表具

表具︵ひょうぐ︶とは、布や紙などを張ることによって仕立てられた巻物、掛軸、屏風、襖、衝立、額、画帖など。または、それらを仕立てること^[1]。なお、仕立てることを表装︵ひょうそう︶とも称する^[2^]。表装を職業としている人を、表具師︵ひょうぐし︶または経師︵きょうじ︶という。表具師の主な仕事内容には、掛軸、屏風、衝立、額、画帖、巻物などの修理をはじめ、襖の新調、張替、障子貼りなども含まれる。古くは、表補絵師︵ひょうほうえし︶と呼ばれた^[3]。

略歴・概要[編集]

平安時代ごろ、遅くとも鎌倉時代に中国から伝来した技術と伝えられる。経巻、仏画などを保護・装飾することから始まったのが表具の歴史である。当時は経巻制作の実作業者のことを﹁装潢手﹂︵そうこうしゅ^[注^釈 1]︶と称しており、﹁経師﹂は写経生を指す語であった。室町時代、1494年︵明応3年︶に編纂された﹃三十二番職人歌合﹄には、はり殿︵張殿︶とともに﹁へうほうゑ師﹂︵表補絵師︶として紹介され^[3]、1500年︵明応9年︶に成立したとされる﹃七十一番職人歌合﹄の二十六番には、仏師と共に﹁経師﹂として紹介されている。後者での経師は僧侶の姿をしている。後に﹁ひょうほうえ師﹂と呼ばれる専門職として独立するようになったと考えられている^[4]。﹁ひょうほうえ師﹂は、表補絵師、裱褙絵師︵衤に表、衤に背︶、あるいは表補衣師といった表記がなされた。室町時代には寺院の床の間を民間がまねて設けるようになり、桃山時代に鑑賞用の表具がめざましい発展を遂げる。また茶の湯の流行も表具の発展に影響している^[5]。茶の湯の世界で珍重された牧谿ら中国画人の作品であっても、表装が貧弱では売れず︵﹃蔭凉軒日録﹄︶、高価な絵ほどそれに見合った表装が必要という意識が読み取れる。第二次世界大戦以降では、1946年︵昭和21年︶5月1日、﹁東京表具組合﹂︵のちの東京表具経師文化協会、現在の東京表具経師内装文化協会︶が発足、表具・経師・内装インテリアの3部門をもつ組織として活動している^[6]。全国組織は、全国表具経師内装組合連合会である^[7]。

三大表具[編集]

●京表具 ●江戸表具 ●金沢表具

職業訓練[編集]

表具・表装店の愛知県表具内装組合連合会が運営する認定職業訓練による職業能力開発校として、表具工芸大学訓練校︵ひょうぐこうげいだいがくくんれんこう︶がある。建築内装系表具科短期課程を設置し、主に掛軸表装技能の基礎と専門知識の能力開発を実施している。毎年1月に、工芸大表装美術訓練展を開催している。 ●所在地‥愛知県田原市田原町東馬洗 ●受講分野‥認定職業訓練建築内装系の訓練 ●訓練科名・訓練年数‥建築内装系表具科 ●普通課程‥3年 ●短期課程‥1年上記のほか、東京表具内装職業訓練校、大阪府表具職業訓練校、山口県表具内装高等職業訓練学校がある。

脚注[編集]

[脚注の使い方]

注釈[編集]

^ 潢（こう）は、さんずいに黄の異体字、染色の意。

出典[編集]

(一)^ "表具". 精選版日本国語大辞典、家とインテリアの用語がわかる辞典、デジタル大辞泉. コトバンクより2022年12月5日閲覧。 (二)^ "表装". 日本大百科全書、ブリタニカ国際大百科事典小項目事典、百科事典マイペディア. コトバンクより2022年12月5日閲覧。 (三)^ ^a ^b小山田ほか、p.142. (四)^ 山本[1974]、p.5-6 (五)^ 湯山[1968]、p.11-12. (六)^ 協会概要、東京表具経師内装文化協会、2012年8月27日閲覧。 (七)^ 全国表具経師内装組合連合会、東京表具経師内装文化協会、2012年8月27日閲覧。

参考文献[編集]

『表具のしるべ』第二版、湯山勇、表装美術研究会、1968年
『裱具の栞』増補改訂版、監修宇佐美直八、著山本元、芸艸堂、1974年
『掛軸の作り方』薮田夏秋 1982年2月綜芸舎
『表装・額装のすすめ』現代表装工芸研究会 1983年1月創元社
『掛軸・額・屏風のつくり方』井上重四郎 1985年3月金園社
『表具屋渡世泣き笑い』小池丑蔵 1985年4月三樹書房
『表装大鑑』全4巻、古賀健蔵、柳原書店、1987年
『表具のしおり』表装の歴史と技法山本元 1993年10月芸艸堂
『江戸時代の職人尽彫物絵の研究 - 長崎市松ノ森神社所蔵』、小山田了三・本村猛能・角和博・大塚清吾、東京電機大学出版局、1996年3月 ISBN 4-50-161430-7
『掛軸をつくる』詳説書画の装い薮田夏秋 1998年5月日貿出版社
『表具図面集』清水研石 1999年6月雄山閣出版
『表装の技法』普及版　湯山美治 1999年10月（初版：1982年9月) 日貿出版社
『「イラスト表装・表具入門』増補版 2000年3月表装表具研究会編
『おしゃれに彩る和紙表装のすすめ』鎌田敏輝 2000年7月日貿出版社
『女表具師技術泥棒攻防記』尾形璋子 2002年1月朱鳥社
『my made 表装』赤岩保元 2002年9月文化出版局
『表装を楽しむ』掛軸、屏風をつくる麻殖生素子 2002年12月日本放送出版協会
『誰れでもできる裏打のすすめ』増補版　薮田夏秋 2004年2月日貿出版社
『私にもできる表具の作り方入門』裏打・額装・パネル張り・掛け軸　新装版荒川達他 2006年3月オルク
『かんたん表装入門』垂水李 2006年6月可成屋
『NHK 美の壺表具』NHK「美の壺」制作班 (編集) 2007年1月 NHK出版
『あなただけの巻物・折り本づくり』新装版藪田夏秋 2007年11月日貿出版社
『簡単にできるおしゃれ表装入門』新装版えかたけい 2008年2月日貿出版社
『誰でもできる裏打・掛軸教室』新装版小池丑蔵 2008年2月日貿出版社
『表装生活』―思い出の書や写真を、自分で掛軸にしてみよう麻殖生素子 2010年7月淡交社