迷い路 小川未明

 今日は、小川未明の「迷い路」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 夢の中でみた奇妙な道のりのとおりに、迷い道をたどって「ほんとうの母さんにいに」ゆく、幼子の物語なのですが、日本昔話によくある、怪談としてもみごとな、童話なのでした。
 

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追記  結末もみごとで、幼子への愛の溢れる物語でした。
 
 
追記2  数日間ほど旅先にいて、離席していたので更新がびみょうに滞っています。

秋の瞳(35)八木重吉

 今日は、八木重吉の「秋の瞳」その35を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
「静かな焔」というのは八木重吉の詩集を読むうえで重要な作品に思いました。ふつうは化体されないもの、というのか具体的には書きあらわせないはずのものをすんなりと描いて、その世界を想像させるところに、八木重吉の詩の独自性があるのでは、と思いました。
 

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追記  「石塊と語る」では、独特な文語調の箇所があります。「悲しむべかり」は「悲しむのが当然だ」あるいは「悲しんでいるのだろ……う」という意味です。

フロルスと賊と クスミン

 今日は、ミハイル・クズミンの「フロルスと賊と」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 老いた主人フロルスが病床で、奇妙な夢を見ます。夢の中での体験を、老主人フロルスはこう語ります。「わたしは人を殺したのです。誤解してはいけませんよ。それはあそこでしたのです。夢のうちです。わたしは逃げ出しました。」それから「港の関門を通らうとする時小刀を盗んだと云ふ嫌疑で掴まりました。背の高い、赤毛の商人がわたしを掴まへたのです。人がその男の事をチツスさんと呼んでゐましたよ。わたしは力が脱けたやうで、途方にくれてゐました」と述べます。ところが、そのすぐあとに乳母が、現実の世界で「港の関門の所で人殺しを見ましたよ」というのですが、その詳細はフロルスが夢の中で体験したこととピタリと一致するのでした。それから……
 

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追記  以降はネタバレとなりますので、近日中に読み終える予定の方は、本文を先に読むことをお勧めします。
 老主人フロルスはある朝に「日の出る前に起き」て「軽らかな足取で歩」き、従者とともに「監獄の門に入つた」のです。「足早に監獄を見て廻つて」、監獄の看守に「目の光る、日に焼けた、髪の黒い男」のことを訪ねます。そこで夢の中での「私」が監獄を逃亡して、どこかへ行ったという事実をつきとめるのでした。「監獄の門を出た時、フロルスはこれまでになく晴々」とした足どりで「うれしげ」に子供のような声で、従者にこう語るのでした。「どうだい。ムンムスぢゝい。あれを見い。こんな長閑のどかな空を見たことがあるかい。木の葉や草花がこんなに可哀かはいらしく見えたことがあるかい。」「どうだい。ムンムス爺い。けふのやうに己の元気の好かつた事があるかい。あの雲を見い。丸で春のやうだ。春のやうだ。」
 しばらく別荘で快活に暮らすのですが、病状が悪化したのか「突然沈鬱な気色に」なります。急にしゃがれた声でこう言います。「どうしたのだらう。どうしてこんなに暗くなつたのだ。牢屋ぢやないか。」
 最後の章で、もの言わぬ児童が、フロルスの身罷ったところを目撃し、それを人々に伝えるのでした。この老主人フロルスの首には「なんとも説明のしやうの無い痕」が残っていました。黒髪のマルヒユスという賊にも、同じような首の傷があって同時刻に亡くなっていたのでした。神話的な気配の、夢と現実が交錯する物語でした。

 

川へおちた玉ねぎさん 村山籌子

 今日は、村山籌子の「川へおちた玉ねぎさん」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは小学生が読むための児童文学なんですが、いま現代に絵本化しても通用しそうな、ふつうにおもしろい物語でした。調べてみると村山籌子さんは、現代でも新聞記事になるほど有名な童話作家なんだそうです。
 玉ねぎさんが旅をしていて疲れきってしまい、満室のホテルの主人に頼み込んで、ホテルの片隅に泊めてもらうお話しです。本文こうです。
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  ジヤガイモさんは考へました。犬さんや、お猫さんならいざ知らず、玉ねぎさんを馬小屋になんぞ泊めたら、いやしんぼの馬が、玉ねぎさんを食べてしまふだらう。屋根裏に泊めたら、遠慮なしのくもが巣をかけるだらう。quomark end - 川へおちた玉ねぎさん 村山籌子
 
 ここからちょっとした七転び八起きがあるのですが、最後は童話らしい童話のハッピーエンドで、オチのつけかたも幼子が喜びそうな展開で、みごとなおとぎばなしでした。
 

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装画のAI使用率は5%。

思い出の記 小泉節子

 今日は、小泉節子の「思い出の記」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 小泉八雲と長らく暮らした小泉節子がしるした随筆です。
 ヘルンというのはHearnのことで、ラフカディオハーン(小泉八雲)のことです。
 ヘルンのカタコトの日本語の発言が、そのまま書き記されていて、異国で生きつづけた男の魅力が詰まった、みごとな記録文学であるというように思いました。ヘルンへの愛の溢れる随筆でした。
「耳なし芳一」や平家の怨霊といった日本の怪談を執筆中だったころの逸話が印象に残りました。本文こうです。
quomark03 - 思い出の記 小泉節子
  書斎の竹籔で、夜、笹の葉ずれがサラサラと致しますと『あれ、平家が亡びて行きます』とか、風の音を聞いて『壇の浦の波の音です』と真面目に耳をすましていました。quomark end - 思い出の記 小泉節子
 
 ユーモラスな人づきあいや冗談、西洋嫌いの西洋人の様子についても、いろいろ記されてありました。
quomark03 - 思い出の記 小泉節子
  フロックコートなど大嫌いでした。(略)着る時は又大騒ぎです。いやだいやだと云うのです。『この物、私好きない物です、ただあなたのためです。いつでも外にの時、あなた云う、新しい洋服、フロックコート、皆私嫌いの物です。常談でないです。本当です』など云っていやがります……quomark end - 思い出の記 小泉節子
 
 ヘルン氏はキリスト教の聖職者も嫌っていたのですが、聖書を読むことだけは重大視していたところが興味深く思いました。「弱い者に対してひどい事をする事を何よりも怒りました。」という一文も記憶に焼きつきました。現実の世界での怪談みたような不思議なこともいくつか記してありました。中盤から終盤にかけての記載がものすごく、なんだか破格の名著という印象でした。
  

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追記  氏は若いころの体験から、病や眼病を恐れていたことや、西洋様式を好まなかったことなどが記されます。小泉八雲は雑踏や汚濁を「地獄」と形容し、廃墟や廃寺に好奇心を抱き、猫や動物や植物への愛情が色濃く、文学作品とヘルン氏の人柄に共通項が多く、そこが魅力的に思いました。
 また他者や喧噪への警戒心も記されていて、怪談本をさがすのも妻にやってもらい、日本家屋の書斎で文学的な思惟に耽るラフカディオハーンのことが描きだされていました。終盤の記載で、ラフカディオハーンの最後の様子が克明に描かれていました。家族と共に生きて、家族の未来を案じつつ、ほとんど痛みも無く、当人さえ気付かぬうちに亡くなっていたようです。本文こうでした。
quomark03 - 思い出の記 小泉節子
  暫らくの間、胸に手をあてて、室内を歩いていましたが、そっと寝床に休むように勧めまして、静かに横にならせました。間もなく、もうこの世の人ではありませんでした。少しも苦痛のないように、口のほとりに少し笑を含んで居りました。quomark end - 思い出の記 小泉節子
 

細雪(81)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その81を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 雪子と、縁談中の橋寺との交流はどうも上手く進展しそうです。雪子はちょっと「陰気と云う印象」があるかもしれないが、おおむね順調に婚姻に向けて交際が進展してゆくようです。今回は親族とともに縁談相手とデートするという明るい内容から始まるのでした。長い物語もようやく結末が見えてきたのかなと思います。ずいぶん右往左往した物語だったと思うのですが、いちばんはじめの方針どおりに、家族の幸福を願う姉妹たちの物語が、ようやく進展しそうになってきました。雪子は地味な性格ですから、これまで物語の中にあまり印象を残してこなかったのですが、今回はなんだかずいぶん奇妙な行動をする雪子が描かれていました。交際している男から電話がかかってきたのですが……雪子は電話で話すのがどうにも苦手なので、姉の幸子に代わりに出てもらおうとします。ところが、その姉がちょうどどこかに行っているのでどうにもならず、電話口の前で長いこと黙ったまま惑ってしまったのでした。
 さらにこんどは2人で散歩でもしようという約束を電話で提案されるのですが、これについても、雪子の性格から言えば、たとえ結婚したい相手であってもどうしても無理で、これももじもじしてしまってなんだか消極的な返事をするだけで、要領を得ないのでした。雪子は橋寺のことが良いと思っているのに、対応はめちゃくちゃなのでした。後半の、猫と戯れる雪子の描写があまりにも印象的でした。
 雪子の幸福を願う姉なんですが、この電話に出ないしデートの申し出も無意味に断ったという一件で、幸子はくやしくて泣いてしまいます。本文はこうでした。「さぞ不細工に、取って附けたような挨拶をしたことと思うと、幸子は何がなしに口惜くやし涙があふれて来た。」
 「何だか知れないが橋寺さんがひどく怒っている、僕はあんな因循姑息いんじゅんこそくなお嬢さんは嫌いです、あなた方はあの人を花やかだなんて云われるけれども、何処に花やかなところがあるんです、僕はこの縁談はキッパリお断りしますから今直ぐ先方へそのむねをお伝え下さいと云っている」
 これで破談なのか、なんとか仲人が苦心して2人の仲を取り持つことができるのか、どうなるのか、長く見てきたのに、雪子がこんなに奥手で世間離れした性格だったとはちょっと衝撃でした。というか、女中さんも姉夫婦もみんな衝撃を受けているのでした。細雪ってこういう物語だったのか、と思う、雪子関連の問題が凝縮した章でした。
 

0000 - 細雪(81)谷崎潤一郎

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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。下巻の最終章は通し番号で『細雪 百一』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 
追記  今回の章は、全文を読まない人にとっては、もっともお薦めできる、拾い読みしやすい、まとまりのよい章であると思いました。これが文豪谷崎の「細雪」なんだ、と思いました。