鰻に呪われた男 岡本綺堂

 今日は、岡本綺堂の「鰻に呪われた男」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 プーシキンやディケンズやコナンドイルの文学を翻訳したことでも有名な岡本綺堂の、風雅な怪談です。
 ある温泉宿に、田宮という高齢の女性が現れて、不思議なことを語りはじめます。彼女が若かったころ、戦傷兵の二人が湯治にやってきて、釣りをしているところに遭遇します。まだ十代だった彼女は「負傷の軍人を見舞のためにUの温泉場へ出かけて行くなどということを、むしろ喜んでい」て、この二人の男と彼女はお話しをした。その時、なんとも妙なものを目撃してしまう。男はうなぎをすっと釣り上げて……。
 

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追記  このうなぎを釣って生のまますうっと飲みこんで食べてしまった男とは奇縁があって、偶然にも親類の勧めで婚姻に至ったのでした。結婚式を終えて新婚旅行をするときにも、うなぎが釣れた水辺の温泉宿を二人で訪れた。彼女は男に、どうしてここで、うなぎを生のまま食べてしまったのか、なんとなく聞きたくなって、聞いてしまった。すると男は驚いてこれを否定して、そのすぐあとにどこかに消えてしまった。それからこの奇怪な出来事の顛末が、仔細に語られてゆく、上品で日本的な怪談でした。

信号手 ディッケンズ

 今日は、ディッケンズの「信号手」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これはディケンズの名作文学なんですが……今回のは内容が完全に怪談で、ある信号手が、蒸気機関車の引き起こす事件の謎を追っているうちに……。

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追記  ここからは完全にネタバレなので、未読の方はご注意願います。信号手は「下にいる人!」と呼んでくる人間を異様に警戒しています。なぜかと言いますと、この声を聞いたすぐあとに、事故があったのを見たことがあったからです。この「下にいる人」と呼ぶ者というのはじつは日本で言うところの「虫のしらせ」というやつで、幽霊がどうも、事故が起きることを知らせてきているようなのでした。
 こんな映画を見たらトラウマになるのではというような、みごとに展開してオチがつく恐怖譚でした。

梟娘の話 岡本綺堂

 今日は、岡本綺堂の「梟娘の話」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 江戸時代に水戸の藩主が、貧困層のための病院である「施薬院」をつくって、病の治療をすることになった。みな喜んで、その診察を受けたのですが……あるお金持ちの美しい娘が、日光を浴びると苦しむ病に困っていたところ、この施薬院で病状を診ることになった。ところが夜は病院が閉じているので、どうしても日光にあたることになってしまう。お役人は仕事を完遂するために、この日光に苦しむ「梟娘」をどうしても施薬院で看る必要があった。
「目を閉じていれば昼でも移動できるのではないか」ということで、目隠しをして医院を訪れることになった。
 

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 ネタバレ注意なので、近日中に読み終える予定の方はご注意ください。生まれてはじめて日光のなかを歩く少女、というのが町中の噂になって、見物人が溢れかえって、少女を驚かせてしまった。
 病院にたどりつく前に、娘は家に帰りたいと言いだしてしまった。見物人や関係者は彼女を止めようと、掴みかかってしまうのですが、彼女は上手くすり抜けてしまった。けれども目隠しをしてのはじめての行動なので、お城の堀の中へと飛びこんでしまって、行方不明となってしまった。水練の者が外堀の水の底をさぐってもなにも出てこなかった。
 この事件のあとに、暴風雨があって「外堀から黒雲くろくもをまき起して、金色こんじきうろこをかゞやかしながら天上に昇つた怪物のあることを、多数の人が目撃した。」どうも龍が昇天したか「かの梟娘が蛇体に変じた」のでは、と町中で囁かれたのでした。

蟲 江戸川乱歩

 今日は、江戸川乱歩の「蟲」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 人嫌いが極まりすぎて隠棲した柾木愛造と、その幼なじみだった女優の木下芙蓉、この2人の物語なんです。サロメを演じる人気女優の木下芙蓉が、じつは柾木愛造の幼いころの女友だちであったことが判明して、この2人が再会することから、奇妙な物語が始まります。
 柾木愛造は幼いころから他人が嫌いで、いつもいじめられていて泣きそうになっていた。彼が唯一恋したのはこの、同い年の木下芙蓉という幼い少女だった。彼女の使っていた、小さくなりすぎた鉛筆を盗んで、宝物としてだいじにしていた、という記憶がよみがえります。池内という男が引き合わせた、この2人の再会は柾木愛造にとって夢のようなひとときだった。ギュスターブ・モローの描きだしたサロメの『出現』という絵画を彷彿とさせる、異様な小説でした。江戸川乱歩の怪奇性が好きな人にとっては、最高傑作と言っても良いくらいの不気味な描写がてんこ盛りでした。
 本作は中盤から、ずいぶん妙な話になるんです。ここからはネタバレなので、近日中に『蟲』を読む予定の方は本文を先に読んだほうが良いかと思います。
 序盤の第三章で、どうも柾木愛造が女優につきまとって事件を起こしてしまったらしい、ということが記されます。どういうことなのか、ということが語られてゆきます。
 どうも池内は、恋仲である木下芙蓉の晴れ晴れしい姿を紹介して、旧友の柾木愛造を羨ましがらせて、からかってやろうとしていたんですが、これが事件に繋がってしまった。事件の真相はどういうものだったのか、というのが徐々に明らかになってゆきます。
 木下芙蓉と柾木愛造の関係は、ここ半年くらいひとつも生じていなかったはずだったんですが、柾木は、池内と木下芙蓉が愛しあっていることに嫉妬して、一方的に憎悪と執心を募らせてしまっていた。そのあと柾木が木下芙蓉を尾行しつづけてしまったのが不味かったんです。付け回して盗み見をしても、負の事態しか生じないのに、これが辞められなくなってしまった。
 彼は犯罪の計画のために、まず自動車の運転を訓練しはじめ、事件の後処理をするための準備を調えた。後半からは、彼の犯罪心理と犯行が克明に記されてゆくのでした。高等な遊民であったはずの柾木愛造の、逮捕されて禁固刑に処されたほうがましなくらい、悩ましく悍ましい日々が綴られてゆくので、ありました。作中に、蟲、という文字が51回も記される、奇怪な小説でした。
  

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追記  AIの人工音声で、伏せ字や黒塗りだらけの怪奇小説を読みすすめると、なんとも異様な読後感になりました。柾木愛造と木下芙蓉は蛆に集られて哀れにも朽ち果てるのでした……。

黒壁 泉鏡花

 今日は、泉鏡花の「黒壁」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 泉鏡花と言えば幽寂な日本画の世界に、母や妻への思慕と恋情を描きだす、雅な作家だと思うんですが、今回のは始まりから終わりまで怪談のみを書き記していました。
 金沢の黒壁山の深夜二時ごろ「うし時詣ときまいり」をする妖しい女たちがいる。五寸釘が打ちつけられて穴だらけとなった木木が闇夜の中に浮かびあがるさまが描写されます。この黒壁山に、一人の女が現れます。
quomark03 - 黒壁 泉鏡花
 霜威そうい凜冽りんれつたる冬の夜に、見る目も寒く水を浴びしとおぼしくて、真白の単衣ひとえは濡紙を貼りたる如く、よれよれに手足にまといて、全身の肉附は顕然あらわに透きて見えぬ。うるおいたる緑の黒髪はさっと乱れて、背と胸とに振分けたり。quomark end - 黒壁 泉鏡花
 
 これが主人公の「」の親友である美少年を、呪いつづける女であることが中盤で明らかになります。「かれ」は放蕩の末に家を追い出されていて困っていた。その時に現れた女が「お艶」なんです。かれは「豪商の寡婦に思われて、その家に入浸いりひたり、不義の快楽を貪りしが、」四ヶ月もするとこの不義が祟ってかれは衰弱してしまって「お艶」から逃げ出してしまった。「お艶」はこの愛別離苦が耐えられず……続きは本文をご覧ください。
  

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追記   さいごには「お艶」の渾身の「うし時詣ときまいり」を目撃してしまいます。「カチンと響く鉄槌の音は、鼓膜をつんざきて予が腸を貫けり」と泉鏡花は記します。ここから、呪詛に冒された二人の男女がどうなるのか…… というところで、結末が記されないままこの小説は幕を閉じるのでした。
   

猫と村正 小酒井不木

 今日は、小酒井不木の「猫と村正」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 怪しい噂が絶えない「魔の列車」を使って、実家に帰るしかなかった「私」は警戒しながら、これに乗車します。じっさいに近くの車両で、盗難事件が起きてしまった。「私」も靴を一足なくしてしまった。
 ところがこれはたんに「私」のミスだったようで、無くしたはずの靴が足元にあった。良く見るとどうも、これは自分の靴では無かった。ちゃんと調べてみると、片足だけ他の人が履いて、トイレに向かってしまった。「私」の靴は帰って来たのだが、この勘違いした男を車掌さんは、ほんとに窃盗犯ではないのか念入りに調べようとすると、この男性はじつは、不自由な身体を動かすのに難儀していて、靴を見分けることが出来ない状態だった。車掌は疑ったことを恥じて謝罪し、元のところへ戻った。
 こういう体験をした「私」は、自分の家の不幸について考えるので頭がいっぱいだったところで、妙に心理的な余裕が生まれて、彼と来歴について話しあったのでした。
  

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追記  ちょっとネタバレなので今から読む予定のかたはご注意ねがいます。後半に、嫉妬と死が絡む不気味な事件が描きだされるのでした。呪われた刀の村正について男は滔々と語ります。魔の列車の中で語られる、怪談なのでした。先妻の遺骸に乗っていた三毛猫が、後妻にたいして不気味な態度で睨むので、この猫を捨てると、数日したら帰ってくる。それから後妻に、不幸が襲い来るのでした……。猫の祟りとしか思えない病で後妻が苦しみ、猫に襲われる妄想に冒される酷い状態で、不気味な猫がふたたび家に入りこんだのでした。ここで男は村正を抜いて切りつけるのですが、怒りに我を忘れていて事故が起きるのでした。最後は、病に臥した母と家のことが記されます。エドガー・アラン・ポーの「黒猫」を彷彿とさせる暗黒の怪談は、静かに幕を閉じるのでした。