禁葷食
禁葷食︵きんくんしょく︶は、仏教の思想に基づく菜食の一種。精進料理では避けるべきと考えられている食材が大きく分けて2つあり、1つは三厭︵さんえん︶と呼ばれる動物性の食材、もう1つは五葷︵ごくん︶と呼ばれるネギ属などに分類される野菜である[1][2]。
五葷の扱いは時代や地域によって異なる[1]。
大乗仏教や道教では、殺生を禁ずる目的から、三厭︵さんえん︶と呼ばれる獣・魚・鳥の動物性の食品を食べることを禁じられた。また、﹁葷﹂︵くん︶と呼ばれる臭いの強い野菜類を食べることもさけられた。多くの場合、主にネギ属の植物であるネギ、ラッキョウ、ニンニク、タマネギ、ニラなどを避けるのが特徴である[3]。ネギ科ネギ属の植物は、硫化アリルを成分として多く持っており、これが臭いの元となっている。﹃説文解字﹄は﹁葷﹂を﹁臭菜也。从艸軍声﹂︵臭い野菜。部首は草冠で音は軍︶と説明している通り、本来はネギ属の植物を指していたが、なまぐさと訓読みするように、現在の中国語では主に﹁素﹂︵そ︶の対義語として、動物性の食品を指すように意味が変化している。
﹁不許葷酒入山門﹂の石碑。大円寺 (杉並区)
禅宗などの寺院に行くと、山門のかたわらに﹁不許葷酒入山門﹂あるいは﹁不許葷肉入山門﹂などと刻んだ戒壇碑が建っていることが多い。これは﹁葷酒︵葷肉︶の山門に入︵い︶るを許さず﹂と読み、肉や生臭い野菜を食べたり酒を飲んだりした者は、修行の場に相応しくないので立ち入りを禁ずるという意味である。
仏教[編集]
「精進料理#禁止対象」も参照
禁葷食に含められる植物は、ニンニク、タマネギ、ネギ、ニラ、ラッキョウ、﹃楞厳経﹄では﹁大蒜︵ニンニク︶、小蒜︵ラッキョウ︶、興渠︵アギ︶、慈葱︵エシャロット︶、茖葱︵ギョウジャニンニク︶﹂の五種が挙げられており、﹃梵網経﹄では﹁五辛﹂と称して﹁葱︵ネギ︶、薤︵ラッキョウ︶、韮︵ニラ︶、蒜︵ニンニク︶、興渠︵アギ‥アサフェティダ︶﹂の5種が、﹃楞伽経﹄でも﹁五辛﹂と称して﹁大蒜︵ニンニク︶、茖葱︵ギョウジャニンニク︶、慈葱︵エシャロット︶、蘭葱︵ニラ︶、興渠︵アギ︶﹂を挙げている。これらの内、アギのみがセリ科の植物で、他は全てネギ科ネギ属の植物である。
三厭は、獣・鳥・魚介を指し、動物性のものすべてを指す。
道教[編集]
仏教における禁葷食は、中国固有の宗教である道教の儀礼︵﹁道門科儀﹂と称する︶にも取り入れられた。道教儀礼の具体方法を記したもののひとつ﹃朝真儀﹄にはネギ、ラッキョウ、ニラ、ニンニク、チーズ等を食べてはならないと記されている[4]。本草綱目には道家の一派である錬形家が﹁小蒜︵ラッキョウ︶、大蒜︵ニンニク︶、韭︵ニラ︶、蕓薹︵アブラナ類︶、胡荽︵コリアンダー︶﹂を﹁五葷﹂とするとの記述がある。﹁蕓薹﹂はアブラナ科、﹁胡荽﹂はセリ科の植物である。清浄な物だけを食べる﹁食斎﹂と、粗食、節食によって、体内の﹁五臓清虚﹂が保てると考えられている。 仏教と異なり、三厭は、鳥のうち雁、獣のうち犬、魚のうち烏魚︵ボラ︶又は鱉︵スッポン︶をさす[5]。脚注[編集]
参考文献[編集]
- 青江覚峰『お寺ごはん:家でつくれるお寺のレシピ99』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2012年。ISBN 9784799312483。
- 吉村昇洋『お心が疲れたらお粥を食べなさい:豊かに食べ、丁寧に生きる禅の教え』幻冬舎、2014年。ISBN 9784344026254。
- 鍾肇鵬, ed (2001) (中国語). 道教小辞典. 宗教小辞典叢書. 上海: 上海辞書出版社. ISBN 7-53260734-8