魚河岸 芥川龍之介

 今日は、芥川龍之介の「魚河岸」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これはなんだか妙な小説で、芥川龍之介の代表作に特徴的な、異変というのが見受けられない、地味な作品なんです。俳人と洋画家と蒔絵師という三人が気分よく酔いどれているところで見たことのない洋食屋に入っていった。そこに突然やってきた「中折帽をかぶった客」というのが不気味な男で、友人同士の間に割り込んで横柄に注文をすると煙草をふかしはじめた。これにあてられてしまって、みんな静まりかえってしまって興ざめとなった。それまで楽しくすごしていろいろ語らいあっていたのに急に空気が悪くなってしまった。「話ははずまなかった。この肥った客の出現以来、我々三人の心もちに、妙な狂いの出来た事は、どうにも仕方のない事実だった。」この男の正体は、とくにどうでも良いようなものだったんですが、とにかく気分が沈んでしまった。
 主人公の保吉の書斎にはロシュフコーの格言集が、置かれている、というところで、起承転結もとくになく、物語は終わるのでした。ちょっとロシュフコーが読みたくなって、ネットで調べてみると、ここに代表的な格言と要約がまとめてありました。読んでみると、こんかいの芥川龍之介はロシュフコーの思想について考えながら、この小説を書いたことは明らかだなと、なんだか腑に落ちるところがありました。
  

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学問のすすめ(2)福沢諭吉

 今日は、福沢諭吉の「学問のすすめ」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 第二編では「ただ文字を読むのみをもって学問とするは大なる心得違いなり」と、学問は書物から読むだけのものでは無いと、耳や手や足を使う学問についてまず述べています。工具の名前だけ知っていても学問があるわけではなくって、じっさいに大工さんの仕事をちゃんとできることもまた学問だと述べています。論語や古事記を読めて暗記しているのに、実生活では論語と逆のことをしている人たちについて、福沢諭吉が苦言を述べているんです。他にもこう書いています。
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 わが国の『古事記』は暗誦すれども今日の米の相場を知らざる者は、これを世帯の学問に暗き男と言うべしquomark end - 学問のすすめ(2)福沢諭吉
 
 それから、経済の古典を読めても、じっさいの商売が繁盛しないならこれは学問がとぼしい男だという批判もあって、読んでいていろいろ心苦しく感じる箇所があまたにあるんです。福沢諭吉は持続可能な仕事と学びということをとにかく重大視しているのでした。
 人間の知力と能力を超える「天」というものがいのちを作った。人は上下の差なく自由や幸福を追求できるはずで「人力をもってこれを害すべからず」「大名の命も人足の命も、命の重きは同様なり」というように記しています。
 人には、強かったり弱かったりという差があるけれども、恐竜の世界とは違って、弱肉強食は人間の法と倫理には、通用しない。
「百姓は米を作りて人を養い、町人は物を売買して世の便利を達す。これすなわち百姓・町人の商売なり。政府は法令を設けて悪人を制し、善人を保護す。これすなわち政府の商売なり」そして「政府は年貢・運上を取りて正しくその使い払いを立て人民を保護すれば、その職分を尽くした」ことになる、という考えが面白いように思いました。「貧富強弱の有様を」悪用してはいけない、という記載も印象に残りました。
 欲深くて馬鹿な違法行為をする人には、国家が正統な手続きをもって禁固刑などの処罰をする、そういった政府の権能について記しています。
 福沢諭吉より三十年あとに生きた社会学者のマックス・ヴェーバーが書いた『職業としての政治』における、暴力の使用をコントロールする政治の問題を記していました。
 政府からひどい目にあわされたくなかったら、勉強をしましょう、法を守りましょう、意義のある存在となりましょう、ということを書いていました。「もし暴政を避けんと欲せば、すみやかに学問に志しみずから才徳を高くして、政府と相対し同位同等の地位に登らざるべからず。これすなわち余輩の勧むる学問の趣意なり。」と、広くいろんな人に、学問をすすめる本なのでした。次回に続きます。
  

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★ 『学問のすすめ』第一編(初編)から第一七編まで全文を通読する
 

瘤とり 楠山正雄

 今日は、楠山正雄の「瘤とり」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは誰もが知っているような、こぶとりじいさんの童話なんです……いちから読んでみると、なんだか井上円了の妖怪談みたいな話しなんです。妖怪たちがおじいさんの前で、宴会を始める。鬼の集団のなかに、いきなり人間がひとり入りこんでしまう。おもしろい踊りができなければ「いろいろな化物」たちに食べられてしまう。それでなんとか踊ってみる……。
 鬼たちは、あしたも楽しい踊りを見せろというので、おどしのための人質としておじいさんのこぶを、キレイに取りさって、これを人質とするのでした。おじいさんとしては、こぶはたんに邪魔なだけだったので「しめた」と思うのでした。
 こぶが取れてきれいになった姿を見た、おとなりのおじいさんが、真似をして鬼たちのところに乗り込んでいくと、ずいぶん変なことになる。かなり似たようなことをしたはずなのに、結果はずいぶん違うもんだという……。
  

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追記  真似をしたらぜんぜんちがう結果になったというのは、現実でもしょっちゅう起きることのようにも思いました。寓意が妙で、なんだかすてきな童話でした。

第五氷河期 海野十三

 今日は、海野十三の「第五氷河期」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 戦中戦後すぐの日本SF小説といえば、海野十三のほかほとんど居ないと思うんです。海野十三のSFはレトロな魅力と、おどろおどろしい表現と、戦時思想の影響と、自由な意思と、古い時代ならではの感性とが混じりあっていて奇異な物語となっていて、ぼくはとにかく好きなんですが、今回はある老博士が、地球上にとんでもない氷河期が来るという未来予測をだれよりもいち早く突き止めてしまった。博士は狂っているのか、あるいは地球の天候が狂っているのか……というレトロなSFなのに緊迫した状況が描きだされるのでした。
  

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 ここからはネタバレなので、近日中に読み終える予定のかたは、本文を先に読むことをお勧めします。老博士は大金を使って、地熱エネルギーを応用してこの氷河期を防ぎ、新しいノアの箱船で人々を救おうとしているのでした。はたして氷河期は到来するのかどうか、終盤まで不明なまま物語が進行します。一挙に危機が訪れるのではなく、少しずつ異変が進行する描写が、リアルな問題を予見しているようで、みごとな小説に思いました。

細雪(30) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その30を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 「細雪」の上巻では、雪子の縁談と四姉妹がどのように暮らしていたのか、というのを追ってゆく物語でした。雪子の縁談が行き詰まって、幸子が病気で流産になってしまった、という展開がありました。ドイツ人の一家との交流であったり、長女の鶴子が実家を引き払うという大きな引越が記されていました。細雪は、まだ空襲のなかった京都や大阪の美しい家並みや情景が描かれていて、当時の人情と家々の栄枯盛衰が描かれています。
 姉の幸子のところに、英国紳士のような服をきた奥畑という三十代の男がやってきます。昔は純真な少年だった奥畑はしかし、どうもほかに女が居るらしく、幸子は奥畑を疑問視しているところなのでした。こいさん(妙子)と奥畑は「真面目な恋愛」をしているはずなんですが、浮気をしているとなるとハナシはまったく違う。雪子にもこいさん(妙子)にも、この男を縁づかせるわけにもゆかない。ただ、証拠は無くてただの噂だけなので、姉の幸子としては「お茶屋遊びだけは止めなさい」というように忠告しようとしているところなんです。
 喫茶店の女給とも仲が良いらしく、奥畑はなんだか男女関係があやしいんです。奥畑は、こいさんのことで相談をしに来たのでした。
 こいさん(妙子)が今まで順調だった仕事の人形作りを放りだして、洋裁を学ぶほうが好きになってしまって、フランスにも留学して、それで仕事をもっとちゃんと拡充してゆきたいというのでした。奥畑としては、幸子が趣味と芸術の創作として人形作りをするのはもっとやってほしいけど、仕事まるだしの洋裁は止めてほしい、ということを、姉の幸子にお願いしに来たのでした。
 この「細雪」は戦後すぐに、アメリカやフランスでも出版されて高い評価を得て、日本文化と日本文学の代表的な存在となった小説で、空襲と飢餓が史上もっとも厳しかった時代に書かれたとは思えない静謐な物語になっているのが特徴に思います。フランスに留学して、西洋の人形作りや服飾を学んでゆきたい……とこれが1960年に書かれたのなら普通のことかもしれないんですが、これが書かれたのが1945年ごろで、その頃のフランスとドイツは戦争で大きな被害が出ている状態なので、平然とこう書くことのすごさ、というのを感じました。
  

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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。『中巻三十五』は通し番号で『六十四』と表記しています。
 
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 
追記  細雪上巻のはじまりのあたりは戦中の日本で発表できたんですが、上巻の終盤は旧帝国の検閲によって、出版差し止めとなって、中巻は戦争が終わる寸前には完成していたのに出版できず、敗戦後の二年たってやっと中巻を出せた、という出版の経緯があるのでした。
 

椙原品 森鴎外

 今日は、森鴎外の「椙原品」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 伊達政宗の孫である綱宗は、ほんの二年間しか城主として働いておらず、すぐに若くして隠居させられて芸道の道を進んだという、不思議な人生を送ったんです。
 綱宗の妻に関する伝承のいくつかには誤りがある、と鴎外が記します。綱宗が吉原の有名な遊女を身受けしていろいろあったというのは、これは誤りである、と書いています。吉原の遊女を囲ったのではなくって、椙原品という女と五十年ものあいだ、暮らしたそうなんです。本文こうです。
「品は一体どんな女であつたか。私は品川に於ける綱宗を主人公にして一つの物語を書かうと思つて、余程久しい間」……この研究を続けた。
 綱宗は「和歌を善くし、筆札を善くし、絵画を善くした」「十九歳で家督」してほんの二年後に叔父の伊達宗勝によるintrigue(陰謀)によって蟄居の身となり引きこもった。
 綱宗の好きな言葉は『知過必改 得能莫忘』というもので、間違いを知ったら改めて、学びを得たらそれを忘れてはならない、ということを大事にしたそうです。
 綱宗の妻の椙原品のことを、鴎外がいろいろ研究して、この本を書いています。
 小説の取材のための研究をしている、創作の過程のところそのものを、随筆のように記す、谷崎潤一郎の『吉野葛』という作品があるんです。今回の鴎外の『椙原品』でも、取材をしたことを物語化せずに、そのまま書いてみる、という書き方で始まるんです。歴史研究と物語作品の中間みたいなところを記しているものなんです。
 wikiにもことこまかに記されている伊達騒動のことも、書いているんです。まずは綱宗が引きこもった事件。wikiにも、森鴎外が指摘している、伝承の書き間違いのことがちょっと書かれていました。ふしぎなことに「椙原品」のことはwikipediaにはひとつも書かれていないんです。ちょっとありえない話しです。調べてみると、綱宗のいちばんはじめの側室は三沢初子で、これはwikipediaにも記されています。その次の側室がどうも森鴎外によれば「椙原品」という女だそうで五十年間も夫婦関係が続いたらしいんです。品は、謎の女性なんです。
 伊達騒動の発端は、綱宗が政治を放りだして別のことをしていたので、生まれたばかりのほんの二歳の綱村がボスになったからいろんな事件が起きたわけです。
 今回、森鴎外は八歳の綱村が事件に巻きこまれて、家来の数人が身代わりになってしまい、容疑者もいろいろ犠牲になってしまった、というところを記していました。
 wikipediaでは「伊達騒動は綱村の隠居でようやく終止符が打たれることになった。」と記していました。
椙原品を読み終えて、百科事典や歴史研究ノートをいろいろ見てまわって思ったのは、椙原品っていったい何者なの?! 森鴎外によれば、吉原の遊女の高尾を身請けしたというのは間違いだ、ということになっているので、高尾太夫と椙原品は別人のはずなんです。
 三沢初子というさいしょの側室は実在の人物なんですが……。品という側室はどうも居ない。
けっきょくやっぱり架空の人物なの? というように思いました。いっけん歴史的事実に見せかけて、これはずいぶん架空の話しだったのでは、と思ったんですが、じっさいに仙台市には椙原品のお墓が存在していて、仙台市もこれを「椙原品のお墓です」と記しているんです。品はどうにも、謎の女性なのでした。
wikipediaには伊達綱宗の側室は「側室:三沢初子、清雲院、安寿院、養性院、証智院、霊照院ら」というように記していました。椙原品というのは、歴史の中には記されない、文学の中にだけいる、謎の人間のようです。そういえば孔子が老子に邂逅した、というのもこれも歴史書のなかの出来事ではなくって、文学的な物語の中での出来事のようですし。
 

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