細雪(96)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その96を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 姉の幸子は、雪子の縁談について「どうせ今度の縁談もうまくは行くまい」と考えていたことが明らかになります。読者の自分としては、雪子と縁談相手とは相性が良さそうに思えたんですが、もっとも近くで見ている人からすると、今回もなにか駄目だろうと感じていたようです。その理由としては……。

※以下は物語の結末を含みます。クリックで表示されます。

 四女の妙子(こいさん)が結婚前に妊娠してしまって、この騒動が原因で、雪子の縁談が破談になるはずだというように予測しているのでした。妙子の問題は、雪子と関係は無いのでは……とは思うのですがこの時代では、どうもそうはゆかなかったようです。
 貧困のなか病苦に冒されて「地獄を見た」妙子こいさんは、この元凶である奥畑啓坊との縁を切るために、バーテンダーの三好との子を妊娠していたのでした。本文こうです。
 
 三好とやら云う男と談合して、計画的に仕組んだ妊娠ではないか。既定の事実を作って置いて、否応いやおうなしに啓坊に自分との縁をあきらめさせ、又あたし等に三好との結合を認めさせる、その手段として妊娠を選んだのではないか。
 
 幸子としては、大変危険な方法で雪子の縁談を成立させられないかという妄想を抱いたりもするのですが、赤子を犠牲にするのだけは不味いから辞めるということで思いとどまり、妙子の妊娠と出産はどこか別のところで行わせて、雪子の縁談はもっと早く済ませるしかないのでは、と考えます。しかし妙子を遠い地にやってそこで暮らさせても、世間や関係者に妊娠と出産を隠し通せるはずもないので、雪子のお相手である御牧家には「いっそ正直に事実を打ち明けて」みるしかないのでは、ということを考えるのでした。

 夜汽車の中で眠れぬ夜を過ごして朝を迎えた、姉の幸子の姿が印象に残る、物語終盤の描写でした。
 

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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。下巻の最終章は通し番号で『細雪 百一』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 

私の思い出 柳原白蓮

 今日は、柳原白蓮の「私の思い出」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 明治の中ごろに生まれた柳原白蓮やなぎわら びゃくれん(柳原燁子あきこ)女史の短い随筆を読んでみました。柳原白蓮は大正から昭和初期にかけて歌集を4つだしている歌人なんです。
 漱石が活躍した時代に歌人として生きていて、敗戦後に、平和のことや、明治生まれの女性の一生について記しているものでした。富豪との結婚生活ののち、出奔して、世間から大バッシングを受け、肉親から絶縁を申し渡されてしまったころの思い出を書いていました。
 離婚と再婚が「事件」として報道されて、wikipediaにも詳細にこの記事が記されてありました。このころの思い出の文章が印象に残りました。本文こうです。
quomark03 - 私の思い出 柳原白蓮
  忘れられないのは九條武子くじょうたけこ夫人でした。あの人だけは私の心をそっと温かく抱いてくれた友でした。世間から無惨に軽べつされている人を、たとえ内証にしろ蔭ながらいたわり愛しかつ同情したということはやはり相当の勇気のいることにちがいありませんもの。quomark end - 私の思い出 柳原白蓮
 

0000 - 私の思い出 柳原白蓮

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追記  敗戦の寸前に息子が戦死したことや、米国から女性の作家として取材を受けたことも記してありました。「今はこうして老年になりましたが、しかしふしぎに、魂は年とともに、いきいきと、若く新しく育ってゆくような気がします。」という記載が印象に残りました。

生爪を剥ぐ 葉山嘉樹

 今日は、葉山嘉樹の「生爪を剥ぐ」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。 
 古典と比較してみて、近代小説の特徴は、自然が壊れた場に居る人間が描かれるようになった、と聞いたことがあるのですが、この作品はまさにこの近代化に見舞われた、暗い世界が描きだされていました。「健康を失って」いる「薄暗い陰気な」「地獄」のような「運河の汚ない濁った溜水にその向うの大きな工場」といった環境に囲まれた「プロレタリアの群居街」で労働者が「総崩れにな」って生活苦にあえぎ、家族の繁栄を願うことが困難になっているところが描きだされます。しかしながら幼子も、労働者の「僕」も盛んに動き回って次のところへ向かおうとしている、近代の熱気を活写した文学作品に思いました。
  

0000 - 生爪を剥ぐ 葉山嘉樹

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秋の瞳(47)八木重吉

 今日は、八木重吉の「秋の瞳」その47を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 作中の「ぎょう望」とは、おそらく「仰望」のことで、仰ぎ望むという意味です…………が、凝望あるいは翹望なのかもしれず、首を長くして待ち望む、ということかもしれません。目を凝らして遠くを見つめているのかもしれません。
 

0000 - 秋の瞳(47)八木重吉

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追記  
quomark03 - 秋の瞳(47)八木重吉
 空が 怒つてゐる
 木が 怒つてゐる
 みよ! 微笑ほほえみ
 いかつてゐるではないかquomark end - 秋の瞳(47)八木重吉

……という言葉が印象に残る、八木重吉の作品群の中でもとくべつな存在感の詩が、記されていました。今回は、おすすめの2篇であるように思います。

家じゅうの人たちの言ったこと アンデルセン

 今日は、アンデルセンの「家じゅうの人たちの言ったこと」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 マリーちゃんという幼子を祝う家族たちの、心温まる時間を描きだした、掌編です。
  

0000 - 家じゅうの人たちの言ったこと アンデルセン

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追記  アンデルセンの童話の中ではめずらしく、起承転結の無い、話の筋の無い、家族の親睦のすがただけを切り取った、しずかな物語でした。世界中で読まれた童話作家の、聖書への思いの籠もった掌編でした。「若い者は、なんて元気がいいんだろう! 世の中は、みんなが思うようなものではないが、ともかく世の中なんだ。人生というのは、じっさい、ふしぎな、おもしろい物語だよ」という一文が印象に残る作品でした。

戦争はぼくをおとなにした 小川未明

今日は、小川未明の「戦争はぼくをおとなにした」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
「ガラスのはまったかざまどに」「セルロイド」の可愛い人形が飾られている、というところから始まる、清吉という少年が主人公の、昭和の児童文学でした。戦争で家が焼けたことや、家族の幸福について思索する場面がありました。
 

0000 - 戦争はぼくをおとなにした 小川未明

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追記  清吉は悲しんでしまったおばあさんを、慰めるのでした。家を失い、戦争の被害をまのあたりにした清吉という少年の、平和と幸福への意志が記された、敗戦のあとに記された、幼子のための文学でした。