歌枕の一覧
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この歌枕の一覧は地名の歌枕のうち、著名なものを旧国名に従い列挙したものである。全国にある玉川(六玉川)は下部にまとめてある。
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ウィキタグ | 歌枕(ふりがな): 都道府県名と地名:和歌(歌集、作者) |
表示状態 | ・歌枕(ふりがな): 都道府県地名
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目次 ●蝦夷 ●東山道 - 近江 美濃 飛騨 信濃 上野 下野 出羽 陸奥>>現福島県・現宮城県 ●北陸道 - 若狭 越前 加賀 能登 越中 越後 佐渡 ●東海道 - 伊勢 志摩 尾張 三河 遠江 駿河 甲斐 伊豆 相模 武蔵>>現東京都 下総 常陸 ●畿内 - 摂津>>現大阪府 山城 大和 河内 和泉 ●山陽道 - 播磨 ●山陰道 - 丹波 丹後 但馬 因幡 出雲 石見 ●南海道 - 紀伊 淡路 讃岐 伊予 ●西海道 - 筑紫>>現福岡県・現佐賀県 肥後 ●六玉川
蝦夷[編集]
●蝦夷︵えぞ︶: 東北地方。﹁つぼのいしぶみ﹂は坂上田村麻呂が彫ったとされる石碑。 みちのくの いはで忍ぶは えぞしらぬ かきつくしてよ つぼのいしぶみ︵﹃新古今和歌集﹄、源頼朝︶東山道[編集]
近江[編集]
●真野の入江︵まののいりえ︶: 滋賀県大津市西岸の入江。 ●志賀︵しが︶: 滋賀県大津市琵琶湖西岸一帯。枕詞として﹁さざなみ﹂が対応する。 さざ浪や 志賀の都は あれにしを 昔ながらの 山ざくらかな︵﹃千載和歌集﹄、平忠度︶ ●鳰海︵におのうみ︶: 滋賀県琵琶湖。 我袖の 涙や鳰の 海ならむ かりにも人を みるめなければ︵﹃千載和歌集﹄、上西門院兵衛︶ ●逢坂・逢坂の関︵おうさかのせき︶: 東海道、東山道における近江国・山城国国境の関。 これやこの 行くも帰るも 別れつつ 知るも知らぬも 逢坂の関︵﹃後撰集﹄、蝉丸︶ ●唐崎︵からさき︶: 滋賀県大津市。 さざなみの 志賀の辛崎 幸くあれど 大宮人の 船待ちかねつ︵﹃万葉集﹄、柿本人麻呂︶ ●打出浜︵うちでのはま︶滋賀県大津市琵琶湖。 近江なる 打出の浜の うちいでつつ うら見やせまし 人の心を︵﹃拾遺和歌集﹄、よみ人しらず︶ ●瀬田橋︵せたのはし︶滋賀県大津市琵琶湖。瀬田の長橋。瀬田の唐橋。 まきの板も 苔むすばかり なりにけり いくよへぬらむ 瀬田の長橋︵﹃新古今和歌集﹄、大江匡房︶ ●野洲川︵やすがわ︶: 滋賀県琵琶湖。 よろづよを みかみの山の ひびくには 野洲の川水 すみぞあひにける︵﹃拾遺和歌集﹄、清原元輔︶ ●信楽︵しがらき︶ : 滋賀県甲賀市信楽町。 昨日かも あられふりしか 信楽の 外山︵とやま︶の霞 春めきにけり︵﹃詞花和歌集﹄、藤原惟成︶ ●粟津︵あわづ︶ : 滋賀県大津市。﹁粟津野﹂、﹁粟津の里﹂、﹁粟津の原﹂、﹁粟津の森﹂。 関越えて 粟津の森の あはずとも 清水に見えし 影を忘るな︵﹃後撰和歌集﹄、よみ人しらず︶ ●石山︵いしやま︶ : 滋賀県大津市。 都にも 人や待つらむ 石山の 峰に残れる 秋の夜の月︵﹃新古今和歌集﹄、藤原長能︶ ●伊吹山︵いぶきやま︶ : 滋賀県・岐阜県の伊吹山。顕昭の歌学書﹃袖中抄﹄などによれば、正しくは下野国︵現在の栃木県栃木市︶に所在する伊吹山こそ歌枕であるとする。 あぢきなや 伊吹の山の さしも草 おのがおもひに 身をこがしつつ︵﹃古今和歌六帖﹄︶ ●近江の海︵おうみのうみ︶: 滋賀県琵琶湖。 あふみのうみ 夕波千鳥 鳴く声に 心もしのに いにしへ思ほゆ︵﹃万葉集﹄、柿本人麻呂︶美濃[編集]
●不破の関︵ふわのせき︶: 岐阜県不破郡関ケ原町。 ●たる井の水︵たるいのみず︶→垂井の泉 : 岐阜県不破郡垂井町。 昔見し たる井の水は かはらねど うつれる影ぞ 年をへにける ︵﹃詞花集﹄、藤原隆経︶ ●筵田︵むしろだ︶ ●結ぶ神︵むすぶかみ︶: 岐阜県安八郡安八町、現結神社。 守れただ 契り結ぶの 神ならば 解けぬ恨みに われ迷はさで︵﹃十六夜日記﹄︶飛騨[編集]
●位山︵くらいやま︶ くらゐやま 峰までつける 枝なれど 今よろづよの 坂のためなり︵﹃拾遺和歌集﹄︶信濃[編集]
●浅間山︵あさまやま︶: 長野県浅間山。 信濃なる 浅間の嶽に たつ煙 をちこち人の 見やはとがめぬ︵﹃伊勢物語﹄︶ ●安曇野︵あづみの︶: 長野県安曇野市周辺。 ●姨捨山︵うばすてやま、おばすてやま︶、更科︵級︶山︵さらしなやま︶: 長野県千曲市にある冠着山︵かむりきやま︶。 我が心 慰めかねつ 更科や をばすて山に 照る月を見て︵﹃古今和歌集﹄、よみ人しらず︶ ●諏訪海︵すわのうみ︶: 長野県諏訪湖。 ●園原︵そのはら︶: 長野県下伊那郡阿智村。上野[編集]
●佐野船橋︵さののふなはし︶: 群馬県高崎市の烏川沿岸の舟橋。 上毛野 佐野の船橋 取り放し 親はさくれど 吾はさかるがへ︵﹃万葉集﹄︶ 駒止めて 袖うちはらふ 影もなし 佐野の渡りの 雪の夕暮︵﹃拾遺愚集﹄、藤原定家︶ ●伊香保沼︵いかほのぬま︶下野[編集]
●安蘇の川原︵あそのかわら︶眺望スポット:歌人が詠んだ語句に、千鳥 日暮れ 美加保の関 みかほノ崎 みかもノ崎など。 ●室の八嶋︵島︶︵むろのやしま︶: 栃木県栃木市にある大神神社内。ただし古い時代に歌枕とされた﹁室の八島﹂とは大炊寮の竃の事であり、大神神社は付会であるとされる[1]。 かくばかり 思ひこがれて 年ふやと むろの八嶋の 煙にもとへ︵﹃狭衣物語﹄︶ ●しはぶきの杜︵しわぶきのもり︶: 栃木県栃木市、上記の室の八嶋の近くにある森。 下野や しはふきの森の しら露の かかるをりにや 色かはるらむ︵藤原朝忠︶ ●伊吹山︵いぶきやま︶: #近江参照。 ●標茅ヶ原︵しめじがはら︶: 栃木県栃木市の伊吹山東方1kmのところにある。 たのめこし しめしか原の 下わらひ したにもへても としへぬるかな︵藤原俊成︶出羽[編集]
●阿古耶松︵あこやのまつ︶: 山形県山形市にある千歳山の松。 ●象潟︵きさがた︶: 秋田県にかほ市象潟町。 ●袖浦︵そでのうら︶: 山形県酒田市にある最上川の河口。 ●最上川︵もがみがわ︶: 山形県の最上川。陸奥[編集]
現青森県[編集]
●善知鳥︵うとう︶ : 青森県青森市善知鳥神社。﹁善知鳥﹂村は青森市の昔の名前。 陸奥の 外の浜なる 呼子鳥 鳴くなる声は うたふやすかた︵藤原定家︶ ●十符の浦 : 青森県上北郡野辺地町の海岸。 見し人も とふの浦かぜ 音せぬに つれなく消る 秋の夜の月︵﹃新古今和歌集﹄、橘為仲︶ ●尾駮︵おぶち︶の牧、尾駮の駒 : 青森県上北郡六ヶ所村の牧場と馬。 綱たえて 放れ果てにし 陸奥の 尾駮の駒を きのふ見しかな︵﹃後撰和歌集﹄︶ ●陸奥の牧 : 青森県上北郡三本木原野の牧場。奥の牧、館野の牧とも。 陸奥の 荒野の牧の 駒だにも とればとられて なれゆくものを︵千五百番歌合、藤原俊成︶現岩手県[編集]
●衣川︵ころもがわ︶: 岩手県奥州市と平泉町の境を流れる中尊寺付近の川。衣川。現秋田県[編集]
●錦木︵にしきぎ︶ : 秋田県鹿角市十和田錦木にある錦木塚。青森県東津軽郡久栗坂の観音寺にも錦木塚があるが別の由来。 思ひかね 今日立て初むる 錦木の 千束も待たで 逢ふ由もがな︵﹃詞花和歌集﹄巻第七 恋上、大蔵卿匡房︶現宮城県[編集]
●阿武隈川︵あぶくまがわ︶: 岩沼市と亘理町の境を流れる川。 阿武隈に 霧立ちくもり 明けぬとも 君をばやらじ 待てばすべなし︵﹃古今和歌集﹄、東歌︶ ●名取川︵なとりがわ︶: 名取市と仙台市の境を流れる川。 名取川 瀬々のむもれ木 あらはれば いかにせむとか あひ見そめけむ︵﹃古今和歌集﹄、よみ人知らず︶ ●広瀬川︵ひろせがわ︶: 仙台市を流れる川。 ひろせ川 渡りの堰の 澪しるし みかさそふらし 五月雨の比︵西行︶ ●玉田横野︵たまだよこの︶: 仙台市の北仙台駅辺りから東照宮駅東方までの仙山線沿線の平地︵仙台上町段丘の北側にある同段丘より低い段丘面︶。 とりつなげ 玉田横野の はなれ駒 つつじの岡に あせみ咲くなり︵﹃散木奇歌集﹄、源俊頼︶ ●躑躅岡︵つつじがおか︶‥仙台市宮城野区︵ツツジの名所︶。 陸奥の 榴ヶ岡の くまつづら 辛しと妹を けふぞ知りぬる︵﹃古今和歌六帖﹄、藤原仲平︶ ●宮城野︵みやぎの︶‥仙台市宮城野区︵ハギの名所︶。 宮城野の 本荒の小萩 露を重み 風を待つごと 君をこそまて︵﹃古今和歌集﹄、よみ人しらず︶ ●おもわくの橋‥多賀城市にある野田の玉川に架かる橋。 踏まま憂き 紅葉の錦 散り敷きて 人も通はぬ おもわくの橋︵﹃山家集﹄、西行︶ ●浮島‥多賀城市。 陸奥は 世を浮島も ありと云ふを 関こゆるぎの 急がざらなん︵﹃小町集﹄、小野小町︶ ●野田の入江‥多賀城市。 朽ちのこる 野田の入江の ひとつばし 心細くも 身ぞふりにける︵﹃夫木和歌抄﹄︶ ●末の松山‥多賀城市。 契りきな かた身に袖を しぼりつゝ 末の松山 浪越さじとは︵﹃後拾遺和歌集﹄、清原元輔︶ ●壺の碑‥多賀城市。青森県の南部壺碑説もある。 みちのくの 奥ゆかしくぞ おもほゆる つぼのいしぶみ そとの浜風︵﹃山家集﹄、西行︶ ●興井︵おきのい︶、沖の石︵おきのいし︶‥多賀城市。 我が袖は 潮干に見えぬ 沖の石の 人こそ知らめ 乾く間もなし︵﹃千載和歌集﹄、二条院讃岐︶ ●塩竈︵しおがま・しほがま︶‥ 塩竈市。 塩釜に いつか来にけむ 朝なぎに 釣する舟は ここによらなむ︵﹃伊勢物語﹄︶ ●雄島︵をじま︶‥ 松島町。 見せばやな 雄島のあまの 袖だにも 濡れにぞ濡れし 色は変わらず︵﹃千載和歌集﹄、殷富門院大輔︶ ●松島︵まつしま︶‥ 松島町ほか。 たよりある 風もやふくと 松島に よせて久しき 海人のつりぶね︵清少納言︶ ●朽木橋︵くちぎばし︶: 大崎市小野[要曖昧さ回避]の化女沼入り口付近。 逢ふ事は 朽木の橋の 絶え絶えに かよふばかりの 道だにもなし︵﹃風雅和歌集﹄、藤原朝定︶ ●緒絶橋︵おだえのはし︶: 大崎市の緒絶川︵おだえがわ︶に架かる橋。 みちのくの 緒絶の橋や これならん ふみみふまずみ 心まどはす︵﹃後拾遺和歌集﹄、藤原道雅︶ ●姉歯の松︵あねはのまつ︶‥ 栗原市。 栗原の あねはの松の 人ならば 都のつとに いざといはましを︵﹃伊勢物語﹄︶現福島県[編集]
●白河の関 都をば 霞と共に 立ちしかど 秋風ぞ吹く 白河の関︵﹃後拾遺和歌集﹄、能因法師︶ ●安積山︵あさかやま︶ 安積山 影さへ見ゆる 山の井の 浅き心を 吾れ思はなくに︵万葉集︶ ●阿武隈川︵あぶくまがわ︶: 福島県から宮城県へ流れる阿武隈川。 ●信夫 : 福島県福島市。 みちのくの しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れむと思ふ 我ならなくに︵﹃古今和歌集﹄、源融︶北陸道[編集]
若狭[編集]
●青葉山︵あおばのやま︶ ●後瀬山︵のちせのやま︶ ●三方の海︵みかたのうみ︶: 三方五湖。越前[編集]
●玉江︵たまえ︶ ●有乳山︵あらちやま︶加賀[編集]
●白山︵しらやま︶・越白嶺︵こしのしらね︶能登[編集]
●珠洲︵すず︶ ●羽咋︵はくひ︶越中[編集]
●婦負野︵めひのの︶‥富山平野、旧婦負郡地域。 婦負野の 薄おしなべ 降る雪に 宿借る今日し かなしく思ほゆ︵﹃万葉集﹄巻17 4016、高市黒人、三国五百国伝誦︶ ●立山︵たちやま︶ 立山に 降り置ける雪を 常夏に 見れども飽かず 神ながらとそ︵﹃万葉集﹄、大伴家持︶ 立山に 降り置ける雪の 常夏に 消ずてわたるは 神ながらとぞ︵﹃万葉集﹄巻17 4004、大伴池主︶ ●二上山︵ふたがみやま︶ 玉くしげ 二上山に 鳴く鳥の 声の恋しき 時は来にけり︵﹃万葉集﹄、大伴家持︶ ●射水川︵いみづがは︶: 小矢部川。 朝床に 聞けば遥けし 射水川 朝漕ぎしつつ 唱ふ舟人︵﹃万葉集﹄、 大伴家持︶ ●雄神川︵をかみがは︶: 庄川。 ●婦負川︵めひがは︶: 神通川。 ●鵜坂川︵うさかがは︶: 井田川。 ●延槻川︵はひつきかは︶:早月川。 立山の 雪し消らしも 延槻の 川のわたり瀬 鐙漬かすも︵﹃万葉集﹄巻17 4024、大伴家持︶ ●片貝川︵かたかひかは︶:片貝川。 片貝の 川の瀬清く 行く水の 絶ゆることなく あり通ひ見む︵﹃万葉集﹄巻17 4002、大伴家持︶ 落ちたぎつ 片貝川の 絶えぬごと 今見る人も やまず通はむ︵﹃万葉集﹄巻17 4005、大伴池主︶ ●有磯海︵ありそうみ︶: 富山湾。 ●奈呉の浦︵なごのうら︶: 射水市西部の海岸。 あゆの風 いたく吹くらし 奈呉の海人の 釣する小舟 漕ぎ隠る見ゆ︵﹃万葉集﹄、大伴家持︶ ●布勢の海︵ふせのうみ︶: 後に土砂が堆積して、現在の氷見平野︵氷見市︶に。 明日の日の 布勢の浦廻の 藤波に けだし来鳴かず 散らしてむかも︵﹃万葉集﹄、大伴家持︶ ●渋谷・渋谿︵しぶたに︶: 雨晴海岸︵高岡市︶。 馬並めて いざ打ち行かな 渋谿の 清き磯廻に 寄する波見に︵﹃万葉集﹄、大伴家持︶ ●三島野︵みしまの︶: 射水平野、特に旧大島町・大門町に跨る辺り。 三島野に 霞たなびき しかすがに 昨日も今日も 雪は降りつつ︵﹃万葉集﹄、大伴家持︶ ●砺波の関︵となみのせき︶越後[編集]
●越の中山︵こしのなかやま︶: 妙高山。 ●信濃川︵しなのがは︶ ●出雲崎︵いづもざき︶ ●寺泊︵てらどまり︶佐渡[編集]
●佐渡島︵さどがしま︶東海道[編集]
伊勢[編集]
●五十鈴川︵いすずがわ︶ ●御裳濯川︵みもすそがわ︶ ●伊勢︵いせ︶ 伊勢の海 阿漕が浦に 打つ網も 度重なれば 人の知るらむ︵﹃源平盛衰記﹄︶ ●大淀︵おおよど︶ ●御熊野浦︵みくまののうら︶ ●七栗湯︵ななくりのゆ︶: 三重県津市榊原温泉。 ●長浜︵ながはま︶ ●鈴鹿山︵すずかやま︶: 鈴鹿峠とその周辺の山地を称して鈴鹿山と呼ばれる。 ●麻生浦︵おうのうら︶ ●二見浦︵ふたみのうら︶ ●神路山︵かみじやま︶ ●高見山︵たかみやま︶ 我妹子を いざ見の山を 高みかも 大和の見えぬ 国遠みかも︵﹃万葉集﹄、石上堅魚︶志摩[編集]
●志摩︵しま︶ 御食つ国 志摩の海人ならし 真熊野の 小舟に乗りて 沖へ漕ぐをみゆ︵﹃万葉集﹄、大伴家持︶ ●嗚呼見の浦︵あみのうら︶ 嗚呼見の浦に 船乗りすらむ 乙女らが 珠裳の袖に 潮満らむか︵﹃万葉集﹄、柿本人麻呂︶ ●伊勢︵いせ︶: 志摩の海は伊勢の海とも呼ばれる。 伊勢の海人の 朝な夕なに かづくといふ 鮑の貝の 片思ひにして︵﹃万葉集﹄︶尾張[編集]
●鳴海︵なるみ︶三河[編集]
●志賀須賀渡︵しかすがのわたし︶ ●引馬野︵ひくまの︶ ●八橋︵やつはし︶ から衣 きつつなれにし つましあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ︵﹃伊勢物語﹄︶ ●二村山︵ふたむらやま︶ ●伊良湖崎︵いらござき︶遠江[編集]
●浜名橋︵はまなのはし︶ なき渡る 雲井の雁よ しるべせよ はまなのはしの 霧のまよひに︵﹃最勝四天王院障子絵色紙和歌﹄、源通光︶ ●引摩野︵ひくまの︶駿河[編集]
●田子の浦︵たごのうら︶ 田子の浦ゆ 打ち出でて見れば 真白にぞ 富士の高嶺に 雪は降りける︵﹃万葉集﹄、 山部赤人︶ ●三保の浦︵みほのうら︶ ●富士山︵ふじのやま︶ 時知らぬ 山は富士のね いつとてか かのこまだらに 雪のふるらん︵﹃伊勢物語﹄︶ ●古奴美浜︵こぬみのはま︶ ●清見潟︵きよみがた︶ ●浮島原︵うきしまばら︶ ●木枯森︵こがらしのもり︶ ●宇津山︵うつのやま︶: 静岡県宇津ノ谷峠。 駿河なる 宇津の山辺の うつつにも ゆめにも人に あはぬなりけり︵﹃伊勢物語﹄︶ ●小夜の中山‥一説に静岡県掛川市内。 年たけて また越ゆべしと 思ひきや 命なりけり 小夜の中山︵﹃新古今和歌集﹄、西行︶甲斐[編集]
●差出磯︵さしでのいそ︶ しほの山 さしでの磯に なくちどり 君がみよをば やちよとぞなく︵﹃古今和歌集﹄、よみ人しらず︶伊豆[編集]
●古古比森︵ここいのもり︶相模[編集]
●足柄︵あしがら︶ ●こゆるぎ︵こよろぎ 小余綾、小淘綾︶: 大磯町付近一帯の海岸。 こゆるぎの いそぎて来つる かひもなく またこそ立てれ 沖つ白浪 ︵﹃拾遺集﹄、よみ人しらず︶ ●鎌倉︵かまくら︶: 鎌倉幕府が置かれた所。鎌倉市。 鎌倉の 見越の崎の 石崩の 君が悔ゆべき 心は持たじ ︵﹃万葉集﹄、東歌︶ ●箱根︵はこね︶武蔵[編集]
●ほりかねの井︵堀兼之井、堀難井之井︶ いかでかは 思ふ心は 堀かねの 井よりも猶ぞ 深さまされる︵﹃伊勢集﹄、伊勢︶ 埼玉県狭山市堀兼に﹁堀兼之井﹂の旧跡が現存するが、﹁ほりかねの井﹂が特定の井戸を指すものかどうかについては不詳。狭山市堀兼の﹁堀兼之井﹂は﹁まいまいず井戸﹂と呼ばれる構造を持っており、同一の構造を持つ井戸は武蔵野台地上に点在する。これらの井戸全般を指す一般名詞とも見られる。 ●みよし野 みよし野の たのむの雁も ひたぶるに 君が方にぞ よると鳴くなる︵﹃伊勢物語﹄︶ わが方に よると鳴くなる みよし野の たのむの雁を いつか忘れむ︵同上︶ 比定地については埼玉県川越市的場、同じく伊佐沼、坂戸市三芳野と説が分かれる。現東京都[編集]
●隅田川︵すみだがわ︶: ﹃新勅撰和歌集﹄初出︵詞書では﹃古今和歌集﹄初出︶。 わがおもふ 人に見せばや もろともに 隅田川原の 夕暮れの空︵﹃新勅撰和歌集﹄︶ 名にしおはば いざ言問はむ みやこ鳥 我が思ふ人は ありやなしやと︵﹃伊勢物語﹄︶ ●武蔵野︵むさしの︶: ﹃万葉集﹄に初出。 行く末は 空もひとつの 武蔵野に 草の原より 出づる月かげ︵﹃新古今和歌集﹄、藤原良経︶ 武蔵野の 草葉もろ向き かもかくも 君がまにまに 我は寄りにしを ︵﹃万葉集﹄東歌︶下総[編集]
●真間継橋︵ままのつぎばし︶常陸[編集]
●筑波山︵つくばやま︶ ●鹿島︵かしま︶ ●筑波嶺︵つくばね︶ 筑波嶺に 雪かも降らる 否をかも 愛しき児ろが 布乾さるかも︵﹃万葉集﹄、東歌︶ つくばねの 峰よりおつる みなの川 恋ぞつもりて 淵となりける︵﹃後撰和歌集﹄、陽成院︶畿内[編集]
摂津[編集]
現大阪府[編集]
●難波︵なにわ︶ 侘ぬれば いまはたおなじ 難波なる 身をつくしても あはむとぞ思ふ︵﹃後撰和歌集﹄、元良親王︶ ●難波潟︵なにわがた︶ 難波潟 みじかき蘆の ふしのまも 逢はでこの世を 過ぐしてよとや︵﹃新古今和歌集﹄、伊勢︶ ●難波津︵なにわつ︶: 浪速津とも。 難波津に 咲くやこの花 冬ごもり 今は春べと 咲くやこの花︵古今和歌集仮名序、王仁︶ ●江口: 大阪市東淀川区。 ●住吉 すみよしの 岸の姫松 人ならば 幾世か経しと とはましものを︵﹃古今和歌集﹄、よみ人しらず︶ ●芥川︵あくたがわ︶: 大阪府高槻市。 人をとく 芥川てふ 津の国の 名にはたがはぬ ものにぞありける︵﹃拾遺和歌集﹄、承香殿中納言︶ ●三島江︵みしまえ︶: 大阪府島本町。 三島江の 玉江の菰︵こも︶を しめしより おのがとそ思ふ いまだ刈らねど︵﹃万葉集﹄︶ ●待兼山︵まちかねやま︶: 豊中市山城[編集]
●泉川︵いづみがわ︶: 木津川のうち、京都府相楽郡に営まれた恭仁京付近の別名。 みかの原 湧きて流るる 泉川 いつみきとてか 恋しかるらむ︵﹃新古今和歌集﹄、藤原兼輔︶ ●宇治︵うじ︶ ●宇治川︵うじがわ︶ 宇治川を 船渡せをと 呼ばへども 聞えずあらし 楫の音もせず︵万葉集︶ ●大井川、大堰川︵おおいがわ︶: 桂川のうち、嵯峨嵐山から松尾にかけての流域。 おほゐがは 井堰の音の なかりせば 紅葉を敷ける わたりとや見む ︵﹃金葉和歌集﹄、藤原顕季︶ ●音羽山︵おとわやま︶ 山科の 音羽の山の 音にだに 人の知るべく わがこひめかも︵﹃古今和歌集﹄、よみ人しらず︶ ●桂川︵かつらがわ︶: 桂川のうち、大堰川より下流、桂流域。 桂川 てるつきかげの やどる夜は もにすむ魚ぞ 底にみえける︵﹃堀川院百首﹄、源師時︶ゆるやらなかたさたさたさまさちゆこ ●鴨川︵かもがわ︶、鴨河原︵かものかわら︶ ●暗部山︵くらぶやま︶: 所在は不明。貴船山説、鞍馬山説などがあるが、いずれも根拠はない。 秋の夜の 月の光し 明ければ くらぶの山も 越えぬべらなり︵﹃古今和歌集﹄、在原元方︶ ●鞍馬山︵くらまやま︶ 住みなるる 都の月の さやけきに なにかくらまの 山はこひしき︵﹃後拾遺和歌集﹄、斎院中務︶ ●瀬見小川︵せみのおがわ︶ ●淀、淀川︵よどがわ︶: 山城国久世郡淀、同乙訓郡淀。宇治川、桂川、木津川の三川合流。 淀川の 淀むと人は 見るらめど 流れて深き 心あるものを︵﹃古今和歌集﹄、よみ人知らず︶大和[編集]
●秋篠︵あきしの︶ ●香具山︵かぐやま︶/天香久山︵あまのかぐやま︶ 春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山 ︵﹃新古今和歌集﹄、持統天皇︶ ●飛鳥川/明日香川︵あすかがわ︶ よのなかは なにか常なる あすか川 きのふの淵ぞ けふは瀬となる︵﹃古今和歌集﹄、よみ人しらず︶ ●二上山︵ふたかみやま︶ ●竜田︵たつた︶/竜田川 ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは︵﹃古今和歌集﹄、在原業平︶ ●初瀬︵はつせ︶ うかりける 人を初瀬の 山おろしよ はげしかれとは 祈らぬものを︵﹃千載和歌集﹄、源俊頼︶ ●富雄川︵とみのおがわ︶ いかるがや とみのを川の 絶えばこそ わがおほきみの 名をばわすれめ︵﹃拾遺和歌集﹄︶ ●佐保川︵さほがわ︶ ●吉野︵よしの︶ ●吉野川︵よしのがわ︶ ●吉野山︵よしのやま︶ はるがすみ 立てるやいづこ みよし野の 吉野の山に 雪は降りつつ︵﹃古今和歌集﹄、よみ人知らず︶河内[編集]
●狭山池︵さやまのいけ︶: 大阪府大阪狭山市。 ●高瀬淀︵たかせのよど︶和泉[編集]
●吹飯浦︵ふけいのうら︶: 大阪府泉南郡岬町。 月きよみ 千鳥なくなり 沖つ風 吹飯の浦の 明方のそら︵﹃新勅撰和歌集﹄︶ ●高師浜︵たかしのはま︶: 大阪府高石市。 音に聞く 高師の浜の あだ波は かけじや袖の 濡れもこそすれ︵﹃金葉和歌集﹄、祐子内親王家紀伊︶山陽道[編集]
播磨[編集]
●明石: ほのぼのと 明石の浦の 朝霧に 島がくれゆく 船をしぞ思ふ︵﹃古今和歌集﹄、よみ人しらず︶ ●須磨: ﹃金葉和歌集﹄に初出。 淡路島 かよふ千鳥の なく声に 幾夜寝ざめぬ 須磨の関守 ︵﹃金葉和歌集﹄、源兼昌︶ ●高砂 誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔の 友ならなくに︵﹃古今和歌集﹄、藤原興風︶山陰道[編集]
丹波[編集]
●生野︵いくの︶‥ 京都府福知山市[2]。 ●大江山︵おおえやま︶ 大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみも見ず 天の橋立︵﹃金葉和歌集﹄、小式部内侍︶ 大江山については福知山市大江町︵および与謝郡与謝野町︶の大江山と京都市西京区と亀岡市の境の大枝山︵老いの坂︶、いく野については福知山市生野や亀岡市内などと諸説がある。丹後[編集]
●天橋立︵あまのはしだて︶: 京都府宮津市。 うちわたし 岸辺はなみに くづるとも わが名はつきじ あまのはしだて︵﹃曽丹集﹄、曽根好忠︶ ●由良︵ゆら︶: 京都府宮津市。 由良の門を 渡る舟人 楫を絶え 行方も知らぬ 恋の道かな︵﹃新古今和歌集﹄、曽根好忠︶ ●三熊野浦︵みくまののうら︶ 三熊野の 浦の浜木綿 百重なる 心は思へど ただにあはぬかも︵﹃拾遺和歌集﹄、柿本人麿︶但馬[編集]
●二見浦︵ふたみのうら︶因幡[編集]
●因幡山︵いなばのやま︶: 鳥取県岩美郡国府町 立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今かへりこむ︵﹃古今和歌集﹄、在原行平︶出雲[編集]
●手間の関︵てまのせき︶石見[編集]
●岩見潟︵いわみがた︶ ●鴨山︵かもやま︶ ●高角山︵たかつのやま︶南海道[編集]
紀伊[編集]
●和歌浦︵わかのうら︶ 和歌の浦に 汐満ちくらし かたをなみ 葦辺をさして たづ鳴きわたる︵﹃万葉集﹄、山部赤人︶ ●佐野渡︵さののわたり︶ 駒とめて 袖うちはらふ かげもなし 佐野の渡りの 雪の夕暮︵﹃新古今和歌集﹄、藤原定家︶ ●由良︵ゆら︶ ●玉津島︵たまつしま︶ ●妹背山︵いもせやま︶: 妹山、背山。 ながれては 妹背の山の なかに落つる 吉野の川の よしや世の中︵﹃古今和歌集﹄、よみ人しらず︶淡路[編集]
●松帆の浦︵まつほのうら︶: 明石海峡。 こぬ人を 松帆の浦の 夕なぎに やくやもしほの 身もこがれつつ︵﹃新勅撰和歌集﹄、藤原定家︶讃岐[編集]
伊予[編集]
●熟田津︵にきたつ︶‥道後温泉。 熟田津に 舟乗りせむと 月待てば 潮もかなひぬ 今はこぎいでな︵﹃万葉集﹄、額田王︶西海道[編集]
筑紫[編集]
現福岡県[編集]
●箱崎の松︵はこざきのまつ︶: 福岡市筥崎八幡宮の松。 幾世にか 語り伝へむ 箱崎の 松の千歳の ひとつならねば︵﹃拾遺和歌集﹄、源重之︶現佐賀県[編集]
●松浦潟︵まつらがた︶: 唐津湾。万葉集初出。 誰としも 知らぬ別れの かなしきは 松浦の沖を 出づる舟人︵﹃新古今和歌集﹄、藤原隆信︶ ●領巾振りの嶺︵ひれふりのみね︶: 唐津市鏡山。 遠つ人 松浦佐用比賣 夫恋いに 領巾振りしより 負へる山の名︵﹃万葉集﹄、山上憶良︶肥後[編集]
●鼓ヶ滝︵つづみがたき︶: 熊本市西区河内町野出。 音にきく つづみが滝を うちみれば ただ山川の なるにぞ有ける︵﹃拾遺和歌集﹄﹃檜垣嫗集﹄、檜垣︶ ●風流島︵たはれじま︶: 熊本県宇土市。 まめなれど あだ名は立ちぬ たはれ島 よる白波を ぬれ衣にきて︵﹃後撰和歌集﹄、朝綱朝臣︶ 名にしおはば 仇にぞあるべき たはれ島 浪の濡衣 着るといふなり︵﹃伊勢物語﹄︶ ●水島︵みずしま︶: 熊本県八代市。 聞きし如 まこと貴く 奇しくも 神さび居るか これの水島︵﹃万葉集﹄、長田王︶ 葦北の 野坂の浦ゆ 船出して 水島に行かむ 波立つなゆめ︵﹃万葉集﹄、長田王︶ 波のうつ 水島の浦の うつせ貝 むなしきからに 我や成らん︵﹃続後撰集収録﹄、曽根好忠︶六玉川︵むたまがわ︶[編集]
以下の六つは全国にある歌枕に使用される玉川で、あわせて六玉川︵むたまがわ︶と呼ばれる。
●野路の玉川︵のじのたまがわ︶ : 滋賀県草津市野路町。
明日もこむ 野路の玉川 萩こえて いろなる波に 月やどりけり︵﹃千載和歌集﹄、源俊頼︶
●野田の玉川︵たまがわ︶: 宮城県塩竈市と多賀城市を流れる川で砂押川の支流。
夕されば 潮風越して みちのくの 野田の玉川 千鳥鳴くなり︵﹃新古今和歌集﹄、能因法師︶
●調布の玉川︵たつくり︵てづくり︶のたまがわ︶ : 東京都を流れる多摩川、調布市、田園調布︵ちなみに調布とは﹁租庸調﹂の﹁調の麻布﹂のこと︶。
多摩川に 曝す手作り さらさらに 何そこの児の ここだ愛しき︵﹃万葉集﹄、東歌︶
●井手の玉川︵たまがわ︶: 京都府井手町を流れる玉川。
駒とめて なほ水かはん やまぶきの 花の露そふ 井手の玉川︵﹃新古今和歌集﹄、藤原俊成︶
●三島の玉川︵たまがわ︶: 大阪府高槻市。
見渡せば 波のしがらみ かけてけり 卯の花咲ける 玉川の里︵﹃後拾遺和歌集﹄、相模︶
●高野の玉川︵たまがわ︶: 和歌山県高野山。
わすれても 汲みやしつらん 旅人の 高野の奥の 玉川の水︵﹃風雅和歌集﹄、弘法大師︶
脚注[編集]
(一)^ 色葉和難集﹁むろのやしまとは、竃をいふなり。かまをぬりこめたるを室といふ﹂﹁釜をばやしまといふなり﹂
(二)^ 小山順子﹁小式部内侍﹁大江山生野の道の﹂考 : 歌枕の機能、解釈、享受﹂﹃京都大学國文學論叢﹄第17巻、京都大学大学院文学研究科国語学国文学研究室、2007年3月、16-34頁、CRID 1390572174792842880、doi:10.14989/137356、hdl:2433/137356、ISSN 1345-1723、2012年12月27日閲覧。