日本法
概要[編集]
近代以前の日本では中国律令の影響を受けたが、明治維新以後の近代法の継受の過程で近代以前の法はほとんど顧みられず、それらは入会権等のごく限られた分野を除けば現代においてほとんど影響力を有していない。 明治維新以後、明治政府は日本の近代化の一環として、近代的な法制度の確立をめざし、外国法を継受することになる。大陸法の流れを受けており、特にドイツ法やフランス法の影響が顕著であるが、若干ながらイングランド法の影響も受けた。台湾や朝鮮半島の統治を通じて台湾法や韓国法の基礎となっており、現代でもなおこれらに強い影響を与えている。 戦後のGHQによる占領下ではアメリカ法の影響をうけ、憲法、刑事訴訟法、証券取引法︵現在の金融商品取引法︶、独占禁止法といった法分野において特に顕著である。歴史[編集]
近世以前における日本法[編集]
明治政府と法典継受[編集]
戦後の改革における占領軍の影響[編集]
戦後は、GHQの占領下で、戦前の軍国主義からの脱却と民主的な政府の確立をスローガンに、アメリカ軍が主体となった連合国軍の指令のもとに、日本国憲法をはじめとして、アメリカ法の影響を強く受けた。 ●司法制度においては、最高裁判所が設置されて、違憲立法審査権が与えられるとともに、大陸法的な行政裁判所が廃止された。 ●行政制度においては、幅広くアメリカの制度が採り入れられ、独立行政委員会制度などが取り入れられたがこれについては、その後数が減らされて根付かなかったと評価されている。 ●刑事裁判においては、予審が廃止され、当事者主義的な対審構造に基づく刑事訴訟法が取り入れられたものの、日本においては陪審制が戦後ずっと停止されたままであったことから、アメリカにおけるものと似て似つかない独特の発展を遂げた。 ●民法においては、個人の尊厳と男女の平等を基調とする家族制度に改められたが、なお、家制度の残影を引きずっていることが多い。︵例‥戸籍制度︶ ●商法︵会社法︶においては、株式会社においてアメリカ型の考えが一部取り入れられ、授権資本制度や株式会社の取締役会の設置が義務づけられた︵現在では緩和︶。日本法の現状[編集]
法源[編集]
●制定法 ●日本国憲法・憲法改正 ●条約 ●法律 ●命令 ●政令 ●内閣府令・復興庁令・省令・外局規則︵規則・庁令︶・人事院規則・会計検査院規則 ●最高裁判所規則 ●議院規則 ●条例 ●地方自治体の規則 ●地方自治体の規則以外の地方自治体の機関の規則 ●慣習︵法の適用に関する通則法3条、民法92条、商法1条2項を通じて︶ ●条理‥争いあり なお、判例は形式的には法源とはされないが、判例違反は上告理由となるため、事実上、一般的な拘束力を有している。憲法[編集]
日本国憲法については、冷戦下における再軍備のための憲法9条改正が55年体制の下で困難となり、自衛隊の存在が内閣法制局の解釈により「合憲」とされているため、過去何度か改憲の動きが高まったことはあるものの改正は一度も行われたことはない。最高裁判所の憲法判例については、終戦直後は混乱の中、刑事事件を中心とした判例が多かった。また、社会が安定した1950年代以降には労働運動や社会運動の高まりを背景として、公安条例の合憲性や公務員の争議権などをめぐって多くの判例が出された。最近においては、国際化の進展に伴い外国人や海外に在住する日本人に関係する判例の中に注目すべき判例が多く出されるようになっている。
行政法[編集]
行政法については、行政裁判所が廃止され通常裁判所が行うようになった。戦後直後は、農地解放をめぐる事件が多く提起された。もっとも、裁判所は原告適格や訴えの利益を厳格に解釈する傾向があり、訴訟類型についても取消訴訟を中心とし、仮の救済手段の適用にも消極的であるとされ、諸外国に比べ行政訴訟の件数は相当少ない状態が続いている。2004年に行政事件訴訟法が大改正され(2005年施行)、最高裁が原告適格を広く認める判断を示すなど、訴訟要件が従来より広めに解釈する動きが最近では見られるようにはなってきている。
民法[編集]
民法については、財産法の大きな改正は戦後も担保権や保証、行為能力制限者に対するものを除いて大きな改正がなされていなかったが、現在債権法について抜本的な改正が法務省内部を中心に検討されている。家族法については相続関係を中心に若干の改正がなされている。
商法[編集]
商法については、手形法や商法総則についてはあまり改正が行われてこなかったが、会社法については、総会屋の活動や企業の相次ぐ不祥事の影響などを受けて監査役や株主の権限強化、委員会設置会社の導入とともに、資金調達の多様化のための種類株式の拡充などの改正がなされてきた。2005年にはこれらの一連の改正の流れの集大成として定款自治を幅広く認め、柔軟な会社運営や資金調達を可能とする会社法が制定され、2006年から施行されている。
民事訴訟法[編集]
民事訴訟法については、戦前の民事訴訟法を長らく戦後も施行されていたが、五月雨式の審理による裁判の長期化を抜本的に改めるため、1998年から現在の民事訴訟法が施行され、弁論準備手続による争点整理などの導入や文書提出命令制度の拡充などがなされた。
刑法[編集]
刑法については、基本的な法の枠組みに大きな変化は戦後はなかったが、情報化の進展に伴う改正や刑罰の厳罰化を中心とした改正が最近相次いで行われている。なお、1974年に法制審議会が刑法改正草案を決定したが、保安処分などを規定していたことなどから、反発を受け改正には至らないまま今日まで至っている。
刑事訴訟法[編集]
刑事訴訟法についても、長らく改正が行われないままであったが1990年代後半以降、裁判の迅速化や被害者保護が求められるとともに、公判前整理手続、被疑者国選弁護人制度や被害者参加人制度の導入などがなされ、2009年からは裁判員制度が開始された。
法曹[編集]
司法試験の合格者の数が1980年代まで低く抑えられていたため、弁護士の数が諸外国に比べ少なく、その代わり法律隣接資格者や企業における法務部などが発達し、裁判の件数が他国に比較して少ない傾向がある。近時においては、法科大学院制度が導入されたが急激な法曹人口の増加については質の低下や過剰競争を招く危険性を指摘する論者もいる。