四季 槇村浩

 今日は、槇村浩の「四季」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは四季おりおりの情感を童心とともに記した、ちょっと謎の詩で、槇村浩の作品を読むのはぼくは初めてなんですが、他の槇村浩の諸作と思想と随想はもっと深刻な政治闘争問題を主題としたもので本作だけでは槇村浩の文学性は見えてこないかもしれないと思いながら読みました。
 四つの季節を描きだしているのですが、秋の詩がなんだかすてきでした。槇村浩は若いうちから盛んに政治的な主張を繰り返した詩人なのだそうです。
 

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球皮事件 中谷宇吉郎

 今日は、中谷宇吉郎の「球皮事件」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 バルーン型飛行船というかガス袋を使った飛行船が、まだ実用されていた時代に、この飛行船の事故を受けて、どうやってこの安全性を考えるかという議論を、寺田寅彦と中谷宇吉郎とY君が、論じているものです。約百年の時を経て、結論としては、飛行船は無人化するしかなかったわけなんです。この技術を廃止するという方針がまだ大勢ではない時代に、中谷がこの問題を論じているのでした。
 ちょっと調べてみると、燃料の水素がどうしても災害に弱いし、濡れた外皮が雷に弱すぎる。wikiを調べた範囲では、飛行船の外皮が雨に濡れて、これに雷などの電流が流れると発火して飛行船が爆発してしまうそうです。発火後に、燃料や水素も爆発して被害を大きくしてしまうようなのでした。
 学者の中谷の考察としては、水素の流出があって、漏洩した水素が電流に触れて爆発したのでは、という考察でした。ちょっとした天災を受けると、水素と火花が混じりやすく、そこで事故に繋がってしまうようなのでした。事故原因の実証のために、模型で試験をしてみる科学者たちの研究を記した、一九三八年(昭和十三年)一月の随筆でした。中谷宇吉郎はどうして乗組員が犠牲となった本件を、「事故」と書かずに「事件」と記したのだろうかとか、研究に対する「軽蔑」とはどういう意味で書いたのだろうかとか、気になるところがいくつかあって、寺田寅彦と中谷宇吉郎の生きたこのころのことをもう少し調べたくなる随筆でした。
 

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細雪(50)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その50を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 日本でずっとドイツ料理屋を営んでいて、戦時の不景気によって日本での店を畳むことになったシュトルツ家の夫人は、あと半月もせずに日本を発って故郷へと帰ってゆくのですが、子どもたちにとっては今生の別れとなる日々をすごしている状態です。
 別れる寸前まで、ローゼマリーと悦子は、毎日のように遊んでいたのでした。「悦子の帰宅後は、彼女が学校から戻るのを待ちかねるようにして、残るわずかな日数を、一日も欠かさず一緒に遊び暮していた。」という記載が、印象に残りました。悦子はローゼマリーと遊ぶようになって自然とかんたんなドイツ語も使うようになった。
 引っ越してゆく隣家の様子をずっと見ていた、母の幸子の描写もありました。大水があった時の罹災者の支援の様子も、思い出として描きだされるのでした。
「もうこの家には何もありません。私達、船に乗るまでこのバスケットのナイフやフォークで食事します」という引越の数日前の一場面がありました。敗戦寸前と戦後すぐに執筆された文学作品として印象深い章であるように、思いました。
 「書画」や「振袖」や「刺繍」といった日本の美しいみやげ物を、隣家の人々はシュトルツ一家に贈るのですが、これが二十世紀最大の戦禍の中で、敗戦ののちまで持ちこたえうるのかどうかは、どこにも記されていないのが、かえって文学的な時代描写になっているように思いました。本文には、幼子たちのこういう描写もありました。
quomark03 - 細雪(50)谷崎潤一郎
 明日はいよいよ乗船すると云う前の晩には、ローゼマリーは特に許されて悦子の部屋に泊ったが、その夜の二人のはしゃぎようと云ったらなかった。quomark end - 細雪(50)谷崎潤一郎
 
 細雪の長編の中でも、今回はとくに、この作品の特徴が良く出ている場面があまたにあるものなので、全文を読まない場合はこんかいの章だけを読むのもおすすめかと思いました。「ただ素晴らしく贅沢ぜいたくな船」に乗って、遠い故郷へと帰っていったシュトルツ一家との別れの場面は、涙ぐむ女性たちの描写もあって、近代文学を代表するような本作の、みごとな物語描写のように思いました。こんな記載もありました。
quomark03 - 細雪(50)谷崎潤一郎
 「まあ、綺麗な。百貨店が動き出した見たい、———」
と、妙子が、海岸の夜の秋風に白いブラウスの肩を縮めながら云った。quomark end - 細雪(50)谷崎潤一郎
 
 人間を運ぶための船の本来のありようも失われてしまった敗戦前後の時代に、こういう文学の記載があったのか、というように思いました。当時の女性たちが読むための本だったのでは、というようにも思える描写もありました。
 

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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。『中巻三十五』は通し番号で『六十四』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 

わが青春 三木清

 今日は、三木清の「わが青春」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは思想家の三木清が、若いころの日々について記した随筆なんですが、恩師の西田幾多郎のことや、当時読んだ歎異抄のことなど、情感の豊かな自己省察を描くとともに、これからどのような本を書くかについても記していました。おおよそ百年前の思想家たちの随筆に、こういうすてきな作品があるのかと、驚きました。この一文が印象に残りました。
quomark03 - わが青春 三木清
  この時代に私は学生であったことを、誇りと感謝なしに回想することができない。quomark end - わが青春 三木清
 
 京都の大学の哲学徒の、奇妙奇天烈さを思いだして書いていたり、当時の学派の詳細などを記しています。「波多野先生からはギリシア古典に対する熱を吹きこまれ、深田先生からは芸術のみでなく一般に文化とか教養とかいうものの意味を教えられた。(略)特に記すべきものは坂口先生から受けた影響である。先生の『世界におけるギリシア文明の潮流』という書物を初めて読んだときの感激を今も忘れることができない」大正時代の始まりのころの随筆です。
 

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幻の塔 坂口安吾

 今日は、坂口安吾の「幻の塔」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これはなんだか暗い事件が起きる小説で、ネタバレ禁止の内容だと思うので、近日中に読み終える予定のかたは、先に本文を読むことをお勧めします。廃仏毀釈が激しい時代に、仏像を買い集めては売り歩き、さらに仏像を彫って大金を得た「ベク助」、このベク助というのが危険な男なんです。かつては「人殺しと牢破り」を行った、背中には天下一品の「ガマと自雷也」の入れ墨を彫っている極悪人で、この男が牢破りののちに熊に襲われて人相が変わって、ベク助という名前の、大工として生きていた。
 いっぽうで勝海舟の家の近くに「島田幾之進という武芸者が住んでいた」のですが「白頭山の馬賊の頭目」だとか「海賊」だとか言われた人たちがここに道場をひらいた。島田一族は「黄金の延棒が百三十本ほどつまって」いる大袋を手に、この新設の道場にやって来た。
 ものすごい武芸者が修業をしているこの「島田道場」には奇怪な秘密があって、この道場を建てるときに、忍者屋敷のような「縁の下から抜け道をつけてもらいたい」ので、秘密を守れる大工というのを特別に呼びよせたのでした。中盤からベク助は素性を偽って、この島田道場に耳の不自由な大工として雇われて、島田一門の秘密を暴くことにしたのでした。
 どうも、素性を偽っている怪しい人間は他にもいろいろいる。仏師や大工としての才覚があるベク助は、「怪物」の島田幾之進に頼まれて、道場に秘密の仕掛けのある「小さな別宅」をつくりあげた。
 ベク助はこれで島田道場から離れていったのですが、秘密裡に、この道場の秘密を探っていたんです。
 この島田道場での「婚礼の夜」に、誰もが酔いつぶれていて「誰にも明確な記憶がない」という状況で「怪物の邸内で奇怪な」事件が起きてしまった。「お紺の父の三休と兄の五忘」が「密室殺人」で亡くなってしまい……警察と、隣家の勝海舟と、その親友の探偵である「結城新十郎」がやって来ます。
「父と兄が麻の袋をぶら下げてい」たという証言があった。かつて「島田幾之進」は、この新道場にやって来たときに「革の行嚢に金の延棒を百三十本ほどつめこんでぶらさげて来た」ということだったが、この金の延べ棒がどこに行ったのか分からない。
 真相としては……犯人は召使の金三で、「金三はベク助が三休、五忘の命令で縁の下に抜け道の細工を施したのを見ぬいていました。金三は忍びこむ五忘らを地下の密室で殺す必要があった。(略)それは当家に犯人の汚名をきせるためと、たぶん、金の延棒の発見、没収を策すためでしたろう」ということを探偵が暴くのでした。それで「金の延棒の隠し場所」はじつは「皆さん一番よく見ていたもの。あんまりハッキリ見えすぎるので、気がつかなかった」「まぼろしの塔」とも言いえる、道場の特殊なつくりなのでした。見えすぎていて見えない、という仕掛けがあったのでした。「道場の土間の敷石をごらんなさい。それがみんな金の延棒なのです」というオチでした。
 この島田一門の正体というのは、冒頭に記載されているように「白頭山の馬賊の頭目」で「シナ海を荒した海賊」で、事件後しばらくして、また何処かへと去っていったのでした。
 

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秋の瞳(3)八木重吉

 今日は、八木重吉の「秋の瞳」その3を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 孤独な夏の夕暮れの詩が印象に残りました。八木重吉は肺の病に苦しみながらも、恋愛や婚姻や詩作に生きた詩人なのだそうです。
 

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