杮葺
杮葺︵こけらぶき︶は、屋根葺手法の一つで、木の薄板を幾重にも重ねて施工する工法である。日本に古来伝わる伝統的手法で、多くの文化財の屋根で見ることができる。世界各地で古くから類似の手法が見られ、日本独特のものではない。英語ではWood Shingle roof、Shake roof等と呼ばれる。
なお、﹁杮︵こけら︶﹂と﹁柿︵かき︶﹂とは非常に似ているが別字である。﹁杮︵こけら︶﹂は﹁こけらおとし﹂の﹁こけら﹂同様、木片・木屑の意味。ただし、両字の関係については議論がある︵﹁こけら落とし﹂参照︶。
2020年﹁伝統建築工匠の技‥木造建造物を受け継ぐための伝統技術﹂がユネスコ無形文化遺産に登録され、この中に﹁檜皮葺・杮葺﹂が含まれている[1]。
柿板の束︵左下︶と竹釘︵右下︶と金槌。エドワード・モースのスケッ チ
柿板葺きの作業中の釘入れ。モースによるスケッチ
板葺の一種であり、薄く短い板を重ねて葺く。曲線的な造形も可能で、優美な屋根をつくることができ、主に書院や客殿、高級武家屋敷などに用いられた。 耐用年数は25年程度とされる[2]。また、瓦葺の下地として用いられることもあり、土居葺あるいはトントン葺と呼ばれる[3]。
用いる杮板︵こけらいた︶の厚さにより以下の種類がある。
杮葺︵こけらぶき︶
最も薄い板︵杮板︶を用いる。板厚は2 - 3ミリメートル。ふつう一枚ずつ釘で打ち付ける[4]。
木賊葺︵とくさぶき︶
杮板よりも厚い板︵木賊板︶を用いる。板厚は4 - 7ミリメートル。最も格の高い葺き方とされ、仙洞御所などで用いられたが、現在ではほぼ使われない[5]。
栩葺︵とちぶき︶[6]
最も厚い板︵栩板︶を用いる。板厚は1 - 3センチメートル。東北地方でよくみられる[5]。
杮葺の構造見本
延暦寺根本中堂回廊の栩葺屋根
ヒノキ、サワラ、スギ、エノキなど、筋目がよく通って削ぎやすく、水に強い材木が用いられる。地方によってはクリやマキも用いられる[7]。木賊葺や栩葺にも、トクサ︵木賊︶やクヌギ︵栩︶が材料として用いられるわけではない。
原木を30cm程度の輪切り(玉取り)にし、刃物でまず耐水性に劣る辺材を落とし、次に6ないし8等分に放射状に割る(ミカン割り)。次に柾目取りに割り裂いて3cm程度の厚板を取る(分取り)。板幅をそろえた(脇取り)後に決まった板厚に割り裂いて仕上げる(小割り)。板を裂いて作ることから、板を重ねたときに間に適度な隙間ができ、毛細管現象により水を吸い上げることを防ぎ耐久性が増す[7]。
このように原木を割り裂いていくため、節があるような原木では杮板は作れない。材料の確保には手の行き届いた森林が必要であるが、林業の衰退により難しくなってきている[8]。