今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その97を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
『細雪』は第101回で完結します。どうもあと数回で大波乱に至って暗い事態に突入するというようなことは、たぶん無いようです。物語の全体を振り返りつつ、先の暮らしへと進んでゆく姉妹たちを描きだすようです。谷崎は今回の物語で「それから数年後」というような、文学や映画ではよくある、時間の省略をしなかったのが、なんだかすごいなと思いました。
戦争が終わったあとにその記憶を描くのと、現実の戦時中に戦時の緊迫した場面を描くのでは、ずいぶん雰囲気が違う、と思う箇所がありました。
カタリナから九月に出した手紙が先日来ましたが、自分の家は倫敦の郊外で、独逸の飛行機が飛んで来る通路に当っているので、毎日毎晩爆撃機の編隊が通り、盛んに爆弾を落すけれども、非常に深い完備した防空壕があるので、そこに電燈をカンカンつけて、ダンスレコードをジャンジャン鳴らして、コクテルを飲んではダンスしている、戦争なんてとても愉快で、恐いことなんかちっともないって云って来ました、だから皆さんに心配しないように云って下さい、と、そう仰っしゃって笑って行っておしまいになりました、と云うのであった。
戦後だからこう書けたわけで、戦時中にこう書いて発表したら軍部から逮捕監禁されたはずでは、と思いました。戦中に発禁処分を受けた『細雪』がその後どのように書かれていったのか、その裏事情はこうだったのではないか、というのが、雪子の縁談に関わっている国嶋氏の発言の箇所にあるように思いました。本文こうです。「こんな時代がそんなに長く続くものとは信じられないし、仮りに相当続いたとしたところで、その間の食いつなぎぐらい、何とでもなろうではないか」これが谷崎潤一郎の戦中戦後すぐの生きかただったのでは、と思いました。
※以下は物語の結末を含みます。クリックすると表示されます。
妙子は、三好との子どもを安全に出産するために少し遠いところで一人暮らしをして静かにしており、お手伝いさんの「お春」が2つの安産お守りを届け、その様子をうかがいにゆくのですが、これはもう無事に子供が生まれるのだろうというようにしか思えない雰囲気でした。また雪子のフィアンセ候補である御牧も、裕福なんですが今後の仕事ぶりだけは少し心配があるのですが、そのあたりは念入りに相談しつつ、ぶじ結婚に至るのでは、という感じで物語が進んでゆきました。次回に続きます。
装画をクリックするか、ここから全文を読む。 (使い方はこちら) (無料オーディオブックの解説)
(総ページ数/約10頁 ロード時間/約3秒)
当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。下巻の最終章は通し番号で『細雪 百一』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)







