1918年7月23日から始まった米騒動の際に大阪朝日新聞は、鈴木商店は米の買い占めを行っている悪徳業者であるとの捏造記事を掲載し攻撃した。この結果、鈴木商店は米価の高騰に苦しむ民衆の反感を買い、同年8月12日に焼き打ちされた[215]。
1923年︵大正12年︶9月3日、大阪朝日新聞が関東大震災時の号外に﹁朝鮮人の暴徒が起こって横浜、神奈川を経て八王子に向かって盛んに火を放ちつつあるのを見た﹂という記事を掲載した[216]。
1923年︵大正12年︶9月4日、大阪朝日新聞が関東大震災時に﹁不逞鮮人の一派は随所に蜂起せんとするの模樣あり、中には爆彈を持って市内を密行し、又石油鑵を持ち運び混雜に紛れて大建築物に放火せんとするの模樣あり﹂と報道。なお、震災当時は東京の報道機能がマヒしていたため、他の新聞でもこのような流言飛語が飛び交っていた。
1950年9月27日、潜行中の日本共産党幹部伊藤律との単独会見記事を掲載。後にこれが担当記者により捏造されたものであることが判明した(伊藤律会見報道事件)。
1975年4月19日の夕刊2面において、4月17日のクメール・ルージュ︵ポル・ポト政権︶のプノンペン制圧に関し、﹁武力解放のわりには、流血の跡がほとんど見られなかった﹂と述べ、﹁敵を遇するうえで、きわめてアジア的な優しさにあふれているようにみえる﹂という文章が掲載された。この4日後の4月23日にバタンバン市で、ロンノル派将校や下士官が何百人と虐殺された件は、早くから国外にも伝わった[217]。また、署名入り記事を書いた当の記者は、陥落時にプノンペンには居らず[218]、直にポルポト派に接した日本人記者も、陥落前兵士に取材した読売記者以外いなかった[219]。山田寛は当時の風潮について、日本のジャーナリスト、学者にも﹃解放勢力﹄を応援し、主観的に﹃ポルポトは虐殺していない﹄と唱え続けた人たちがいたと述べている[220]。
1984年8月4日、西部本社版夕刊で、﹁日記と写真もあった 南京大虐殺 悲惨さ写した三枚 宮崎の元兵士 後悔の念をつづる﹂という見出しで、都城歩兵第23連隊の元上等兵が虐殺に直接携わり、苦しむ心情をつづった日記と、惨殺された中国人と見られる男性や女性の生首が転がっているシーンなどの写真3枚が見つかったと報じた[221]。これに対して都城23連隊会[注釈45]は、同連隊は南京虐殺とは無関係だと主張し、朝日新聞社宮崎支局長中村大別に対して抗議したが、朝日側は訂正・謝罪を拒否した。しかし1985年12月28日、世界日報が生首を写した写真は偽物であることを報じ、さらに同紙は1986年1月13日に、朝日新聞が報じた写真と同じ写真の持ち主が現れ、偽写真であることが確定したと報じた。これを受けて朝日新聞は同年1月21日、﹁写真三枚については南京事件当時のものではないことがわかりました。記事のうち、写真に関する記述は、おわびして取り消します﹂としたが、﹁日記は現存します﹂とした[222]。同月25日、都城23連隊会側と朝日新聞西部本社側の話し合いが持たれたが、朝日側は﹁写真についてのお詫びで終止符を打っていただきたい﹂とし、日記の公表は﹁守秘義務﹂として拒否した。
1984年10月31日、朝刊1面において、﹁これが毒ガス作戦﹂の見出しと共に、煙が濛々と立ち上る写真を、日本軍による毒ガス戦の証拠だとして掲載した。一橋大学教授︵当時︶藤原彰が﹁日中戦争での化学戦の実証的研究を進めている元陸軍士官の歴史学者﹂として紹介され、当該写真は日本軍による中国での毒ガス戦を写したものだと断定した[223]。しかし、程なくして産経新聞から煙幕ではないかと疑問を呈され[224]、同月11月13日には毎日新聞社発行の﹃決定版昭和史﹄第9巻から同じ写真が確認され、毒ガス戦を写した写真ではない事が確定した。翌11月14日、朝日新聞は﹁日本軍の﹃化学戦﹄の写真、贛湘作戦とわかる﹂との見出しを付け、毒ガス作戦を報じた写真が間違いであったことは認めたが、謝罪はしなかった[225]。
1988年11月から1989年1月に発生した女子高生コンクリート詰め殺人事件関連の報道において、1989年4月4日朝刊の「ニュース三面鏡」では、見出しに「女高生殺人事件数々の疑問」「助け求められなかったか」と題し、「少女は無断外泊もままある非行少女」と掲載。また1990年4月19日から25日にかけて連載された「なぜ、彼らは」では加害者の母親がいったんは少女を帰した点や「強姦」を「関係を持つ」という言葉に置き換え、あたかも少女の同意があったかのようにほのめかした記事に対し、大道万里子は「この記事を読んだ人は、自ずと『少女も遊び感覚で(加害者らの家に)留まっていたのではないか……』という印象を受けるように仕向けられている」と批判した[226]。
1989年4月20日付の夕刊において、「サンゴ汚したK・Yってだれだ」との大見出しで,沖縄の自然環境保全地域指定海域にある世界最大のアザミサンゴ[227]に傷が付けられていることを取り上げ、その象徴として「K・Y」というイニシャルが刻まれた珊瑚のカラー写真と共に、日本人のモラル低下を嘆く記事を掲載する。しかし、疑問を抱いた地元ダイバーらの調査の結果、カメラマン自身によって無傷の状態であった珊瑚にイニシャルが刻まれたという事実が発覚し、記事捏造事件に発展[228][229]。社長(当時)一柳東一郎が引責辞任に追い込まれる事態となった。
2004年2月1日から4日間、﹁声﹂欄で陸上自衛隊の装備品に酷似した小銃とヘルメットを使った﹁異国の空の下﹂と題するイラストを採用したが、自衛隊関係者から﹁“兵士の墓標”を連想させる﹂と批判された。丁度、陸上自衛隊の自衛隊イラク派遣本隊が、現地サマーワに到着する時期であり、﹁読者や隊員、ご家族に不快感を与える恐れについて想像力に欠けていた﹂と謝罪し、同月5日からイラストを変更した[231]。
2005年1月12日、自民党の安倍晋三・中川昭一両議員から2001年1月30日放送のNHK番組の編集について、NHK上層部に圧力があったとする報道を行った。1月21日NHKは事実無根とし公開質問状を朝日に送付[232]。同年7月、朝日新聞は上記報道の検証記事を掲載した。同年8月には社内関係者が番組改変の証拠とされる録音テープを魚住昭にリークし、講談社の月刊誌『現代』にその内容を記した記事が掲載された。同年9月30日、朝日新聞社がNHK番組改変疑惑の信憑性の検証を委託した第三者機関『NHK報道』委員会は「(記者が疑惑を)真実と信じた相当の理由はあるにせよ、取材が十分であったとは言えない」(委員会の見解より引用)という見解を出す。これを受けて朝日新聞社は取材の不十分さを認めたが、記事の訂正・謝罪は無かった。委員会の見解でも、朝日新聞は検証が十分ではないと指摘されている。
2005年8月21日の朝刊にて、亀井静香と田中康夫が長野県内で会談を行ったという記事が掲載された。この記事は取材を伴わない虚偽のメモをもとに作成されたもので、実際は東京都内で会談が行われていた。この事件などをきっかけとして朝日新聞の取材体制の改革が行われた。
2006年1月10日付夕刊のコラム﹁素粒子﹂で、東京ディズニーランドで同月9日に行われた浦安市の成人式について、﹁浦安の新成人。遊園地のネズミ踊りに甘ったれた顔して喜んでるようじゃ、この先思いやられる﹂と書いた[233]。浦安市はこのコラムを中傷であると抗議し、12日付で浦安市長及び浦安市教育委員会は抗議書を郵送した[注釈46]。しかし、朝日新聞社広報部からの返事は、﹁決して浦安市の新成人を中傷することを意図したものではありません﹂というもので、謝罪を拒否した[234]。
2007年1月6日の夕刊にて、「スポーツ総合誌 苦境」という記事が掲載された。この記事はスポーツ総合誌を「冬の時代に入った」と評する内容であったが、『Number』(文藝春秋社)に関して事実と反する部分が存在した[235]。
2007年2月1日、同年1月30日の夕刊で掲載された富山県のかんもち作りに関する記事で、朝日新聞東京本社編集局の駐在員が、読売新聞のインターネット版に1月27日に掲載された﹁寒風で育つかんもち﹂という記事を盗用していたことが判明[236]。問題の駐在員は﹁読売新聞のホームページの記事を参考にしながら自分の原稿を書き直した﹂と述べ、朝日新聞東京本社は2月1日午後に読売新聞に謝罪した。その後、他の2件の記事も同じく読売新聞のホームページ記事から引用されていることが判明し、記事を書いた記者は解雇された[237]。
2008年12月6日の朝刊にて、ジョギング中の男性を殴って怪我をさせたとして大阪府警に殺人未遂容疑で逮捕された男性︵傷害罪で起訴されたが、一・二審で無罪判決︶について、﹁現場の防犯カメラに男性と似た男が映っていた﹂と記載したが、男性は﹁記事の内容に誤りがある﹂などとして、朝日新聞社と大阪府を相手取り大阪地方裁判所に訴訟を起こした。2012年4月11日に同地裁は、男性の訴えのうち朝日新聞社に対する訴えを一部認め、朝日新聞社に22万円の支払いを命じた[241]。
2008年6月18日付夕刊のコラム﹁素粒子﹂において、同月17日に死刑執行を指示した、法務大臣の鳩山邦夫に対し、﹁永世死刑執行人 鳩山法相。﹃自信と責任﹄に胸を張り、2カ月間隔でゴーサイン出して新記録達成。またの名、死に神﹂と表現した。これに対して、鳩山は強く抗議し[注釈47]、また﹁法相は職務を全うしているだけ﹂﹁死に神とはふざけすぎ﹂など1,800件あまりの抗議文が、朝日新聞に送られた。同紙に対して、特に強い批判を続けたのが﹁全国犯罪被害者の会﹂であり、同会の三度に渡る公開質問状により、朝日新聞はコラムの表現が不適切であったことを認めた[242]。
2009年4月25日、朝日新聞は同年1月11日号に掲載した奈良県川上村の元森林組合長が「選挙区は民主、比例は共産」と、共産党への「選挙協力」を主導しているという記事について、事実でない部分があったとして紙面で「おわび」を掲載した。元森林組合長からの申し立てにより、朝日新聞社の「報道と人権委員会」が調査を行った結果、「記述の一部は事実として認めることができなかった」とする見解を出した[243][244][245]。
「がんペプチドワクチン」の臨床試験における不適切報道
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2010年10月15日、東京大学医科学研究所が開発した﹁がんペプチドワクチン﹂の臨床試験において被験者に起きた消化管出血を他の病院に知らせていなかったとして、これを問題視する報道を行った[246]。翌16日には﹁研究者の良心が問われる﹂と題した社説を掲載した[247]。一連の報道に対し、東京大学医科学研究所や、風評被害を受けたオンコセラピー・サイエンスは、﹁医学的誤り・事実誤認はおろか、ねつ造と判断せざるを得ない重大な問題が多数含まれている﹂として反論を行っている。同月20日には、がん患者団体有志一同が声明を発表し[248]、同月22日には日本癌学会と日本がん免疫学会が朝日新聞に対して抗議声明を発表した[249]。これに対して同月24日付の記事で、朝日新聞社広報部は﹁記事は確かな取材に基づくもの﹂と主張した[250][251]。
2010年10月22日、朝日新聞大阪本社は、同年10月19日付朝刊文化面に掲載した記事﹁マニ教﹃宇宙図﹄確認﹂の記述が、共同通信社が9月26日に配信した記事﹁国内にマニ教﹃宇宙図﹄﹂に酷似していたと発表した[252]。執筆した大阪本社生活文化グループの記者を停職3週間とするなど、関係者の処分を行った[253]。
2012年4月9日、夕刊の社会面トップで四国電力の橘湾火力発電所が「電気事業法に定められた自主点検を約1年間、怠っている」と指摘し、「配管内部の劣化や損傷を、少なくとも年2回チェックすることになっている」などと報じた。しかし、電気事業法は、年2回チェックするように義務付けてはおらず[254]、橘湾火力発電所は法令通りの頻度でチェックを行なっていることが分かった[255]。
2012年6月8日付東京版経済面において、コンピュータゲームの主要プラットフォーム各社の責任者へのインタビュー記事を掲載したが、そのうち任天堂の岩田聡社長からはインタビューを断られたため、無断で任天堂の公式サイトにあった動画の内容をまとめたものを岩田社長のインタビューとして掲載した。掲載後、任天堂から抗議を受け水面下では謝罪したが、2014年9月に週刊文春によって暴露された。これを受けて、紙面でも読者に謝罪する訂正記事を載せた[256][257]。
2013年1月22日の朝日新聞朝刊において、実名を公表しないという約束[258]に反した報道が行われ、さらに同記事において自分のFacebookのページに掲載していた写真が無断で掲載されたと、アルジェリア人質事件における日本人被害者の親族である本白水智也がブログで報告した[259]。そして、本白水は朝日新聞社社長宛に﹃朝日新聞の実名報道及び無許可報道に対する抗議文﹄と題した抗議文を提出した[260][261]。また、2013年1月20日に朝日新聞横浜総局の記者から本白水に対し﹁この映像の中に邦人と思われる遺体が3人映っているのでご確認お願いします﹂という電話があり[258][262]、それに続いてイナメナスの残酷な映像を見るようメールが送られて来た事もそのメールのスクリーンショットと共に報告している[263]。
2014年1月10日、国が主導するアルツハイマー病研究J-ADNIに対して一面を使って報じた[268]ことを皮切りに、研究そのものに対する批判を展開した。報道が重なるにつれ、特報部による一連の﹁スクープ﹂は研究の心理データの責任者杉下守弘の﹁内部告発﹂がきっかけである事が明らかにされた。その結果J-ADNIは研究半ばで予算執行が凍結され、事実上の中止に追い込まれた[269]。その後、東京大学独自調査[270]、第三者委員会[271]による調査の結果﹁改ざん﹂ではなく、不適切な判断の結果混乱が重なったことが発表された。さらに、﹁告発者﹂として登場した杉下の責任について追及する文言も盛り込まれた。2015年3月13日、政府はJ-ADNIに関連した維新の党の川田龍平参院議員からの質問に対し、﹁第三者調査委員会﹂の報告書を引用し、故意のデータ改ざんを否定する答弁書を閣議決定した[272]。2015年4月2日、参議院予算委員会において維新の党川田龍平議員の質問に対して、杉下守弘の﹁告発メール﹂は公益通報者保護法における公益通報には当たらないとの見解が消費者庁川口康裕次長よりなされた。また、データ保全命令後にデータの﹁改竄﹂が指示されていたと報道された件に関しても﹁いずれも通常の品質確認作業の一環で行われたものであり、不当な改ざんや意図的な修正が行われたケースは確認できなかった﹂と厚生労働省三浦公嗣老健局長が発言した[273]。
2014年5月20日の朝刊で、東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会の﹁吉田調書﹂を入手したと発表。﹁震災4日後には所長命令を無視し、福島第一所員は9割が逃げ出した﹂と報じ[274]、夕刊のコラム︵素粒子︶で﹁傾く船から逃げ出す﹂などという言葉を用いてセウォル号沈没事故と同質の事象が起こっていたかのような記述を行った[275]。8月17日には産経新聞が[276]、8月24日にはNHKが[277]吉田調書を入手した。産経新聞は現場関係者が吉田所長の命令に背いて撤退したとの記載はないとした[276]。その後、報道に対する疑義は、読売新聞、毎日新聞、共同通信社からも上がった[278]。その後、当時経産相であった海江田万里も﹁私は撤退ではなく退避という言葉を聞いた﹂﹁撤退という言葉がどこから出てきたのかは今となってはつまびらかではない﹂と述べた[279]。9月11日夜に朝日新聞社は記者会見を行い、木村伊量社長は、﹁社内の精査の結果、吉田調書を読み解く過程で評価を誤り、多くの東電社員らがその場から逃げ出したかのような印象を与え、間違った記事だと判断した﹂と謝罪、また﹁編集部門を含む抜本改革などに道筋を付けたうえで、自らの進退を決断する﹂と述べ[280][281]、後日辞任した。朝日新聞は、誤報の原因として﹁1F︵福島第1原発︶の線量の低い所へ待機﹂と書かれているとされる柏崎刈羽原発所員の個人的なメモを根拠とし﹁当時の所員への直接取材を徹底しなかった﹂と釈明している。
2014年5月26日、連載記事﹁報われぬ国 第2部﹂において、﹁ワンマン理事長”暴走”﹂の見出しで、川崎市の社会福祉法人で理事長が﹁社会福祉法人に寄付された土地を理事会にはからずに売却した﹂、﹁理事長の報酬などの増額を理事会の承認なしに決めた﹂、さらに﹁社会福祉法人が証明器具を理事長の親族の会社から購入した﹂といった内容を報道した。しかし実際には、社会福祉法人は土地の売却や理事長報酬の増額については理事会で承認しており、照明器具などの備品を理事長の親族の会社から購入した事実はなかった。この記事を巡り、社会福祉法人と理事長は賠償と謝罪を求める裁判を起こし、朝日新聞は訂正とおわびを掲載することで2015年4月16日和解した。翌日の朝刊において、﹁土地の売却﹂と﹁報酬などの増額﹂については、規定などを﹁明確にするように︵川崎市が︶指摘した﹂と訂正し、﹁証明器具を理事長の親族の会社から購入した﹂については、当該部分を取り消した[282]。
2014年6月16日朝刊一面﹁﹃米艦で邦人救出﹄米拒む﹂との見出しで、周辺事態法では避難する日本人を米軍が運ぶ項目がアメリカの強い要望で削除されたとしたが、防衛省はこの報道を否定した[283]。防衛省の抗議を受け、朝日側は﹁日本人救出を断っていた﹂を﹁他国民の救出を確約しない﹂にトーンダウンさせ、﹁日本人の米艦乗船は極めて困難だ﹂との指摘も消した[284]。実際には、日米両国は日米防衛協力のガイドライン︵日米両国が避難民の退避で協力する規定︶に基づいて毎年、共同訓練で国外に住む日本人を対象にした輸送訓練を実施しており[283]、1998年には紛争中のエリトリアから3人、2011年にはリビアから4人の日本人がアメリカの用意した艦船で運ばれた例もあった[283]。
2015年3月19日、チュニジアの博物館襲撃テロで負傷し、首都チュニスの病院に入院、手術を受けた直後の女性が、朝日新聞記者と応対にあたった在地の日本大使館員とのやりとりについて﹁﹃取材をさせてください。あなたに断る権利はない﹄と日本語で怒鳴っている声が聞こえ、ショックでした﹂と手記中で明かした。記者はしばらくのやりとりの後、病棟から退出したという。朝日新聞の石合力・国際報道部長は﹁記者には大声を出したつもりはありませんでしたが、手記で記されていることを重く受け止め、女性におわびします﹂と謝罪した。手記で女性は大使館の職員から﹁あなたには断る権利があります﹂と励まされ﹁うれしかった﹂と述べている[285]。
2015年5月30日、シリーズ企画『集団的自衛権 海外では』の中の2014年6月15日付記事『平和貢献のはずが戦場だった 後方支援、独軍55人死亡』の内容を訂正した[286]。
2015年6月1日、夕刊1面記事において、『悩める邦字新聞 苦境 南米で日系人口減少』との見出しで、日系人人口の減少に伴い、現地の邦字新聞が廃刊や購読数減少の危機に陥っているとする記事を掲載した。これに対してブラジルの邦字新聞ニッケイ新聞は、南米の日本人人口が減少しており日本語話者が減少しているのは事実であるが、日系人人口は増加していること、歴史や背景、購読者数、広告収入源も違う邦字新聞を一様にネガティブな印象で報じていることを「恣意的なイメージ操作」であるとして批判、朝日新聞に抗議した。抗議を受けて朝日新聞東京本社は電話とメールで謝罪し、8日付け夕刊において「南米で日系人口減少」としたのは「南米で日系1世人口減少」の誤りだったとする訂正記事を掲載した。記事を書いたサンパウロ支局の記者は「前文(リード)で『日本語が読める日系人口減少』と書いているので、いいと思った」と釈明したが、ニッケイ新聞は、見出しが誤っていても、記事を読めば分かるというのは詭弁であり傲慢であると批判している[287][288]。
2015年8月5日、天声人語を6年にわたり担当するなどの経歴をもつ、冨永格特別編集委員が、ツイッターに﹃ナチスの旗を持った人たちのデモ写真とともに英語とフランス語で﹁東京での日本人の国家主義者によるデモ。彼らは安倍晋三首相と彼の保守的な政権を支持している﹂とする書き込みをした問題﹄に関し、8月5日の朝刊で﹁報道姿勢に疑念を抱かせた﹂との謝罪記事を掲載した[289][290][291][292]。朝日新聞社広報部によると、冨永格特別編集委員が掲載した写真はネット上で見つけたもので、事実関係の裏付けなどは行っていなかった[293]。
2016年3月に公正取引委員会は朝日新聞に対し「押し紙」問題に対し注意を行った。これに先立つ2015年2月15日に杉本和行・公取委委員長は日本記者クラブで行なった記者会見で「今の制度においても公取委は押し紙を禁止しており、実体がどうなのかきちんとモニターしているところで、そういう実態がはっきりすれば当然必要な措置をとる」と発言していた[294][295]。
2016年3月14日の朝刊にて、九州電力川内原子力発電所の周辺に設置された放射性物質の観測体制が不十分であると報じた[296]。これに対して原子力規制委員会は﹁非常に犯罪的だ。(朝日新聞には)十分に反省してもらいたい﹂と批判した[296]。原子力規制委員会によると、観測機器の種類によって機能に差があるのは当然であり、避難指示に必要な情報は様々な機種の測定機器を組み合わせて判断しているが、朝日新聞の記事では、あたかも避難指示の判断が現状の観測装置では出来ないような内容になっており[296]、立地自治体に無用な不安を与えるとされた[296]。また原子力規制庁の職員が言っていない内容まで記事に書かれているとし、担当記者に説明を求めた[296]。3月15日、原子力規制庁はホームページに朝日新聞の記事は誤解を生ずるおそれがあるとして事実関係を説明する文書を掲載した[296][297]。しかし、朝日新聞はこれらの抗議に対して明確な修正をせず取材源の提出にも応じなかったため[298]、規制庁は朝日新聞の編集幹部を呼び出して無期限の取材制限を行うことを通告した[298]。具体的には、今後は朝日の電話取材は一切対応せず、対面取材の場合も必ず録音を行う事とした[298]。
2017年4月19日、内閣府がホームページから関東大震災朝鮮人虐殺事件に関する記述を削除し、担当者が﹁内容的に批判の声が多く、掲載から7年も経つので載せない決定をした﹂と説明したと報道[299]。同日、内閣府は削除を否定し、担当者の発言として報じられたコメントも否定。朝日新聞への抗議も検討している[300]。内閣府によると、18日夕方に朝日新聞記者から電話取材があり、担当者が﹁ホームページの刷新中で、今は見ることができない﹂と削除していないことを伝えたという。また、苦情が寄せられていることも否定し、﹁報告書の掲載をやめることの検討もしていない﹂としている。朝日新聞は産経新聞の取材に対し﹁記事は、内閣府の担当者への取材に基づいて執筆したものです。詳細な取材経過や相手方の発言などについては、回答を差し控えさせていただきます﹂と回答した[300]。
2019年2月、朝刊北海道内版で1月12日、19日に掲載した連載記事﹁ひと模様 大道芸人 ギリヤーク尼ケ崎さん﹂において2016年に北海道新聞社が出版した写真集﹁ギリヤーク尼ケ崎 ﹃鬼の踊り﹄から﹃祈りの踊り﹄へ﹂の多数の記述を盗用していたことを認めた。12日の記事の約4割、19日の記事の約8割の記述が写真集の内容と重複していた。朝日新聞は盗用の意図はなかったとしたものの、連載を中止し、北海道新聞社と取材対象のギリヤーク尼ヶ崎に謝罪、﹁読者の信頼を裏切った﹂などとして、執筆した函館支局の記者を停職2か月とする等の関係者の処分を発表した[301][302]。
2019年7月9日朝刊において、熊本地裁が元ハンセン病患者の家族への賠償を国に命じた判決を受け、日本政府の対応として控訴する方針だと一面トップで報じたが、同日の午前中に安倍晋三首相が控訴を断念する意向を表明したことで報道とは逆の結果となり、翌日政治部長名で謝罪した[303]。
1971年8月から12月にかけて夕刊で全40回連載された本多勝一記者によるルポルタージュ﹃中国の旅﹄において、日中戦争で日本軍が中国人に対して行ったとする南京事件を、現地住民からの聞き書きの形で紹介した。記事の内容は当時の日本社会に衝撃を与えた一方で反発も強く、朝日新聞社によれば﹁ごうごうたる非難の投書が東京本社に殺到した﹂という。また、論壇では事件についての論争が発生した[304]。
連載では﹁2人の日本軍少尉が上官の命令により百人斬り競争[注釈48]を行った﹂との記事を掲載[305]し、百人斬り競争をおこなったとされた将校の遺族から提訴された。万人坑についての記事も、事実無根であるとして、記事の取り消し要求が行われている。
1991年から翌年にかけて﹁従軍慰安婦﹂問題の連載キャンペーンを展開。吉田清治著の﹃私の戦争犯罪・朝鮮人連行強制記録﹄にある﹁昭和18年︵1943年︶に軍の命令で韓国の済州島で女性を強制連行して慰安婦にした﹂という体験談を、4回︵この4回を含め、吉田に関しては計16回︶にわたり報道し、朝日は﹁︵朝鮮︶総督府の五十人、あるいは百人の警官といっしょになって村を包囲し、女性を道路に追い出す。木剣を振るって女性を殴り、けり、トラックに詰め込む﹂﹁吉田さんらが連行した女性は、少なくみても九百五十人はいた﹂︵1992年1月23日1面コラム﹁窓 論説委員室から﹂︶などと報道した。この吉田の﹁体験談﹂は秦郁彦・拓殖大学教授︵当時︶の調査により嘘であることが判明し、吉田清治本人も一部がフィクションであることを認め、朝日新聞も﹁確認できない﹂という事実上の訂正記事を出した。また、1991年8月11日付の朝日新聞は、社会面トップで﹁思い出すと今も涙﹂﹁元朝鮮人従軍慰安婦 戦後半世紀重い口開く﹂とのタイトルで、﹁日中戦争や第二次大戦の際、女子挺身隊として戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた朝鮮人従軍慰安婦のうち、一人が名乗り出た﹂と報じた︵記者は植村隆︶。この朝鮮人慰安婦の﹁女子挺身隊として戦場に連行され﹂たという話にも、﹁当時、女子挺身隊という制度自体が無いばかりか彼女は親により公娼として売られたことを語っており、全くの捏造である﹂との反対意見が出された。日本維新の会の中山成彬︵当時文科相︶は2013年3月8日の衆議院予算委員会において、朝日新聞が慰安婦資料を歪曲したとして、当時の資料を引用して朝日新聞の慰安婦報道を批判している。読売新聞は朝日新聞が﹁日本軍が慰安所の設置や、従軍慰安婦の募集を監督、統制していた﹂と報じたことが従軍慰安婦問題の発端であり、日韓間の外交問題に発展したもので、朝日新聞は﹁主として朝鮮人女性を挺身隊の名で強制連行した﹂などと、戦時勤労動員制度の﹁女子挺身隊﹂を﹁慰安婦狩り﹂と誤って報じた部分があったとしている。一方で、1992年に読売新聞と毎日新聞も吉田清治氏の証言を紹介していたことも明らかになっている。産経新聞も、1993年に吉田清治氏を﹁国・済州島で約千人以上の女性を従軍慰安婦に連行したことを明らかにした﹃証言者﹄﹂とする記事を掲載していた。また、1990年代初期には毎日新聞や産経新聞も女子挺身隊と従軍慰安婦を混同していたことも確認されている。
2014年8月5日、朝日新聞は独自検証の結果、吉田証言の証拠が見つからず、虚偽と認定し記事を撤回した。しかし謝罪は一切無く、しない方針も社長の木村伊量により明らかにされたが、2014年5月の東京電力の﹁吉田調書﹂に関する誤報︵﹁吉田調書﹂の誤報については後述︶について同年9月、謝罪会見をし、その中で﹁吉田証言﹂に関する誤報についても木村社長は謝罪した。
2014年8月に朝日新聞が自社のこれまでの慰安婦報道を検証し、誤報は認めたが謝罪がなかったことについて、池上彰が連載していた同紙のコラム﹁池上彰の新聞ななめ読み﹂にて﹁朝日新聞は謝罪するべきだ﹂とする批判記事を掲載しようとしたところ、朝日から池上に﹁掲載できない﹂とする連絡があり、池上はこの連載の中止を申し出た。この朝日の対応は広く知られることになり、﹁言論の封殺ではないか﹂といった批判が社外だけでなく同社の記者からもtwitterを通じて発生した。結果的に朝日は、池上に対し﹁掲載したい﹂と連絡をつけた。池上は自身のコメントを﹁おことわり﹂として加えることで掲載に承諾。2014年9月4日朝刊に、池上の執筆した記事を全文掲載し、同時に朝日新聞はこの件について同日の紙面で謝罪、また後日おこなわれた﹁吉田調書誤報謝罪会見﹂で再度謝罪した。
2015年2月19日、朝日新聞の慰安婦報道を外部から検証してきた﹁朝日新聞﹃慰安婦報道﹄に対する独立検証委員会﹂が報告書を発表し、1991年から1992年にかけての朝日新聞の慰安婦報道について﹁強制連行プロパガンダ︵宣伝︶﹂と断定し、このプロパガンダによって国際社会に誤った事実が拡散し、日本の名誉を傷つけていると結論づけた。また、朝日新聞の組織した﹁第三者委員会﹂の﹁影響は限定的であった﹂との検証結果については﹁朝日の責任を回避する議論に終始した﹂と指摘した[306][307][308]。
2018年8月、平成26年8月5日付朝刊の特集﹁慰安婦問題を考える 上﹂に掲載された記事の英訳版のソースに、検索エンジンによってサイトが表示されるのを抑制する﹁noindex﹂﹁nofollow﹂﹁noarchive﹂の3つのメタタグが埋め込まれていることが確認された。朝日新聞広報部はこのような設定がなされていたことについて、作業ミスであり現在は修正済である旨を回答している[309]。
2015年1月26日、日本国内外の8749人が朝日新聞が掲載した計13本の記事について﹁虚報﹂とした上で、﹁多くの海外メディアに紹介され、ねじ曲げられた歴史を国際社会に拡散させた﹂、﹁日本国と国民の国際的評価は著しく低下し、原告らを含む国民の人格や名誉が傷つけられた﹂とし、1人あたり1万円の慰謝料と謝罪広告の掲載を求める訴訟を東京地裁に起こした[310]。原告側事務局は﹁朝日新聞を糺す国民会議﹂[311]。同年、3月25日、1万7千人が追加提訴し、原告数は2万5700人となった[312]。東京地裁は2016年7月、原告側の請求を棄却。東京高裁も2017年9月の判決で原告側の控訴を棄却し、原告側が上告せず朝日新聞の勝訴が確定した。
2015年2月9日、日本国内の482人は、﹁吉田清治証言に疑義が生じていたのに、朝日は報道内容の正確性を検証する義務を怠り、読者や国民の﹃知る権利﹄を侵害した﹂として、1人あたり1万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした[313]。原告側事務局は﹁朝日新聞を正す会﹂[314]。東京地裁は2016年9月、原告側482人の請求を棄却[315]。東京高裁も2017年3月の判決で原告側238人の控訴を棄却。最高裁判所第三小法廷も2017年10月24日付決定で原告側28人の上告を退け、朝日新聞の勝訴が確定した[316]。
2015年2月18日、慰安婦をめぐる朝日新聞の報道︵吉田証言を基とする記事、および、女子挺身隊と慰安婦を混同した記事計52本︶で﹁誤報を長年放置した結果、慰安婦像が建てられて嫌がらせを受けるなど精神的苦痛を負った﹂として、米カリフォルニア州グレンデール市近隣に住む日本人3人と国内の大学教授ら計約2千人が、同社に慰謝料と主要米紙などへの謝罪広告の掲載を求める訴訟を東京地裁に起こした。訴状では﹁慰安婦問題に関する誤った事実と見解が真実として世界に広まり、慰安婦像の設置などで定着した﹂と指摘し、﹁日本人の尊厳を傷つけて国際社会における客観的評価を下げた。世界に対し謝罪を発信することが必要だ﹂とした[317]。2017年4月、東京地裁は原告側の訴えを棄却した。原告側は控訴したが、2018年2月、東京高裁は原告側の控訴を棄却し、朝日新聞の勝訴が確定した[318]。
2020年4月2日、新型コロナウイルス感染症対策の一環として、安倍内閣が各家庭への布マスク配布を実施することに絡み、﹁布マスクは有効? WHOは﹁どんな状況でも勧めない﹂﹂との見出しの記事をオンライン上に掲載した。しかし、WHOが布マスクを推奨しない対象は医療従事者であり、一般人は含まれていない。また記事の末尾に﹁他人にうつさないという目的を考えれば、﹃つけない﹄という選択肢はない﹂とする専門家の見解が記述されていたことから、見出しと記事の内容に齟齬があり誤解を生みかねないとして物議を醸した[319]。
2020年4月7日、﹁#東京脱出、専門家﹁やめて﹂ 帰省で家族に感染、新たなクラスターも 新型コロナ﹂の見出しで、ツイッターで﹁東京脱出﹂というハッシュタグ︵検索ワード︶が拡散されており、ウイルスを地方に広げてしまうことで新たなクラスター︵感染者集団︶が発生する可能性が危惧されるとする記事を掲載した[320]。しかし、この記事が配信される以前に﹁東京脱出﹂というハッシュタグの投稿はほとんどなく、朝日新聞が記事化することで拡散させた疑いが強いと指摘された[321][322]。
2020年5月7日、﹁コロナ対応に海外から批判続出 政府、発信力強化に躍起﹂の見出しで、海外から日本政府に対し、特にPCR検査数の少なさへの批判が相次いでいるとする記事を掲載し、具体例として、英紙ガーディアン、英BBC、米紙ニューヨーク・タイムズなどを挙げた[323]が、実際のガーディアンの記事は主に日本国内の論調を紹介しているだけであった。また、BBCとNYタイムズの取材相手がいずれも安倍内閣に批判的な英キングス・カレッジ・ ロンドン教授の渋谷健司と上智大学教授の中野晃一であったため、ネット上では記事の内容について批判が起きた。東京外国語大学教授の篠田英朗が﹁フェイクニュースと断ずべきレベルなのでは﹂と批判した他、リベラル派である哲学者の東浩紀も報道の仕方に疑問を唱えている[324]。
朝日新聞は、2020年東京オリンピックのオフィシャルスポンサーの1つであるが、2021年5月26日の朝刊の社説で﹁この夏にその東京で五輪・パラリンピックを開くことが理にかなうとはとても思えない。人々の当然の疑問や懸念に向き合おうとせず、突き進む政府、都、五輪関係者らに対する不信と反発は広がるばかりだ﹂と批判的な記事を記載した[325]。一方で﹁五輪スポンサーとしての活動は続ける﹂との態度をとり、自社が主催する高校野球大会に関しては﹁開催OK﹂との立場を貫いたため、ダブルスタンダードであるという指摘や非難が相次いだ[326][327][328]。朝日新聞社は、一連の姿勢に関してはオフィシャルサイトに説明を掲載したが[329]、取材への回答は拒否している[330]。