ひとの不幸をともにかなしむ 吉野秀雄

 今日は、吉野秀雄の「ひとの不幸をともにかなしむ」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 道元と良寛を研究した作家の吉野秀雄の、掌編を読んでみました。
「ひとの幸福をともによろこび/ひとの不幸をともにかなしむ」ということを書いた作品です。吉野秀雄氏は仏教を学びながら、この考えに至ったそうです。
 本文とはまた異なる本ですが、使徒パウロによる「ローマの信徒への手紙」12-15には「だれかが幸せで喜んでいる時には、いっしょに喜んであげなさい。悲しんでいる人がいたら、いっしょに悲しんであげなさい。」ということが記されていました。
 

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追記   吉野秀雄氏は、このように他者を重んじて生きることは難しい、ということを後半に記していました。近代文学にもたしか、このことを書いた人が居たはずだと思って調べてみました。宮沢賢治は「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」と農民芸術概論に記していました。

細雪(101)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その101を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 細雪は今回で完結です。長い物語がついに結末に至りました。戦争で亡くなっていった人々を悼む思いも滲み出てくる物語描写に思いました。最後は谷崎の代表作を凌ぐのではというような迫真の展開でした。

※以下は物語の結末を含みます。クリックで表示されます。

 戦後十年あたりかなにかの、平和ぼけした雅な家柄の二者が結婚式を挙げた、という、谷崎潤一郎がいちばん書きそうに無い描写が最後の最後に描かれるのか…………ほんとうに? という展開で、しかしじっさいの谷崎潤一郎は源氏物語を現代語訳しながら、こういう雅な人生を過ごして来たのでは……とも思いました。
 新郎は残念なことに、今から滅んでゆく軍産企業の航空機製造大企業に就職することになってしまった、という不吉な描写がありました。
 出産が間近の妙子のほうは、優雅な雪子一家たちからは離れて、1人で出産に臨むのでした。未来の夫もしっかり待機していて、さらに病院の医院長も安全対策をしていると言うことで、無事、良い結末に至りそうかと思ったのですが……。
 物語の描写と同時に、なぜか老いた猫が子猫3匹を産むという描写も、印象的に描かれていました。
 妙子は残念なことにきびしい難産で、ほんとうの夫となる三好も現場にかけつけ、医者と看護婦がつきっきりで看病をしながら、死ぬ思いをして、戦時中に、赤んぼうを産もうとしたのでした。
 赤子は生まれてから30分間も息をせず、けっきょくは死産で終わってしまいます。地獄を見て生きてきて、姉妹とともに大泣きに泣いた妙子はその後、静かに三好と2人暮らしをはじめたのでした。この前後の展開が、「卍」や「痴人の愛」といった傑作を書いた、谷崎文学らしい、みごとに劇的な物語描写であるように思いました。古事記に記された、黄泉の国での、イザナギとイザナミの、汚濁と産所の物語を彷彿とさせる、日本文学だったと思いました。
 雪子は、時世への不安と環境の変化への不安で、下痢が止まらなくなってしまい、このまま物語の結末へと至るのでした。
「汽車に乗ってからも」という言葉と「その日から夫婦暮しを始めた」という言葉が、どうにも忘れがたい結末でした。

 

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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。下巻の最終章は通し番号で『細雪 百一』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦子エツコさん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
  
 
追記 またいつか、谷崎文学をじっくり読んでいってみたいと思いました。次回からは、漱石の「虞美人草」を読んでゆこうと思います。
 

女王 野口雨情

 今日は、野口雨情の「女王」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 トムちゃんという小学生の女の子と、そのお母さまである先生の、物語でした。
「トムちやんのお母さまが学校に勤めるやうに」なります。この葛原先生が「愛の歌」という「村人の心を和げ」また慰める歌を作ります。この歌詞が記されてゆき……。

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追記 
 お母さまが学校を休むようになったので、祭りの日にはいつも花のかんむりをかぶって「女王」になるトムちゃんの家に、小学生のみんなでお見舞いに行くのでした。
 お母さまは病気の療養中で、トムちゃんはこの看病をするので、祭りの日の「女王」は「しげのさん」にお任せすると、トムちゃんは言うのでした。
 すてきな村の、心やさしい幼子たちの物語でした。

述懐 岸田國士

 今日は、岸田國士の「述懐」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 作中で、岸田國士がフランスに数年ほど暮らしていたころにとつぜん喀血した時のことを書いていました。文人が独立して生きることが困難だった時代に、戦後に至るまで長生きした岸田國士の養生論でした。百年前に西洋で日本の単身者が健康の維持をするなんてそうとう無理のあることだったのではと思いました。漱石も子規も啄木も短命で、随筆を読んでいると洋行をするのも療養をするのも難しい世界だったのだと思います。百年前の技術で移動をして寝泊まりをして、健康を増進し、言葉もあまり通じないはずだし、潤沢な資産があるわけでも無く、ヨーロッパまで一人で行くなんて、宇宙旅行をするくらい困難なのではと思いました。
 岸田國士は盛んに創作することこそ重大だと考えていたとは思うのですが、とにかく病を斥けるために批判的にものごとを見て、自らの生活の改善を試みているというのが、随筆を読んでいるだけでも見えてくるように、思いました。すてきな養生論でした。
  

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秋の瞳(52)八木重吉

 今日は、八木重吉の「秋の瞳」その52を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 ひらがなの詩の複層性というのを感じる詩でした。帰る、還る、替える、孵る、変える……という意味のどれかを含む詩なのかと思いました。
 

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「白い秋の壁に枯れ枝で……なにかを……描くと、枯れ枝から静かな響きが流れてくる」ということを書いた詩なのですが、枝になにか、絵筆のような力か、魔法のようななにかが含まれていないと、全体の意味が通じなくなるのでは、と思いました。散歩の途上で枝を拾った子どもの、思い描いた詩のように思いました。秋の、白く乾いた壁に、枯れ枝を使って線を描くと、その枯れ枝を伝って静かな響きが流れてくるように感じられる。
 
 
追記  すべての画像がガタガタになっているというエラーを修正しました。
 
 

道 織田作之助

 今日は、織田作之助の「道」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 佐伯という男がずっと陰気に生きていたのにも関わらず、ほんの6年ほどで見ちがえるほど生き生きとした男に変身してしまった。その謎を追う……小説でした。
 

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追記  

※以下は物語の結末を含みます。クリックで表示されます。

 道ばたで頽れていた瀕死の犬が、生きようとしてもがいていて、その姿をまのあたりにした時に、生きる気力が湧いてきた、というエピソードが印象に残りました。
 「佐伯」がいぜん住んでいたところは「湿気の多いじめじめした部屋であった。日の射さないせいもあろう。年中敷きっぱなした蒲団をめくると、青い黴がべったりと畳にへばりついていた」というのですが、これではいくら努力しても、不幸が去ることは無いのではと思える酷い環境なのでした。そこから脱してはじめて、仕事や生活が安定したということが書いてある小説でした。環境が人をつくる、というのは現代でもそうなのでは、と思いました。