ガリバー旅行記(4) ジョナサン・スイフト

 今日は、ジョナサン・スイフトの「ガリバー旅行記」その4を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 ガリバー旅行記はこの第四部で完結します。これまでの3回とまったく同じ展開で、またもガリバーは航海に出て、海で襲われてから、未知の島に辿りつくのでした。
 ところが今回は、妙な動物が現れて、これが異様な知力を持っているのでした……。ここからはネタバレなので、近日中に読み終えるかたは本文を先に読み終えてください。
 高い知力を持つ馬がガリバーの目の前に現れます。靴のことがとても気になるフウイヌムという馬たちなんですが、彼らは高度な文明社会をつくりだしているのでした。沼正三の奇書を連想させるような、馬が世界のあるじで世の王になっている世界なのでした。
 ちょっと人々の馬にたいする考え、というのをいくつか思いだしたんです。夏目漱石は、若き芥川龍之介に対して手紙でこう書いています。
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  牛になる事はどうしても必要です。吾々はとかく馬になりたがるが、牛には中々なり切れないです。(略)牛は超然として押して行くのです。何を押すかと聞くなら申します。人間を押すのです。quomark end - ガリバー旅行記(4) ジョナサン・スイフト
 
 あと画家のボナールが「木馬に跨がるのは良いとしても、それを天馬だなとど思ってはならない」と述べています。それから名画ではナポレオンの愛馬である「マレンゴ」が有名なのかなと思います。近代文学だと馬車が貴族だけの乗物となっていて、馬というのが現代で言うところのプライベートジェット機のような存在でもあったんだと思います。ジョナサン・スイフトが、どのようにこの馬のことを考えているのか、というのを知りたくなって、興味深く読めました。
 きわめて知力の高い動物とガリバーは、人間たちの世界のことを話し合うのでした。そうすると、自分のことや人類のことが、危険で危うい生きかたをしていることが見えてくるのでした。このあたりは、戦後しばらくしてから沼正三が描いた奇書とそっくりなんです。第四部は実験的な物語になっているので、これだけを読むのはどうも面白くないように、思います。
 これを翻訳した原民喜は、あとがきに多くの思いを記していました。原民喜は戦争体験の病苦と悩みのために没してしまうのですがさいごのところで、ジョナサン・スイフトが終盤に描いていた、偶然にも通りがかって助けることになった船員たちのもっていた、親切さというのを重んじて文学の創作をしていたのでは、と思いました。
 ガリバーは最終的にどうするのか、というのが謎なんですが、意外なことを希望するんです。もう、自分の国に帰りたく無いし、人間嫌いになってしまって一人で生きてみたいと、無人島の漂流者みたいに生きようとするのでした。水木しげる大先生が戦後に望んだ、南の島に移住して生きるのだ、ということをガリバーは望むのでした。
 ただ、偶然にも、他の人びとがガリバーをふつうに扱ってくれて親切にしてもらえたので、ちょっとずつ人間社会に戻れるようになる、というのがジョナサン・スイフトの描く児童文学の、すてきなところでした。
 

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