今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その101を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
細雪は今回で完結です。長い物語がついに結末に至りました。戦争で亡くなっていった人々を悼む思いも滲み出てくる物語描写に思いました。最後は谷崎の代表作を凌ぐのではというような迫真の展開でした。
※以下は物語の結末を含みます。クリックで表示されます。
戦後十年あたりかなにかの、平和ぼけした雅な家柄の二者が結婚式を挙げた、という、谷崎潤一郎がいちばん書きそうに無い描写が最後の最後に描かれるのか…………ほんとうに? という展開で、しかしじっさいの谷崎潤一郎は源氏物語を現代語訳しながら、こういう雅な人生を過ごして来たのでは……とも思いました。
新郎は残念なことに、今から滅んでゆく軍産企業の航空機製造大企業に就職することになってしまった、という不吉な描写がありました。
出産が間近の妙子のほうは、優雅な雪子一家たちからは離れて、1人で出産に臨むのでした。未来の夫もしっかり待機していて、さらに病院の医院長も安全対策をしていると言うことで、無事、良い結末に至りそうかと思ったのですが……。
物語の描写と同時に、なぜか老いた猫が子猫3匹を産むという描写も、印象的に描かれていました。
妙子は残念なことにきびしい難産で、ほんとうの夫となる三好も現場にかけつけ、医者と看護婦がつきっきりで看病をしながら、死ぬ思いをして、戦時中に、赤んぼうを産もうとしたのでした。
赤子は生まれてから30分間も息をせず、けっきょくは死産で終わってしまいます。地獄を見て生きてきて、姉妹とともに大泣きに泣いた妙子はその後、静かに三好と2人暮らしをはじめたのでした。この前後の展開が、「卍」や「痴人の愛」といった傑作を書いた、谷崎文学らしい、みごとに劇的な物語描写であるように思いました。古事記に記された、黄泉の国での、イザナギとイザナミの、汚濁と産所の物語を彷彿とさせる、日本文学だったと思いました。
雪子は、時世への不安と環境の変化への不安で、下痢が止まらなくなってしまい、このまま物語の結末へと至るのでした。
「汽車に乗ってからも」という言葉と「その日から夫婦暮しを始めた」という言葉が、どうにも忘れがたい結末でした。

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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。下巻の最終章は通し番号で『細雪 百一』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦子さん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
追記 またいつか、谷崎文学をじっくり読んでいってみたいと思いました。次回からは、漱石の「虞美人草」を読んでゆこうと思います。