光の中に 金史良

 今日は、金史良の「光の中に」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 「山田春雄」という少年について物語る、写実的描写の文学作品です。金史良氏は英語やドイツ語や中国語にも詳しい、多言語を正確に使い分ける文学者で、半世紀以上も前に記された小説とは思えないほど現代的で読みやすい文体で記されていました。1939年……というと第二次世界大戦が始まる年で、この時代はもう検閲と思想統制は苛烈で、ここから終戦までの数年間で小説らしい小説を書けたのは太宰治以外ではほとんど居なかったと思うんです。まさにそのころに発表された小説です。
 貧しい町の子どもたちの生き様と、それを覆う社会について詳細に記されています。小説の序盤のいちばんはじめのところが印象的で、「山田春雄」という少年の様相に引きつけられます。貧しく困難な世相の中にあっても、母親への思慕をたいせつにする描写が印象に残りました。ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」に登場する、アリョーシャをとりかこむ貧しい子どもたちを想起させるような、生々しい描写に息をのみました。
 金史良氏の日本語での創作は1943年10月までの4年間です。外国語でここまで精妙な文体を創れるというのが衝撃でした。ウィキペディアによると金史良は1945年2月に古里の平壌から「北京に派遣され」ここで「脱出を模索し、5月29日午前に北京駅から南下」して中国で一時的に亡命します。第二次世界大戦が終わったあとには故郷にぶじ戻り、母語を用いてあらたな作家活動をはじめます。解放後の数年間が金史良氏の文学活動の中心であると思われます。
 

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