ツキノワグマ
ツキノワグマ | |||||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ツキノワグマ Ursus thibetanus | |||||||||||||||||||||||||||
保全状況評価[1] | |||||||||||||||||||||||||||
VULNERABLE (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) | |||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||
| |||||||||||||||||||||||||||
学名 | |||||||||||||||||||||||||||
Ursus thibetanus G. Cuvier, 1823[4] | |||||||||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||||||||
Selenarctos thibetanus | |||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||
ツキノワグマ[5][6][7][8] | |||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||
Asian black bear[4] Asiatic black bear[1][6][7] Himalayan black bear[1] Moon bear[7] |
ツキノワグマ︵月輪熊[9]、学名: Ursus thibetanus︶は、哺乳綱食肉目クマ科クマ属に分類される食肉類。別名アジアクロクマ、ヒマラヤグマ[7]。
日本の本州、四国にも生息するクマ︵熊︶である[10]︵﹁ニホンツキノワグマ﹂を参照︶。
分布[編集]
アフガニスタン、イラン南東部、インド、カンボジア、タイ王国、大韓民国、中華人民共和国北東部から南部、台湾、朝鮮民主主義人民共和国、日本、ネパール、パキスタン、バングラデシュ、ブータン、ミャンマー、ラオス、ロシア東部[1]。形態[編集]
頭胴長︵体長︶120 - 180センチメートル[6][7]。尾長6 - 10.5センチメートル[7]。体重オス50 - 120キログラム[5]、メス40 - 70キログラム[7]。最大体重173キログラム[7]。肩が隆起せず、背の方が高い[7]。全身の毛衣は黒いが、赤褐色の個体もいる[5][6][7]。胸部に三日月形やアルファベットのV字状の白い斑紋が入り[6]、和名の由来になっている[7]。旧属名Selenarctosは﹁月のクマ﹂の意で、これも前胸部の斑紋に由来する[5]。一方でこの斑紋がない個体もいる[11]。 眼や耳介は小型[7]。乳頭の数は3対[6]。分類[編集]
以下の亜種の分類は、川口 (1991)・Wozencraft (2005) に従う[4][6]。 Ursus thibetanus thibetanus G. Cuvier, 1823 チベットツキノワグマ[12] インド北東部のアッサムおよびそこに隣接するバングラデシュのシレット[6]。中華人民共和国︵雲南省南西部、四川省北西部、青海省南部、チベット自治区南東部︶[12]。 Ursus thibetanus formosanus Swinhoe, 1864 タイワンツキノワグマ[13] 台湾[6][8] Ursus thibetanus gedrosianus Blanford, 1877 バロチスタンツキノワグマ[14] イラン、パキスタン[8] 赤褐色の体毛で被われる個体が多い[14]。 Ursus thibetanus japonicus Schlegel, 1857 ニホンツキノワグマ[6][15] 日本︵本州、四国︶[6][8][15] Ursus thibetanus laniger (Pocock, 1932) ヒマラヤツキノワグマ︵ヒマラヤグマ︶[12] カシミール[6]、パキスタン北部[14] Ursus thibetanus mupinensis (Heude, 1901) シセンツキノワグマ[12] 中華人民共和国︵青海省、甘粛省、陝西省からチベット自治区、広西チワン族自治区、広東省、浙江省にかけて︶[12] Ursus thibetanus ussuricus (Heude, 1901) ウスリーツキノワグマ[12] 中華人民共和国北東部、朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国、ロシア南東部[8] カンボジアでは、野生下でマレーグマと交雑した例が報告されている[1]。生態[編集]
森林に生息する[6]。夜行性で、昼間は樹洞や岩の割れ目、洞窟などで休むが、果実がある時期は昼間に活動することもある[6]。夏季には標高3,600メートルの場所でも生活するが、冬季になると標高の低い場所へ移動する[6]。シベリアの個体群は4 - 5か月にわたり冬眠するとされるが、パキスタン南部の個体群は冬眠しないとされる[6]。 植物の果実・芽、小型の脊椎動物、昆虫、無脊椎動物、動物の死骸などを食べる[6]。脊椎動物の食物としてカワガラスなどの鳥類、ネズミ科などの齧歯類、ニホンノウサギ、ニホンジカ、ニホンカモシカのほか、共食いとみられる例が報告されている[16]。日本の長野県で1975 - 1977年に行われた135個の糞の内容物調査では、植物質と動物質を含む糞が47.4 %︵64個︶、植物質のみを含む糞が39.3 %︵53個︶、動物質のみを含む糞の割合が13.3 %︵13個︶であったという報告例がある[17]。この調査では植物質を含んだ糞の71.8 %にミズナラ︵含まれていた糞の数84個︶、19.7 %にアケビ類︵23個︶、15.4 %にタラノキ︵18個︶、9.4 %にヤマブドウ︵11個︶、8.5 %にサルナシ︵10個︶の一部が含まれていたと報告されている[17]。動物質を含んだ糞では57.3 %にアリ科︵47個︶、36.6 %にスズメバチ科・ミツバチ科︵30個︶、9.8 %にニホンノウサギ︵8個︶、4.9 %に甲虫類、3.7 %にニホンカモシカ︵3個︶の一部が含まれていたと報告されている[17]。猛禽類︵イヌワシ︶の雛や大型草食獣︵ニホンカモシカ︶の幼獣などを捕獲して食べるなどする[18]。 ドングリ︵ブナ科堅果︶などの採食のため樹上に登るが、枝先まで移動することができない[19]。そのため枝を手元にたぐり寄せて採食するが、そのときに枝が折れて樹上に熊棚︵クマ棚︶と呼ばれる鳥の巣のような採食痕跡を残す[19]。クマ棚は豊作年には少なく、凶作年には多くなる傾向がある[19]。 繁殖様式は胎生。シベリアの個体群は6 - 7月、パキスタンの個体群は10月に交尾を行う[6]。主に2頭の幼獣を産む[6]。授乳期間は3か月半[6]。幼獣は生後1週間で開眼し、生後2 - 3年は母親と生活する[6]。生後3 - 4年で性成熟する[6]。飼育下での寿命は約33年[6]。1991年の時点での飼育下の長期生存例として広島市安佐動物公園で推定39年2か月︵1948年3月捕獲 - 1987年4月︶で死んだ個体︵コロ︶の例がある[20]。京都市動物園で推定39年︵1975年5月来園 - 2014年11月︶で死んだ個体︵サクラ︶の例がある[21]。人間との関係[編集]
胆嚢は薬用とされる[1]︵熊胆︶。薬効成分はUDCAとされ、化学合成が可能で代用品もあるが珍重されている[1]。熊肉が食用にされることもある[22]。日本︵詳細は後述︶とロシアでは法律によって狩猟︵スポーツハンティング︶が許可されている[1]が、日本では地域・時季により制限がある︵﹁#生息数﹂﹁#日本社会とツキノワグマ﹂で後述︶。 農作物や養蜂、人間そのものに直接的な被害を与えることもある[1]。インドのシッキム州では2008 - 2013年に少なくとも25人が本種に襲われたことで死亡している[1]。 道路やダムの建設、農地開発、植林による生息地の破壊、毛皮や熊胆、熊の手目的の乱獲、駆除などにより生息数は減少している[1][7]。幼獣をペット用に、牙や爪を取り除いたうえで犬と戦わせるなどの見世物とする目的での捕獲も懸念されている[1]。アフガニスタンでは見られなくなり、バングラデシュや朝鮮半島では絶滅の危険性が高い[7]。保護の対象とされることもあるが密猟されることもあり、中華人民共和国や朝鮮半島へ密輸されているとされる[7]。国際的商取引は禁止されているが、例として1970 - 1993年に大韓民国へ2,867頭が輸入された記録がある[7]。1977年に亜種バロチスタンツキノワグマが、1979年に種単位で絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約︵ワシントン条約︶附属書Iに掲載されている[3]。旧ソビエト連邦での1970年代における生息数は6,000 - 8,000頭、1985年における生息数は4,600 - 5,400頭と推定されている[7]。中華人民共和国での1995年における生息数は、12,000 - 18,000頭と推定されている[7]。
U. t. formosanus タイワンツキノワグマ
台湾原住民により狩猟の対象とされていた。ブヌン族では共通の祖先をもつという伝承から伝統的に狩猟は禁忌傾向とされるも、仕留めるのが難しいことから狩りに成功すれば英雄視された[13]。原住民の間は本種は攻撃的、狩猟が難しい、希少なことから主流ではなく、主に有蹄類を狩猟する[13]。一方でブヌン族への調査では有蹄類用のくくり罠やトラバサミで混獲されたり、偶然遭遇してしまい狩猟されたりすることもある[13]。伝統的に漢民族では各部位が薬用になると信じられ特に胆嚢の価値が高いとされるが、原住民では文化や味・外部での市場価値が高いことから肉以外の部位は外部の市場に売り払い原住民の間では取引されることはなかった[13]。1960年代以降は野生動物の肉を扱う飲食店が増えたことで、狩猟者が肉や部位全体を売るようになった[13]。例として玉山国家立公園周辺では1980年代以前は販売目的の狩猟は22%だったが、1990年代では59%に増加した[13]。
台湾では1989年に法的に保護の対象とされているが、密猟されることもある[13]。
U. t. japonicus ニホンツキノワグマ
下北半島のツキノワグマ︵下北半島個体群︶
1998年における下北半島︵青森県︶の森林率は79 %で減少傾向にあり、一方で人工林率は43 %で増加傾向にある[11]。2008年の時点での生息数は120 - 270頭と推定されている[11]。
絶滅のおそれのある地域個体群︵環境省レッドリスト︶[11]
紀伊半島のツキノワグマ︵紀伊半島個体群︶
紀伊半島は古くから林業地帯であり第二次世界大戦後の人工林増加もあり、人工林率は絶滅のおそれがある地域の中でも最も大きい[23]。1994年に奈良県と三重県、和歌山県では狩猟による捕獲が禁止されている[23]。1965年における生息数は335頭、1987年と1999年における生息数はそれぞれ180頭と推定されている[23]。
絶滅のおそれのある地域個体群︵環境省レッドリスト︶[23]
近畿北部地方のツキノワグマ︵近畿北部地域個体群︶
近畿地方北部に位置する京都府の推定生息数は、平成14年度︵2002年度︶の200-500頭から令和2年度︵2020年度︶の1640頭と回復傾向を見せた。このことから京都府はレッドデータブック︵レッドノート︶による指定を﹁絶滅寸前種﹂から﹁要注目種﹂に変更。平成14年度から禁止された狩猟を令和3年度︵2021年度︶から頭数限定で認めることとなった[24]。
東中国地域のツキノワグマ︵中国地方東部個体群︶
人工林の増加、道路建設やスキー場建設、イノシシ用の罠による混獲などによる影響が懸念されている[25]。
絶滅のおそれのある地域個体群︵環境省レッドリスト︶[25]
西中国地域のツキノワグマ︵中国地方西部個体群︶
自然林の減少、住宅地や人工林の増加、スキー場開発や別荘地造成、イノシシ用の罠による混獲などによる影響が懸念されている[26]。1994年に島根県と広島県・山口県では、狩猟による捕獲が禁止されている[26]。一方で有害駆除は行われており、2006年に239頭、2008年に67頭、2010年に182頭が捕獲されている[26]。1998 - 1999年度における生息数は280 - 680頭、2004 - 2005年度における生息数は300 - 740頭と推定されている[26]。
絶滅のおそれのある地域個体群︵環境省レッドリスト︶[26]
四国山地のツキノワグマ︵四国個体群︶
四国山地では、1970年代後半に愛媛県と香川県で絶滅し、1990年代以降は確実な生息が報告されているのは剣山周辺︵高知県北東部・徳島県南西部︶に限定される[27]。分布域が非常に限定的であることにくわえて、イノシシやニホンジカ用の罠による混獲・道路建設による影響が懸念されている[27]。1986年に高知県、1987年に徳島県、1994年に四国全域で狩猟による捕獲が禁止されている[27]。1996年時点での徳島県における生息数は12頭以上、高知県における生息数は2 - 10頭と推定されている[26][27]。
絶滅のおそれのある地域個体群︵環境省レッドリスト︶[27]
九州地方のツキノワグマ︵九州個体群︶
九州の個体群は捕獲例が1941年、確実な目撃例が幼獣の死骸が発見された1957年以降はなく絶滅したと考えられている[28]。1987年に捕獲例もあるが頭骨の計測から中国地方以北の個体であることが示唆され、ミトコンドリアDNAの分子系統解析でも福井県から岐阜県にかけての個体群と一致する解析結果が得られた[28]。そのため琵琶湖以東の個体あるいは琵琶湖以東の個体に由来する個体が人為的に移入された後に捕獲されたと考えられている[28]。環境省は2007年の第3次レッドリストでは絶滅のおそれのある地域個体群として評価していたが、分子系統解析などの報告を受け九州個体群が絶滅した可能性が高いとして2012年の第4次レッドリストから削除している[29]。それ以前から祖母・傾山系や九州山地・脊振山地では目撃例があるが、仮に野生個体がいても本州からの移入個体が発見されたという前例から遺伝的解析を行わないと九州の個体群とは断定できないという問題がある[30]。宮崎大学の岩本俊孝名誉教授は、クマは長距離を泳げず、たまたま1頭が泳いで海を渡ってもオスとメスが揃わなければ繁殖できないとして、海を渡ってあらたに九州に来ることは考えにくいとしている[31]。
この節は、全部または一部が他の記事や節と重複しています。 具体的にはニホンツキノワグマ#個体数と人間との関係との重複です。
(一)重複箇所を重複先記事へのリンクと要約文にする︵ウィキペディアの要約スタイル参照︶か
(二)重複記事同士を統合する︵ページの分割と統合参照︶か
(三)重複部分を削除して残りを新たな記事としてください。
︵2021年5月︶ |
日本社会とツキノワグマ[編集]
狩猟と利用・獣害[編集]
日本では古来、狩猟対象となっている︵﹁狩猟#日本﹂﹁マタギ﹂も参照︶。現代において狩猟が認められている地域では、地方自治体が猟期︵禁猟期︶を設定している[32]。一方で、上記の地域個体群で記述したように、狩猟が禁止されている地方自治体もある[23][26][27]。
狩猟により得られたツキノワグマは熊胆採取のほか、肉がジビエの一つとして食用にされることもある[22]。
日本でも、家畜や農作物・人間への被害が発生している[7]。猟の許可や猟期延長は獣害抑制という目的もある[32]。一例として2004年には全国で109人︵うち死亡者2名︶、2006年には145人︵うち死亡者3名︶、2010年には147人︵うち死亡者2名︶の被害者が報告されている[33]。秋田県鹿角市において2016年に5月下旬から6月の短期間にかけて7人が被害に遭い、うち4人が死亡し遺体を食害された﹁十和利山熊襲撃事件﹂の例もある[34]。これは日本における単独のクマによる獣害では、この100年間で最大の死者数である︵国内記録で史上3番目︶。大正時代北海道の三毛別羆事件に代表される、巨体で肉食性が強く気も荒いというエゾヒグマによる獣害と死者はよく知られるところであるが、比較して体格も小さく弱いとされるツキノワグマでもこれだけの犠牲が現出した。
森林内はもとより、森林と人間の居住エリアとの境界付近であることが多い。また、クマは背中を見せて逃げるものを追う習性があるため、出遭ってしまったときは、静かに後ずさりすべきである[35]。
養蜂場や養魚場も熊による被害が大きい。日本では主に6 - 7月にカラマツやスギ、ヒノキなどの樹皮を剥いで維管束形成層を食べるため、林業における害獣とみなされている[15]。これを林業関係者は﹁クマハギ﹂と呼ぶ[36]。全周剥皮では枯死、部分剥皮では剥皮が大規模なら衰弱し、腐食などにより材木の価値が下がるなどの被害が生じる[15]。樹皮剥ぎの理由はよく分かっておらず、食物が乏しいため樹皮を食用とする説、繁殖行動のためのメスの誘引などの説がある[15]。樹皮剥ぎの被害は西日本の太平洋側が中心と言われてきたが[15]、近年では西日本の日本海側や東北地方でも深刻なことが確認されている[37]。1998 - 2000年に岐阜県で行われた糞の内容物、血液中の尿素やヘモグロビンの濃度の調査ではウワミズザクラの果実の比率が下がる年は針葉樹の樹皮の比率が上昇したこと、樹皮の比率が上昇した年は血中尿素濃度が高く血中ヘモグロビン濃度が低いことから、凶作により栄養状態の悪い年には樹皮剥ぎを行われることを示唆する報告例もある[38]
日本国内における個体数は、10,000頭前後と推定されていた。しかし堅果類の凶作年の2004年に約2,300頭、2006年に約4,600頭のクマが捕殺[39]された後も、頻繁に目撃されていることから実態数は不明である。2010年の大量出没年の際に﹃朝日新聞﹄が、各都道府県の担当者に聞き取り調査を行った数では16,000頭-26,000頭[40]と幅が大きい上、数十頭の個体数と考えられていた岡山県などで推測数の半分近くが捕獲される例が相次ぎ、誤差の大きさをうかがわせている。
近年でのクマの異常出没の原因・要因として、短期的︵直接・至近︶要因では、堅果類︵ドングリ︶の大凶作、同じくドングリを実らせるナラ枯れ等によるナラ枯損面積の拡大が挙げられる。また、長期的背景として、生息数の回復・増加、奥山林の変化、拡大造林地の成熟と生息地シフト、里山地域の放棄と生息変化、餌などの誘引要因の増加︵カキなど放置果樹、果樹の大量放棄、残飯・ゴミ︶、ハンターの減少、﹁新世代グマ﹂の登場などが挙げられる[41][42]。﹁新世代グマ︵クマ︶﹂とは、人を恐れなくなったクマに対して大学研究者らを含めて使われる呼称である[43][44]。
行政からは廃棄果樹、ゴミなどの撤去を強く指導しているほか、カキなどの誘引果樹の早期除去、追い払い体制の整備︵煙火弾、轟音弾︶、警戒と捕獲体制の整備︵罠、駆除隊︶が今後の行政の課題となっている[45]。中期的対応課題としては、ハザードマップの作成と警戒地区の指定、ベアドッグの訓練と解禁︵地区、期間限定の放し飼い︶、里山の整備、回廊状構造の整備が挙げられる[45]。また、進入防止用の電気柵[46]や樹皮剥ぎ防止用資材[36]の設置といった非致死的防除手法が導入されるケースもある。
また、神奈川県では捕獲したツキノワグマを爆竹や花火、唐辛子スプレーを用いて人の怖さを植え付けたうえで山に放す﹁学習放獣﹂を実施しており、2019年度までに28頭がこの方法で放獣されたが、再捕獲されたのはそのうちの3頭に留まっている[47]。
ツキノワグマ出没に対して注意報・警報制度を設けている地方自治体もある[48]。日本国政府も重視しており、環境省、農林水産省、警察庁による省庁連絡会議を開催した。エゾヒグマが生息する北海道を含めて、クマによる人身被害は2020年に22道府県で発生している[49]。
日本では2021年の時点でくま科︵クマ科︶単位で特定動物に指定されており、2019年6月には愛玩目的での飼育が禁止された︵2020年6月に施行︶[50]。
文化的側面[編集]
日本では、足柄山で金太郎が熊と相撲を取ったという伝説がある[51]が、このクマの種類について河合雅雄 (1996) はツキノワグマと[52]、戸川幸夫 (1978) は﹁足柄山に居る熊だからヒグマではなく、ニッポンツキノワグマ︵ツキノワグマの日本産亜種︶に違いない。﹂と述べている[51]。また、戸川は﹁水戸黄門漫遊記の中にも雪の山中で黄門が熊に救われたという講談があるが、これもニッポンツキノワグマだ。﹂と述べている[51]。画像[編集]
-
頭骨
-
骨格
出典[編集]
(一)^ abcdefghijklGarshelis, D. & Steinmetz, R. 2020. Ursus thibetanus (amended version of 2016 assessment). The IUCN Red List of Threatened Species 2020: e.T22824A166528664. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2020-3.RLTS.T22824A166528664.en. Downloaded on 10 February 2021.
(二)^ Appendices I, II and III (valid from 26 November 2019)<https://cites.org/eng> [Accessed 10/02/2021]
(三)^ abUNEP (2021). Ursus thibetanus. The Species+ Website. Nairobi, Kenya. Compiled by UNEP-WCMC, Cambridge, UK. Available at: www.speciesplus.net. [Accessed 10/02/2021]
(四)^ abcW. Christopher Wozencraft, "Order Carnivora," Mammal Species of the World, (3rd ed.), Volume 1, Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 532 - 628.
(五)^ abcdFred Bunnell﹁小型のクマ﹂渡辺弘之 訳、D.W.マクドナルド 編﹃動物大百科1食肉類﹄今泉吉典 監修、平凡社、1986年、108 - 109頁。
(六)^ abcdefghijklmnopqrstuvw川口幸男﹁クマ科の分類﹂、今泉吉典 監修﹃世界の動物 分類と飼育2 (食肉目)﹄東京動物園協会、1991年、70 - 76頁。
(七)^ abcdefghijklmnopqrs小原秀雄﹁ツキノワグマ︵アジアクロクマ、ヒマラヤグマ︶﹂、小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文 編著﹃動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ1ユーラシア、北アメリカ﹄講談社、2000年、144 - 145頁。
(八)^ abcde大井徹, 下稲葉さやか, 龚继恩﹁ツキノワグマ﹂下稲葉さやか 訳、日本クマネットワーク 編﹃アジアのクマ達-その現状と未来-﹄日本クマネットワーク、2007年、iii頁。
(九)^ 松村明 編﹁つきのわぐま︵月輪熊︶﹂﹃大辞林 4.0﹄三省堂、2019年。
(十)^ ツキノワグマ出没の背景と対策 森林総合研究所︵2022年1月9日閲覧︶
(11)^ abcd石井信夫﹁下北半島のツキノワグマ﹂、環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室 編﹃レッドデータブック2014 日本の絶滅のおそれのある野生動物1哺乳類﹄株式会社ぎょうせい、2014年、114 - 115頁。
(12)^ abcdef龚继恩, Ricard B. Harris﹁第13章 中国のクマ類の現状﹂下稲葉さやか 訳、日本クマネットワーク 編﹃アジアのクマ達-その現状と未来-﹄日本クマネットワーク、2007年、95 - 100頁。
(13)^ abcdefgh黄美麗, 王頴﹁第5章 台湾のツキノワグマの生息状況と管理﹂成田亮 訳、日本クマネットワーク 編﹃アジアのクマ達-その現状と未来-﹄日本クマネットワーク、2007年、105 - 108頁。
(14)^ abcKashif B. Sheikh﹁第1章 パキスタンのクマ類の生息状況と保全﹂笹本明子 訳、日本クマネットワーク 編﹃アジアのクマ達-その現状と未来-﹄日本クマネットワーク、2007年、1 - 6頁。
(15)^ abcdef渡辺弘之﹁ニホンツキノワグマ カワハギの習性をめぐる謎﹂、D.W.マクドナルド 編﹃動物大百科1食肉類﹄︵今泉吉典 監修、平凡社、1986年、110 - 111頁。
(16)^ 橋本幸彦・高槻成紀﹁ツキノワグマの食性‥総説﹂﹃哺乳類科学﹄第37巻1号、日本哺乳類学会、1997年、1-19頁。
(17)^ abc高田靖司 ﹁長野県中央山地におけるニホンツキノワグマの食性﹂﹃哺乳動物学雑誌﹄第8巻1号、日本哺乳類学会、1979年、40 - 53頁。
(18)^ 須藤一成﹃ツキノワグマ︵知られざる狩人の生態︶ DVD﹄株式会社イーグレット・オフィス、2013年、JANコード 4582402080034
(19)^ abcツキノワグマは木を見て森も見ていた ~クマが木に登ってドングリを食べる条件~森林総合研究所︵2020年1月3日閲覧︶
(20)^ 福本幸夫﹁長寿世界一のニホンツキノワグマ﹂、今泉吉典 監修﹃世界の動物 分類と飼育2 (食肉目)﹄東京動物園協会、1991年、77頁。
(21)^ “ツキノワグマの死亡について”. 京都市動物園. 2019年1月13日閲覧。
(22)^ ab﹁﹁マタギ文化残る東北、道の駅や温泉宿でクマ料理﹂﹃日本経済新聞﹄朝刊2021年12月11日︵東北面︶2022年1月9日閲覧。
(23)^ abcde石井信夫﹁紀伊半島のツキノワグマ﹂、環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室 編﹃レッドデータブック2014 日本の絶滅のおそれのある野生動物1哺乳類﹄株式会社ぎょうせい、2014年、116 - 117頁。
(24)^ “ツキノワグマ猟、19年ぶり解禁”. 産経デジタル (2021年12月8日). 2021年12月8日閲覧。
(25)^ ab石井信夫﹁東中国地域のツキノワグマ﹂、環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室 編﹃レッドデータブック2014 日本の絶滅のおそれのある野生動物1哺乳類﹄株式会社ぎょうせい、2014年、118 - 119頁。
(26)^ abcdefg石井信夫﹁西中国地域のツキノワグマ﹂、環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室 編﹃レッドデータブック2014 日本の絶滅のおそれのある野生動物1哺乳類﹄株式会社ぎょうせい、2014年、120 - 121頁。
(27)^ abcdef石井信夫﹁四国山地のツキノワグマ﹂、環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室 編﹃レッドデータブック2014 日本の絶滅のおそれのある野生動物1哺乳類﹄株式会社ぎょうせい、2014年、122 - 123頁。
(28)^ abc大西尚樹、安河内彦輝 ﹁九州で最後に捕獲されたツキノワグマの起源﹂﹃哺乳類科学﹄第50巻2号、日本哺乳類学会、2010年、177 - 178頁。
(29)^ ﹁第4次レッドリストの公表について︵お知らせ︶﹂環境省、2012年08月28日、2023年11月26日閲覧。
(30)^ 栗原智昭﹁九州における2000年以降のクマ類の目撃事例﹂﹃哺乳類科学﹄50巻2号、日本哺乳類学会、2010年、187 - 193頁。
(31)^ テレビ西日本﹁︻九州のクマ、絶滅は本当?︼福岡の隣県・山口でも出没相次ぐ クマは海を渡るのか…﹁九州上陸﹂の恐れに迫る﹂﹃﹄Fuji News Network、2023年10月30日。2023年11月26日閲覧。
(32)^ abツキノワグマの狩猟期間の延長について 岩手県環境生活部自然保護課︵2020年3月26日更新︶2022年1月9日閲覧。
(33)^ 山﨑晃司 ﹁クマの出没は全国で一律に起っていた訳ではない﹂﹃日本のクマを考える 繰り返されるクマの出没・私たちは何を学んできたのか? 2010年の出没と対策の現状 報告書﹄日本クマネットワーク、2012年、4 - 8頁。
(34)^ 日本クマネットワーク編集・発行﹃鹿角市におけるツキノワグマによる人身事故調査報告書出没﹄2016年、1 - 17頁。
(35)^ “クマに注意!-思わぬ事故をさけよう-” (PDF). 環境省. 2019年1月13日閲覧。他[要文献特定詳細情報]
(36)^ ab岡本卓也. “樹皮剥ぎの見分け方”. www.forest.rd.pref.gifu.lg.jp. 岐阜県森林研究所. 2022年10月29日閲覧。︵﹃森林のたより﹄681号、岐阜県山林協会、2010年6月︶
(37)^ 北原英治ほか﹁ツキノワグマによる林木剥皮被害﹂﹃森林総合研究所関西支所年報﹄第38号、森林総合研究所 関西支所、1997年。
(38)^ 吉田洋, 林進, 堀内みどり, 坪田敏男, 村瀬哲磨, 岡野司, 佐藤美穂, 山本かおり﹁ニホンツキノワグマ (Ursus thibetanus japonicus) によるクマハギの発生原因の検討﹂﹃哺乳類科学﹄第42巻1号、日本哺乳類学会、2002年、35 - 43頁。
(39)^ ツキノワグマの大量出没への対応を!政府と環境省に要望 WWF日本ホームページ︵2010年10月28日︶
(40)^ ﹁クマの大量出没﹂﹃朝日新聞﹄夕刊2010年11月26日17面
(41)^ “ツキノワグマ大量出没の原因を探り、出没を予測する” (PDF). 独立行政法人 森林総合研究所 (2011年2月). 2019年1月13日閲覧。
(42)^ 坪田敏男﹁クマの生息動向と最近の被害状況﹂﹃日獣会誌﹄第66巻、2013年、131-137頁。
(43)^ 新潟でクマ襲撃相次ぐ 人恐れない﹁新世代﹂増加 日本経済新聞ニュースサイト︵2020年10月3日︶2022年1月9日閲覧。
(44)^ 相次ぐクマ襲撃﹁新世代﹂登場か﹃毎日新聞﹄朝刊2020年10月20日くらしナビ面︵2022年1月9日閲覧︶
(45)^ ab“クマ類出没対応マニュアル -クマが山から下りてくる” (PDF). 環境省. 2019年1月13日閲覧。
(46)^ ツキノワグマ情報 秋田市︵2022年1月9日閲覧︶
(47)^ ﹁捕獲クマに爆竹や唐辛子スプレー…﹁人の怖さ﹂教えてから解放、出没が激減﹂読売新聞オンライン︵2020年11月10日︶同日閲覧。
(48)^ “クマ出没、街中まで 石川の商業施設に侵入/新潟・秋田は﹁警報﹂‥朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2020年10月20日). 2022年10月29日閲覧。
(49)^ ﹁相次ぐクマ被害に関係省庁が連絡会議22道府県で発生、死者2人﹂SankeiBiz︵2020年10月26日︶2020年11月2日閲覧。
(50)^ “特定動物リスト [動物の愛護と適切な管理]”. www.env.go.jp. 環境省. 2022年10月29日閲覧。
(51)^ abc戸川幸夫﹁動物巷譚 (11) 熊鹿猪馬牛犬狼﹂﹃中央公論 歴史と人物﹄第8巻第11号、中央公論社、1978年11月1日。 - 通号第87号・1978年11月号。
(52)^ 河合雅雄﹁麻酔された下手人﹂﹃少年動物誌﹄ 8巻︵初版第一刷発行︶、小学館︿河合雅雄著作集﹀、1996年11月20日、312頁。ISBN 978-4096770085。
参考文献[編集]
- 宮澤正義『クマは警告する』ほおずき書籍、1999年3月、282頁。ISBN 4-7952-8641-8。
- 米田一彦『生かして防ぐ クマの害』農山漁村文化協会、1998年6月。ISBN 4-540-98021-1。
関連項目[編集]
- 乗鞍岳クマ襲撃事件(2009年)
- 十和利山熊襲撃事件(2016年)
- くまモン - クマをモデルとした熊本県のPRマスコット(ゆるキャラ)だが、本文で述べたように九州のニホンツキノワグマは既に絶滅したとされる。
- サンチェ - ツキノワグマをモチーフにしたJリーグ「サンフレッチェ広島」のマスコット
- バンダビ - ツキノワグマをモチーフにした2018年平昌パラリンピックのマスコット