﹁今のアベノミクスは内部に新自由主義とケインズ主義が混在すると言う矛盾を抱えている。そして成長戦略と言う三本目の矢は、明らかに新自由主義に向いている。それは日本の経済、社会、政治そして倫理の根幹をも腐らせる毒の矢になりかねない。日本経済がデフレ脱却するには数年の時間がかかるかもしれない。その間に公共投資悪玉論や財政健全化論が再燃し、新自由主義が支配的になった場合、日本の希望の灯火も消える。安倍首相が新自由主義者を退け、スティグリッツ氏の理論を取り入れる事を切に望みたい﹂とまとめている[127]。 2013年1月7日、日本商工会議所の三村明夫会頭︵新日鉄住金名誉会長︶、経済同友会の長谷川閑史代表幹事︵武田薬品工業社長︶ら財界首脳は会見で、一段の円安を否定的に受け止める見解を示した[128]。消費税増税
経団連の米倉弘昌会長は、安倍首相が2014年4月に消費税を8%に上げると表明したことについて﹁大変な英断だ。高く評価する﹂と歓迎し、投資減税などの5兆円規模の経済対策についても﹁消費増税のネガティブな側面を下支えする効果が期待できる﹂としている[129]。 2013年10月9日、小売り大手のJ・フロントリテイリング傘下の大丸松坂屋百貨店は、13年度中に200名の希望退職者を含む約1000人の人員削減を行うと発表。J・フロントは2014年2月期に最高益を見込まれているが﹁消費税増税の影響で景気が悪化する懸念があり、企業体力を高めるための措置だ﹂と説明している[130][131][132]。世界の反応
肯定的反応
ノーベル経済学賞受賞者であるポール・クルーグマンはアベノミクスについてニューヨーク・タイムズのコラムで﹁素晴らしい結果を伴っている﹂と絶賛し、安倍首相について﹁経済政策について関心が乏しいのでは﹂﹁深く考えているわけではないだろう﹂と皮肉を込めながらも、﹁しかし、そんなことは問題ではない。他の先進諸国ができなかった財政・金融の刺激策を実施していることは事実で、その結果も完全に正しい。長期金利は急騰せず円は急落するのは日本にとって非常によいことだ﹂と評価している[133]。クルーグマンは﹁私はアベノミクスを評価している。日本がデフレの罠から脱却するために必要な政策である﹂﹁日本の期待インフレ率はちょうどよい値で推移している。少しのインフレ期待があることで、経済にとってプラスに働いている状況になっている﹂﹁円が安くなれば日本の製造業の輸出増を牽引することになる﹂と述べている[134]。また﹁日銀が方針を転換し、2%の物価目標を掲げ、その効果を持続させるために政府が短期間、財政出動をし景気を刺激する。発信されたメッセージが何よりも重要だ。緩和姿勢を維持し、景気を後押しするだろうという見通しこそ大事だ﹂と指摘している[135]。また長期金利と株価が同時に上昇してきたことについては楽観論の表れだと分析し、日本の財政問題への懸念を反映したものではないとの見解を示した[136]。 シカゴ大学の経済学者アニル・カシャップは﹁日本の長引くデフレの責任を日銀に負わせ、それを是正するためのツールが日銀にはあることをあらためて示したことについては安倍氏は正しい﹂と述べた[137]。 ピーターソン国際経済研究所のアダム・ポーゼン所長は、安倍政権の政策について、﹁正しい方向に踏み出している﹂と評価している[138]。 国際通貨基金︵IMF︶・元調査局長のケネス・ロゴフハーバード大学教授は、日銀が消費者物価2%上昇を目指すインフレ目標を決めたことについて、デフレ克服に向けた﹁好ましい長期的な戦略だ﹂と評価した上、追加金融緩和が世界的な通貨安競争を招くとの見方は﹁完全な間違い﹂と否定した[139]。 ゴールドマン・サックス・アセットマネジメントのジム・オニールは3%のインフレ目標を評価、﹁We Want Abe!﹂というレターを書き市場で話題となった[140]。 インドネシア財務省の財政政策責任者バンバン・ブロジョネゴロは、緩和政策が日本の内需を刺激し、同国の対日輸出を増やすと期待している[141]。 クリスティーヌ・ラガルドIMF専務理事は、安倍政権と日銀による2%の物価目標導入を柱にした金融政策について﹁中央銀行の独立性が確保されている限り、好ましく興味深い計画﹂と評価した[142]。 2013年︵平成25年︶1月27日、スイス・ダボスで開かれた世界経済フォーラム年次総会︵ダボス会議︶でパネル討論では、ラガルドIMF専務理事や経済協力開発機構︵OECD︶のグリア事務総長、カナダ銀行のマーク・カーニー総裁らが、アベノミクスへの理解や支持を表明[43]。円安誘導や中央銀行の独立性侵害、財政規律の維持放棄といった批判や懸念は鳴りを潜めた[143]。 2013年︵平成25年︶2月11日、アメリカのブレイナード財務次官は記者会見し、アベノミクスについて﹁米国は、成長の促進とデフレ脱却を目指す日本の努力を支持する﹂と述べ、理解を示した[144][145]。 2013年︵平成25年︶2月12日、スイス国立銀行︵中央銀行︶のヨルダン総裁はジュネーヴで記者会見し、﹁日本は長らくデフレに直面しており、日銀はデフレを回避し、成長を促すために政策を変えつつある﹂と述べ、金融緩和などを柱とした﹁アベノミクス﹂に理解を示している[146][147]。 2013年︵平成25年︶2月26日、連邦準備制度理事会︵FRB︶議長のベン・バーナンキは上院銀行委員会での証言で、日銀の金融緩和策について﹁デフレ脱却に向けた試みであり、支持する﹂と述べ、日銀の政策は自国経済の強化が目的で﹁為替操作ではない﹂との認識を示した[148][149][150]。また同年6月20日に﹁日本がデフレに取り組むのは重要であり、デフレの解消とともに思い切った金融政策や財政出動、構造改革を進める﹃三本の矢﹄には賛成だ。たとえ日銀の政策が米経済にいくらかの影響を及ぼしたとしても、日銀の黒田東彦総裁や日本の取り組みを支持する﹂と述べている[151]。また同年7月17日に﹁日本が力強さを増すことはアメリカの国益にもかなう﹂と述べ﹁日本は景気全体を押し上げようと努力している。その結果として、利益と代償が生まれるが、その利益とは日本経済の強化であり、アジア市場の強化だ﹂と指摘している[152]。 2013年︵平成25年︶4月4日、FRBのジャネット・イエレン副議長は日銀のマネタリーベースを倍増させる政策について﹁日本が行っていることは同国の最大の利益となるものである﹂﹁成功すれば、世界経済の成長刺激に有益で、我々にも良いことだ﹂﹁デフレ脱却を目指し積極策を講じるのは理解できる﹂と述べている[153][154]。 2013年︵平成25年︶4月17日、カナダ銀行のカーニー総裁は﹁日銀の措置は、モスクワG20声明と完全に整合しおり、国内の目標に照準を定めた金融政策だ﹂と述べ、日銀の緩和強化による需要拡大はカナダにとっても利益との見方を示している[155]。同日、アメリカのジェイコブ・ルー財務長官は﹁日本は長期にわたり内需の問題を抱えていた。日本が国内向けの政策ツールを用いて内需拡大を目標としている限り、G7がモスクワ会合で合意した内容に沿っているとわれわれは考える﹂﹁政策が内需拡大に向けた目標に沿っている限り、国内的な政策を利用することは理にかなっている﹂と述べている[156]。 2013年︵平成25年︶5月15日、フィリピンのプリシマ財務相は、﹁日本の政策が円相場を下落させていることについて懸念していない。円安と日本が現在取り組んでいる措置が日本の成長加速につながるなら、われわれにとってプラスだろう。われわれは期待を寄せている﹂との認識を示した[157]。 英エコノミスト誌の表紙に、スーパーマン風の安倍首相の写真が掲載された[158]。内容的は日本経済の復活と中国へのチャレンジを表している[159]。 ニューヨーク大学の経済学者ヌリエル・ルービニは﹁アベノミクスは金融・財政の刺激にとどまらず、賃金や消費も拡大させる﹂と指摘し、日本市場について﹁株式市場や円、国債は崩壊すると思わない﹂と述べている[160]。 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、2014年4月からの消費税率8%の増税について、消費税は世代間で均等に税負担を広げる、景気が後退しても比較的あてにすることができる﹁安定した税収﹂として重要という、エコノミストの意見を紹介し、高齢化社会という課題に直面する他の先進諸国も、いずれ後を追うことになるため、日本はその先駆例として注目されるべきと評価している[161]。 IMFアジア太平洋局のアヌープ・シン局長は東京都内の講演で、大胆な金融緩和と機動的な財政出動、成長戦略という﹁三本の矢﹂で、日本の株式市場などに多くの海外資金が流入するなど﹁日本が世界の経済地図の中心にきた﹂と政策を高く評価している[162]。また、安倍首相が2014年4月に消費税率を8%に引き上げることを決めたことについては﹁財政の機動性確保に向けた第一歩﹂と歓迎している[162]。 ノーベル経済学受賞者のロバート・シラーは﹁最も劇的だったのは、明確な形で拡張的な財政政策を打ち出し、増税にも着手すると表明したことである。財政均衡を目指した刺激策といえる。世界中で財政緊縮策が広がる中で、日本の積極策がどういう結果になるか注目している﹂と述べている[163]。 2014年2月11日、FRBのジャネット・イエレン議長は下院金融委員会の証言で、日銀の金融緩和策について﹁長期にわたるデフレを解消するためには当然であり、筋の通った政策である﹂﹁現時点では有効に働いている﹂と述べ、﹁日本経済が成長すれば近隣諸国に恩恵が及び、世界経済の利益となる﹂と表明している[164]。条件付の肯定
2012年12月12日、ジョセフ・E・スティグリッツ︵コロンビア大学教授︶は、日本政府がアベノミクスで彼の10年前に推薦した政策を採用することを歓迎している[165]。 2013年1月24日、スティグリッツは﹁円高を是正して景気を刺激し、本格的なデフレ対策を打つという意図は正しい﹂と述べ、大胆な金融緩和や財政出動を柱とする安倍政権の経済政策を評価している[166]。 同年3月21日、スティグリッツは安倍首相と会談した。同日、スティグリッツはアベノミクスに対して懸念も表明している。NHK BS1でのインタビューで彼は、﹁日本には、自由化や規制緩和もアジェンダに加えるべきと考えている人達がいるから彼らにはよくよく注意しなければならない﹂と答えている。第一の矢である金融緩和と第二の矢の財政出動に対しては全面的に支持しているが、第三の矢(現状では規制緩和を旨とする規制改革と雇用の流動化などの構造改革)には警戒感を持っている。[167][168] 翌22日、スティグリッツは東京で記者団に対し、日本の金融政策を通じた円相場の押し下げは正しいことだとの認識を明らかにし、安倍首相の経済政策について楽観的な見通しを示した[169]。スティグリッツは安倍首相の経済政策を評価する考えを示したうえで﹁世界にはユーロ危機などの短期的な問題だけでなく、地球温暖化や格差拡大など長期的な問題も残っている。成長戦略の中で、医療・教育など、長期的な課題に予算を振り向け、自立的な成長を目指すべきだ﹂と述べている[170]。 スティグリッツはこう述べている。﹁安倍総理が掲げる三本の矢のなかでもっとも難しい三本目の矢の成長戦略については、持続可能な成長を促すためにいかにお金を使うか、これは非常に難しい問題である。イノベーションといえば、人が働くコストを省くことに焦点を合わせてきた。その結果、他方では高い失業率に悩まされている。これはパズルみたいなもので、失業率が高いときに、さらに失業者を増加させることにつながる、労働力を省くイノベーションを追求していていいのか。﹂[171] 同年10月30日、スティグリッツはアベノミクスについてこう述べた。﹁アベノミクスでは、拡張型の金融政策が必要だということを認識している。また強力な財政政策が必要であり、そして規制緩和など構造上の強力な政策が必要であるということを認識している。世界の中でも、包括的な枠組みを持っている数少ない国だ。日本は公共債務が多い。予算の状況を改善しながら、同時に経済に対して刺激策を講じることができるかどうか。私はできると思っているが、それに成功するためには各々の政策を慎重に設計しなければならない。構造改革を考える際は、どのような大きな問題が日本の前に立ちはだかっているのか、またどんな構造改革によって効率を改善し、国民の幸せを改善できるのかを真剣に考えなければならない。そのため、人々は製造業からシフトしなければならない。だからこそイノベーションが必要になってくる。生産年齢人口の減少を調整した場合、日本は過去10年間、OECD諸国の中で最も成功している国の1つだ。ここで必要なことは三本の矢と呼ばれる包括的な経済政策に関する行動計画だ。まず金融政策はターゲットを絞ることで成功している。これを拡張型の財政政策で補完すべきだ。そして規制をコントロールして、経済に刺激を与えることができるか。私は、こうした構造上の改革を日本が成し遂げ、持続可能な繁栄を遂げることができ、そして世界に対して模範を示すことができると信じている。﹂[172]批判的反応
韓国
中央日報は﹁円安は韓国の輸出鈍化につながりかねない[24]﹂﹁だが、円安により韓国の輸出品の競争力に及ぼす影響は大きくないとみる専門家も多い[173]﹂と報じた。また、朝鮮日報は﹁韓国の輸出企業は円安ウォン高が続くのではないかと緊張感を強めている﹂と報じた[2]。 韓国の金仲秀中銀総裁は、日銀の決定に問題があると指摘。﹁ひとつは︵為替の︶水準が影響を受ける。変化のスピードも問題。動きが急過ぎる﹂と述べている[174]。 2013年︵平成25年︶2月19日、韓国政府はジュネーヴで開かれた世界貿易機関︵WTO︶の貿易政策審査会合で﹁円安誘導政策が疑われる﹂と日本を批判している[175]。 韓国では﹁アベノミクス﹂によるデフレ対策に伴う円安進行に対する﹁円安脅威論﹂が過熱し、韓国メディアは﹁円安は沈黙の殺人者﹂︵中央日報︶などと批判している[176]。一方で為替市場をめぐっては、韓国の金融当局が﹁覆面介入﹂してウォン安誘導しているとの疑念が付きまとっていた[176]。 なお、朴槿恵韓国大統領が掲げる経済政策を指してクネノミクスと呼ぶことがある。ドイツ
ドイツのヴォルフガング・ショイブレ財務相は﹁日本の新政権の政策に、大きな懸念を持っている﹂と発言し、大胆な金融緩和策を批判した[177]。ドイツ連邦銀行のワイトマン総裁は﹁新政権が中銀に大きく干渉し、大胆な金融緩和を要求して独立性を脅かしている﹂などと批判した[178]。中国
中国・新華社は日本銀行の金融緩和策を﹁このような近隣窮乏化政策を進めれば、他国も追随せざるを得なくなり、世界的な通貨戦争が巻き起こる可能性がある﹂と危惧した[179]。 2013年︵平成25年︶3月4日、中国の格付け会社﹁大公国際資信評価﹂は、アベノミクスで日本は財政状況が悪化するとして、日本国債の信用格付けを引き下げを発表した[180]。大公はアベノミクスでは日本経済の構造上の問題は解決できず﹁日本の長期的な低迷は続く﹂と酷評し、﹁日中両国の政治的対立がもたらすマイナスの影響にも注目する必要がある﹂と指摘した[180]。中国では円安に伴って人民元が上昇し、中国の輸出競争力を低下させるとの警戒感が広がっており、当局者・有識者の間でアベノミクスへの批判が高まっている[180]。 中国の政府系ファンド、中国投資︵CIC︶の高西慶社長は日銀の金融緩和策について、意図的な円安誘導であり、﹁︵中国など︶近隣諸国をごみ箱のように扱い、通貨戦争を始めれば、他国にとって危険であるだけでなく、最終的には自らにも害が及ぶ﹂と強く批判している[181]。 なお、李克強首相が掲げる経済政策を指してリコノミクスとよぶことがある。アメリカ
2013年︵平成25年︶6月6日、アメリカ合衆国下院の与野党議員226人は、日本を主要な為替操作国と名指しし、安倍首相の政策は﹁市場を歪めている﹂として対応を求める連名の書簡をバラク・オバマ大統領に送った[182]。 2013年10月1日、ウォール・ストリート・ジャーナルは社説で、安倍首相が2014年4月からの消費税率引き上げを決めたことについて﹁アベノミクスを沈没させる恐れがある﹂と批判し、デフレが克服されていない状況で消費に打撃を与えるべきではないと強調した上で﹁より速く、持続的な経済成長﹂こそが財政健全化の唯一の方策だと指摘している[183]。批判的意見への反論
ポール・クルーグマンは﹁大胆な金融緩和をするとハイパーインフレになってしまうというものだが、まったく的外れだ。日本と同じように金融緩和をしている米国でハイパーインフレが起こっていない﹂﹁大規模な財政出動をやると財政悪化につながるという批判もあるが、現実をきちんと見ていない批判といえる。日本の長期金利は1%未満の水準を超えておらず、政府の借り入れコストはほとんど変化していない。インフレ期待は高まっているのだから、政府の債務は実質的に減っていることになる。日本の財政見通しは、悪くなるというより大きく改善している﹂と述べている[134]。また円安について﹁G20で、各国は円安を許容せざるを得ないだろう。欧州中央銀行のマリオ・ドラギ総裁が懸念を示しても、日本に経済制裁を科すわけではない。アメリカも金融緩和でドル安を導いたと批判されてきたので何も言わない。日米ともに景気の現状を踏まえて、当然の事として積極的な金融緩和を進めているに過ぎない。その結果としての通貨安だ﹂と述べている[135]。 ジョセフ・E・スティグリッツは東京都内での国際会議で、アベノミクスの副作用が懸念されていることについて﹁実施しないほうが将来的なリスクになる﹂と述べている[184]。 ニーアル・ファーガソンハーバード大学教授は、2013年1月27日のフィナンシャル・タイムズへの寄稿で、日本の差し迫った経済状況を考えれば、国際社会は円安政策をある程度受け入れるべきであり、むしろ過去5年間に実質的な通貨価値が大幅に下落した韓国が日本を非難するのは偽善的だと述べた[185]。 フィナンシャル・タイムズ紙は﹁中央銀行の金融政策が経済にとって有害である時に政府が中央銀行と意見を交換するのは適切なことで、バイトマン総裁の批判は的外れである﹂と評している[186]。 G20の当局者は﹁日本が競争的な︵自国通貨︶引き下げを図っていると論じることは出来ない﹂﹁介入が無い限り、政策期待で市場が動いているだけ﹂と指摘している[174]。 OECDのグリア事務総長は、日本は円安だけを求めているのではなく、デフレを克服するため行動していると述べ、一部から円安誘導策との批判が出ている日本の積極的な金融緩和策を擁護する考えを示し、﹁日本が成長を遂げることは、誰にとっても最大の利益になる。特に韓国にとっては重要だ。日本の成長が高まり、世界経済に寄与することを望む﹂と述べた[187]。 IMFはモスクワで開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議向けの報告書を公表し、円安をめぐる懸念は行き過ぎとの認識を示し、日銀は一段の決意でデフレ脱却に取り組むべきと指摘した[188][189][190]。 FRBのベン・バーナンキ議長は﹁日銀が何も実施していなかった当時の市場は不安定ではなかったことを考えると、日銀の政策変更の結果として市場が不安定になったと考えるのは論理的だ。デフレ期待を壊し物価上昇率を2%に上げるため、日銀は非常に積極的な政策を実施している。政策の初期段階では、投資家は日銀の政策による反応を学んでいる状態で市場が不安定になるのは驚くべきことではない﹂と述べている[151]。また、中国は人民元を割安な水準で維持しようと為替操作しているとして、日本と中国の金融政策の違いを明確にし﹁日本のアプローチは違い、為替レートを操作していない。また相場を一定の水準で維持しようと直接介入することもない﹂と述べている[152]。警告・問題点の指摘
ポール・クルーグマンは﹁せっかくアベノミクスを始めたのに、いまこの時期に消費税を増税することは、日本経済の復活のために、何のプラスにもならない。いまは消費税増税を我慢し、2%の物価目標の達成に、全力を注ぐべき時である﹂と指摘していた[191]。クルーグマンは﹁8%への消費増税を決定したことにはがっかりした。本来なら、デフレを完全に脱却してからやったほうが安全である。ちょうど光が見えかけていたのに、増税によって消費が落ち込む可能性がある[192]﹂﹁すでに消費増税という﹃自己破壊的な政策﹄を実行に移したことで、日本経済は勢いを失い始めている。このままいけば、日本はデフレに逆戻りするかもしれない[193]﹂と指摘している。 クルーグマンは消費税増税に関して日本政府へ警告を発した[194]。消費税を10%に上げれば日本は悲惨にもデフレーションに逆戻りするというものである。クルーグマンは、日本政府が消費税率を5%に戻しインフレ期待の醸成に専念するべきであると述べた[194]。 2014年10月末、クルーグマンは都内での講演で、アベノミクスについては﹁革新的で、政策のイノベーションとして成功例である﹂と支持した一方で、﹁消費税を上げたことで経済は大きな打撃を受けた﹂と、消費税増税が日本経済に与える影響について強い懸念を示した[195]。 ジョセフ・E・スティグリッツは、経済の回復が安定状態に入る前に消費税率を引き上げる安倍首相の戦略のせいで、日本経済は2014年、失速の危機に見舞われるだろうと述べている[196]。 2014年3月12日、ロバート・シラーは都内の講演で、安倍首相と面会し、アベノミクスに感銘を受けていると話したとする一方で、市場は人々の心理に依存するためアベノミクスの成功がいつまでも続く保証はないと指摘した[197]。 UBS銀行ウェルス・マネジメントは﹁アベノミクス﹂が失敗すればスタグフレーションに突入すると指摘している[198]。 2013年10月1日、新華社は安倍首相の消費税率引き上げ表明について﹁国際社会の日本の財政状況に対する関心に答えた﹂と評価する一方で﹁ようやく回復してきた日本経済の勢いをそぐ恐れがあると心配されている﹂と報じている[199]。同日、中国紙チャイナデイリーは消費税率8%引き上げのニュースについて﹁安倍首相が民衆の抗議デモを無視し消費税の引き上げ決断﹂とのタイトルで報じた[200]。 ウォール・ストリート・ジャーナルは﹁2014年4月1日からの消費税率の引き上げ敢行という決断は、安倍首相が前任者たちと同様に、財務官僚とケインズ主義経済学の囚人だということを露呈させた﹂﹁景気刺激策を装った公共支出は、過去20年にわたって成果を上げていない。それでも安倍首相は増税と公共支出で日本に繁栄をもたらせると信じている﹂と指摘している[201]。公共事業支出や低所得者層への現金配布などの景気刺激パッケージについて、7.5兆円と予想される増税での増収を帳消しにしてしまうと指摘している[202]。 2014年9月21日、アメリカのジェイコブ・ルー財務長官は、G20財務相・中央銀行総裁会議の閉幕後の記者会見で、日本について、消費税率を4月に8%に引き上げて以降、個人消費・投資が落ち込んでおり、﹁経済活動の縮小による困難に直面している﹂と懸念を示した[203][204]。 2014年11月17日、日本の2014年7-9月期のGDP速報値が2四半期続けてマイナス成長となったことについて、ワシントン・ポストは﹁日本が景気後退入り﹂と報じ、ウォールストリート・ジャーナルは﹁景気後退とみなされる﹂と報じた[205]。IMF
国際通貨基金のラガルド専務理事は﹁IMFは、いかなる形でも通貨安競争に賛同しない﹂と発言した[142]。 2013年7月9日、IMFのオリヴィエ・ブランチャード主任エコノミストは﹁2本目の矢︵の財政出動︶が中期的な財政再建策を伴わず、三本目の矢に抜本的な改革が盛り込まれなければ、投資家は懸念を強め、国債金利は跳ね上がるだろう﹂と述べ、アベノミクスが世界経済へのリスクになり得ると指摘した[206][207]。 2013年7月16日、IMFのラガルド専務理事は日米英ユーロ圏中銀の非伝統的措置について、資本フローに影響を与えたと指摘し、その解除については段階的に慎重に行われるべきだとの見解を示した[208]。 2013年8月1日、IMFは世界経済のリスクに関する年次評価報告書を発表し、アベノミクスが失敗すれば世界経済にとって主要なリスクの一つになると警告している[209]。IMFは、アベノミクスについて大筋で支持し、計画が完全に実施されれば効果を上げるだろうとしながらも、政治的に困難な部分について実施に移せなければ、深刻な危機をもたらすと分析している[209]。 2014年10月15日、アメリカの財務省は為替報告書で、アベノミクスについて﹁大幅な円安にもかかわらず、輸出が伸び悩んでいることは意外である﹂﹁3本の矢はデフレから脱却する力強い試みだったが、ここに来て︵2本目の矢の一環の財政再建が︶経済成長を妨げている﹂と公表した[210]。また﹁財政再建ペースは慎重に策定することが重要である﹂と指摘し、金融政策は﹁行き過ぎた財政再建を穴埋めできず、構造改革の代替にもならない﹂と公表した[210]。日本政府の批判的意見への反論
国務大臣の反論
財務大臣の麻生太郎は﹁︵2009年4月のG20加盟20カ国の首脳会談で︶通貨安競争はやらないという約束をしたが、約束を守った国は何カ国あるのか。米国はもっとドル高にすべきだ。ユーロはいくらになったのか﹂と言及。1ドル=100円前後で推移していた当時に比べても円高水準にあると指摘した。その上で、約束を守ったのは日本だけだとし、﹁外国に言われる筋合いはない。通貨安に急激にしているわけではない﹂と述べた[211][212][213]。 2013年1月28日の臨時閣議後の記者会見で、財務大臣の麻生は各国で日本が通貨安政策をとっているとの批判が起きていることに﹁ドルやユーロが下がった時には︵日本は︶一言も文句を言っていない﹂と述べ、﹁戻したらぐちゃぐちゃ言ってくるのは筋としておかしい﹂と反論した[214]。円相場については、安倍政権がとった施策を受けて﹁結果として安くなったもの﹂と分析。過度な円高の修正局面だとの認識を示した[214]。また﹁日本は︵金融危機だった︶欧州の救済のために融資するなど、やるべきことをやっている﹂と付け加えた[215]。内閣参与の反論
浜田宏一内閣官房参与は﹁麻生副総理も言っておられたように、今まで日本だけが我慢して他国にいいことを続けてきたのに、今自国のために金融緩和しようとするときに、他国に文句をつけられる筋合いはない。日本の金融政策は日本のためであり、ブラジルや他国のためではない﹂と述べている[216]。また浜田は﹁日本はこの3年間、世界中からいいように食い物にされてきた。今回は、それをようやく正常な形に戻すことに決めたということである。それを海外が非難すること自体、おかしなことで、日本はそうした非難を恐れる必要はない﹂と述べている[217]。 2013年2月15日、浜田内閣官房参与はピーターソン国際経済研究所で講演で、日本の金融政策は国内の物価目標の達成のみを目指したもので、円相場を操作していると解釈されるべきではないとの見解を示した[218]。またリーマン・ブラザーズ破綻後の金融危機時に、日本はイングランド銀行やFRBが行った拡張的な金融政策を批判しなかったとし、日本の積極的な金融政策も非難されるべきではないというのが日本当局者の見解と述べた[218]。また、﹁変動相場制の下では﹃通貨安戦争﹄という概念はない﹂と述べ、﹁ブラジルのように不満のある国は、自らの国で適切な金融政策を採用すべきである﹂と指摘した[219]。 同年5月、浜田内閣官房参与は韓国について﹁日本の中央銀行を非難するべきではなく、自国の中央銀行に適切な金融政策を求めるべきである﹂と語った[220]。日本銀行の反論
2013年2月14日、日銀の白川方明総裁は、金融政策決定会合後の記者会見で﹁︵金融緩和︶は国内経済の安定が目的で、為替相場への影響を目的にしているわけではない﹂と述べ、先進国の一部や新興国による﹁円安誘導﹂との指摘を否定した[221][222]。アベノミクス策定・遂行と成果・効果
この項目ではニューパブリック・マネジメント(新公共経営、新公共管理、NPM︶の視点から、アベノミクスの政策策定から成果・効果の測定までを行なう。この必要は、アベノミクス第三の矢の集大成である﹁日本再興戦略﹂(内閣府、2013年6月14日)にも指摘されている[223]。以下、個々の政策について、策定過程・実施・成果・評価を行なう。インフレ目標
約2年で2%のインフレ目標を達成する。政策策定過程
アベノミクスの﹁第一の矢﹂が安倍自民党総裁の経済政策の第1の柱となった経緯は、比較的よく知られている。 安倍総裁のデフレ対策案 ﹁デフレこそ諸悪の根源﹂と考える総選挙前の安倍総裁によりアベノミクスの第一の矢として採用された。その概要は、以下の通り。 (1) インフレ目標を2%に設定し、日銀法の改正も視野に、政府・日銀の連携強化の仕組みを作り、大胆な金融緩和を行う[224] (2︶ 名目3%以上の経済成長を達成する (3︶ 財務省、日本銀行、および民間が参加する外債ファンドを創設し、外債購入の方策を検討する 安倍首相にこのような考えをもたらしたのは、リフレ論者で、安倍首相が官房副長官時代に内閣府の所長をしていた浜田教授という[225]。 この間の事情を経済学者の若田部昌澄が詳しく語っている。若田部によれば、自民党衆議院議員山本幸三が超党派の議員連盟﹁増税によらない復興財源を求める会﹂を作り、その会長に山本が安倍晋三を据えたことが発端という。安倍は、当初、半信半疑だったが、それが確信に変わっていく。そのあたりで自民党総裁選があり、安倍の後押しをしたのが山本らのリフレ派だった。その関係から、安倍は総選挙の最初から﹁金融緩和﹂を掲げた。これがアベノミクスの第一の矢になったという[226]。 以上が﹁第一の矢﹂がアベノミクスの最初にくることになった思想的・歴史的経緯であるが、﹁第二の矢﹂﹁第三の矢﹂については、まだよく知られていない。政策実施
安倍内閣は、金融政策によるリフレーションに懐疑的であった白川方明日銀総裁を、日銀法改正をもちらつかせることによって早期退職に追い込み[要出典]、大規模な金融緩和を唱えた黒田東彦を日銀総裁に指名した。黒田総裁は、総裁就任後の初の政策決定会合後の013年4月4日の記者会見において、﹁量的・質的金融緩和﹂政策の概要を公表した[227][228][229]。 物価目標を2年程度を掛けて年間2パーセントとするため、以下の5点にわたる政策を実施する[228]。 (1)日銀の市場操作目標を無担保コールレートからマネタリーベース(日銀券+日銀当座預金+貨幣[硬貨])へ変更 (2)2年後の日銀資産を現在︵158兆円︶の2倍近い290兆円にまで膨らませる。 (3)買入れ資産対象を従来の短期国債中心から、中期国債その他に拡大する(平均残存期間を3年弱から7年程度に延長する)。 (4)2パーセント程度のインフレが安定的に実現するまで継続する。 (5)銀行券ルールを一時停止する。 この発表は、市場からは﹁驚き﹂をもって迎えられた[230][231][232]。政策成果
失業率 完全失業率 全国・季節調整済・速報値 総務省労働力調査 2012年11月4.1% 12月4.2% 2013年1月4.2% 2月4.3% 3月4.1% 4月4.1% 5月4.1% 6月3.9%(2013年7月30日公表) 物価目標 消費者物価総合指数(前年同月比) 6月に入り始めてインフレ方向に転じた。内閣府統計局消費者物価指数 2012年11月-0.2% 12月-0.1% 2013年1月-0.3% 2月-0.7% 3月-0.9% 4月-0.7% 5月-0.3% 6月0.2%(2013年7月26日発表) 株価上昇 第二次安倍内閣の発足以前から見られたが、日経平均(日経平均株価225)は2012年11月末の9,446円から2013年6月末の13,677円まで約45パーセント上昇した。この間の最高値は、2013年5月23日の15,942円。オプション価格から計算されるボラティリティ指数(Implied Index)は、2012年11月末の25.8から2013年6月末の21.84に推移しているが、2013年5月23日から27日までボラティリティ指数が3日間にわたる高値が40%を超え、6月に入っても高値が40%を超える日が10日あった。 5月末の株価大変動 5月23日、一日で約1,500円の値幅(高値-低値)を記録した。5月末の株価大変動と円高で市場が乱高下し、経済金融アナリストの吉松崇はボラテイリティの増大を懸念している[233]。 円安ドル高 2012年11月末の1ドル82円45銭から2013年6月末で1ドル99円12銭へと約20%の円安ドル高となった。なおこの間の円の最安値は2013年5月22日の103円73銭であった。 為替レートのボラティリティもあがっていると推定される[誰?]。 消費需要の動き 1月-4月 百貨店の美術・宝飾・貴金属などの売上が上昇していると報道されている。実際、2013年1月〜4月の同売上は前年同月比で6.8%、8.6%、15.6%、18.8%上昇している。しかし、百貨店の総売上は0.2%、0.3%、3.9%、-0.5%と低迷している。同じように、同期間のスーパーの売上高は前年同月比で-4.7%、-5.5%、1.7%、-1.9%、同じくコンビニの売上高は-0.9%、-4.7%、-0.4%、-2.6%と前年に対し減少している。[234] 5月、6月 全国百貨店2013年 5月 対前年比 2.6%増 6月 同 7.2%増 ﹁全国百貨店売上高概況﹂[235]各月による。 スーパー2013年 5月 対前年比 0.2%増 6月 同 2.8%増 ﹁日本スーパーマーケットマンスリーレポート﹂[236]各月による。 コンビニ全店2013年 5月 対前年比 4.1%増 6月 同 5.5%増 コンビニ既存店2013年 5月 対前年比 -1.2%増 6月 同 0.1%増 ﹁JFAコンビニエンスストア統計調査月報﹂[237]各月による。政策評価
株価と為替レートに見るかぎり、アベノミクスの当初(2013年2月段階)の狙いは予想以上に実現しているといえよう[誰?]。伊東光晴は﹁株価上昇と円高ドル安は、総選挙と安倍内閣の発足以前に始まっており、安倍・黒田政策の効果ではない﹂と指摘している[238]。 経済学者の伊藤元重は﹁アベノミクスの成果が大きかったことは株価・為替レート・物価上昇率・失業率や有効求人倍率などの雇用指標など、どれをとっても明らかである﹂と述べている[239]。設備投資
日本政策投資銀行の全国設備投資計画調査(2013年6月調査)によると、2013年度計画は、2012年実績に比べ、全産業で10.3%増、うち製造業10.6%増、非製造業10.1%増[240]。 なお、2011年度実績に対する2012年度実績は、全産業で2.9%増、うち製造業2.7%増、非製造業3.1%増であった。これに対し、2013年度実績に対する2014年度計画は、全産業で▲10.0%、うち製造業▲12.4%、非製造業▲9.0%と減少計画となっている。比較は、データが共通にある起業についてのみ行なわれ、2012年度実績は2,088社、2013年度計画は2,205社、2014年度計画は994社の共通回答に基づいている[240]。 投資動機では、全産業2013年計画で能力増強39.5%、維持・補修21.4%、新製品・製品高度化9.5%、合理化・省力化7.1%、研究開発9.0%、その他18.3%となっており、﹁維持・補修﹂のウェイトが調査開始以来最大となっている[240]。 企業の資金需要に関係する設備投資計画/キャッシュフローDIは2013年度計画で全産業▲40.3となっている(これは設備投資額がキャッシュフローを上回ると答えた企業数が29.9%、下回ると答えた企業70.2%を意味する)。これは企業の借入需要は回復していないとも、約1/3の企業で資金需要が出てきたとも解釈できる[240]。 地域別(資本金1億円以上)でも2012年度実績にたいする2013年度計画は全国全産業で9.5%増となっているが、北海道と北関東では前年度実績を下回る計画となっている。逆に東海と四国では、増加率が20%を超えている[240]。経済成長
ジャーナリストの田村秀男は﹁経済は消費・投資・輸出の総体であり、経済成長の度合いはこれらの増加分で決まる。2013年の名目1%の経済成長に最も寄与したのは、公共事業など13%増額された公共投資である﹂と指摘している[241]。 経済学者の原田泰は﹁公共事業が、経済を下支えしているのではなく、経済効率を低下させている。第一の矢と第二の矢の相乗効果などはない﹂と指摘している[242]。原田は﹁景気が良くなったのが、公共事業をしたことによってなのか判断しなければならないが、海外の好景気によって輸出が増えて景気が良くなることもあるし、技術革新によって画期的な新製品が多数登場し、景気が良くなることもありうる。そのような公共事業と無関係の要因を取り除いて、公共事業を増加させるとどれだけGDPが増えるのかを検証しなければならない﹂と指摘している[243]。賃金低下
2013年のフルタイム労働者の平均月額賃金が前年比から0.7%減少し、4年ぶりに賃金が前年を下回った事が厚生労働省の賃金構造基本統計調査︵全国︶によって判明した[244]。 また、非正規雇用者が2013年11月時点で1964万人と過去最多となる一方で、正規雇用者は2013年1月から11月までの間に26万人減少しており、雇用の質の悪化が進んでいる。2013年11月の正社員有効求人倍率は0.63倍にとどまっており、大半の新規求人は非正規である[245][246]。 2014年7月の実質賃金は前年比で6.2%落ち込んだ[247]。本田悦朗は、足元の実質賃金の減少は2014年4月の消費増税によるものとしており、﹁このままだと経済の好循環が確認できなくなる﹂と指摘した[248]。消費者態度
内閣府の消費動向調査︵2013年7月調査、8月9日発表︶の総世帯・季節調整済み数値で消費者態度指数は[† 6]、5月45.6、6月44.3、7月43.6と2ヶ月連続で悪化している。一般世帯季節調整済みでは、5月45.7、6月44.3、7月43.6である[249]。 回答の区分構成比は、下表の通り[249]良くなる | やや良くなる | 変わらない | やや悪くなる | 悪くなる | 重み付きDI[† 7] | |
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暮らし向き | 0.5 | 6.3 | 59.8 | 26.7 | 6.7 | -32.8 |
収入の増え方 | 0.3 | 5.4 | 61.4 | 24.2 | 8.7 | -35.6 |
雇用環境 | 0.3 | 18.3 | 60.9 | 15.4 | 5.0 | -6.5 |
耐久消費財の買い時判断 | 0.4 | 15.3 | 51.7 | 26.9 | 5.6 | -22.0 |
資産価値の増え方 | 0.6 | 11.6 | 65.0 | 17.5 | 5.4 | -15.5 |
消費税率の引き上げ
1997年に橋本政権が消費税増税を断行し、結果的に日本経済がデフレーションに陥った。2014年4月の安倍政権による消費税増税も同様の悪影響を日本経済に及ぼすだろうと懸念されている。
2014年4月から6月までの改訂版の実質経済成長率はマイナス1.8%、年率換算値でマイナス7.1%であった[250]。速報値は年率マイナス6.8%であったが、それが下方修正された。これは2009年以降で最大の下落率であり、専門家らはこの下落は消費税の増税のためであると述べる[251]。
浜田宏一は、アベノミクスの第1、第2の矢は需給ギャップを大きく改善させ﹁大きな役割を果たした﹂と評価する一方で、2014年4月の消費税率8%への引き上げは﹁ブレーキをかけた﹂と指摘している[252]。
本田悦朗は﹁個人消費、設備投資、住宅投資、インフラストラクチャー投資、すべて縮小してきている﹂と述べた[253]。本田は、アベノミクス効果が2013年度に比べて減弱しているとし、消費税の10%への増税施行は1年半程度遅らせるべきであると述べた。本田によれば、持続的な経済成長には賃金上昇が不可欠であり、この延期期間を賃金が上昇するための猶予期間にすることができるという[253]。
エコノミストの櫨浩一は﹁現在︵2014年︶の日本では、公共事業による景気対策を行っても建設労働者の不足で事業が執行できないという状況になっている。今回︵2014年4月︶の消費税増税後に予想されていた需要不足に対して、5.5兆円という規模の2013年度補正予算で対策を講じたはずであったが、GDP統計を見ると4-6月期には公共事業は実質で前期比年率2%の減少︵寄与度はマイナス0.1%ポイント︶となっており、需要の下支えにはならなかった。日本全体で建設関連の労働者不足が起こっており、公共事業を増やしても景気の下支え効果が期待できない状況になっている﹂と指摘している[254]。エコノミストの村上尚己は﹁建設セクターで人手・材料不足が起きているに、市場メカニズムを無視して、供給力を上回る公共工事の発注が実現している。増税によって集められた税収が、限定的なセクターに対して非効率に配分されている﹂と指摘している[255]。
思想的・経済学的背景
理論経済学者の塩沢由典は、アベノミクスの3本の矢は、それぞれ異なる経済政策・経済思想に基づいていると指摘している[256]。自民党参議院議員の西田昌司も﹁アベノミクスは経済政策のアベノ﹃ミックス﹄だ﹂(2013年3月31日街頭活動) と指摘している[257]。 若田部昌澄は、自民党内のアベノミクス推進派は、4つくらいの経済思想が﹁共存﹂しているとしている[† 8]。 ロバート・シラーは﹁個々の政策に目新しさはないかもしれないが、組み合わせた点は珍しい﹂と評価している[197]。 大胆な金融緩和 デフレ対策としての量的金融緩和政策、リフレーション 機動的な財政政策 公共事業投資、伝統的なケインズ政策 民間投資を増やす成長戦略 イノベーション政策、供給サイドの経済学 塩沢は、3つの矢の背後にある経済理論には相互に矛盾があり、アベノミクス全体は整合的な政策体系ではないと指摘している[256]。若田部は﹁アベノミクスには、自民党内の政治力学、あるいは政治的妥協の産物という顔と、経済政策のパッケージという2つの側面がある。そもそも安倍首相の復活には麻生太郎、甘利明ら自民党実力者の力が大きく働いた。ここから、3人の実力者のお気に入りの経済政策アイデアを束ねるという妥協が生じた。﹃第一の矢﹄大胆な金融緩和︵安倍︶、﹃第二の矢﹄機動的な財政政策︵麻生︶、﹃第三の矢﹄民間投資を呼び起こす成長戦略︵甘利︶である。こうした妥協の産物として、アベノミクスは関係者をそれぞれ満足させる﹃三方一両得﹄﹁﹂のようによくできている﹂と指摘している[258]。 エコノミストの永濱利廣は﹁﹃アベノミクス﹄というと特別・目新しい政策と受け取られるが、決してそうではない。アメリカをはじめ諸外国で実行されていたにもかかわらず、日本では踏み込んでこなかったことに、遅ればせながら取り組もうとしているに過ぎない﹂﹁1本目の金融政策は﹃異次元﹄と形容されるが、実際にはリーマンショック以降のアメリカやイギリスの先例に追随した、グローバルスタンダードな金融緩和である﹂と指摘している[259]。 エコノミストの安達誠司は﹁市場関係者とそれに近い経済学者の間では、﹃量的・質的緩和﹄に対する評判はすこぶる悪い。彼らの間ではアベノミクスの効果は、財政政策︵公共投資の拡大︶であって金融政策︵量的緩和の拡大︶ではないというのがコンセンサスになっている。︵量的・質的︶金融緩和は、金融政策のレジーム転換が大きな鍵を握っている﹂と指摘している[260]。 経済学者の飯田泰之は﹁アベノミクスの一本目の矢は、決して金持ちの味方・貧乏人の敵ではない。所得に関しては中立であり、むしろ格差是正的な側面もある﹂と指摘している[261]。 それぞれの政策には、経済学者の応援団がついている。以下はその簡単なリストである。 大胆な金融緩和 浜田宏一[262]、岩田規久男[263]、若田部昌澄[264]、伊藤隆敏[265]、浅田統一郎[266] 機動的な財政政策 藤井聡[267]、三橋貴明[268][† 9]、小野善康[† 10] 民間投資を増やす成長戦略 竹中平蔵[269]、伊藤元重[270] 3つの政策のそれぞれに激しい対立がある。まず、それぞれに対する賛否およびそれぞれの政策間の矛盾について解説する。リフレーション政策について
アベノミクス第一の矢である﹁大胆な金融緩和﹂を主張する経済学者・エコノミストたちをリフレ派という[要出典]。このグループは、日本経済の低迷は長期デフレに原因があるので、リフレーション、すなわちインフレーションを起こすことによってデフレを脱却すべきだと主張する。 デフレ(物価下落)をマイルドなインフレ(年2-3パーセント)にすることを目指す政策をインフレターゲット政策という。多くの国では、高すぎるインフレ率を抑制する政策としてインフレターゲットが掲げられた。インフレターゲットの設定によるリフレーション政策(リフレ政策)は、ノーベル賞経済学者(国際経済・経済地理が専門)のポール・クルーグマンが提唱し[271]、その意見に賛成の経済学者・エコノミストたち(リフレ派)が長く導入を求めていた[272]。その代表的経済学者は、岩田規久男、浜田宏一、原田泰、高橋洋一など。エコノミストでは、森永卓郎など[273]。山形浩生、勝間和代[274]など幅広い層の支持を得た[† 11]。また、リフレ派の観点から経済学者を格付けした﹃エコノミスト・ミシュラン﹄いう本もある[275]。 リフレ派と反リフレ派との間には、過去10年以上にわたる激しい論戦があった。たとえば、小野善康は、﹁アベノミクスの金融緩和は、デフレ脱却への道筋とはならない﹂と批判している[276][277]。その一方で、原田泰は﹁金融緩和によってお金を増やせば、必ず物価が上がり、名目GDPも増加する﹂と指摘している[278]。 アベノミクスの登場により、リフレ派と反リフレ派の争いはさらにエスカレートしている。アベノミクスに対する経済学者・エコノミストの賛否も、多くはリフレ政策の有効性と危険性をめぐってのものである[277][279]。日本銀行法改正
安倍内閣の内閣参与である本田悦朗は日本銀行法を改正して物価安定とともに﹁物価安定を阻害しない限り雇用の最大化を図る﹂ことを条文で明示するよう主張している[280]。また、日銀法改正の必要性は安倍首相に﹁会うたびに言っている﹂と述べている[281]。財政出動に対する賛否
公共事業推進派 国土強靭化の提案 - 藤井聡[† 12] 流動性の罠に陥った状況ではLM曲線がほぼ水平になっており、政府支出拡大に続くIS曲線の右方シフトが実質金利上昇を喚起しないために、拡張型財政政策は効率的な経済成長に寄与するとされている。 支出内容派 小野善康は、菅内閣時代、内閣府参与として、﹁コンクリートから人へ﹂の方向転換を認めながらも、失業(遊休資源)のあるかぎり財政出動には意義があると説いた[要出典]。 これに対し、リフレ派の多くは、クラウディング・アウト、非ケインズ効果、マンデルフレミングモデルに基づいて、反対しないまでも、財政出動にはあまり効き目がないと主張している[282]。浜田宏一は、﹁有効需要をつけるために景気を財政で鞭打つというのは、変動相場制の下では有効な政策ではない﹂と指摘している[283]。ただし、リフレ派とされる飯田泰之は、ゼロ金利など流動性の罠に陥っている状況では、財政出動により利子率が上昇する事実はなく、マンデル=フレミング効果の適用には﹁理論的背景について十分な整理が必要﹂としている[284]。成長戦略について
規制緩和・構造改革
安倍内閣の産業競争力会議メンバーである竹中平蔵は﹁経済を成長させるためには、規制改革を進めなければならない﹂﹁日本経済を動かすには、枠組みを変えなくてはいけない﹂と述べている[285]。野口旭は、デフレをとめることなく、﹁構造改革によって不況を克服できる﹂という考えは錯覚にすぎないと指摘している[286]。成長戦略の考え方
小泉政権下における聖域なき構造改革への批判をたびたび行っていた経済学者の田中秀臣は[287][288]、﹁そもそも﹃成長﹄は政府の﹃戦略﹄なのかだ。﹃成長﹄自体は政府の目的変数にはなりえない。なりえないものが、株式市場の参加者がその株価トレンドの指標にするとしたら、1︶無知、2︶バイアス、3︶ウソも方便、もいずれかだ。﹂と言い、成長戦略が政府の政策となりうることを否定している[289][信頼性要検証]。アベノミクスの﹁第4の矢﹂
2013年5月28日の経済財政諮問会議では、経済財政・再生担当大臣の甘利明が財政健全化をアベノミクスの第4の矢に位置づけたという[290][291]。しかし、この発言は、同日の経済財政諮問会議議事要旨にはない[292]。自民党の野田毅税制調査会長は﹁アベノミクスは消費税率引き上げを前提に成り立っている﹂と表明している[293]。安倍自身は、﹁たかじんのそこまで言って委員会﹂(2013年6月30日放送)において﹁第4の矢﹂はなにかと問われて﹁国民の気持ち﹂と答えている[要出典]。安倍内閣として、アベノミクスの﹁第4の矢﹂を公式に認定したものはないとすべであろう[誰?]。 財政健全化をアベノミクスの第4の矢とすべきかいなかについては、賛否の意見が飛び交っている。賛成は大和総研理事の木村浩一[294]など、反対は経済学者の高橋洋一[291]など。 2013年10月7日、安倍首相はアジア太平洋経済協力会議︵APEC︶の首脳会議で講演を行い、消費税率の引き上げを決断したことを踏まえ﹁財政の健全化を図り、国の信認を維持することは、経済再生を進めていく上で不可欠であり、財政再建は私の成長戦略と車の両輪をなすものだ﹂として、経済成長と財政再建の両立を図る考えを強調している[295]。 財政健全化以外の政策・事象をアベノミクスの第4の矢とすべきだという意見も各種ある。ジャーナリストの長谷川幸洋は、政府データの公開(オープンデータ)こそ、第4の矢になりうると主張している[296]。日経編集委員の田中陽は、2013年の猛暑を突然現れた第4の矢であるとし、安倍首相の運の強さを指摘している[297]。 2013年9月7日、安倍晋三は2020年夏季五輪の東京開催が及ぼす経済効果について﹁経済、成長、ある意味で﹃第4の矢﹄の効果はある﹂と述べている[298]。アベノミクス解散
2014年11月21日 安部晋三首相はアベノミクスの継続を問うとして、衆議院を解散した。関連人物
菅義偉官房長官は浜田宏一、本田悦朗について﹁2人はまさに﹃アベノミクス﹄を作った。多くの反対があったが、実行したらあらゆる経済指標がよくなり始めた﹂と指摘している[299]。
●高橋洋一 - ブレーンの一人[300]。第1次安倍内閣では経済政策のブレーンを務めた[301]。
●浜田宏一 - 経済政策・金融分野のブレーンの一人[302][303][304]。第2次安倍内閣の内閣官房参与。安倍晋三の父・安倍晋太郎が興した﹁安倍フェロー﹂の研究員となったことから、安倍首相との親交が生まれた[217]。
●黒田東彦 - 日本銀行総裁。金融政策ブレーンの一人である。
●本田悦朗 - ブレーンの一人[305][306]。第2次安倍内閣の内閣官房参与。
●岩田規久男 - 経済ブレーンの一人[307]。
●中原伸之 - 金融政策のブレーンの一人[308][309]。
●山本幸三 - アベノミクスの仕掛け人[310]。野党時代、安倍に経済政策をブリーフィングし安倍をリフレ派に導いた。自身について、アベノミクスの原案作りに携わった者としての自負があるとしている[311]。自民党の経済再生本部事務局長。
●藤井聡 - 第2次安倍内閣での内閣官房参与︵防災・減災ニューディール政策担当︶。国土強靭化計画の提唱者[312]。
脚注
注釈
(一)^ イギリス英語発音‥[ˌiːkəˈnɒmɪks] イーコノミクス、[ˌekəˈnɒmɪks] エコノミクス
(二)^ アメリカ英語発音‥[ˌiːkəˈnɑːmɪks] イ︵ー︶カナーミクス、[ˌekəˈnɑːmɪks] エカナーミクス
(三)^ 2013年6月14日発表の﹁日本再興戦略﹂により、その全貌が明らかになった。第一弾は、4月19日の安倍首相の﹁成長戦略スピーチ﹂で示された。
(四)^ G7後の会見(2013.5.11)において、日銀の黒田総裁は、大胆な金融緩和はあくまでも﹁デフレを脱却するとの国内目的﹂のものであり、円安を意図したものではないと説明した。円安は政府・日銀の公式な政策目標ではない。
(五)^ 安倍内閣発足以前に言及された政策であるが、改正をちらつかせることにより、日銀の白川方明総裁を早期退職させ、アベノミクスに賛同する黒田東彦総裁を任命できたため、2013年現在はこの政策は検討されていない。
(六)^ 消費者態度調査は、今後半年間の見通しについて5段階評価で回答してもらい、5段階評価のそれぞれ﹁良くなる﹂に︵+1︶、﹁やや良くなる﹂に︵+0.75︶、﹁変わらない﹂に︵+0.5︶、﹁やや悪くなる﹂に︵+0.25︶、﹁悪くなる﹂に︵0︶の点数を与え、この点数に各回答区分の構成比︵%︶を乗じ、乗じた結果を合計して、項目ごとに消費者意識指標︵原数値︶を算出する。消費者態度指数︵原数値︶は、5項目の消費者意識指標のうち、﹁暮らし向き﹂、﹁収入の増え方﹂、﹁雇用環境﹂及び﹁耐久消費財の買い時判断﹂の4項目の消費者意識指標︵原数値︶を単純平均して算出する。報告書﹁利用上の注意﹂より。
(七)^ 意識指数では、変化の方向が読み取りにくい。重み付きDIでは、﹁良くなる﹂から﹁悪くなる﹂を引いており、マイナス数値が大きいほど、強い悪化が予想されている。なお、重み付DIは以下で定義される。重み付きDI=2×﹁良くなる﹂+﹁やや良くなる﹂-﹁やや悪くなる﹂-2×﹁悪くなる﹂
(八)^ 若田部昌澄(2013)﹃経済学者たちの闘い[増補版]﹄東洋経済新報社、pp.300-301。4つとは、①リフレ派、②財政拡張派(国土強靭化論)、③産業政策派、④財政再建派、である。
(九)^ 藤井聡と三橋貴明は経済学者ではない。
(十)^ 小野善康・池田新介(2013)﹁経済学の活用法﹂﹃経済セミナー﹄2013年6・7月号。小野はアベノミクス全体には批判的であるが、国土強靭批判には賛成している。
(11)^ リフレ派である田中秀臣は、これら人以外に若田部昌澄、野口旭、安達誠司、飯田泰之、片岡剛士、村上尚己、中原伸之、上念司、勝間和代、矢野浩一、山形浩生、松尾匡、中澤正彦、黒木玄、山本幸三、金子洋一、宮崎哲弥、稲葉振一郎、中村宗悦、田村秀男、長谷川幸洋、山崎元、麻木久仁子、嶋中雄二、倉山満、佐藤綾野、渡辺喜美、中川秀直、本田悦朗、栗原裕一郎、安倍晋三を挙げている。田中秀臣(2013)﹁﹁リフレ派﹂の系譜学﹂﹃環﹄53(2013.Sring), p.158, 注(2)。
(12)^ 藤井聡(2010)﹃公共事業が日本を救う﹄文春新書。藤井聡(2011)﹃列島強靱化論―日本復活5カ年計画﹄文春新書。藤井聡(2011)﹃救国のレジリエンス ﹁列島強靱化﹂でGDP900兆円の日本が生まれる ﹄。藤井聡は、さらに2013年になり、﹁強靭化﹂﹁レジリエンス﹂をキーワードとした本を出版している。
出典
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(308)^ 経済・マネー 首相のブレーン﹁日銀の問題は責任感のなさ﹂ 元日銀審議委員・中原伸之氏ZAKZAK 2013年2月21日
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(311)^ 引用エラー: 無効な <ref>
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」という名前の注釈に対するテキストが指定されていません
(312)^ 救国のレジリエンス ﹁列島強靭化﹂でGDP900兆円の日本が生まれる︵講談社︶
関連項目
- 第2次安倍内閣 - 第2次安倍内閣 (改造)
- 上げ潮派
- 通貨安競争
- インフレターゲット - 名目所得ターゲット
- トリクルダウン理論
- 安倍ドクトリン
- 日本経済再生本部 - 産業競争力会議 - 国家戦略特区
- 環太平洋戦略的経済連携協定
- 年金積立金管理運用独立行政法人
- 成長戦略
- 金融緩和
- 公共工事
- 消費税
- 格差社会
- 失われた20年