安吾史譚 勝夢酔 坂口安吾

 今日は、坂口安吾の「安吾史譚 勝夢酔」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 坂口安吾と言えば特攻隊の美学を説いた随筆もあるのですが、本稿の坂口安吾は、原爆のことを考えつつ、兵隊は戦争を防げない、だから政治の力で戦争を防ぐしかない、ということを書いていました。
 その理由を考える時に、勝海舟の思想を紹介していて、勝海舟は「戦争をしないこと、なくすることに目的をおく」べきで「それ以外に政治の目的はない、そして万民を安からしめるのが政治だ」というように説いています。
 そこから安吾が、勝海舟とその家族の物語を描きはじめる作品です。
 勝海舟はじつは、幕府制度がもう欠陥だらけになっているのだから、戦争をせずに負けて、新しい政治が始まることを、当人が求めたのだそうです。あえて意識的に「負けた大将」になったのが勝海舟なんだそうです。勝海舟はしかも「高い運上(税金)は国を亡ぼす」と考えて、それで江戸末期の幕府の消滅を認めていたんだそうです。その勝海舟の父親、勝夢酔というのが、本編の主人公なんです。「このオヤジは一生涯ガキ大将であった」という記載が印象にのこる、無頼伝でした。剣術使いというよりも、喧嘩師だったんだそうです。武家の生まれなのに、いつも浮浪者と一緒に暮らして、崖から落ちて大怪我をしたり、息子の看病で奇行を繰り返したりという、ことが描きだされます。「蔵前の八幡の祭り」で、えんえんケンカをしまくっていると「敵は五十人ほどになった」というなんだか意味不明な乱暴な場面がありました。
「源兵衛を師匠にしてケンカの稽古に身を入れた」
「折あればケンカの腕をみがいて見聞をひろめた。二十一の年に江戸を食いつめて、また家出をした。事があったら斬死するつもりでいたから何も怖いことはなかった」
 江戸時代をきれいさっぱり終わらせた、敗北の中心人物である勝海舟の、その父親は、なんとも破天荒な男だったようです。
 

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追記  勝夢酔がいったいどういう活躍をしたのか、が記されていました。ある男が、岡野家に大金を貸したのですが、岡野家はこの三百両を越える借金が返済できずに困っていたという事件があり、ここに勝海舟の父親である「勝夢酔」が相談を受けて、やむをえず岡野家を救うために奔走し、村人たちをなんとか宴会で説得をして五百五十両を調達し、岡野家の救済を成し遂げた、というお話しでした。お金の扱いは上手いのだけれども、本人はずっと貧乏だった、というところが侠気なのかなと思いました。

十八時の音楽浴 海野十三

 今日は、海野十三の「十八時の音楽浴」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは1937年に発表された近未来的なSF小説で、独裁国家の「音楽浴」で国民全てを洗脳し、あらゆる人々が独裁者に盲従し、半永久的に生きていて、死なないがためにもはや子供を生むことさえなくなります。しかし幾人かはこれに抵抗をし、国家の禁じている愛欲を求め、独裁者の奥様は不倫に命がけで、ポールは自身で自身を手術して性転換を目指し、ある者は自由のための革命を目指すのでした……。
 

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追記 爆死した博士コハクの生みだした、人造美少女アネットや、怪奇生物の様相がなんだか大迫力でした。物語の中盤から独裁体制が激化して、一日に数十分の洗脳「音楽浴」でさえ人間に限界をもたらすところ、常に四六時中ずっと音楽浴の震動を浴びせかけることになるのでした。物語の顛末としては、ミルキ夫人とコハク博士と人造美少女はじつは、女大臣アサリ女史の隠謀によって滅んでいったのでした。さいごは誰もが洗脳によって発狂してしまって、侵略される独裁国家ミルキ国の滅亡のようすが描きだされていました。爆死したはずの博士コハクと人造美少女数百人が、封印された「第十室」から現れて、死者たちのユートピアを生み出してゆくところで終幕となりました。

秋の瞳(44)八木重吉

 今日は、八木重吉の「秋の瞳」その44を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 ギリシャの精霊と「私」を描きだした詩が印象に残りました。
 

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追記 今回の「黎明」という詩は、何度も読んで記憶したくなるものに思いました。音楽や校歌なら記憶に焼きつくのに、詩集の詩のひとつは、いちどきりしか読まないことが多く、なかなか覚える機会が無いというように思いました。詩は音楽と異なっていて、記憶さえすれば、ずっと手もとに本があるのとまったく同じことになるので、覚えることに重要な意味があるように思いました。
 

貧乏線に終始して 小川未明

 今日は、小川未明の「貧乏線に終始して」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 近代作家の特徴として、文学で稼ぐことが難しいので、貧しさの労苦について純粋に書く作家が多かった、というのがあるのかと思います。小川未明は生前も没後もよく読まれた児童文学作家だと思うんですが、今回は作家の貧しかったころを振り返る随筆なんです。
 貧すれば鈍すというのか、資本不足の窮状で、家庭をぐらつかせてしまった実相が描きだされていて、物語の中に立ち現れ主人公を襲う窮状は、現実の小川未明とも通底していたんだなと思う作品でした。
 ドストエフスキーの罪と罰では、主人公ラスコーリニコフを苦悶させる、貧しさから生じてくる悪心というのが描かれたと思います。小川未明は、制度を悪用する者への批判を記しています。夭折した子どもたちのことを書き、「その日、その日、この社会には、どれ程、貧困のために、悩み、苦しみつゝある者があるであろうか」という記載が印象に残りました。
 苦を減じたい、と綴る小川未明の随筆でした。
 

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醤油仏 吉川英治

 今日は、吉川英治の「醤油仏」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 吉川英治と言えば、宮本武蔵や親鸞など歴史上の人物を大長編で描きだした作家だと思います。まだほとんど読めていないのでいつか読んでみたいのですが、こんかいは、江戸の深川の、日雇い労働者たちの、奇妙な集まりを描きだした中編小説を電子書籍化してみました。
 左次郎という19歳の少年が、病弱なのになぜかよく働いています。これを不審に思った親方(銅鑼屋の亀さん)が事情を聞いてみると、左次郎は鳥取藩池田家に仕える武士の息子だと分かります。彼は、養母の「お咲」と「一平」が「安南絵の壺」とともに関東で行方不明になった謎を追って、わざわざ鳥取から一人で、江戸にやって来て、けっきょくは日銭を稼ぐために働いているのだ、ということなのでした。
 いっぽうでその深川では大食いたちが、ありえないくらい多くのものをぜんぶ食えるのか、賭けをする勝負が流行して、食いすぎて倒れた者さえでてくる始末です。「伝公」という伝説的な大食い男が大金を稼いでいると知って、ある男が愚かにも危険な勝負に挑むのですが……。

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追記  「伝公」に大金を賭けて「醤油賭」の勝負に挑んだところ、伝公の解毒の裏技も通じずに、伝公は醤油の飲みすぎで倒れてしまうのでした。この伝説の男である伝公がじつは、「お咲」と「一平」の二人組であったことがのちに明らかになるのでした……。金を稼いでなんとか鳥取に帰ろうとしていたところ、稼ぎすぎて金に目が眩みすぎておかしくなった男女の物語でした。徳川家康が重大視していたという「過ぎたるはなお及ばざるが如し」という事態が描きだされた時代小説なのかなと思いました。

細雪(92)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その92を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 何度もお見合い相手を探してきてくれた井谷さんは、米国でちょっと修業をしてから東京で新たに美容院を始める予定なのでした。そのため東京で井谷さんの、駅での見送りで花束を贈ったり、別日の送別会に参加しようと、雪子や幸子たちは華やかな外出をするのでした。
 もうなんだか、ずいぶん落ちついた物語になっているのでした。これは1941年ごろを描いているのですが作中の設定上の時代よりも、作家の生きている敗戦後の、裕福で平和な家庭の現実のほうが、色濃く物語に反映されているのでは、と思いながら読みました。
 米国に行く井谷さんや、雪子や幸子はなんだかもうすっかり明るい雰囲気になっているのでした。
 細雪の中盤であったような不穏な気配というのがなぜか消え去ってしまっているのでした。
 

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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。下巻の最終章は通し番号で『細雪 百一』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)

追記  お見合いをして破談になる、という不思議な時間と、敗戦後なのに戦中の暮らしをまだ続けて書くという妙な描写には、なにかしらの共通点があるのでは、と思えてくる細雪の下巻なのでした。