自分だけの世界 辻潤

 今日は、辻潤の「自分だけの世界」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 マックス・シュティルナーの『唯一者とその所有』を翻訳し終えた辻潤が、氏の自我経について短い覚え書きを書いている、という掌編です。十年かけて読んで、十年かけて翻訳を終えた。子どものころから、哲学的なことを考えていた辻氏は、十代のころに徒然草を愛読していた。英語を習い始めてからキリスト教に夢中になるんですが、知識追及が増すにつれてちがう本を読むようになった。同時代の作家について論じつつ、辻潤がどのように思想上の変化を経てきたのかについて記しています。「僕は時代精神の潮流に押し流されながら、色々の本を乱読した」そして「哲学めいた本の方に興味があった」だがいくら本を読んでも「結局、なんにもわからないということだけしきゃわからなかった」その中でマックス・シュティルナーの本を読んではじめて「自分の態度がきまった」。これがもっとも影響を受けた本だったというように記しています。絶対的な真理というような「迷夢」を追い求めないようになった、と書いています。
 シュティルナー批判としては『スチルネルが一切の偶像を破壊した後に、遂に「自我」という「偶像」を立てたといって非難する』というのがあるのですが、偶像を偶像だと分かりつつ作ってしまうことについてはおそらく問題が無いであろうと、辻潤は指摘しています。「ひたすら自分の人生経験に耳を傾けようではないか」と述べたモンテーニュの「エセー」と共通したことが論じられていました。このシュティルナーの思想を読んだのちに禅宗の本を読むと、得心の行くところが多いのだ、と辻潤は指摘しています。 
 自己を重大視しつつ「何人も何人を支配したり、命令したりしない状態」の社会はありえるのでは、と述べていました。辻潤のダダイスムの、大まかなところが見えてくる随筆に思いました。「君は君の好きなことをやり給え、僕は僕の好きなことをやるから」というのが印象に残りました。
 

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