細雪(92)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その92を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 何度もお見合い相手を探してきてくれた井谷さんは、米国でちょっと修業をしてから東京で新たに美容院を始める予定なのでした。そのため東京で井谷さんの、駅での見送りで花束を贈ったり、別日の送別会に参加しようと、雪子や幸子たちは華やかな外出をするのでした。
 もうなんだか、ずいぶん落ちついた物語になっているのでした。これは1941年ごろを描いているのですが作中の設定上の時代よりも、作家の生きている敗戦後の、裕福で平和な家庭の現実のほうが、色濃く物語に反映されてしまうのだ、と思いながら読みました。
 米国に行く井谷さんや、雪子や幸子はなんだかもうすっかり明るい雰囲気になっているのでした。
 細雪の中盤であったような不穏な気配というのがなぜか消え去ってしまっているのでした。
 

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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。下巻の最終章は通し番号で『細雪 百一』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)

追記  お見合いをして破談になる、という不思議な時間と、敗戦後なのに戦中の暮らしをまだ続けて書くという妙な描写には、なにかしらの共通点があるのでは、と思えてくる細雪の下巻なのでした。
 

細雪(91)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その91を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 物語の終盤に関する内容を書いていますので、こんご細雪の全巻を通読する予定がある方は、本文の第一章から読むことをお薦めします。
 妙子こいさんと雪子のちょっとした諍いはすぐに終わって一瞬で仲直りしました。雪子の縁談を何度も取り持ってくれた井谷さんは、美容院を他人にゆずって東京で美容院を開く予定で、これからアメリカで修業をしてくるという計画をはじめたのでした。もうすぐにでも東京にゆく、というタイミングで、さいごの縁談の提案をするのでした。その相手は、藤原氏の血を引く名門の出であり、公家の華族で御牧実みまきみのるという優雅な男なんです。御牧は、パリで絵画を学んだりフランス料理の修業をしたり、米国の大学で航空学を学んだり、建築の仕事もしました。ただし、父親の財産を食いつぶしていて、儲けていないのにたいへんな浪費家で大酒ものみ、定職が無いうえ、今は道楽しかやっていないところが不安要素なのでした。
 雪子は縁談で誰かと結ばれるはず、と思って読んでいるのですが、これが最後の縁談相手のはずなので、じゃあこの人と結婚するのか、どうなのか、もはやまったく分からないなあと思って読んでいるところです。
  

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■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
  
追記 米国の大学で航空学を学んだのに、その技術は全く活かさなかった、というのはなんだか戦中戦後を貫いて書かれた長編小説の中で、妙に印象に残る描写に、思いました。

細雪(90)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その90を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 物語の終盤に関する内容を書いていますので、こんご細雪の全巻を通読する予定がある方は、本文の第一章から読んで、以下の文章は読後に読むことをお薦めします。
 自由闊達な妙子には、これまでいろんな不幸が襲いかかってきて、啓坊の悪影響もあって、妙子はほとんど死にかけてしまったわけなのですが、ついにいろいろなところが快復して、やっと第一章のころの妙子の魅力が復活してきたのでした。
 当時の時代の不幸が襲いかかる小説なんだろうと思っていたのですが、ここに来てだんだん良い展開になりつつあって、いよいよ終盤に近づいてきたなと思って読んでいます。作家は既に敗戦後に到達しているのですが、作中の時代ではまだ戦争が激化する場面ですので、不穏な気配はいろいろあるのでした。啓坊の渡航計画もこの後の5年間の歴史を思うとずいぶん不味い内容なのでした。
 それから妙子が、不倫と窃盗をやっていた恋人啓坊に対して、どのように思っているのか、そのことが明確に書き記されていて、ちょっと驚く内容なのでした。
 3女の雪子が、ふだんはまったくものを言わない人柄であるのに、4女の妙子に対しては、しっかり大事なことを話すところも印象に残りました。
 人生の岐路について、いよいよ真剣に話しあわねばならず、やむを得ぬ姉妹喧嘩が起きてしまって、妙子が泣いてしまう場面もありました。本文こうでした。
quomark03 - 細雪(90)谷崎潤一郎
  妙子の眼にはいつの間にか涙が潸然さんぜんと浮かんでいた。それでも妙子は、相変らず無表情な顔つきをして、頬を流れる涙を意識していないかの如くであったが、やがて、突然立ち上ると、バタン! と、部屋じゅうが震動するほど荒々しくドーアを締めて廊下へ出て行った。quomark end - 細雪(90)谷崎潤一郎
 
 あと11回でこの長編文学は完結します。
 

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■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
  
追記  妙子が不幸になった原因について案じている雪子と幸子なのでした。「自分達にも一半の責任があることを思い、出来るだけ温かい愛情を以て、この変り種の妹の心を和げるように」という記載があって、姉妹の妙子に対する心情描写が印象に残る章でした。
 

細雪(89)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その89を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 妙子はついに退院をして、幸子の家に出入りできるようになりました。
 シュトルツ一家はヒトラーの居るドイツで酷い戦争に加担しはじめている可能性があって、ロンドンの郊外に居るロシア人カタリナ婦人は、せっかく富豪と結婚できて大邸宅に暮らせるようになったのに、大空襲に曝される可能性がある、という噂を聞く蒔岡一家なのでした。
 ナチスの加害性にのみこまれた人々に対する観察として「祖国の輝かしい戦果に酔うて一時の家庭の寂寥せきりょうなどは意に介していないでもあろうか」ということを記しています。谷崎は戦時中に、源氏物語の新訳と「細雪」のこの2つのみを中心的に創作していました。文化的価値があり、特別高等警察からの悪影響を受けない方針が「家と寂寥について考える」ということだったのではと思いました。
 谷崎文学は娯楽作品としても一級のものだと思うんですが、細雪ではとくに日本を観光するところが雅に描きだされるのが魅力だと思います。今回も、芦ノ湖や富士山や、あるいは奈良のホテルについて記していました。ほぼ一世紀前の世界なので、南京虫の騒動や、もろすぎるガラス製食器や電球が、ちょっとした震動で勝手に割れてゆく描写など、今ではめったにお目にかかれないことが起きるのも、なんだか読んでいて楽しめるところではありました。
 強いようで弱い、人間のありさまがさまざまに書きあらわされる、細雪後半の物語描写なのでした。
 

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(総ページ数/約20頁 ロード時間/約3秒)
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「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 

細雪(88)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その88を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 あと十数回でこの長編小説は完結しますので、こんご細雪の全巻を通読する予定の方は、本文の第一章から読むことをお薦めします。
 妙子こいさんは四姉妹のなかでもっとも独立心があって、姉妹の中でただ一人だけ仕事をしっかりやって稼いでいる女性で、95年前というか百年前の世界ではもっとも自由な生きかたができた現代的な女性なんだと思っていました。
 ところが、物語の本筋としては、どうもそういうわけではなかったようです。
 啓坊の婆やとしては「啓坊と云うものが純真の青年のように映る」しその連れである妙子こいさんは「不良な女で」「妙子が一箇のヴァンパイアとして映ったばかりでなく、妙子の背後にある家庭までが不健全なものに映った」
 妙子が、啓坊から金をむしり取って遊んでいる、というように見えたそうです。
 さらに問題があったのは、親密で信頼しあっているはずの、幸子と妙子のあいだで、「欺く」行為があったわけで「啓ちゃんの金などは一銭一厘もあてにしない」と言っていたのに、けっきょくは啓坊から金を拝借していたという実態が見えてきて、幸子は自分自身の過失を感じるのでした。
 妙子は元婚約者の米やんとしっかり生きてゆくための計画をして、それに向けて進歩的に働いて、自立していました。ところが婚約者が居なくなってからは、働く目的も無くなって、腐れ縁の啓坊とずるずる暮らしているうちに、親の物を盗んだ奥畑啓坊と二人で生きるようになったのでした。「奥畑の母や兄が奥畑と妙子との結婚に飽くまで反対している」という状態で、結婚も出来ないし、働くことも出来ないし、縁を切ることも出来ない、という状態になったのでした。
 それで姉の幸子としては……
「責められるべきは妙子よりも、むしろ彼女にうまく円められていた、余りと云えば世間知らずの」自分たちが悪かったのでは、というように、考えるのでした。本文こうです。
 
「みんなあたしが悪かったんやわ、………あんまりこいさんを信用し過ぎたのんが。………」
「そうかて、信用するのんが当り前やないの。………」
 雪子は幸子が泣き出したので、自分も眼をうるませながら云った。
 
 幸子の夫は「妙子の暗黒面が大体分っていた」のに、姉としては「身びいき」があって負の問題を見ないことにしていたのが、どうも「おめでたいのでなくてずるい」考えだったというように考え直したのでした。
 それでは、幸子としては、今後どうやって妙子のことを考えるのかというと、妙子を結婚させてやりたい。幸子と雪子でこの問題を、相談をするのですが、妙子の行く末を決定づける一文が以下にこう記してありました。
 
「やっぱり婆やさんの云やはるように啓坊と一緒にすることやわな、啓坊のためにも、こいさんのためにも」
「それより外に二人を救う道はないやろ思うけど。………」
 
 妙子の元婚約者だった米やんに、死ぬほど嫌がらせをしていた奥畑啓坊と、自由闊達だったはずの妙子が、結婚をするわけがないじゃないか、とずっと思って読んできていたのですが。奥畑啓坊は、生活費が足りないので親の金を盗んででも妙子といつまでも同棲しようとしていたし、伝染病で危ない状態の妙子を裏切ったりしなかったわけで、こうなってみると、二人で生きたほうが、正しい道のりなんだろうなあと、思いました。
 はじまりの妙子はもっと、ぜんぜんちがう、自由で快活な人だったのに、と思って衝撃の章でした。
 

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「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 
追記  伝染病がようやく治りかけてきた妙子は残念ながら、毎年恒例の京都観光はできず、妙子ぬきで、蒔岡姉妹たちは平安神宮を見てまわったのでした。本文こうです。
quomark03 - 細雪(88)谷崎潤一郎
  今年は時局への遠慮で花見酒に浮かれる客の少いのが、花を見るにはかえって好都合で、平安神宮の紅枝垂べにしだれの美しさがこんなにしみじみとながめられたことはなく、人々が皆物静かに、衣裳いしょうなども努めて着飾らぬようにして、足音を忍ばせながら花下を徘徊はいかいする光景は、それこそほんとうに風雅な観桜の気分であった。quomark end - 細雪(88)谷崎潤一郎
 

細雪(87)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その87を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 あと十数回でこの長編小説は完結しますので、こんご細雪の全巻を通読する予定の方は、本文の第一章から読むことをお薦めします。
 鶴子と幸子が、妹の妙子こいさんを案じ、良かれと思って、「妙子と啓坊」という不穏な関係から遠ざけるためにやったことが、逆に妙子と啓坊を追いつめてしまってかえってこの2人が寄り添って生きるしかなくなってしまったようです。その実態が、「婆や」たちによって語られるのでした。
 妙子は、元婚約者の米やんを経済的にもしっかり支えるために、裁縫と人形作りを学んでこれを仕事にしたのですが、鶴子が古い考え方でこれを辞めさせるように動き、さらに1930年代後半の時世が、女性の独立心を阻むところもあって、妙子はフラフラしているだけの日々になって、恋人も病で失ってしまい、親の金だけ持っている啓坊と深く関わるようになってしまいました。さらに啓坊はもっと妙子を遊ばせるための金が欲しくて実家の大切なものを盗み出して勘当されてしまい、外部に外部に追いやられてブラブラしている状態の2人が、共に暮らすようになってしまっていたのでした。
 放蕩をさんざんやってしまったのも、妙子の元婚約者にさんざん嫌がらせをしたのも、実家の親のものを盗んだのも、すべて妙子こいさんにたいして「今も昔に変らない純真な感情を持っている」からこそやってしまったことなんだと啓坊の「婆や」は力説したのでした。次回に続きます。
 

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「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
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■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)