セーラー服
来歴[編集]
特徴的な要素[編集]
セーラーカラー[編集]
セーラー服の特徴である大きな角襟の理由については﹁甲板上で風などの影響によって音声が聞き取りにくいときに襟を立て集音効果を得るため﹂など諸説あるが、定かではない。杉浦昭典は集音効果説について﹁帆船上でそのような場面はない﹂として退けており、もともと船乗りが甲板上で荒天時に働く際の労働着にあったフードをイメージしてファションに取り入れたものであると推測している[7]。 セーラー服が出来た頃の船乗りの間では、長髪を後ろで括ってポマードで塗り固める髪型︵タール漬けの豚の尻尾︶が流行していたが、船上ではなかなか洗濯が出来ないので、後ろ襟や背中が脂やフケで汚れを防ぐためという説もある。しかし、イギリス政府のサイト[8]では、“豚の尻尾”は1815年以降急速に廃れ、記録に残っているのは1827年が最後であるのに対し、大きな襟が現れたのは1830年以降なので、“豚の尻尾”とセーラーカラーが共存していた時期はないと指摘している。更に同サイトでは、初期の襟は円形であったが、男性が自分で繕うのに簡単なため、方形になったとしている。襟の形状[編集]
また、現在のセーラー服の襟は、カラーとラペルが連続して胸元がV字型となっているものが多いが、19世紀のフランス海軍の制服のセーラー服にはラペルに当たる部分が切り欠かれており、胸元がV字型になっていなかった[5]。アメリカ海軍が最初に使用したセーラー服もこのタイプで[4]、子供服にも見られた[9]。 セーラー服の胸元が大きく開いて逆三角形になっているのは、海に落ちた時にすぐ服を破り、泳ぎやすくするためと言われている。スカーフ[編集]
装飾として胸元にタイ︵スカーフ、ネッカチーフ︶があり、船乗りが手ぬぐい等の用途で使用するために用いていたものが由来である[7]。水兵にとっては唯一のおしゃれ装具であり、上陸時に色・柄や生地に凝ったという[7]。簡素な変種[編集]
なお、軍服化・海員制服化した﹁セーラー服﹂が普段着に近い作業服や事務服として用いられるようになると、セーラーカラーを廃して幅の短い小さな襟にする、ネッカチーフやネクタイを廃し襟元をひもで結ぶ、といった簡素な変種も現れた[7]。このような簡素な変種は、イギリス海軍ではジャンパー、日本帝国海軍では事業服などと呼ばれた[7]。軍服[編集]
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クリミア戦争で活躍したイギリス海軍水兵
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アメリカ海軍ブルー
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アメリカ海軍ホワイト
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ドイツ海軍
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イギリス海軍
海上自衛隊も男性海士の制服として採用している。一方、尉官以上の幹部と海曹は冬は黒のリーファージャケット、夏は白の詰襟または開襟シャツが制服であり、女性自衛官は全階級で冬はダブルのブレザー、夏はシングルのスーツを着用する。
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海上自衛隊海士冬服
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海上自衛隊海士夏服
アメリカ陸軍では、その服装の奇抜さが南北戦争の北軍指揮官の中では比類無き存在として知られていたジョージ・アームストロング・カスターが、青い襟に白い星が付いたセーラーシャツを准将昇進時に特注した派手な黒いビロードの特製制服の下に重ねていた例がある。カスターの肖像として現在最もよく知られているものの一つである少将時代の写真でも、将校用のフロックコートの丈を短く改造した上着の下に同じセーラーシャツを着ている[14]。
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特製制服の下にセーラーシャツを重ね着したカスター准将
日本の女子生徒用制服[編集]
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冬服
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夏服
海外への波及[編集]
タイや中国では、一部の学校で日本風のセーラー服に変えたところ、高校によっては志望者が大幅に増えたところもあった[22]。創作とコスプレ[編集]
和田慎二の漫画﹃スケバン刑事﹄︵1976年連載開始︶、﹃超少女明日香﹄︵1975年連載開始︶シリーズは、﹁セーラー服で戦う美少女﹂を描き、少女マンガに新しいジャンルを開いたとされる[23]。﹃スケバン刑事﹄は1985年から1988年にかけてテレビドラマ化され、セーラー服アクションの元祖的作品として評価されている[24]。 赤川次郎の小説﹃セーラー服と機関銃﹄は1981年に薬師丸ひろ子主演で映画化され大ヒットを記録した[25]。撮影には薬師丸が当時在学していた都立八潮高校のセーラー服が使用された[26]。美少女研究家の高倉文紀は﹁セーラー服をきちんと着こなせるのがアイドルというコンセプトを確立﹂させたとして評価している[25]。 武内直子の漫画﹃美少女戦士セーラームーン﹄︵1992年 - 1997年︶は、連載開始と同時にテレビアニメ化され︵美少女戦士セーラームーン (テレビアニメ)︶、1993年末からヨーロッパ圏でも放送され人気を博し、日本のファッションとしての﹁Sailor-Fuku﹂を認知させ、海外のコスプレ文化にも多大な影響を与えたとされる[27]。武内はインタビューで、セーラー服を着た美少女が戦うというコンセプトはどこから得たのかという質問に対し、連載前に担当編集者と決めたもので、当時は武内も編集者も﹁アイドルが好きで、その中でも制服を着たアイドル達に萌えていました。﹂と答えている[27]。 コスプレ衣装用のセーラー服は、ドン・キホーテなどの店舗やインターネット通信販売︵以下﹁ネット通販﹂︶により入手することができる。学用品とは異なり毎日の着用に耐えるような耐久性は求められていないため、概して生地や縫製は弱く、そのぶん価格も安い。色使いが派手であるなど、明らかにコスプレ用であるとわかるデザインの商品が多い一方で、実在する学校の制服に似せた﹁レプリカ制服﹂も市販されている。 またそれとは別に、制服メーカーが製造しているセーラー服には、実際の学校制服としては採用されていないデザインの商品が存在する。こうした汎用品の学校制服は﹁標準服﹂とよばれ、制服のない服装自由の学校に通う生徒が購入することを意図したものである。学用品であるため生地や縫製は頑丈で、毎日の着用にも耐える耐久性を有している。デザインや色などのバリエーションも比較的豊富である。学校制服専門店や百貨店の制服コーナーなどで販売されることが多い。近年ネット通販では、こうした標準服のセーラー服の販売数が増加しているという。その中にはコスプレ用として購入する男女も多いとされる。脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
(一)^ abcde杉浦 2007, p. 3.
(二)^ abcd杉浦 2007, p. 2.
(三)^ 中村 2011, p. 304.
(四)^ abU.S. ネイビーブック 2011, p. 17.
(五)^ ab中村 2011, p. 329.
(六)^ 中村 2011, p. 308-320.
(七)^ abcde杉浦 2008, p. 3.
(八)^ abThe History of Rating Uniforms - Royal Navy
(九)^ 中村 2011, p. 308-310.
(十)^ 中村 2011, p. 320-322.
(11)^ 中村 2011, p. 314.
(12)^ 中村 2011, p. 323.
(13)^ 中村 2011, p. 330.
(14)^ Smith p91
(15)^ セーラー服、元祖は京都?制服メーカー調査 - 47NEWS︵2007年10月13日︶ - ウェイバックマシン︵2014年3月12日アーカイブ分︶
(16)^ abセーラー服の歴史 - ︵株︶トンボ ユニフォームミュージアム - ウェイバックマシン︵2017年8月25日アーカイブ分︶
(17)^ 調査No77 女の子の制服、セーラー服は日本のどこが発祥なの?
(18)^ 井本拓志. セーラー服発祥は名古屋. 中日新聞. 2018年5月12日, 夕刊, 11面(社会).
(19)^ 刑部 2010, p. 192-193.
(20)^ 刑部 2010, p. 193.
(21)^ 辻元 2008, p. 67.
(22)^ 日本風の制服採用で、タイの文化崩壊の危機!? - タイ王国.com︵2005年8月2日︶ - ウェイバックマシン︵2009年9月10日アーカイブ分︶
(23)^ “没後10年、﹃スケバン刑事﹄和田慎二氏が生んだ﹁戦うセーラー服美少女﹂の衝撃”. マグミクス (2022年1月27日). 2022年4月27日閲覧。
(24)^ “歴代最高の﹁セーラー服作品﹂はコレだ!ドラマ編︵1︶制服に意味を持たせた﹁スケバン刑事﹂”. アサ芸プラス. 徳間書店 (2018年7月13日). 2022年4月27日閲覧。
(25)^ ab“歴代最高の﹁セーラー服作品﹂はコレだ!映画︵1︶薬師丸ひろ子の“へそ見せブリッジ”は衝撃的”. アサ芸プラス. 徳間書店 (2018年7月11日). 2022年4月27日閲覧。
(26)^ セーラー服と女学生 2018, p. 96.
(27)^ abセーラー服と女学生 2018, p. 86-89.
参考文献[編集]
●中村省三﹃セーラー服の研究﹄﹃mono スペシャル Workwear 5﹄ワールドフォトプレス︿World Mook 823号﹀、2011年6月5日。ISBN 978-4-8465-2823-2。 ●辻元よしふみ, 辻元玲子﹃スーツ=軍服!?―スーツ・ファッションはミリタリー・ファッションの末裔だった!!﹄彩流社、2008年3月。ISBN 978-4-7791-1305-5。 ●刑部芳則﹃洋服・散髪・脱刀 : 服制の明治維新﹄講談社、2010年4月。ISBN 978-4-06-258464-7。 ●﹃U.S. ネイビーブック = U.S. NAVY BOOK : ネイビーはデザインデポ(倉庫)だ!﹄松浦豪 編集、ワールドフォトプレス︿World Mook 847号﹀、2011年12月1日。ISBN 978-4-8465-2847-8。 ●杉浦昭典﹃セーラー服は水兵服ではない﹄35号、神戸深江生活文化史料館、2007年。doi:10.24484/sitereports.21486。 ●杉浦昭典﹃セーラー・カラーはフードの変形﹄36号、神戸深江生活文化史料館、2008年。doi:10.24484/sitereports.21487。 ●内田静枝編著﹃セーラー服と女学生 - 100年ずっと愛された、その秘密﹄河出書房新社、2018年3月30日。関連文献[編集]
●小林幸雄﹃図説イングランド海軍の歴史﹄原書房、2007年1月。ISBN 978-4-562-04048-3。 ●田所昌幸 他 著、田所昌幸 編﹃ロイヤル・ネイヴィーとパクス・ブリタニカ﹄有斐閣、2006年4月。ISBN 978-4-641-17317-0。 ●Wilkinson-Latham, Robert (1977.6). Royal Navy, 1790-1970. Illustrated by Gerry Embleton. London: Osprey Publishing. ISBN 978-0-85045-248-8 ●Smith, Robin (1998). American Civil War. History of Uniforms. UK: Anova Books. ISBN 978-1-85753-219-7 ●刑部芳則﹃セーラー服の誕生 女子校制服の近代史﹄法政大学出版局、2021年12月。ISBN 978-4588326073。関連項目[編集]
- 制服
- 制服フェティシズム
- 軍服
- ベルボトム - アメリカ水兵の服が発祥とされる。
- Pコート
- セーラーズニット
- 学生服
- 中学校
- 高等学校
- 福岡女学院中学校・高等学校
- 平安女学院中学校・高等学校(1920年、日本で初めてセーラー服を導入した学校)
- 大阪府立清水谷高等学校(1924年、大阪で初めてセーラー服を導入した学校)
- 美少女戦士セーラームーン