アムピトリーテー
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アムピトリーテー Ἀμφιτρίτη | |
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海の女神 海の女王 | |
住処 | 海 |
シンボル | イルカ, 三叉戟 |
配偶神 | ポセイドーン |
親 | ネーレウス, ドーリス |
兄弟 | ガラテイア, テティス, プサマテー |
子供 | トリートーン, ロデー, ベンテシキューメー |
ローマ神話 | サラーキア |
アムピトリーテー︵古希: Ἀμφιτρίτη, Amphitrītē︶は、ギリシア神話の海神ポセイドーンの妃で海の女王である[1][2]。アンフィトリーテー、長母音を省略してアムピトリテ、アンピトリテ、アンフィトリテとも表記される。名前の意味は﹁大地を取り巻く第三のもの﹂、即ち海をあらわす。聖獣はイルカで、象徴は冠、ヴェール、王笏。
ローマ神話の海水の女神サラーキアと同一視される。
テーセウスに指輪と王冠を授けるアムピトリーテー。両者の間にアテー ナーが描かれている。
前490~500年頃のキュリクス。陶工はエウフロニオス、画家はオネシモス。ルーブル美術館所蔵。
後世の神話ではアムピトリーテーとポセイドーンの結婚の物語が語られている。それによればアムピトリーテーは姉妹たちとともにナクソス島で踊っているときにポセイドーンによってさらわれた[15]。あるいはポセイドーンの求婚に最初は抵抗したが、ポセイドーンからイルカをプレゼントされ、婚姻を承諾した[16]。
エラトステネースによると、アムピトリーテーははじめポセイドーンを嫌って海の西端のアトラースのもとに逃げ、彼女の姉妹たちによって匿われた。ポセイドーンがイルカにアムピトリーテーを探させると、1頭のイルカが大西洋の島にアムピトリーテーがいるのを発見し、説得してポセイドーンのところに連れて行った。その結果ポセイドーンはアムピトリーテーと結婚することができ、この功績によってイルカは天に配置され、いるか座となった[17]。
オッピアノスもエラトステネースとほぼ同じ神話を述べている。それによるとアムピトリーテーが隠れたのはオーケアノスの宮殿であった。そしてポセイドーンはイルカから隠れ場所を教わると、すぐさま拒絶するアムピトリーテーを奪い、結婚したという[18]。
ポセイドーンはもともと大地の神だったが[19]、アムピトリーテーとの結婚によって海も司るようになったともいわれる[20]。アムピトリーテーは、気のおけない妻で、夫の度々の不実を辛抱強く我慢した[21]。
概要[編集]
アムピトリーテーは、ネーレウスがオーケアノスの娘ドーリスとの間にもうけた50人の娘ネーレーイデスの1人で[3][4]、ポセイドーンとの間に、トリートーン[5][6]、ロデー[6]、ベンテシキューメーを生んだ[7]。子供のうち、トリートーンは上半身が人間、下半身がイルカ︵または魚︶の姿をした海神である。ロデーは太陽神ヘーリオスの妻となった。ベンテシキューメーはエウモルポスを育てたといわれる。アムピトリーテーの三人の子供というのは、彼女自身の三面相を示すもので、トリートーンは幸運の新月、ロデーは刈入れのころの満月、ベンテシキューメーは危険な旧月を現している[8]。神話[編集]
ホメーロスとヘーシオドス[編集]
アムピトリーテーは海の女性的化身である[9]。ホメーロスの﹃オデュッセイア﹄によると、青黒い瞳をしており、大波を起こすとされ[10]、海の巨大な怪魚や海獣を数知れず飼っているとされている[11]。しかしホメーロスにおいては十分な擬人化が進んでおらず、単に海を指すと思われる個所もある[12]。ヘーシオドスの﹃神統記﹄では、アムピトリーテーは同じネーレーイデスのキューモドケー、キューマトレーゲーとともに、荒れ狂う風を鎮めることができ[13]、またポセイドーンとの間にトリートーンを生んだと詠われている[5]。﹃ホメーロス風讃歌﹄の﹁アポローン讃歌﹂によると、レートーがデーロス島でアルテミスとアポローンを出産したとき、ディオーネー、レアー、テミスをはじめとする多くの女神たちとともに立ち会った[14]。ポセイドーンとの結婚[編集]
テーセウス伝説[編集]
アムピトリーテーはテーセウス伝説にも登場する。アテーナイの英雄テーセウスがミーノータウロスの生贄としてクレーテー島に連れてこられたとき、ミーノース王は彼がポセイドーンの子であることを信じなかった。ミーノースは自分の指輪をはずして海に投げ入れ、本当にポセイドーンの子ならば指輪を取ってくることができるだろう、と言った。そこでテーセウスが海に潜ると、イルカが彼をポセイドーンの王宮に運んだ。やって来たテーセウスに、アムピトリーテーはミーノースの指輪と、真紅の外套、花冠を授けた[22][注釈 1]。ギャラリー[編集]
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パリス・ボルドーネ『ネプチューンとアンフィトリテ』(1560年頃)個人蔵
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ハンス・ロッテンハンマー『ネプチューンとアンフィトリテ』(1600年頃)エルミタージュ美術館所蔵
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ニコラ・プッサン『ネプチューンとアンフィトリテの勝利』(1634年)フィラデルフィア美術館所蔵
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セバスティアーノ・リッチ『ネプチューンとアンフィトリテ』(1691年-1694年頃)ティッセン=ボルネミッサ美術館所蔵
脚注[編集]
注釈[編集]
- ^ パウサニアース(1巻17・3)によると、ミーノースの指輪と黄金の冠を授けたことになっている。
出典[編集]
(一)^ 高津春繁﹃ギリシア・ローマ神話辞典﹄29頁。
(二)^ 呉茂一﹃ギリシア神話 上巻﹄新潮社、1956年、234頁。
(三)^ ヘーシオドス﹃神統記﹄243行。
(四)^ アポロドーロス、1巻2・7。
(五)^ abヘーシオドス﹃神統記﹄930行-933行。
(六)^ abアポロドーロス、1巻4・6。
(七)^ アポロドーロス、3巻15・4。
(八)^ ロバート・グレーヴス﹃ギリシア神話 上巻﹄紀伊国屋書店、1973年、16章1。
(九)^ フェリックス・ギラン﹃ギリシア神話﹄、150頁。
(十)^ ﹃オデュッセイア﹄12巻60。
(11)^ ﹃オデュッセイア﹄5巻422、12巻97。
(12)^ ﹃オデュッセイア﹄3巻91。
(13)^ ヘーシオドス﹃神統記﹄252行-254行。
(14)^ ﹃ホメーロス風讃歌﹄第3歌﹁アポローン讃歌﹂94。
(15)^ ﹃オデュッセイア﹄3巻91に対する古註︵カール・ケレーニイ﹃ギリシアの神話 神々の時代﹄p.232︶。
(16)^ シブサワ・コウ﹃爆笑ギリシア神話﹄光栄。
(17)^ エラトステネス、31話。
(18)^ オッピアノス﹃漁夫訓﹄1巻386行-393行。
(19)^ マイケル・グラント、ジョン・ヘイゼル ﹃ギリシア・ローマ神話事典﹄ 大修館書店
(20)^ カール・ケレーニイ﹃ギリシアの神話 神々の時代﹄p.224、231、232。
(21)^ フェリックス・ギラン﹃ギリシア神話﹄、151頁。
(22)^ バッキュリデース、第17歌。
参考文献[編集]
- アラトス / ニカンドロス / オッピアノス『ギリシア教訓叙事詩集』伊藤照夫訳、京都大学学術出版会(2007年)
- アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
- 『ギリシア合唱抒情詩集 アルクマン他』丹下和彦訳、京都大学学術出版会(2002年)
- パウサニアス『ギリシア記』飯尾都人訳、龍溪書舎(1991年)
- ヘシオドス『神統記』廣川洋一訳、岩波文庫(1984年)
- ホメロス『オデュッセイア(上・下)』松平千秋訳、岩波文庫(1994年)
- ホメーロス『ホメーロスの諸神讃歌』沓掛良彦訳、ちくま学芸文庫(2004年)
- 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店(1960年)
- カール・ケレーニイ『ギリシアの神話 神々の時代』植田兼義訳、中公文庫(1985年)
- フェリックス・ギラン『ギリシア神話』中島健訳、青土社(1991年)
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
- エラトステネスの星座物語 31. いるか座