胡氏 田中貢太郎

 今日は、田中貢太郎の「胡氏」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは不思議な伝奇で、田中貢太郎といえば怪談の名手だと思うんですが、今回のは怖さのない怪異を記していて、ちょっと日本昔話のような神秘的なもののけ譚でした。
 狐の嫁入り、というと天気雨や燐火のことをいうんですけど、十六世紀あたりの中国は河北省の直隷に、胡という男がいて、富豪のすむ家を訪れた。これが賢いので家庭教師になってもらった。ところが胡は人ではなく狐で、これを目撃した主人は、胡の求めた、娘との求婚を断ってしまう。そこから争いが起きる、狐の大群が押しよせて、奇妙なことが起きる。妖しい美しい物語でした……。
 

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追記  日本のお見合い結婚の歴史はじつは武将の政略結婚からはじまった、というようなことをこのまえ知ったんですが、この「胡氏」ではまさに、争いを治めるにあたって、平和な結婚を実現する、という展開がありました。みごとな奇譚でした。

押絵と旅する男 江戸川乱歩

 今日は、江戸川乱歩の「押絵と旅する男」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは乱歩の独特な怪奇小説で……化物は出てこないんですが、なんだか神秘的な怪異が語られつづける小説でした。蜃気楼を見るために旅をしていた「私」が人気のまったくない列車の中で「西洋の魔術師の様な風采ふうさいの男」と出逢って、男が持ち運んでいた謎の絵画を見せてもらう。その絵画の中に、持ち主の男にそっくりな人間が描かれていて……この絵画の謎について、男が語ってゆくという物語でした。老いない少女と、老いてゆく男たちという対比が、なんだかカフカかポーの純文学のような迫力を感じさせるように思いました。
 なにか妙な体験をしたあとに小説を読んでいて、物語の登場人物とほとんど同じことをしている人間が現実にいることにはじめて気が付く……ということがあると思うんですが、そういう物語の作用そのものを、絵画に閉じ込められた謎の人間として描いているように思えました。こんな怪しい小説は、昔も今もあまり無いのでは、と思う小説でした。
  

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飛行機に乗る怪しい紳士 田中貢太郎

 今日は、田中貢太郎の「飛行機に乗る怪しい紳士」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 ごくふつうの自動車を一人で運転しているときに、後部座席に物音がしたりすると、ほんとうに怖くなることがあると思うんですけど、これは荒海のなかをゆく飛行機で、居ないはずの客席に誰かが居るように思えてくる話しで……短い怪談なんですけど、しっかり恐かったです。
 

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 追記   実話ものなので、オチが無いのが逆に響いてくるように思いました。

鏡中の美女 マクドナルド

 今日は、マクドナルドの「鏡中の美女」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 スコットランド生まれのジョージ・マクドナルドによって描きだされた、古い鏡に見入られた青年の物語です。
quomark03 - 鏡中の美女 マクドナルド
 鏡のうちを見つめてちあがるや、彼は異常の驚きに打たれた。鏡にうつっている部屋のドアをあけて、音もなく、声もなく、全身に白い物をまとっている婦人の美しい姿があらわれたのである。婦人は憂わしげな、消ゆるがごとき足取りで、彼に背中をみせながら、しずかに部屋のはずれの寝台に行き、わびしげにそこへ腰をおろして、悩ましげな、悲しげな表情をその美しい眼に浮かべながら、無言の愛情をこめた顔をコスモの方へ振り向けた。quomark end - 鏡中の美女 マクドナルド
 
 なんだか、源氏物語の「夕顔」を連想させるような、西洋の美しい物語でした。
 
 

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追記  鏡をつるぎで一撃しただけでは怪異は終わらず、そこからさらに神秘的な展開があり、喪失した鏡と姫がどうなったのか、究明篇が開始されるのがみごとでした。いぜん読んだ現代漫画の原典は、じつはこれなのでは……と思えるような雅な物語でした。おもしろいのは、終盤の主人公の行動と、主人公が破局に至る重大なシーンを、作者が意図的に飛ばして最後の局面をいきなり描いているところで、姫と青年の恋の理由も同様に、飛躍をしていていきなり結びついているところが、神秘的ですてきでした。

双生児 江戸川乱歩

 今日は、江戸川乱歩の「双生児」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
  江戸川乱歩といえばエドガーアランポーの怪奇性からその着想を得てきた作家のはずだと、作家名から予想していたんですけど、今回のはどうもポーの『黒猫』を意識して作品を書いているように思いました。猫が死んで終わりにならない、自分とそっくりな顔の男が死んでから、不思議な怪奇が始まるのでした……。
 終わったように思ったところから、いろいろ始まるのがなんだか迫力があるように思いました。

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二つの手紙 芥川龍之介

 今日は、芥川龍之介の「二つの手紙」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 芥川龍之介の古典小説なんですけれども、みょうに現代的な怪異譚を書いているんです。序盤に、物語に深い関わりをもつ作中作が記されます。本文こうです。
quomark03 - 二つの手紙 芥川龍之介
  ベッカアはある夜五六人の友人と、神学上の議論をして、引用書が必要になったものでございますから、それをとりに独りで自分の書斎へ参りました。すると、彼以外の彼自身が、いつも彼のかける椅子いすに腰をかけて、何か本を読んでいるではございませんか。ベッカアは驚きながら、その人物の肩ごしに、読んでいる本を一瞥いちべつ致しました。本はバイブルで、その人物の右手の指は「なんじの…………
…………quomark end - 二つの手紙 芥川龍之介
 
 ドッペルゲンガーが現れて不吉なことを告げてゆきます。本文と関係が無いんですが、そういえば二十数年前に、ふだん行ったことの無い町で、自分とまったく同じ服と帽子をかぶったドッペルゲンガー風の男が居たのをみて驚いたことがあるのを思いだしました。
 紙の本やコピー機は、原本からの静的な複製で、静止した複製物は文化において必需品だと思うんです。あらゆる本や新聞や映像が、公式に複製されて配布され販売されています。そこに恐怖心は生じないと思うんですが、動く複製物というのは、これはおそろしい、と思いました。原形と異なる動きさえする複製物……。結末まで知っている物語作品よりも、自分自身の仕事とか交流のほうが面白い理由は、それは動的だからだと、思うんです。動的なコピー品というのはヤバイ、とか思いました。
 

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