可愛い女 アントン・チェーホフ

 今日は、アントン・チェーホフの「可愛いひと」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これはチェーホフの奇妙な名作で「オーレンカ」という少女が成長して、良人と暮らしはじめ、なにごとにも夢中になって、近しい人とどこまでも添い遂げようとする、けなげで可愛い姿が描きだされる、近代ロシアのみごとな物語なんです。
 

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(総ページ数/約20頁 ロード時間/約5秒)
 
追記  ここからはネタバレとなりますので、近日中に読了する予定の方は、先に本文を読むことをお勧めします。不幸つづきで二転三転あっても、オーレンカはずっと「可愛い女」のまま、新たな良人に熱い思いを抱きつづけるという不思議な生きかたを続けるさまが描きだされる物語でした。オーレンカは好きになった人に、すぐに影響を受けてしまうのでした。本文にはこう記されています。
「オーレンカはすっかり彼に恋してしまったのみか、それがまた一通りや二通りの慕いようではなく、その晩はまんじりともせずにまるで熱病にでもやられたように心を燃やし身を焦がし、朝になるのを待ちかねて……」
 中盤の、不幸なできごとからすっかり立ち直ってしまう展開があまりにもみごとで、惹きつけられました。
 おばあさんになっても、他人の子である「サーシャ」を自分の住まいから学校へと送りだすことに、熱中して夢中になっているという、かわいい性格が度を過ぎているオーレンカが描きだされる、チェーホフの魅力あふれる小説になっていました。

 

木の子説法 泉鏡花

 今日は、泉鏡花の「木の子説法」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 能と狂言を見にゆく「私」が目撃した「お雪」と家族と詐欺師たちの、滅びの物語が描写されます。朽ちた大地にはえてくる毒々しいキノコの世界を描きだし、そこに人間の骸を重ね合わすように描写していて、人間たちの滅びと陰気な生命感が描きだされる、重厚な文学作品でした。困窮から抜け出すことが叶わなかった母子の物語と、歴史的な災禍と、朽ちた大地に立ち現れる毒茸の描写と、貧すれば鈍する詐欺師たちの破滅とが、能と狂言と小説の構成で描きだされる多層的な物語でした。

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追記  ハッピーエンドからほど遠い終わりかたをするのですが、なぜか人情や美が表出してくるところが、泉鏡花の独特な文学性なのでは、と思いました。泉鏡花は「綾鼓」がいちばん好きな能楽だったのでは?と思いました。
 

漁師 フィオナ・マクラウド

 今日は、フィオナ・マクラウドの「漁師」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 山あいにある「青々した草原」を通り「楊の谷」の「河ふち」に至ると、そこには、なぜか悲しげな眼をした「猟師」がいて、おばあさんと出会い、すぐに去ってゆきます。作中で、この地について、印象深い記載があります。
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 山々のかげのくらい沢水に寂しく潜んでる鮭は深い海の音をききつけて、塩のこいしさに舌をあえがし、鰭ひれをふるわし、時が来て海が呼んでるのを悟る……quomark end - 漁師 フィオナ・マクラウド
 
 おばあさんは、この地で、不思議なものをみたと、息子のアラスデルに語るのでした。ケルト神話と太古の世界を描きだす、静謐な短編小説でした。
 

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追記  以降、ネタバレとなりますので、数日以内に読み終える予定の方は本文を先に読むことを推奨します。天寿をまっとうするときに魂をもらい受けに来る、天界への案内人のような「漁師」というのが描かれた物語で、おばあさんはこの、悲しげな眼をした、たましいの猟師と偶然のように出会うのでした。そのすぐあとに、自宅の炉ばたの椅子に座ったまま、おばあさんは痛みもなく身罷ります。これを見届けた息子のアラスデルのもとへ、「猟師」がやってきてこう告げるのでした。
「別れに言う、平和におくらしなさい、善良なたましいよ、平和におくらしなさい……」

 

マルテの手記 リルケ

 今日は、リルケの「マルテ・ロオリッツ・ブリッゲの手記」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 原民喜が、戦時中に愛読した本がこの堀辰雄訳の「マルテの手記」の抄訳だということで、はじめてこれを読んでみました。これは世界的な名作で、ナボコフや画家パウル・クレーがこのリルケ文学に深い影響を受けたのでした。
 デンマークに生まれて、パリで詩人になろうと孤軍奮闘している青年のマルテは、日記のような形式で、散文詩をしたためているのでした。病院の周縁から世界を見てゆく青年マルテのようすが描かれます。本作は抄訳なんですが、いつか「マルテの手記」の全訳も読んでみたい、と思う、みごとな短編化でした。
 

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追記  「ヨオドフォルムの匂、揚林檎の油の匂」の歪な匂いに恐怖を感じ、街の人々が、顔を付けかえながら生きていて、自分は過去の自分と切り離されてしまって、今や手紙を書こうと思っても、新しい「私」のことを理解している人は一人もおらず、手紙を書く意味そのものを見失ってしまうのでした。
 さらに、所有をするということにさえ疑問を抱き、ほんとうは、誰もなにも持っていないのではというように考えはじめます。「人は何物をも、又何人をも所有して居らぬ。」そうして「せめて思ひ出だけなりと持つてゐられたなら! が、そんなものを誰が持つてゐよう?」と思い出さえもじつは、埋没してしまって、探しだせないでいるのが人間なのだというように考え始めるのでした。
 作中でマルテは、病院の周縁にある町を歩いてゆきながら、死というものがさまざまな様相を持っていて、それぞれ唯一の存在としてあることを論じてゆくのでした。私的な世界が溶け崩れていってから、秋の朝日の光が織りなす神秘的な街並みを眩く見つめて、「愉快で愉快でしやうがないらし」い「松葉杖を突いて」いる男を目撃し「何んとまあ、あの小さな月にこんな大した魔力があるのだらう!」と讃嘆し、自動オルガンが奏でる音と、「緑色の晴着をきた小さな娘が舞踏をし、ときどきタムバリンを、窓の方へ差し上げながら、叩いて」いるその町なかの音楽に魅せられている、マルテの姿を描きだすのでした。この終盤の詩的な気配に感銘を受ける名作でした。

 

些細な事件 魯迅

 今日は、魯迅の「些細な事件」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
「わたし」はある日、人力車にのって急いで仕事場に向かっているときに、おばあさんとこの車夫がぶつかってしまった。この小さい事件を追った、魯迅の短編小説です。
  

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追記  はやく仕事場に向かってほしいとしか思っていなかった「わたし」を放置して、車夫は自分でこの老婦人をひいてしまったことの責任をとろうとして、倒れたおばあさんを助け起こして、交番に向かってしまった。「わたし」は1人、車の中に取りのこされてしまった。
 このミスをしたはずの車夫の、もの言わぬ背中が、急に、なによりも大きく山のようにそびえ立っているように見えた。本文こうです。
quomark03 - 些細な事件 魯迅
  全身砂埃を浴びた彼の後影が、刹那に高く大きくなり、その上行けば行くほど大きくなり、仰向いてようやく見えるくらいであった。quomark end - 些細な事件 魯迅
「わたし」は思わず、巡査に向かって、おばあさんを助けたあの車夫に銅貨を渡しておいてください、とお願いをして立ち去ってしまいます。「論語」の言葉はなにも思い出せないのだが、この小さな事件の記憶だけはいつも「わたし」のなかで蘇ってくる、と記していました。「論語」ではおもに、こう説いています。「過ちて改めざる、是を過ちと謂う」間違っておいて改めない、というのがほんとうの過ちである。「学びて思わざれば則ち罔し」ただ暗記するだけで思い巡らすことが無かったら、何も見えてこない。「わたし」は作中で、こういった論語の言葉をどこかで学んだはずなのに、すっかり忘れ去ってしまって1文字も思い出せないで、いるのでした。

 

寒山拾得 森鴎外

 今日は、森鴎外の「寒山拾得」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 唐の時代の道教の道士……この神秘的な怪異を描きつつ、閭丘胤りょきゅういん がまのあたりにした、3人の奇妙なまじないを描きだします。豊干という僧は水を使ったまじないで頭痛を治癒し、みすぼらしい姿の寒山と拾得は、正体を言い当てられると、すうっと逃げ去ってしまうのでした。
 鴎外は作中で、「道」にたいして「三通り」の態度があると述べます。
一、道についてまったく無頓着な人。
二、宗教または学問の道を探究する人。
三、道を究める人を尊敬するだけで、どうも真理に暗い人。
 
 老子の「道」と、道教の道士の神秘的な「道」は、ずいぶん違いがあるんです。どうもこの2つの大きな違いのことを思索しながら鴎外がこの道教の怪異を記したのでは、と思いました。「腹の底からこみ上げて来るような笑い声を出し」て「駆け出して逃げ」てしまう老荘思想の教え、というのを空想しました。
 

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追記 今度いつか、半年後にでも、老子道徳経の現代語訳をじっくり読んでゆこうと思っています。