パレスチナ問題
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パレスチナ問題 | |
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戦争:中東戦争 | |
年月日:中東戦争以降 | |
場所:パレスチナ | |
結果:継続中 | |
交戦勢力 | |
イスラエル | パレスチナ |
概要[編集]
1897年の第1回シオニスト会議や1917年のバルフォア宣言など、パレスチナにユダヤ人の祖国を作るという主張が公に宣言されたことで、この地域は初期の緊張状態にあった。当時、パレスチナには少数派のユダヤ人が住んでいたが、アリーヤーによって人口は増加した。1917年のバルフォア宣言では、﹁パレスチナにユダヤ人のための国民の家を建設する﹂というイギリス政府の拘束力を含むパレスチナ委任統治が実施された後、緊張はユダヤ人とアラブ人の宗派間の対立に発展した[6]。この初期の紛争を解決しようとする試みは、1947年の国連パレスチナ分割決議と1948-1949年の第一次中東戦争をもたらす結果となり、より広範な中東戦争の始まりとなった。現在のイスラエルとパレスチナの関係は、1967年の第三次中東戦争でイスラエル軍がパレスチナ自治区を占領したことで始まった。 長期にわたる和平プロセスにもかかわらず、イスラエル人とパレスチナ人は最終的な和平合意に達することができなかった。1993年から1995年にかけてのオスロ合意により、二国家解決に向けて前進したが、現在、パレスチナ人はガザ地区とヨルダン川西岸地区の165の﹁島﹂において、イスラエルに軍事的占領されている。さらなる進展を妨げている主な問題は、国家安全保障、国境、水利権、エルサレムの支配、ユダヤ人入植地[7]、パレスチナ人の移動の自由[8]、パレスチナ人の帰還権である。世界中の歴史的、文化的、宗教的に重要な場所が数多く存在するこの地域での紛争の暴力性は、歴史的権利、安全保障問題、人権などを扱う数多くの国際会議のテーマとなっており、激しい争いが繰り広げられている地域への観光や一般的なアクセスを妨げる要因となっている[9]。1948年にイスラエルが建国された後、パレスチナの独立国家がイスラエルと並行して設立されるという、二国家間の解決策を仲介する試みが数多くなされてきた。2007年、多くの世論調査で、イスラエル人とパレスチナ人の大多数が、紛争解決の手段として、他の解決策ではなく二国家間の解決策を選んだ[10]。 イスラエルとパレスチナの社会では、紛争はさまざまな意見や見解を生み出している。このことは、イスラエル人とパレスチナ人の間だけでなく、それぞれの社会に存在する深い溝を浮き彫りにしている。紛争の特徴は、ほぼ全期間にわたって繰り広げられてきた暴力の数々である。戦闘は、正規軍、準軍事組織、テロ集団、個人によって行われた。犠牲者は軍人に限らず、双方の民間人にも多数の死者が出ている。この紛争には、著名な国際機関が関与している。ユダヤ人の大多数は、パレスチナ人の独立国家建設の要求を正当なものと考え、イスラエルもそのような国家の設立に同意できると考えている[11]。ヨルダン川西岸地区とガザ地区に住むパレスチナ人とイスラエル人の大多数は、二国家間の解決を望んでいる[12][13]。基本的な問題をめぐって相互不信と大きな意見の相違があり、最終的な合意に向けて相手側が義務を果たすことに両者は懐疑的な見方をしている[14]。 近年、直接交渉を行ってきたのは、イスラエル政府と、マフムード・アッバース議長率いるパレスチナ解放機構︵PLO︶の2つの当事者である。公式な交渉は、アメリカ、ロシア、欧州連合、国連からなる特使を代表とする﹁中東カルテット﹂が仲介している。また、アラブ連盟も重要な役割を果たしており、和平案を提案している。アラブ連盟の創設メンバーであるエジプトは、歴史的に重要な役割を担ってきた。ヨルダンは、1988年にヨルダン川西岸地区の領有権を放棄し、エルサレムのイスラム教聖地に特別な役割を持っているため、重要な参加者となっている。 2006年以降、パレスチナ側は2つの主要な派閥間の対立によって分断されている。2006年以降、パレスチナ側では、伝統的に支配的な政党であるファタハと、後に選挙に挑戦した過激派組織であるハマースの2つの主要な派閥間の対立が続いている。2006年にハマースが選挙で勝利した後、カルテットは今後のパレスチナ自治政府への対外援助の条件として、非暴力の約束、イスラエル国家の承認、過去の合意の受け入れを求めた。ハマースはこれらの要求を拒否した[15] ため、カルテットは対外援助プログラムを停止し、イスラエルは経済制裁を課したのである[16]。1年後の2007年6月、ハマースがガザ地区を占拠したことにより、パレスチナ自治区として公式に認められている領域は、ヨルダン川西岸地区のファタハとガザ地区のハマースに分割された。政党間のガバナンスの分裂により、パレスチナ自治区の超党派的なガバナンスは事実上崩壊していた。しかし、2014年にはファタフとハマースの両党からなるパレスチナ統一政府が成立した。最新の和平交渉は2013年7月に始まり、2014年に中断された。歴史[編集]
古称は﹁フル﹂、﹁カナン﹂というパレスチナ周辺はペリシテ人の土地で、パレスチナという言葉はペリシテという言葉がなまったものと考えられている。紀元前13世紀頃にペリシテ人によるペリシテ文明が栄えていた。しかしペリシテ人のその後は全く分かっていない。 その後は紀元前10世紀ごろにイスラエル人によるイスラエル王国がエルサレムを中心都市として繁栄した。 やがて三大陸の結節点に位置するその軍事上地政学上の重要性からイスラエル王国は相次いで周辺大国の侵略を受け滅亡し、西暦135年にバル・コクバの乱を鎮圧したローマ皇帝ハドリアヌスは、それまでのユダヤ属州の名を廃し、属州シリア・パレスチナ と改名した。ローマ帝国としては、幾度も反乱を繰り返すユダヤ人を弾圧するため、それより千年も昔に滅亡したペリシテ人の名を引用したのである。この地がパレスチナと呼ばれるようになったのはこれ以降である。 7世紀にはイスラム帝国が侵入してきた、シリアを支配する勢力とエジプトを支配する勢力の間の対立戦争の舞台となった。11世紀にはヨーロッパから十字軍が攻め込んできた結果としてエルサレム王国が建国されるが、12世紀末にはアイユーブ朝のサラーフッディーンに奪還され、パレスチナの大半は王朝の支配下に入った。16世紀になると、マムルーク朝を滅ぼしたオスマン帝国がパレスチナの地の支配者となる。後期19世紀 - 1920:起源[編集]
1920 - 1948:イギリスによるパレスチナの委任統治[編集]
現在のパレスチナの地へのユダヤ人帰還運動は長い歴史を持っており、ユダヤ人と共に平和な世俗国家を築こうとするアラブ人も多かった。ユダヤ人はヘブライ語を口語として復活させ、アラブ人とともに嘆きの壁事件など衝突がありながらも、安定した社会を築き上げていた。しかし、1947年の段階で、ユダヤ人入植者の増大とそれに反発するアラブ民族主義者によるユダヤ人移住・建国反対の運動の結果として、ヨルダンのフセイン1世、アミール・ファイサル・フサイニー(1933年アラブ過激派により暗殺)、ファウズィー・ダルウィーシュ・フサイニー(1946年暗殺)、マルティン・ブーバーらの推進していたイフード運動(民族性・宗教性を表に出さない、平和統合国家案)は非現実的な様相を呈する。
「パンとワイン」紛争[編集]
とはいえ初期の問題において、民族自体はあまり関係がなかった。衝突は、銀行と工業により避けようもなく次第に深まっていく。その主な原因は、オスマンから切り離された事で、外国貿易が重要性を増した事にある。そしてイギリスは荒廃した土地を復興させ、輸出農業の生産の増大を計った。農民の多くはアラブ人であった。ただし、農業金融を一手に引き受けていたのは1922年以後増大したユダヤ系銀行であり、製粉所等の加工工業もまたユダヤ人の手にあった。パレスチナの土地に適していたのはオレンジとリンゴであり、イギリスに対してはオレンジの輸出が多くアラブ人達は柑橘類の生産を望んでいたが、製粉所含む食品工業のため銀行は穀物の増産を図っていく。また、葡萄園はユダヤ人の所有にあった。
当時のパレスチナにおいて工業の外国貿易に対する価値は非常に大きかった。イギリスに次いでシリアがパレスチナを助けていたが、ドイツとアメリカもまたパレスチナに対し工業生産材の輸出を行っており、アメリカには加工した工業品を輸出することによって貿易のバランスを保っていたため、このバランスを維持するために工業の発展が不可欠だった。そして、パレスチナの外国貿易に関する諸々の取り決めは、委任統治領という立場にもかかわらず、国内有力事業家の組合によって決定されていた。その事業家の多くが外部からの投資を受けた人間(即ち原住民ではなくユダヤ人の移民ら)であり、柑橘類を主軸に求めるアラブ人と、穀物類を主軸に求めるユダヤ人との農業問題への価値観の差異は、アラブ人への一方的な抑圧となり、やがて対立が深まっていく。1916年設立のハマシュビール(en:Hamashbir Lazarchan)は勢力が大きくなり市場取引を支配し、またイギリスとの連携を強め、ニール[要出典]はドイツ人に代わり産業を支配、耕地を購入し所有していった。また人口の増大、特にユダヤ人増大による小麦の需要に基づく土地の疲弊は著しく、1939年には1ha辺り480kgの小麦しか収穫できない(イギリスでは2200kg、エジプトでは1630kg)など、問題への期限は迫っていた。
パレスチナ分割[編集]
1948 - 1967:中東戦争[編集]
1967 - 1993:第一次インティファーダ[編集]
1993 - 2000:オスロ和平プロセス[編集]
2000 - 2005:第二次インティファーダ[編集]
2005 - 2008:アッバース時代のはじまりとハマースの台頭[編集]
2008 - 2009:ガザ紛争[編集]
2010 - 2017‥パレスチナ側の手詰まりと米トランプ政権発足[編集]
2010年4月13日、イスラエル国防軍の命令1649[66] およびイスラエル国防軍命令1650[67] が発効した。1969年の命令329で布告した規制を拡大するもので、﹁不法入国者﹂の定義を単に滞在・在住許可証を携帯していない者から、﹁ユダヤ・サマリア[注 9]﹂でイスラエル国防軍の在住・在留許可を受けていない者に拡大した。これにより、ガザ地区出身者の、ヨルダン川西岸への立ち入りが実質的に許可制となり、パレスチナ人住民のガザ地区への追放も法制化された。 アメリカ合衆国仲介の和平交渉が暗礁に乗り上げ、12月には南アメリカ諸国においてパレスチナの国家承認の動きが起こった[68]。 2011年5月15日、ヨルダン川西岸、ガザ地区、レバノンのイスラエル国境付近、シリアのゴラン高原などで、イスラエルの占領に抗議する集会・デモが行われ、国境を越えた参加者をイスラエル軍が砲撃・発砲し、合計で12人が死亡した[69]。 9月9日から10日にはエジプト革命で政権が崩壊したエジプトで今度はイスラエル大使館がデモ隊に襲撃される騒ぎがあった[70]。 9月23日にはパレスチナが史上初めて国際連合への加盟申請を行ったが、国際連合安全保障理事会において米国が拒否権を行使するとみられている[71]。加盟申請後、アッバース議長は﹁アラブの春﹂になぞらえ﹁パレスチナの春﹂として独立を求めると声明を発表した[72]。2011年10月31日には国際連合教育科学文化機関(UNESCO)の加盟国として承認された[73]。 2012年11月29日、国際連合総会において参加資格をオブザーバー組織からオブザーバー国家に格上げする決議案が賛成多数で承認された[74]。 11月30日、イスラエルは占領地の東エルサレムとヨルダン川西岸の入植地に計約3000棟の入植者住宅の建設を決定した。国連で、パレスチナをオブザーバー国家として承認されたことに対する報復としている。また、西岸の大規模入植地マーレアドミムと東エルサレムの間の﹁E1地区﹂などの建設計画手続き開始も盛り込まれた。﹁E1地区﹂は東エルサレムをヨルダン川西岸から完全に切り離し、またヨルダン川西岸の南北も事実上分断することになるため、﹁パレスチナ国家の樹立を困難にする﹂として米国が反対し、計画推進が見送られてきた経緯があった[75]。 2014年4月23日、パレスチナのファタハとハマースは連立政権の組閣で合意した。ハマースをテロ組織とするイスラエルはこれに反発し、4月25日、和平交渉の中断を発表した。 6月12日、イスラエル人入植者である3人の少年が行方不明となった。イスラエル側はハマースの犯行と主張し、パレスチナ人約400人を逮捕、9-10人を殺害した。一方、ガザ地区から報復としてロケット弾などの攻撃があった。3人が遺体で発見されると、イスラエルは報復としてガザ地区を空襲した。7月2日には、パレスチナ人の少年が焼死体で発見され、ユダヤ人過激派6人がイスラエル側により逮捕された。7月8日、イスラエルは本格的なガザ侵攻を開始し、8月26日の一応の停戦までに、パレスチナ側2158人、イスラエル側73人の死者が出た。2018 - 2021‥﹁繁栄に至る平和﹂と﹁アブラハム合意﹂[編集]
2018年1月3日、米国のトランプ大統領はTwitterで﹁︵和平︶協議の一番難しい部分のエルサレムを議題から外した。だが、パレスチナ人には和平を協議する意志がない。今後、膨大な支援額を支払う理由などあるだろうか﹂と、パレスチナに対する報復を示唆した[121]。 1月14日、パレスチナのアッバース大統領はファタハ中央委員会で演説し、﹁トランプ大統領の和平案は﹃世紀のびんた﹄だ﹂と非難した。アラビア語で﹁合意案﹂と﹁びんた﹂の発音が似ていることから来た表現で、それほど侮辱的な内容という意味である[122][123]。 1月16日、アメリカ合衆国国務省は、国連パレスチナ難民救済事業機関︵UNRWA︶に対して1月上旬に支払う予定だった拠出金1億2500万ドル︵約138億円︶のうち6500万ドルを凍結すると発表した。国務省のナウアート報道官は﹁︵凍結は︶誰かを罰することを狙ったものではない﹂﹁UNRWAの資金が最善の使い方をされているか確認する必要がある﹂と主張した[124]。 3月、イスラエルのテレビ局﹃Channel 10 News﹄によると、サウジアラビアのムハンマド皇太子はニューヨークのユダヤ人指導者との会合に出席し、パレスチナに対して﹁︵米国の︶和平案の受け入れを開始するか、"黙っている "べき﹂との見解を示した。また、﹁過去40年間、パレスチナ指導者は何度も何度も機会を逃し、与えられたすべての申し出を拒否してきた﹂と非難し、パレスチナ問題よりもイラン対策の方が緊急の課題であるとの見解を示した[125]。この発言は、前年12月の﹃ニューヨーク・タイムズ﹄の報道を裏付ける内容で、アラブの指導者がイスラエル寄りに舵を切ったことを示していた[126]。 3月30日、ガザ地区で、パレスチナ難民の帰還を求める大規模なデモが行われた。数万の群衆がイスラエル軍と衝突し、パレスチナ側は少なくとも16人が殺害された。イスラエル軍は、パレスチナ側が先に発砲したと主張した[127]。 4月15日、アラブ連盟は、イスラエルによるエルサレムの首都宣言を﹁無効で違法﹂と批判した。しかし、米国の名指しは避け、具体的な制裁なども決議されなかった[128]。 5月9日、イスラエル国防軍は﹁ユダヤ・サマリア[注 9]﹂に命令1797を布告した[129]。これは、イスラエル軍が﹁違法﹂と判断した新築建造物︵未完成または竣工6ヶ月以内または居住30日以内の建造物︶を、従来の司法手続きを省略して、96時間以内に異議申立が無ければ一方的に破壊できる内容である。軍律自体は、ユダヤ人入植者も対象となるが、パレスチナ人住民の建築許可が困難な現状で、パレスチナ人を主要な標的にした内容であると﹃ハアレツ﹄のアミラ・ハス記者は指摘した[130]。 5月14日、米国は在イスラエル大使館をエルサレムに移転した[131]。ガザ地区ではパレスチナ人による大規模な抗議集会が暴動に発展し、イスラエル軍が発砲した。パレスチナ側によると、5月15日時点で55人が殺害され、約2700人が負傷した[132]。5月18日までに、パレスチナ側の死者は61人にのぼり︵3月30日 - 5月13日の死者を含めると、118人︶[133]、2014年のガザ侵攻以来、1度の衝突では最多の死者となった。 パレスチナのアッバース大統領は、﹁本日またしても、我が民に対する虐殺が続く﹂とイスラエルを非難し、3日間の服喪を発表した。国連のフセイン人権高等弁務官は、﹁イスラエルの発砲で何十人が死亡し、数百人が負傷したのは、衝撃的だ﹂と、﹁甚だしい人権侵害﹂を非難した。一方、イスラエルのネタニヤフ首相は﹁テロ組織ハマースは、イスラエル破壊の意図を宣言し、この目的達成のため国境フェンス突破を目指して何千人を送り込んでいる。我々は自分たちの主権と市民を守るため、引き続き断固たる行動をとる﹂と主張した。米ホワイトハウスのラージ・シャー報道官は、﹁大勢が悲劇的に死亡した責任のすべては、ハマースにある﹂とイスラエル支持を表明した。クウェートは、国連安保理での調査を要求したが、米国の反対で採決はできなかった。 6月16日、イスラエル国防軍は、ガザ地区から風船爆弾︵正確には﹁風船焼夷弾﹂︶を飛ばした集団を攻撃したと発表した。ガザ地区を実効支配するハマースの治安当局によると、ドローン︵小型無人機︶の攻撃を受け、2人が負傷した。イスラエル南部消防当局によると、発火物を取り付けた風船や凧による火災は、3月30日以降だけ約300件を超えるという[134]。 8月24日、米国国務省高官によると、トランプ政権はパレスチナへの約2億ドル︵約222億円︶の経済支援を撤回し、他の用途に資金を振り向けることを明らかにした[135]。 8月31日、米国のナウアート報道官は、UNRWAへの資金拠出を停止すると発表した。従来、UNRWA予算の1/3~1/4程度を米国が負担していたが、1月に行った拠出額の削減に留まらず、それが全く途絶えることになった。ナウアートはUNRWAの運営に﹁修復不可能な欠陥﹂があると指摘し、パレスチナ難民の子供達に対しては﹁国連機関を通じない直接支援などを検討する﹂と表明した。 UNRWAは、パレスチナ難民を、1948年のイスラエル建国当時の難民及びその子孫と定義しており、その数は2017年1月現在で534万人に上る。米国はこの中から、子孫を難民から外すように主張していた。子孫を外せば、いずれ難民は全員死亡して居なくなるからである。これはイスラエルの意向を反映したものだが、UNRWAは応じていなかった[136][137][138][139]。UNRWAの予算は当面、EU、日本など約40ヶ国の拠出金の増額で凌ぐことになった[140]。 9月11日、米国国務省は在パレスチナ総代表部の閉鎖を発表した。ジョン・ボルトン大統領補佐官は、9月10日の講演で﹁米国は常に、友人で同盟国のイスラエルの側に立つ﹂﹁パレスチナがイスラエルとの意味ある直接交渉への一歩を拒否し続ける限り、総代表部を開くことはない﹂と主張していた[141]。 9月12日、国連貿易開発会議︵UNCTAD︶は、2017年にパレスチナ自治区の失業率が27%を超え、農業生産も11%減ったとの報告書をまとめた。国際援助の減少やイスラエルによる経済封鎖が理由としている。パレスチナの失業率は、世界最悪水準にあるという。また、ガザ地区では2008年からのガザ侵攻で生産的資本蓄積の6割が失われ、2014年のガザ侵攻では、残っていた生産的資本の85%が失われた。世紀の変わり目︵2001年︶と比較して、実質所得は3割減り、2018年初めの電力供給は、1日平均2時間であった[142][143]。 一方、この間のイスラエルの経済成長は順調だった。2000年の第二次インティファーダ勃発当初こそ国内総生産(GDP)は0.2%pointのマイナス成長を記録したが、2006年のレバノン侵攻、2009年と2014年の2度のガザ侵攻は、イスラエルの経済に大きな影響は与えず、国内総生産は3-5%point前後の成長を続けた[144][145][146]。治安対策による検問強化などで、パレスチナ人のイスラエルでの就労は減少したが、中国などからの出稼ぎ労働者で補うことができた。他方、パレスチナの対外貿易の8割はイスラエルで占められ、紛争下においてもむしろイスラエルからの輸入は増えた。こうした事情で、イスラエルでは経済面においても、パレスチナと和平の必要がなく、パレスチナはイスラエルに依存せざるを得ないという認識が浸透していった[147]。 2018年の1年間では、パレスチナ側は290人(うち、子供56人)、イスラエル側は14人(うち、子供0人)が紛争で殺害された[148]。 2019年2月13日 - 2月14日、米国主催でポーランドで中東の安保問題を協議する閣僚級会議が開催された。主としてイラン包囲網を策したもので、イスラエルとアラブ諸国が一堂に会する異例の機会となった。パレスチナは﹁︵米国和平案による︶パレスチナの大義を終わらせようとする試み﹂を警戒し、アラブ諸国にボイコットか、少なくとも派遣する代表の格下げを呼びかけた[149]。イスラエル首相府は協議後、アラブ首長国連邦、バーレーン、サウジアラビアの出席者のオフレコ発言をYouTubeに公開した。公開は手違いであるとしてすぐに削除されたが、シリア駐留のイラン軍に対するイスラエルの攻撃を﹁自衛権の行使﹂と擁護したり、イスラエル・パレスチナ問題より、イランをより大きな脅威という前提で、イスラエルとより近い関係にあるといった発言があった[150][151]。 3月22日、米トランプ大統領はTwitterで、﹁今こそ米国は、ゴラン高原のイスラエルの主権を認める時が来た﹂と表明した。従来は米国を含め、ゴラン高原はシリア領と認識し、イスラエル領有を公認した国家・政権は存在しなかった[152][153]。 3月25日、米国は、ゴラン高原をイスラエル領と正式に承認した[154]。 米国・トランプ政権では、2017年11月から、トランプの娘婿であるジャレッド・クシュナー大統領上級顧問が中心になって、ディナ・ハビブ・パウエル大統領副補佐官、デービッド・フリードマン駐イスラエル大使らと共に、新たな和平案の腹案を練っていた[155]。クシュナーらはいずれも親イスラエルで知られ、従ってイスラエルに有利な案が取り沙汰された。これまでに報道された和平案の内容も、それを裏付けるものだった。一方、クシュナーの相談を受けた、元外交官のアーロン・デービッド・ミラーによると、クシュナーは﹁イスラエル人とパレスチナ人にも歴史の話をするなといった﹂と述べ、白紙で一から和平案を作る考えを示した[156]。 6月25日 - 26日、米国主催でバーレーンで行われた会議﹁繁栄に向けた和平︵繁栄に至る平和︶﹂で、まず﹁経済部分﹂の素案が発表された。パレスチナ・エジプト・レバノン・ヨルダンへの約500億ドルの投資を目玉としたが、出資者が誰になるかは、アラブ諸国の出資に期待するとした。パレスチナ側は﹁パレスチナに国家樹立を諦めさせるための買収劇である﹂として出席をボイコットした。イスラエル側は直接の出席はしなかったが、代わりに民間のビジネスマンを出席させた[157]。 同日、クシュナーは﹁アルジャジーラ﹂の取材に応え、トランプ政権は従来と﹁異なる﹂アプローチをしており、その一つがパレスチナの財政的コミットメントの優先だと説いた。また、アラブ諸国は2002年に採択された﹁アラブ和平イニシアティブ﹂をパレスチナ問題の基本線としていた。これは原則として、安保理決議242に基づく要求である。しかしクシュナーは、それは不可能だと主張し、イスラエルの立場との妥協をすべきだと主張した。また、エルサレムをイスラエルの首都と公認したことを、﹁主権国家であるイスラエルには、首都を決める権利がある﹂と改めて擁護した[158]。 11月4日、ヨルダン川西岸の、150以上のユダヤ人入植地を管理するイェシャ評議会の次期委員長に、デイビッド・エルハヤニが選出された。エルハヤニは﹁併合の時が来るまでに、パレスチナ人によるC地区の乗っ取りを防ぎ、︵我々の︶インフラ改善要求を、積極的に行う必要がある﹂と、入植地の早期のイスラエル併合を主張した[159]。占領地のC地区は本来、パレスチナに移管されるはずであったが、イスラエルでは固有の領土という認識の元、永続的な支配が公然と主張されるようになっていた。 11月6日、UNRWAのクレヘンビュール事務局長が、職権濫用の疑いで事実上の辞職に追い込まれた[160]。 11月18日、米国のマイク・ポンペオ国務長官は記者会見で、ヨルダン川西岸のイスラエル入植地は、国際法に反しているとは認識しないとの見解を示した。これは従来の政府見解を変更するものであるが、ポンペオは1981年にレーガン元大統領が示した見解を正当としたと述べた[161]。イスラエルのネタニヤフ首相は、米国の方針転換を﹁歴史の過ちを正す﹂ものだと歓迎した。PLOのアリカット事務局長は、﹁世界の安定と安全、平和﹂を危険にさらすものと批判した[162]。 12月1日、イスラエルのナフタリ・ベネット国防相は関係当局に、ヘブロンの内側にあるユダヤ人入植地を拡大するよう指示した。このことで、ユダヤ人入植者を800人から倍増させるとしている[163]。 2019年の1年間では、パレスチナ側は149人(うち、子供31人)、イスラエル側は10人(うち、子供1人)が紛争で殺害された[164]。 2020年1月5日から6日にかけて、イスラエルはヨルダン川西岸での、新たに入植地1900棟の計画を承認した。日本の大鷹正人外務報道官は﹁強い遺憾の意﹂を表明した[165]。 1月8日、イスラエルのベネット国防相は、C地区を﹁領土﹂と称し、﹁C地区を︵併合するための︶﹃戦い﹄をパレスチナと進めている﹂と述べた。ベネットは、入植地の建築を進めることで、10年以内に100万人のユダヤ人を移住させると述べ、﹁我々は国連にはいない﹂と述べた。また、パレスチナ人の﹁違法な﹂建築を止めるために何もしなかったとネタニヤフ政権を非難し、EUが﹁違法﹂建築に資金を提供していると非難した[166]。またベネットは翌週、7つの﹁自然保護区﹂を新たに承認した。これは、名目は自然保護区だが、パレスチナ人の立ち入りを禁じることで、事実上イスラエルの支配を進める施策である[167]。 1月28日、米国のトランプ大統領とイスラエルのネタニヤフ首相は、共同で和平案"Peace to Prosperity"︵﹁繁栄に至る平和﹂︶の全文を発表した[168][169][170]。クシュナーの素案に基づくもので、主な内容は以下の通りである。 ●前提認識。パレスチナ・イスラエル両者とも、平和を望んでいる。しかしパレスチナはテロ組織であるハマースによるイスラエルへの攻撃、自治政府の腐敗や失政、テロを煽動する法律・教育や政府系メディアなどの問題を抱えている。他方、イスラエルはエジプトと国交を結んだ時に平和のために広大な領土と交換したなど、暴力とテロの被害にもかかわらず、常に平和を望んできた。すなわち、紛争の全責任はパレスチナ側にあるとする ●パレスチナの独立を承認するが、イスラエルの脅威にならないようにする。必然的に、治安維持や航空交通管制などにおいて、パレスチナの主権は制限される ●パレスチナの非軍事化。テロ組織であるハマースなどの武装解除。イスラエルの安全を脅かさないため、軍備を認めない。外交権も制限され、イスラエル・米国に対する一切の政治的・司法的戦争を禁じる︵すなわち、本和平合意内容に対する、国連安保理や国際司法裁判所などを通した一切の異議申立が禁止される︶。パレスチナがこれらを遵守した場合は、米国はパレスチナを国際機関の一員として受け入れるよう働きかける ●安保理決議242を含む国連決議の否定。決議は﹁相互に矛盾﹂しており、﹁歴史的役割は尊重﹂するが、複雑な問題の解決を妨げると認識 ●イスラエルに誤りの余地は無い。米国は、イスラエル国家と国民が、より安全になると信じる妥協案の作成を要請するだけである ●自衛戦争で得た領土から撤退したのは、国際的にも珍しいことである。イスラエルは、1967年以降の占領地の88%から既に撤退しており[注 12]、イスラエルと米国は、安保理決議242は1967年以前の領域の100%提供を法的に拘束したものでは無いと認識している[注 13] ●イスラエルをユダヤ人国家として、パレスチナをパレスチナ人国家として相互承認する ●イスラエルが実効支配する入植地の97%を、イスラエル領として承認。ヨルダン川西岸の3割が新たなイスラエル領となる。また、ヨルダンとの国境線は、イスラエルの安全保障に必要であるから、全てイスラエル領とし、パレスチナをイスラエル領内に孤立させる。イスラエル領内のパレスチナ人所有地の扱いは、追って交渉する ●また、和平案として示した地図では、シリア領ゴラン高原、ヨルダン領グマル、アル・バクーラ[注 14] をイスラエル領としている ●入植地によって生じたパレスチナの飛び地は、道路・橋・トンネルの建設により相互の交通を保証する。ただし、イスラエルの安全保障を優先する ●和平交渉が始まれば、イスラエルは新たな入植地の建設を4年間凍結する ●代地として、ヨルダン川西岸のごく一部︵パレスチナ人住民の多い地域︶と、エジプト国境のネゲヴ砂漠の一部をパレスチナに譲渡する ●エルサレム全域をイスラエルの首都として承認。パレスチナの首都としてアブ・ディスなどを提案 ●貿易港の利用は、イスラエルが安全と認めるまで最低5年間はガザ地区の港は認めず、その間はイスラエル及びヨルダンの港を利用するものとする ●国連が認めていた、パレスチナ難民の帰還権の否定。国連パレスチナ難民救済事業機関︵UNRWA︶の解体。パレスチナ国家への移住は、﹁イスラエルの安全を脅かさない範囲で﹂認め、残りは現在の難民受入国またはイスラム協力機構加盟国で引き取る ●パレスチナは報道の自由・表現の自由・自由な選挙・信教の自由などを遵守する義務を負う。また、近隣諸国への憎悪を煽る教育その他一切の行動、同様に本協定に反する教育・煽動などを禁じる ●パレスチナおよび周辺地域︵エジプト、レバノン、ヨルダン︶への、10年間で総計約500億ドル︵約5兆5000億円︶の投資 ●市場経済による経済振興、社会基盤・教育・医療などの整備、生活の質の改善、政府機構の改革を行い、汚職を断つ。パレスチナ指導部は、日本、韓国、シンガポールの政府が困難に立ち向かったのと同じようにすべきである トランプはTwitterで、イスラエルとユダヤ人のための和平案であることを自賛した[171]。パレスチナの国家承認を除き、全面的にイスラエルの主張に従った内容で、ネタニヤフは﹁我々の主権を認めた﹂内容を歓迎した[172]。パレスチナのアッバース大統領は、この案を﹁歴史のごみ箱に投げ捨てる﹂と拒否した[173]。また、元パレスチナ情報庁長官のムスタファ・バルグーティは、和平案の地図におけるパレスチナは、﹁かつての南アフリカにおけるアパルトヘイトでのバントゥースタンと同じ﹂﹁唯一の違いは、パレスチナ人の孤立した地理的状況はゲットーとも比較される﹂と非難した[174][175]。さらに、パレスチナは安保理非常任理事国のチュニジアの協力を得て、和平案に反対する決議案を安保理採決に掛けるよう働きかけた[176]。アッバース大統領はまた、イスラエル・米国との、︵ヨルダン川西岸での︶治安協力を含む全ての協力を打ち切ると表明した[177]。 この他、ラビン政権・バラック政権当時にイスラエル側で交渉に携わったダニエル・レヴィは、﹁降伏文書と和平案には違いがある。しかし、降伏文書の条件であっても、敗者側の自尊心を形だけでも保つやり方で作成されれば、この和平案よりはもっと永続する可能性が大きいだろう﹂﹁この案は、アメリカ人︵さらにはイスラエル人︶からパレスチナ人への憎悪の手紙である﹂と批判した[178][179]。 一方で、ユダヤ人入植者からは、﹁ユダヤ・サマリア[注 9]﹂がイスラエル固有の領土という認識の元、入植地が敵対的なパレスチナ自治区に﹁包囲﹂され、これ以上の入植拡大が望めなくなることへの危機感も表明された[180]。また、イェシャ評議会のエルハヤニ委員長は、併合が一時凍結されたことを﹁クシュナーはナイフでネタニヤフを背後から刺した[181][182]﹂と非難した。エルハヤニによると、当初、米国はパレスチナが48時間以内に和平案に応じなければ、イスラエルの併合強行を認める予定だったが、後から翻意したという。 クシュナーはイアン・ブレマーによるインタビューで、パレスチナ側の批判に次のように反論した。﹁パレスチナは、長い間被害者カードを使ってきた﹂﹁和平案はイスラエルにとって大きな妥協だ。なぜならイスラエルにとって妥協をするこれと言った理由がないからだ。イスラエルがすでに強い国で、さらにその力を増す中で、我々が彼らに妥協を迫ったのだ﹂[183][184][185]。 サイモン・ウィーゼンタール・センターのエイブラハム・クーパー副所長は、パレスチナ側の主張する国境線は、イスラエルにとって﹁ヨルダン︵川西岸︶と地中海の間の幅がわずか9マイル︵約14.48㎞︶しかな﹂く、﹁テロリストやイランのミサイル攻撃の格好の標的となり﹂、﹁自殺行為﹂であるから、同意すべきでは無いと主張した。また、﹁国連とその構成部分は、総会、国連人権理事会、国連救済事業庁︵UNRWA︶を含む、無限の反イスラエルの決議とイニシアチブを打ち出して来たが、パレスチナの侵略は何十年にもわたってフリーパスを与えている﹂と主張した。さらに、﹁ドイツにはユダヤ国家を決して危険にさらしてはならない義務がある﹂と主張し、チュニジアが安保理採決を予定している和平案非難決議案に賛成しないよう牽制した[186]。 2月3日、スーダンのアブデル・ファタハ・ブルハン︵Abdel Fattah al-Burhan︶最高評議会議長は、法的には交戦状態にあるイスラエルのネタニヤフ首相と会談した。PLOのアリカット事務局長は、﹁パレスチナの人々を背中から刺すようなまねだ﹂とスーダンを非難した[187][188]。 2月6日、チュニジアはバーティ国連大使を解任した。和平案非難決議案提出を阻止しようとする、米国の圧力に屈したと取り沙汰された[189]。 2月9日、アフリカ連合は米トランプ政権が公表した和平案は違法であると強く非難した。また、﹁パレスチナの大義﹂への連携を表明した[190]。 2月11日、パレスチナのアッバース大統領は国連安保理で、米国による和平案の拒否を呼びかけた。しかし、非難決議案の採決を行うことはできなかった。外交筋によると、米国は採決阻止のため安保理各国に強い圧力を加えており、欧州の一部の国でさえ、採決には消極的だったという[191]。 2月12日、国際連合人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、国際法で違法と見なされているイスラエル入植地に関わる112法人の一覧を公表した。内訳は、イスラエル94社、米国6社、オランダ4社、英国・フランス3社、ルクセンブルク・タイ各1社。これは、2016年3月24日に採択された人権理事会決議31/36に基づく公表である[192][193]。イスラエルのネタニヤフ首相は、﹁わが国をボイコットする者は何人であろうとボイコットする﹂﹁この卑劣な試みは断じて受け入れられない﹂と強く反発し、報復をほのめかせた。一方、パレスチナのマルキ外相は、リスト公表を﹁国際法と外交努力の勝利﹂と評価した[194]。 2月25日、イスラエルは東エルサレムに5000棟、隣接するE1地区の入植地に3500棟の建設計画を発表した。ネタニヤフ首相は﹁E1の建物は "巨大な意義 "を持っている﹂と強調した[195]。PLOは、イスラエルは国際法に違反しており、安保理の支持する2国家解決案に反していると改めて非難した[196]。また、PLOのアリカット事務局長はTwitterで、﹁実行されれば2国家解決は終わりです﹂と非難した[197]。日本の大鷹外務報道官は、入植地計画推進に﹁強い遺憾の意﹂を表明した[198]。 5月6日、イスラエルのベネット国防相は、ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地を、新たに7000棟許可したと発表した。ベツレヘム近郊のエフラト入植地に﹁数千棟﹂の建築を認めたという[199]。 5月17日、イスラエルのネタニヤフ首相は閣議で、ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地を自国に併合する法整備について、早期実現する考えを示した。新型コロナウイルス感染症 (2019年)︵COVID-19︶以外の法案は当面保留する方針だが、入植地併合は例外とした[200]。ネタニヤフ政権は、﹁青と白﹂との連立合意[注 15] の中で、併合に向けた議論を7月以降に始めると明記した[201]。 5月19日、アラブ首長国連邦(UAE)のエティハド航空は、新型コロナウイルス関連の支援物資を、国交の無いイスラエルのベン・グリオン国際空港に輸送した。エティハド航空は﹁パレスチナに医療物資を提供するため、人道支援に特化した貨物便を︵UAEの首都︶アブダビから︵イスラエルの︶テルアビブに運航した﹂とする声明を出した。AP通信によると、アラブ首長国連邦からイスラエルへの商業便の直行は、これが初めてである[202]。しかしパレスチナは、支援物資の受け取りを拒否した。パレスチナ政府筋の発言として、支援物資はパレスチナに事前の連絡が無く、イスラエルと国連のみに了解を取ったこと。また、アラブ諸国によるイスラエルとの国交正常化への動きに利用されることに、不快感を表明したことが報じられた[203][204]。 同日、パレスチナのアッバース大統領は、パレスチナ自治政府がイスラエルや米国と結んだすべての合意や理解を放棄したとみなすことを改めて発表した。イスラエルが米国の合意の元、7月1日以降に入植地の併合を実行すると表明したことへの抗議である。これにより、安全保障を含む全ての協力が停止したほか、イスラエルが︵本来はパレスチナが行う分を︶徴税した税金の送金も、受け取りを拒否した。パレスチナは収入の8割を失い、職員の給与支払にも困窮するようになった。また、国際連合人道問題調整事務所(OCHA)および世界保健機関(WHO)は、パレスチナの協力停止により、新型コロナウイルスをはじめ、必要不可欠な医療へのアクセスが危機的状況にあると指摘した[205][206]。イスラエルは、自国への入国許可を直接受け付けると表明したが、WHOは、携帯電話を通したイスラエルの許可受付アプリは、プライバシー上の懸念があると指摘した。 5月30日、東エルサレムで、イスラエルの警察官が、パレスチナ人男性を射殺した。警察官は、男性が拳銃を所持していることを疑い、止まるように命じたが男性は従わず、発砲した。男性は自閉症による知的障害があり、付き添いがそのことを訴えたが、警察官は聞かず、さらに発砲して止めを刺した。男性は武器を何も持っていなかった[207][208][209]。パレスチナ人たちは抗議デモで、﹁黒人の命は大切﹂にならって﹁パレスチナ人の命は大切﹂と訴えた[210]。5月31日、ガンツ国防相は﹁極めて遺憾﹂であると表明し、迅速な調査を行うことを明らかにした。イスラエルの人権団体"B'Tselem"によると、2011年4月から2020年5月までの間に、イスラエルの治安部隊は、イスラエル領およびイスラエル占領下のパレスチナ自治区で、パレスチナ人3408人を殺害した。しかし、イスラエルの治安部隊で有罪となったのは5人だけであった[211]。 6月9日、アラブ首長国連邦は、再び新型コロナウイルス関連の支援物資をイスラエルに輸送した。パレスチナはこれも、事前の連絡が無かったとして受け取りを拒否した[212]。なお、当初の支援物資は、ガザ地区を実効支配するハマースが引き取った[213]。 同日、イスラエル最高裁は、2017年に制定した私設入植地合法化法は、基本法に反すると判決を下した。同法は、成立時から基本法違反の指摘があり、成立後すぐに施行を停止されていたが、人権団体によると、これまでに50以上の私設入植地が公認されていたという[214]。 6月12日、アラブ首長国連邦のユセフ・アル・オタイバ駐米大使は、イスラエル紙﹃イェディオト・アハロノト﹄に寄稿した。オタイバはイスラエルの併合政策を批判する一方、UAEとイスラエルの﹁より緊密でより効果的な安全保障の協力が可能﹂であると主張した[215][216]。 6月23日、ロイターによると、﹁米政府当局者と協議に詳しい関係筋﹂の情報として、米国のクシュナー大統領上級顧問、オブライエン大統領補佐官︵国家安全保障担当︶、バーコウィッツ中東担当特使、フリードマン駐イスラエル大使の4人が、イスラエルによる併合を承認するかどうかの協議を開始した。トランプ政権は併合を承認する方向だが、﹁イスラエルの急激な動き﹂を容認すればパレスチナを協議に参加させられなくなることを恐れ、エルサレムに近い複数の入植地の︵イスラエルの︶主権承認から段階的に検討しているという[217]。 6月24日、国連安保理のオンライン会合で、国連のグテーレス事務総長は﹁イスラエル政府に対し、併合計画の放棄を求める﹂と呼びかけた。ベルギー、イギリス、エストニア、フランス、ドイツ、アイルランド、ノルウェーの欧州7か国は共同声明で、﹁国際法の下、併合は、われわれのイスラエルとの親密な関係に影響を及ぼすことになる。また併合をわれわれが承認することはない﹂と警告した。アラブ連盟のアハメド・アブルゲイト事務局長は併合について、﹁将来のいかなる和平の見通しをも破壊﹂することになると批判した。一方、米国のポンペオ国務長官は記者会見で、﹁イスラエル人がこれらの地域に主権を拡大するという決断は、イスラエル人がなすべき決断だ﹂と併合を擁護した[218]。 6月26日、ガザ地区からイスラエルにロケット弾攻撃があった。6月27日未明、イスラエル国防軍は報復として、ハマースの施設を空襲した[219]。 7月1日、イスラエル・ネタニヤフ政権が予告した、ヨルダン川西岸の一部を併合する手続開始日を迎えた。6月30日に発表されたパレスチナ政策調査研究所のパレスチナ世論調査によると、米国トランプ政権の﹁繁栄に至る平和﹂には88%が反対した。代案を出した上での和平交渉の再開は、賛成36%、反対53%だった。オスロ合意破棄は71%が支持した。新型コロナ支援物資受け取り拒否は、賛成49%、反対41%だった。他方、アッバース大統領の進退は、58%が辞任を要求した。次期大統領にふさわしい人物としては、ハマースのハニーヤが49%、アッバースが42%の支持だった[220][221]。他方、ユダヤ人入植地では、併合を見越した不動産投機がブームとなり、入植地の物件販売が飛躍的に伸びているという[222]。 7月19日、フランス通信社が﹁関係筋﹂の情報として、パレスチナは、ヨルダン川西岸のイスラエル併合を﹁希望する﹂と述べたパレスチナ人住民数人を逮捕したと伝えた。ただし、パレスチナ側は逮捕の事実を否定している。記事によると、6月にイスラエルのテレビ番組に匿名で出演したパレスチナ人が、イスラエル市民権取得への期待や、パレスチナ自治政府の腐敗などを理由に挙げたという[223]。 7月20日、イスラエル国防軍は、パレスチナ赤新月社が用意した新型コロナ対策の食料を、イスラエル側との調整を行っていなかったことを理由に没収した。エルサレム旧市街で、感染予防のために自宅待機している世帯に配布される予定だった。一方で、このころ国連の仲介で、︵ハマースが実効支配する︶ガザ地区から、イスラエル国内での医療に必要な手続きを一時的に緩和することが決まった[224]。 7月29日と8月13日のイスラエルのクネセト外交・防衛委員会では、﹁C地区の戦い﹂が議題となった。すなわち、ヨルダン川西岸のC地区を自国領とする認識の元、﹁パレスチナ人によるC地区の乗っ取り﹂への対策が審議された[225][226][227]。審議では、政府答弁でイスラエル軍がパレスチナ人農民のオリーブの木を42000本伐採したり、700台以上のショベルカーなどを没収したことを﹁非常な抑止力となっている﹂と自賛した。審議ではC地区全域の併合、ユダヤ人入植者200万人計画などが発言された。パレスチナ人住民を﹁ウイルス﹂﹁領土テロ﹂﹁がん﹂と中傷する議員もいた。入植者団体のレガビムは、オンライン公聴会でパレスチナ人が﹁イスラエル全土に触手を伸ばしている﹂と主張し、C地区全体で69000軒あるという﹁違法建築物﹂への処分を主張した[228][229][230]。 8月12日、イスラエルはガザ地区に認めている沿岸漁業海域を15海里︵27.78㎞︶から8海里に削減し、ガザ地区への物資の搬出入に使われる検問所を閉鎖した。風船爆弾などの攻撃に対する報復措置としている[231]。 8月13日、米国の仲介で、イスラエルはアラブ首長国連邦との国交正常化に合意したことを発表した︵アブラハム合意︶[232][233]。これは、従来のアラブ連盟が﹁アラブ平和イニシアティブ﹂で示した、イスラエルが占領地明け渡しを履行した上での国交正常化という方針の根本的な転換だった。 イスラエルのネタニヤフ首相は記者会見で、米国より合意の条件として、ヨルダン川西岸の併合の﹁一時停止﹂を求められたとしたが、﹁ユダヤ・サマリア[注 9] に主権を適用し、米国と完全に協調するという私の計画に変更はない﹂と、将来の併合を進める計画に変わりは無いとする見解を示した[234]。一方、アラブ首長国連邦のムハンマド・ビン・ザーイド・アブダビ皇太子は、﹁パレスチナ領土のさらなるイスラエル併合の停止に合意した﹂として、将来についてはイスラエル側と見解の相違を見せた[235]。 国交正常化交渉でパレスチナの領土問題が協議されたにもかかわらず、当のパレスチナに事前の連絡は無く、協議に加わることもできなかった[236][237]。パレスチナのアッバース大統領は﹁パレスチナの人々に対する攻撃だ﹂と国交正常化を非難し、マルキ外相は駐アラブ首長国連邦大使の召還を発表した[238]。ハマースのマシャアル前政治局長も、国交正常化を﹁我々の国民と、パレスチナの大義に後ろから刺すようなもの﹂と非難した[239][240]。また、ハマース関係筋によると、ハマースのハニーヤ政治局長と、アッバース大統領は非公式に協議し、﹁パレスチナの全勢力は一丸となり国交正常化を拒否する﹂ことで一致したという[241]。 しかしネタニヤフ首相は意に介さず、自らの方針である﹁平和のための平和(peace for peace)﹂﹁力による平和﹂の正当さを自賛した。これは、従来の和平交渉での﹁土地と平和の交換(Land for peace)﹂を否定する主張で、パレスチナへの占領地︵イスラエルの見解に拠れば、固有の領土︶返還を行わず、一方的に屈服させることが平和に繋がるという意味である。その上で、領土問題を﹁人質に取った﹂パレスチナを無視してアラビア諸国と国交を結ぶことで、パレスチナを従わせることが平和に繋がるとする見解を示した[242]。さらに、ネタニヤフは自らの﹁ネタニヤフ・ドクトリン﹂の説明として、エフード・ヤアリの﹁パレスチナとの泥沼の交渉に引きずり込まれるよりも、パレスチナは後回しにしてアラビアはじめ諸外国との国際関係を構築し、パレスチナの拒否権を奪う﹂﹁︵パレスチナの声明は︶怒りよりも欲求不満を示している。アブ・マーゼン︵アッバース︶らはもはや、アラビア諸国にイスラエルと敵対するよう命令することはできない﹂とする論説を引いた[243][244]。一方、イェシャ評議会のエルハヤニ委員長は﹁もしネタニヤフが入植地へのイスラエルの主権適用を諦めたのなら、︵首相から︶交代させる必要がある﹂と不満を表明し、入植地の早期併合を訴える右翼による散発的な抗議デモも行われた[245][246]。C地区全域のイスラエル併合法案提出など、クネセトにおける活動も行われている[247]。 アラブ首長国連邦のアンワル・ガルガッシュ外務担当国務大臣[注 16] は、ネタニヤフ首相の発言について﹁イスラエルの︵国内︶政治についてはよく分からない﹂﹁短期間の︵併合︶停止では無いと思う﹂と問題にはせず、改めてパレスチナ・イスラエルの両者に交渉に戻るよう呼びかけた[248]。 イスラエル・アラブ首長国連邦の国交正常化は、日本を含め多くの国が歓迎の意志を示し、あるいは賛否そのものを示さなかった。明確に批判したのはイラン、トルコ、シリア︵アサド政権︶のみであった。パレスチナ問題についても、イスラエル非国交国を含め、多くはパレスチナの独立や2国家共存への支持を表明したのみで、先の3ヶ国以外で明示的にイスラエルやUAEに遺憾や懸念を示した国は、ルクセンブルク︵後に撤回︶、南アフリカ共和国[249] のみに留まった。 同じく8月13日、イスラエル国防軍は、ガザ地区のハマースの拠点を空襲した。ガザ地区からの風船爆弾などに対する報復措置としている。また、イスラエル国防省は、報復措置としてガザ地区への燃料の輸送を中止すると発表した[231]。イスラエル軍による空襲は、8月26日までほぼ連日行われた[250]。 8月26日、﹃ハアレツ﹄はイスラエル国防軍第933"ナハル"歩兵旅団の兵士が、ヨルダン川西岸のカドゥム村に少なくとも3個の爆発物を仕掛けたと報じた[251]。国防軍は、﹁数年前から暴力的な暴動が起きており、スタングレネードを抑止力のために置いた﹂と主張した。 8月30日、イスラエルのネタニヤフ首相は、エルサレムで米国のクシュナー大統領上級顧問らと会談した。ネタニヤフは共同記者会見で﹁もはやパレスチナに︵イスラエルとアラブの和平進展を︶拒否する権利はないと理解すべきだ﹂と主張し、クシュナーは﹁パレスチナにも現実的な提案をしている﹂﹁彼らに和平を実現する意思があれば、そのチャンスはある﹂と主張した[252]。 9月4日、コソボとセルビアは、アメリカ合衆国の仲介で、経済関係の正常化で合意した。米国はまた、コソボとイスラエルの国交正常化と、セルビアの在イスラエル大使館をテルアビブからエルサレムに移転すると発表した[253]。また、イスラエルのネタニヤフ首相は、﹁エルサレムに大使館を開設する、初めてのイスラム教徒が多数を占める国家であるコソボ﹂と述べ、コソボの在イスラエル大使館も、エルサレムに開設されることを明らかにした[254]。 9月9日、アラブ連盟はオンラインで外相会議を開き、イスラエルとアラブ首長国連邦の国交正常化について意見交換をした。パレスチナのマリキ外相は、両国の国交正常化はアラブ和平イニシアティブに反する物と主張し、合意への非難声明のとりまとめを求めた。しかし、アラブ連盟内部でも、既にイスラエルと国交のあるエジプト、ヨルダンに加え、バーレーン、オマーンも国交正常化を支持したことから、非難声明の採択を行うことはできなかった[255]。 9月11日、米国のトランプ大統領は、イスラエルのネタニヤフ首相、バーレーンのハリーファ国王と会談し、イスラエルとバーレーンの国交正常化で合意したと発表した。パレスチナ問題については、併合の是非には触れず、﹁紛争の公正かつ包括的で永続的な解決を達成するための努力を続ける﹂とした[256][257]。また、︵イスラエル占領下の︶東エルサレムにあるアル=アクサー・モスクへの、イスラム教徒の自由な往来を認めると表明した。 ネタニヤフ首相は﹁他のアラブ国家との和平合意締結に興奮している﹂との声明を発表した。バーレーンの国営通信は、パレスチナとイスラエルの対立を終わらせるための﹁戦略的な選択﹂だとするザヤニ外相の声明を伝えた。一方、パレスチナは﹁アラブの大義への裏切り﹂であり﹁パレスチナを占領するイスラエルの醜い犯罪の正当化につながる﹂と強く反発した[258]。米国のクシュナー大統領上級顧問は、電話での記者会見で﹁これにより、イスラム世界の緊張が緩和され、パレスチナ問題を自分たちの国益と、自分たちの国内優先事項に焦点を当てるべき外交政策から切り離すことができるようになる﹂との見解を示した[259]。 9月15日、米国のホワイトハウスで、イスラエル、米国、アラブ首長国連邦、バーレーンの4者で﹁アブラハム合意﹂が調印された[260]。合意では、トランプ政権の和平案﹁繁栄に至る平和﹂を前提に、﹁両国民の正当なニーズと願望を満たすイスラエル・パレスチナ紛争の交渉による解決を実現﹂するとした[261][262]。 米トランプ大統領は記者会見で、﹁我々はパレスチナ人に大金[注 17] を払ってきたが、我々は適切に扱われていなかった。︵だからUNRWAなどへの︶支払を止めた﹂﹁彼らが敬意を払わないなら、我々はもう関わらない。彼らは状況を見ていると思うし、我々は強い信号を送ってきた﹂とパレスチナを非難し、﹁繁栄に至る平和﹂の受け入れを迫った[263]。またトランプは、﹁他の国は彼ら︵パレスチナ︶に援助を与えている。あなた︵ネタニヤフ︶が相手にしているのは、非常に裕福な国だ。そして、これらの国々は我々と︵和平の︶署名をしている。全ての国が署名をするだろう﹂と、これまでパレスチナを援助して来たアラブ諸国が、﹁我々﹂︵イスラエル・米国︶の側に付いたことを暗示した[264]。 同日、ガザ地区からイスラエルにロケット弾攻撃があり、2人が負傷した[265]。9月16日、イスラエル国防軍は報復としてガザ地区を空襲した[266]。 9月22日、パレスチナはアラブ連盟理事会の議長を返上した。議長は加盟国の持ち回りで6ヶ月の任期であるが、パレスチナのマリキ外相は﹁議長職の間に、アラブ人が︵イスラエルとの︶正常化に向けて突進するのを見ることは名誉なことではない﹂と、加盟国への失望を示した[267]。 同日より、国連総会の一般討論演説が始まった。 パレスチナのアッバース大統領は、イスラエルとアラブ首長国連邦・バーレーンの国交正常化を非難した。また、パレスチナが国際法と国連決議を受け入れ︵るという譲歩をし︶たにもかかわらず、イスラエルは合意に違反し、植民地主義を追求していると主張した。そして、和平問題の解決に向け、米国、国連、欧州連合、ロシアの4者を交えた国際会議を、来年の早い時期に開催するよう、グデーレス国連事務総長に訴えた[268][269]。 イスラエルのネタニヤフ首相は、アラブ首長国連邦・バーレーンとの国交正常化は﹁平和と大きな利益をもたらす﹂と述べ、﹁他のアラブ・イスラム諸国も、近いうちに平和の輪に加わることは疑いない﹂と主張した。また、パレスチナの﹁完全に非現実的な主張﹂が交渉を停滞させたと非難し、﹁現実的な﹂和平案︵﹁繁栄に至る平和﹂︶を受け入れるよう迫った[270][271]。 米国のトランプ大統領は、イスラエルとアラブ諸国の和平合意を﹁新しい夜明け﹂と呼び、自国の仲介努力を自賛した[272]。アラブ首長国連邦のアブダッラー外務兼国際協力大臣は、イスラエル・米国との合意によって﹁併合を凍結できた﹂成果を強調し、イスラエル・パレスチナの交渉再開による2国家解決を断固支持すると表明した[273]。サウジアラビアのサルマーン国王は、従来の﹁アラブ平和イニシアティブ﹂に基づくパレスチナの独立支持を表明する一方、米政権の和平仲介の労を支持した[274]。 9月23日、"The New Arab"によると、パレスチナ情報サービスのデータを引き、ラマッラー︵のパレスチナ政府︶の収入が前年比で7割減少したと報じた。2019年は、外国から5億ドル(約526億9千万円)の援助を得ていたが、2020年は2億5500万ドルとほぼ半減した。特に、アラブ諸国からの援助は2億6700万ドルから3800万ドルに、85%減少した。すなわち、減少の大半はアラブ諸国の援助縮小で占められた[275]。﹃エルサレム・ポスト﹄によると、アラビア語放送局"Al-Araby"および"Al-Jadeed"は、9月15日のトランプ・ネタニヤフの2者会談で、トランプは﹁裕福なアラブ諸国に、パレスチナ人にお金を払わないように頼んだ﹂と、アラブ諸国に圧力を掛けたことを語ったという[276]。 9月25日、パレスチナのファタハとハマースは、半年以内に選挙を行うことで合意した。まず立法評議会︵国会︶総選挙を行い、続いて大統領選、最後にPLO評議員選を行う予定である。国会議員の任期は2010年、大統領の任期は2012年で切れていたが、選挙が行えずにそのままになっていた[277]。 10月5日、サウジアラビアのバンダル・ビン・スルターン王子︵元駐米大使︶は、サウジアラビア系のアル=アラビーヤで、イスラエルとアラブ首長国連邦・バーレーンの国交正常化に対するパレスチナの非難は﹁冒瀆﹂であると非難し、﹁低級な言説﹂は、従来パレスチナを支援してきた、サウジアラビアや世界の支持を得られるものではないとした。同時に、パレスチナが、サウジアラビアと敵対する、イランやトルコとの関係を深めていることを非難した。また、﹁パレスチナの大義は正当だが、その擁護者は失敗し、イスラエルの大義は不当だが、その擁護者は成功している﹂と評した。その上で、﹁我々はイスラエル問題に関心を持つよりも、自国の安全保障と国益に注意を払わなければならない段階に来ている﹂と主張した[278][279]。 10月12日、パレスチナの非政府組織局責任者のアブ・アル・エネインは、海外からの資金援助の見返りに、国交正常化を前提とした﹁パレスチナ人を根本的に傷つける﹂条項があるとして、受け入れる者は国家の裏切り者であり、名前を公表するとNGOに対して警告した[280]。﹁アメリカ中東報道正確さ委員会﹂のショーン・ダーンは﹁パレスチナ自治政府が反テロ条項を拒否したもの﹂と批判した。ダーンによると、テロ組織であるパレスチナ解放人民戦線の影響が疑われるNGO組織があり、オランダなどは資金提供を停止、あるいは削減したという[281]。 10月14日、イスラエルはヨルダン川西岸での、新たに入植地2166棟の計画を承認した。イスラエルの新規入植地承認は、2月25日以来となる。イスラエルのNGO・ピース・ナウによると、承認は連立与党﹁青と白﹂のガンツ代表・国防相も加わっている[282][283]。パレスチナは声明で、﹁入植地を違法だとした国連決議と相いれない。ネタニヤフ政権の政策をやめさせるため、国際社会の即時の介入を求める﹂と激しく反発した[284]。同日、世界シオニスト機構のアブラハム・デュヴデヴァーニ会長は、毎年最低2つの︵ユダヤ人︶入植地新設を目標にする考えを述べた[285]。 10月15日、イスラエルは前日に引き続いて新規の入植地3122棟を承認し、14日とあわせて5288棟(ピース・ナウによると、過去の遡及的な追認を除くと4948棟[286])を承認した[287][288][289]。この中には、﹁繁栄に至る平和﹂でもパレスチナ領とした地域の962棟が含まれる。ピース・ナウの集計では、2020年の新規承認は12159棟で、2012年の11159棟以来の多さである[286]。入植地・エフラト評議会のオデッド・レヴィヴィ議長は、﹁トランプ氏の﹃繁栄に至る平和﹄は︵入植地の︶建設と拡大を可能にしている﹂とこれを歓迎した。また、サマリア地域評議会のヨシ・ダガン議長は、併合実現に向けて、入植者を100万人に増やさなければならないと主張した。国連のニコライ・ムラデノフ中東和平プロセス特別調整官は、入植地は国際法違反であり、パレスチナ人への和平交渉に悪影響を及ぼすと警告し、直ちにすべての入植活動の中止を求めた[289]。欧州連合は入植拡大の中止及び、EUが資金提供したものを含む、パレスチナ人建造物への破壊を停止するようイスラエルに要請した[290]。入植拡大をヨルダンは﹁国際法違反﹂と非難した[291]。フランス、ドイツ、イギリス、イタリア、スペインはそれぞれ﹁深い懸念﹂を表明し[292]、日本の外務省は﹁強い遺憾の意﹂を表明した[293]。﹁アブラハム合意﹂でイスラエルと国交正常化した、アラブ首長国連邦とバーレーンは反応を示さなかった[294]。 同日、アラブ首長国連邦の代表団が、イスラエルの警護を受けてひそかにアル=アクサー・モスクを訪問した。この行動はパレスチナ側で、モスクへの侵入と非難された。これは、﹁シオニスト過激派﹂が勝手にモスクに侵入したのと同様の行動という意味である[295]。アル・アクサー・モスクの説教者であるシェイク・イクリマ・サブリは、﹁正常化は無効であり、正常化に起因する行動も無効である﹂とUAE代表団を非難した[296]。 10月16日、サウジアラビアのファイサル・ビン・ファルハーン・アール・サウード外相は、米国のシンクタンク・ワシントン近東政策研究所主催の仮想会議で、﹁いま必要なことはパレスチナとイスラエルが交渉の席に戻ることだ﹂と主張した[297][298][299]。 同日、イスラエルはOHCHR職員9人のビザを更新せず、退去させた。残る3人のビザも数ヶ月以内に切れるという。2月に、国際法上違法な入植地に関わる112法人のリストを公表したことに対する報復とみられている[300]。 OCHAによると、ヨルダン川西岸では10月7日 - 19日に掛けて、ユダヤ人入植者とパレスチナ人農家らとの小競り合いで、パレスチナ人23人が負傷し、1000本以上のオリーブなどの木に被害が出た。前年は負傷者3人、被害樹木100本で、被害が大幅に増加した。農家によると、入植者は木を傷つけたり、放火したり、根こそぎ抜くなどの嫌がらせを行い、パレスチナ人と衝突すると、イスラエルの治安部隊が入植者を手助けするために介入するという。また、例年は欧米からボランティアの監視団が来訪するが、今年は新型コロナの影響で来られなかったという。イスラエル国防軍の広報担当者は﹁安全に収穫できるようにするのが部隊展開の目的だ﹂とする一方、﹁イスラエル国民︵である入植者︶が負傷することはあってはならない﹂と説明した[301]。 10月20日、アラブ首長国連邦外交団が、湾岸アラブ諸国として初めてイスラエルを訪問した。PLO幹部のワセル・アブ・ユセフは﹁恥ずべき﹂訪問と非難した。UAE外交団に同行した、米国国際開発金融公社のアダム・ボーラー代表によると、イスラエル、米国、UAEの3ヶ国は民間投資と地域協力の基金を設立し、当初は約30億ドルの調達を見込んでいるという。またこの基金で、イスラエルがパレスチナ人の通行管理に設けている検問所の近代化が可能になるという[302]。 10月22日、エルサレムのイスラエル連邦判事裁判所は、24人のパレスチナ人住民のうち、12人の退去と、ユダヤ人入植者への明け渡し、さらに入植費用7000新シェケル︵約226万円︶の負担を命じた[303]。ほとんどのパレスチナ人家族は、イスラエルの司法は占領政策の道具に過ぎない︵ので勝訴は望めない︶と考え、控訴を断念したという[304]。 10月23日、米国トランプ大統領は、スーダンとイスラエルとの国交正常化合意を仲介したと発表した[305]。ただし、スーダンのオマル・ガマレルディン外相は、スーダンは︵2019年スーダンクーデター後に発足した︶暫定政権であるため、正式な国交正常化は立法評議会による憲法公布後になるという見通しを示した[306]。トランプはこれに先だって、米国によるスーダンのテロ支援国家指定解除を、米議会に通知していた[307]。イスラエルのネタニヤフ首相は、﹁アラブ世界との正常化に、無防備な1967年線[注 18] に引き戻す必要はないことは確定的に明らか﹂であり、今のスーダンは﹁平和にイエス、承認にイエス、正常化にイエスだ﹂と賞賛した[308][309]。パレスチナは国交正常化への非難と拒否を表明し、﹁アラブ和平イニシアティブ﹂、国連安保理決議1515に違反していると声明を出した[310]。ハマースは、スーダンが﹁占領者イスラエル﹂と国交正常化合意したことに﹁衝撃﹂と﹁強い非難と憤り﹂を表明した[311]。 10月28日、ユダヤ人入植地にあるアリエル大学で、イスラエル・米国による科学技術協定の更新が調印された。ベンヤミン・ネタニヤフ首相は調印式で、﹁1967年の境界線を越えたイスラエルの全て︵の支配︶を非合法化しようとする、全ての人びとに対する重要な勝利﹂を宣言し、﹁イスラエルの人々とイスラエルの地との千年のつながり﹂を根拠に、改めて占領の正当性を主張した。また、協定の適用範囲が、占領地の﹁ユダヤ・サマリア[注 9]﹂、東エルサレム、ゴラン高原に拡大されたことを明らかにした[312][313]。 パレスチナのアッバース大統領報道官のナビル・アブ・レデネは、﹁この措置は、パレスチナ領の占領に米国が実際に参加していることを意味する﹂と非難した[314]。 10月29日、米国はエルサレム出身の自国民のパスポート出生地欄を、国名を表記しない﹁エルサレム﹂から、﹁イスラエルのエルサレム﹂に変更可能にした[315]。﹃ハアレツ﹄は、﹁トランプ政権が万が一、終わってしまうことに備えている﹂との見解を報じた[316][317]。 11月3日投開票された2020年アメリカ合衆国大統領選挙は、11月7日にジョー・バイデンの当選確実が相次いで報じられた。11月8日、パレスチナのアッバース大統領は祝意を表明した。一方、イスラエルのネタニヤフ首相は、バイデンに祝意を表明すると共に[318][319]、トランプ現大統領に対しても感謝の意を示した[320]。 11月9日、UNRWAは、職員約28000人の11月分の給与の財源が底を突いたとして、各国に援助を求めた[321]。 11月15日、イスラエル当局は、東エルサレムのギバトハマトス入植地で住宅1257棟の入札を開始した。締切は米国大統領の任期満了日︵バイデンが当選した場合はその就任日︶の2日前である、2021年1月18日に設定された[322][323][324]。 11月17日、パレスチナとイスラエルは、治安や徴税などの協力関係の再開で合意した。米国でバイデンが大統領当選確実になったことから、トランプ政権による﹁懲罰的措置﹂を覆す狙いがあるという。一方で、イスラエルによってテロなどの罪状で投獄された、政治犯への給与支払の見直しを検討しているという[325]。ハマースは、イスラエルとの関係再開を強く非難する声明を出し、﹁バイデンなどに賭けるのは止めるよう﹂要求した[326][327]。 11月19日、米国のポンペオ国務長官が、国務長官としては初めて、イスラエル占領地である、ゴラン高原とヨルダン川西岸のユダヤ人入植地を訪問した。これらは、トランプ政権がイスラエルの主権を承認したことを踏まえての行動であり、同時に政権交代を見据えて既成事実化を図ったものとも報じられた。また、ヨルダン川西岸のC地区で生産された米国への輸出製品には、従来は﹁ヨルダン川西岸製﹂︵Made in the West Bank︶表示を義務づけていたが、新たに﹁イスラエル製﹂︵Made in Israel︶表示を義務づけたガイドラインも発表した[328]。すなわち、﹁ヨルダン川西岸製﹂表記を、米国としては違法とした[329]。 11月21日、サウジアラビアのファイサル外相は、NHKの取材に対し﹁日本はイスラエルとパレスチナと良好な関係である﹂から、両国を交渉再開させ、国際貢献することができるとして、日本への期待を表明した[330]。 11月22日、イスラエル国防軍はガザ地区のハマース軍事拠点を空襲したと発表した。国防軍によると、11月21日にガザ地区から発射されたロケット弾攻撃への報復としている。また、11月15日にもガザ地区からロケット弾攻撃があったが、いずれもイスラエル側の負傷者は無かった[331]。 11月23日、ハマースによると、ハニーヤ政治局長は、パレスチナがイスラエルとの協力関係再開を決めた件について、他党︵イスラーム聖戦、パレスチナ解放人民戦線、パレスチナ解放民主戦線、パレスチナ国民構想︶と協議した[332]。 11月26日、エルサレム地方裁判所は、イスラエルの入植者団体アテレト・コハニムの訴えを支持し、東エルサレムのパレスチナ人住民87人の立ち退きを命じた。退去を命じられたある住民は、﹁アルジャジーラ﹂の取材に、2009年に自宅の半分を入植者に不法占拠され、﹁完全にエルサレムからパレスチナ人の存在を全滅させるための努力の一環として﹂継続的な嫌がらせを受けたと答えた[304]。OCHAによると、イスラエル当局が﹁違法建築﹂として、破壊の危機にあるパレスチナ人学校は52校に上る[333]。アテレト・コハニム、ナハラト・シモンなどの団体は、東エルサレムの﹁ユダヤ化﹂を促進するため、パレスチナ人住民の追放を求める訴訟を相次いで起こしている[334]。これらの入植者団体は、1948年以前にユダヤ人のものであった財産を取り戻すと主張している。イスラエルの法では、ユダヤ人が1948年以前の財産を取り戻すことは法律で認められているが、非ユダヤ人には認められていない[335]。 国連人道問題調整事務所︵OHCHR︶の報告によると、2021年1月11日現在、877人︵子供391人を含む︶が立ち退きの危機にさらされている。国連特別報告者のマイケル・リンクは、イスラエルの裁判所によるパレスチナ人住民立ち退き命令は﹁歴史的盆地として知られる、東エルサレムの地域に戦略的に集中﹂しており、﹁より違法性の強いイスラエル入植地建設の妨げにならないよう、東エルサレムのパレスチナ人をヨルダン川西岸から物理的に孤立させる﹂目的があると指摘した。また、立ち退きが実行されたなら、ジュネーヴ第4条約49条の、住民の強制移住の禁止に違反しているとも指摘した[336]。 12月4日、パレスチナ自治区のラマッラーで、ユダヤ人入植地建設の抗議活動が行われた。パレスチナ保健省によると、参加した少年1人がイスラエル国防軍に殺害された[337]。 12月6日、サウジアラビアのトルキ・ファイサル王子は、オンライン国際会議﹁マナマ対話﹂で、イスラエルを﹁欧州の植民地勢力﹂と評し、パレスチナ人を強制収容所に捕らえ、民家を破壊し、思うがままに暗殺していると非難した。イスラエルのアシュケナジー外相は、会議上で遺憾の意を表明した[338]。 12月10日、米国の仲介で、イスラエルとモロッコが国交正常化で合意した[339]。イスラエルのネタニヤフ首相は、﹁中東でこれほど平和の光が明るく輝いたことはない﹂とモロッコを評価した。一方、PLOのバッサム・サルヒはロイターに対し、﹁アラブ和平イニシアチブに反するもので容認できず、今回の合意はイスラエルの好戦的な態度やパレスチナ人の権利否定を助長するもの﹂だと非難した[340]。モロッコのムハンマド6世国王は、同日にパレスチナのアッバース大統領と電話会談し、モロッコはパレスチナの大義と二国家共存を支持しており、当事者間の交渉が唯一の解決方法であると述べたという[341]。一方でムハンマド6世は、イスラエルに移住した、数十万に上るモロッコ系ユダヤ人との﹁特別な関係﹂にも言及した[342]。 12月12日、スーダンはハマースのマシャアル前政治局長の市民権を剥奪したことがわかった。米国のテロ国家指定解除後に、実行されたという[343]。スーダン内務省は、マシャアルを含むパレスチナ人112人の市民権を剥奪し、また約3500人に市民権を与える決定を取り消した。スーダンに帰化したパレスチナ人は約6000人に上るが、市民権剥奪により不法滞在とされ、強制送還される懸念が起きているという。イスラエルの、イランからスーダンを介したハマースへの武器取引を阻止する意図があると見られている[344]。 12月21日、イスラエル警察によると、聖地﹁神殿の丘﹂周辺で、警察の詰め所に発砲したパレスチナ人の少年を射殺した[345]。また同日、ヨルダン川西岸のユダヤ人入植者が遺体で発見された。警察はテロの可能性があるとしている[346]。 12月23日、﹃ル・モンド﹄によると、アラブ首長国連邦とイスラエルは、国連パレスチナ難民救済事業機関︵UNRWA︶廃止に向けた計画を策定していると報じた。ベンジャミン・バルテ記者は、UAEはUNRWAの主要な資金源となっていたが、2020年に出費のほとんどを止めたと指摘した。バルテは、UAEがイスラエルの年来の主張に協力することになると指摘した[347][348]。アルジャジーラによると、アラブ首長国連邦は、2018年・2019年は5190万ドルをUNRWAに寄付したが、2020年は100万ドルに激減したという。UAEはこの件についてコメントしていない[349]。 12月29日、ガザ地区のハマースとイスラーム聖戦などの武装組織は、メディアの前で合同軍事演習を行い、イスラエルに向けてロケット弾を発射した。ハマースらが、軍事演習をメディアに公開するのは前代未聞という[350]。 2020年の1年間では、パレスチナ側は34人(うち、子供8人)、イスラエル側は2人(うち、子供0人)が紛争で殺害された[351]。 2021年1月10日、ユダヤ人入植者の自治体﹁サマリア地域評議会﹂は、﹁イスラエル製﹂を表示した入植地産製品の、アラブ首長国連邦への輸出を開始した。サマリア地域評議会のヨシ・ダガン議長は、﹁これはサマリア[注 9] とイスラエル国家全体にとって歴史的日だ﹂と述べた。これは、安保理決議2334や、それを承けた欧州司法裁判所判決の公然たる無視を意味し、同時にイスラエルにとっては、ヨルダン川西岸の領有権をアラブ首長国連邦に承認させる重要な足がかりとなる[352]。ハマースのハゼム・カセム報道官は、この動きを﹁占領下のパレスチナの土地にシオニストの入植地建設を奨励することに等しい﹂と非難した[353]。 1月11日、イスラエルのネタニヤフ首相は、バイデンが米国大統領に就任するまでに、新たに800棟以上の入植地を承認すると述べた。ネタニヤフは、12月に殺害された入植者の故郷であるタル・メナシェ入植地が含まれると述べた。また、﹁開拓地﹂であるノフェイ・ネヘミア私設入植地の200棟あまりが含まれる[354][355]。 1月15日、パレスチナのアッバース大統領は、評議会議員選挙を5月22日、大統領選挙を7月31日投開票の日程で行うと布告した。評議会選挙は2006年以来、大統領選挙は2005年以来となる[356]。パレスチナは欧州連合に、イスラエル占領下にある東エルサレムでの選挙実施に向けて、選挙監視団を要請した[357]。 1月19日、ピース・ナウによると、イスラエルはヨルダン川西岸地区で2112棟、東エルサレムで460棟、合計2572棟のユダヤ人入植地を承認したと発表した[358][359]。 1月20日、ジョー・バイデンがアメリカ合衆国大統領に就任した。 2月1日、イスラエル国防軍は、ベドウィンのヒルベトフムサ集落を﹁違法﹂を理由に破壊した。前年11月の破壊から再建したばかりであった。欧州連合の駐パレスチナ代表は﹁多くの人々が冬の寒さと新型コロナウイルスに直面する中でホームレスになった。︵家屋破壊は︶国際法違反で受け入れがたい﹂と非難した[360]。イスラエル・ネタニヤフ首相の上級顧問であるマーク・レジェフは、﹁イスラエル最高裁が、ベドウィンには土地の所有権が無いと判決を下しており、この判決は政治的に独立して出されたものだ﹂﹁パレスチナ指導部は、ベドウィンを駒にしている﹂と主張した[361]。 2月5日、国際刑事裁判所︵ICC︶は、パレスチナの主張を支持し、ICCはパレスチナにおける戦争犯罪の管轄下にあるとの決定を下した。パレスチナは、イスラエルによる武力行使や入植活動などを、ICCに戦争犯罪として告発していた。パレスチナのシュタイエ首相は﹁正義と人道、自由の勝利だ﹂と歓迎した。一方、イスラエルのネタニヤフ首相は﹁偽の戦争犯罪で捜査するのは反ユダヤ主義﹂﹁正義の悪用に対し全力で闘う﹂と強く非難した[362][363][364]。2021 -:――東エルサレムのパレスチナ人追放運動とガザ地区への攻撃[編集]
2023 -‥現在––パレスチナの抵抗作戦[編集]
2023年1月9日、クネセトで﹁ユダヤ・サマリア入植地規制法﹂更新が可決された[381]。 1月26日、イスラエル国防軍と治安部隊はヨルダン川西岸地区のジェニン難民キャンプを急襲し、戦闘員ら9人︵民間人1人︶を殺害した[382]。IDFは﹁テロ作戦でテロリスト3人が無力化︵殺害︶された。他の死傷者は調査中である﹂と発表した[383]。 2月12日、イスラエルは9前哨地︵イスラエル国内法でも違法な入植地︶を公認し、既存の入植地を拡大すると発表した[384]。日本外務省は﹁深刻な懸念﹂を表明し、﹁入植活動を完全凍結するよう強く求め﹂た[385]。2月20日、国連安保理は入植拡大に﹁深い懸念と失望を表明﹂する声明を可決した。アラブ首長国連邦は﹁パレスチナ占領地におけるあらゆる入植活動の即時かつ完全な停止﹂を求める決議案を用意していたが取り下げ、より強制力の弱い文面に置き換えることで米国は賛成に回った。イスラエル首相府は、声明は﹁一方的﹂であり、﹁声明は出されるべきではなかった。米国も参加すべきではなかった﹂と主張した[386]。 3月21日、クネセトで、2005年の撤退計画を改め、ヨルダン川西岸の4入植地の再建を、IDFの承認を条件を認める改正案が可決された[387]。米国と欧州連合は相次いで批判し、パレスチナ大統領府のナビル・アブ・ルデイネ報道官は﹁全ての入植地を違法とする国際連合安全保障理事会決議2334をはじめとする国際的正当性を持つ全ての決議に違反する﹂と非難した[388]。日本外務省は﹁入植活動を完全凍結するよう強く求め﹂る声明を出した[389]。 5月18日、ヨルダン川西岸・ホメシュの入植規制を解く内容のIDF軍律︵命令2137︶が布告された[390]。これを受け、サマリア地域評議会︵入植者の地域自治体︶はかねてよりイスラエル民政局の承認を得た計画に基づき[391]、入植地の再建に着手した[392]。﹃Arab News﹄によると入植者達はパレスチナ人の作物を荒らし、IDFはパレスチナ人農民らを拘束したという[393]。 6月18日、イスラエルはヨルダン川西岸で約4560棟︵﹃The Times of Israel﹄によると約5700棟︶の入植地住宅建設計画を承認する見通しを明らかにした。2023年の半年足らずで13,082棟の入植が承認されたが、これは過去最多である[394][395]。また、入植承認に従来6段階設けられていた手続を1~2段階に簡素化し、権限が従来の国防相から、新設の第2国防相︵ベザレル・スモトリッチ財務相が兼任︶に移ることも決まった[396][397]。日本外務省は﹁深刻な懸念﹂を表明した[398]。 7月3日から5日にかけ、IDFはヨルダン川西岸地区のジェニン難民キャンプを攻撃し、﹁ジェニン大隊﹂の戦闘員ら12人︵うち子ども4人︶を殺害した。ドローンによる空襲が行われたが、ヨルダン川西岸地区が空襲を受けたのは20年ぶりだった。また、ジェニン大隊はIDF兵士1人を殺害した[399]。ジェニン大隊はファタハ、ハマース、イスラム聖戦のメンバーがそれぞれ参加しているという[400]。IDFは、ジェニンが﹁テロリストの最大の発生源﹂であり、﹁人口の25%がテロ組織であるイスラム聖戦に、20%が同じくハマースに所属している﹂と主張した。また、﹁1000丁以上の武器を押収し、30人を逮捕した﹂と発表した[401]。 10月6日時点で、OCHAによるとパレスチナ側は237人、イスラエル側は29人が紛争で殺害されていた[402]。パレスチナ問題への各国の対応[編集]
アメリカ合衆国はユダヤ人のロビー活動もあって、イスラエルと極めて関係が深く、国連安保理でイスラエル非難決議案が出されると、ほぼ確実に拒否権を発動している[注 19]。民間レベルでも、2010年2月のギャラップ社の世論調査によれば、イスラエルへの好感度は67%で、調査した20ヶ国・地域中上から5番目︵上からカナダ、イギリス、ドイツ、日本の順︶と比較的高い。逆にパレスチナ自治区への好感度は20%で下から4番目︵下からイラン、北朝鮮、アフガニスタンの順︶と低く、米国は親イスラエル・反パレスチナの国民感情を示している[414]。また、同じくギャラップ社が2010年2月に中東問題に関して行った世論調査では、米国民のイスラエル支持率は63%、パレスチナ支持率は15%を記録している[415]。逆に英BBCと読売新聞社が22カ国で﹁良い影響を及ぼしている国﹂と﹁悪い影響を及ぼしている国﹂を調査した結果、悪い影響を及ぼしている国では、1位イラン55%、2位のパキスタン51%に続き、3位に北朝鮮とイスラエルで50%となり世界的には否定的に捉えられている事が判明した[416][417]。 また、軍事援助も継続して行っている。2007年7月29日にイスラエルのエフード・オルメルト首相が明かしたところによると、イスラエルは米国に対し、従来の25%増となる、10年間で300億ドル︵約3兆5000億円︶の軍事援助を取り付けた。従来は年間24億ドル︵約2,800億円︶︵AFP通信 ﹁米政府、イスラエルに10年で300億ドルの軍事支援に合意 * 2007年07月29日 21:35 発信地:エルサレム/イスラエル﹂︶。この金額は、イスラエルの軍事費の2割以上に相当する。2016年には、アメリカはイスラエルに対し、2019年 - 2028年の10年間で380億ドル︵約3兆9000億円︶の軍事援助を行うことで同意した[418]。 これは無償援助のみの額で、有償での借款や兵器の売買などを含めると、米国による出資はさらに巨額になる。 また、英オックスフォード大学の講師サラ・ヤエル・ハーシュホーンによると、2015年現在、ユダヤ人入植地の入植者の15%はアメリカ合衆国国籍であるという[419]。 ドイツは、ナチスによるユダヤ人大虐殺︵ホロコースト︶の負い目もあって、イスラエルの全面支援を表明している。その他の欧州諸国は、パレスチナは未承認だが、米独に比べるとイスラエルに批判的である。アラブ諸国はパレスチナへの援助を削減しており、米国に至っては全く打ち切ったので、相対的に欧州諸国によるパレスチナ援助の比重が増している。 アジア、アフリカ諸国は、大部分がパレスチナを承認している。中国はパレスチナを承認する一方、2007年1月10日 - 11日には胡錦涛国家主席、温家宝首相がイスラエルのオルメルト首相と会談するなど、両にらみの態度を取っている。中南米諸国は、2010年12月3日にブラジルが承認したのを皮切りに、承認国が大勢を占めるようになった。 イスラエルを除く中東アジア・アフリカ諸国は、従来は﹁パレスチナの大義﹂を旗印にパレスチナを支援してきた。しかしエジプト、ヨルダンを皮切りに、2020年にはアラブ首長国連邦、バーレーン、モロッコもイスラエルを承認し、サウジアラビアがパレスチナへの批判を強めるなど、アラブ諸国は徐々にイスラエルに接近している。しかし、アラブ諸国の国民には、イスラエルへの反発が根強く存在するため、政府レベルの接近と食い違いが生じている。一方、非アラブ諸国であるシリア、イラン、トルコはイスラエルと対立し、パレスチナ支援を続ける一方、アラブ諸国にとってはイスラエルに代わって主敵となって来ている。 日本は、パレスチナは未承認であり、現在は将来の承認を予定した自治区として扱っている。パレスチナに物資の援助は行うが、ハマースへの対応は欧米に歩調を合わせている。日本はハマースとの公的な接触を禁じており、援助など実務者レベルの協議に必要な、最小限の接触に留まっている。また、日本の援助で建てられたパレスチナの施設が、イスラエルにしばしば破壊されているが、これについてイスラエルに抗議は行っていない。2008年2月25日、イスラエルのオルメルト首相は来日し、2月27日、福田康夫首相と会談した。福田首相は、﹁平和と繁栄の回廊﹂構想の具体化を急ぐ考えを改めて表明し、会談後両国の関係強化などを盛り込んだ共同声明を発表した。また、イスラエルが北朝鮮によるシリア、イランへの軍事協力を示す情報を提供することも分かった。しかし、イスラエルのガザ地区などへの攻撃については、日本は何も触れなかった。翌2月28日、オルメルト首相は、日本の記者クラブの講演で﹁北朝鮮とイラン、シリア、ヒズボラ、ハマースは悪の枢軸だ﹂と述べた。北朝鮮はこの動きに反発し、﹁イスラエルこそ危険な反動勢力﹂と主張した[420]。 国際協力機構によると、日本は1993年のオスロ合意以降、2018年12月までに約19億ドルのパレスチナ支援を実施している[421]。 報道については、双方が相手に有利な偏向報道を行っていると主張している[422]。2008年3月12日、イスラエルはカタールの放送局アルジャジーラの取材を、ハマース偏向報道を理由に拒否した。さらに、アルジャジーラ本社やカタール政府に懸念を表明する文書の送付や、アルジャジーラ記者のビザ発給制限も検討している。 当事者の宣伝も活発で、インターネットでも互いの関連サイトが多数存在する︵イスラエルの広報宣伝活動は、Hasbara︵説明︶と称している︶。2008年12月29日には、イスラエル国防軍によるYouTubeチャンネルが設けられた。地勢に関する現状[編集]
ヨルダン川西岸[編集]
2014年12月末時点で、約20%、2802件の破壊命令が実行された。約1%、151件は命令が取り消され、11134件の未処理の案件があった。また、2015年上半期には、パレスチナ人建造物245軒の破壊・解体・没収が行われた。20年以上前の命令を根拠に破壊が実施された例もあり、命令の効力は事実上無期限である。破壊に要した費用は、全てパレスチナ人から取り立てられる。
イスラエル民政局は、ユダヤ人入植地の﹁不法建築﹂も取り締まっている。それによると、1991年から2014年にかけて、6949件の破壊命令を出した。約20%、1357件が実行され、約7%、486件は取り消された。約5%、368件は執行準備完了としており、約4%、295件は保留、残る4443件は未処理だった。ユダヤ人入植地は、﹁不法建築﹂認定されても、取り消される確率はパレスチナ人の約7倍である。またパレスチナ人と異なり、たとえ破壊されても、当局から代地を含む補償・支援を受けられることがある。 また、イスラエルは自国領・占領地・入植地と、パレスチナ人居住区とを分断する壁を一方的に築いている。イスラエルは﹁壁(חומה, wall)﹂ではなく﹁フェンス、柵(גדר, fence)﹂であると主張し、﹁反テロフェンス﹂と呼んでいる。壁は、イスラエル領土だけで無く、イスラエル領域外の入植地を囲む形で建設が進められている。第1次中東戦争の停戦ラインでパレスチナ側とされた領域も壁の内部に取り込まれており、事実上の領土拡大を進めている。2004年7月9日、国際司法裁判所は、イスラエルによる占領下にあるパレスチナにおける壁の建設が国際法に違反するという勧告的意見を下した。イスラエル側は現在も壁の建設を続行している︵エルサレム周辺地図︵英語︶ 青地がイスラエル入植地、灰地がパレスチナ人居留区、黒実線が壁、灰実線が計画中の壁。全体図は外部リンクからパレスチナ赤新月社による地図参照︶ イスラエルは単に壁を作るだけではなく、道路の通行規制も行っている。パレスチナ自治区であるべき地域に、イスラエル人専用道路︵パレスチナ人立ち入り禁止︶や、パレスチナ人の通行制限されている道路が多数存在している︵地図‥ヨルダン渓谷沿い入植地群︶。 また、イスラエル軍や、ユダヤ人入植者などのイスラエル民間人は事実上治外法権であり、たとえパレスチナ自治政府が警察権を握るA地区であっても、イスラエル軍民の犯罪を摘発することはできない状況にある[430]。イスラエルは、ユダヤ人入植者の犯罪にしばしば協力している。イスラエルの人権団体・Yesh Dinによると、2015年時点で、イスラエルの司法は、ユダヤ人入植者の被疑の85%を不起訴とし、有罪となったのは1.9%であった[431][432]。 パレスチナ人在住・所有の土地の没収も、日常的に行われている。イスラエルの行政法は、今日でもオスマン帝国・イギリス委任統治領パレスチナ時代の法律が多く残っており、イスラエルはこれらの法律も利用している︵ヨルダン川西岸では、さらにヨルダン占領当時の法律が加わる︶。たとえば、第三次中東戦争での占領後、1967年7月31日にイスラエル国防軍は命令59を布告し、﹁敵国﹂、すなわち従来ヨルダン・エジプトが国有地としていた土地を全て自国の国有地と宣言した。しかし私有地の没収については1979年、イスラエル最高裁で違法判決が出たため、新たな法的根拠を用意する必要があった。そこでイスラエル軍は、命令59を改正し、イスラエルが国有地と宣言した土地に対しては、私有地であることを証明する手続きが必要であるようにした。占領地には、未登記でパレスチナ人が生活の用に供している土地が少なくなく、イスラエル軍は全てこれを国有地と宣言した。また、異議申立は通常の裁判所では無く、イスラエル軍運営の﹁異議申立委員会﹂でしか行えないようにした。これにより、イスラエル軍はさらに多くのパレスチナ人を追放した。さらに、イスラム法に端を発する、﹁3年間未耕作の土地はスルタンが収公する﹂規定を国家の収公と読み替え、パレスチナ人の耕作を妨害することによって、私有地についても多くの土地を国有地として没収した。 しかしそれでも、イスラエルの裁判所でパレスチナ人の私有が認められ、私設の︵イスラエル政府が承認していない︶ユダヤ人入植地に対して違法判決が出ることはあった。2017年2月6日、クネセトは私設入植地をさかのぼって公認し、パレスチナ人私有地の強制収用︵ただし、補償金は支払われる︶を可能にする法案を可決した[104]。同法は、占領地におけるパレスチナ人のいかなる土地の没収も合法化する内容だったが、2020年6月9日、イスラエル最高裁は同法を基本法違反︵事実上の違憲︶とする判断を下したため、廃止された[214]。 これらのパレスチナ人から没収した土地は、ユダヤ人に入植地として、本来のイスラエル領内の1/3程度の価格で販売されている[433][434]。 OCHAは、イスラエル軍のパレスチナ人住民に対する振る舞いを、占領地の被保護者の追放を禁じた1949年ジュネーヴ諸条約第4条約第49条に違反していると指摘している。他方、イスラエルは、1907年のハーグ陸戦条約第43条に基づくイスラエルの義務と一致しており、1995年の、PLOとの暫定合意にも合致していると主張している[429]。 OCHAの報告[435] によると、2019年の第1四半期︵1~3月︶に、ヨルダン川西岸地区でイスラエル軍によって、136のパレスチナ人による建造物が破壊された。イスラエル軍が破壊したのは、42%が住宅、38%が住宅関連施設、7%が水道・衛生施設だった。これにより、218人が事実上追放され、約25000人が影響を受けた。もっとも深刻な被害は、2月17日に行われた水道管の破壊で、ベイトフリック村、ベイトダジャン村︵いずれもB地区︶のあわせて約18000人が影響を受けた。また、ヘブロン南部のマッサファー・ヤッタ地区︵イスラエルは﹁射撃場﹂に指定し、住民の立ち退きを要求︶では、2018年10月にoPt人道基金の寄付で灌漑が整備されたが、2019年2月にイスラエル軍によって破壊された。また、A地区・B地区においても、住宅2軒がイスラエル軍によって破壊され、8人が避難した。 2020年9月のOCHA報告によると、イスラエル軍によるパレスチナ人所有の建造物の破壊は、2017年は月平均35件、2018年は38件であったが、2019年は52件と増加した。2020年は、新型コロナウイルス感染症流行初期の1-2月は、月平均45件に減少したが、3-8月は65件と、2017年からの4年間で最も多くなった。また、2020年3月から8月の間だけで、442人のパレスチナ人が家を失った。特に、8月は205人が家を失ったが、これは過去4年間で最多であった[436]。7月21日に破壊されたヘブロンの建造物には、新型コロナウイルスのPCR検査場予定地が含まれていた[437][438]。 OCHAは、2018年に布告された命令1797によって建造物の迅速な破壊が可能になり、所有者が異議申立の手続きを取れなくなっていることを懸念している[436]。 OCHAによると、2009年から2020年までの12年間に、パレスチナ人所有の建造物7236棟が破壊され、10920人が家を失い避難民となった︵同一人物の複数回の被害もあるため、人数は延べ︶。2020年中に破壊された建造物は836棟、避難民は984人に上り、これは2016年に次ぐ多さである[439]。 水利権についても、同様にイスラエルによる占有が進められている。イスラエル軍は、1967年にヨルダン川西岸、ガザ地区、ゴラン高原、東エルサレム、シナイ半島を占領すると、同年8月15日の命令92で、イスラエル軍が水利権の全権を握ると布告した[430]。同年11月19日の命令158で水道施設の許認可権を布告し、拒否に際して理由を示す必要はないとした。また、無許可の全ての施設・資源は、有罪判決を待たずに没収できると布告した[440]。1968年11月29日の命令291では、1967年以前︵イスラエル占領以前︶の地権・水利権の契約は全て無効と布告した。 オスロ合意では、ヨルダン川西岸におけるパレスチナ人の水利権が公認されたが、地下水の1/4に留まり、ヨルダン川については水利権が認められなかった。オスロ合意では、パレスチナへの将来の水利権拡大を含めた最終的な地位協定が予定されていたが、実施されていない。2009年時点でも、イスラエルが8割の水利権を握っている[430]。 OCHAによると、C地区のパレスチナ人住民27万人のうち、9万5000人は、WHOの推奨する1日の水消費量である100リットルの、半分以下の水しか利用できていない。また、パレスチナ・トゥーバース県の推計によると、県内のイスラエル人入植者は、パレスチナ人の8倍の水を割り当てられているという[435]。
人口の歴史[編集]
19世紀 - 1948[編集]
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1949 - 1967[編集]
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1967-2016まで[編集]
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「パレスチナ問題」の核心の簡素なまとめ[編集]
- パレスチナが「占領地域」と呼ぶ紛争地域、ヨルダン川西岸地区・ガザ地区の地位に関する問題
- 水資源問題[445][446][447]
- 経済問題
- 「難民」の「帰還権」
- パレスチナの思想的問題(併存問題)
- ゴラン高原の地位に関する問題
- アラブ諸国との関係正常化
脚注[編集]
出典[編集]
注釈[編集]
関連文献[編集]
- 広河隆一『パレスチナ』岩波新書
- 岡倉徹志『パレスチナ・アラブ その歴史と現在』三省堂
- エリアス・サンバー『パレスチナ 動乱の100年』創元社
- 奈良本英佑『パレスチナの歴史』明石書店
- 横田勇人『パレスチナ紛争史』集英社
- 山崎雅弘『中東戦争全史』学習研究社
- 立山良司『図説 中東戦争全史』学習研究社
- 森戸幸次『中東百年紛争 パレスチナと宗教ナショナリズム』平凡社
- PLO研究センター『パレスチナ問題』亜紀書房
- 阿部俊哉『パレスチナ』ミネルヴァ書房
- エドワード・サイード『パレスチナとは何か』岩波書店
- エドワード・サイード『パレスチナ問題』みすず書房
- エドワード・サイード『戦争とプロパガンダ』みすず書房
- エドワード・サイード『戦争とプロパガンダ2』みすず書房
- エドワード・サイード『戦争とプロパガンダ3』みすず書房
- エドワード・サイード『戦争とプロパガンダ4』みすず書房
- エドワード・サイード『イスラム報道』みすず書房
- イアン・ミニス『世界の紛争を考える アラブ・イスラエル紛争』文溪堂
- 市川裕『ユダヤ教の精神構造』東京大学出版会
- 立山良司『揺れるユダヤ人国家 ポスト・シオニズム』文藝春秋
- 池田明史『イスラエル国家の諸問題』アジア経済研究所
- ウリ・ラーナン『イスラエル現代史』明石書店
- 高橋和夫『アラブとイスラエル パレスチナ問題の構図』講談社
- 立山良司『イスラエルとパレスチナ 和平への接点をさぐる』中央公論社
- 鏡武『中東紛争』有斐閣
- 土井敏邦『和平合意とパレスチナ イスラエルとの共存は可能か』朝日新聞社
- M・ブーバー『ひとつの土地にふたつの民 ユダヤ、アラブ問題によせて』みすず書房
- ミシェル・ワルシャウスキー『イスラエル・パレスチナ民族共生国家への挑戦』柘植書房新社
- デイヴィッド・フロムキン『平和を破滅させた和平 中東問題の始まり[1914-1922]』紀伊國屋書店
関連項目[編集]
- イスラエル
- イスラエルの歴史
- シオニズム
- 三枚舌外交
- PFLP旅客機同時ハイジャック事件
- パレスチナ
- パレスチナ人民連帯国際デー
- 反ユダヤ主義、陰謀論、イスラームと反ユダヤ主義
- アブラハムの宗教
- 帝国主義
- イスラエル=パレスチナ紛争の軍事作戦一覧
- Palestine
- History of Palestine
- British Mandate of Palestine
- Israeli-Palestinian conflict
外部リンク[編集]
- 日本国外務省(パレスチナ概況)
- 駐日パレスチナ常駐総代表部(日本語)
- パレスチナ情報センター
- Haaretz Headline(イスラエルの新聞『ハアレツ』のヘッドラインを翻訳)
- パレスチナ1948 NAKBA 公式サイト
- IDF Spokesperson's Unit - イスラエル国防軍の動画配信
- イスラエルの情報 - イスラエル外務省
- 『パレスチナ問題』 - コトバンク