大凶の籤 武田麟太郎

 今日は、武田麟太郎の「大凶の籤」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 神社のおみくじで凶を引いたという経験は自分にもあるはずなんですけど、記憶に蓋をしてしまっていて、じっさいどういう気分だったのか、前後の記憶がまったく無かったりします。自分にとって都合のいい記憶は脚色してなんども話して忘れない、というのがふつうだと思うんです。作家の武田麟太郎は、この大凶を引いたときの記憶を再現するような感じで、ひどい暮らしをしていたことを詳細に書いていくんです。
 いったん自堕落になると、どこまでも人生を放りだしてしまう、という自己の奇妙な性格について吐露しています。「現実的な望みなぞ、嘘みたいにはかなく消えて、雲や水に同化したいと云ふ及びもつかない野心を起すこともある」と、老子の教えっぽいことも言うんです。
 仕事があって家族を養って順調に生きていた筈なんですが、急に原稿を書けなくなって締め切りも過ぎてしまい、真冬の貧しい街に逃げ出してしまって、ボロボロの宿で見知らぬ「高等乞食」の男と木賃宿に泊まって、仕事も家も完全に投げ出して、もうすぐ元旦がくるような日付に、浮浪者のように呆然としている。
 高等乞食というのは言い得て妙で、いっさい働かず無為に過ごしても死なないで済むのはそうとうぜいたくなことで、ふつうは仕事をしたり、自宅にこもって健康を維持したりしないと、たいてい行き詰まってしまう。海外旅行の貧乏旅をしている感じで、安宿に居座って、いつまでも自宅に帰らない。
 狐使いの老いた占い師、高等乞食、「私」この木賃宿に居座る3人の話しでした。
夢で見た戦場のピアノの描写がなんだかすごかったです。
 三人は泪橋でぐだぐだえんえん飲むんです。百年前からほとんど変わらない地勢というのがあるんだなあと思いました。大晦日の東京を描きだした、季節感のみごとな小説でした……。 
 

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