細雪(33) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その33を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 戦後すぐ1945年の9月に広島で大規模な台風と水害が起きたのですが、谷崎はこの時代に「細雪」中盤後半を書いているんです。今回、谷崎は1938年7月の阪神大水害のことを書いていました。蒔岡一家の妙子や幸子やその娘の悦子が、芦屋で水流に飲まれそうになりながら、家族や町民の安否について心配をする、という内容でした。ドイツ人一家のことも記されています。
 これは今までの細雪の展開とは明らかに異なる内容で、序盤を書いていたころの谷崎の文学性と、異なる事態を書こうと思ったのでは、と思いました。第二次大戦の旧帝国のことや大空襲のことを文学に書くことがむずかしい、戦中戦後すぐのころに書かれた長編文学ですので、大空襲のことを作者や読者が連想しながら文豪が水害のことを書くというのは、読者に響く描写のように思いました。戦争被害の現場で、安否についてずっと惑いつづけるということは常に起きてきたはずで、これが大水の現場に居た人々と共通した、人間的な心情なのでは、と思いました。
 

0000 - 細雪(33) 谷崎潤一郎

装画をクリックするか、ここから全文を読む。 (使い方はこちら) (無料オーディオブックの解説)
(総ページ数/約20頁 ロード時間/約3秒)
当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。『中巻三十五』は通し番号で『六十四』と表記しています。
 
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)