犬上郡
犬上郡︵いぬかみぐん︶は、滋賀県︵近江国︶の郡。
人口19,998人、面積157.2km²、人口密度127人/km²。︵2024年5月1日、推計人口︶
以下の3町を含む。
●豊郷町︵とよさとちょう︶
●甲良町︵こうらちょう︶
●多賀町︵たがちょう︶
﹃木曽海道六拾九次之内 高宮﹄
天保6 - 8年︵1835年-1837年︶頃、歌川広重[4]
江戸時代には中山道が郡の中央を南北に走り、犬上郡内の宿場としては高宮宿︵64番目、現・彦根市高宮町︶が設けられていた。また、旧・坂田郡の鳥居本宿︵63番目、現・彦根市鳥居本町︶を北の起点として始まる朝鮮人街道も郡内を通っていた。ただしこれらの全ては現在、近代になって犬上郡から分かれた彦根市の市域となっている。
郡域[編集]
1879年︵明治12年︶に行政区画として発足した当時の郡域は、下記の区域にあたる。 ●甲良町・多賀町の全域 ●彦根市の大部分︵松原町、古沢町、里根町、原町、野田山町より南西かつ三津屋町、日夏町、清崎町、賀田山町、太堂町、安食中町より北東[1]︶ ●豊郷町の北東部︵安食西・安食南・三ツ池・四十九院・石畑・八目・雨降野・八町︶地理[編集]
東部地域は南北に走る鈴鹿山脈の西麓にあたり、東麓側にある三重県いなべ市︵旧・員弁郡︶および岐阜県大垣市上石津地域自治区︵旧・養老郡︶と県境を接する。主な山として霊仙山と三国岳がある。多賀町域の山間部は石灰岩帯であり、総延長距離全国第4位の大洞窟として知られる鍾乳洞の河内風穴を擁している。 地域は扇状地であり、標高は東に高く、西に低い。最も面積の大きい多賀町は町域の大半が山地であり、平地が少ないのに対して、甲良町と豊郷町は全域が平地である。そして、これらの平地は湖東平野の一部をなしている。 地域の北部を流れる芹川は、霊仙山に発して西進し、彦根市域に入ったのち、琵琶湖に流入する。南部を流れる犬上川は、東方の鈴鹿山脈に発した北谷川と南谷川が多賀町川相︵かわない︶で合流し、犬上川となって西進。多賀町域から甲良町域・彦根市域を経て琵琶湖に達している。また、最も南部を流れる宇曽川は、鈴鹿山麓の東近江市北東部の永源寺地区の北東に発して西進し、愛知郡愛荘町域・豊郷町域・彦根市域を経て琵琶湖に注ぐ。中世以前[編集]
近世以前は、いぬがみのこおり、いぬがみこおり、いぬがみごおり、いぬかみごおり、とも呼ばれた。日本武尊︵やまとたけるのみこと︶の子・稲依別王の後裔と﹃記紀﹄に記載される地方豪族・犬上君︵いぬがみのきみ、犬上氏︶や、天津彦根命の後裔で三上氏の同族である犬上県主︵いぬがみのあがたぬし︶らが勢力的地盤としていた地域であり、郡名もそれら氏族の名に由来している。古代[編集]
下記の郷が置かれた。 ●多賀郷︵たがのごう︶ / 多可郷︵たかのごう︶ ●水沼村︵みぬまむら︶ - 現在の多賀町敏満寺字尼子の南部一帯にあった。現存する日本最古の地図の一つであり、現存する世界最古の地籍図の一つとも考えられる﹁東大寺領近江国水沼村墾田図﹂︵天平勝宝3年︿751年﹀に作成された絵地図。正倉院所蔵︶で有名[2]。後世、東大寺の荘園となる[3]。 ●甲良郷︵かわらのごう︶ ●安食郷︵あじきのごう、あんじきのごう︶ - 現・豊郷町域の半分。阿直岐氏の居住地とされる。 ●覇流村︵へるむら︶ - 犬上郡と愛智郡の郡境で琵琶湖と荒神山に挟まれた曽根沼︵現在は彦根市に所在︶一帯。﹁東大寺領近江国水沼村墾田図﹂に記された水沼村と同様、﹁東大寺近江国開田図﹂に記述がある。後世、東大寺の荘園となる[3]。中世[編集]
下記の荘が置かれた。 ●犬上荘︵いぬかみのしょう︶ - 領家は、広隆寺領、興福寺領、山門家領、ほか。 ●多賀荘 - 領家は多賀神社︵現・多賀大社︶。 ●水沼荘︵みぬまのしょう︶ - 水沼村を前身とする荘園。領家は東大寺[3]。 ●高宮庄 - 領家は山門領。 ●甲良荘︵かわらのしょう︶ - 尼子郷︵尼子氏発祥地︶、下之郷︵多賀氏の本拠地︶、藤堂村︵藤堂氏発祥地︶、法養寺村︵甲良氏発祥地︶、ほか。 ●安食荘︵あじきのしょう、あんじきのしょう︶ ●安養寺荘 ●覇流荘︵へるのしょう︶ - 覇流村を前身とする荘園。領家は東大寺[3]。近世以降[編集]
近代以降の沿革[編集]
●明治初年時点で、全域が彦根藩領であった。﹁旧高旧領取調帳﹂に記載されている村は以下の通り。●は村内に寺社領が存在。︵1町124村︶ 彦根町[5]、後三条村、松原村、中藪村、長曽根村[6]、里根村、大藪村、開出今村、野瀬村、宇尾村、八坂村、甘呂村、西今村、竹ヶ鼻村、平田村、小泉村、岡村、東沼波村、正法寺村、戸賀村、山之脇村、西沼波村、地蔵村、高宮村、野田山村、土田村、月ノ木村、小林村、曽我村、久徳村、大堀村、中川原村、一円村、栗栖村、八重練村、●多賀村、敏満寺村、四手村、大岡村、猿木村、大尼子村、今畑村、落合村、入谷村、桃原村、杉村、甲頭倉村、屏風村、後谷村[7]、水谷村、保月村、河内村、五僧村、向ノ倉村、富之尾村、藤瀬村、川相村、霜ヶ原村、霜ヶ原村出屋敷、佐目村、南後谷村[8]、大君ヶ畑村、萱原村、一ノ瀬村、大杉村、小原村、仏ヶ後村、樋田村、長寺村、金屋村、●池寺村、北落村、小川原村、楢崎村、横関村、正楽寺村、法養寺村、在士村、下之郷村、八目村、雨降野村、尼子村、八町村、石畑村、四十九院村、南川瀬村、川瀬馬場村、野口村、極楽寺村、葛籠町村、西葛籠町村、森堂村、法士村、普賢寺村、蓮台寺村、堀村、金剛寺村、辻堂村、太堂村、明福寺村、楡村、安食中村、安食西村、安食南村、北山崎村、大山崎村、小山崎村、小田部村、茂賀村、●清水村、島村、中沢村、泉村、妙楽寺村、安田村、筒井村、五僧田村、寺村、須越村、三津屋村、大橋村、大橋中村[9]、外町村[9]、安清村、出町村[10] ●明治4年 ●7月14日︵1871年8月29日︶ - 廃藩置県により彦根県の管轄となる。 ●11月22日︵1872年1月2日︶ - 第1次府県統合により長浜県の管轄となる。 ●明治5年 ●2月27日︵1872年4月4日︶ - 長浜県が改称して犬上県となる。 ●9月28日︵1872年10月30日︶ - 滋賀県の管轄となる。 ●明治7年︵1874年︶︵1町110村︶ ●5月 ●彦根町の一部︵佐和町および北新町の一部︶が分立して古沢村となる。 ●明福寺村・楡村・安食中村が合併して千尋村となる。 ●大山崎村・小山崎村・小田部村・茂賀村が合併して賀田山村となる。 ●大橋村・大橋中村・外町村が合併して芹川村となる。 ●10月 ●普賢寺村の一部︵枝郷大野︶が分立して広野村となる。 ●中藪村・長曽根村が合併して中根村となる。 ●霜ヶ原村出屋敷が霜ヶ原村から正式に独立して壺村となる。 ●安食南村の一部が分立して三ツ池村となる。 ●高宮村の一部が分立して呉竹村となる。 ●小林村・曽我村が合併して木曽村となる。 ●今畑村・落合村・入谷村が合併して霊仙村となる。 ●島村・中沢村・泉村・妙楽寺村・安田村・筒井村・五僧田村・寺村が合併して日夏村となる。 ●明治12年︵1879年︶︵1町107村︶ ●3月 ●法士村・普賢寺村が合併して犬方村となる。 ●北山崎村・清水村が合併して清崎村となる。 ●5月16日 - 郡区町村編制法の滋賀県での施行により、行政区画としての犬上郡が発足。郡役所が彦根町に設置。 ●11月 - 芹川村の一部が彦根町に編入[11]。 ●大尼子村が多賀村に合併。 ●明治14年︵1881年︶2月 - 中根村が分割されて中藪村・長曽根村となる。︵1町108村︶ ●明治19年︵1886年︶9月 - 千尋村の一部が分立して楡村・安食中村となる。︵1町110村︶町村制以降の沿革[編集]
変遷表[編集]
自治体の変遷
明治22年4月1日 | 明治22年 - 大正15年 | 昭和1年 - 昭和19年 | 昭和20年 - 昭和29年 | 昭和30年 - 昭和64年 | 平成元年 - 現在 | 令和元年 - 現在 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
彦根町 | 彦根町 | 昭和12年2月11日 彦根市 |
彦根市 | 彦根市 | 彦根市 | 彦根市 | |
北青柳村 | 北青柳村 | ||||||
明治24年5月6日 分立 松原村 | |||||||
青波村 | 青波村 | ||||||
福満村 | 福満村 | ||||||
千本村 | 千本村 | ||||||
磯田村 | 磯田村 | 昭和17年6月10日 彦根市に編入 | |||||
南青柳村 | 南青柳村 | ||||||
日夏村 | 日夏村 | 日夏村 | 昭和25年4月1日 彦根市に編入 | ||||
川瀬村 | 明治23年8月16日 改称 河瀬村 |
河瀬村 | 河瀬村 | 昭和31年9月30日 彦根市に編入 | |||
安水村 | 明治25年6月25日 改称 亀山村 |
亀山村 | 亀山村 | ||||
高宮村 | 大正元年9月10日 町制施行 高宮町 |
高宮町 | 高宮町 | 昭和32年4月3日 彦根市に編入 | |||
多賀村 | 多賀村 | 昭和16年11月3日 多賀町 |
多賀町 | 昭和30年4月1日 多賀町 |
多賀町 | 多賀町 | |
久徳村 | 久徳村 | ||||||
芹谷村 | 芹谷村 | ||||||
大滝村 | 大滝村 | 大滝村 | 大滝村 | ||||
脇ヶ畑村 | 脇ヶ畑村 | 脇ヶ畑村 | 脇ヶ畑村 | ||||
東甲良村 | 東甲良村 | 東甲良村 | 東甲良村 | 昭和30年4月1日 甲良町 |
甲良町 | 甲良町 | |
西甲良村 | 西甲良村 | 西甲良村 | 西甲良村 | ||||
豊郷村 | 豊郷村 | 豊郷村 | 豊郷村 | 昭和31年9月30日 豊郷村 |
昭和46年2月11日 町制施行 豊郷町 |
豊郷町 | 豊郷町 |
愛知郡 日枝村 |
愛知郡 日枝村 |
愛知郡 日枝村 |
愛知郡 日枝村 |
出身有名人[編集]
古代 ●犬上御田鍬 - 豪族、官吏、外交官︵遣隋使、遣唐大使︶。 中世 ●尼子詮久 - 武将、土豪、近江国守護代。尼子郷生まれ。 ●尼子持久 - 武将、土豪、官吏︵出雲国守護代︶。 ●多賀高忠 - 戦国武将、室町幕府京都所司代。 ●藤堂虎高 - 戦国武将、土豪。 ●藤堂高則 - 戦国武将、土豪。 ●藤堂高虎 - 戦国武将、土豪、大名。 ●甲良宗広 - 大工。 近世 ●絹屋半兵衛︵伊藤半兵衛︶ - 陶芸家、商人。外船町︵そとふなまち。現・彦根市船町︶生まれ[13]。 ●桜川大龍 - 江州音頭宗家。 ●井伊直弼 - 大名、江戸幕府大老。 ●日下部鳴鶴 - 書家、彦根藩士、政治家︵太政官等︶。彦根城下生まれ。 ●初代 伊藤忠兵衛 - 商人、実業家。 ●六代目 伊藤長兵衛 - 実業家。 近現代 ●横山運平 - 俳優。 ●二代目 伊藤忠兵衛 - 実業家。 ●夏原平次郎 - 実業家。 ●団鬼六 - 小説家、脚本家、演出家。 ●田原総一朗 - ジャーナリスト、評論家、ニュースキャスター。 ●藤木てるみ - 漫画家。 ●大野和三郎︵おおの・わさぶろう︶ - 政治家︵元豊郷町長︶。1955年︵昭和30年︶豊郷村生まれ。 ●ねこしたPONG︵犬上利一︶ - 漫画家。 ●岡野弘文 - 実業家︵エキセントリックデザイン株式会社社長︶。1975年︵昭和50年︶豊郷町生まれ。 ●西川純司 - 元プロ野球選手。 ●則本昂大 - プロ野球選手。多賀町出身。行政[編集]
歴代郡長代 | 氏名 | 就任年月日 | 退任年月日 | 備考 |
---|---|---|---|---|
1 | 明治12年(1879年)5月16日 | |||
大正15年(1926年)6月30日 | 郡役所廃止により、廃官 |
脚注[編集]
(一)^ 地区名で示すと鳥居本地区・稲枝地区を除いた地域。
(二)^ 織田武雄﹃地図の歴史 日本篇﹄ 369巻、講談社︿講談社現代新書﹀、1974年11月28日。ISBN 978-4-0611-5769-9。
(三)^ abcd“敏満寺西遺跡”. 滋賀県文化財学習シート 遺跡編︵公式ウェブサイト︶. 滋賀県教育委員会事務局 文化財保護課. 2013年1月1日閲覧。
(四)^ 中山道の脇往還である木曽街道を題材として描かれた名所絵揃物﹃木曽街道六十九次﹄の1枚。cf. 中山道六十九次。
(五)^ 彦根村・佐和町に分かれて記載。本項では便宜的に1町に数える。
(六)^ ﹁旧高給領取調帳﹂には記載なし。石高は中藪村に含む。
(七)^ 記載は﹁屏風・後谷村﹂。
(八)^ 記載は後谷村。
(九)^ ab﹁旧高給領取調帳﹂には記載なし。石高は大橋村に含む。
(十)^ ﹁旧高給領取調帳﹂には記載なし。
(11)^ 彦根芹新町、彦根岡町、彦根芹中町、彦根大橋町となる。
(12)^ この時点では、彦根京極下片原町、彦根尾末町、彦根金亀町、彦根連着町、彦根桶屋町、彦根四十九町、彦根上魚屋町、彦根下魚屋町、彦根職人町、彦根下藪下町、彦根西馬場町、彦根丸野木町、彦根石ヶ崎町、彦根内船町、彦根観音堂筋、彦根中島町、彦根一番町、彦根二番町、彦根三番町、彦根四番町、彦根五番町、彦根本町、彦根中藪上片原町、彦根中藪下片原町、彦根中藪下横町、彦根中藪土橋町、彦根東栄町、彦根西栄町、彦根下番衆町、彦根池洲町、彦根芹橋一丁目、彦根芹橋二丁目、彦根芹橋三丁目、彦根芹橋四丁目、彦根芹橋五丁目、彦根芹橋六丁目、彦根芹橋七丁目、彦根芹橋八丁目、彦根芹橋九丁目、彦根芹橋十丁目、彦根芹橋十一丁目、彦根芹橋十二丁目、彦根芹橋十三丁目、彦根芹橋十四丁目、彦根芹橋十五丁目、彦根勘定人町、彦根西池洲町、彦根小道具町、彦根鷹匠町、彦根餌指町、彦根彦根町、彦根柳町、彦根外船町、彦根北新町、彦根上瓦焼町、彦根下瓦焼町、彦根上藪下町、彦根上新屋敷町、彦根北組町、彦根東新町、彦根京町、彦根七十人町、彦根三筋町、彦根水流町、彦根百石町、彦根安清新屋敷町、彦根小藪町、彦根安養寺町、彦根平田町、彦根安養寺中町、彦根上番衆町、彦根中組西町、彦根中組東町、彦根江戸町、彦根外馬場町、彦根伊賀町、彦根河原町裏町、彦根旗手町、彦根上川原町、彦根巽町、彦根安清町、彦根袋町、彦根川原町、彦根橋本町、彦根土橋町、彦根芹新町、彦根岡町、彦根橋向町、彦根後三条町、彦根芹中町、彦根大橋町、彦根沼波町が存在。
(13)^ “湖東焼の開祖 絹屋半兵衛 - 彦根のむかしばなし”. こどもひこねっと︵公式ウェブサイト︶. 彦根市教育委員会事務局生涯学習課. 2012年12月23日閲覧。
参考文献[編集]
- 「角川日本地名大辞典」編纂委員会 編『角川日本地名大辞典』 25 滋賀県、角川書店、1979年4月1日。ISBN 404001250X。
- 旧高旧領取調帳データベース
関連項目[編集]
淡海(おうみ、琵琶湖) | 坂田郡 | 美濃国養老郡 | ||
愛智郡 | 美濃国養老郡 伊勢国員弁郡 | |||
犬上郡 | ||||
愛智郡 | 愛智郡 | 愛智郡 |
彦根市 | 彦根市、米原市 | 岐阜県大垣市 | ||
彦根市 愛知郡愛荘町 |
岐阜県大垣市 三重県いなべ市 | |||
犬上郡 | ||||
愛知郡愛荘町 | 愛荘町、東近江市 | 東近江市 |