沈下橋
沈下橋︵ちんかばし、ちんかきょう︶は、河川を渡る橋の一種である。堤外地に設けられる橋で洪水時には橋面が水面下になる橋をいう[1]。
名称[編集]
沈下橋という名称が広く知られるが、河川行政用語としては﹁潜水橋﹂が公式の名称である[2]。 地方により、潜没橋、潜流橋、沈み橋、潜り橋、冠水橋、地獄橋などとも呼称される[3][4]。呼称 | 読み | 主な地域 |
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潜水橋 | せんすいきょう | 全国、基準類における表現 |
潜り橋 | もぐりばし | 全国 |
冠水橋 | かんすいきょう | 関東(例:荒川) |
地獄橋 | じごくばし | 関東(例:久慈川) |
沈下橋 | ちんかばし、ちんかきょう | 高知県(例:四万十川) |
潜没橋 | せんぼつきょう | 京都府 |
流れ橋 | ながればし | 岡山県(例:旭川) |
沈み橋 | しずみばし | 九州 |
親水橋 | しんすいきょう | 近年各地で |
概要[編集]
沈下橋は、低水路・低水敷と呼ばれる普段水が流れているところだけに架橋され、また床板も河川敷・高水敷の土地と同じ程度の高さとなっていて、低水位の状態では橋として使えるものの増水時には水面下に沈んでしまう橋のことをいう。なお、通常の橋は、﹁沈下橋﹂の対語としては﹁永久橋﹂﹁抜水橋﹂などと呼ばれ、橋の床板は、増水時などの高水位状態下でも沈まない高さに設けられており、増水時にも橋としての使用に耐えうる。
沈下橋は、低い位置に架橋されることや、架橋長が短くできることから、低廉な費用で速やかに作ることができるというメリットを持ち、災害で橋が崩落した場合に仮設橋として建設する例もある[6] 。反面、増水時には橋として機能しなくなるという欠点を持つ。橋の両岸で高低差が大きい場合には、一方が通行可能でも対岸側は水没している可能性もある。
沈下橋の特徴として、橋の上に欄干がないか、あってもかなり低いもの・増水時に取り外し可能な簡易的なものしか付いていないことがあげられる[7]。これは、増水時の橋が水面下に没した際に流木や土砂が橋桁に引っかかり橋が破壊されたり、川の水がせき止められ洪水になることを防ぐためである[8]。また、壊れても再建が簡単で費用が安いという利点もあり、実際に流されることを前提としている例もあり、これらは﹁流れ橋﹂などと呼ぶ場合がある。増水時に流木などが橋脚・橋桁を直撃して損害を与えることを防ぐために、上流側に斜めに傾けた丸太・鉄骨などの流木避けが設置されているケースもある。
かつて架橋技術が未熟であった時代は、洪水でも壊れない橋を造ることが難しかったため、あえて増水時に沈む高さで橋を造って流木などが橋の上を流れていきやすいように工夫されたものである[8]。
日本の沈下橋[編集]
各地の沈下橋[編集]
関東地方[編集]
中部地方[編集]
関西地方[編集]
中国地方[編集]
四国地方[編集]
九州地方[編集]
九州では、沈下橋は沈み橋と呼ばれている[3]。 大分県 大分県では、一級水系以外に架かるものも含めると合計212ヶ所の沈下橋が確認されている︵2007年8月6日現在︶[11]。これは、確認されている範囲では、日本の都道府県の中で最も多い数である。その分布も、国東半島に22%、県北部に26%、県南部に40%と、県内各地に広がっている[10]。 前述の通り、現存する日本最古の沈下橋は、大分県杵築市の八坂川に架けられた龍頭橋であり、この橋は日本最古であることを選定理由として2007年に土木学会選奨土木遺産に認定されている[22]。また、大分県内には、1924年に安岐川に架けられた高原橋︵国東市安岐地区︶、1925年に山国川支流の屋形川に架けられた神迎橋︵中津市本耶馬渓町︶[23]が残っているが、これらは竜頭橋に続き、それぞれ日本で2番目及び3番目に古い沈下橋である。[24] 数多くの沈下橋の中には、変わった特徴を備えたものもある。宇佐市院内町の津房川と恵良川の合流地点近くの駅館川には三つ又橋というT字型の沈下橋があり、両岸と中州とを結んでいる。佐伯市の番匠川支流の久留須川にも同様にT字型の沈下橋がある。また、日田市天ヶ瀬の久大本線天ヶ瀬駅・豊後中川駅間では、沈下橋が鉄橋の橋脚の間をくぐり抜け、2本の橋が交差しながら玖珠川をまたぐ様子を見ることができる。 大分県日田市と福岡県うきは市の県境にもなっている筑後川の本川には、長さ約95メートルの保木橋[25]が架けられている。ギャラリー[編集]
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小目沼橋(茨城県・小貝川、2009年)
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川又橋(茨城県・小貝川、2009年) - 橋への取付道路は堤防を乗り越えるため、地図上で特徴的なカーブを描くことが多い。
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滝馬室橋(埼玉県・荒川、2011年)
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島田橋(埼玉県・越辺川、2011年) - 木橋(桁下部に鋼材使用)。木組みの流木避け。
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流川橋(埼玉県・市野川、2009年)- 木橋(コンクリート橋脚)。
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通り前橋(群馬県・谷田川、2015年)
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沈下橋(左側)(神奈川県・相模川、1995年)- 右上は後継橋として作られた抜水橋。
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沈下橋(奈良県・飛鳥川、2016年)
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沈下橋(三重県・雲出川、2016年)
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沈下橋(京都府・桂川源流、2016年)
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香美橋(徳島県・吉野川、2009年)
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若井沈下橋(高知県・四万十川、2006年)
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長生沈下橋(高知県・四万十川、2005年)
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三里沈下橋(高知県・四万十川、2010年)
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今成橋(佐田沈下橋)(高知県・四万十川、2010年)
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神迎橋(大分県・屋形川、2011年) - 日本に現存する中で3番目に古い沈下橋。
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三つ又橋(大分県・駅館川、2011年) - T字型の沈下橋。
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沈下橋(大分県・玖珠川、2011) - 鉄道橋と交差する沈下橋。
脚注[編集]
(一)^ 改訂 解説・工作物設置許可基準 p.71、河川管理技術研究会編、︵財︶国土技術研究センター、山海堂、1998年11月、ISBN 978-4-381-01197-8
(二)^ 工作物設置許可基準 第十一章 潜水橋、﹁第二十四 一 共通事項 1︶低水路に設置しないことを基本とするものとすること。2︶潜水橋の上部構造が、洪水時等に流出することのないよう必要な対策を講ずるものとすること。﹂、国土交通省、1994年9月22日、最終改正 2002年7月12日
(三)^ abcde河川利用における潜水橋の評価 (PDF) p. 2︵p. 356︶ - リバーフロント研究所、2015年9月6日閲覧。
(四)^ “潜水橋に市民権を” (PDF). リバーフロント整備センター. p. 25 (2001-05-285). 2017年3月26日閲覧。
(五)^ 潜水橋に市民権を 見城英治、RIVER FRONT、Vol.41、p.25、リバーフロント研究所、2001年
(六)^ 日経コンストラクション 青野昌行 (2015年4月30日). “﹁潜水橋﹂で流失防ぐ、原田橋の仮設道”. 日経新聞社 2015年9月28日閲覧。
(七)^ 国土交通省﹁工作物設置許可基準﹂(平成6年9月22日建河治発第72号,最終改正:平成14年7月12日国河治第71号)第十一章 潜水橋 第二十四の二
(八)^ abcdロム・インターナショナル︵編︶ 2005, pp. 72–73.
(九)^ ab重要文化的景観について - 文化庁
(十)^ abc大分県の沈み橋について - ウェイバックマシン︵2007年9月28日アーカイブ分︶ - 日本文理大学 河野忠
(11)^ abcおおいた水Blog|沈み橋王国﹁おおいた﹂ - ウェイバックマシン︵2007年12月19日アーカイブ分︶ - 第1回アジア・太平洋水サミット大分県委員会
(12)^ 小目沼橋 いばらきフィルムコミッション
(13)^ 撮影おすすめスポット﹁谷和原 地区﹂ つくばみらいフィルムコミッション
(14)^ 水和橋の撤去について 2007/01/25 常総市公式サイト
(15)^ 荒川の潜︵もぐ︶り橋﹁冠水橋﹂ - 荒川流域のポータルサイト﹁ARA﹂︵荒川下流河川事務所︶︵2013年2月6日付けのアーカイブキャッシュ︶
(16)^ ﹃まぼろしの邪馬台国﹄、﹃風林火山﹄ほか。坂戸市観光協会、2008.11、島田橋際掲示による。
(17)^ “芦田川の潜り橋群︵あしだがわのもぐりばしぐん︶”. 広島県. 2014年7月11日閲覧。
(18)^ 中村淳一編 編﹃日本の絶景ロード100﹄枻出版社、2018年4月20日、114頁。ISBN 978-4-7779-5088-1。
(19)^ “四万十川最古の沈下橋︵一斗俵沈下橋︶”. 国土交通省. 2020年10月8日閲覧。
(20)^ 乗りものニュース編集部 (2017年7月11日). “四万十自動車学校の﹁落ちてはいけない路上教習﹂、実施しなくなった理由とは?”. 2020年10月8日閲覧。
(21)^ “さようなら冨士橋 大洲で撤去控えイベント 肱川に唯一架かる沈下橋”. 愛媛新聞. 2023年8月21日閲覧。
(22)^ 九州の近代土木遺産 龍頭橋 - 国土交通省九州地方整備局
(23)^ 神迎橋 - ウェイバックマシン︵2007年11月10日アーカイブ分︶ ‐ 中津市
(24)^ 耶馬溪の沈み橋 ‐ 中津市
(25)^ 大分の沈み橋 橋のある風景、風に吹かれて、by風弘法
(26)^ 善入寺島︵ぜんにゅうじとう︶に架かる潜水橋 - 徳島県︵橋の博物館とくしま︶、2016年7月13日閲覧。