細雪(81)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その81を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 雪子と、縁談中の橋寺との交流はどうも上手く進展しそうです。雪子はちょっと「陰気と云う印象」があるかもしれないが、おおむね順調に婚姻に向けて交際が進展してゆくようです。今回は親族とともに縁談相手とデートするという明るい内容から始まるのでした。長い物語もようやく結末が見えてきたのかなと思います。ずいぶん右往左往した物語だったと思うのですが、いちばんはじめの方針どおりに、家族の幸福を願う姉妹たちの物語が、ようやく進展しそうになってきました。雪子は地味な性格ですから、これまで物語の中にあまり印象を残してこなかったのですが、今回はなんだかずいぶん奇妙な行動をする雪子が描かれていました。交際している男から電話がかかってきたのですが……雪子は電話で話すのがどうにも苦手なので、姉の幸子に代わりに出てもらおうとします。ところが、その姉がちょうどどこかに行っているのでどうにもならず、電話口の前で長いこと黙ったまま惑ってしまったのでした。
 さらにこんどは2人で散歩でもしようという約束を電話で提案されるのですが、これについても、雪子の性格から言えば、たとえ結婚したい相手であってもどうしても無理で、これももじもじしてしまってなんだか消極的な返事をするだけで、要領を得ないのでした。雪子は橋寺のことが良いと思っているのに、対応はめちゃくちゃなのでした。後半の、猫と戯れる雪子の描写があまりにも印象的でした。
 雪子の幸福を願う姉なんですが、この電話に出ないしデートの申し出も無意味に断ったという一件で、幸子はくやしくて泣いてしまいます。本文はこうでした。「さぞ不細工に、取って附けたような挨拶をしたことと思うと、幸子は何がなしに口惜くやし涙があふれて来た。」
 「何だか知れないが橋寺さんがひどく怒っている、僕はあんな因循姑息いんじゅんこそくなお嬢さんは嫌いです、あなた方はあの人を花やかだなんて云われるけれども、何処に花やかなところがあるんです、僕はこの縁談はキッパリお断りしますから今直ぐ先方へそのむねをお伝え下さいと云っている」
 これで破談なのか、なんとか仲人が苦心して2人の仲を取り持つことができるのか、どうなるのか、長く見てきたのに、雪子がこんなに奥手で世間離れした性格だったとはちょっと衝撃でした。というか、女中さんも姉夫婦もみんな衝撃を受けているのでした。細雪ってこういう物語だったのか、と思う、雪子関連の問題が凝縮した章でした。
 

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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。下巻の最終章は通し番号で『細雪 百一』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 
追記  今回の章は、全文を読まない人にとっては、もっともお薦めできる、拾い読みしやすい、まとまりのよい章であると思いました。これが文豪谷崎の「細雪」なんだ、と思いました。