ガリバー旅行記(1) ジョナサン・スイフト

 今日は、ジョナサン・スイフトの「ガリバー旅行記」その1を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは戦後すぐに原民喜が翻訳した児童文学です。こんかいから4回に分けて読み通してみたいと思います。小中学生が対象の文学作品だと思うんですが、読んでみると隠喩と寓意がみごとで、大人も読める作品に思いました。近代小説は地味な展開が多いと思うんですが、この冒険小説はダイナミックな展開で、おおよその展開を知っていても飽きずに楽しめる名作に思いました。6センチほどの小人たちがワーッと集まって、大量の弓矢を打ちこんできたり、縄やクサリを大量に持ってきて「私」を縛り上げて動けなくしたり、皇帝や番兵や女官や学者や木こりたちやいろんな職業の小人たちが四方からやってきて、くちぐちに喋ります。原民喜のみごとに詩的な言葉もあいまって、すごいファンタジー小説になっていました。牧歌的な場面も、可愛らしい展開もあって、読んでいて癒されます。
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 私の性質がおとなしいということが、みんなに知れわたり、皇帝も宮廷も軍隊も国民も、みんなが、私を信用してくれるようになりました。で、私は近いうちに自由の身にしてもらえるのだろう、と思うようになりました。私はできるだけ、みんなから良く思われるように努めました。quomark end - ガリバー旅行記(1) ジョナサン・スイフト
 
 リリパット国の皇帝は、人々にいろんな曲芸をさせるんですけれども、少なくない人が怪我をしたりしている。ほんの6センチしかない皇帝で、隣国とさえ上手くいっていないのに、かれが地球上のすべてを支配しているということを宣誓していたり、皇帝が思いつきでつくった珍妙な法律によって人々が困り果ててしまった歴史があったりと、王様に対するユーモラスな風刺が散りばめられて、いるのでした。
   

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 皇帝の戦争に協力したガリバーが、皇帝を批判する場面があります。本文こうです。
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 自分は全世界のただ一人の王様になろう、というお考えだったのです。しかし、私は、
「どうもそれは正しいことではありません。それにきっと失敗します。」
 と、いろいろ説いて、皇帝をいさめました。そして、私は、
「自由で勇敢な国民を奴隷にしてしまうようなやり方なら、私はお手伝いできません。」
 と、はっきりお断りしました。quomark end - ガリバー旅行記(1) ジョナサン・スイフト
  
 他にもいろんなことが書いてありました。「詐欺が一番いけないのだ、と、リリパットの人たちは考えています」と記していてダンテ『神曲 地獄篇』でも詐欺の罪の重さを書いていたなあと思いました。読みすすめていると、小人や皇帝だけが変なのではなくって、ただの人間であるはずの主人公「私」もずいぶんバカげた考えで行動するんです。そこもまた、この童話の妙な魅力のように思いました。登場人物が全員ボケ役で、ツッコミ役というのがあんまり居ないんです。ここからもう明らかにネタバレなんですが、巨人がずっと暮らすには大量の食料が必要なわけで、けっきょく「私」はリリパット国から立ち去るしかないことになります。6センチメートルの小人たちが死刑、死刑と何度も述べていておそろしいのか、可愛らしいのか、どっちなのか分からない展開があって、ふつうに面白いところが、この童話の独特で歴史的な文学性に思いました。小人の世界から脱出するのに、大計画を立てて、壊れかけのボートを補修して、あまたの小人たちの協力もあって、新しい世界へと脱出してゆくのがみごとでした。この小説は4部構成なんですが、第1部だけでじゅうぶん完結しているのも上手いと思いました。また10日後にでも第2部を読みたいと思います。戦争が終わってすぐ、原民喜は子どもたちにこういう物語を届けたかったのかと思うと、感慨ぶかい作品に思いました。