湖南の扇 芥川龍之介

 今日は、芥川龍之介の「湖南の扇」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 中国は湖南の情景と、二〇世紀前半の不気味さが漂う、紀行文のような描写からはじまる文学作品です。芥川龍之介は平安末期の羅生門の惨状を描きだしたり、荒廃や死骸というのにものすごいこだわりがあるように思います。
 芥川龍之介が中国を旅したのは1921年(大正10年)のことで、その時に湖南を訪れています。物語はまず、労働者たちの不穏な人間関係が描きだされてから、つい最近起きた強盗団の斬首刑のことが語られます。主人公の「僕」はかつて日本で知り合った留学生の譚と偶然にも再会する。彼の案内で、「僕」は芸者のいる妓館で食事をすることになる。芸者の美女が幾人か現れて、主人公の「僕」と豪勢な食事をします。……このあとの、不気味なビスケットについては、ぜひ本文をご覧になってください。平安末期の荒廃した京都を描きだしたあの芥川龍之介が、中国の湖南を描くとこうなるのか、という鮮烈な印象の物語でした。百数名もの犠牲者がいる悪漢の……愛人だった女性が、娼館に現れるんです。極悪人の娼婦だった玉蘭という女です。
 その玉蘭の憂いある行動と発言に、衝撃を受けました。魯迅の文学にも通じるような、みごとな作品でした。
 

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追記  これは完全にネタバレなので、先に本文「湖南の扇」を読んだほうが良いと思うんですが……悪漢が刑死し、当時の俗習に従って血を瓶詰めにした者が居たようで、この血を吸いこませたビスケットが登場するんです。そういえば二月のバレンタインもじつは血塗られた歴史からはじまった記念日だったよな……と思いました。