待つ者 豊島与志雄

 今日は、豊島与志雄の「待つ者」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 豊島与志雄は翻訳家として有名なのですが、随筆のみならず小説もいくつか書いています。
 今回の「待つ者」ではマグリットの絵画のように不思議な場面を描きだします。人の居る気配が濃厚な室内に、いつまで経っても人が来ない、という場面です。本文こうです。
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  ……明るい部分の中に、人生の日常の経路が中断された、その断面が浮んでくる。主人公を徒らに待ちわびている餉台や臥床は、人生の日常経路の中断面の相貌なのだ。そして暗い部分のなかに、他のさまざまなことが溺れこむ。よく知ってる人の名前を忘れたり、はっきり分ってる事柄が曖昧になったりする。quomark end - 待つ者 豊島与志雄
 
 哲学的なことを、豊島与志雄が述べてゆく。不思議なことを言うもんだと思っていたら、この空想の場面についての話しを聞いていた親友が、急に自分の故郷のことについて述べてゆくんです。この男は、古里の居るべきところから外れて、みずから出奔していた。
 絵画的で空虚な空想から、現実の男の事情が、あとづけで照射されて、物語創作が読者にもたらす効果というか、物語がどのように人間の心情に作用するのか、そのあたりのことをヴィクトルユゴーのレミゼラブルを翻訳した豊島与志雄が書いていて、そこに魅力を感じました。

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