春の鳥 国木田独歩

 今日は、国木田独歩の「春の鳥」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは1890年代を描きだした実話的な物語で、豊後佐伯町で暮らしていた幼子の六蔵は知的障害があり、数を十まで数えることが出来ません。その六蔵と「私」国木田独歩とのほんのわずかな交流と、中座した教育の試みと、それから墓前に佇む母親の心情について描いています。母親と親族と隣人たちの関係性が印象に残る作品に思いました。
 

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(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
 
追記 これは1960年代中ごろまでは教科書にも載っていた作品ですが、その後はまったく読まれなくなった近代小説です。現代では近代作品の研究目的でのみ読まれる小説になっています。本作は実話も含まれますが、国木田独歩によると、幼子は夭折しておらず、事件の描写は小説上の虚構であるそうです。知的障害者への児童教育が実践されはじめるよりも四十年以上も前に書かれたもので、その点では先進的な作品であったようです。手塚治虫の描いた、脳を持たずに生まれて夭折した新生児の物語は、この「春の鳥」の読書体験から生じているのでは、と感じました。

ねむい アントン・チェーホフ

 今日は、アントン・チェーホフの「ねむい」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 現在と過去、夢とうつつ、生死、苦と安寧、善と悪、といったものが混然一体となって混じりあった文学空間が、赤ん坊の揺りかごを揺らす少女ワーリカを中心に展開されます。
 

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(総ページ数/約15頁 ロード時間/約5秒)
 
追記 そういえば「眠る」というのは睡眠と逝去の2つの意味を持つわけで、これはロシア語であってもそうなんだろうと思いました。最後の頁の次の空白に記されたはずの展開を、空想させられるような、みごとな終末の数行でした。

細雪(93)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その93を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 蒔岡家のお見合いをなんどもとりもってくれた井谷さん、その娘がはじめて現れて、雪子たちを歓待するのでした。
quomark03 - 細雪(93)谷崎潤一郎
 三人が東京駅のプラットフォームへ降りた途端に、洋装の小柄な娘がチョコチョコとけ寄って、幸子にからみ着くようにしながら声を掛けた。
「あたくし、光代でございますが、———」
「ああ、井谷さんの、———」quomark end - 細雪(93)谷崎潤一郎

 戦時体制の、裕福な家庭における生活はどういうものだったのか、そのあたりの事情が見えてくる細雪後半の描写でした。「細雪」は大戦末期のころにも執筆されていて、この章は1941年を描いたものですが、1946年ごろに記されたものです。
 井谷さんの娘を記した以下の文章が、なんだか印象にのこりました。
quomark03 - 細雪(93)谷崎潤一郎
 母親が云う通りコマシャクレて貧弱に見える。それが又、物云いだけは可笑おかしいほど井谷に似ていて、早口にぺらぺらとまくし立てる工合は、マセた子供の感じなのであるが、雪子は自分より十も年下の小娘から、「雪子お嬢さん雪子お嬢さん」と呼ばれるのが、くすぐったくもあり……quomark end - 細雪(93)谷崎潤一郎
 
 とくに何も起きない章なんですが、戦時と平時、始まりと終わり、破談と縁談が歪に入り組んでいるはずの状況なのでした。
 

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(総ページ数/約20頁 ロード時間/約3秒)
当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。下巻の最終章は通し番号で『細雪 百一』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 
追記  米国での美容院修業のための渡航で、お土産として良いはずと考えたのが「螺鈿らでん手筥てばこ」だったというのがなんだか乙だなと思いました。

安吾史譚 勝夢酔 坂口安吾

 今日は、坂口安吾の「安吾史譚 勝夢酔」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 坂口安吾と言えば特攻隊の美学を説いた随筆もあるのですが、本稿の坂口安吾は、原爆のことを考えつつ、兵隊は戦争を防げない、だから政治の力で戦争を防ぐしかない、ということを書いていました。
 その理由を考える時に、勝海舟の思想を紹介していて、勝海舟は「戦争をしないこと、なくすることに目的をおく」べきで「それ以外に政治の目的はない、そして万民を安からしめるのが政治だ」というように説いています。
 そこから安吾が、勝海舟とその家族の物語を描きはじめる作品です。
 勝海舟はじつは、幕府制度がもう欠陥だらけになっているのだから、戦争をせずに負けて、新しい政治が始まることを、当人が求めたのだそうです。あえて意識的に「負けた大将」になったのが勝海舟なんだそうです。勝海舟はしかも「高い運上(税金)は国を亡ぼす」と考えて、それで江戸末期の幕府の消滅を認めていたんだそうです。その勝海舟の父親、勝夢酔というのが、本編の主人公なんです。「このオヤジは一生涯ガキ大将であった」という記載が印象にのこる、無頼伝でした。剣術使いというよりも、喧嘩師だったんだそうです。武家の生まれなのに、いつも浮浪者と一緒に暮らして、崖から落ちて大怪我をしたり、息子の看病で奇行を繰り返したりという、ことが描きだされます。「蔵前の八幡の祭り」で、えんえんケンカをしまくっていると「敵は五十人ほどになった」というなんだか意味不明な乱暴な場面がありました。
「源兵衛を師匠にしてケンカの稽古に身を入れた」
「折あればケンカの腕をみがいて見聞をひろめた。二十一の年に江戸を食いつめて、また家出をした。事があったら斬死するつもりでいたから何も怖いことはなかった」
 江戸時代をきれいさっぱり終わらせた、敗北の中心人物である勝海舟の、その父親は、なんとも破天荒な男だったようです。
 

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(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
 
追記  勝夢酔がいったいどういう活躍をしたのか、が記されていました。ある男が、岡野家に大金を貸したのですが、岡野家はこの三百両を越える借金が返済できずに困っていたという事件があり、ここに勝海舟の父親である「勝夢酔」が相談を受けて、やむをえず岡野家を救うために奔走し、村人たちをなんとか宴会で説得をして五百五十両を調達し、岡野家の救済を成し遂げた、というお話しでした。お金の扱いは上手いのだけれども、本人はずっと貧乏だった、というところが侠気なのかなと思いました。

十八時の音楽浴 海野十三

 今日は、海野十三の「十八時の音楽浴」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは1937年に発表された近未来的なSF小説で、独裁国家の「音楽浴」で国民全てを洗脳し、あらゆる人々が独裁者に盲従し、半永久的に生きていて、死なないがためにもはや子供を生むことさえなくなります。しかし幾人かはこれに抵抗をし、国家の禁じている愛欲を求め、独裁者の奥様は不倫に命がけで、ポールは自身で自身を手術して性転換を目指し、ある者は自由のための革命を目指すのでした……。
 

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(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
 
追記 爆死した博士コハクの生みだした、人造美少女アネットや、怪奇生物の様相がなんだか大迫力でした。物語の中盤から独裁体制が激化して、一日に数十分の洗脳「音楽浴」でさえ人間に限界をもたらすところ、常に四六時中ずっと音楽浴の震動を浴びせかけることになるのでした。物語の顛末としては、ミルキ夫人とコハク博士と人造美少女はじつは、女大臣アサリ女史の隠謀によって滅んでいったのでした。さいごは誰もが洗脳によって発狂してしまって、侵略される独裁国家ミルキ国の滅亡のようすが描きだされていました。爆死したはずの博士コハクと人造美少女数百人が、封印された「第十室」から現れて、死者たちのユートピアを生み出してゆくところで終幕となりました。

秋の瞳(44)八木重吉

 今日は、八木重吉の「秋の瞳」その44を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 ギリシャの精霊と「私」を描きだした詩が印象に残りました。
 

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追記 今回の「黎明」という詩は、何度も読んで記憶したくなるものに思いました。音楽や校歌なら記憶に焼きつくのに、詩集の詩のひとつは、いちどきりしか読まないことが多く、なかなか覚える機会が無いというように思いました。詩は音楽と異なっていて、記憶さえすれば、ずっと手もとに本があるのとまったく同じことになるので、覚えることに重要な意味があるように思いました。