培養肉
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培養肉︵ばいようにく︶は、動物の可食部の細胞を組織培養することによって得られた食用の肉。動物の個体を屠殺する必要がないので動物の犠牲を減らせること、牛一頭を約2年かけて育てるところを培養肉であれば2か月でできて生産効率が良いこと、厳密な衛生管理が可能であること、食用動物を肥育するのと比べて省スペース省資源で作ることができて地球環境への負荷が低いこと、抗生物質耐性菌リスクを低減できること[1][2][3][4]などの利点がある。
各国がバイオテクノロジーに戦略的に取り組んでおり[5][6]、培養肉はその分野の一つとして従来の食肉に替わるもの︵代替肉︶として注目されている。
人工的に牛肉や豚肉、魚肉などを生産する技術を﹁細胞農業﹂と呼ぶ[7]。培養肉の安全性は、2023年時点で国際連合食糧農業機関と世界保健機関によって認められている[8]。現在では70社以上のスタートアップが培養肉や細胞農業に参入しており[9][10]、牛・豚[11]・鶏・子羊[12]・鴨[13]・うずら[14]・魚[15][16]・甲殻類・うなぎ[17]・フォアグラ・ホタテ[18]などの培養肉の研究開発が進行中である。2040 年までには肉の 60% が培養された細胞から作られ、世界中の食料品店やレストランで販売されると予測されている[19]。
培養肉生産の簡略図
培養﹁肉﹂の範囲は、牛肉だけではなく、フィンレス・フーズなどが開発する培養魚肉[48][49]、メンフィス・ミーツの家禽︵鶏肉と鴨肉︶培養肉、UmamiMeatsのニホンウナギの細胞培養[50]、シオック・ミーツの甲殻類の培養肉[51]など、幅広い。
人間の消費用としての培養肉研究への初めての取り組みはオランダ人研究者のファン・エーレンによるものだ。かれは自身が戦争捕虜になった際に看守による動物虐待を見たことがきっかけで、動物の苦しみを減らすという関心が芽生えたという。そして培養肉の開発の構想を練り、1990年代後半に特許を取得した[52]。
その後1998年にNASAの投資を受けたアメリカの技術チームが、宇宙飛行士のための食料として培養肉の研究を行っている。しかしこの時点で培養細胞は高くついたため研究は打ち切られた[52]。
そして2004年、ファン・ヘーレンがオランダのユトレヒト大学及びアイントホーフェン工科大学の科学者らに接触し、オランダ政府に研究助成を申請するよう掛け合ったことから、科学者のマーク・ポストと食品技術者のPeter Verstrateらが中心となり、再び培養肉の研究が始まった[52]。そして2013年、彼らは、ロンドンで開催された満員の記者会見で、世界初の培養ビーフバーガーを発表した[53][54]︵この後2016年に、ポストとVerstrateは培養肉の﹁Mosa Meat﹂を法人化する︶。この培養ハンバーガーがデビューした2013年以降、今日までに培養肉の分野は着実に成長している。2020年、投資機関らは、細胞培養肉に取り組む世界中の新興企業に12億ドル以上を投資している[55]。2020年時点で、細胞培養食品の商業開発に取り組む企業の数は全世界で70社以上に上る。また、40社以上のライフサイエンス関連企業が細胞培養食品開発を行う企業に技術支援などで関わっている[56]。
2020年12月1日、シンガポール食品庁は、Eat Justに対して、実験室で培養した鶏肉の販売を承認した。製品は人工培養した鶏の細胞から作られたもので[57]シンガポールのレストランでチキンナゲットとして2021年に提供された[58]。2024年には小売店での販売が始まった[59]。シンガポールでは培養鶏肉をさらに大量生産できる施設建設がはじまっており、2023年以降は、毎年数万kgの培養鶏肉が生産される予定となっている[60]。
Eat Justに続き2022年、オーストラリアのVow社も培養肉をシンガポールで提供開始すると発表した[61]。2024年3月、Vow社は培養ニホンウズラの食品の販売についてシンガポール食品庁から承認を得た[62]。オーストラリアとニュージーランドは、Vow社が開発した養殖ウズラを審査、同年中に販売承認される予定となっている[46]。
2022年11月には、米食品医薬品局︵FDA︶が、培養鶏肉の販売を初めて承認[63][64]、翌年3月にFDAは二社目の培養鶏肉を認可した[65][66]。
2024年1月、イスラエルが、培養牛肉の販売を承認。培養牛肉の承認は世界で初となる[67]。
国際的な動き[編集]
政府が魚介培養肉のスタートアップと提携する[20]など、培養肉の開発は国家レベルでの関心事になっている[21]。 2005年から培養肉研究の支援をはじめたオランダ政府は培養肉の研究に4億ドルの資金を提供[22]、その後2022年には6000万ユーロ︵約83億円︶の資金提供を決定した[23]。2019年、インドの中央政府は細胞分子生物学センター︵CCMB︶と国立研究センターに対し、クリーンミート研究のための資金を提供することを発表した[24]。2019年、オランダの培養肉の開発をするMeatable︵豚肉の培養に力を入れている会社[25]︶は、10億円の資金調達に成功したと発表したが、この調達先の一つには欧州委員会も含まれる︵助成金300万ドル︶。 2020年9月、アメリカ国立科学財団も培養肉への助成枠を決定[26][27]。2021年1月、スペイン政府はBioTech Foodsの主導する培養肉プロジェクトに約6億5000万円を出資した[28]。2021年10月13日には、米国農務省が、培養肉研究所のために1000万ドルを投資することを発表[29]。2022年には、バイデン政権が培養肉を含む食品テクノロジーを優先事項とする大統領令に署名した[30][31]。 2020年、EUは、代替研究開発のための3200万ユーロの新規資金提供を発表[32]。英国の政府外公共機関である英国研究技術革新機構︵UKRI︶もまた培養肉開発会社のRoslin Technologiesに公的資金を提供している[33]。 2021年12月に中華人民共和国農業農村部が発表した5カ年農業計画では、初めて培養肉について具体的に言及された[34]。2022年に入ると習近平総書記が、﹁食品の効果的な供給を保証する必要がある﹂と指摘し、﹁従来の作物や家畜や家禽とは別に、生物科学技術を発展させることで、作物、動物、微生物からカロリーとタンパク質を得ることができる﹂と述べている[35]。続く5月には、中国が発表した初のバイオ経済発展計画において、﹁従来の畜産業がもたらす環境資源への負荷を軽減する﹂方法として﹁合成タンパク質﹂︵オルトプロテイン︶の開発を呼びかけた[36]。以降、中国政府は業界関係者に手厚い奨励金を提供している[37]。 2022年、オーストラリアの政府機関であるオーストラリア連邦科学産業研究機構は今後のタンパク質製品供給について、培養肉も含めたロードマップを発表した[38]。韓国政府もまた培養肉のスタートアップに資金援助している[39]。同年、ノルウェーの研究評議会も持続可能な肉、卵、乳製品を市場に出すために、細胞農業と精密発酵の開発に資金を提供することを決定した[40]。 2022年、アメリカ カリフォルニア州は、培養肉研究への初の州投資を承認した[41]。 2022年、FAO︵国連食糧農業機関︶は、培養肉の円卓会議の専門家の募集を開始した[42][43]。同年7月、欧州議会は、初の培養肉討論会を開催した[44]。 2023年には、イギリス政府が培養肉を含む細胞農業に1200万ポンド︵約20億円︶を投資[45]。 2024年2月、韓国は培養肉に関する最新の規制枠組みを発表、企業が販売承認を申請する道を開き[46]、慶尚北道東部をこの分野の企業向けの規制免除地域に指定した[47]。開発状況・実用化[編集]
アニマルフリー[編集]
培養肉開発においてはアニマルフリー︵動物由来の素材を使わないこと︶でやっていこうという世界的な流れがあり[68]、研究当初は、培養肉の元となる初めの動物だけは殺されるため、動物倫理面から問題視されていた。現在は、元となる衛生細胞は動物の筋肉から採取されるため、動物の犠牲が必要ないものとなっている。 また、細胞培養の培地にウシ胎児血清︵FBS︶が用いられることが一般的であったが、大量入手が困難であることやコスト面や動物倫理の問題などの理由から、非動物性成分の成長因子の開発が進められている[69][70][71][72]。Mosa Meatはアニマルウェルフェア基準に適さないウシ胎児血清︵FBS︶を利用しない方針を示している。Eat Justも初期にはウシ胎児血清︵FBS︶が使用されていたが、2023年1月にFBS不使用の製造方法がシンガポール食品庁から世界で初めて承認を得た[73][74]。また、メンフィス・ミーツ社も非動物性成分を独自開発した旨を公表している[75]。日本の状況[編集]
日本国内でも2016年日本の有志団体によるDIYバイオによる製造実証[76][77]が行われ、のちにこの団体からのスピンオフで2015年にインテグリカルチャ―株式会社が法人化された。同社は培養フォアグラの製造に成功[78]している。さらに2023年12月、インテグリカルチャーは同社の細胞培養技術開発に対して、後述するように農林水産省から18億7,000万円の助成を得た[79]。日本の水産企業が培養魚介類のスタートアップに投資するなどの動きもある[80]。 2020年4月には、JAXAなどが、宇宙での食料生産を目指す計画﹁スペースフードスフィア﹂をスタートさせ、2030年代後半に月面での培養肉の生産を目指している[81]。2022年3月31日には、日清食品ホールディングスと東京大学が日本で初めて﹁食べられる培養肉﹂の作製に成功した。この研究は国立研究開発法人科学技術振興機構︵JST︶の支援を受けて行われていたものである[82]。 2022年6月、厚生労働省は培養肉の産業化向けて、規制の是非を検討する研究チームを年度内に設置する方針を固めた[83]。同年同月、自民党は﹁細胞農業によるサステナブル社会推進議員連盟﹂を設立、甘利明氏らが共同代表に就任した[7]。 2022年10月4日、日本ハムが培養肉を作るために必要な培養液の主成分を、動物の血清から食品成分に置き換えることに成功したと発表した[84]。従来の培養液よりも原料を安定的に調達できる上、製造コストを大幅に抑えられ、商用化に向けて前進したという。 2022年11月、日本細胞農業協会︵JACA︶が、製品の定義、食品表示、食品安全手順といった栽培食品規制に関する提言を提出した。JACAは同時期に法人を設立し、日本における細胞農業の合意形成に向けた活動を加速させている。JACAはまた、農林水産省が主催するフードテックに関する官民連携のもと、細胞農業ワーキングチームを主導している。2023年、JACAとアジア太平洋細胞農業学会︵APAC-SCA︶は、日本およびアジア太平洋地域全体で細胞農業の分野を推進するための覚書で協力した。この協定により、JACAは世界の細胞農業ネットワークにアクセスできるようになり、APAC-SCAは日本における規制プロセスを指導する役割を高めることになる。 2023年2月、農林水産省は﹁フードテック推進ビジョン﹂を発表し、培養食品を含むフードテックロードマップを発表[85]、日本細胞農業協会︵JACA︶の主導で、細胞農業ワーキングチームでの議論が行われている[86]。同年同月、岸田文雄首相は培養肉が持続可能な食料システム実現のために重要だとし、培養肉の産業育成に乗り出す考えを示した[87]。しかしながら日本における培養肉への予算は少ない。アメリカ農務省で十三億、オランダでは八十七億の予算が当てられているが、日本国内ではフードテック予算が二億七千万、そのうち培養肉に充てられる予算はさらに少ないものとなっていた[88]。しかしその後2023年末に、政府は日本の培養肉企業に18億 7000 万円 (1,310 万ドル)を助成した[89]。2023年、JACAとアジア太平洋細胞農業学会︵APAC-SCA︶が、日本およびアジア太平洋地域全体で細胞農業の分野を推進するための覚書で協力[86]。拡大の要因[編集]
環境負荷[編集]
2024年、アイルランド首相が﹁培養肉は気候変動問題に対する解決策の1つ﹂と述べる[90]など、培養肉は環境負荷の対応として注目されている。 気候変動に関する政府間パネル︵IPCC︶が発表した2022年度第6次評価報告書の報告書最終案には﹁培養肉は、将来のタンパク質に対する人間の需要を満たせる可能性の1つであり、動物飼料の土地利用を大幅に削減することが可能である﹂と記載された[91]。培養肉などの食品テクノロジーは、農地の 80% を再野生化、炭素貯蔵のために解放できる可能性がある[92]。 培養鶏肉を使用した場合、従来の動物飼育由来の肉に比べて35 - 67 %土地の使用が減り、水質汚染を70%削減する。 培養牛肉を使用した場合、従来の動物飼育由来の肉に比べて95%土地の使用が減り、温室効果ガスを74 - 87 %削減し、水質汚染を94%削減する[93]。水資源使用も従来の動物飼育由来の肉に比べて少なく、動物飼育由来の牛肉に比べて培養肉は水資源を最大78%の削減できると推定されている[94]。 培養シーフードの研究も進んでいるが、国連によると世界の海洋生物の90%が乱獲、枯渇状況にある[95]。甲殻類では、漁獲量1キロ当たり187.9キロの二酸化炭素を排出。また、甲殻類の養殖は養豚や養鶏以上に二酸化炭素排出量が多い[96]。動物倫理[編集]
動物倫理は培養肉拡大のトリガーの一つとなっている。 世界ではじめて培養肉に資金提供したGoogleの共同創業者であるセルゲイ・ブリンは、培養肉に投資した理由を﹁動物福祉のためだ﹂、﹁人々は近代の食肉生産に間違ったイメージを持っている。人々はごく一部の動物を見て自然な農場を想像する。しかしもし牛がどんなふうに扱われているかを知ったら、これは良くないと分かるだろう[97]。﹂と述べている。 2015年に設立され、現在では代替肉や培養肉をプロモートする世界的イニシアチブであるThe Good Food Institute[98]の目的は動物の犠牲を減らすことにある。同団体の創設者であるBruce Friedrichはもともと毛皮へ抗議するなど動物の権利活動家であったが、より効果的に動物の犠牲を減らすために同団体を設立したという[99]。 畜産を伴わない代替たんぱく質移行へのもう一つのイニシアチブと言えばFAIRR︵Farm Animal Investment Risk & Return︶だ。FAIRRは、投資機関に畜産のリスクを啓発することを目的とした投資機関ネットワークで、FAIRRをサポートする投資機関は2019年12月で199名、その運用資産は2197兆円︵20.1兆ドル︶にものぼる。FAIRRは代替たんぱくへの移行を企業に促すプロジェクトを進めている。FAIRRの創業者で最高経営責任者︵CEO︶であるジェレミー・コラーは、動物の権利や、工場畜産の恐怖について、問題視している人物だ。ただ彼はそれらの解決方法として﹁動物がかわいそう﹂というメッセージではなく、人々に工場畜産を﹁人間の世界的な持続可能性の問題﹂として提起している。 Perfect Day、モサ・ミート、アップサイド・フーズ︵旧 メンフィス・ミーツ)、ニュー・ハーベストなどの主要な培養肉スタートアップのCEOや中心人物も、この研究に参入したきっかけは、動物倫理問題だったと述べる[100]。アップサイド・フーズ社のウマ・ヴァレティ博士は、子供のときに屠殺現場に遭遇して﹁何とかできないか﹂という想いを長年抱きながら外科の研究時に人工の心筋細胞が動くのを観て﹁動物を殺さずに食肉を作る﹂ことを考えて医者をやめて培養肉の会社︵旧‥メンフィス・ミーツ︶を立ち上げた[101]。 また、2020年12月に動物飼育を伴わない﹁培養鶏肉﹂を世界で初めて販売開始したEat Justだが、同社の設立者の一人であるJosh Balkは、食肉処理場や工場畜産の覆面調査員として働き、工場畜産反対キャンペーンを展開したあと、Humane Society of the United States︵アメリカの動物保護団体︶の副社長で畜産動物保護を担当している人物でもある。 消費者の意識としては、2019年のベルギーの調査では、培養肉の魅力として一番大きいのが﹁動物の苦しみ無く肉を食べることができること﹂だという結果であった[102]。また、日本国内で2020年に行われた調査によると、培養肉のイメージを問う質問では、﹁知らないのでわからない﹂という回答が5割、﹁未知のものに対する不安がある﹂といった回答が3割、﹁環境や動物にやさしくて良さそう﹂といった好意的な回答が2割という結果であった[103]。英国食品基準庁︵FSA︶が2022年1月に発表した調査報告によると、培養肉を試してみたい理由について、﹁環境と持続可能性のため﹂︵40%︶が最大理由だが、﹁動物福祉のため﹂︵38%︶も接近した[104]。 培養肉を作る細胞培養の過程で、培地としてウシ胎児血清︵FBS︶が使用されることがあるが、動物倫理や持続可能性の観点からはFBSを使用しない技術の研究が進んでいる[105][106]。2022年1月には、オランダの培養肉メーカーであるモサミートが細胞の培養時にFBSを使用しない技術に関する査読論文を発表した[107]。2022年7月には、大手培養肉会社Meatableが、FBSなしで生産された培養ポークソーセージを発表した[108]。消費者の意識[編集]
培養肉が開発され始めた初期は、人工的に生産された肉を食することに否定的な意見もあったが[109]、近年の意識調査によると培養肉への忌避感は薄れてきている。 ●2018年の調査︵中国︶では、将来の話としてどの肉を好むかという質問に対して、従来の動物飼育を伴う肉を選択した人が29.8 %だったのに対して、培養肉が38.6 %︵代替肉は30.7 %︶という結果であった[110]。 ●2019年の調査︵ベルギー︶では、消費者のほとんどが培養肉について肯定的または中立的な意識を持つことがわかった[102]。 ●2018年の調査︵インド︶では、将来の話としてどの肉を好むかという質問に対して、従来の動物飼育を伴う肉を選択した人が16.1 %だったのに対して、培養肉が36.5%︵代替肉は43.1%︶という結果であった[110]。 ●2020年の調査︵日本︶では、回答者の約3割が、ふつうの肉より高い金額を出してでも培養肉を試してみたいと考えていることがわかった[103]。 ●2021年の調査︵アメリカ︶では、消費者の3人に1人以上が、培養肉の発売時には食事に採用する計画を立てていることが分かった[111]。また、同年の別の研究では、アメリカとイギリスの消費者の約80%が培養肉を試す可能性が高いという結果であった[112]。2024年の調査では、アメリカ人の2/3が培養肉を試してみたいと回答している[113]。 ●2021の調査︵イギリス︶では、34%が﹁培養肉を試してみたい﹂と回答[104]。 ●2023年の調査︵日本︶では、約4割強の回答者が、培養ハンバーガーへの試食意識を持っていることが分かった[114]。食品・畜肉企業の参入[編集]
The Good Food Instituteの2020年細胞培養食品業界の動向レポート[115]によると、2020年現在、細胞培養食品の商業開発に取り組む企業の数は全世界で70社以上。また、40社以上のライフサイエンス関連企業が細胞培養食品開発を行う企業に技術支援などで関わっているという。さらに、2020年に実施された当該分野への投資額は3億5000万ドル︵約371億円︶以上で、これは2020年以前の累積投資額の約2倍の規模となっている。 近年、大手食肉企業の培養肉市場への参入が続く。世界最大の食肉会社JBSは、ブラジルに培養肉センターの建設を開始した[116]。多国籍食品企業のADMや、イスラエルの大手食品メーカーツヌバ、ブラジル食品メーカー第2位のBRF、ヨーロッパ最大の家禽生産者のPHWグループなどは培養肉開発会社と提携し[117][118][119][120]、食肉加工大手のタイソンフーズや、世界最大の農業企業の1つであるカーギルなどは培養肉開発会社に投資し、ネスレは培養肉市場に参入する計画を発表している[121][122][123][124][21]。食肉世界最大手のJBSは、培養肉製造拠点を建設[125]、2021年にはスペインの培養肉会社を1億ドルで買収することに合意している[126]。 日本企業の動きには以下のようなものがある。 ●2021年4月、マグロ加工の世界大手タイユニオンが、培養シーフード開発会社であるBlueNaluと日本最大の貿易会社 三菱商事との協議書に署名、アジアでの培養シーフードの市場開発戦略の提携を発表した[127]。 ●2022年1月、培養シーフード開発会社であるBlueNaluは、APAC地域全体に1000を超えるレストランを運営する大手多国籍寿司ブランドのFood&Life Companies︵日本国内ではスシロー︶との提携を発表[128]。 ●2022年3月、培養シーフードのスタートアップFinless Foodsは、総額3,400万ドルの資金調達を完了したが、調達先には日本の水産養殖企業であるダイニチも含まれている[129]。 ●2022年3月、味の素が、培養鶏肉の開発や製造を手がけるイスラエルのスタートアップ、スーパーミートに出資し、両社の戦略的パートナーシップを発表[130][131]。 ●2023年、日本最大の水産企業マルハニチロが、ニホンウナギなどの絶滅危惧種の魚種の細胞培養開発を行うUMAMI Bioworksと業務提携[132]。著名人の関わり[編集]
2021年には俳優であり環境活動家でもあるレオナルド・ディカプリオが培養肉のスタートアップであるモサミート︵同社には三菱商事も出資している[133]︶と、アレフ・ファームズに投資をしたことが話題となった。ディカプリオは両社の顧問も務めている[134]。さらに2022年、レオナルド・ディカプリオは培養シーフードのwildtypefoodsへの投資を行い、自身のツイッターで﹁野生の魚の個体数はかつてないほど脅威にさらされています。私は、培養シーフードのwildtypefoodsに投資することを嬉しく思います﹂とツイートしている[135]。 俳優のロバート・ダウニー・ジュニアは、肉を捨て、植物ベースのライフスタイルを採用したと宣言。彼は﹁鶏肉をやめて植物ベースを選んでいる﹂という。そして2019年、テクノロジーを使用して地球を守る環境保護団体﹁フットプリント連合﹂を立ち上げ、培養肉・培養牛乳・培養卵の開発をするNew Harvestに寄付をした[136]。価格[編集]
現在のところ、通常よりも高価であることが培養肉の課題の1つである[137][138]。動物倫理や地球温暖化などを理由にした畜産肉規制・忌避が行われ、金持ちは高価な人工肉が食べられるが、貧困層は安い加工食品を食べるしかなくなるという懸念もある[139]。しかしながら、培養肉の初めのプロトタイプが開発されて以降、研究がすすめられ[140]、コストは99%減少しており、コンサルティング会社のマッキンゼーは、培養肉は、2030年までに畜産由来の肉と同等のコストに達すると予測する[141]。それより早く同等のコストに達するとの意見もある[142]。 培養肉が初めてお披露目されたころから比較すると、ハンバーガー1個あたり33万ドルから、約9.8ドルまで下がっている。養殖鶏の生産コストは2013年以来99.9%低下し、1kgあたり28万400ドルから2022年には1kgあたり18ドルまで下がった[143]。価格低下の要因は、生産の大規模化と、原材料価格の低下だ[9]。そして技術の発展によって、さらに従来の食肉と同等程度までに低価格化することができると予測されている[144][145]。 培養肉のスタートアップFuture Meatは、1ポンドの鶏肉を2021年の18.00ドルから2022年には7.70ドルで製造できると報告しており、エビ・甲殻類培養のスタートアップShiok Meatsは、ラボで育てたエビを2019年の7,400ドルから2023年には37ドル/ kgで発売したいと述べている[146]。脚注[編集]
(一)^ ﹃ヴィ―ガン探訪﹄角川新書、20230110。
(二)^ “Cultivated meat as a tool for fighting antimicrobial resistance”. 20221026閲覧。
(三)^ “Cultivating a future where antibiotics still work”. 20230112閲覧。
(四)^ “培養肉・培養ステーキ肉の実現”. 20230123閲覧。
(五)^ “令和3年度商取引・サービス環境の適正化に係る事業 生物化学産業に係る国内外動向調査”. 20240308閲覧。
(六)^ “DOD Launches Distributed Bioindustrial Manufacturing Program to Bolster Domestic Supply Chains”. 20240308閲覧。
(七)^ ab“細胞農業議連が発足 自民・甘利氏らが共同代表就任”. 20220624閲覧。
(八)^ “Food safety aspects of cell-based food”. 20230422閲覧。
(九)^ ab“培養肉の現在、70社以上が参入し低価格化が進行”. 20220322閲覧。
(十)^ “Cultured Protein: A Guide To Every Cell-Based Meat Startup In The World Right Now”. 20220322閲覧。
(11)^ “Lab-grown meat could be served up for dinner soon. What does it taste like?”. 20220101閲覧。
(12)^ “Australian company reveals cultivated lamb, opens seed round”. 20220921閲覧。
(13)^ “Singapore’s Meatiply Debuts Asia’s First Cultivated Smoked Duck Breast”. 20221010閲覧。
(14)^ “Australians could be eating lab-grown quail in 2024”. 20230305閲覧。
(15)^ “How to grow fish from stem cells”. 20230326閲覧。
(16)^ “Fish Out of Water How to make lab-grown seafood delicious”. 20230430閲覧。
(17)^ “Forsea Foods develops cultivated alt-eel”. 20220911閲覧。
(18)^ “Mermade: Cultivated Scallops Made Using Low-Cost Aquaponics Technology”. 20220617閲覧。
(19)^ “The Global Market for Cultured Meat – Market Size, Trends, Competitors, and Forecasts (2022)”. 20221129閲覧。
(20)^ “‘Immense Potential’: Indian Government Body to Develop Cultivated Fish in Partnership with Neat Meatt”. 20240207閲覧。
(21)^ ab“Maastricht-based Mosa Meat raises €40 million to help bring cultivated beef to consumers”. 20240419閲覧。
(22)^ ﹃Macintyre, Ben. “Test-tube meat science’s next leap”﹄The Australian、2007年1月20日。
(23)^ “Dutch Government Awards €60 Million To Domestic Cellular Agriculture Ecosystem”. 20220422閲覧。
(24)^ “Clean meat programme gets Central govt funding”. Devdiscourse. 20211016閲覧。
(25)^ “Dutch startup Meatable is developing lab-grown pork and has $10 million in new financing to do it”. 20211016閲覧。
(26)^ “[https://www.nsf.gov/awardsearch/showAward?AWD_ID=2021132&HistoricalAwards=false Award Abstract # 2021132
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(27)^ “Tender Food and Tufts University to Explore Hybrid Meat Products Made with Cultivated Cells and Plant-Based Meat”. 20240106閲覧。
(28)^ “スペイン政府がBioTech Foodsの主導する培養肉プロジェクトに約6億5千万円を出資”. 20211017閲覧。
(29)^ “USDA Awards $10 Million to Tufts University to Establish a Cultivated Protein Center of Excellence”. THE SPOON. 20211016閲覧。
(30)^ “How Biden’s biotech executive order helps the food industry”. 20220916閲覧。
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