蠅 原民喜

 今日は、原民喜の「蠅」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 この短編は、事件らしい事件が起きない静かな小説なんですが、近代作家がまのあたりにしていた生が、かえってよく見えてくる記載があり、読んでいて好きになる小説でした。九十年ほど前に、この日本で、行き詰まりを感じつつ生きた二人の男女が描きだされます。
 途中でほんとうにどうでもいい蝿が、現れます。この時ちょうど、男は禅宗の本を読んでいたんです。坐禅に失敗をして警策の棒でパシンと叩かれて、妄想を払うことがあると思うんですが、男はなんだか自分の家のことよりも、目のまえの蝿のことが気になって、これを丸めた新聞紙で打ちつけた。短編なのでこのままで終わってしまう。これとほぼまったく同時代に哲学者のウィトゲンシュタインが、哲学とはなにかを説いて「ハエ取り壺にはまってしまったハエに、そこから抜け出る道をさし示すこと」だと述べて、哲学的な治療を試みていることを記しているんです。なんだか妙に気になる掌編小説でした。
      

0000 - 蠅 原民喜

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