鉄
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外見 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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銀白色 鉄のスペクトル線 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
一般特性 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
名称, 記号, 番号 | 鉄, Fe, 26 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | 遷移金属 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
族, 周期, ブロック | 8, 4, d | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
原子量 | 55.845(2) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
電子配置 | [Ar] 3d6 4s2 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
電子殻 | 2, 8, 14, 2(画像) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
物理特性 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
相 | 固体 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
密度(室温付近) | 7.874 g/cm3 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
融点での液体密度 | 6.98 g/cm3 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
融点 | 1811 K, 1538 °C | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
沸点 | 3134 K, 2862 °C | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
融解熱 | 13.81 kJ/mol | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
蒸発熱 | 340 kJ/mol | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
熱容量 | (25 °C) 25.10 J/(mol·K) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
蒸気圧 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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原子特性 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
酸化数 | 6, 5[1], 4, 3, 2, 1[2], −1, −2 (両性酸化物) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
電気陰性度 | 1.83(ポーリングの値) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
イオン化エネルギー | 第1: 762.5 kJ/mol | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
第2: 1561.9 kJ/mol | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
第3: 2957 kJ/mol | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
原子半径 | 126 pm | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
共有結合半径 | 132±3 (低スピン), 152±6 (高スピン) pm | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
その他 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
結晶構造 | 体心立方 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
磁性 | 強磁性 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
1043 K | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
電気抵抗率 | (20 °C) 96.1 nΩ⋅m | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
熱伝導率 | (300 K) 80.4 W/(m⋅K) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
熱膨張率 | (25 °C) 11.8 μm/(m⋅K) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
音の伝わる速さ (微細ロッド) |
(r.t.) (electrolytic) 5120 m/s | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ヤング率 | 211 GPa | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
剛性率 | 82 GPa | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
体積弾性率 | 170 GPa | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ポアソン比 | 0.29 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
モース硬度 | 4 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ビッカース硬度 | 608 MPa | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ブリネル硬度 | 490 MPa | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
CAS登録番号 | 7439-89-6 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
主な同位体 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
詳細は鉄の同位体を参照 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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名称[編集]
元素記号のFeは、ラテン語での名称﹁ferrum﹂に由来する。日本語では、鈍い黒さから﹁黒鉄﹂、広く使用されている金属であることから﹁真鉄﹂ともいう。大和言葉で﹁くろがね﹂とも呼ばれる。 漢字の﹁鉄﹂は音を表す﹁失﹂と意味を示す﹁金﹂からなる形声文字である。旧字体は﹁鐵﹂であり、これも音を表す﹁𢧜﹂と意味を示す﹁金﹂からなる形声文字である。また異体字として﹁銕﹂があるが、これも音を表す﹁夷﹂と意味を示す﹁金﹂からなる形声文字である。 本多光太郎は﹁鐵﹂という文字が﹁金・王・哉﹂に分解できることから﹁鐵は金の王なる哉﹂と評した。 ﹁鉄﹂の文字が﹁金を失う﹂を連想させて縁起が悪いとして、製鉄業者・鉄道事業者などでは社名やロゴで、﹁鉄﹂の代わりにあえて旧字体の﹁鐵﹂を用いたり、﹁失﹂の頭を取り去って﹁鉃﹂の形を用いる例がある。-
「鐵」の字を使う例
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「鉃」の字を使う例
存在[編集]
性質[編集]
純粋な鉄は白い金属光沢を放つが、イオン化傾向が高いため、湿った空気中では容易に錆を生じ、時間の経過とともに黒ずんだり褐色へと変色したりする。 固体の純鉄は、フェライト︵BCC構造︶、オーステナイト︵FCC構造︶、デルタフェライト︵BCC構造︶の3つの多形がある。911 °C以下ではフェライト、911–1392 °Cはオーステナイト、1392–1536 °Cはデルタフェライト、1536 °C以上は液体の純鉄となる。常温常圧ではフェライトが安定である。強磁性体であるフェライトがキュリー点を超えたところからオーステナイト領域までの770–911 °Cの純鉄の相は、以前はβ鉄と呼ばれていた。 栄養学の立場からみると、鉄は人︵生体︶にとって必須の元素である。食事制限などで鉄分を欠く時期が続くと、血液中の赤血球数やヘモグロビン量が低下し、貧血などを引き起こす。腸で吸収される鉄は2価のイオンのみであり、3価の鉄イオンは2価に還元されてから吸収される。鉄分を多く含む食品はホウレンソウやレバー、大豆製品などである。ヘム鉄の方が吸収効率が高い。ただし、過剰に摂取すると鉄過剰症になることもある。同位体[編集]
鉄の「臭い」[編集]
鉄棒などの鉄製品を手に持つと、手に特有の臭いがつく。これは俗に「金属臭」「鉄の臭い」と呼ばれるが、原因は鉄そのものではない(鉄は常温では揮発しない)。研究により、人体の汗に含まれる皮脂分解物と鉄イオンが反応して生じる炭素数7 - 10の直鎖アルデヒド類や1-オクテン-3-オンなどの有機化合物、そしてメチルホスフィン・ジメチルホスフィンなどのホスフィン類がこの臭いの原因であることが確認されている[9][10]。
主な化合物[編集]
- 塩化鉄(II) (FeCl2)
- 塩化鉄(III) (FeCl3)
- 酸化鉄(II) (FeO)
- 四酸化三鉄 (Fe3O4)
- 硫化鉄(II) (FeS)
- 硫酸鉄(II) (FeSO4)
- 硫酸鉄(III) (Fe2(SO4)3)
- ヘキサシアニド鉄(II)酸カリウム (K4[Fe(CN)6])
- ヘキサシアニド鉄(III)酸カリウム (K3[Fe(CN)6])
鉄の利用と文化[編集]
用途[編集]
文化[編集]
西洋占星術や錬金術などの神秘主義哲学では、軍神マルスと関連づけられ、その星である火星を象徴する。これは、古くから鉄が武器の材料として利用されたことや、鉄錆がくすんだ血のような色であることに由来すると思われる︵日本の国立天文台による解説では、火星が赤く見えるのは実際に表面の岩石が酸化鉄﹇赤さび﹈を多く含むからだとされている[11]︶。また、妖精は冷たい鉄を嫌うという伝説があり、ファンタジー小説において魔法的なものとの相性が悪いとされる。また前述のような理由から﹁鉄﹂は﹁強固なもの﹂の代名詞となり﹁鉄の○○﹂などといえば﹁強固で倒しがたいもの﹂という比喩となる︵例‥鉄則、鉄の掟、鉄人、鉄の女、鉄十字、鉄のカーテン、鉄板ネタ︶。 一方の日本では、鉄は邪悪なものを取り除く力を持つと考えられていた時代もあった。たとえば﹃遠野物語﹄では、怪力の河童を鉄の針で退治する、山中で身の危険を感じた猟師が魔除け用に持っていた鉄の弾を撃つというエピソードがある[要出典]。 鉄はその用途から、機械や人工物を象徴する元素として用いられることも多い。対する人間・生物の象徴としては、有機化合物の主要元素である炭素︵元素記号C︶が用いられる。製法[編集]
産出[編集]
選鉱[編集]
記事の体系性を保持するため、 |
製錬[編集]
新製鉄法[編集]
高炉法の問題点[編集]
従来の高炉法の場合、下記の欠点があった。最近提案・実用化されている製鉄法[編集]
溶融還元製鉄法 溶融還元炉では粉状の一般炭を酸素吹きで燃焼させて高温の一酸化炭素ガスを発生させ、予備還元した粉鉄鉱石を一気に還元し溶かして溶けた銑鉄を作る。溶融還元炉を出た一酸化炭素ガスは流動床、回転炉、シャフト炉で鉄鉱石を予備還元する。予備還元炉を出た一酸化炭素ガスは石炭乾燥空気の加熱などを経て、発電やスラブの再加熱、化学原料などに使用される。 利点 ●コークス炉、焼結炉が不要で、反応速度が速く比較的小さな溶融還元炉で大きな生産能力を持つために製鉄所新設の設備投資が高炉法より安くつく。 ●一般炭100 %使用可能なため、資源メジャーの原料炭値上げで大きな損害を出さなくて済む。製鉄だけを目的とするなら、半無煙炭などの炭素含有量の高い石炭を使えば投入原単位を節約できるが、副生ガスを化学工業原料として販売できる立地なら、より安価な高揮発分石炭でガス産出を増やすこともできる。 ●予備還元炉の一部に流動床か回転炉を使えば、安価な粉鉱石も使える。 ●酸素製鉄の場合、発生する還元ガスである一酸化炭素に窒素が混入しないため、燃料としてもカロリーが高いばかりでなく、C1化学の出発原料である合成ガスとして活用できる。日本の製鉄石炭消費は年間1億トンに及び、その排ガスを活用してフィッシャー・トロプシュ法で軽油を生産したり、メタノールを生産した場合数千万トンの自動車燃料を自給できる可能性があると言われている。 ●鉄ガス併産・化学とのコプロダクション[24]。 課題 ●日米欧とも上流設備は過剰気味である。日米欧とも鉄鋼需要は大きな成長はない。需要の増大している中国、インドでは国産鉄鋼の価格が安く、冷延鋼板より上流の製品では日米欧製品は価格が高すぎて売れないため、日本鉄鋼メーカーの設備投資は亜鉛、錫メッキ鋼板設備など下流高級用途に集中している。中国では熱効率が悪く二酸化炭素排出が多い中小高炉が乱立する様相を示しており、地球環境の視点からは、製鉄企業の適正な合併指導と新製鉄法の技術供与が望まれるが、それは中国・インド産鋼鉄の価格競争力を高め、日本産鉄鋼の価格競争力が地盤沈下するブーメラン効果の原因ともなりうる。 ●鉄鋼会社が溶融還元法に転換すると、現在コークスを鉄鋼企業に納品している企業はコークス炉の経営が立ち行かなくなる。そのため、現在稼動中のコークス炉が40年の寿命を迎える2015年まで溶融還元製鉄の導入は困難と見られていたが、昨今の原料炭価格の急激な上昇、韓国浦項総合製鉄の溶融還元製鉄炉操業開始など、切り替えの前倒しが必要になるかもしれない事象が起きている。 ●技術的には酸化鉄による炉壁の溶損の解決が課題のひとつのようである。 ●酸素製鉄法は膨大な酸素を消費する。東京湾・伊勢湾・大阪湾のような液化天然ガスの大消費地であれば液化天然ガスの冷熱利用で低コストに酸素を量産できる可能性があるが、そうでない場合、空気の分留によって酸素を製造するのに多大な電力を消費する。 炭材内装塊の高速自己還元技術 粉炭と粉鉱石を加熱成型した塊を高炉に装填した場合、コークスと塊鉱石を交互装填した場合の5倍の速さで還元反応が進む。また同様の混合ペレットを溶融還元炉に使用した場合、炉壁溶損原因となるFeOの溶出が3 %で済む。回転炉によるITmk3法も後述のフロートスメルター法も同技術を使用している。 フロートスメルター法 粉炭に窪みを作り、粉炭と粉鉱石と石灰を混合したものを窪みに充填し、周囲の石炭を燃焼して加熱する。 50万トン/年規模の小型プラントに適する。炭素の酸化発熱は炭素>一酸化炭素より一酸化炭素>二酸化炭素の発熱量が大であり、石炭をCO2まで酸化することで石炭の使用原単位が減り、CO2の半減効果が得られる。ただし、発生するガスは二酸化炭素であるため化学合成には使えない。 電解精製法 原料を溶解し、電気分解により純鉄を得る方法で、乾式と湿式に分かれる。合金の素材や薬品の原料等、鋼鉄や錬鉄、鋳鉄では代用できない高純度の鉄を得るために行われる。鉄鋼生産の規模[編集]
順位 | 国 | 粗鋼生産量(万トン) |
---|---|---|
1 | 中国 | 90000 |
2 | 日本 | 10000 |
2 | インド | 10000 |
4 | アメリカ合衆国 | 8161 |
5 | ロシア | 7134 |
6 | 大韓民国 | 7103 |
7 | ドイツ | 4326 |
8 | トルコ | 3752 |
9 | ブラジル | 3437 |
10 | イタリア | 2407 |
鉄利用の歴史[編集]
古代[編集]
人類が鉄を発見したのは隕石によってとされており、ニッケルを多く含むものは鍛造が可能であった[26]。古代エジプトで紀元前3000年頃に製作された隕石製とみられる鉄環首飾りが発見されている[26]。メソポタミアでは紀元前3300年から紀元前3000年ごろのウルク遺跡から鉄片が見つかっている。カマン・カレホユック遺跡やアラジャホユック遺跡、紀元前20–18世紀ごろのアッシリア人の遺跡からも当時の鍛鉄が見つかっている。 また、地球上で自然界に存在する鉄は酸化しているため還元する必要があった[26]。紀元前1700年頃のヒッタイトではバッチ式の炉を用いた鉄鉱石の還元とその加熱鍛造という高度な製鉄技術により鉄器文化を築いたとされる[26]。トロイ戦争でのヒッタイトの敗北により製鉄技術はヨーロッパ全土に広がった[26]。 しかし、鉄は錆びて土に還ってしまうため古代の歴史的な遺物で鉄製のものはあまり残っていない[26]。ヨーロッパ[編集]
中世[編集]
近世[編集]
鉄を生産しているところでは森林破壊が深刻で、16世紀に鉄の生産が増加したイギリスでは、17世紀には鉄生産のための森林破壊が深刻となって木炭が枯渇し始め、製鉄の中心地だったウィールドでは17世紀末になると生産量が盛時だった17世紀前半の半分以下まで落ち込み、18世紀半ばには10分の1まで減少した。18世紀後半にはダービーでコークスを使った精錬が始まる。コークスは石炭を蒸し焼きにしたもので、不純物が少なく鉄の精錬に使うことができ、火力も強かった。コークスの発明により木材資源の心配がなくなり、鉄の生産量も増加した。中国[編集]
青銅の鋳造技術はメソポタミアにはあったが、鉄の鋳造技術は紀元前7世紀頃の中国で開発された[26]。鉄の鋳造は可能となったものの、それは黒鉛を含有しないチルと呼ばれる硬くて脆い鋳鉄だった[26]。紀元前470年頃にはそれを約900〜1000度の酸化鉄内で3日間加熱して白心可鍛鋳鉄にする技術があったという研究もある︵歴史的には1772年にフランスのルネ・レオミュールが発明したとされている︶[26]。 チンギス・ハーンらの宮殿や歴代皇帝の霊廟とされるモンゴルのアウラガ遺跡から出土した棒状鉄材の化学分析や顕微鏡観察の結果、硫黄の含有量 0.52%、銅のそれ 0.45%と非常に高く、中国山東省の金嶺鎮鉱山の鉄鉱石に近いことがわかった。モンゴル内地に鉄産地はほとんどなく、鉄の供給源として重視した可能性があるという[27]。日本[編集]
古代・中世前期[編集]
青銅器と鉄器とは紀元前3世紀ごろ、ほぼ同時期に日本へ伝来し、朝鮮半島より輸入され国内へ広まったと考えられていた。 赤井手遺跡︵福岡︶の鉄工房跡から紀元前10世紀頃の鉄素材が出土。 曲り田遺跡︵福岡︶で紀元前4世紀の鍛造の板状の鉄器が出土。 舟木遺跡︵淡路︶で紀元前3世紀の鍛治工房4棟が発掘されている。 青銅および青銅器は紀元前1世紀ごろより日本で作られるようになった。 鉄器製作は、弥生時代後期後半︵1–3世紀︶ごろより開始された︵北部九州のカラカミ遺跡︵壱岐市︶や備後の小丸遺跡︵三原市︶︶。朝鮮半島で製鉄した鉄素材を入手し鍛鉄を行ったが、製鉄もこの頃より始まったとする研究もある。 6世紀には、出雲地方や吉備で、製鉄が広く行われるようになった。鞴︵ふいご︶を使い、製鉄炉の作り方は、朝鮮半島からの導入と推定されている[28]。当初の原料は主に鉄鉱石を採掘した。ただし採掘地は限られ、産量も豊富ではなく[29]、その後も、朝鮮半島から鉄素材の入手を続けた。総社市の千引かなくろ谷遺跡は6世紀後半の製鉄炉跡4基、製鉄窯跡3基が見つかっている。 日本の製鉄法はある時期以降は﹁たたら﹂と呼ばれる特徴ある鋼塊炉︵bloomery︶を用い、砂鉄︵国内各地で採れ、鉄の含有量も高い︶を原料とする直接製鉄法[30]を用いるようになリ、国内各地で安定して自給生産可能となった。 古代、中世においては露天式の野だたら法が頻繁に行われていたが、16世紀中葉より全天候型で送風量を増加した永代たたら法に発展した。この古代以来の日本独自のたたら製鉄法では、玉鋼や包丁鉄といった複数の鉄が同時に得られるために、それがのちの日本刀を生み出す礎となった。 出雲は古代より一貫して日本全国に鉄を供給し、現在でも出雲地方にその文化の名残が認められ、日立金属などの高級特殊鋼メーカーへと変貌を遂げている。 養老律令の規定では、鉄や銅の採取活動に関しては官による採取が優先されるものの、民間による採取を否定したものではなかった︵雑令国内条︶。これは中国の唐令の規定をそのまま日本に導入したものと考えられる︵ただし、中国では宋に入ると民間による採取を禁じる方針に変更されていくことになる︶。また、生産に関しても蝦夷と近接する東辺・北辺での鉄の生産を規制する規定は存在していた︵関市令弓箭条︶が、他に規制の存在をうかがわせる史料は見つかっていない。また、調として鉄や鍬の貢納が指定されていたり、国司が武器や鉄器の原料として民間との間で鉄の交易を図っていたことを示す正税帳の記述もあり、国家による徴収・再分配・放出とは別に民間における鉄のある程度の生産・流通が存在し、王臣家や中小生産者など幅広い層が担っていた。律令国家においては所謂﹁官営工房﹂が生産・流通を支配していたとする﹁官営工房﹂論が存在しているが、当時の文献や古記録からは国家による鉄や鉄製品の生産・流通の独占管理が行われていた事を示すものは無く、︵価格の問題はあるものの︶一般に対価さえ支払えば鉄や鉄器の購入が可能であったと考えるのが適切である[31]。 農具が鉄器で作られるようになると、農地の開拓が進んだ。しかし中世初期は鉄は非常に貴重であり、鉄製の農機具は一般農民には私有できず公の持ちものであり、公の農地を耕し、朝借りてきて夕方には洗って返すことになっていた。私有地の耕作には鉄の農機具を使うことができず、生産量が劣った。すなわち、中世の日本の貴族は鉄の所有権を通して遠隔地にある荘園を管理した[32]。 11世紀ごろより鉄の生産量が増えると、鉄が安価に供給されるようになった。個人が鉄の農機具を持つことができるようになると、新たな農地の開墾が進んだ。中世後期・近世[編集]
生体内での利用[編集]
鉄分の役割[編集]
鉄の生物学的役割は非常に重要である。赤血球の中に含まれるヘモグロビンは、鉄のイオンを利用して酸素を運搬している[36]。ヘモグロビン1分子には4つの鉄︵Ⅱ︶イオンが存在し、それぞれがポルフィリンという有機化合物と錯体を形成した状態で存在する[37]。この錯体はヘムと呼ばれ、ミオグロビン、カタラーゼ、シトクロムなどのタンパク質にも含まれる[38]。ヘモグロビンと酸素分子の結合は弱く、筋肉のような酸素を利用する組織に到着すると容易に酸素を放出することができる[37]。 フェリチンは鉄を貯蔵する機能を持つタンパク質ファミリーである。その核は鉄︵Ⅲ︶イオン、酸化物イオン、水酸化物イオン、リン酸イオンからなる巨大なクラスター︵オキソヒドロキソリン酸鉄︶で、分子あたり4500個もの鉄イオンを含む[37]。タンパク質名 | 1分子中の鉄原子数 | 機能 |
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ヘモグロビン | 4 | 血液中のO2輸送[36] |
ミオグロビン | 1 | 骨格筋細胞中のO2貯蔵[36] |
トランスフェリン | 2 | 血液中のFe3+輸送[39] |
フェリチン | 4500以下 | 肝臓、脾臓、骨髄などの 細胞中でのFe3+貯蔵[39] |
ヘモシデリン | 103 - 104 | Feの貯蔵 |
カタラーゼ | 4 | H2O2の分解 |
シトクロムc | 1 | 電子移動 |
鉄-硫黄タンパク質 | 2 - 8 | 電子移動 |
鉄分の吸収[編集]
鉄分の吸収抑制による抗菌作用[編集]
ヘプシジンは肝臓で産生される一種のペプチドホルモンであり、鉄代謝の制御を行っている。ヘプシジンは腸からの鉄の過剰な吸収を抑制する作用を有する。ヘプシジン産生障害は鉄過剰症を引き起こす。多くの病原体はその増殖に多量の鉄を要するため、ヘプシジンが血清鉄濃度を低下させることは炎症の原因となる菌の増殖を抑制して抗菌作用も発揮することになる[43]。 ラクトフェリンは、母乳・涙・汗・唾液などの外分泌液中に含まれる鉄結合性の糖タンパク質である。ラクトフェリンは、強力な抗菌活性を持つことが知られている。グラム陽性・グラム陰性に関係なく、多くの細菌は生育に鉄が必要である。トランスフェリンと同様、ラクトフェリンは鉄を奪い去ることで、細菌の増殖を抑制する[44][45]。鉄分の不足[編集]
ヒトの場合、ヘモグロビンの原料である体内の鉄分が不足すると、ヘモグロビンが十分に合成できないため酸素の運搬量が不足し、鉄欠乏性貧血を起こすことがある。また鉄不足は疾病リスクの上昇につながることが示唆されてきており[46][47][48]、鉄分を充分に補充する必要がある。鉄分は、レバーやホウレンソウなどの食品に多く含まれ、そのほかに鉄分を多く含む食品は、ひじき、海苔、ゴマ、パセリ、アサリ、シジミなどである。これらを摂取することで鉄分の不足が改善される。 また鉄の溶解度が小さい土壌で育てられる植物などでは、鉄吸収が不足することで植物の成長が止まり黄化することがある。この症状は、土壌に水溶性型の鉄肥料を与えるなどすると一時的に改善されるが、植物中に含まれる鉄量が増えるわけではなく、ビタミンAの含有量が増えることが分かっている。したがって、鉄肥料を与えることは植物中の鉄分ではなくビタミンAを増やすことに役立つ。植物の鉄欠乏を長期的に改善するには、土壌に大量の硫黄を投入するなどして、土壌質を変える必要がある。なお陸上植物に限らず、藻類も微量の鉄を必要とする。鉄分の過剰[編集]
一方で、過剰な鉄の摂取は生体にとって有害である。ヒトでは食生活の問題による鉄の蓄積︵バンツー血鉄症など︶や、度重なる輸血による鉄の蓄積などが知られている。自由な鉄原子は過酸化物と反応しフリーラジカルを生成し、これがDNAやタンパク質、および脂質を破壊するためである。細胞中で鉄を束縛するトランスフェリンの量を超えて鉄を摂取すると、これによって自由な鉄原子が生じ、鉄中毒となる。余剰の鉄はフェリチンやヘモジデリンにも貯蔵隔離される。過剰の鉄はこれらのタンパク質に結合していない自由鉄を生じる。自由鉄がフェントン反応を介してヒドロキシラジカルなどの活性酸素を発生させる。発生した活性酸素は細胞のタンパク質やDNAを損傷させる。活性酸素が各臓器を攻撃し、肝臓には肝炎、肝硬変、肝臓がんを、膵臓には糖尿病、膵臓癌を、心臓には心不全を引き起こす[49]。脂肪肝においては、血清フェリチンの増加がしばしばみられ、脂肪肝の中でも非アルコール性脂肪性肝炎︵NASH︶を含んだ非アルコール性脂肪性肝疾患では、肝組織内の鉄の過剰が肝障害の増悪因子と考えられている[50]。ヒトの体には鉄を排出する効率的なメカニズムがなく、粘膜や粘液に含まれる1–2 mg/日程度の少量の鉄が排出されるだけであるため、ヒトが吸収できる鉄の量は1–2 mg/日程度と非常に少ない[49]。しかし血中の鉄分が一定限度を超えると、鉄の吸収をコントロールしている消化器官の細胞が破壊される。このため、高濃度の鉄が蓄積すると、ヒトの心臓や肝臓に恒久的な損傷が及ぶことがあり[51]、致死性の中毒症状を発症する。鉄分の許容量[編集]
米国科学アカデミーが公表しているDRI指数によれば、ヒトが1日のうちに許容できる鉄分は、大人で45 mg、14歳以下の子どもは40 mgまでである。摂取量が体重1 kgあたり20 mgを超えると鉄中毒の症状を呈する。鉄の致死量は体重1 kgあたり60 mgである。6歳以下の子どもが鉄中毒で死亡するおもな原因として、硫酸鉄を含んだ大人向けの錠剤の誤飲である。
なお、遺伝的な要因により、鉄の吸収ができない人々もいる。第六染色体のHLA-H遺伝子に欠陥を持つ人は、過剰に鉄を摂取するとヘモクロマトーシスなどの鉄分過剰症になり、肝臓あるいは心臓に異変をきたすことがある。ヘモクロマトーシスを患う人は、白人では全体の0.3–0.8 %と推定されているが、多くの人は自分が鉄過剰症であることに気づいていないため、一般に鉄分補給のための錠剤を摂取する場合は、特に鉄欠乏症でない限り、医師に相談することが望ましい。
鉄の許容上限摂取量[編集]
鉄の過剰摂取による臓器への鉄の沈着は種々の慢性疾患の発症リスクを高めるため耐容上限量が設定されている。日本で定める耐容上限量は15歳以上の男性が一律に50 mg/日、女性が40 mg/日である。耐容上限量を算出するため、二重盲検試験において、非ヘム鉄(フマル酸鉄)を60 mg/日のグループと、ヘム鉄と非ヘム鉄混合を18 mg/日(豚血液由来 ヘム鉄2 mg/日+フマル酸鉄16 mg/日)グループと、 偽薬投与グループに分けて試験した結果、非ヘム鉄投与グループは他群と比較して便秘や胃腸症状などの健康障害の有訴率が有意に高かった。また、南アフリカのバンツー族で、バンツー鉄沈着症という病気が発生したが、 これは鉄を大量に含むビールの常飲や、鉄鍋由来の鉄により 鉄摂取量が50–100 mg/日となったためだと考えられ、バンツー鉄沈着症は鉄摂取量がおよそ100 mg/日を超えると発生すると推定される。そのことから算出した日本での耐容上限量は、15歳以上男性に対する耐容上限量を一律に50 mg/日とし、女性は体重差を考慮し15歳以上一律に40 mg/日とした。また、アメリカ・カナダの食事摂取基準では、二重盲検試験から算出した耐容上限量で、男女とも成人の鉄の耐容上限量を一律に 45 mg/日としている。また、FAO/WHOは暫定耐容最大1日摂取量(provisional maximal tolerable intake)を0.8 mg/kg 体重/日と定めているが、根拠は不明である[52]。
鉄分の推奨量[編集]
性 別 | 男 性 | 女 性 | ||||||||
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年齢等 | 推定平均 必要量 |
推奨量 | 目安量 | 耐容 上限量[注 3] |
月経なし | 月経あり | 目安量 | 耐容 上限量 | ||
推定平均 必要量 |
推奨量 | 推定平均 必要量 |
推奨量 | |||||||
0~5(月) | - | - | 0.5 | - | - | - | - | - | 0.5 | - |
6~11(月) | 3.5 | 5 | - | - | 3.5 | 4.5 | - | - | - | - |
1~2(歳) | 3 | 4.5 | - | 25 | 3 | 4.5 | - | - | - | 20 |
3~5(歳) | 4 | 5.5 | - | 25 | 3.5 | 5 | - | - | - | 25 |
6~7(歳) | 4.5 | 6.5 | - | 30 | 4.5 | 6.5 | - | - | - | 30 |
8~9(歳) | 6 | 8 | - | 35 | 6 | 8.5 | - | - | - | 35 |
10~11(歳) | 7 | 10 | - | 35 | 7 | 10 | 10 | 14 | - | 35 |
12~14(歳) | 8.5 | 11.5 | - | 50 | 7 | 10 | 10 | 14 | - | 50 |
15~17(歳) | 8 | 9.5 | - | 50 | 5.5 | 7 | 8.5 | 10.5 | - | 40 |
18~29(歳) | 6 | 7 | - | 50 | 5 | 6 | 8.5 | 10.5 | - | 40 |
30~49(歳) | 6.5 | 7.5 | - | 55 | 5.5 | y6.5 | 9 | 10.5 | - | 40 |
50~69(歳) | 6 | 7.5 | - | 50 | 5.5 | 6.5 | 9 | 10.5 | - | 40 |
70以上(歳) | 6 | 7 | - | 50 | 5 | 6 | - | - | - | 40 |
妊婦(付加量) | ||||||||||
初期 | +2 | +2.5 | ||||||||
中期・後期 | +12.5 | +15 | ||||||||
授乳婦(付加量) | +2 | +2.5 |
性別年齢 | 1-6歳 | 7-14歳 | 15-19歳 | 20-29歳 | 30-39歳 | 40-49歳 | 50-59歳 | 60-69歳 | 70-79歳 | 80歳以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
男性 | 4.5 | 6.7 | 7.9 | 7.4 | 7.2 | 7.6 | 8.1 | 8.8 | 9.2 | 8.3 |
女性 | 4.0 | 6.3 | 7.0 | 6.2 | 6.4 | 6.7 | 7.2 | 8.4 | 8.6 | 7.4 |
その他[編集]
鉄の同位体の1種である59Feは、鉄動態検査に用いられる。脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
参考文献[編集]
●東京大学海洋研究所﹃海洋のしくみ﹄日本実業出版社︿入門ビジュアルサイエンス﹀、1997年。ISBN 4534026757。国立国会図書館書誌ID:000002630397。 ●八木康一, 能野秀典, 矢沢道生, 桑山秀人﹃ライフサイエンス系の無機化学﹄三共出版、1997年。ISBN 4782703627。国立国会図書館書誌ID:000002644788。関連文献[編集]
●﹃メイド・イン・ジャパン-日本製造業変革への指針-﹄︵ダイヤモンド社、1994年︶ ●﹃産業技術短期大学大学案内2011﹄︵産業技術短期大学、2010年︶ ●﹃産業技術短期大学五十年のあゆみ﹄︵学校法人鉄鋼学園 産業技術短期大学、2012.4.25︶ ●﹃日本の鉄鋼業﹄︵日本鉄鋼連盟、2013年︶ ●﹃日本の鉄鋼業﹄︵日本鉄鋼連盟、2015年︶ ●﹃産業技術短期大学大学案内2018﹄︵産業技術短期大学、2017年︶ ●﹃日本の鉄鋼業﹄︵日本鉄鋼連盟、2017年︶ ●﹃産業技術短期大学大学案内2019﹄︵産業技術短期大学、2018年︶ ●﹃日本の鉄鋼業﹄︵日本鉄鋼連盟、2018年︶ ●﹃日本の鉄鋼業﹄︵日本鉄鋼連盟、2019年︶ ほか関連項目[編集]
- 隕鉄
- 鋼
- たたら吹き
- たたら研究会
- 産業革命
- 溶接
- 鉄バクテリア
- マルテンサイト
- 人造黒鉛電極
- KEY to METALS - データベース
- 製鉄所
- 鉄鋼業
- 日本鉄鋼連盟-日本の鉄鋼業の業界団体。
- 産業技術短期大学-日本の鉄鋼業界(日本鉄鋼連盟)が設立した大学。
外部リンク[編集]
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1 | H | He | |||||||||||||||||||||||||||||||
2 | Li | Be | B | C | N | O | F | Ne | |||||||||||||||||||||||||
3 | Na | Mg | Al | Si | P | S | Cl | Ar | |||||||||||||||||||||||||
4 | K | Ca | Sc | Ti | V | Cr | Mn | Fe | Co | Ni | Cu | Zn | Ga | Ge | As | Se | Br | Kr | |||||||||||||||
5 | Rb | Sr | Y | Zr | Nb | Mo | Tc | Ru | Rh | Pd | Ag | Cd | In | Sn | Sb | Te | I | Xe | |||||||||||||||
6 | Cs | Ba | La | Ce | Pr | Nd | Pm | Sm | Eu | Gd | Tb | Dy | Ho | Er | Tm | Yb | Lu | Hf | Ta | W | Re | Os | Ir | Pt | Au | Hg | Tl | Pb | Bi | Po | At | Rn | |
7 | Fr | Ra | Ac | Th | Pa | U | Np | Pu | Am | Cm | Bk | Cf | Es | Fm | Md | No | Lr | Rf | Db | Sg | Bh | Hs | Mt | Ds | Rg | Cn | Nh | Fl | Mc | Lv | Ts | Og | |
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