「自然」を深めよ 和辻哲郎

 今日は、和辻哲郎の「自然を深めよ」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 和辻哲郎といえば、仏教や神道の思想を研究した人かと思っていたのですが、こんかいは、日本の自然主義文学に関する問題を論じています。和辻氏によれば「自然主義は殻の固くなった理想を打ち砕くことに成功した。しかし代わりに与えられたものは、きわめて常識的な平俗な」ものだけを見出したのであって「昔から数知れぬ人々が腹のなかで心得ていた」ものを目の前で見せただけだった。
 では、芸術に於ける自然とは、いったいどういうものなのかを、ここから論じはじめています。
「生」と同義にさえ解せられる所の「ロダンが好んで用うる所の」「人生自然全体を包括」した「我々の感覚に訴えるすべての要素を含むとともに、またその奥に活躍している」つまり生命そのものを描きだす芸術というのが、自然主義の魅力である。
 近代日本に於ける自然主義文学の批判を行いつつ、自然の魅力を描き出せた芸術家としてロダンを複数回あげていました。では物語の描写で、どのように自然の魅力を描き出せるのかというと……。和辻哲郎は、とにかくドストエフスキーがこの近代作家たちから遠く隔たって抜きんでていて、ドストエフスキーこそが人間の自然を最も深く見極めた希有な作家であり、「人間の自然」を「異様な圧力を与え」つつ示しきったのが、「カラマーゾフの兄弟」をはじめとした氏の文学であると論じていました。ドストエフスキーの「母なる湿潤の大地」の描写を彷彿とさせる評論でした。
  

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秋の瞳(17)八木重吉

 今日は、八木重吉の「秋の瞳」その17を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 幼子は、誰にも通じない言葉を楽しそうに話すし、本物の学者も幼い頃には、永久に通用しない数式を考案してみる時期があるそうなのですが、今回の八木重吉はまさにこの、存在しない言葉をはっきりと使っていて魅了されました。
 

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追記  当人しか使わなかった文学の言葉というと、漱石の当て字や新造語やことば遊びにはこれが顕著であるように思います。

芋粥 芥川龍之介

 今日は、芥川龍之介の「芋粥」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 平安時代の官司たちの中で、いつも馬鹿にされている「五位」という名も無いような男がいる、というところから物語が始まる、芥川の代表的な文学作品です。
 主人公は気弱で憶病で、赤鼻でなんだか情けない雰囲気で、近所の悪童たちからさえあざけられていて「周囲の軽蔑の中に、犬のやうな生活を続けて」いる中年男なんです。酒の代わりに、イタズラで変なものを飲まされても気にしていないし気が付かないという、なんとも間抜けで始終「いぢめられ」ている男なんです。
「彼は、一切の不正を、不正として感じない程、意気地のない、臆病な人間だつたのである。」と、芥川龍之介の独特な毒舌で、ユーモラスに、この五位という男の日々が語られているのでした。
 男は女房からも縁を切られてしまった独り者で、だいぶ年齢も嵩んできた。彼はろくにものも言えないし無感覚に生きている状態なんですが、もう五年以上も前からゆいいつ楽しみにしているのが、摂政関白や大臣たちの祝宴で出てくる高級料理のなかで、芋粥の残りものを見つけてきてこれをすすることが好きでしょうがないんです。このほんの少し残された芋粥をすするということが甘露に思えてならなかった。それで宴の席で思わず、大きな声でひとり言を言ってしまう。「何時になつたら、これに飽ける事かのう」と、芋粥の美味に飽きることなんてあり得るんだろうかというようにつぶやいてしまって、周りの人たちからさんざん笑われてしまった。いつもこの五位を笑い者にしている利仁という男がこれを聞きつけて、じゃあたっぷり芋粥を食わせてやろう、と言いはじめるのです。年に1回ほんの少ししかすすれない芋粥を、たらふく食べさせてもらえるということで、五位はあわてふためきながら「いや……忝うござる。」と、ありがたく食べさせてもらいたいと答えるのでした。それから何日か経ったあと……。
 

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追記  以降ネタバレを含みますので、近日中に読み終える予定の方は、ご注意ねがいます。しばらくあとに利仁という男が、五位の目の前に現れて、ちょっとついて来いと言います。すぐ隣町の東山あたりに2人で行くことになるのかと思ってついてゆくと、馬でだいぶ先まで行ってしまう。粟田をすぎて、山科も通りすぎて、京都の山を越えた三井寺あたりまで行ってしまって、五位はくたびれてしまう。どこまで行くのですかと聞いても「もうちょっと先だ」とはぐらかされて、答えてもらえない。さらに琵琶湖を北に行って、日本海のほうの敦賀にまで行ってしまう。このあたりの行脚の風景描写が近代文学の中でもとくに風雅で独特で、秀逸な筆致だなと、思いました。
 それで敦賀にある、利仁の大きな家に招かれて、そこで倒れるように眠ってしまってから、朝に起きたら、豪華で大量の芋粥を出されてしまう。ほんの少しだけ分け与えられる芋粥なら美味であったわけなんですが……飽きるほど出されてしまうともう、どうにも食欲がわかない。男はもう呆然としてしまって、かつて淡い喜びを見出していた、ほんの少しの芋粥のことを懐かしく感じてしまうのでした。

女 久坂葉子

 今日は、久坂葉子の「女」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これはサスペンス調の掌編小説で、アナンという女が、五通の手紙を持って、謎めいた行動をして帰ってくる場面が描かれます。「女」は自らの子を失っていたという過去があります。終盤に「女」がなにを行っていたかの種明かしがされる、なんだか昭和初期のモノクロ映画の脚本みたような、劇的で暗い作風が印象に残る小説でした。
 

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細雪(65)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その65を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 今回は下巻のいちばんはじめの書きだしの章ですので『細雪』の上巻と中巻の振り返りのような事態が描かれています。雪子の縁談の相手として、新たに「沢崎」という名古屋の富豪の当主が現れます。この沢崎のあるじと結婚できるかどうか、幸子のほうで調べてもらっていたのですが、どうも沢崎というのは家柄がたいそう立派で、経歴だけを見ると、雪子の婚約者としては申し分のない裕福な資産家だし、二度目の婚姻を求める理由もはっきりしていて適正なもので、さらに蒔岡家の資産上の衰退や、伝統的な家柄というのもしっかり知っている上で、沢崎の当主は雪子を娶りたいというように考えていると判明します。
 これを断ったらもう、雪子は婚期を逃してしまうというように思えるわけで、幸子のほうはこれは縁談を進めるべきだというように考えます。四姉妹の末っ子である妙子の婚約者だった板倉との恋愛が不幸にも終わってしまったということも、世間では噂となっていて、姉の雪子の縁談に多少、負の側面を与えているようです。
 幸子と雪子は話しあって、現代で言うなら数十億円以上の資産を有する名古屋の大富豪との、縁談の話しを進めようということに決めるのでした。雪子の返答は「ふん」とか「はあ」とか、うなずきくらいしかしないでなにも話さないのですが、表情や声色からすると、結婚の可能性があるのなら、お見合いをしてみるという思いでいるようです。
 細雪の全文を読まないけれども、本文をのぞき見したい人にとっては、この『細雪』のいちばんはじめの書きだしの、注射器を手にした姉妹たちの妖しい雰囲気の箇所と、こんかいの下巻の書きだし部分、この2つを10分ほどで読んでみると、細雪全体の雰囲気を掴みやすいのでは、と思いました。
  

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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。下巻の最終章は通し番号で『細雪 百一』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 
追記  今までの話しの流れからすると、明らかにこの大富豪と雪子との婚姻は、破談に終わるはずなのです……。本文には「望み薄な、アヤフヤな」「夢のような」縁談であって「ちょっと会わせるだけなのだろうから、気軽に、遊びに行くつもりで連れ出して貰えないか知らん、と云うのであった」……と書かれていました。

雪雑記 中谷宇吉郎

 今日は、中谷宇吉郎の「雪雑記」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 古い時代の自然科学の研究について記してある随筆で、雪の結晶を研究してこれを撮影し、とくに雪の側面を克明に捉えた中谷宇吉郎氏の写真が、英国で注目されたということが書かれています。それからジョージ・クラーク シンプソンという気象学者との関わりのことも記していました。さらに中谷宇吉郎氏は、人工雪を研究したり、雪をきれいに割って断面を調べるという研究を始めたことが記されていました。
 

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