「阿毘達磨倶舎論」の版間の差分
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Tanaka0519 (会話 | 投稿記録) Ronkin2005が英wiki同様に引用されているが、当該箇所に関連する記述は存在しないので消去する。恐らくRonkin2014(2010)の誤りか。しかし当該図書も英訳の孫引きの域を出ないので併記しない。 |
Tanaka0519 (会話 | 投稿記録) →因果関係の法則: 倶舎論における特徴を付記。 |
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因果関係の要素として、根品︵分別根品第二︶を中心として、六因、四縁、五果が挙げられている。
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因果関係の要素として、根品︵分別根品第二︶を中心として、六因、四縁、五果が挙げられている。
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六因<ref>分別根品第二之四 T1558_.29.0030a12~13﹁論曰。因有六種。一能作因。二倶有因。三同類因。四相應因。五遍行因。六異熟因。﹂︵T1558以下の数字は本記事﹁外部リンク﹂掲載の大正大蔵経データベースでの行番号‥以下同︶</ref> |
====六因説<ref>分別根品第二之四 T1558_.29.0030a12~13﹁論曰。因有六種。一能作因。二倶有因。三同類因。四相應因。五遍行因。六異熟因。﹂︵T1558以下の数字は本記事﹁外部リンク﹂掲載の大正大蔵経データベースでの行番号‥以下同︶</ref>====
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この六因説は経典に明確な文言を用いて説示されている説ではない。恐らくは有部アビダルマにおいて構築された説である。この点については称友釈において詳説されるが<ref>Abhidharmakośavyākhyā. pp.188-189</ref>、﹃倶舎論﹄において世親が特に言及しないことは注目に値する。なお六因説のの初出については﹃発智論﹄<ref>﹃発智論﹄[大正蔵26巻920c]、猶﹃甘露味論﹄にも記述が見えるが、﹃甘露味論﹄は﹃発智論﹄の後とみなして良いであろう。]</ref>であると指摘されている<ref>cf. 櫻部[1969 pp. 113-114]﹃倶舎論の研究﹄法蔵館</ref>。
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* 能作因(のうさいん, [[サンスクリット|梵]]: {{lang|sa|kāraṇahetu}}, [[チベット語|蔵]]: {{Unicode|byed-rgyu}}) – 自分自身を除いた結果を遮ることのない全ての法<ref>分別根品第二之四 T1558_.29.0030a17~19「一切有爲唯除自體以一切法爲能作因。由彼生時無障住故。雖餘因性亦能作因。」</ref>。芽に対する種のような結びつきの強い原因はもちろん能作因であるが、月が存在することに対してスッポンの存在は何も影響力もないことから月にとってスッポンは能作因である。 |
* 能作因(のうさいん, [[サンスクリット|梵]]: {{lang|sa|kāraṇahetu}}, [[チベット語|蔵]]: {{Unicode|byed-rgyu}}) – 自分自身を除いた結果を遮ることのない全ての法<ref>分別根品第二之四 T1558_.29.0030a17~19「一切有爲唯除自體以一切法爲能作因。由彼生時無障住故。雖餘因性亦能作因。」</ref>。芽に対する種のような結びつきの強い原因はもちろん能作因であるが、月が存在することに対してスッポンの存在は何も影響力もないことから月にとってスッポンは能作因である。 |
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2015年11月17日 (火) 09:26時点における版
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﹃倶舎論﹄こと﹃阿毘逹磨倶舎論﹄︵梵: Abhidharma-kośa-bhāṣya︿アビダルマ・コーシャ・バーシャ﹀︶は、世親を作者とするアビダルマ教学の綱要書で、説一切有部の﹃雑阿毘曇心論﹄の記述を基に﹃大毘婆沙論﹄等に見られる有部の説や他部派の説をも援用して、仏教哲学の基本的問題を整理したものである。玄奘訳においてはアビダルマは﹃阿毘達磨﹄、コーシャは﹃倶舎﹄と音写され、バーシャに対しては訳語が与えられない。一方、真諦訳では﹃阿毘達磨倶舍釋論﹄と翻訳され、バーシャは﹁釋﹂と意訳される。本書は一般的には﹃倶舎論﹄と玄奘訳に基づく略称を用いて呼称される。
古来、仏教学の基礎として広く研究され、本書に基づいて日本では南都六宗のひとつである倶舎宗が成立した。
概要
世親が作成した﹃阿毘逹磨倶舎論本頌﹄ (梵: Abhidharma-kośa-kārikā) の598偈の本頌に、世親自ら註釈︵自註︶を書き加えたものが﹃阿毘逹磨倶舎論﹄ (梵: Abhidharma-kośa-bhāṣya) で、一般に﹃倶舎論﹄という時は後者の﹃釈﹄(bhāṣya)のことを指す。 アビダルマの語義については複数の解釈があるが、﹃阿毘逹磨倶舎論﹄における﹁阿毘達磨﹂ (abhidharma, アビダルマ) とは、 "abhi+dharma" であり、それぞれ﹁対﹂と﹁法﹂と訳され、﹁法に関して﹂という意味であると自注する[1]。また、﹁倶舎﹂︵kośa, コーシャ︶とは入れ物、蔵、宝物庫の意である。 本論の特徴は説一切有部の伝統的な教理に対して、経量部の立場から批判が加えられている部分がある点に特色がある。 このような世親の立場は古来においては﹁理長為宗﹂や﹁拠理為宗﹂として表現された[2]。 そして世親のこれらの経部的見解は、いずれもカシミール有部の伝統的な教理解釈とは相反する内容であった。故に、伝統的な教理を尊んだ衆賢は﹃順正理論﹄を著し﹃倶舎論﹄を論駁した。 また、二十世紀になって発見された漢蔵等の翻訳が存在しなかったイーシュバラの﹃アビダルマディーパ﹄においても伝統的な有部の立場より﹃倶舎論﹄は非難されている。 近年の研究では世親の﹁経量部﹂の立場の多くは﹃瑜伽論﹄にトレースできることが指摘されている[3]。 しかしながら、当時より世親が唯識家として本論を著した積極的根拠は認められないことは注意が必要である[4]。テキスト
旧来は称友による註釈しか梵本が存在せず嘆かれていたが、サキャ派のゴル寺(Ngor Monastery)でラーフラ・サーントクリヤーヤナによって1934年に発見された。 後に1946年にはゴーカレによって﹃本頌﹄の梵本がとして校訂発表され、1967年にはプラダンによって﹃釈﹄の全体が校訂出版された。 梵本の他に、﹃本頌﹄にはチベット訳が1つ、漢訳1種が現存している。 ●︻漢訳︼大正1560﹃阿毘逹磨倶舎論本頌﹄玄奘651年 ●︻蔵訳︼北京版5590, 東北版4089, Chos mngon pa'i mdsod kyi tshig le'ur byas pa 梵本の他に、﹃釈﹄にもチベット訳が1つと、漢訳二種が現存している。 ●︻漢訳1︼大正1558﹃阿毘逹磨倶舎論﹄真諦訳22巻564年 ●︻漢訳2︼大正1559﹃阿毘逹磨倶舎釋論﹄玄奘訳30巻651年 ●︻蔵訳︼北京版5591, 東北版4090, Chos mngon pa'i mdsod kyi bshad pa また、﹃本頌﹄﹃釈﹄共にウイグル語訳の断片が発見され、研究されている[5]。構成
本論は598偈︵漢訳608偈︶の﹃本頌﹄と、その注釈である﹃釈﹄から構成されている。猶、破我品には﹃本頌﹄は存在しない。 (一)界品︵かいぼん, dhātu-nirdeśa︶ - 存在の種類 (二)根品︵こんぼん, indriya-nirdeśa︶ - 存在現象の活動 (三)世間品︵せけんぼん, loka-nirdeśa︶ - 世界の構成 (四)業品︵ごうぼん, karma-nirdeśa︶ - 有情の輪廻の原因となる業 (五)随眠品︵ずいめんぼん, anuśaya-nirdeśa︶ - 有情の煩悩 (六)賢聖品︵けんしょうぼん, mārgapudgala-nirdeśa︶ - 悟りの段階 (七)智品︵ちぼん, jñāna-nirdeśa︶ - 智慧の趣類 (八)定品︵じょうぼん, samāpatti-nirdeśa︶ - 禅定の趣類 (九)破我品︵はがぼん, pudgala-viniścaya, [ātmavāda-pratiṣedha]︶恒常的な我性を認める人達に対する反論 界品・根品で基礎的範疇を説明し、世間品・業品・随眠品で迷いの世界を解明し、賢聖品・智品・定品で悟りに至る道を説く。最後に付録の破我品で異説を論破する。内容
因果関係の法則
因果関係の要素として、根品︵分別根品第二︶を中心として、六因、四縁、五果が挙げられている。六因説[6]
この六因説は経典に明確な文言を用いて説示されている説ではない。恐らくは有部アビダルマにおいて構築された説である。この点については称友釈において詳説されるが[7]、﹃倶舎論﹄において世親が特に言及しないことは注目に値する。なお六因説のの初出については﹃発智論﹄[8]であると指摘されている[9]。
●能作因︵のうさいん, 梵: kāraṇahetu, 蔵: byed-rgyu︶ – 自分自身を除いた結果を遮ることのない全ての法[10]。芽に対する種のような結びつきの強い原因はもちろん能作因であるが、月が存在することに対してスッポンの存在は何も影響力もないことから月にとってスッポンは能作因である。
●倶有因︵くういん, 梵: sahabhū-hetu, 蔵: lhan-cig 'byung-ba'i rgyu︶ – お互いがお互いの原因となっている法[11]。たとえば二枚のトランプをお互い依りかからせて立たせた時に、お互いがお互いの倶有因であり士用果である。
●同類因︵どうるいいん, 梵: sabhāga-hetu, 蔵: skal-mnyam-gyi rgyu︶ – 現在の瞬間と同類の現象が後の結果として起こる時の原因[12]。例えば、忍耐をしているある瞬間は、忍耐をしている次の瞬間の同類因となる。
●相応因︵そうおういん, 梵: saṃprayukta-hetu, 蔵: mtshungs-ldan-gyi rgyu︶ – 倶有因の一種。心の本体とそれと倶生する諸法の倶有因関係についてのみ用いる。[13]
●遍行因︵へんぎょういん, 梵: sarvatraga-hetu, 蔵: kun groi rgyu︶ – 好ましくない感情や態度が、後の瞬間の好ましくない感情や態度を作り出す時の原因にあたるもの[14]。同類因の一種に挙げられる︵同類因と同じく、相互に時を隔てない異時点間の因果関係の因にあたる︶[15]が、対象は遍行︵疑、無明などの11種類の好ましくない気質・性向︶に限られる[16]。
●異熟因︵いじゅくいん, 梵: vipāka-hetu, 蔵: rnam-smin-gyi rgyu︶ - 諸々の善・悪といった、煩悩に関連する業のこと[17]。 相互に時を隔てた異時点間の因果関係から、楽・苦などの果をもたらす。この果︵異熟果︶は、善でも悪でもない︵﹁無記﹂である︶ことから、異熟と呼ばれる[18]。異熟果自体が再び異熟因となって因果の連鎖をなすことはない。
文献
●桜部建﹃新装版 佛典講座18 倶舎論﹄︵大蔵出版、2002年︶ ●桜部建・上山春平﹃仏教の思想2 存在の分析<アビダルマ>﹄︵角川文庫ソフィア、1996年︶ ●桜部建﹃倶舎論の研究 界・根品﹄︵法蔵館、1969年、新装版2011年︶ ●山口益・舟橋一哉﹃倶舎論の原典解明 世間品﹄︵法蔵館、1955年、新装版2012年︶ ●舟橋一哉﹃倶舎論の原典解明 業品﹄︵法蔵館、1987年、新装版2011年︶ ●小谷信千代・本庄良文﹃倶舎論の原典研究 随眠品﹄︵大蔵出版、2007年︶ ●桜部建・小谷信千代﹃倶舎論の原典解明 賢聖品﹄︵法藏館、1999年︶ ●桜部建・小谷信千代・本庄良文﹃倶舎論の原典研究 智品・定品﹄︵大蔵出版、2004年︶ ●Louis de La Vallé Poussin(1971). L'Abhidharmakośa de Vasubandhu, Institut belge des hates études chinoises, Bruxelles, 1971 ●Lodrö Sangpo (2012). Abhidharmakosa-Bhasya of Vasubandhu: The Treasury of the Abhidharma and Its Commentary (4 vols). Motilal Banarsidass Publishers (Pvt. Limited). ISBN 978-8120836075.論文
●CiNii>倶舎論 ●INBUDS>倶舎論脚注
(一)^ 桜部建﹃倶舎論の研究 界・根品﹄︵法蔵館、1969年
(二)^ 木村誠司[2013]﹁﹃倶舎論﹄にまつわる噂の真相﹂﹃駒沢大学仏教学部研究紀要﹄ (71), 242-224
(三)^ 袴谷憲昭[1986]﹁Purvacarya考﹂﹃印仏研﹄34(2), 859-866。並びにRobert Kritzer[2005]Vasubandhu and the Yogācārabhūmi : Yogācāra elements in the Abhidharmakośabhāṣya︵Studia philologica Buddhica, . Monograph series ; 18︶International Institute for Buddhist Studies of the International College for Postgraduate Buddhist Studies, 2005
(四)^ 兵藤 一夫[2002]﹁経量部師としてのヤショーミトラ﹂, ﹃初期仏教からアビダルマへ‥桜部建博士喜寿記念論集﹄.2002-05-20, 315-336
(五)^ Masahiro Shōgaito[2014]The Uighur Abhidharmakośabhāṣya : preserved at the Museum of Ethnography in Stockholm.︵Turcologica / herausgegeben von Lars Johanson, Bd. 99︶
Harrassowitz, 2014
(六)^ 分別根品第二之四 T1558_.29.0030a12~13﹁論曰。因有六種。一能作因。二倶有因。三同類因。四相應因。五遍行因。六異熟因。﹂︵T1558以下の数字は本記事﹁外部リンク﹂掲載の大正大蔵経データベースでの行番号‥以下同︶
(七)^ Abhidharmakośavyākhyā. pp.188-189
(八)^ ﹃発智論﹄[大正蔵26巻920c]、猶﹃甘露味論﹄にも記述が見えるが、﹃甘露味論﹄は﹃発智論﹄の後とみなして良いであろう。]
(九)^ cf. 櫻部[1969 pp. 113-114]﹃倶舎論の研究﹄法蔵館
(十)^ 分別根品第二之四 T1558_.29.0030a17~19﹁一切有爲唯除自體以一切法爲能作因。由彼生時無障住故。雖餘因性亦能作因。﹂
(11)^ 分別根品第二之四 T1558_.29.0030b15~17﹁第二倶有因相云何。頌曰 倶有互爲果 如大相所相 心於心隨轉﹂︵注‥﹁大﹂とは四大種︵四元素‥地、水、火、風︶のこと︵分別界品第一T1558_.29.0003a28︶。﹁相﹂とは有為法の四相︵生、住、異、滅‥分別根品第二之三 T1558_.29.0027a13︶のこと。﹁所相﹂とは相をもつ本法のこと。心隨轉とは、心所︵下記﹁相応因﹂の注参照︶のこと。
(12)^ 分別根品第二之四 T1558_.29.0031a18~24﹁第三同類因相云何。頌曰 同類因相似 自部地前生 道展轉九地 唯等勝爲果 加行生亦然 聞思所成等 論曰。同類因者。謂相似法與相似法爲同類因。﹂
(13)^ 分別根品第二之四 T1558_.29.0032b24~26﹁第四相應因相云何。頌曰 相應因決定 心心所同依 論曰。唯心心所是相應因。﹂︵注‥﹁心︵しん︶﹂はものに対するこころ自体のこと。五位︵色、心、心所、心不相応行、無為︶のひとつ︵分別根品第二之二 T1558_.29.0018b17~18︶。﹁心所︵しんじょ︶﹂は心の作用のこと。倶舎論では46種類に分類される︵大地法10種、大善地法10種、大不善地法2種、大煩悩地法6種、小煩悩地法10種、不定法8種‥分別根品第二之二 T1558_.29.0019a08~︶︶。
(14)^ 分別根品第二之四 T1558_.29.0032c13~16﹁第五遍行因相云何。頌曰 遍行謂前遍 爲同地染因。﹂
(15)^ 分別根品第二之四 T1558_.29.0032c17~
(16)^ 分別隨眠品第五之一 T1558_.29.0101c03~
(17)^ 分別根品第二之四 T1558_.29.0033a03~05﹁第六異熟因相云何。頌曰 異熟因不善 及善唯有漏 論曰。唯諸不善及善有漏是異熟因。﹂
(18)^ 分別根品第二之四 T1558_.29.0033a06~11
参考文献
- 桜部建『倶舎論の研究 界・根品』(法蔵館、1969年、新装版2011年)
関連項目
外部リンク
サンスクリット本と諸訳の本文比較
- 北京大学の『倶舎論』比較研究 - (表示がおかしくなった場合、文字エンコーディングをUnicode(UTF-8)にすると改善)
- オスロ大学の『倶舎論』比較研究
サンスクリット本
- Abhidharmakosa - 本頌のみ
- Abhidharmakosa-bhasya - 本頌と釈を含む