今日は、原民喜の「死のなかの風景」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
戦争が終わって5年以上経った、1951年の晩春に発表された、戦争文学です。これは1944年ごろの関東への空襲と、妻の病死と葬儀と、原爆の投下前の広島へ疎開するところを描きだしたもので、当時の作者とかなり近い、現実の世界を活写した小説であるように思います。氏は当時、関東の映画会社に勤務していて、そこでの交流も少しだけ記していました。千葉と東京と広島の3つを描いていますが、いずれも原民喜がじっさいに見たものと感じたことを記しているように思いました。作中の、この文章が印象に残りました。「部屋は彼が中学生の頃の勉強部屋だったし、彼が結婚式をあげてはじめて妻を迎えたのも、その部屋だった。ほのぼのとした生の感覚や、少年の日の夢想が、まだその部屋には残っているような心地もした。」肺結核で1944年の晩夏に亡くなった妻の貞恵のことについて、いくつも記してありました。
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追記 葬儀と空襲と疎開とによって「茫としてしまってい」て「幽霊のよう」な表情になってしまった「彼」のことが描きだされます。作中にこう記していました。「眼の前に展げているのは、アナトール・フランスの短篇集だった。読んで意味のわからない筈はなかった。だが意味は読むかたわらに消えて行って、それは心のなかに這入って来なかった。今、彼は自分の世界がおそろしく空洞になっているのに気づいた。」
当時の原民喜が熱心に読んでいたのはリルケの「マルテの手記」だったのですが、このことについては、本作には記されていませんでした。