液状化現象
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液状化現象︵えきじょうかげんしょう︶は、地震の際に、地下水位の高い砂地盤が振動により液体状になる現象。単に液状化︵えきじょうか、英: liquefaction︶[1]ともいう。
これにより比重の大きい構造物が埋もれ、倒れたり、地中の比重の小さい構造物︵下水道管等︶が浮き上がったりする。この現象は日本国内では、1964年の新潟地震の際に鉄筋コンクリート製の建物が丸ごと︵潰れたり折れたりではなく︶沈んだり倒れたりしたことで注目されたが、この地震当時は﹁流砂現象﹂という呼び方をされていた[2]。
緩詰めの砂粒子が振動によって液状化する様子︵模式図︶
砂を多く含む砂質土や砂地盤は、砂の粒子同士の剪断応力による摩擦により地盤が安定を保っている。このような地盤で、地下水位の高い場所もしくは地下水位が何かの要因で上昇した場所で、地震や建設工事などの連続した振動が加わると、その繰り返し剪断によって体積が減少し、間隙水圧が増加し、その結果、有効応力が減少する。これに伴い剪断応力が減少して、これが0になったとき液状化現象が起きる。このとき地盤は急激に耐力を失う。
またこのとき、間隙水圧は土被り圧︵全応力︶に等しい。この状態は波打ち際などで、水が押し寄せるまでは足元がしっかりしていても、水が押し寄せた途端に足元が急に柔らかくなる状態に似ている。また雨上がりの地面を踏み続けると、地面に水が吹き出てくる状態にも似ていると言える。
地震や建設工事などにより連続した振動が砂地盤等に加わると、液状化現象が生じ、地盤は急激に支持力を失う。建物を地盤に固定する基礎のうち、礫層や岩盤等の適当な支持層に打ち込む支持杭と異なる摩擦杭では、建物を支えていた摩擦力を失い、建物が傾く不同沈下を起こす場合がある。重心の高い建物や、重心が極度に偏心した建物では、より顕著に不等沈下が生じ、転倒ないし倒壊に至る場合がある。
この転倒は︵建物自体が途中で壊れなければ︶ゆっくりしたもので、新潟地震で倒れた県営住宅で地震に遭った人の証言では、﹁家はゆっくりと船が沈むように傾き、そのため︵建物が横倒しになったのに︶けがをせずに済んだ。﹂という[2]。
下層の地盤が砂質土で、表層を粘土質で覆った水田等で液状化が起きた場合は、液状化を起こした砂が表層の粘土を突き破り、水と砂を同時に吹き上げるボイリング︵噴砂︶と呼ぶ現象を起こすことがある。1964年の新潟地震では、県内の各地でボイリングが観測された。
地震に伴って液状化が発生しうる地点の震央距離R︵km︶とマグニチュードMの関係は、 で表すことができる[3]とされている。
液状化による側方流動により川底が埋塞した小野川
側方流動︵そくほうりゅうどう、英: lateral flow、lateral spreading︶は、地盤流動現象の1つで、傾斜や段差のある地形で液状化現象が起きた際に、いわゆる泥水状になった地盤が水平方向に移動する現象をいう。
側方流動には大きく分けて2つのタイプがある。1つは、地表面が1 - 2%程度のゆるい勾配になっており、地中部には液状化層が存在するものである。この場合、地盤が傾斜に沿って移動することとなる。もう1つは護岸などに見られるタイプで、地震の揺れおよび地盤の液状化で護岸などが移動することで、後背の地盤が側方流動を引き起こすものである。
このような側方流動が発生した場合、地中構造物に多大な影響を与える。例えば杭基礎であれば、側方流動が発生することにより、杭は地盤から水平方向に剪断や曲げの力を受けることとなる。この地盤からの力が杭の耐力を超過し、杭の剪断破壊等を起こす。このため杭基礎は上部構造物を支える事ができなくなり、場合によっては構造物の転倒などを引き起こすことにつながっていく。
概要[編集]
地表付近の含水状態の砂質土が、地震の震動により固体から液体の性質を示すことにより、上部の舗装や構造物などが揚圧力を受け破壊、沈み込みを起こすものである。砂丘地帯や三角州、埋め立て地・旧河川跡や池沼跡・水田跡などの人工的な改変地で発生しやすい。近年、都市化が進んだ地区で該当地域が多いことから被害拡大の影響が懸念される。 1964年︵昭和39年︶6月16日に発生した新潟地震の際に、信濃川河畔や新潟空港などでこの現象が発生したことから日本でも知られるところとなった。また同年に発生したアラスカ地震でも液状化による被害が発生し、これ以降は土質力学の分野で活発に研究が行われるようになった。 東京都心部は河口に位置する上に埋立地が多く存在するため、大地震の発生時には液状化対策が施されていない箇所で液状化現象が発生し、道路や堤防、ライフラインの破損、基礎のしっかりしていない建物の傾斜などの被害が発生する可能性もある。 現在、液状化現象の発生危険箇所をとりまとめたハザードマップが整備されつつあり、堤防の補強などの措置が図られている。ライフラインの被害も懸念されるため、水道管は耐震管に布設替えが進みつつあり、ガス管はポリエチレン化が進んでいる。一方で、下水道管は耐震化が難しく復旧も遅いため、居住困難な状態が長引く場合がある︵2011年の東日本大震災での福島第一原子力発電所免震棟、Jヴィレッジ、浦安市、いわき市など︶。 ゆるく堆積した砂質土層では、標準貫入試験で得られるN値が10程度以下と小さい場合が多い。一般に液状化現象が生じるかどうかはFL値、液状化の程度はDcyやPL値などの指標を用いて判定する。液状化のプロセス[編集]
側方流動[編集]
発生例[編集]
日本[編集]
日本国外[編集]
脚注[編集]
(一)^ 文部省編﹃学術用語集 地学編﹄日本学術振興会、1984年、19頁。
(二)^ ab伊佐喬三﹁9-地球と人間 防災と自然改造﹂ ﹃原色現代科学大事典2地球﹄ 株式会社学習研究社、竹内均 責任編集、1967年、P450。
(三)^ 植竹富一ほか﹁1828年越後三条地震の地変等の記事について﹂︵PDF︶﹃歴史地震﹄第20号、歴史地震研究会、2005年、233-242頁、ISSN 1349-9890、NAID 40007024362。
(四)^ 北日本放送株式会社﹁復刻版越中安政大地震見聞録 立山大鳶崩れの記﹂地震見聞録 P60,61 2007年
(五)^ 海水吹き出し洪水、大阪で液状化現象﹃大阪毎日新聞﹄昭和2年3月8日号外︵﹃昭和ニュース事典第1巻 昭和元年-昭和3年﹄本編p220 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年︶
(六)^ 国土交通省 関東地方整備局 企画部 広域計画課. “東北地方太平洋沖地震による関東地方の地盤液状化現象の実態調査結果について”. 防災. 国土交通省 関東地方整備局. 2012年2月5日閲覧。
(七)^ 大成建設 船原英樹 (2012年3月14日). “1.過去の地震と液状化現象”. 防災. 耐震ネット. 2016年2月21日閲覧。
(八)^ “平成28年熊本地震に関する報告書 第1章~第6章” (PDF). 東北大学災害科学国際研究所 (2017年4月). 2017年4月14日閲覧。
(九)^ 北海道新聞どうしん電子版﹁谷に盛り土 液状化誘発 釜井・京大斜面災害研センター長が札幌・里塚調査 緩い地盤、地下で地滑り﹂ 2018年9月20日閲覧。
(十)^ 北海道新聞どうしん電子版﹁北広島でも大きな被害 陥没や傾き 13棟﹃危険﹄﹂ 2018年9月20日閲覧。
(11)^ 北海道新聞どうしん電子版﹁液状化、地下鉄建設が影響? 専門家﹃抜本策必要﹄﹂ 2018年9月20日閲覧。
(12)^ 北海道新聞﹁札幌﹃東15丁目屯田通﹄要の市道 復旧いつに﹂2018年9月16日記事、2018年9月22日閲覧。
(13)^ INC, SANKEI DIGITAL (2019年6月19日). “鶴岡の液状化、埋め立て影響か 専門家﹁余震で被害拡大も﹂”. 産経ニュース. 2022年10月20日閲覧。
(14)^ abINC, SANKEI DIGITAL (2024年1月2日). “能登半島地震で新潟市西区は液状化、石塀は倒壊、水道管破裂”. 産経ニュース. 2024年1月2日閲覧。
(15)^ “電柱や家傾く・・・高岡市伏木で液状化現象 能登半島地震 ︵北日本放送︶”. Yahoo!ニュース. 2024年1月2日閲覧。
(16)^ 建築学会︵1991年︶ pp.142-143
(17)^ 建築学会︵1991年︶ p.143
(18)^ 磯山︵1989年︶ p.78
(19)^ 建築学会︵1991年︶ p.99
(20)^ レッドファーン︵2013年︶ p.180
(21)^ 大久保︵1990年︶ p.34
(22)^ 衣笠︵1990年︶ p.13
(23)^ 建築学会︵1991年︶ p.132
(24)^ 建築学会︵1991年︶ p.137
(25)^ 建築学会︵1991年︶ pp.138-139
(26)^ 建築学会︵1991年︶ pp.140-142
参考文献[編集]
●吉見吉昭﹃砂地盤の液状化﹄︵第2版︶技報堂出版︿土質基礎シリーズ﹀、1991年。ISBN 4-7655-1511-7。全国書誌番号:91048164。
●若松加寿江﹃日本の液状化履歴マップ : 745-2008 : DVD+解説書﹄東京大学出版会、2011年。ISBN 978-4-13-060757-5。
●阿部勝征︵1章‥pp.1-15︶,石丸辰治︵2章‥pp.16-109,5章‥153-231︶,あべ木紀男︵3章‥pp.110-116︶,吉田望︵4章‥pp.117-152︶,木内俊明︵6章‥pp.232-242︶,大町達夫︵7章‥pp.243-270︶,亀田弘行︵8章‥pp.271-315︶,北川良和︵9章‥pp.316-348︶,村上處直︵10章‥pp.349-382︶,広井脩︵11章‥pp.383-433︶・・・以上の各章編集責任者他多数﹃1989年ロマプリータ地震災害調査報告﹄日本建築学会、1991年。ISBN 978-4818900691。
●磯山龍二﹃土木施工30巻12号﹁サンフランシスコ地震土木構造物の被害﹂︵PDF︶﹄オフィス・スペース、1989年。
●Martin Redfern (原著),川上紳一 (翻訳)﹃地球-ダイナミックな惑星 (サイエンス・パレット)﹄丸善出版、1994年。ISBN 978-4621086681。
●大久保泰邦﹃地質ニュース 1990年5月号 No.429﹁サンフランシスコから﹂︵PDF︶﹄実業公報社、1990年。
●衣笠善博﹃地質ニュース 1990年8月号 No.432﹁サンフランシスコ(ロマプリータ)地震﹂︵PDF︶﹄実業公報社、1990年。
関連項目[編集]
●流砂
●相転移
●地震考古学
●泥漿
●雨水浸透ます
●地下水 / 井戸
●地盤沈下