今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その84を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
あと十数回でこの長編小説は完結しますので、こんご細雪の全巻を通読する予定の方は、本文の第一章から読むことをお薦めします。
仕事も恋愛も暮らしも行き詰まってしまい、不摂生が祟って重い病にかかった妙子だったのですが、それについて病人を見舞った雪子と幸子の考えていることが記されてゆきます。とくに雪子が妙子の不潔さをかねてから警戒していたことを描きだしたところが、仮想の物語とは思えない迫力のある描写で、衝撃を受けました。
病床の妙子がうなされて、怖ろしい心理状態におちいっていることが描かれるのですが、もともと妙子(こいさん)の婚約者だった板倉勇作(米やん)が亡くなってもうすぐ一周忌なんですが、板倉の死が原因で妙子は心の調子も崩してしまっていて、日ごろの不摂生がさらに危険なほうへとおちいってしまったようなのでした。本文はこうです。
板倉の死んだのは去年の五月であったから、そろそろ一周忌が廻って来る時分ではなかろうか。こいさんは、あの男の死に方が尋常でなかったので、それが余程気に懸っているらしく、未だに毎月岡山の田舎まで墓参りに行くのも、一つはそのためなのであろうと察しられるが、ちょうど折も折、あの男の一周忌が近づいた時に重い病気に取り憑かれて、而もあの男の恋敵であった啓坊の家で寝付くようになったと云うことは、神経に病まない筈はあるまい。
この幸子の考察を読んで、この「細雪」は、幸子の視点で描かれてきたんだなあと思いました。雪子と妙子の問題を描きだしているのは幸子の心情描写や思い出を挿むかたちで描かれることが多いんです。幸子の心情は三人称の小説であるにもかかわらず、さまざまに記されるのですが、雪子や妙子の深層心理はほぼ記されずに、外部の変化だけを捉えているところがあるんです。ですから、この三人称の物語の語り手と主人公というのは、どうも幸子のように思えます。いちばん谷崎潤一郎の人格に近いのも、たぶん既婚者で子育ても順調な幸子なのではと、思うんです。
元婚約者の板倉への不義のことをどうにも気に病んで、悪夢でうなされるので、治る病気も治らなくなっている妙子なのです。いったん板倉と敵対していた奥畑啓坊の住み家から、病人の妙子を遠ざけてみて苦を緩和して、新たな病院で妙子の病を治すしかない、ということで幸子と雪子は、妙子を別の病床へと移すことにしたのでした。こんかいは妹思いの雪子の努力というのが見えて、いつまでたってもお見合いが進展しない雪子の、性格の良いところと悪いところが良く見える章に思いました。
雪子は、人と隔絶しているところがあるし、男の思いを汲み取らないところがあって、もう半世紀ほど未来の社会でなら自立自存した人生を歩む人なんだろうなと思いました。
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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。下巻の最終章は通し番号で『細雪 百一』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)







