大乗荘厳経論
﹃大乗荘厳経論﹄︵だいじょうしょうごんきょうろん、梵: Mahāyāna-sūtra-alaṃkāra, マハーヤーナ・スートラ・アランカーラ︶は、瑜伽行唯識学派の開祖、弥勒の5部論のなかの1論である。
原名は、﹁マハーヤーナ﹂︵mahāyāna︶が﹁大乗﹂、﹁スートラ﹂︵sūtra︶が﹁経﹂、﹁アランカーラ﹂︵alaṃkāra︶が﹁荘厳︵装飾︶﹂、総じて﹁大乗経の荘厳﹂という意味である。
漢訳の﹃大乗荘厳経論﹄は13巻。無著︵asaṅga、5世紀頃︶造と伝えられるが、偈頌︵韻文︶の部分は弥勒︵maitreya、4世紀後半頃︶の作であり、無著が授かって世に弘め、長行︵散文︶の部分は、偈頌に対する註釈として、世親︵vasubandhu、5世紀ごろ︶が兄無着の教えをうけて著わしたものと認められる。
翻訳[編集]
●大乗荘厳経論 唐の貞観3-7年ごろ︵630-3年︶、波羅頗迦羅蜜多羅︵prabhākaramitra, 627-633年在中国︶訳。T31, pp.590-661 ●チベット訳︹頌︺東北目録108,pp.1-19、︹無性の註︺東北目録108,pp.138-199内容[編集]
大乗経は最上の法であり最もすぐれた衆生救済の教えであることを強調するとともに、その大乗経にもとづく菩薩の実践的思想を諸方面にわたって組織的に述べたものであるが、その叙述を荘厳︵alaṃkāra︶と称する。これはサンスクリット文学における文体の一種であるが、ここでは大乗経の本義を開示顕揚する、という意味に用いられる。 縁起品・成宗品・帰依品・種性品・発心品・二利品・真実品・神通品・成熟品・菩提品・明信品・述求品・弘法品・随修品・教授品・業伴品・度摂品・供養品・親近品・梵住品・覚分品・功徳品・行住品・敬仏品の24品より成るが、サンスクリット本は、21品︵章︶に分かれている。 この内容は大乗の広範にして深遠な思想を豊かに包含したもので一義的に特徴づけられないが、教義理論の面でいえば、大乗非仏説の非難に応えて大乗仏説を論証している点︵成宗品︶、智慧の完成たる菩提を仏の本質︵仏身︶として、法界と衆生の一如、一切衆生悉有仏性、如来蔵大我を説く点︵菩提品︶、唯識とは虚妄分別にもとづく2取︵主観・客観の2元︶の顕現であり、それは迷乱で実体なきものであるゆえ有無不二・迷悟不二であると説く点︵述求品︶などは重要である。 本論の品名は﹃瑜伽師地論﹄菩薩地の品目の名称と一致するが、これはたぶん菩薩地にもとづいて本論が述作されたことを示すものとみられている。しかし同じ主題を論じても両者は趣きを異にし、本論のほうが菩薩地より簡潔ながら発達した思想を含むごとくであり、大乗の特色をいっそう鮮明に打出している。とくに﹃瑜伽師地論﹄にはあらわれていない如来蔵思想の影響を顕著にとどめていることを注目すべきである。テキスト[編集]
サンスクリット原典はシルヴァン・レヴィ(Sylvain Lévi)によってネパールで発見され、1907年その校訂本を出版し、つづいて1911年フランス語訳を発表した[1]。また長尾雅人はレヴィ出版本にもとづいてサンスクリット・チベット語訳・漢訳対照の索引を発表した[2]。本論に対するインド人の註釈としては無性︵asvabhāva、6世紀前半ごろ︶の註および安慧︵sthiramati、6世紀ごろ︶の註があり、チベット大蔵経の中に収められている。 漢訳に関する註釈は、慧浄︵578-645︶の疏があったと伝えられるのみである。参考文献[編集]
- 宇井伯寿『大乗荘厳経論研究』東京 岩波書店、昭和36年。