カリュプソー
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カリュプソー Καλυψώ | |
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海の女神 | |
ヤン・ブリューゲルの1616年の絵画『オデュッセウスとカリュプソ』。ジョニー・ヴァン・ヘフテン・ギャラリー(Johnny van Haeften Gallery)所蔵 | |
住処 | オーギュギアー島 |
親 | アトラース、プレーイオネー |
兄弟 | プレイアデス、ヒュアデス、ヘスペリデス、ヒュアース、ヘスペロス |
子供 | ナウシトオスとナウシノオス、あるいはラティーノス |
カリュプソー︵古希: Καλυψώ, Kalypsō, 英語: Calypso︶は、ギリシア神話に登場する海の女神である。カリュプソーは"覆い隠す者"︵動詞 kalypto より︶の意。長母音を省略してカリュプソとも表記される。伝説的なオーギュギアー島の洞窟に住み、島に漂着したイタケーの王オデュッセウスを愛したとされる[1][2]。
ジョン・シンガー・サージェントの1925年の絵画﹃アトラスとヘス ペリデス﹄。ボストン美術館所蔵。
マルタ、ゴゾ島シャーラのカリュプソーの洞窟。
ホメーロスはカリュプソーについて早くも言及しており、叙事詩﹃オデュッセイア﹄の3か所で巨人アトラースの娘であると語っている。詩人は彼女の父アトラースについて、残忍な性格で[3]、天と地を隔てている巨大な柱を支えており[4]、彼女自身もまた奸知に長けた女神であると語っている[5]。後代においてもカリュプソーはアトラースの娘と伝えられている[2][6][7]。母親については言及されていないことが多いが、ヒュギーヌスはプレーイオネーとし、ターユゲテーの代わりにカリュプソーをプレイアデスの1人に加えている[8]。ただしヘーシオドスはオーケアニデスの1人とし[9][10]、アポロドーロスはネーレーイデスの1人とする異伝を伝えている[11]。
プレイアデスおよびヒュアデスと姉妹であり[12]、ヘスペリデスと異母姉妹[13]。ヒュアース[12]、ヘスペロスという兄弟がいたと伝える者もいる[14]。オデュッセウスとの間に2人の息子ナウシトオスとナウシノオスを生んだ[15][注釈 1]。あるいはラティーノスを生んだともいわれる[2]。
ヘラルト・デ・ライレッセの1670年頃の絵画﹃カリプソにオデュッ セウスの解放を命じるヘルメス﹄。クリーブランド美術館所蔵。
カリュプソーが登場する叙事詩﹃オデュッセイアー﹄はトロイア戦争の英雄オデュッセウスの帰国に関する冒険物語である。魔女キルケーのもとで1年の間暮らしたオデュッセウスは、その後トリーナキエー島で太陽神ヘーリオスの怒りを買い、ゼウスの雷によって船を破壊され、怪物スキュラとカリュブディスが棲息する海域に逆戻りしてしまった。カリュブディスが潜んでいる大岩にはイチジクの木が生えており、オデュッセウスはその木に取りついてカリュブディスの脅威をやり過ごしたのち、10日目にカリュプソーの住むオーギュギアー島に漂着した[17]。
﹃オデュッセイアー﹄はカリュプソーとオデュッセウスとの邂逅について詳しく語ってないが、彼女はオデュッセウスを深く愛し、親切に世話をしただけでなく、不死を与えることまで約束したと語られている[18][19]。しかし結局のところ、彼女はオデュッセウスの心を得ることができなかった。2人は当初は幸福に暮らしたが、オデュッセウスはすぐに島の生活に飽き、強い望郷の念に囚われた。それでもカリュプソーは長年にわたってオデュッセウスを島に引き留め続けた[20]。オデュッセウスがカリュプソーの元で暮らした年月は5年とも[2]、7年とも伝えられているが[21]、そのあいだオデュッセウスが涙を流さない日はなかったとホメーロスは語っている[22]。
最終的にカリュプソーはオデュッセウスを帰国させよというゼウスの命令を受けて、オデュッセウスと別れることになった。それは﹃オデュッセイアー﹄によると英雄がオーギュギアー島に漂着してから8年目のことであった。カリュプソーはゼウスの意志を伝えたヘルメース神に対し、神々の嫉妬深さから、女神が人間の男に抱かれることも、夫とすることも許そうとしないとなじった。そのとき、カリュプソーは神々が女神と人間の恋を許さなかった事例として、エーオースとオーリーオーンの恋と、デーメーテールとイーアシオーンの恋を挙げている[23]。しかし結局はゼウスの意志を避けることは誰にもできないとして命令に従った。カリュプソーは海岸で悲しみに暮れるオデュッセウスを発見すると、筏を作って帰国することを勧めた。この突然の申し出にオデュッセウスは驚いて、カリュプソーが自分に危害を加えるつもりなのではないかと恐れたが、カリュプソーは害意がないことを冥府の川ステュクスに誓った[24]。そして筏作りに適した巨木が生い茂る場所を教え、オデュッセウスが木材を切り出して筏を組み上げる間に、帆に用いる布を作った。出航の際には立派な衣服を着せてやり、十分な食料と水、ワインを与え、穏やかな順風を送ってオデュッセウスを見送った。また航海に際しては北天の大熊座が常に左手に見えるように航海することを教えた[25]。
オデュッセウスは海に出てから18日目に、パイアーケス人の土地を発見したが、ポセイドーンは強風を送って大波を起こし、オデュッセウスは海に投げ出された。このときオデュッセウスはカリュプソーが着せてくれた衣類の重みのために海面に浮かび上がることができなかったが、海の女神レウコテアー︵イーノー︶の助言に従って、カリュプソーの衣服を脱ぎ捨て、レウコテアーのくれたヴェールを身体に巻いて海を泳ぎ、パイアーケス人の国にたどり着いた[26]。
一説によると、カリュプソーはオデュッセウスを愛するあまり自殺した[7]。
系譜[編集]
オーギュギアー島[編集]
カリュプソーはオーギュギアー島にある巨大な洞窟の中に居を構えていた。洞窟の周囲は青々と繁ったハンノキ、ポプラ、糸杉が立ち、洞窟の入り口には果実をたわわに実らせたブドウの蔓が繁茂していた。島には4つの泉があり、どの泉も異なる方向に流れ出ていた。さらに泉の周囲にはスミレとパセリが花を咲かせる草原が広がっており、その眺めは神々も楽しませることができた。またカリュプソーは洞窟の家の炉で杉と香木を焚いていたので、島全体に芳しい香りが漂っていた。島は外界から孤立しており、人々の中にも神々の中にも、島を行き来する者はいなかった。 オーギュギアー島は現在のマルタ、ゴゾ島とされ、シャーラにはカリュプソーが住んだと言われる洞窟がある。神話[編集]
影響[編集]
土星の第14衛星カリプソはカリュプソーにちなんで名付けられた。系図[編集]
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| アンドロメダ |
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| アルケイシオス |
| アウトリュコス |
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| オイバロス |
| ゴルゴポネー |
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| ラーエルテース |
| アンティクレイア |
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| テュンダレオース |
| イーカリオス |
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| クティメネー |
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| カリディケー |
| オデュッセウス |
| ペーネロペー |
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| イプティーメー |
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| ナウシトオス |
| ナウシノオス |
| ポリュポイテース |
| テーレマコス |
| ラティーノス |
| テーレゴノス |
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ギャラリー[編集]
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ヘンドリック・ファン・バーレン『ニンフのカリュプソの客としてのオデュッセウス』1616年頃 ウィーン美術アカデミー所蔵
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アルノルト・ベックリン『オデュッセウスとカリュプソ』1882年 バーゼル市立美術館所蔵
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ハーバート・ジェームズ・ドレイパー『カリュプソの島』1897年 マンチェスター市立美術館所蔵
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コルネリス・ファン・プーレンブルフ『オデュッセウスを救出するカリュプソ』1630年頃 ハッリウィル博物館所蔵
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ヘラルト・デ・ライレッセ『カリュプソにオデュッセウスの解放を命じるマーキュリー』1676年から1682年の間 アムステルダム国立美術館所蔵
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ウィリアム・ハミルトン『洞窟でテレマコスとメントールを受け入れるカリュプソ』18世紀
-
ジョージ・ヒッチコック『カリュプソ』1906年 インディアナポリス美術館所蔵
脚注[編集]
注釈[編集]
脚注[編集]
(一)^ ﹃オデュッセイアー﹄5巻、7巻。
(二)^ abcdアポロドーロス、摘要︵E︶7・24。
(三)^ ﹃オデュッセイアー﹄1巻52行。
(四)^ ﹃オデュッセイアー﹄1巻54行。
(五)^ ﹃オデュッセイアー﹄7巻245行。
(六)^ ヒュギーヌス、125話。
(七)^ abヒュギーヌス、243話。
(八)^ ヒュギーヌス、序文。
(九)^ ヘーシオドス、359行。
(十)^ ヘーシオドス、1017行。
(11)^ アポロドーロス、1巻2・7。
(12)^ abヒュギーヌス、192話。
(13)^ シケリアのディオドロス、4巻27・2。
(14)^ シケリアのディオドロス、3巻60・2。
(15)^ ヘーシオドス﹃神統記﹄1017行-1018行。
(16)^ 高津春繁﹃ギリシア・ローマ神話辞典﹄p.179a。
(17)^ ﹃オデュッセイアー﹄12巻403行以下。
(18)^ ﹃オデュッセイアー﹄5巻136行。
(19)^ ﹃オデュッセイアー﹄7巻256行。
(20)^ ﹃オデュッセイアー﹄5巻13行-14行。
(21)^ ﹃オデュッセイアー﹄7巻259行。
(22)^ ﹃オデュッセイアー﹄7巻244行-260行。
(23)^ ﹃オデュッセイアー﹄5巻118行-138行。
(24)^ ﹃オデュッセイアー﹄5巻149行-190行。
(25)^ ﹃オデュッセイアー﹄5巻228行-277行。
(26)^ ﹃オデュッセイアー﹄5巻279行以下。
参考文献[編集]
- アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
- 『オデュッセイア/アルゴナウティカ』松平千秋・岡道男訳、講談社(1982年)
- ディオドロス『神代地誌』飯尾都人訳、龍溪書舎(1999年)
- ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照男訳、講談社学術文庫(2005年)
- ヘシオドス『神統記』廣川洋一訳、岩波文庫(1984年)
- ホメロス『オデュッセイア(上)』松平千秋訳、岩波文庫(1994年)
- 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店(1960年)
- ジョルジュ・ドゥヴルー『女性と神話 ギリシア神話にみる両性具有』加藤康子訳、新評論(1994年)
関連項目[編集]
- カリプソ(曖昧さ回避)