怪異考 寺田寅彦

 今日は、寺田寅彦の「怪異考」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 幽霊やUFOの話しを聞いていて、たぶん実体験を元にして話しているはずで意図的な嘘を言っているわけではないのに、現実には存在しないことを言ってそうに思うことは多いんですが、寺田寅彦はこういった怪異の発言について、まずこのように考察します。
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  身辺に起こる自然現象に不思議を感ずる事は多いが、古来のいわゆる「怪異」なるものの存在を信ずることはできない。しかし昔からわれわれの祖先が多くの「怪異」に遭遇しそれを「目撃」して来たという人事的現象としての「事実」を否定するものではない。quomark end - 怪異考 寺田寅彦
  
 述べている人の、訴えたい心情は理解できるけれども、事象としてはありえないだろうと判断していて、さらにこの誤認の現象はなぜ起きたのか、をさらに論考してゆきます。見まちがいや勘違いの仕組みを読み解いています。見間違う、判断し間違う、言い間違う、聞き間違う、読み間違う、推測しそこなう、といったあらゆる間違いのフィルターを除去していって、じっさいにはどういうことがあったかを空想してみて考察する。
 よく、歴史家や研究者や記者は、とにかく足を使って事態を調べて、一次資料を重んじて、「又聞きの又聞き」みたいな存在である三次資料をほとんど重視しないらしいんですが、寺田は今回、二次資料や三次資料を元に考えるにはどうしたらいいのかを、今回書いています。
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 錯覚や誇張さらに転訛てんかのレンズによってはなはだしくゆがめられた影像からその本体を言い当てなければならない。それを的確に成効しうるためにはそのレンズに関する方則を正確に知らなければならない、のみならず……(略)quomark end - 怪異考 寺田寅彦
 
 これについて論考するには、空想の小説の形が良い、と寺田寅彦はいうのでした。小説にはそういう機能があって、そういえば歴代の古典の哲学者も、小説形式で哲学を展開したなあ、と思いました。それで全体30%の序盤から小説が記されます。高知県の荒海のそばで「ジャン」という怪音を轟かせる怪物が現れる、というんです。この記録はあまたに残っている。大森博士をはじめ幾人かの人々がこの記録を調査した。海峡の近くを走る断層線で、なにかの地鳴りが起きて、これと荒海の印象が、この怪しい「魔物」を生じさせた原因ではないかと、いうように記していました。くわしくは本文をご覧ください。
 

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追記  もう一つの「怪異」「小説」は「ギバ」という魔物について記したもので、「玉虫色の小さな馬に乗って、猩々緋しょうじょうひのようなものの着物を着て、金の瓔珞ようらくをいただいた」女が馬を襲うんだという、伝承について読解していました。読み方としては正しくないんですが、すごい妖怪の擬古典漫画で魅力的な作品でした……。寺田は草原で起きる夏の放電現象が原因ではないか、と指摘しているのでした。